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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1260357
審判番号 不服2011-4192  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-25 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2006-510099「シュラウド付きタービンブレード上で中央に位置する切削刃」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日国際公開、WO2004/094789、平成18年10月19日国内公表、特表2006-523803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、2004年(平成16年)4月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2003年(平成15年)4月18日、米国)を国際出願日とする国際特許出願であって、平成17年10月11日付けで国内書面とともに明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文がそれぞれ提出され、平成22年1月12日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年7月12日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書がそれぞれ提出されたが、同年10月18日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成23年2月25日付けで拒絶査定不服審判が請求され、当該審判の請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において同年7月11日付けで書面による審尋がなされたものである。

2.平成23年2月25日付け手続補正の補正の目的
平成23年2月25日付けで提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前の(すなわち、平成22年7月12日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし10のうち、請求項1ないし6及び10を削除し、請求項6を引用する請求項9を本件補正後の請求項1とするともに、本件補正前の請求項7及び8を繰り上げて、本件補正後の請求項1を引用する請求項2及び3とするものである。
よって、請求項1に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定される、「請求項の削除」を目的とするものである。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(すなわち、原査定において拒絶をすべきものとされた本件補正前の「請求項6を引用する請求項9」に係る発明、以下、「本願発明」という。)が、原査定のとおり、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるかについて、検討する。

3.本願発明の認定
本願発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、平成17年10月11日付けで提出された明細書の翻訳文、及び、国際出願時に提出された図面の記載からみて、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
チップシュラウド(10)を有するエーロフォイル(12)と、
前記チップシュラウドから径方向外向きに突出し、タービン軸を中心とする前記エーロフォイルの回転方向に前記チップシュラウドの端縁部間に連続して延在するシール(24)と、
反対側の固定シュラウド(28)に溝(26)を切削するために、前記チップシュラウドに支持され、少なくとも前記シールの一方の側部に向けて前記タービン軸の方向に突出する切削刃(32)であって、前記シールの方向に前記シールの長さより短い別個の長さを有し、実質的に前記シールの長さの中央に配置される切削刃(32)と
を含み、
前記切削刃が、実質的に、エーロフォイルの質量中心を通る半径ラインと径方向に整合されて位置することを特徴とする、タービン動翼。」

4.刊行物に記載された発明
(1)引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第02/25065号(以下、「引用文献」という。)には、次のA.ないしC.の事項が図面とともに記載されている。なお、ドイツ語特有の表記である「アー・ウムラウト」は「ae」と、「ウー・ウムラウト」は「ue」と、「オー・ウムラウト」は「oe」と、「エスツェット」は「ss」と、それぞれアルファベットで表記している。
A.「Stand der Technik
Der Wirkungsgrad einer axial durchstroemten Gasturbine wird
unter anderem durch Leckstroeme des komprimierten Gases beeinflusst,
die zwischen rotierenden und nicht rotierenden Komponenten der
Turbine auftreten. Einen Einfluss auf die Groesse der Leckstroeme
hat hierbei der zwischen den Enden der Laufschaufeln und der die
Laufschaufeln umgebenden Gehaeusewand auftretende Spalt. Durch
Verkleinerung bzw. Abdichtung dieses Spaltes kann der Wirkungsgrad
der Gasturbine erhoeht werden. Aufgrund der beim Betrieb der Turbine
auftretenden Kraefte sowie der thermischen Belastung kann der Spalt
jedoch nicht beliebig klein gewaehlt werden. Zur Verminderung der
Leckstroeme in diesen Bereichen sind unterschiedliche
Dichtungsmechanismen bekannt.」
(第1ページ第23行ないし第2ページ第9行)
<仮訳>
「技術の背景
軸流ガスタービンの効率は、タービン段における回転部材と非回転部材との間に発生する圧縮ガスのリーク流れに影響される。ロータブレードの先端部とロータブレードを囲むハウジングの壁との間の隙間は、リーク流れの大小に影響を与える。ガスタービンの効率は、この隙間の大きさを減少させること、または、この隙間をシールすることにより増加させることが可能となる。しかしながら、タービンが作動し熱負荷がかかると、隙間の大きさは思いのままに減らすことができなくなる。この領域でのリーク流れを減少させるためにシールのための様々な機構が知られている。」

B.「Wege zur Ausfuehrung der Erfindung
Figur 1a zeigt ein Beispiel fuer den Aufbau einer
Dichtungsanordnung in einer Turbinenstufe einer Gasturbine. Die
dargestellte Dictungsanordnung wird durch eine Gegenlaufflaeche 2 in
Wabenstrukturform als Beispiel auf dem statischen Bauteil 3, hier
der Gehaeusewandung, und einem schneidenfoermigen Element 1 am
Deckband 5 einer rotierenden Laufschaufel 6 gebildet. Die
Drehrichtung der Laufschaufel 6 um die Rotations- bzw. Rotorachse 7
ist mit einem Pfeil angedeutet. In Figur 1b ist die einschneidende
Wirkung des schneidenfoermigen Elementes 1 in die
Gegenlaufflaeche 2 veranschaulicht. Durch axiale sowie radiale
Dehnungen der Laufschaufel 6 waehrend des Betriebes der Gasturbine
arbeitet sich die Gegenlaufflaeche 2 sowohl in axialer wie auch in
radialer Richtung ab.」
(第10ページ第27行ないし第11ページ第10行)
<仮訳>
「発明の実施の方法
FIG.1aはガスタービンのタービン段においてシーリングの配置の構造の例を示している。図示されたシーリングの配置は、静的な部材3、本発明の場合ではハウジングの壁、に設けられた、例えばハニカム構造体を有する対向面2と、回転するロータブレード6のシュラウド5の上に設けられた切削要素1と、によって形成される。回転軸7に対するロータブレード6の回転の方向は、矢印によって示される。FIG.1bは、対向面2の中への切削要素1の切削の動作を図示している。ガスタービンが作動している間、ロータブレード6の軸方向および半径方向への拡張により、対向面2が、軸方向と半径方向の両方ですり減らされる。」

C.「Figur 5 zeigt drei Beispiele, bei denen das
schneidenfoermige Element 1 mit einem gesonderten
Schneidzahn 12 versehen ist. In den Figuren 5a und 5b ist hierbei in
Seitenansicht und in Draufsicht ein Schneidzahn 12 zu erkennen,
der sich in geeigneter Weise von der Flaeche des schneidenfoermigen
Elementes abhebt. Neben dieser Anbringung des Schneidezahns 12
im in Umlaufrichtung vorderen Bereich des schneidenfoermigen
Elementes 1 kann dieser, wie in den Figuren 5c und 5d in
Seitenansicht und in Draufsicht gezeigt ist, auch beispielsweise
mittig aufgesetzt werden.」
(第14ページ第28行ないし第15ページ第5行)
<仮訳>
「FIG.5は、切削要素1が個別の切削歯12で提供される3つの例を示している。FIG.5aおよび5bでは、切削歯12の側面図および平面図を示している。切削歯12は切削要素の表面から適切な手法で立ち上げられている。回転方向に見た場合に、切削歯12を切削要素1の前部領域に位置させるだけでなく、他の例として、FIG.5cと5dにおいて側面図と平面図として示されるように、切削歯12を中心に位置させることも可能である。」

(2)引用文献の記載からわかること
上記(1)A.ないしC.及び図面の記載から、引用文献には次のD.ないしF.の事項が記載されていることがわかる。
D.上記(1)A.及び図面の記載から、引用文献には、タービン段における回転部材と非回転部材との隙間のシールに関する技術が記載されていることがわかる。また、上記(1)B.及びC.、並びに、図1及び図5の記載から、引用文献の上記(1)C.並びに図5c)及びd)に記載されたタービン段の回転部材は、シュラウド5を有するロータブレード6と、切削要素1と、切削歯12とを含んでいることがわかる。

E.上記(1)B.及びC.、並びに、図1、2及び5の記載から、引用文献の上記(1)C.並びに図5c)及びd)に記載されたタービン段の回転部材の切削要素1は、シュラウド5から径方向外向きに突出し、回転軸7を中心とする前記ロータブレード6の回転方向に前記シュラウド5の端縁部間に連続して延在していることがわかる。

F.上記(1)B.及びC.、並びに、図1及び図5の記載から、引用文献の上記(1)C.並びに図5c)及びd)に記載されたタービン段の回転部材の切削歯12は、対向面2にすり減らされる部分(以下、「凹部」という。)を切削するために、切削要素1に支持され、少なくとも切削要素1の一方の側部に向けて回転軸7の方向に突出していることがわかる。また、切削要素1の方向に切削要素1の長さより短い別個の長さを有し、実質的に切削要素1の長さの中央に配置されていることがわかる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には、特に図5c)及びd)として図示された実施例として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「シュラウド5を有するロータブレード6と、
前記シュラウド5から径方向外向きに突出し、回転軸7を中心とする前記ロータブレード6の回転方向に前記シュラウド5の端縁部間に連続して延在する切削要素1と、
対向面2に凹部を切削するために、切削要素1に支持され、少なくとも前記切削要素1の一方の側部に向けて前記回転軸7の方向に突出する切削歯12であって、前記切削要素1の方向に前記切削要素1の長さより短い別個の長さを有し、実質的に前記切削要素1の長さの中央に配置される切削歯12と
を含むタービン段における回転部材。」

5.対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における「シュラウド5」は、その機能、形状及び構造からみて、本願発明における「チップシュラウド」に相当し、以下同様に、「ロータブレード6」は「エーロフォイル」に、「回転軸7」は「タービン軸」に、「切削要素1」は「シール」に、「対向面2」は「反対側の固定シュラウド」に、「凹部」は「溝」に、「タービン段における回転部材」は「タービン動翼」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「切削歯12」は「切削要素1」に支持されており、その「切削要素1」は「シュラウド5」から突出して設けられていることから、当該「切削歯12」は間接的に「シュラウド5」に支持されているといえる。よって、引用発明における「切削歯12」は、本願発明における「チップシュラウドに支持され」た「切削刃」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、次の<一致点>で一致し、次の<相違点>で一応相違する。

<一致点>
「チップシュラウドを有するエーロフォイルと、
前記チップシュラウドから径方向外向きに突出し、タービン軸を中心とする前記エーロフォイルの回転方向に前記チップシュラウドの端縁部間に連続して延在するシールと、
反対側の固定シュラウドに溝を切削するために、前記チップシュラウドに支持され、少なくとも前記シールの一方の側部に向けて前記タービン軸の方向に突出する切削刃であって、前記シールの方向に前記シールの長さより短い別個の長さを有し、実質的に前記シールの長さの中央に配置される切削刃と
を含むタービン動翼。」

<相違点>
本願発明においては、「切削刃が、実質的に、エーロフォイルの質量中心を通る半径ラインと径方向に整合されて位置する」のに対し、引用発明においては、「切削歯12」が「ロータブレード6」の質量中心を通る半径ラインと径方向に整合されて位置するかが不明である点(以下、「相違点」という。)。

6.判断
上記相違点について検討する。
図5c)及びd)に係る引用発明における「切削歯12」は、上記4.(2)F.で述べたとおり、また、図5a)及びb)の記載と図5c)及びd)の記載とを併せてみれば、「切削要素1」の長さの中央であって、タービン軸から径方向にみて、「ロータブレード6」を通る半径ライン上に位置することがわかる。
また、タービン動翼の先端部の径方向外向きに突出し、タービン軸を中心とするエーロフォイルの回転方向に連続して延在するシールを、タービン軸に垂直なエーロフォイルの質量中心を通る半径ラインを含む面上に位置させることは、例えば、特公平3-19882号公報(例えば、第4ページ第8欄第1ないし13行、第6ページ第12欄第29ないし38行、第7ページ第14欄第19ないし24行、並びに、第2ないし4図に記載の、動翼32のタービン軸方向中心線上に位置する「リブ36、46」を参照のこと。一般的に、物体の「中心線」とは、重心(質量中心)を通過する線であると解される。)に記載されているように、本件出願の優先日前において、よく知られた周知の技術(以下、「周知技術」という。)であり、引用文献に明記されてはいないものの、引用文献の図5b)の記載及び当該周知技術を踏まえると、図5d)に係る引用発明における「切削要素1」は、回転軸7に垂直な「ロータブレード6」の質量中心を通る半径ラインを含む面上に位置するものと推察される。
してみると、引用発明における「切削要素1」が、回転軸7に垂直な「ロータブレード6」の質量中心を通る半径ラインを含む面上に位置し、かつ、「切削要素1」上に配置された「切削歯12」が、タービン軸から径方向にみて、「ロータブレード6」を通る半径ライン上に位置することからみれば、引用発明における「切削歯12」は、本願発明と同様に、実質的に、「ロータブレード6」の質量中心を通る半径ラインと径方向に整合されて位置するものと認められる。
したがって、上記相違点として挙げた点に、実質的に差異があるとはいえず、よって、本願発明と引用発明とに差異はない。

なお、仮に、引用発明における「切削要素1」が、回転軸7に垂直な「ロータブレード6」の質量中心を通る半径ラインを含む面上に位置するものでないとしても、タービン段の回転部材を振動等なく安定して回転させるために、質量の面から均整のとれた位置に各部材を配置するように設計を行うことは、当業者であれば普通に行うことであるから、引用発明に上記周知技術を適用し、結果として、「切削歯12」が、実質的に、「ロータブレード6」の質量中心を通る半径ラインと径方向に整合されて位置するようにして、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

7.むすび
したがって、本願発明は、引用発明と差異がないことから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-16 
結審通知日 2012-02-21 
審決日 2012-03-08 
出願番号 特願2006-510099(P2006-510099)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01D)
P 1 8・ 113- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 泰輔出口 昌哉  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 中川 隆司
鈴木 貴雄
発明の名称 シュラウド付きタービンブレード上で中央に位置する切削刃  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  

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