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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D02G |
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管理番号 | 1260405 |
審判番号 | 不服2010-12298 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-06-08 |
確定日 | 2012-07-17 |
事件の表示 | 特願2003-560287「ハイブリッドケーブル、該ケーブルの製造方法および該ケーブルを使用した複合ファブリック」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月24日国際公開、WO03/60212、平成17年11月10日国内公表、特表2005-533933〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2003年1月15日(優先権主張外国庁受理2002年1月17日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成22年1月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年6月8日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1ないし14に係る発明は、平成22年6月8日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「900cN/texより小さい初期係数の真直テクスタイルコアと、該コア上に螺旋状に巻回される1300cN/texより大きい初期係数の単一のテクスタイルラップとからなるハイブリッドケーブルにおいて、該ハイブリッドケーブルは、 2?4%の伸びに一致する遷移点をもつ力/伸び曲線と、 前記遷移点より低い側で前記コアの初期係数に実質的に等しくかつ前記遷移点を越えた側で前記ラップの初期係数に実質的に等しい引張り係数と、 10より大きい最終接線係数:初期接線係数の比と、を有し、 前記ラップは、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、液晶オリジンのセルロース、および液晶オリジンのセルロース誘導体から選択されたポリマーで形成されることを特徴とするハイブリッドケーブル。」 3.引用発明 これに対して、拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-2832号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項及び引用発明が記載されている。 (1)「1.初期ヤング率が700kg/mm^(2)以上、強力が10kg以上である糸条Aと、初期ヤング率が100kg/mm^(2)以上500kg/mm^(2)以下、切断伸度が20%以上である糸条Bとが下記糸長比で撚り合わされていることを特徴とするキャッププライコード。 0.9≦B/A<1」(特許請求の範囲参照) (2)「〔産業上の利用分野〕 本発明は、キャッププライコードに関する。さらに詳しくは、タイヤ加硫時における形状追従性が良好でタイヤ加硫後は高ヤング率を有するキャッププライコードに関する。」(第1頁左下欄12-16行参照) (3)「本発明に係るキャッププライコードは糸条Aと糸条Bとが撚り合わされたコードで、低負荷時には糸条Bに力が加わり、初期ヤング率が低いので容易に伸びる、更に負荷が加わりコードの歪みが大きくなってくると糸条Aに負荷が加わるようになり、初期ヤング率が高い糸条Aの物性が効果を発揮するようになる。」(第2頁左上欄末行-同右上欄6行参照) (4)「本発明に使用する糸条Aの初期ヤング率は700kg/m^(2)以上が必要であり、これより低いと十分なベルト材把持ができなくなる。また、糸条Bの初期ヤング率は100?500kg/mm^(2)、特に200?400kg/mm^(2)が望ましく、これより低いとコードの処理工程で延伸されてしまい、低負荷時の伸びが得られなくなり、これより高くても低負荷時の伸びは得にくい。糸条Bの切断伸度(以下伸度という)は20%以上であることが必要でこれより低いと撚り合わされたコードがプライブレークを生じる。この両糸条を撚り合わせてキャッププライコードを作成した際、単位長さ当たりのコードを構成する両糸条の長さすなわち、糸長比は常にA>Bとなっていることが必要で、B/Aは0.90?0.99であり、特に0.92?0.95が望ましい。 本発明でいう糸長比とは製造されたコードを撚り戻して0.05g/dの緊張下で測長したときのB/Aの値をいう。 糸条Aに対する糸条Bのデニール比B/Aも0.1?1であることが好ましく、更に望ましくは0.2?0.5である。これらの値より低いと撚が不安定となり、高いと低負荷時の伸びが得にくくなる。」(第2頁右上欄7行-同左下欄8行参照) (5)「〔実施例〕 以下に本発明のキャッププライコードを実施例を用いて説明する。 尚、得られたコードの物性は下記の方法で評価した。 コードの安定性について残留トルクを観察して、最も安定なものを◎、安定なものを○、不安定なものを×で表わした。1kg荷重時伸度、切断強力とヤング率は定伸引張試験機を用いて試長25cm、引張スピード30cm/分で調定した。コード適性はこれらの物性を総合してキャッププライとして最も適するものを◎、適するものを○、適さないもの×とした。」(第2頁右下欄5-17行参照) (6)「実施例2 糸条Aに強力34.29kg、伸度4.5%、初期ヤング率5726kg/mm^(2)で1580デニール、1000フィラメントの芳香族ポリアミド繊維を用い、糸条B、撚糸方法及び処理方法は実施例1と同様とした。得られたコードの物性を第1表に示す。 ・・・ 実施例4 糸条Aは実施例2で用いた糸条Aを用い、糸条Bは500m/分で紡糸し、5倍に延伸した強力3.70kg、伸度20%、初期ヤング率484kg/mm^(2)の420デニール、70フィラメントの66ナイロン繊維を用いた。紡糸方法及び処理方法は実施例1と同様とした。得られたコードの物性を第1表に示す。 実施例5 実施例4で用いた糸条A,Bを用い、カバーリング機で芯糸を糸条B、カバー糸を糸条Aとしたカバーリングコードを作成した。処理方法は実施例1と同様とした。得られたコードの物性を第1表に示す。」(第3頁左上欄下から4行-同左下欄2行参照) (7)第1表には、実施例5の糸長比が「0.92」であり、コード物性として伸度5%以上での最大ヤング率が、7119kg/mm^(2)であることが示されている。なお、第1表では、「伸度5%以上での最大伸度」と記載されているが、その単位及び数値の大きさから「伸度5%以上での最大ヤング率」の誤記と認められる。 (8)「第1図は本発明の実施例で用いた糸条A、糸条B及びコードの荷重伸度曲線の概略図を示す。」(第4頁左下欄9-10行参照) (9)第1図 以上の記載によると、引用例には、 「糸条Aに強力34.29kg、伸度4.5%、初期ヤング率5726kg/mm^(2)で1580デニール、1000フィラメントの芳香族ポリアミド繊維を、糸条Bに強力3.70kg、伸度20%、初期ヤング率484kg/mm^(2)で420デニール、70フィラメントの66ナイロン繊維をそれぞれ用い、 糸条Bの糸条Aに対する糸長比が0.92であり、 カバーリング機で芯糸を糸条B、カバー糸を糸条Aとして作成されたカバーリングコードであるキャッププライコードであって、 該キャッププライコードの伸度5%以上での最大ヤング率が、7119kg/mm^(2)であり、 低負荷時には糸条Bに力が加わり、初期ヤング率が低いので容易に伸びる、更に負荷が加わりコードの歪みが大きくなってくると糸条Aに負荷が加わるようになり、初期ヤング率が高い糸条Aの物性が効果を発揮するキャッププライコード。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「キャッププライコード」は、本願発明の「ハイブリッドケーブル」に相当し、 引用発明の「芯糸」または「糸条B」は、本願発明の「真直テクスタイルコア」に、引用発明の「カバー糸」または「糸条A」は、本願発明の「テクスタイルラップ」にそれぞれ相当する。 また、引用発明の「初期ヤング率」は、本願発明の「初期係数」に対応する値であり、「1(kg/mm^(2))=0.98/ρ(cN/tex)」(ここで、ρは繊維の密度)で換算することができることから、 引用発明の「芳香族ポリアミド繊維」及び「66ナイロン繊維」の密度をそれぞれ1.38及び1.14とすると、「5726kg/mm^(2)」及び「484kg/mm^(2)」は、「4068cN/tex」及び「416cN/tex」と換算できる。 ここで、上記記載事項(5)に示された引用発明での試験条件と、本願明細書の段落【0009】に示された試験条件とは相違するものの、引用発明のそれぞれの糸条の材質が本願発明の好ましい例(同段落【0015】)及び実施例(同段落【0033】)で用いられているハイブリッドケーブルの「コア」及び「ラップ」の材質(「ケブラー^((R))」(芳香族ポリアミド)及び「ポリアミド6,6」)と同種のものであること、及び上記各値と本願発明において規定されている下限値及び上限値との差を考慮すれば、引用発明の「5726kg/mm^(2)」及び「484kg/mm^(2)」は、それぞれ本願発明でいう「1300cN/texより大きい」範囲及び「900cN/texより小さい」範囲に含まれているものと認められる。 そして、引用発明の「低負荷時には糸条Bに力が加わり、初期ヤング率が低いので容易に伸びる、更に負荷が加わりコードの歪みが大きくなってくると糸条Aに負荷が加わるようになり、初期ヤング率が高い糸条Aの物性が効果を発揮する」ことは、引用例1の第1図も参照すれば、本願発明の「遷移点より低い側でコアの初期係数に実質的に等しくかつ前記遷移点を越えた側でラップの初期係数に実質的に等しい引張り係数を有し」ていることを意味するものと認められることより、両者は、 「900cN/texより小さい初期係数の真直テクスタイルコアと、該コア上に螺旋状に巻回される1300cN/texより大きい初期係数の単一のテクスタイルラップとからなるハイブリッドケーブルにおいて、該ハイブリッドケーブルは、 前記遷移点より低い側で前記コアの初期係数に実質的に等しくかつ前記遷移点を越えた側で前記ラップの初期係数に実質的に等しい引張り係数を有し、 前記ラップは、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、液晶オリジンのセルロース、および液晶オリジンのセルロース誘導体から選択されたポリマーで形成されるハイブリッドケーブル。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 相違点1;本願発明では、ハイブリッドケーブルは、2?4%の伸びに一致する遷移点をもつ力/伸び曲線を有するのに対し、引用発明では、該遷移点が規定されていない点。 相違点2;本願発明では、最終接線係数:初期接線係数の比が、10より大きいのに対し、引用発明では、該比が規定されていない点。 5.判断 上記各相違点について検討すると、 ・相違点1について 本願発明でいう「初期接線係数」及び「最終接線係数」とは、本願明細書の段落【0008】の記載からそれぞれ「ゼロ伸び点に一致するこのケーブルの力/伸び曲線への接線の傾斜」及び「ケーブルの破断に一致する伸びに対するケーブルの力/伸び曲線への接線の傾斜」を意味し、また、本願発明でいう「遷移点」(すなわち傾斜の変化点)とは、同段落【0008】の記載からゼロ伸び点および破断点での2つの接線が交差する伸びに一致する点を意味する。 一方、引用発明においては、「低負荷時には糸条Bに力が加わり、初期ヤング率が低いので容易に伸びる、更に負荷が加わりコードの歪みが大きくなってくると糸条Aに負荷が加わるようになり、初期ヤング率が高い糸条Aの物性が効果を発揮する」とされていることから、少なくとも糸条Bが糸条Aと同じ長さとなる伸び以降、すなわち8.7%([1-0.92]/0.92×100)以上の伸びでは、引用発明のキャッププライコードは糸条Aの物性が効果を発揮するものと考えられることより、「遷移点」は8.7%より小さい値であるものと認められる。また、この「遷移点」は、糸条Bの糸条Aに対する糸長比に依存する(糸長比を大きくすると、「遷移点」は小さくなる。)ものと認められるところ、上記記載事項(4)に「糸長比は常にA>Bとなっていることが必要で、B/Aは0.90?0.99であり、特に0.92?0.95が望ましい。」とあり、糸長比は、0.90?0.99の範囲でどの程度まで低負荷時の特性を維持したいかにより設計上適宜に選択するものであることから、 引用発明において、タイヤの製造条件等を考慮して、本願発明でいう「遷移点」を2?4%とするこは、当業者が容易になし得るものと認められる。 また、本願明細書では、その段落【0035】に本願発明のハイブリッドケーブルをタイヤのフーピングクラウンプライに適用した一実施例において「遷移点」が約2.5%であることが示されているのみであって、用途等が特定されていない本願発明のハイブリッドケーブルにおいて、「遷移点」を2?4%に設定していることの格別な技術的な意義または作用効果は認められない。 ・相違点2について 本願発明でいう「初期接線係数」及び「最終接線係数」とは、本願明細書の段落【0008】の記載からそれぞれ「ゼロ伸び点に一致するこのケーブルの力/伸び曲線への接線の傾斜」及び「ケーブルの破断に一致する伸びに対するケーブルの力/伸び曲線への接線の傾斜」を意味する。また、同段落【0015】に、曲線は、「力(daN)/伸び(%)」とされていることから、それぞれの接線の傾斜は、単位伸び当たりの力と認められる。 そうすると、引用発明においては、「低負荷時には糸条Bに力が加わり、初期ヤング率が低いので容易に伸びる、更に負荷が加わりコードの歪みが大きくなってくると糸条Aに負荷が加わるようになり、初期ヤング率が高い糸条Aの物性が効果を発揮する」とされていることから、キャッププライコードの伸度5%以上での最大ヤング率「7119kg/mm^(2)」とキャッププライコードの「断面積」の積と、糸条Bの初期ヤング率「484kg/mm^(2)」と糸条Bの「断面積」の積との比は、ほぼ本願発明でいう「最終接線係数:初期接線係数の比」に対応しているものと認められる。 そして、引用発明のキャッププライコードの伸度5%以上での最大ヤング率「7119kg/mm^(2)」は、糸条Bの初期ヤング率「420kg/mm^(2)」の10倍以上の値であり、また、各糸のデニール及びそれらの素材の密度よりキャッププライコードの断面積は糸条Bの断面積の4倍以上であることからすると、引用発明の「最終接線係数:初期接線係数の比」は10以上であると認められる。 よって、上記相違点2は、実質的な相違ではない。 なお、請求人は、平成24年1月6日付け回答書において、上記引用例に記載されたものは、「芯糸」に巻きつけられた「カバー糸」および「巻き糸」は、共に撚られることが前提となっており、「芯糸」は、「真直」ではない旨の主張をしているが、上記引用例の「カバーリングコード」に関して、「JIS用語辞典 VI繊維編」(日本規格協会、1978年11月1日発行)に、「カバードヤーン」の意味として「しん糸に紡績糸またはフィラメント糸をコイル状に巻き付けた糸。」と記載され、また、芯糸である糸条Bの糸長はカバー糸である糸条Aの糸長より短いことから、上記回答書の第3頁に「Prior art」として図示されている撚り構造ではなく、同第2頁の「Cable of the Invention」として図示されている撚り構造であることは明らかであるので、上記請求人の主張には理由がない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-14 |
結審通知日 | 2012-02-20 |
審決日 | 2012-03-02 |
出願番号 | 特願2003-560287(P2003-560287) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(D02G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 杉江 渉、横田 晃一 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
亀田 貴志 瀬良 聡機 |
発明の名称 | ハイブリッドケーブル、該ケーブルの製造方法および該ケーブルを使用した複合ファブリック |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 井野 砂里 |
代理人 | 井野 砂里 |
代理人 | 弟子丸 健 |