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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1260312
審判番号 不服2007-11894  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-25 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2002-558479「RNA依存性RNAウィルスポリメラーゼ阻害薬としてのヌクレオシド誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月25日国際公開、WO02/57425、平成16年10月21日国内公表、特表2004-532184〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,2002年1月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年1月22日、同年4月6日および同年6月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成19年4月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成23年9月29日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「下記構造式VIを有する化合物。



[式中、
Bは、



であり;
Dは、Nであり;
Wは、OまたはSであり;
R^(1)は、水素であり;R^(2)およびR^(3)の一方はヒドロキシまたはC_(1-4)アルコキシであり、R^(2)およびR^(3)の他方は
水素、
ヒドロキシおよび
C_(1-3)アルコキシ
からなる群から選択され;あるいは
R^(2)は、水素であり;R^(1)およびR^(3)の一方がヒドロキシまたはC_(1-4)アルコキシであり、R^(1)およびR^(3)の他方が
水素、
ヒドロキシおよび
C_(1-3)アルコキシ
からなる群から選択され;
R^(6)は、H、OH、NH_(2)、C_(1-4)アルキルアミノ、ジ(C_(1-4)アルキル)アミノまたはC_(1-4)アルコキシであり;
R^(5)は、Hであり;
R^(7)は、水素、アミノ、C_(1-4)アルキルアミノまたはジ(C_(1-4)アルキル)アミノであり;
R^(8)は、Hであり;
R^(9)およびR^(10)は共に、OCH_(2)CH_(2)SC(=O)t-ブチルまたはOCH_(2)O(C=O)OiPrである。]」

3.引用例の記載事項
これに対して、当審において、平成23年3月22日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願の優先日前に頒布された米国特許第6,110,901号明細書(以下、「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている(原文は英語)。

a-1.「 クレーム1:植物または動物の、DNAウイルス感染ではなく、RNAウイルス感染を規制または処置する方法であって、RNAを終結させる量の3’-デオキシリボシトシン、3’-デオキシリボウラシル、3’-デオキシリボグアニン、またはその組み合わせを該植物または動物に投与する方法。」(第8欄9行?14行)

a-2.「本発明は、RNA連鎖停止剤によってRNAウイルスの感染症を規制および/または処置する方法に関する。下記の型のウイルスに起因するウイルス感染症はここに開示するRNA連鎖停止剤および他のそのような類縁体を(温血)動物または植物に投与することによって防がれるか、および/または規制される。そのようなウイルスには、(+)、(-)及び/または二重螺旋RNAウイルス(例えば、ピコルナウイルス[審決注:(+)一本鎖RNAウイルス](限定的ではなくポリオウイルス、ライノウイルス、A型肝炎を含む)、トガウイルス[風疹ウイルス]、オルトミクソウイルス科、ブンヤウイルス科、アレバウイルス科、ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科)が包含される。これらのウイルスは動物および人間に感染する。」(第1欄49行?60行)

a-3.「実施例2
インビボアッセイ(In Vivio Assay)
哺乳類細胞株、MDXK CCL34およびヒーラ細胞CCL2(いずれもATCC culture
から受け入れ番号にしたがって入手)を96ウェルのマイクロタイターディッシュに、1ウェルにつき3.5x10^(4)細胞の密度で載置し、低濃度のウイルスで感染させた後、載置してから24時間後に薬剤で処理した。薬剤濃度は0.025-12.5mMの範囲であった。MDCK細胞は、インフルエンザウイルス(A/NWS系)に感染させ、ヒーラ細胞はHRV14-14VR-284(ATCCから入手)(ヒトライノウイルス14)またはCVB_(3)VR30(コクサキーウイルスB_(3),ナンシー系;ATCCから入手)に感染させた。感染していない同型細胞培養物を毒性を調べるコントロールとして薬剤で処置した。感染後48時間で、インフルエンザウイルスの場合はELISAで、またHRV14およびCVB_(3)の場合はMTT法(テトラゾリウム染料)で、ウイルス成長の度合いを測定した。インフルエンザA(A/NWS)VR-129(ATCC)ウイルスのELISAアッセイでは・・・・を利用する。感染していない細胞培養物における細胞毒性は、薬剤処置後48時間の時点で・・・法により測定した。」(第3欄37行?61行)

a-4.「実施例4
インビボアッセイ:インビボ実験の結果を以下の表IVおよびVに示す。
表IV
IC_(50) (mM)
Flu A/NWS Tox HRV 14 Tox CVB3 Tox
3’-dA 0.8 1.4 0.048 0.13 ND ND
3’-dC 0.9 5 0.025 1.8 0.09 1.8
3’-dG 0.27 2.1 0.28 3.4 ND ND
3’-dU 0.085 12.5 0.027 2.4 0.09 2.4
・・・

表V
マウスモデル
用量(mg/kg) MST(Days) %ILS %生存率
(14日)
対照 10 0
3'-dC 200mg/kg 11 10 0
600mg/kg 12 20 10
3'-dU 200mg/kg >14 >40 60
600mg/kg 10 0 10

上記した表に示された結果からわかるように、いくつかの3’-デオキシおよび3’-置換リボヌクレオシド類について細胞培養物におけるそれらの抗ウイルス活性および細胞毒性について調べるために、またインビトロでのウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤として調べるために実験がなされた。これらの研究の原理は、3’-位置が修飾されたヌクレオシド類は連鎖停止剤として作用し、ポリヌクレオチドの鎖延長を阻害することが知られているということである。しかしながら、今日までの多くの研究は、3’-位置がさらに修飾された2’-デオキシ類縁体を使用したDNA合成の阻害に向けられてきた。2’-ヒドロキシ基を保持することにより、これらの3’-位置を修飾した類縁体はRNA合成に対する特異性を有している。これら類縁体の、細胞RNAポリメラーゼに対する結合親和性と比較してのウイルスRNAポリメラーゼに対する結合親和性に応じて、ウイルス複製の特異的阻害剤が存在する。
3’-dCTP、3’-dUTPおよび3’-dGTPは、ポリオウイルス(ピコルナウイルス)のRNA依存性RNAポリメラーゼの転写の有効な阻害剤である。」(第5欄16行?第6欄1行)

a-5.「これらの化合物の抗ウイルス活性を評価するためのHRVまたはCVB感染についての適切な動物モデルは存在しない。したがって、これらの化合物は、インフルエンザAウイルス感染についてマウスモデルでのみ試験した。このモデルでは、3’-デオキシリボシトシンは試験された用量では最小の活性を有する。しかし、3’-dUは一日当たり200mg/kgの用量で投与された場合に有意の保護を示す。これは、処置された動物の生存期間の増加によって示される。3’-デオキシリボウラシル(3’OdU)はより高い用量レベルで毒性を示すように思われる。
これらのデータが示すのは、インビトロおよびインビボでの結果が,その大部分で、互換性である(compatible)、ということである。すなわち、ピコルナウイルス(ポリオウイルス)RNAの転写のインビトロでの強力な阻害剤である化合物は、インビボでのピコルナウイルスの有効な阻害剤であり、インフルエンザウイルスのRNA転写をインビトロで和らげる作用が弱い化合物は同様にインビボでのウイルス複製に対して対抗する作用が弱い。」(6欄33行?50行)

また、同じく当審における拒絶理由において引用された、本願の優先日前に頒布された「Carson R. Wagner, V.V. Iyer, E.J.McIntee、Pronucleotides:Toward the In Vivo Delivery of Antiviral and Anticancer Nucleotides、Med. Res. Rev.、米国、20,No.6(2000)、417-451」(以下、「引用例B」という。)には以下の記載がある(原文は英語)。

b-1.「プロヌクレオチド:抗ウイルス性及び抗癌性ヌクレオチドのインビボにおける送達に向けて

要約:抗ウイルス性及び抗癌性ヌクレオシドの治療への利用を妨げる多くの障壁を克服するために、その解決策としてヌクレオチドのインビボでの送達のためのプロドラッグ(すなわちプロヌクレオチド)法の開発が提案されてきた。理想的なプロヌクレオチドは、非毒性であって、血漿中および血液中で安定であり、静脈内注射投与および/または経口投与が可能で、細胞内で対応するヌクレオチドに転換し得るものであるべきである。」(417頁タイトル、要約の部の1行?5行)

b-2.「1.序論
ヌクレオシド及びヌクレオチドは、抗ウイルス及び抗癌治療法として広範に利用できることが示されてきた。
・・・
代謝-抗代謝という手法に基づいて、2’,3’-ジデオキシヌクレオチド(ddNs)が、天然の2’-デオキシヌクレオシド-5’-三リン酸(dNTPs)の競合物質として開発されてきた。典型的には、ヌクレオシドのグリコン(糖)の2’または3’の炭素原子に修飾が導入された。その天然の2’-デオキシヌクレオシドに対する類似性のために、ddNsは対応する5’-三リン酸へとリン酸化され、DNAポリメラーゼにより、伸長しているDNA鎖に取り込まれ、その結果、DNA鎖の伸長が終結する。したがって、ddNは実質的にプロドラッグである。なぜなら、それらは生物学的に活性であるためには細胞内でリン酸化されなければならないからである。
ddN、たとえば、3’-アジド-2’,3’-ジデオキシチミジン(AZT)を長期間投与する治療法においては、最初のリン酸化酵素であるチミジンキナーゼの活性が低下し、かくして薬剤に対する耐性へと至ることが報告されている。このタイプの耐性は、ddN療法を受けている患者のホスト細胞においてだけでなく、ウイルスにおいても認められる。この耐性メカニズムによって、ddNの有効性が減ぜられる。というのは、その活性化が最初のリン酸化段階で妨げられてしまうからである。・・・
原則として、5’-リン酸を投与すれば、耐性のメカニズム及び本来的な生物学的相違によるddN療法の欠点を克服する助けとなるであろう。しかしながら、リン酸エステルは強い酸性を示し、したがって生理学的pH(pH=7.4)では負に帯電しているので、親水性を示し、脂質が豊富な細胞膜を貫通することができない。さらに、血液及び細胞表面に存在するホスホリラーゼ(・・・、5’-ヌクレオチダーゼ)が即座にこのリン酸エステルを対応するヌクレオシドに転換してしまう。
ヌクレオシド-5’-リン酸エステルの過小な細胞透過を克服するために、モンゴメリーは、「この困難さは、細胞壁を透過できて、その後に代謝されてヌクレオチド自身に転換されうるヌクレオチドエステルが調製されうるならば克服されるだろう。」と提言した。したがって、種々のプロドラッグ、すなわち「プロヌクレオチド」手法が考案され研究されてきた。一般に、この手法の目標は、細胞膜を通過する受動的拡散を促進し、リン酸化されたヌクレオシド類の生物学的利用性を増加させることにある。理想的には、このような試みは細胞外の媒体中での安定性を達成し、細胞内での急速な加水分解をとおしてリン酸エステルの放出を達成することを企画することである。多くの場合、生物学的に活性であるためには、リン酸エステルはジホスフェート及びトリホスフェートにまで活性化されなければならない。」(417頁1.項の冒頭?419頁12行)

b-3.「ムラーおよび共同研究者は、d4Aおよびd4Cの5’-フェニルーおよび5’-メチル-ホスフェートジエステルが、対応する親ヌクレオシド(parent nucleosides)に匹敵する、インビトロでの抗HIV活性および細胞毒性を示したことを報告した(図2)。」(419頁下から10行?下から8行)

b-4.「一般に、シクロサル(cycloSAl)[審決注:cycloSAlはcyclosaligenylの意味] ホスホトリエステルは、CEM/TK^(-)細胞において、HIV-1に対して,対応する親ヌクレオシド(parent nucleosides)よりも強力であった。」(424頁5行?6行)

b-5.「3.ヌクレオシドホスホトリエステルのための生物学的に不安定な保護基
中性の親油性のアルキル及びアリールホスホトリエステルは容易に細胞に取り込まれるが、一般にそれらはその安定性のためにあまり加水分解されない。ホスホトリエステルから形成されたホスホジエステルは酵素によりヌクレオシドモノホスフェートに転換されうるが、内因性の真核細胞のホスホトリエステラーゼ活性はまだ報告されていない。改善された細胞摂取に関するヌクレオシドホスホトリエステルの利点を保持しつつ、ホスホトリエステルの加水分解を引き起こすために、種々の生物学的に不安定な残基がヌクレオシドモノホスフェートの保護基の候補として評価されてきた。」(424頁27行?35行)

b-6.「A.S-アシル-2-チオエチル(SATE)を用いる手法
このSATE法はイムバック及びその共同研究者らによってはじめて記載されたもので、ddU、ddA、ddI、AZT、2’,3’-ジデオキシ-3’-オキシアデノシン(isoddA)、d4T、およびACVのビス(SATE)ホスホトリエステル類縁体の開発に適用された。」(424頁36行?下から7行)

b-7.「多くのSATEヌクレオシドホスホトリエステル類縁体がその親ヌクレオシド(parent nucleosides)よりも高められた抗HIV-1活性を示すことが、CEM-SS、MT-4(ヒトTリンパ球)末梢血管単球細胞(PBMs)、マクロファージ及びCEM/TK^(-)細胞において広く報告されている。そこではヌクレオシド5’-モノホスフェートをこれらの細胞中に送達することに成功したことが示された。」(426頁15行?19行)

b-8.「かくして、ビス(SATE)ホスホトリエステル手法は、ヌクレオシド5’-モノホスフェートのインビトロ及びインビボでの細胞内への送達について、潜在的に効果的な方法であることが立証された。」(426頁下から14行?下から12行)

b-9.「しかしながら、ddUのビス(DTE)ホスホトリエステルは、HIV-1に対して、CEM-SS、PBMおよびCEM/TK^(-)細胞において、常に親ヌクレオシド(parent nucleoside)よりも、より活性であった。」(427頁図7の下3?5行)

4.対比
上記3.a-1?a-5の記載からみて、引用例Aには、「3’-デオキシリボシトシン、3’-デオキシリボウラシル、3’-デオキシリボグアニン、またはその組み合わせ」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
本願発明と引用発明とを対比すると,両者は「ヌクレオシド構造を有する化合物」である点で一致し、一方、以下の2点で相違する。
(相違点1)
本願発明(前者)においては、当該化合物が、一般式(VI)で表されるヌクレオシド残基に、特定のエステル結合リン酸基、すなわちビス-(S-ピバロイル-2-チオエチル)リン酸基、もしくはビス(イソプロピルオキシカルボニルオキシメチル)リン酸基が結合した化合物であるのに対して、引用発明(後者)においては、ヌクレオシド自体である点。
(相違点2)
前者においては、当該ヌクレオシド構造が一般式(VI)で表される化合物のヌクレオシド残基であるのに対して、後者においては、特定の3種のヌクレオシドである点。

5.当審の判断
そこで、これらの各相違点について、以下に順次検討する。
まず、相違点2について検討する。
後者の3’-デオキシリボシトシン、3’-デオキシリボウラシル、3’-デオキシリボグアニンは、本願請求項1に記載の一般式(VI)において、Bは、順に、シトシン残基、ウラシル残基、グアニン残基を表すとともに、その全ての化合物に共通して、R^(1)が水素で、かつR^(2)がヒドロキシ基を表すか、又は、R^(1)がヒドロキシ基で、かつR^(2)が水素を表し、R^(3)が水素を表す場合の化合物に相当する。
よって、前者におけるヌクレオシド構造は、後者の特定の3種のヌクレオシドを包含することが明らかであり、ヌクレオシド構造について両者間に実質的な相違はないから、相違点2は実質的な相違点ではない。
つぎに、相違点1について検討する。
引用例Bに記載されているように、抗ウイルス性ヌクレオシドを治療に利用するにあたり、ウイルスに対する耐性、細胞膜透過性などの障壁を克服するために、ヌクレオシドをプロドラッグ化することが、従来から広く行われており(上記3.b-1およびb-2)、具体的には、抗ウイルス性を有することが確認されたヌクレオシドを親ヌクレオシド(parent nucleosides)として、それらの各種のリン酸エステルがそれらの親ヌクレオシド(parent nucleosides)のプロドラッグとして研究されてきた(上記3.b-3?b-9)。
これら各種のプロドラッグとしてのリン酸エステルのなかでも、S-アシル-2-チオエチル(SATE)を用いる手法は代表的なもののひとつであり(上記3.b-6?b-8)、抗ウイルス性ヌクレオシドを治療に利用する場合に、当該化合物を親ヌクレオシド(parent nucleosides)として、それに対応するプロドラッグとしてのビス(S-アシル-2-チオエチル)リン酸エステルを想定し、研究することは当分野で広く行われてきたものと認められる。
そして、ヌクレオシド残基に結合して、ビス(S-アシル-2-チオエチル)リン酸エステルを構成する、ビス(S-アシル-2-チオエチル)リン酸基として、ビス-(S-ピバロイル-2-チオエチル)リン酸基は、汎用されているものであるから(上記3.b-6で引用されている各文献および引用例Bの図5(425頁)、平成23年3月22日付け拒絶理由において引用例4として引用されたClaire Pierra et al.、Synthesis and antiviral evaluation of some β-L-2',3'-dideoxy-5-chloropyrimidine nucleosides and pronucleotides、Antiviral Research、日本、2000.発行、45(2000)、169-183)、引用例Aの抗ウイルス性ヌクレオシドについての記載に接した当業者であれば、引用発明のヌクレオシドが有する抗ウイルス活性を、治療において、より効果的に利用するために、当該ヌクレオシドの細胞膜透過性の改善などを意図して、当該ヌクレオシドを親ヌクレオシド(parent nucleosides)とし、S-アシル-2-チオエチル(SATE)を用いるプロドラッグ化手法を適用することにより、そのヌクレオシド残基にビス-(S-ピバロイル-2-チオエチル)リン酸基が結合した化合物を容易に想到し得るものと認められる。また、当該化合物は、引用例Bに記載される従来周知の合成法によって製造することができるものである。
そして、その奏する効果についても、以下に記載するように格別顕著なものとは認められない。
すなわち、本願発明に係る化合物のうち、本願の特許請求の範囲の請求項2に記載の6種のヌクレオシドホスフェートについては、平成19年4月25日付けで請求人が提出した審判請求書の請求の理由の欄において、表1に記載されている結果から、その効果が裏付けられていることは認められるものの、それ以外の本願発明に係る化合物については、その効果を裏付けるデータがなく、それらすべてにわたり所期の効果を奏するものであることは確認できない。
この点について、請求人は、平成23年9月29日付けで提出した意見書において、本願発明に係る化合物で上記6種の化合物以外の化合物は、該6種の化合物が有する置換基と同じかまたは極めて類似の構造を有しているので、当業者であれば、本願明細書の記載および表1と出願時の技術常識を考慮することにより、本願発明に係る化合物全体についても同等の抗HCV活性を有することが十分に理解できる旨主張する。しかし、本願発明に係る化合物の中に、ヌクレオシド構造がたとえばシチジンなどの天然に存在するヌクレオシド残基である化合物が包含されることは明らかである。たとえば、シチジンについていえば、本願請求項1に記載の一般式(VI)において、Bがシトシン残基を、R^(1)が水素で、かつR^(2)がヒドロキシ基を表すか、又は、R^(1)がヒドロキシ基で、かつR^(2)が水素を表し、R^(3)がヒドロキシ基を表す場合の化合物に相当するものである。そして、これは、請求項2の1番目、及び6番目に記載される化合物におけるOMe基がヒドロキシ基である場合に該当する化合物であるから、同請求項記載の化合物と極めて類似の構造を有しているものではあるが、これら天然に存在するシチジンをヌクレオシド残基とする化合物が、データが記載される構造類似の化合物と同様にHCVのRNAポリメラーゼの阻害剤として作用するとは、技術常識に照らしてみても考え難いから、本願発明に係る化合物全体が同等の抗HCV活性を有するとは認められない。よって、上記請求人の主張は採用し得ない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用例AおよびBに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-13 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-03-02 
出願番号 特願2002-558479(P2002-558479)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 拓渡辺 仁  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
荒木 英則
発明の名称 RNA依存性RNAウィルスポリメラーゼ阻害薬としてのヌクレオシド誘導体  
代理人 小野 誠  
代理人 大崎 勝真  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 川口 義雄  

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