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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1260318
審判番号 不服2009-17268  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-15 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2004-24673「冷凍嚥下困難者用食品及び冷凍嚥下困難者用食品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年8月11日出願公開、特開2005-211021〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月30日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成24年3月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「野菜、肉或いは魚を煮沸してペースト状として「きれ」を付与したものの一種又は複数を主材料とし、これにゲル基材として寒天及びゼラチンを加えてゲル化させて「まとまり」を付与し、さらに牛乳とバター或いは油の少なくとも一種以上と卵黄粉を含有し、全体を攪拌して乳化させて全体に「滑り」を付与した後凍結してなることを特徴とする冷凍嚥下困難者用食品。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載事項
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物1ないし3、及び刊行物5には、以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付した。

(1)刊行物1:特開2000-157212号公報の記載事項
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ゼラチンと、寒天、カラギーナン、ネイティブジェランガム、ローカストビーンガム及びキサンタンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上とを含有してなることを特徴とする易嚥下補助組成物。
【請求項2】請求項1記載の易嚥下補助組成物において、食する際のゲルの付着性が100gs以下であることを特徴とする易嚥下補助組成物。
【請求項3】請求項1または2のいずれかに記載の易嚥下補助組成物を含有してなる食品用組成物。」

(1b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】嚥下に適した食物としては、(1)咀嚼しやすい適度な硬さを有すること、(2)食塊形成性(食物の口の中でのまとまり易さ)に優れること、および(3)のどへの付着性が少ないことが挙げられる。」

(1c)「【0011】本発明の易嚥下補助組成物は、例えば水、湯、飲料、スープ等の各種水溶液に溶解させることによってゲル化し嚥下適性に優れた性状を呈する。」

(1d)「【0013】本発明の易嚥下補助組成物と組み合わせて使用される食品用組成物素材および医薬品用組成物素材は、特に制限されるものではない。例えば食品用組成物素材としては、糖類(ぶどう糖、果糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、粉末水飴、還元麦芽糖、還元乳糖、還元水飴粉末、キシロオリゴ糖、およびポリデキストロース等を1種単独でまたは適宜混合して)、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、およびアスコルビン酸塩等を1種単独でまたは適宜混合して)、香料、着色料、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン酸、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、パントテン酸、および葉酸等を1種単独でまたは適宜混合して)、ミネラル類(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、リン、マンガン、およびヨウ素等を含む塩類や食品素材を1種単独でまたは適宜混合して)、各種蛋白質(大豆蛋白、乳蛋白、小麦蛋白、卵蛋白、魚肉蛋白、牛肉蛋白、豚肉蛋白、および鶏肉蛋白等を1種単独でまたは適宜混合して)、各種油脂類(動植物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセライド等を1種単独でまたは適宜混合して、甘味料(アスパルテーム、ステビア等を1種単独でまたは適宜混合して)、食物繊維(セルロース、ガラクトマンナン、グアガム分解物、難消化性デキストリン、およびコーンファイバー等を1種単独でまたは適宜混合して、各種果汁類(リンゴ、オレンジ、みかん、ぶどう、なし、もも、メロン、バナナ、およびすいか等を1種単独でまたは適宜混合して)、フレーバー粉末(コーヒー粉末、抹茶粉末、煎茶粉末、およびココア粉末等を1種単独でまたは適宜混合して)、安定化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、リン脂質、キラヤサポニン、および大豆サポニン等を1種単独でまたは適宜混合して)、調味料(塩、味噌、醤油、酒類、みりん、および動植物エキス等を1種単独でまたは適宜混合して)、スパイス類(ホワイトペパー、ブラックペパー、バジル、レッドペパー、わさび、からし、しょうが、ガーリック、シナモン、およびクローブ等を1種単独でまたは適宜混合して)、野菜類(トマト、セロリ、およびオニオン等を1種単独でまたは適宜混合して)、種実類(アーモンド、ピーナッツ、およびクルミ等を1種単独でまたは適宜混合して)等を用いることができる。」

(1e)「【0014】本発明における易嚥下補助組成物は、必須成分としてゼラチンを含有するものであり、これを各種水溶液に加えて混合することによりゲル化して、(1)咀嚼しやすい適度な硬さを有し、(2)食塊形成性(食物の口の中でのまとまり易さ)に優れており、かつ(3)のどへの付着性が少ないという優れた嚥下適性を呈する。またゼラチンに加えて、寒天、カラギーナン、ネイティブジェランガム、ローカストビーンガム及びキサンタンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上が併用されているので、常温下においてもゼラチンのみの場合のように簡単に融解して液体とならず、ゲル化された状態を維持して優れた嚥下適性を維持することができる。・・・本発明の易嚥下補助組成物ならびにこれを用いた食品用組成物および医薬品用組成物は、高齢者や嚥下障害者が安全に嚥下できるので、例えば病院や高齢者を対象とした各種施設における給食や医薬品に好適であるほか、嚥下が未熟な乳児の離乳食や医薬品、あるいはスプーンですくって口へ運ぶ動作が未発達の幼児のための食品や医薬品としても好適である。」

(1f)「【0019】官能試験は次にようにして行った。すなわち、舌でのつぶし易さ、飲み込み易さ、のどへの付着については、専門パネル3名で評価した。評価結果は○:良好、△:やや悪い、×:悪い、で表した。食塊形成性については、容器に入ったゲルをスパチラで約20回攪拌し、ゲルのばらけ状態を目視にて判定した。評価結果は、よくまとまっている状態?ばらばらの状態(離水した場合を含む)を、その程度によって○?△?×で表した。嚥下適性については、舌でのつぶし易さ、飲み込み易さ、食塊形成性、及びのどへの付着の点から総合的に判定した。」

(1g)表1には調製例1及び6として、表7には実施例3、表10には実施例6として、ゼラチン及び寒天を配合したもの、が記載されている。(【0020】【表1】、【0029】【表7】、【0035】【表10】)

(1h)表3には、ゼラチン及び寒天を配合した調製例1及び6のものが、表12には、ゼラチン及び寒天を配合した実施例3及び6のものが食塊形成性、のどへの付着等の嚥下適性が良いことが記載されている。(【0022】【表3】、【0038】【表12】)

(1i)「【0040】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の易嚥下補助組成物は嚥下特性に優れているので高齢者や嚥下障害者が安全に嚥下でき、かつ常温で長時間放置しても優れた嚥下適性を維持できるものである。またこれを食品用組成物や医薬品用組成物などの用途に幅広く応用することができ、嚥下特性に優れた食品や医薬品を低温?常温の所望の温度帯で提供することができる。」

(2)刊行物2:特開2003-259820号公報の記載事項
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】煮汁を含む平均粒径1mm以下の微粒子状又はペースト状の食材原料をゲル化剤によりゲル化させてなることを特徴とする、ゲル状食品。
・・・
【請求項6】煮汁を含む平均粒径1mm以下の微粒子状又はペースト状の食材原料を加熱調理し、溶解させた後、冷却してゲル化させることを特徴とする、ゲル状食品の製造方法。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、食材由来の物性を改善し、特に咀嚼機能の弱い者には適さないとされてきた硬い食べ物や弾力性に富む食べ物を柔らかく、嚥下困難者であっても容易に喫食できるようにしたゲル状食品及びその製造方法に関する。」

(2c)「【0014】
【課題を解決するための手段】本願発明者らは、咀嚼機能の弱い者であっても容易に食べることができ、かつ外観も良好な盛り付け性の高い食品を探求し、鋭意研究を進め、種々の方法を試みたところ、切断・粉砕して微粒子状又はペースト状にした食材をゲル化すると、上述の目的が達成されるという見解に至り、本願発明を完成した。」

(2d)「【0019】食材原料としては特に限定されず、例えば、にんじん、ほうれん草、大根、玉ねぎ、タケノコ、こんにゃくなどの植物性食材や、玉子、魚肉、獣肉、鳥肉、アワビ、イカなどの動物性食材のいずれか一種、又は二種以上が挙げられるが、硬質食材及び/又は弾性食材を含有してなるのが好ましい。」

(2e)「【0021】なお、食材原料は、切断、粉砕、加熱、溶解そしてゲル化の各工程において適宜調味してもよく、全く調味しなくてもよい。」

(2f)「【0024】本願発明で用いるゲル化剤は、混合することにより、咀嚼機能の弱い者が食べるのに適した、あまり弾力性の無いゲルを形成し、かつ、喉に詰まっても崩れやすい比較的脆いゲルを形成するものであれば、いずれも用いることができ、特に限定されず、例えば、カラギーナン、ファーセレラン、寒天、ゼラチン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、タマリンドガム、キサンタンガム、カードラン、ローカストピーンガムなどのうち、一種、又は二種以上を使用することができる。」

(2g)「【0011】一方、ゲル化された食品を工業規模で生産する場合には、長期間保存ができることも要求されるが、高温高圧殺菌して常温保存すると、風味が著しく劣ってしまうため、冷凍保存することが好ましいと考えられる。
【0012】ところが、こんにゃくなどは凍結・解凍すると構造が変化したり大量に離水することがあるため、冷凍に適さない。また、食材原料の種類、水分含量、ゲル化に用いられるゲル化剤によっては、凍結・解凍によって離水が著しく多くなるが、離水量が多くなれば、嚥下困難者の誤嚥のおそれもあるため、凍結・解凍によって、離水しないことが望まれる。」

(3)刊行物3:日本家政学会誌 第51巻 第6号 2000年 第481?487頁の記載事項
(3a)「特別養護老人ホームや病院など、高齢者に食事を供している施設では、ゆでて裏ごししたじゃがいもにマヨネーズなどの油脂類を添加し、飲み込みやすくする工夫が行われている。ゆでたじゃがいもは油脂(バター)、牛乳を添加し、マッシュポテトに調理することで物性や風味に変化が生じ、飲み込み特性が改善されるものと考えられる。」(第481頁左欄7行?右欄2行)

(3b)「2.試料および実験方法」の項目中
「(1)材料
一般にマッシュポテトはゆでたじゃがいもとバターと牛乳を3成分としているが、本研究ではモデル系として油脂成分として植物性油脂、牛乳成分としてスキムミルク溶液を用いた。これは材料として油脂と乳製品を用いることにより乳化がおこり、試料のテクスチャーに影響することを予想し、乳化していない油脂と脂質を除いた乳を用いることで、材料配合割合による乳化の影響を明確にするためである。・・・ポテトフレークに温水を加えたものを基準マッシュポテト(以下SP)として用いた。・・・ポテトフレークに3倍量の温水を加え、ガラス棒を用い1time/sの速度で50回攪はん後、密閉容器中で、30分間室温放置し、調製したものをSPとした。また、スキムミルク溶液はスキムミルク粉末を10倍量の蒸留水で溶解調製した。」(第482頁左欄10行?右欄6行)

(3c)「2.試料および実験方法」の項目中
「(7)官能評価
・・・評価項目は、舌触りのなめらかさ(-3:ざらつく、+3:なめらか)、べたつき感(-3:べたつき感がない、+3:べたつき感がある)、油っぽさ(-3:水っぽい、+3:油っぽい)、飲み込みやすさ(-3:飲み込みにくい、+3:飲み込みやすい)、残留感(-3:残留感がない、+3:残留感がある)の5項目とした。」(第483頁左欄下から6?右欄8行)

(3d)「3.結果および考察」の項目中
「(3)顕微鏡観察
光学顕微鏡により、水系、スキムミルク系のマッシュポテト中の油の分散状態について観察した。Fig.5に水系、スキムミルク系の顕微鏡写真を示した。水系ではデンプン粒(A)の周りを油が一つの相になって、囲んでいる様子が観察された。一方、スキムミルク系では、油(B)が乳化により細粒化された油滴の形成が観察された。この油滴は分散媒をスキムミルク溶液とし、分散相が油であるO/W型エマルションを形成していると推測できる。赤羽等はマヨネーズの硬さは油の粒子系が小さいほど硬くなると報告しており、本報告においても、スキムミルクにより乳化された試料中の油の粒子が小さくなったことが、試料の硬さの上昇に寄与しているものと推察した。」(第485頁右欄5?18行)

(3e)「3.結果および考察」の項目中
「(4)官能評価
・・・Table3に示した4種の試料について官能評価を行い、Table4にScheffeの一対比較法より得られた特性に対する評点の平均値、および主効果の検定結果と硬さの実測値を示した。なお、組合せ効果はいずれの場合も認められなかった。“べたつき感”、“油っぽさ”は試料間に有意差はみられなかった。“舌触りのなめらかさ”、“飲み込みやすさ”、“口中の残留感”は主効果に1%の危険率で有意差が認められたので、次に試料間の差の検定を行った。
Fig.6に主効果に有意差の認められた“飲み込みやすさ”、“口中の残留感”の平均推定値の差の検定結果を示した。“舌触りのなめらかさ”は水系である試料A、Bがスキムミルク系の試料Cより有意にざらつくと評価された。また、スキムミルク系試料間でも、試料Dは試料Cよりも有意(p<0.05)にざらついていることが認められた。
“飲み込みやすさ”は試料Cと試料A、Bの間に危険率1%で有意差が認められ、また試料Dとは危険率5%で有意差が認められた。しかし試料A、B、Dの間に有意差は認められなかった。これらのことから試料Cが他の試料より有意に飲み込みやすいといえる。“なめらかさ”と同様に、試料A、Bと試料Dの間に有意差は認められなかったが平均評価点はA、Bより試料Dの方が高く、飲み込みやすいと評価された。このことから、スキムミルクを添加することによる油の乳化作用により飲み込み特性は改善されると推察した。・・・本報告で用いた試料では、スキムミルク系で油の多い試料Cがなめらかで口中の残留感が少なく、飲み込みやすいと評価された。これらのことから、マッシュポテトを調製する際にはスキムミルク、あるいは牛乳を多く用い、油の量も多くすることで飲み込みやすくする工夫ができよう。・・・そのため残留感が少なく、飲み込みやすく、しかも油量を多くし、熱量が多くなるように調製することで、マッシュポテトが嚥下障害者の介護食として望ましい形態になるといえる。」(第485頁右欄下から12行?第487頁左欄20行)

(3f)Table3には、試料Cが、油14%、スキムミルク溶液21%、基準マッシュポテト65%を、試料Dが、油5%、スキムミルク溶液24%、基準マッシュポテト71%を含有するものであることが記載されている。
Table4及びFig.6には、試料Cが、最も舌触りのなめらかさ、飲み込みやすさ、残留感のなさについて優れていること、試料Dが上記各評価について、2番目に優れていることが示されている。(第486頁Table3、Table4及びFig.6)

(4)刊行物5:特開2003-339303号公報の記載事項
(5a)「【0002】背景技術
2000年の国勢調査の結果によれば、日本の人口に占める65歳以上の高齢者の割合は17%となり、2015年には25%を超えると推定されている。今後その割合が増えることは確実であると思われる。高齢者の栄養問題として、高齢者が嚥下・咀嚼困難な状態にある場合に、タンパク質・エネルギー低栄養状態(PEM(protein energy malnutriton))が起こり易いことが知られている。このため、超高齢化社会を迎え、嚥下困難な高齢者を対象として栄養バランスやエネルギーの高い濃厚流動食が市販されている。」

(5b)「【0014】タンパク質成分
本発明において、タンパク質成分は、動物性タンパクであっても植物性タンパクであってもよく、これらの混合物であってもよい。植物性タンパクとしては、例えば大豆タンパク、エンドウタンパク、または小麦タンパク等が例示できる。動物性タンパクとしては、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエータンパク質、乳タンパク(例えばカゼイン、アルブミン、グロブリン)、ゼラチン、卵白粉末、卵黄粉末、または全卵粉末等が例示できる。これらは2種以上混合して使用されてもよい。」

3 対比・判断
刊行物1の記載事項(特に上記(1a)(1e))から、刊行物1には、
「ゼラチンと寒天とを含有し、咀嚼しやすい適度な硬さを有し、食塊形成性(食物の口の中でのまとまり易さ)に優れ、かつのどへの付着性が少ないという嚥下適性を呈する易嚥下補助組成物と食品用組成物素材とを含有してなる食品用組成物」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「ゼラチンと寒天とを含有」する「易嚥下補助組成物」は、刊行物1(上記(1c))に「本発明の易嚥下補助組成物は、例えば水、湯、飲料、スープ等の各種水溶液に溶解させることによってゲル化し嚥下適性に優れた性状を呈する。」と記載されていることから、ゲル基質といえるものであり、本願発明の「寒天及びゼラチン」である「ゲル基材」に相当する。
(イ)本願発明の「まとまり」について、本願明細書段落【0012】に「混入する寒天及びゼラチンによって食品をゲル化させて、食品に「まとまり」を付与し」と記載され、寒天及びゼラチンによって食品をゲル化した状態は、食品に「まとまり」が付与されている状態と理解できる。
刊行物1発明の「易嚥下補助組成物」は、ゼラチンと寒天とを含有し、上記(ア)に記載したとおり、ゲル化されたものであり、「食塊形成性(食物の口の中でのまとまり易さ)に優れ」ていることから、「ゲル化させて「まとまり」を付与し」たものといえる。そして、刊行物1発明の「易嚥下補助組成物」に「食品用組成物素材」を含有させた「食品用組成物」も、ゼラチンと寒天とにより「ゲル化させて「まとまり」を付与し」たものとなっていることは、刊行物1(上記(1e))に、「易嚥下補助組成物」だけでなく、これを含む食品用組成物も「嚥下障害者が安全に嚥下できる」ことが記載されていることを考慮すれば明らかといえる。
(ウ)刊行物1発明の「食品用組成物素材」は、刊行物1(上記(1d))に「野菜類」、及び「各種蛋白質」として「乳蛋白」、「卵蛋白」、「魚肉蛋白」、「牛肉蛋白」、「豚肉蛋白」、「鶏肉蛋白」、さらに「各種油脂類」として「動植物油脂」が記載され、「安定化剤」として乳化剤が列記されその中に「リン脂質」が記載されており、刊行物1発明の「食品用組成物素材」と、本願発明の「主材料」である「野菜、肉或いは魚を煮沸してペースト状として「きれ」を付与したものの一種又は複数種」、及び「牛乳とバター或いは油の少なくとも一種以上と卵黄粉」とは、食品素材である点で共通する。
(エ)刊行物1発明は、「易嚥下補助組成物」と「食品用組成物素材」を混合し全体を撹拌して「食品用組成物」としたもので、嚥下困難者用食品であることは、刊行物1(上記(1e))に、「食品用組成物」が「嚥下障害者が安全に嚥下できる」ことが記載されていることから明らかである。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
食品素材に、ゲル基材として寒天及びゼラチンを加えて、全体を撹拌し、ゲル化させて「まとまり」を付与した嚥下困難者用食品である点。

(相違点1)
食品素材が、本願発明では、「野菜、肉或いは魚を煮沸してペースト状として「きれ」を付与したものの一種又は複数種」、さらに「牛乳」及び「バター或いは油の少なくとも一種以上と卵黄粉」であるのに対して、刊行物1発明は、その種類と形態を特定していない点。

(相違点2)
全体を撹拌することで、本願発明では、乳化させて全体に「滑り」を付与しているのに対して、刊行物1発明は、乳化させることを規定していない点。

(相違点3)
嚥下困難者用食品が、本願発明は、凍結したものであるのに対して、刊行物1発明は、凍結することを規定していない点。

(相違点1及び2について)
相違点1と2は、関連するのであわせて検討する。
(ア)本願発明の「「きれ」を付与」することについて、本願明細書には、段落【0012】に「食品の主成分として野菜、肉或いは魚を煮沸した後ペースト状とし、更に他の材料とともに混合加熱することによって、食品に「きれ」を付与しているものである。」と記載されていることから、食品素材を煮沸した後ペースト状とすることにより生じる性状を意味しているといえる。
嚥下困難者でも容易に喫食できるようにしたゲル状食品の食材原料について、刊行物2には、煮汁を含むペースト状にした食材をゲル化剤でゲル化すること(上記(2c)(2f))、食材原料としては、例えば、にんじん、ほうれん草、大根、玉ねぎ、タケノコ、こんにゃくなどの植物性食材や、魚肉、獣肉、鳥肉等(上記(2d))が記載され、食材原料は、切断、粉砕、加熱、溶解すること(上記(2e))が記載されているように、嚥下困難者用の食品では、野菜や肉を煮て加熱し、ペースト状とすることは、普通に行われることといえ、野菜や肉を煮て加熱しペースト状とすることにより、本願発明でいう「「きれ」が付与」されるといえる。
そして、刊行物1(上記(1d))には、「食品用組成物素材」として、「魚肉蛋白」、「牛肉蛋白」、「豚肉蛋白」、「鶏肉蛋白」、及び「野菜類」が記載されているから、刊行物1発明の「食品用組成物素材」として、野菜、肉或いは魚を用いることは当業者が適宜になし得ることであり、その際に、刊行物2に記載されるように、加熱してペースト状として「きれ」を付与することに何らの困難性はない。
(イ)本願発明の「「滑り」を付与する」ことについて、明細書段落【0011】に「牛乳、バター、(サラダ)油を加えて乳化すること(エマルジョンゲル化)によって咽頭を滑らかに通過するものである。」、段落【0012】に「牛乳、バター、(サラダ)油を加えて乳化すること(エマルジョンゲル化)によって、食品に「滑り」を付与」と記載されていることから、牛乳、バター、(サラダ)油を加えて乳化することにより生じる咽頭を滑らかに通過する性状を意味しているといえる。しかしながら、本願発明の「卵黄粉」については、食品の配合を示した表1?5に記載されるだけであり、乳化との関係については何ら記載がない。
牛乳とバターによる乳化で、マッシュポテトの飲み込み特性が改善されることについて、刊行物3には、「一般にマッシュポテトはゆでたじゃがいもとバターと牛乳を3成分としているが、本研究ではモデル系として油脂成分として植物性油脂、牛乳成分としてスキムミルク溶液を用いた」(上記(3b))として、モデル系の顕微鏡観察として「スキムミルク系では、油(B)が乳化により細粒化された油滴の形成が観察された。この油滴は分散媒をスキムミルク溶液とし、分散相が油であるO/W型エマルションを形成していると推測できる。」(上記(3d))と記載されている。そして、官能評価として、「スキムミルクを添加することによる油の乳化作用により飲み込み特性は改善されると推察した。」(上記(3e))、「スキムミルク系で油の多い試料Cがなめらかで口中の残留感が少なく、飲み込みやすいと評価された。これらのことから、マッシュポテトを調製する際にはスキムミルク、あるいは牛乳を多く用い、油の量も多くすることで飲み込みやすくする工夫ができよう。」(上記(3e))と記載され、乳化により、細粒化された油滴がスキムミルク溶液中に分散したエマルションを形成し、なめらかで口中の残留感が少なく、飲み込みやすいと評価され、「嚥下障害者の介護食として望ましい形態になる」(上記(3e))ことが記載されているといえる。そして、実際に嚥下障害者の介護食を作る際には、スキムミルク溶液と油に代えて、牛乳とバターを用いることは、刊行物3(上記(3a)(3b))に記載のとおりであり、牛乳とバターの乳化作用による、なめらかで口中の残留感が少なく、飲み込みやすいという、飲み込み特性は、マッシュポテトに「滑り」を付与しているといえる。
そして、刊行物1(上記(1d))には、「食品用組成物素材」として、牛乳成分である「乳蛋白」、卵黄及び卵白の成分である「卵蛋白」、バターが代表的である「動物油脂」が記載されており、刊行物5(上記(5a)(5b))には、高齢者等の嚥下困難者の高タンパク質食品の動物タンパク質成分として、「卵黄粉」が記載されている。さらに、刊行物1(上記(1d))には、「安定化剤」として、「リン脂質」等の乳化剤が記載されていることから、食品組成物を乳化して安定化することが示唆されているといえる。そして、卵黄に含有されるレシチンが、リン脂質の一種であることは技術常識である。
以上のことから、刊行物1発明と同様に嚥下困難者の介護食として望ましいとして刊行物3に記載された、マッシュポテトにおける牛乳とバターによる乳化状態を、刊行物1発明のゼラチン及び寒天で、野菜や肉といった食品用組成物素材をゲル化したものに試みることに格別の困難性はなく、刊行物1発明において、食品用組成物素材として刊行物1に記載された「乳蛋白」、「動物油脂」及び「卵蛋白」を、牛乳、バター及び卵黄粉としてさらに含有させて、撹拌して全体を乳化させて「滑り」を付与することは、当業者が容易になし得たことといえる。

(相違点3について)
刊行物2(上記(2g))には、ペースト状の食材原料を、ゼラチンや寒天等のゲル化剤でゲル化した食品は冷凍保存することが望ましいことが記載されているから、刊行物1発明の、ゼラチンと寒天、及び食品用組成物素材を含有した食品用組成物を冷凍することは、当業者が容易になし得たことといえる。

(請求項1発明の効果について)
本願明細書に記載された、誤嚥するおそれがなく、すべり、きれ、まとまりを備えた食品となるという効果は、刊行物1(上記(1f)?(1i))、刊行物2(上記(2b)(2c))、刊行物3((3c)?(3f))の記載事項から予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。

(請求人の主張について)
請求人は、前置審査についての審尋の回答書、及び当審の拒絶理由に対する意見書で、卵黄粉を配合した場合、配合しないものに比べて、凍結・解凍による離水が防止できる効果を奏することを主張するが、本願明細書には、離水については何ら記載がなく、さらに、卵黄粉の添加については、その目的の記載すらなく、請求人の主張する効果は参酌することはできない。
仮に、参酌したとしても、卵黄に含有されるリン脂質であるレシチンが乳化作用を有することは、刊行物1に安定剤としてリン脂質が記載され、特開平9-172984号公報(【0002】の従来技術)に記載されるように本願出願前に周知であり、さらに、乳化により、凍結・解凍時の離水が少なくなることは、例えば、特開2000-102356号(【0006】従来技術)に記載されるように本願出願前に周知であるから、牛乳と油成分を加えて乳化する際に、さらに乳化作用のある卵黄粉を添加することで、離水がより少なくなることは、周知技術から予測し得ることである。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし3、及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-16 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-07 
出願番号 特願2004-24673(P2004-24673)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
▲高▼岡 裕美
発明の名称 冷凍嚥下困難者用食品及び冷凍嚥下困難者用食品の製造方法  
代理人 伊藤 進  

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