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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1260552
審判番号 不服2009-18652  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-02 
確定日 2012-07-25 
事件の表示 特願2000-116635「ポリプロピレンおよびポリプロピレンフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 5日出願公開、特開2001-151818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年4月18日(優先権主張 平成11年9月13日)に出願され、平成12年6月26日付けで手続補正がなされ、平成21年3月5日付けで拒絶理由が通知され、同年5月29日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年6月23日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、それに対して、同年10月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月8日付けで前置報告がなされ、これに基づいて、当審において平成23年11月14日付けで審尋がなされ、それに対して回答書が提出されなかったものである。

第2.補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年10月2日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年10月2日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、当該補正前の明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、並びに電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いて得られ、かつ以下の(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム。
(i)アイソタクチックペンタッド分率[mmmm]が、0.89≦[mmmm]≦0.95の範囲にある。
(ii)ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメーターαが、0.989≦α≦0.995の範囲にある。
(iii)メルトフローレイト(230℃、21.18N)が、0.5?20dg/分の範囲にある。
(iv)クロス分別法による0℃以下の可溶分の重量平均分子量が7×104以上であり、50℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上であり、かつ、90℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上である。
(v)沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上であり、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ、(C5-Ext)と(C7-Ext)とが(C7-Ext)>3.5・(C5-Ext)の関係にある。」を、

「【請求項1】 マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、並びにジイソブチルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン及びペンチルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いて得られ、かつ以下の(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム。
(i)アイソタクチックペンタッド分率[mmmm]が、0.89≦[mmmm]≦0.95の範囲にある。
(ii)ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメーターαが、0.989≦α≦0.995の範囲にある。
(iii)メルトフローレイト(230℃、21.18N)が、0.5?20dg/分の範囲にある。
(iv)クロス分別法による0℃以下の可溶分の重量平均分子量が7×104以上であり、50℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上であり、かつ、90℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上である。
(v)沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上であり、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ、(C5-Ext)と(C7-Ext)とが(C7-Ext)>3.5・(C5-Ext)の関係にある。」
とする補正を含むものである。

したがって、本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「電子供与性有機珪素化合物(C)」を、「ジイソブチルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン及びペンチルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である電子供与性有機珪素化合物(C)」に限定するものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正により補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.補正発明
補正発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、並びにジイソブチルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン及びペンチルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いて得られ、かつ以下の(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム。
(i)アイソタクチックペンタッド分率[mmmm]が、0.89≦[mmmm]≦0.95の範囲にある。
(ii)ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメーターαが、0.989≦α≦0.995の範囲にある。
(iii)メルトフローレイト(230℃、21.18N)が、0.5?20dg/分の範囲にある。
(iv)クロス分別法による0℃以下の可溶分の重量平均分子量が7×10^(4)以上であり、50℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上であり、かつ、90℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上である。
(v)沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上であり、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ、(C5-Ext)と(C7-Ext)とが(C7-Ext)>3.5・(C5-Ext)の関係にある。」

3.補正明細書に記載された事項
補正明細書には下記の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

ア.
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、剛性に優れ、かつ金属蒸着性が良好なポリプロピレンフィルムおよび該ポリプロピレンフィルムを製造するに適したポリプロピレンを提供することにある。特に、フィルム加工性に優れ、アルミニウム蒸着性が良好で、かつ、剛性に優れたポリプロピレンおよび該ポリプロピレンからなるポリプロピレンフィルムを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した。その結果、アイソタクチックペンタッド分率、メルトフローレイト、クロス分別法による0℃以下、50℃以下、90℃以下の各可溶成分の重量平均分子量、沸騰ペンタン抽出率、および沸騰ヘプタン抽出率の各特性が特定の範囲にあるポリプロピレンが、所期の性能を有することを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成した。」
イ.
「【0007】
また、本発明のポリプロピレンは、ポリプロピレンの立体規則性の指標であるペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率が、ベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメーターαが、0.989≦α≦0.995の範囲、好ましくは0.989≦α≦0.994の範囲、より好ましくは0.990≦α≦0.994の範囲にある場合に、高剛性で且つ金属蒸着性が良好なフィルムが得られる。ベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルとは、Y. Inoue、Itabashi、R. Chujo、Y. Doi、Polymer, Volume 25、pp 1640-1644(1984)に記載されているモデルである。該統計パラメーターαが0.995を超えると、高剛性のフィルムが得られるものの金属蒸着性が低下する。また統計パラメーターαが0.989未満では、フィルムの金属蒸着性は良好であるものの、剛性が低下する。」
ウ.
「【0012】
また、本発明のポリプロピレンは、沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上であり、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ両者が,(C7-Ext)>3.5×(C5-Ext)の関係にある。(C5-Ext)が0.5重量%未満では金属蒸着性が不充分となり、(C7-Ext)が5重量%を超すと、剛性が低下する。また、(C7-Ext)≦3.5×(C5-Ext)の場合には、低分子量成分が多く、剛性が低下する。」
エ.
「【0013】
(1)本発明のポリプロピレンの製造方法本発明のポリプロピレンの製造方法としては、得られるポリプロピレンが上述の特性を満足するものであれば特には限定されないが、次のような方法を例示することが出来る。すなわち、マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、および電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いてプロピレンを重合する方法、である。
【0014】
固体触媒成分(A)は、溶液状態から析出させたMg化合物を主要構成成分とする担体にハロゲン化チタンを担持させたオレフィン重合用触媒成分であって、下記の方法で製造することができる。一般式 Mg(OR^(1))n(OR^(2))_(2-n)または MgR^(3)_(m)(OR^(4))_(2-m) (ここで、R^(1)、R^(2)、R^(3)、およびR^(4)は、それぞれ独立に、炭素数3?20のアルキル基、アリール基、または炭素数5?20の芳香族基であり、mおよびnはそれぞれ独立に0?2の整数である)で表されるマグネシウム化合物もしくはこれらの混合物を、二酸化炭素の存在下に、一般式R^(5)OH(ここで、 R^(5)は炭素数1?20の飽和または不飽和のアルキル基である)で表される1価アルコールもしくは多価アルコールと不活性炭化水素溶剤中で反応させて、成分(a)得る。
【0015】
得られた成分(a)と、一般式 TiX_(p)(OR^(6))_(2-p)(ここで、Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)であり、R^(6)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基、または炭素数3?20のシクロアルキル基であり、Pは1?4の整数である)で表されるハロゲン化チタンと、一般式SiX_(q)(OR^(7))_(4-q)(ここで、XはCl、BrまたはIであり、R7は炭素数1?20のアルキル基、アリール基、または炭素数3?20のシクロアルキル基であり、qは1?4の整数である)で表されるハロゲン化シラン、Si-O-Si結合を有するシロキサン化合物、もしくは該シロキサン化合物と一般式R^(8)_(s)Si(OR^(9))_(4-s)(ここで、R^(8)およびR^(9)は、それぞれ独立に炭素数1?20のアルキル基、アリール基、または炭素数3?20のシクロアルキル基であり、sは1?4の整数である)で表されるシラン化合物との混合物のいずれかとを、混合反応させて固体生成物(I)を得る。
【0016】
該固体生成物(I)を、一般式R^(10)OH(ここで、R^(10)は炭素数1?20の飽和または不飽和のアルキル基である)で表される1価アルコールもしくは多価アルコールおよび環状エーテルと反応させ、溶解、再析出させて固体生成物(II)を得、該固体生成物(II)に、一般式TiX_(p)(OR^(6))_(4-p)で表されるハロゲン化チタンからなる成分(b)を反応させて固体成分(III)を得る。該固体成分(III)に、成分(b)と電子供与性化合物(IED)との混合物を反応させることによって,固体生成物(IV)を得る。このようにして得られる固体生成物(IV)を固体触媒成分(A)として例示できる。
(中略)
【0021】
電子供与性有機珪素化合物(C)としては、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどのテトラアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルイソプロピルジメトキシシラン、メチルイソブチルジメトキシシラン、メチルシクロペンチルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルエトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、メチルイソプロピルジエトキシシラン、メチルイソブチルジエトキシシラン、メチルシクロペンチルジエトキシシラン、メチルシクロヘキシルジエトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシランなどのジアルコキシシラン類、
【0022】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類が例示できる。
【0023】
これらの中でも好ましくは、ジイソブチルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシランを例示できる。
これら電子供与性有機珪素化合物(C)は、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0024】
本発明のポリプロピレンを製造するための重合方法において、固体触媒成分(A)は、予め微量のエチレンもしくはα-オレフィンを反応させて予備重合処理をした状態で使用することが好ましい。予備重合処理は、固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(E)を用いて行うことが出来る。
【0025】
有機アルミニウム化合物(E)としては、上述の有機アルミニウム化合物(B)を用いることができ、有機アルミニウム化合物(B)と有機アルミニウム化合物(E)とは同種のものであっても異種のものであってもよい。好ましい有機アルミニウム化合物(E)として,トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムを例示できる。
【0026】
また、予備重合処理には、必要に応じて電子供与性有機珪素化合物(D)を使用することが出来る。電子供与性有機珪素化合物(D)と電子供与性有機珪素化合物(C)とは同種のものであっても異種のものであってもよい。好ましい電子供与性有機珪素化合物(D)として、ジイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシランを例示できる。
(中略)
【0030】
予備重合処理は、反応温度は-10?90℃の範囲、好ましくは0?60℃、より好ましくは5?40℃の範囲で、行うことが出来る。予備重合処理は、エチレンもしくはα-オレフィンとして、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどを使用することが出来る。好ましくはエチレン、およびプロピレンであり、より好ましくはプロピレンである。予備重合処理により重合されるエチレンもしくはα-オレフィンの量は、固体触媒(A)1gに対して、0.05?100g、好ましくは0.05?30g、より好ましくは0.1?10gである。予備重合処理の際の各触媒成分の炭化水素溶媒中への供給方法は、(A)、(E)、(D)を同時に供給しても,別々に供給しても構わない。また、予備重合処理に使用した溶媒をデカントとして同一溶媒ないしは予備重合処理に使用した溶媒と異なる溶媒と置換しても良い。
(中略)
【0036】
本重合においては,得られるポリプロピレンの分子量を調整する目的で、分子量調節剤を適宜使用することが出来る。分子量調整剤、すなわち連鎖移動剤としては水素が好適に使用出来る。さらに重合は数台の重合器をシリーズに配置し行うことも可能である。このとき各重合器毎の重合条件は同一でも、また異なってもよい。
【0037】
また、本重合では、本発明の効果を阻害しない範囲において、プロピレンにエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどから選ばれる不飽和炭化水素を共重合させることができる。またスラリー重合法およびバルク重合法を用いる場合には、炭化水素溶媒あるいは液化プロピレン中に溶解した成分(可溶性ポリマー)はポリプロピレンから除去することができるが、必要に応じて製品へ添加することも可能である。この様にして、前記○1(当審注:実際には○の中に1と記載されている。以下、同様。)?○5の要件を満足する、本発明のポリプロピレンが得られる。」
オ.
「【0043】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。実施例および比較例で用いた各物性値の測定方法を以下に示す。
(中略)
【0045】
(ii)ベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルと統計パラメーター上述のY. Inoue、Y.Itabashi、R. Chujo、Y. Doi、Polymer, Volume 25、pp. 1640-1644(1984)に記載されているモデルに準じて、統計パラメーターを得た。得られたポリプロピレンの核磁気共鳴法(NMR)により実測したペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率が該文献に記載された二活性中心モデルの関係式に従う場合に、統計パラメーターαを求めることが出来る。本明細書においてベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従うポリプロピレンとは、実測値とモデル計算の計算値との相関係数が0.999以上の場合に、そのポリプロピレンをベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従うポリプロピレンとした。
(中略)
【0050】
(vii)沸騰ペンタン抽出率および沸騰ヘプタン抽出率 ポリプロピレンを230℃、10MPaでプレスして得られるシートを、カッターで3cmX3cm程度の細片に裁断した。得られた細片約50gを、ウィレー粉砕機(池田:W140)を使用し約20分間粉砕した。この粉砕物2gをソックスレー抽出した(溶媒150mL;ペンタンもしくはヘプタン、抽出時間:3h)。抽出残分を80℃で、ペンタンを用いた場合は2h、ヘプタンを用いた場合間は3h、それぞれ真空乾燥し、デシケーター中で1時間放冷した後、秤量して、抽出率を算出した。
(中略)
【0052】
実施例1
(1)固体触媒成分(A)の合成
攪拌機、圧力計、温度計を備え、高純度窒素で置換された30リットル(以下、リットルをLと表記する)のオートクレーブに、マグネシウムエトキシド2.3kg、2-エチル-1-ヘキサノール4.15Lおよびのトルエン16.5Lを加えた。この混合物を、0.2MPa(以下ゲージ圧力をいう)の二酸化炭素ガス雰囲気下で,90℃に加熱し、150rpmで3時間攪拌した。得られた溶液を冷却し、二酸化炭素ガスを脱気して溶液(a)を得た。この溶液(a)は0.1g/Lのマグネシウムエトキシドを含んでいた。以上の操作は1気圧下で取り扱った。
【0053】
攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素シールラインおよびバッフルを装備した15Lのオートクレーブ(バッフル率0.15)中へ、トルエン3L、TiCl_(4)190mL、ヘキサメチルジシロキサン250mLを投入し,室温で,250rpmで5分間混合した後、溶液(a)1.5Lを10分間で投入した。投入後直ちに固体粒子(I)が析出した。該固体粒子(I)を含有する溶液にエタノール30mLとテトラヒドロフラン(THF)0.5Lを添加し、150rpmの攪拌を維持しながら15分以内に60℃に昇温したところ、いったん、固体粒子(I)が溶解し、次いで15分以内に再び固体粒子が析出し始めた。この固体粒子の形成は10分以内に終了した。さらに、60℃で45分間攪拌を継続した後、攪拌を停止して、生成固体(II)を沈降させた。
【0054】
上澄液をデカンテーションで除き、残った生成固体(II)を2Lのトルエンで2回洗浄した。生成固体(II)にトルエン2LとTiCl_(4)1Lを添加し、250rpmで攪拌しながら、135℃に20分以内で昇温し、この温度を1時間保った。攪拌を停止し、生成固体(III)を沈降させて、上澄み液をデカンテーションで除いた。
【0055】
生成固体(III)にTiCl_(4)1L、トルエン2.5Lおよびジイソブチルフタレート21mLを添加し、135℃に加熱し、250rpmで1.5時間攪拌した。上澄液をデカンテーションで除き、残分にTiCl_(4)2Lを添加し、攪拌しながら10分間リフラックスさせた。上澄み液をデカンテーションで除き、残分を2Lのトルエンで3回、さらに2Lのヘキサンで4回洗浄して、固体触媒成分(A)116gを得た。この固体触媒成分(A)には、マグネシウム17.3重量%、チタン2.3重量%、塩素55.6重量%およびジイソブチルフタレート8.6重量%が含有されていた。
【0056】
(2)予備重合処理
攪拌機を装備し、高純度窒素で置換された、内容積50Lのステンレス製反応器に、ヘキサン20L、固体触媒成分(A)100g、トリエチルアルミニウム0.1モル、およびジイソブチルジメトキシシラン0.015モルを加えた。30℃で、攪拌回転数200rpmで攪拌しながら、プロピレン分圧が0.1MPaになるまでプロピレンガスを導入、加圧し、6時間予備重合処理を行った。その後、プロピレンガスをパージした。重合したプロピレン量は固体触媒成分(A)1gに対して3gであった。
【0057】
(3)本重合
攪拌機を装備し、高純度窒素で置換された、内容積100Lのステンレス製反応器に、予備重合処理した固体触媒成分(A)を固体触媒成分として0.5g/hで、またトリエチルアルミニウムを0.018mol/h、ジイソブチルジメトキシシランを0.003mol/hで、それぞれ連続的に供給した。同時に、重合温度70℃の条件下、重合圧力が2.3MPaを維持するようにプロピレンを連続的に供給し、さらに、気相部の水素/プロピレンモル比が0.003となるように水素を連続的に供給して、プロピレンの連続気相重合をおこない、15kg/hの生産量にて粉末状のポリプロピレンを得た。
【0058】
(4)造粒(ポリプロピレン組成物の製造)
得られた粉末状ポリプロピレン100重量部に対して、酸化防止剤のテトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチルー4’ーヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.10重量部、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト0.10重量部、およびハイドロタルサイト0.03重量部を添加し、ヘンシェルミキサー(商品名)によって均一に混合した。得られた混合物を、口径65mm、L/D=30の押出機を用い、押出温度230℃にて溶融混練して、ペレット状のポリプロピレン組成物を得た。
【0059】
(5)製膜
ペレット状のポリプロピレン組成物をTダイ付き押出機にて250℃で押出し、30℃の冷却ロールにて引き取り、ポリプロピレン板状成形物を得た。次いで該板状成形物をテンター式逐次延伸装置にて、延伸温度145℃で縦方向に5倍延伸を行い、引き続いて延伸ゾーンの槽内温度160℃のテンター内で横方向に10倍延伸を行い、更に、170℃にて8%の応力緩和処理を行って、厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0060】
(6)評価
このようにして得られたポリプロピレンおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムについて、上記(i)?(vii)の物性測定を行った。結果を表1、表2および表3に示した。なお、表1にはポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率[mmmm]、沸騰ペンタン抽出率、沸騰ヘプタン抽出率、エチレン含有量、メルトフローレイトを、表2にはクロス分別法による分析結果を、表3には二軸延伸ポリプロピレンフィルムの各種物性測定結果を示す。
【0061】
比較例1
実施例1の(1)に記載された方法に準拠して固体触媒成分(A)を得た。
予備重合処理は、実施例1の(2)において用いたジイソブチルジメトキシシランに代えてジイソプロピルジメトキシシランを用いた以外は実施例1に準拠して実施した。本重合は、実施例1の(3)における水素/プロピレンモル比0.003を0.005に代え、また、ジイソブチルジメトキシシランをジイソプロピルジメトキシシランに代えた以外は実施例1に準拠して実施し、14kg/hの生産量で粉末状ポリプロピレンを得た。造粒および製膜は、実施例1に準拠して実施した。このようにして得られたポリプロピレン及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムの物性値を表1、表2および表3に示した。
【0062】
実施例2
実施例1の(1)において用いたジイソブチルフタレート21mLに代えてジイソブチルフタレート16mLおよびジノルマルオクチルフタレート6mLの混合物を用いた以外は実施例1に記載の方法に準じて固体触媒成分(A)を得た。予備重合処理は、実施例1の(2)に記載の方法で実施した。本重合は、水素/プロピレン比を0.0025とした以外は実施例1の(3)に記載の方法で実施して、15kg/hの生産量で粉末状ポリプロピレンを得た。造粒および製膜は、実施例1に準拠して実施した。このようにして得られたポリプロピレン及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムの物性値を表1、表2および表3に示した。
(中略)
【0065】
比較例2
比較例1の本重合において、水素/プロピレンモル比を0.005に代えて0.004とし、プロピレンに代えてエチレン/プロピレンモル比が0.0017のエチレン/プロピレン混合ガスとした以外は、比較例1に準拠して16.1kg/hの生産量で粉末状ポリプロピレンを得た。造粒、製膜は実施例1に準拠して実施した。このようにして得られたポリプロピレン及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムの物性値を表1、表2及び表3に示した。」

4.特許法第36条第4項について
ア.補正発明は、「(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム」に係る発明であり、補正明細書の発明の詳細な説明には、「(i)?(v)の特性を有するポリプロピレン」の製造方法について「マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、および電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いてプロピレンを重合する方法」「を例示することが出来る」と記載されているとともに、固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、および電子供与性有機珪素化合物(C)として使用可能な具体的な化合物が多数列記されている。
また、「固体触媒成分(A)」は「予備重合処理をした状態で使用することが好ましい」ことや、「本重合においては」「分子量調節剤」として「水素が好適に使用できる」こと、「エチレン」等の「不飽和炭化水素を共重合させることができる」ことが記載されており、「この様にして、前記○1?○5の要件を満足する、本発明のポリプロピレンが得られる。」と記載されている(上記、3.補正明細書に記載された事項 エ.を参照。)。

イ.(iii)の特性(メルトフローレイト)については、分子量とメルトフローレイトが良好な相関関係を有することを勘案すると、本重合において分子量調節剤として水素を使用することにより制御することができることが自明であるといえるが、(iii)以外の特性については、これらの触媒成分としてどの化合物を選択し重合条件をどのように制御することによりどのように変化させることができるのかについての具体的な記載はないし、その方向性すら示されていない。

ウ.(i)?(v)の特性については補正明細書には実施例(合計5例)、比較例(合計2例)が記載されているが、各実施例、比較例で採用されている触媒成分としての化合物や重合条件(特に、実施例1との変更点)と得られたポリプロピレンの「(i)?(v)の特性」(特に、実施例1のそれとの変化量)との関連に関する説明が無く、かつ、該関連を推測することができるような技術常識等もない。
したがって、補正明細書に記載されている触媒成分としての化合物や重合条件に関し、実施例とは異なるように選定した場合に「(i)?(v)の特性」がそれぞれどのような値となるのかを予測することができないから、補正発明のうち「(i)?(v)の特性」の値が実施例1?5とは異なる場合については、触媒成分としてどの化合物を選択し重合条件をどのように制御すればよいかに関し、過度の試行錯誤をせざるをえないといえる。

エ.(ii)の特性(「ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメータα」)に関し補正明細書に記載されている文献「Y. Inoue、Y.Itabashi、R. Chujo、Y. Doi、Polymer, Volume 25、pp. 1640-1644(1984)」(上記、3.補正明細書に記載された事項 エ.の段落【0045】を参照。)には、以下の記載がある。
「two catalytic sites model. In this model at one site the stereospecific propagation proceeds in obedience to the Bernoullian statistics and at the other it proceeds under the control of enantiomorphic model」(1643頁左欄下から9?5行目。当審訳:ベルヌイ統計に従う活性中心と鏡像中心を有する2活性中心モデル)
「α is the probability to select a d-unit at a d-preferring site in the enatiomorphic site, σ is the probability to select a meso-diad configuration in the Bernoullian site, and ω is the weight fraction of the polymer produced according to the enantiomorphic-site model in the unfractionated original polypropylene.」(1643頁右欄13?18行目。当審訳:d-優先重合が起こる鏡像中心において次の重合がdとなる確率をαとし、ベルヌイ統計に従う活性中心において次の重合がmesoとなる確率をσとし、鏡像中心において生成するポリプロピレンの比率をωとする)
「the triad and pentad tacticities can be dexcribed with three parameters (shown in Tble 4)」(1643頁右欄11?12行目および1643頁右欄。当審訳:3つのパラメータを用いて各ペンタッドと各ダイアッドの生成割合を計算することができる。(表4を参照。))
しかしながら、この文献は、そもそも「ベルヌイ統計に基づく二活性中心モデル」や、「ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率」や、「ベルヌイ統計に基づく二活性中心モデル」に従う「ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率」や「そのときの統計パラメータα」について記載されたものではなく、(ii)の特性に関し、触媒成分としてどの化合物を選択し重合条件をどのように制御することによって調整することができるのかに関し参考にすることができる文献でもないことが明らかである。
なお、仮に「ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメータα」が上記文献に記載されている「α」(d-優先重合が起こる鏡像中心において次の重合がdとなる確率)を意味していたとしても、同様である。

次に、実施例および比較例を(ii)の特性(αの値)に注目して検討すると、実施例2、4、5はいずれも同じ「固体触媒成分(A)」を使用するものであり、αの値が0.990で一致している。実施例1、3、および比較例2も同様に共通の「固体触媒成分(A)」を使用しておりαの値が0.994で一致しているが、比較例1は、実施例1と共通の「固体触媒成分(A)」を使用しているにもかかわらずαの値が0.996であって0.994となっていない。
してみると、そもそも「固体触媒成分(A)」だけではαの値は決まらないといえる上に、どのような「固体触媒成分(A)」を使用するとαがどのような値になるかを予測しうる程度に十分な数のデータがあるともいえない。
したがって、上記文献および実施例等の記載を勘案しても、(ii)の特性を満足するようにするための手段について当業者が容易に実施できる程度に開示されているとはいえない。

オ.(v)の特性(「沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上であり、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ、(C5-Ext)と(C7-Ext)とが(C7-Ext)>3.5・(C5-Ext)の関係にある。」)に関し、まず「沸騰ペンタン抽出率」および「沸騰ヘプタン抽出率」は、ポリプロピレンの技術分野の技術常識を勘案すると、いずれもいわゆるアタクチックポリプロピレンの含有率に対応する値であると解することが妥当である。
したがって、「沸騰ペンタン抽出率」と「沸騰ヘプタン抽出率」は、その値が概ね一致する(ただし、ヘプタンの方がペンタンよりも沸点が高いことを勘案すると「沸騰ヘプタン抽出率」の方が「沸騰ペンタン抽出率」よりも若干大きな値となる)はずであるから、「(C7-Ext)>3.5・(C5-Ext)の関係にある。」を満足させるためには、例えば「沸騰ペンタン抽出率」を変えずに「沸騰ヘプタン抽出率」だけを大きくする、を実現するための手段について具体的に開示されている必要があるところ、補正明細書にはこのような手段に関しなんら記載されていない。
また、そのようにするための手段が当業者には自明であると認められるような事情も見いだせない。

次に、実施例および比較例を(v)の特性に注目して検討すると、比較例2を除き、「沸騰ペンタン抽出率」がより大きい実施例(比較例)では「沸騰ヘプタン抽出率」もより大きくなっているという傾向があるが、比較例2のみこの傾向に反する理由について補正明細書にはなんら説明が記載されていない。
また、比較例2は、「固体触媒成分(A)」や「固体触媒成分(A)」とともに使用するシラン化合物の点で比較例1と差異がない等、比較例2がこの関係を満足しない理由を見いだすこともできない。
してみると、実施例等の記載を勘案しても、(v)の特性を満足するための手段について当業者が容易に実施できる程度に開示されているとはいえない。

カ.審判請求人は、審判請求書において以下のような主張をしている。
「(5)記載不備の指摘事項に対する対処
原審において、
「今回の補正(平成21年5月29日付け手続補正書)により触媒が請求項1に規定されたが、実施例において具体的に開示されている1種類の触媒に比べ広すぎるし、かかる触媒すべてが本願発明に係る物性を満足するポリプロピレンフィルムを製造できるわけでもないので記載要件及びサポート要件は依然として解消されたとはいえない。」旨、ご認定され、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。
しかしながら、本審判請求人(出願人)は、上記ご認定に鑑み、本審判請求書と同日付けで提出する平成21年10月2日付け手続補正書に示す通り補正したので、もはやご指摘の記載不備は、解消したものと思料する。
すなわち、上記指摘の触媒について、「マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、並びにジイソブチルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン及びペンチルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いて得られ、」と、補正することにより、特定の触媒を使用することを明確にした。
したがって、もはや指摘の記載不備は、解消したものと思料する。 」

しかしながら、単に特定の触媒を使用することを明確にするだけでは当業者が容易に実施することができないことは、上記4.のア.乃至オ.に記載したとおりである。
したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。

よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5.特許法第36条第6項第1号について
補正発明は、「(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム」に係る発明であり、補正明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題が「特に、フィルム加工性に優れ、アルミニウム蒸着性が良好で、かつ、剛性に優れたポリプロピレンおよび該ポリプロピレンからなるポリプロピレンフィルムを提供することにある」こと、「アイソタクチックペンタッド分率、メルトフローレイト、クロス分別法による0℃以下、50℃以下、90℃以下の各可溶成分の重量平均分子量、沸騰ペンタン抽出率、および沸騰ヘプタン抽出率の各特性がが特定の範囲にあるポリプロピレンが、所期の性能を有することを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成した」こと(上記、2.補正明細書に記載された事項 ア.を参照。)、「該統計パラメーターαが0.995を超えると、高剛性のフィルムが得られるものの金属蒸着性が低下する。また統計パラメーターαが0.989未満では、フィルムの金属蒸着性は良好であるものの、剛性が低下する」こと(上記、2.補正明細書に記載された事項 イ.を参照。)、「(C5-Ext)が0.5重量%未満では金属蒸着性が不充分となり、(C7-Ext)が5重量%を超すと、剛性が低下する。また、(C7-Ext)≦3.5×(C5-Ext)の場合には、低分子量成分が多く、剛性が低下する」こと(上記、2.補正明細書に記載された事項 ウ.を参照。)が記載されている。

これに対し発明の詳細な説明において、「(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム」が実際に製造されることが確認できるのは、実施例1乃至5の5例のみであるから、実施例1乃至5のものが「所期の性能」を有するものであるとしても、実施例1乃至5の5例をもって「(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム」のすべてが、補正発明の上記課題を解決でき、所望の効果を奏するものと認めることはできない。
また、本願出願時において、(ii)の特性に関し「該統計パラメーターαが0.995を超えると、高剛性のフィルムが得られるものの金属蒸着性が低下する。また統計パラメーターαが0.989未満では、フィルムの金属蒸着性は良好であるものの、剛性が低下する」、および、(v)の特性に関し「(C5-Ext)が0.5重量%未満では金属蒸着性が不充分となり、(C7-Ext)が5重量%を超すと、剛性が低下する。また、(C7-Ext)≦3.5×(C5-Ext)の場合には、低分子量成分が多く、剛性が低下する」との技術常識が存在していたものと認めることもできない。
してみると、(ii)の特性や(v)の特性に関する事項は、どのように技術的事項に基づいて導かれたものか不明であり、(ii)の特性や(v)の特性に関する事項を満たすことと、得られる効果との関係の技術的意味が、具体的に開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されているものとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明の記載において、補正発明のすべての範囲において、上記課題を解決し、所望の効果を奏することが技術的に裏付けられて記載されているものとは認められない。
よって、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできないものであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

6.まとめ
以上のとおりであるから、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.原査定について
1.本願発明
上記のとおり、平成21年10月2日付けの手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、同年21年5月29日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる以下のとおりのものである。

「【請求項1】マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与性有機化合物を必須成分とする固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、並びに電子供与性有機珪素化合物(C)からなる触媒を用いて得られ、かつ以下の(i)?(v)の特性を有するポリプロピレンを製膜してなることを特徴とする金属蒸着用ポリプロピレンフィルム。
(i)アイソタクチックペンタッド分率[mmmm]が、0.89≦[mmmm]≦0.95の範囲にある。
(ii)ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメーターαが、0.989≦α≦0.995の範囲にある。
(iii)メルトフローレイト(230℃、21.18N)が、0.5?20dg/分の範囲にある。
(iv)クロス分別法による0℃以下の可溶分の重量平均分子量が7×10^(4)以上であり、50℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上であり、かつ、90℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上である。
(v)沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上であり、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ、(C5-Ext)と(C7-Ext)とが(C7-Ext)>3.5・(C5-Ext)の関係にある。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
これに対して、原査定の拒絶の理由とされた平成21年3月5日付け拒絶理由通知書に記載された理由3は、概略、次のとおりである。

「3.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記ロの点で、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
「ロ.
中略
請求項1?2で定義された発明は、ペンタッド中のメソダイアッドおよびラセミダイアッドの存在率がベルヌイ統計に基づく二活性中心モデルに従い、そのときの統計パラメーターαが、0.989≦α≦0.995の範囲にあるポリプロピレンに関するものである。このポリプロピレンは製造方法が特定されていないため、製造方法に関わらず、請求の範囲に定義される物性条件を満足する全てのポリプロピレンが含まれることになる。そして、明細書には、これを製造する一手段として、特定の触媒を使用することが記載されており、当該手段を用いて製造されたポリプロピレンが実施例1?4として4例記載されている。しかし、明細書には、他の触媒でも本願のポリプロピレンを製造しうることが具体的に記載されておらず、統計パラメーターαの値を増減させるために、実施例で具体的に開示された製造工程のうち、どの条件をどのように変えればよいのか一般的な傾向が記載されておらず、またこれらの物性値を変更・制御する手段が当業者に自明であるとも認められない。

また、請求項1?2で定義された発明は、クロス分別法による0℃以下の可溶分の重量平均分子量が7×10^(4)以上、 50℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上で、かつ、90℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上であり、かつ、90℃以下の可溶分の重量平均分子量が6×10^(4)以上であり;沸騰ペンタン抽出率(C5-Ext)が0.5重量%以上で、沸騰ヘプタン抽出率(C7-Ext)が5重量%以下であり、かつ、該(C5-Ext)と該(C7-Ext)とが (C7-Ext)>3.5×(C5-Ext)の関係にあるポリプロピレンに関するものである。このポリプロピレンは製造方法が特定されていないため、製造方法に関わらず、請求の範囲に定義される物性条件を満足する全てのポリプロピレンが含まれることになる。そして、明細書には、これを製造する一手段として、特定の触媒を使用することが記載されており、当該手段を用いて製造されたポリプロピレンが実施例1?4として4例記載されている。しかし、明細書には、他の触媒でも本願のポリプロピレンを製造しうることが具体的に記載されておらず、各温度における重量平均分子量を増減させるために、実施例で具体的に開示された製造工程のうち、どの条件をどのように変えればよいのかや、C5-Extや、C7-Extを増減させるために、実施例で具体的に開示された製造工程のうち、どの条件をどのように変えればよいのかについて一般的な傾向が記載されておらず、またこれらの物性値を変更・制御する手段が当業者に自明であるとも認められない。
したがって、当業者は実施例にしたがって実施例と同一のポリプロピレンを製造することはできるものの、請求項1?2で定義された条件を満足するポリプロピレンを製造する具体的手段を理解できず、それらのポリプロピレンを製造するためには、当業者は過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるものと認められるので、それらのプロピレンについては明細書に裏付けられていないし十分開示されていない。
よって、発明の詳細な説明には請求項1?2に係る発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないし、請求項1?2に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていない事項を含むものである。」

第4.原査定の妥当性についての検討
1.本願明細書の記載事項
上記第2. 3.のア.?オ.を参照。

2.合議体の判断
本願発明は、補正発明において「ジイソブチルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン及びペンチルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である電子供与性有機珪素化合物(C)」を「電子供与性有機珪素化合物(C)」と拡張したものである(前記第2.1.を参照。)。

そうすると、本願発明の一部分に相当する補正発明について、前記第2.4.に記載したとおり、発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、補正発明は、前記第2.5.に記載したとおり、発明の詳細な説明に記載したものということはできないものである。
したがって、本願発明についても、補正発明と同様の記載不備を有することは明らかである。

以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由3は妥当なものであるので、他の理由について検討するまでもなく、本願は、前記拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-20 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-31 
出願番号 特願2000-116635(P2000-116635)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08F)
P 1 8・ 537- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 加賀 直人
小野寺 務
発明の名称 ポリプロピレンおよびポリプロピレンフィルム  
代理人 河備 健二  

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