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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J |
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管理番号 | 1260406 |
審判番号 | 不服2010-17758 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-06 |
確定日 | 2012-07-17 |
事件の表示 | 特願2006-546964「異なる数のサブバンドキャリアを有する順方向および/または逆方向リンクキャリアを用いたワイヤレスシステム、方法およびデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月15日国際公開、WO2006/062494、平成19年 4月26日国内公表、特表2007-511189〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2004年8月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年8月22日、米国)を国際出願日とする国際出願であって、原審において平成21年11月6日付け拒絶理由通知に対し、平成22年2月9日に意見書および手続補正書の提出があったが、同年4月1日付けで拒絶査定となり、これに対し同年8月6日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出があったものである。 なお、平成23年10月31日付けの当審よりの審尋に対し、平成24年1月27日に回答書の提出があった。 第2.補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年8月6日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、 補正前の平成22年2月9日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「 順方向リンクサブバンドキャリアを複数有する順方向リンクキャリアと、 逆方向リンクサブバンドキャリアを1つのみ有して全てのサブバンドキャリアフレームが1つのワイヤレスユーザデバイスに割り当てられた逆方向リンクキャリアと、 を含むワイヤレスシステム。」 という発明(以下、「本願発明」という。)を、 「 直交周波数分割多重および直交周波数分割多元接続のいずれか又は両方に対応すると共に占める帯域幅が一致した複数の順方向リンクサブバンドキャリアを有する順方向リンクキャリアと、 前記順方向リンクサブバンドキャリアの占める帯域幅と異なる帯域幅を占める逆方向リンクサブバンドキャリアを1つのみ有して全てのサブバンドキャリアフレームが1つのワイヤレスユーザデバイスに割り当てられた逆方向リンクキャリアと、 を含むワイヤレスシステム。」 という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。 2.補正の適否 (1)新規事項の有無、補正の目的要件 上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「順方向リンクサブバンドキャリアを複数有する順方向リンクキャリア」という記載を、「直交周波数分割多重および直交周波数分割多元接続のいずれか又は両方に対応すると共に占める帯域幅が一致した複数の順方向リンクサブバンドキャリアを有する順方向リンクキャリア」と構成を追加して限定し、 同じく「逆方向リンクサブバンドキャリア」という記載を、「前記順方向リンクサブバンドキャリアの占める帯域幅と異なる帯域幅を占める逆方向リンクサブバンドキャリア」と構成を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。 (2)独立特許要件 上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。 [補正後の発明] 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。 [引用発明] 原審の拒絶理由に引用された特開2000-32565号公報(以下、「引用例」という。)には、「無線伝送方法及び無線伝送システム」として図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【請求項14】 時分割デュープレックス方式に基づいたフレームでデータを伝送する基地局と、 上記時分割デュープレックス方式に基づいたフレームでデータを伝送する少なくとも1つの移動局とを備え、 上記各フレームは、ヘッダスロットと複数のトラフィックスロットからなり、 上記ヘッダスロットは、1つのタイムスロットからなり、 上記ヘッダスロット及びトラフィックスロットは、同じ継続時間を有し、 上記ヘッダスロットは、上記基地局から少なくとも1つの移動局に同期データ及びシステムデータを伝送するためのダウンリンクチャンネルと、上記少なくとも1つの移動局から基地局に登録データを伝送するためのアップリンクチャンネルとに分割されている無線伝送システム。 【請求項15】 上記ヘッダスロットのダウンリンクチャンネルとアップリンクチャンネルは、同じ継続時間を有することを特徴とする請求項14記載の無線伝送システム。 (・・・中略・・・) 【請求項21】 上記ヘッダスロットのダウンリンクチャンネルを伝送するときは、多数の等間隔の副搬送波を有する直交周波数分割多重方式を用いることを特徴とする請求項15乃至20のいずれか1項記載の無線伝送システム。」(2頁2欄?3頁3欄) ロ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、無線伝送方法及び無線伝送システムに関し、特に時分割デュープレックス方式を用いた無線伝送方法及び無線伝送システムのヘッダ構造に関する。 【0002】 【従来の技術】例えばディジタルヨーロッパコードレス電話(digital european cordless telephone:以下、DECTという。)の規格にあるように、時分割デュープレックス(time divisional duplex:以下、TDDという。)方式は、よく知られている。TDD方式では、複数のタイムスロットからなるフレームが用いられる。従来、フレームのうちの幾つかのタイムスロットは、TDDシステムにおける基地局から移動局にデータを伝送するための専用のものであり、このタイムスロットはダウンリンクチャンネルと称せられる。一方、TDDシステムの移動局から基地局に情報を伝送する専用のタイムスロットは、アップリンクチャンネルと称せられる。従来、1つのタイムスロットは、アップリンクチャンネル又はダウンリンクチャンネルの通信のいずれかに専用とされていた。 【0003】図17は、従来のTDD方式で用いられていた典型的なフレームの構造を示す図である。図17において、トラフィックスロット(traffic slots:以下、TSという。)53は、音声データ又は他のデータの伝送に用いられるタイムスロットである。TS53を除くタイムスロットは、所謂ヘッダである。従来、ヘッダは、少なくとも2つのタイムスロットからなり、その1つは、ダウンリンクチャンネルのヘッダ部(downlink channel header part:以下、DCという。)51として用いられ、もう1つは、アップリンクチャンネルのヘッダ部(uplink channel header part:以下、UCという。)52として用いられる。DC51は、同期情報チャンネル(synchronization information channel:以下、SYNCHという。)と、報知情報(broadcast information channel:以下、BCCHという。)とからなる。UC52は、非同期の移動局がアクセスを試行するためのものである。 【0004】TDD方式のフレーム構造においては、ヘッダが2つのタイムスロットを占有するので、これらのタイムスロットは、例えば音声データの伝送には用いることができない。したがって、データ伝送のビットレートが減少し、余り効率的ではなかった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、TDD方式において、データ伝送のビットレート及び柔軟性を改善することができる新規なヘッダ構造、このヘッダ構造のフレームを伝送する無線伝送方法及び無線伝送システムを提供することである。 【0006】また、本発明の目的は、等間隔の多数の副搬送波を用いた所謂直交周波数分割多重方式と互換性があるヘッダ構造を提供することである。」(3頁3?4欄) ハ.「【0031】本発明に係る無線伝送システムは、図1に示すように、基地局(BS)1と、複数の移動局(MS)2,3,4とからなる。基地局1及び移動局2?4は、相関(同期)検出器5,6をそれぞれ備える。相関検出器5,6の機能及び動作については、後述する。 【0032】図2は、本発明に基づいたヘッダスロットの構造を示す図である。 【0033】図2に示すように、このヘッダスロット(header slot:以下、HSという。)10は、時分割デュープレックス(time divisional duplex:以下、TDDという。)方式に基づいた1つのタイムスロットのみからなる。HS10は、基地局1から移動局2?4にデータを伝送するためのダウンリンクチャンネル(dwonlink channel:以下、DCという。)11と、移動局2?4から基地局1にデータを伝送するアップリンク(uplink channel:以下、UCという。)12とからなる。DC11は、同期チャンネル(synchronization channel:以下、SYNCHという。)13と、共通報知チャンネル(general broadcast channel:以下、GBCCHという。)14と、付随報知チャンネル(optional broadcast channel:以下、OBCCHという。)15とからなる。UC12は、ランダムアクセスチャンネル(random access channel:以下、RACHという。)16からなる。 【0034】SYNCH13のデータは、移動局2?4のタイミング及び周波数を基地局1のフレームタイミング及び搬送波周波数に容易に、すなわち短時間で正確に同期させるデータとなっている。SYNCH13は、フレーム毎に伝送される。 【0035】GBCCH14とOBCCH15は、一斉呼出メッセージ(paging messages)を含むセル又はシステムの特殊なデータを移動局2?4に配信するためのものである。本発明を適用した報知チャンネルは、2つの部分、すなわちフレーム毎に指定報知情報(mandatory broadcast information)を伝送するGBCCH14と、GBCCH14のトラフィック能力が足りないときや、特殊な(実際に一般的でない又は時間的に重要な)メッセージを伝送するOBCCH15とに分けられる。GBCCH14は、フレーム毎に伝送され、それに対して、OBCCH15は、フレーム毎には随時である。OBCCH15を伝送しないときには、例えば低速付随制御チャンネル(slow associated control channel:以下、SACCHという。)又は高速付随制御チャンネル(fast associated control channel:以下、FACCHという。)等のユーザ占有チャンネル(user specific channel)として用いられる。 【0036】本発明を適用したHS10におけるUC12のRACH16は、専用トラフィックを形成するために、移動局2?4がトラフィックモードがまだ確立されていないときに非同期情報を送信するために用いられる。 【0037】上述したように、本発明を適用したHS10全体は、TDD方式の1つのタイムスロットに一致している。具体的には、例えば所謂移動通信グローバル方式(global system for mobile communications:以下GSMという。)のタイムスロットに一致しており、継続時間は、576.9msである。 【0038】本発明を適用したヘッダ構成は、特に所謂直交周波数多重(orthogonal frequency division multiplex:以下、OFDMという。)方式において利点がある。」(5頁7?8欄) ニ.「【0039】直交周波数多重-時分割多元接続(time division multiple access:以下、TDMAという。)方式における本発明を適用した無線伝送方法及び無線伝送装置について図3?図6を参照して説明する。 【0040】この無線伝送方法及び無線伝送装置では、互いに直交する多数の副搬送波21は、図3及び図4に示すように、多数の、例えば10個のチャンネルU0,U1,・・・,U9に配置され、これらのチャンネルU0?U9は、伝送する情報に依存した数の副搬送波21をそれぞれ含んでいる。具体的には、図4に示すように、チャンネルU0は、多数の副搬送波21を含み、チャンネルU1は、チャンネルU0とは異なる数の副搬送波21を含んでいる。OFDM-TDMA方式に基づいてデータを伝送する無線伝送方法及び無線伝送装置では、各チャンネルに割り当てられる副搬送波21の数は、伝送する情報量に依存している。例えば図4に示すチャンネルU0は、21個の副搬送波21を副搬送波を含み、一方、チャンネルU1は、10個の副搬送波21を含んでいる。したがって、チャンネルU0は、チャンネルU1の伝送レートの2倍以上の伝送レートを有する。各チャンネルU0?U9の境界では、隣接する帯域間で干渉が生じないように、又はスペクトル成分が生じないように、ガードバンド22として、1つの副搬送波を抜いている。隣接した帯域からの干渉の影響が小さいときには、ガードバンド22は必要でないが、影響が大きいときには、複数のガードバンド22を設ける必要がある。 【0041】副搬送波21は、OFDM処理によって生成される。図5において、W(f)は、周波数軸上における副搬送波21のエネルギーを示し、B(Hz)は、隣接する副搬送波21間の距離を示す。多数の副搬送波を用いるOFDM処理において、多重化される副搬送波の数は、他のチャンネルからの干渉によっては制限されておらず、割り当てられた帯域幅に応じて自由に決めることができる。割り当てられた副搬送波の数を他のチャンネルに変更することによって、伝送レートを変える、すなわち様々な伝送レートを実現することができる。各チャンネルの副搬送波は、フィルタによって簡単に分離することができ、信号対雑音比(以下、S/Nという。)の低下を防止することができる。多数の副搬送波の変調にOFDM方式を用いているので、異なるチャンネル間のガードバンド22は、必ずしも必要ではなく、したがって、スペクトル(周波数)の利用効率を非常に高くすることができる。また、高速フーリエ変換を利用することができるので、必要とされる処理は少なく、高速に実行することができる。 【0042】また、OFDM-TDMA方式では、幾つかチャンネルを集めて1グループとすることができ、例えば図6に示すように、6つのチャンネルU0?U5を集めて1グループとすることができる。1つのグループに含まれるチャンネルの数は、伝送する情報量に応じたシステムの帯域幅内であれば幾つでもよい。」(5頁8欄?6頁9欄) ホ.「【0058】図9は、本発明を適用したHS10(例えばGSMスロット)の後半部に割り当てられたRACH16の構成を示す図である。RACH16は、アップリンク専用のものである。RACH16の信号フォーマットは、本発明では特に規定しておらず、アップリンクは、例えば単一搬送波伝送、ダウンリンクにおけるOFDM伝送等の様々な伝送に用いられる。」(7頁12欄) 上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 まず、上記「無線伝送システム」は、上記ハ.および引用例図1にあるように、「基地局1」と任意数の「移動局2?4」との間で無線伝送を行うシステムであって、 上記ロ.および引用例図17にある従来例の記載も参照すれば、該「無線伝送」は無線信号を時間軸上で区分した複数のタイムスロットからなる「フレーム」を用いて行われるものであり、 上記ハ.および引用例図2によれば、該「フレーム」を構成するタイムスロットの1つである「ヘッダスロット(HS)10」は、基地局1から移動局2?4にデータを伝送するための「ダウンリンクチャンネル11」と、移動局2?4から基地局1にデータを伝送する「アップリンク12」とからなるものである。 また、上記イ.【請求項21】、ハ.【0038】、ニ.図3?図6によれば、引用例記載の「無線伝送システム」は、「ヘッダスロットのダウンリンクチャンネルを伝送するときは、多数の等間隔の副搬送波を有する直交周波数分割多重方式を用いる」ものである。 そして、上記ホ.引用例図9によれば、「HS(ヘッダスロット)10」の後半部に割り当てられた「RACH(ランダムアクセスチャンネル)16」は、「アップリンク専用」のものであって、該アップリンクは、例えば「単一搬送波伝送」に用いられるものである。 したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。 (引用発明) 「ヘッダスロットのダウンリンクチャンネルを伝送するときは、多数の等間隔の副搬送波を有する直交周波数分割多重方式を用い、 ヘッダスロットの後半部に割り当てられたアップリンク専用のランダムアクセスチャンネルは、単一搬送波伝送に用いられる 無線伝送システム」 [対比・判断] 補正後の発明と引用発明を対比すると、 まず、引用発明の「ダウンリンク」、「アップリンク」は、それぞれ「順方向リンク」、「逆方向リンク」の別名であるのは移動体通信の分野における技術常識であって、 「無線伝送システム」であるから、これらのリンクは無線信号による伝送のための無線搬送波(キャリア)を有するので、「順方向リンクキャリア」、「逆方向リンクキャリア」を含むものである。 また、引用発明の「直交周波数分割多重方式」は、文言上は補正後の発明の「直交周波数分割多重および直交周波数分割多元接続のいずれか又は両方」のうちの「いずれか」の前者に該当し、また、引用例図1からも明らかなように複数の移動局との無線接続を可能とするから「多元接続」方式でもあって、実質的に「直交周波数分割多元接続」方式にも対応するものである。 また、引用発明の「直交周波数分割多重方式」は「多数の等間隔の副搬送波を有する」ものであるが、 ここで、「副搬送波」とは「サブバンドキャリア」であって、「多数」であるから「複数」あり、周波数軸(引用例図3?6の横軸)上で「等間隔」(引用例図4,5)に配置されているから「占める帯域幅が一致した」ものであって、「ダウンリンクチャンネルを伝送するとき」に用いられる「副搬送波」であるから、補正後の発明の「順方向リンクサブバンドキャリア」に相当する。 また、引用発明の「ヘッダスロットの後半部に割り当てられたアップリンク専用のランダムアクセスチャンネル」は、上記のように「アップリンク」であるから「逆方向リンク」であって、「逆方向リンクキャリア」を含むものであり、 「単一搬送波伝送に用いられる」ものであるから、リンクを構成する「搬送波」(キャリア)は「単一」すなわち「1つのみ」であって、これを「逆方向リンクサブバンドキャリア」ということは任意である。 そして、引用発明の「無線伝送システム」は、「無線」であるから「ワイヤレス」なシステムであって、補正後の発明の「ワイヤレスシステム」である。 したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。 (一致点) 「 直交周波数分割多重および直交周波数分割多元接続のいずれか又は両方に対応すると共に占める帯域幅が一致した複数の順方向リンクサブバンドキャリアを有する順方向リンクキャリアと、 逆方向リンクサブバンドキャリアを1つのみ有した逆方向リンクキャリアと、 を含むワイヤレスシステム。」 (相違点1) 「逆方向リンクサブバンドキャリア」が、補正後の発明では「前記順方向リンクサブバンドキャリアの占める帯域幅と異なる帯域幅を占める」のに対し、引用発明の占める帯域幅は不明な点。 (相違点2) 「逆方向リンクキャリア」に関し、補正後の発明では「全てのサブバンドキャリアフレームが1つのワイヤレスユーザデバイスに割り当てられ」ているのに対し、引用発明では「サブバンドキャリアフレーム」の存在、およびその「割り当て」は不明な点。 そこで、まず、上記相違点1の「逆方向リンクサブバンドキャリア」が占める帯域幅について検討する。 一般に双方向の通信において、送受の情報量に較差があるのは通常のことであって、送信する、あるいは受信する情報量に応じた帯域幅がそれぞれのリンクに必要となるのも自明なことであるが、 例えば原審の拒絶理由にも挙げた、特開平11-205277号公報(請求項1?3)、あるいは当審よりの審尋においても言及した、特開平9-9246号公報(【0058】)にあるように、上りチャネルと下りチャネルで異なる帯域幅とすることも周知技術であるから、これを引用発明に適用し「逆方向リンクサブバンドキャリア」が「前記順方向リンクサブバンドキャリアの占める帯域幅と異なる帯域幅を占める」ようになすことは当業者であれば適宜になし得ることに過ぎず、相違点1は格別のものではない。 なお、本願明細書の記載によれば、「【0014】 順方向リンク110または逆方向リンク120のいずれかのキャリアのサブバンドキャリアが占める帯域幅は、同一または他の順方向および/または逆方向リンクキャリアの任意の他のサブバンドキャリアが占める帯域幅と一致し、実質的に一致し、または異なるものであってもよい。」とあって、特に異なる場合について特段の記載も見あたらないからその作用効果も認められず、相違点1は格別のものではない。 ついで、相違点2の「逆方向リンクキャリア」における「サブバンドキャリアフレーム」の存在、およびそのユーザデバイスへの「割り当て」について検討する。 まず、「サブバンドキャリアフレーム」について検討するに、引用発明においては、「アップリンク専用のランダムアクセスチャンネル」は「ヘッダスロットの後半部に割り当てられた」ものであるが、この「ヘッダスロット」は他のタイムスロット共に「フレーム」構造をなすことは、前述のように引用発明の前提として引用例の上記ロ.および引用例図17にも記載があり、引用発明の「アップリンク」(逆方向リンク)を構成する「サブバンドキャリア」も「サブバンドキャリアフレーム」構造をなすものとということができる。 そして、この「サブバンドキャリアフレーム」を送信する引用例の「移動局」(例えば引用例図1のアンテナより矢印が出ている「移動局3」)は、他の移動局が存在しない、ないしは送信しないタイミングにおいて自分だけが通信を継続する場合は、「全てのサブバンドキャリアフレーム」が割り当てられた状態となるのは明らかである。 ここで、該「移動局3」は、「無線伝送システム」(ワイヤレスシステム)を使用するユーザに属する装置(デバイス)であるから、「1つのワイヤレスユーザデバイス」である。 したがって、引用発明においても「全てのサブバンドキャリアフレームが1つのワイヤレスユーザデバイスに割り当てられ」た状況は発生し得るものであるから、相違点2も格別のことではない。 また、別の観点によれば、原審においてあげた、特開平9-36800号公報(【0004】)にもあるように、多元接続方式において1つのチャネルを1人のユーザが利用するチャネル占有方式は周知技術であるから、これを引用発明の「アップリンク専用のランダムアクセスチャンネル」(逆方向リンクキャリア)に適用し、相違点2の構成をなすことは当業者であれば容易になし得た程度のことに過ぎず、格別のことではない。 なお、本願明細書の記載によれば、「【0014】(・・・中略・・・)逆方向リンクサブバンドキャリア122が、フレーム構造を有してもよく」、「【0015】(・・・中略・・・)全て、または実質的に全てのサブバンドキャリアフレームは、1つのワイヤレスユーザデバイス140に割り当てられる。」などとあって、逆方向リンクサブバンドキャリアのフレーム構造は任意なものであり、サブバンドキャリアフレームの割り当ても「実質的に全て」という程度のものであるから、この点からも、相違点2は格別のものではない。 また、補正後の発明が奏する効果も前記引用発明及び周知技術から容易に予測出来る範囲内のものである。 そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。 よって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成22年8月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2.引用発明及び周知技術 引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で認定したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-16 |
結審通知日 | 2012-02-17 |
審決日 | 2012-03-02 |
出願番号 | 特願2006-546964(P2006-546964) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 洋 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
遠山 敬彦 藤井 浩 |
発明の名称 | 異なる数のサブバンドキャリアを有する順方向および/または逆方向リンクキャリアを用いたワイヤレスシステム、方法およびデバイス |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 深川 英里 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 吉田 尚美 |
代理人 | 森本 聡二 |