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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1260558
審判番号 不服2008-16989  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2012-07-24 
事件の表示 特願2002-588077「セキュアでスケーラブルなストリーミングのエンコーディングおよびデコーディング方法ならびに関連システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月14日国際公開、WO02/91743、平成17年 3月17日国内公表、特表2005-507577〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年5月3日(パリ条約による優先権主張:平成13年5月4日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成19年12月14日(起案日)
意見書 :平成20年 3月17日
手続補正 :平成20年 3月17日
拒絶査定 :平成20年 4月 7日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成20年 7月 3日
拒絶理由通知 :平成23年 2月15日(起案日)
意見書 :平成23年 5月 9日
手続補正 :平成23年 5月 9日
拒絶理由通知(最後) :平成23年 8月24日(起案日)
意見書 :平成23年11月11日

第2 当審の拒絶の理由の通知

当審が平成23年8月24日付けで通知した拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。

平成23年5月9日付けでした手続補正は、下記の点で外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



平成23年5月9日付けでした手続補正は、請求項1-12に係る発明における発明特定事項「c)前記領域のうちの少なくとも1つを、スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップ」を、「c)前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップ」とする補正を含むが、「前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことが外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内とは認められない。
また、当該手続補正は、請求項13-18に係る発明における発明特定事項「前記データは、対応する複数の領域にセグメント化され、前記セグメント化されたデータの複数の領域は、スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードされ、前記スケーラブルにエンコードされたデータの複数の領域それぞれは、互いに独立して解読されうるように暗号化され、」、「c)前記スケーラブルにエンコードされたデータの領域をデコードし、前記データの領域を生成するステップ」を、それぞれ「前記データは、複数のサイズの対応する複数の領域にセグメント化され、前記セグメント化されたデータの複数の領域それぞれは、前記領域のサイズに対応する品質で、スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードされ、前記スケーラブルにエンコードされたデータの複数の領域それぞれは、互いに独立して解読されうるように暗号化され、」、「 c)前記スケーラブルにエンコードされたデータの領域を、前記領域のサイズに対応する品質でデコードし、前記データの領域を生成するステップ」とする補正を含むが、「前記セグメント化されたデータの複数の領域それぞれは、前記領域のサイズに対応する品質で、スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードされ」、「前記領域のサイズに対応する品質でデコード」することが、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内とは認められない。

第3 平成23年5月9日付けの手続補正の内容

平成23年5月9日付けの手続補正は、平成23年2月15日付けの拒絶理由通知に対する応答期間内に行われたものであり、特許請求の範囲の請求項1についてする次の補正を含む。

[補正前の請求項1]
「データをセキュアかつスケーラブルにエンコードする方法であって、
a)データを受取るステップと、
b)前記データを対応する領域にセグメント化するステップと、
c)前記領域のうちの少なくとも1つを、スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップと、
d)前記スケーラブルデータを漸進的に暗号化して、漸進的に暗号化されたスケーラブルデータを生成するステップと、
e)前記漸進的に暗号化されたスケーラブルデータをパケット化するステップと
を含む方法。」を

[補正後の請求項1]
「a)データを受取るステップと、
b)前記データを、複数のサイズの領域にセグメント化するステップと、
c)前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップと、
d)前記スケーラブルデータを漸進的に暗号化し、漸進的に暗号化されたスケーラブルデータを生成する、暗号化するステップと、
e)前記漸進的に暗号化されたスケーラブルデータをパケット化するステップと
を含む方法。」
とする補正。

第4 当審の判断

上記補正が特許法第184条の6第2項の規定により、同法第17条の2第3項における願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面とみなす、同法第184条の4第1項の規定により提出された本願の国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かについて、以下に検討する。

1 翻訳文等の記載

翻訳文等には以下の記載がある。

「【0025】
[エンコーディング方法およびシステム]
図6のフローチャート600には特定のステップを開示するが、かかるステップは例示的なものである。
すなわち、本発明は、他のあらゆるステップまたは図6に列挙するステップの変形を実行するのに適している。
さらに、明確かつ簡潔にするために、以下の論考および例は、特にビデオデータを扱う。
しかしながら、本発明は、ビデオデータでの使用にのみ限定されない。
代りに、本発明は、音声ベースデータ、画像ベースデータ、ウェブページベースデータ、グラフィックデータ等での使用にも適している。
特に、本発明は、スケーラブル符号化が漸進的暗号化と結合される任意のデータに向けられる。
図6のステップ602において、一実施形態では、本発明は、ビデオデータを受取ることを述べている。
一実施形態では、ビデオデータは、図7のエンコーダシステム700のセグメンタ702によって受取られる非圧縮ビデオフレームのストリームから構成される。
【0026】
本発明の別の実施形態では、ビデオデータは、ビデオ予測ユニット(video prediction unit(VPU))によって生成される予測エラービデオデータから構成される。
図8に示すように、本発明の一実施形態では、エンコーダシステム700にはVPU800が連結されている。
VPU800は、予測エラービデオデータを生成しエンコーダシステム700のセグメンタ702に転送する。
図8のVPU800を、エンコーディングシステム700の外側に配置しているが、本発明はまた、VPU800がエンコーディングシステム700と一体化したものにも適している。
図9は、VPU800がエンコーディングシステム700と一体化した本発明の一実施形態を示す。
【0027】
ここで図6のステップ604を参照すると、次に本実施形態は、受取ったビデオデータを対応する領域にセグメント化する。
図10Aは、ビデオフレーム1000の概略図を提供する。
ビデオフレーム1000に対応するビデオデータは、図7、図8および図9のセグメンタ702によって受取られる。
図10Bは、セグメンタ702がビデオフレーム1000を対応する領域1002、1004、1006、1008、1010および1012にセグメント化した後の同じビデオフレーム1000を示す。
かかる量および構成の領域を図10Bに示すが、かかるタイル化の量および構成は単に例示的であることが意図されている。
一例として、図10Cは、セグメンタ702がビデオフレーム100をあらゆる非矩形領域1014、1016、1018、1020および1022にセグメント化したセグメント化の別の例を示す。
別の例として、図10Dは、セグメンタ702がビデオフレーム100をあらゆる非矩形のオーバーラップした領域1024、1026、1028、1030および1032にセグメント化したセグメント化の別の例を示す。
オーバーラップ部分を点線で示す。
本発明はまた、セグメンタ702があらゆる矩形領域をオーバーラップした配置で構成する手法にも適している。
さらに、本発明はまた、領域がフレーム毎に異なる実施形態にも適している。
かかる実施形態を、たとえば移動する前景の人間を追跡するために用いる。
【0028】
ここでステップ606を参照すると、図7、図8および図9のエンコーダ704は、領域をスケーラブルにエンコードしてスケーラブルビデオデータにする。
本出願の目的のために、スケーラブル符号化を、オリジナルデータを入力とし、出力としてスケーラブルに符号化されたデータを生成するプロセスとして定義する。
ここで、スケーラブルに符号化されたデータは、その一部を使用してオリジナルデータをあらゆる品質レベルで復元することができる、という特性を有する。
特に、スケーラブルに符号化されたデータを、しばしば埋込みビットストリームとみなす。
ビットストリームの第1の部分を使用して、ビットストリームの残りの部分からいかなる情報も必要とすることなく、オリジナルデータの基準品質復元をデコードすることができ、ビットストリームの漸進的に大きい部分を使用して、オリジナルデータの品質が向上した復元をデコードすることができる。
すなわち、ビデオフレームの別々の領域を1つまたは複数のデータパケットにエンコードする。
本実施形態によって生成されるスケーラブルなビデオデータは、データの最初の小さい部分を基準品質ビデオにデコードするこができ、より大きい部分を品質の向上したビデオにデコードすることができる、という特性を有する。
この特性により、単にデータパケットをトランケートすることによって、データパケットをより低いビットレートかまたは空間解像度にトランスコーディングすることができるようになる。
このトランケーションのプロセスを、下により詳細に論考する。
【0029】
さらにステップ606を参照すると、本発明の一実施形態では、エンコーダ704により各領域を2つの部分、すなわちヘッダデータとスケーラブルビデオデータとに符号化する。
このため、かかる実施形態では、各データパケットは、ヘッダデータとスケーラブルビデオデータとを含む。
ヘッダデータは、たとえば、データパケットが表す領域(たとえば、ビデオフレーム内の領域の位置)と、本発明による後続のトランスコーディングおよびデコーディング操作に使用される他の情報と、を記述する。
さらに、一実施形態では、ヘッダデータは、データパケットトランスコーダのための一続きの推奨されたトランケーションポイント等の情報を含む。
スケーラブルビデオデータは、実際の符号化ビデオを含む。
フレーム内符号化の場合、ビデオデータは符号化ピクセルであってもよく、フレーム間符号化の場合、動き補償予測からもたらされる動きベクトルと符号化残差とであってもよい。
本実施形態では、スケーラブル符号化技術を、両場合において、符号化ビデオデータの解像度または忠実度を低下させるようにトランケートすることができる埋込みまたはスケーラブルデータパケットを生成するために使用する。
本発明のさらに別の実施形態では、エンコーダ704により、対応するヘッダデータなしにスケーラブルにエンコードされたビデオデータを用意する。
【0030】
ステップ608において述べるように、本実施形態は、スケーラブルビデオデータを漸進的に暗号化することにより、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータを生成する。
すなわち、図7、図8および図9のパケッタイザ・エンクリプタ706は、漸進的暗号化技術を用いてスケーラブルビデオデータを暗号化する。
本出願の目的のために、漸進的暗号化を、オリジナルデータ(平文)を入力とし、出力として漸進的に暗号化されたデータ(暗号文)を生成するプロセスとして定義する。
ここで、漸進的に暗号化されたデータは、第1の部分を、オリジナルデータの残りの部分からの情報を必要とすることなく単独で解読することができる、という特性を有する。
また、漸進的に大きい部分を、この同じ特性により解読することができ、解読には、ビットストリームの後の部分ではなく先の部分からのデータを必要としてもよい。
漸進的暗号化技術には、たとえば、暗号ブロック連鎖かまたはストリーム暗号がある。
これらの漸進的暗号化方法は、データの最初の部分が独立して暗号化され、後の部分が先の部分に基づいて暗号化される、という特性を有する。
漸進的暗号化は、スケーラブル符号化およびパケット化と適当に整合する場合、単純なデータパケットトランケーションによりデータパケットをトランスコーディングする能力を保存する。
より詳細には、漸進的暗号化方法は、データのより小さいブロックが漸進的に暗号化される、という特性を有する。
小さいブロックサイズでのブロック符号暗号化はそれほどセキュアではないが、漸進的暗号化方法は、先のブロックの暗号化データを後のブロックの暗号化に供給することによりある程度のセキュリティを付加する。
そして、解読を同様に漸進的に実行することができる。
一実施形態では、暗号文の最初の小さいブロックは、単独で平文に解読されるが、暗号文の後のブロックは、先のブロックからの解読された平文に依存する。
このため、暗号文の先のブロックを暗号文セグメント全体の知識なしに解読することができる。
この暗号ブロック連鎖およびストリーム暗号の漸進的性質は、スケーラブル符号化の漸進的または埋込まれた性質と正確に一致する。
エンコーディングシステム700は、組合されたパケッタイザ・エンクリプタモジュール706を示すが、かかる記述は単に例示的なものであり、本発明のエンコーディングシステム700は、別々の異なるパケッタイザモジュールとエンクリプタモジュールとを有することにも適している。
【0031】
従来技術の手法の場合のように、データパケット全体を1つの長いブロック符号で暗号化した。
その結果、データパケットを全体として受取らない限り解読は不可能であった。
しかしながら、本発明は、スケーラブルデータパケットを使用しており、データパケットトランケーションによりスケーラブルデータパケットのストリームをトランスコーディングすることが望ましい。
したがって、本発明は、データパケットを同様に漸進的な方法で暗号化する。
このため、従来の手法とは異なり、本発明はデータパケット喪失に対して回復力がある。
すなわち、データパケットが喪失した場合に、残りのデータパケットの解読はそれ以上複雑化せず、まだ容易に達成可能である。
このスケーラブルエンコードと漸進的暗号化との組合せにより、下に詳細に説明する有利なトランスコーディング操作が可能になる。
【0032】
さらにステップ608を参照すると、本発明の一実施形態では、ペイロードデータ(すなわち、スケーラブルビデオデータ)は漸進的に暗号化されるが、ヘッダデータは、トランスコーディングノードがこの情報を使用してトランスコーディング判断を行うことができるように暗号化されないままである。
たとえば、一実施形態では、非暗号化ヘッダは、暗号化されたペイロードデータ内の推奨されたトランケーションポイント等の情報を含む。
別の実施形態では、このヘッダデータを使用して中間トランスコーディングノードにより準レート歪み(RD)-最適ビットレート低減を達成する。
さらに、本実施形態では、トランスコーディングノードは、ヘッダデータを使用して、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータかまたはヘッダデータの解読を必要とすることなくトランスコーディング判断を行うことができる。
本発明のさらに別の実施形態では、ヘッダデータを暗号化することにより、さらなるセキュリティを付加する。
【0033】
ここでステップ610を参照すると、本発明は、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータをパケット化する。
一実施形態では、図7、図8および図9のパケッタイザ・エンクリプタ706は、非暗号化ヘッダデータを漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータと結合してパケット化する。
そして、結果としてのセキュアなスケーラブルデータパケットは、所望の受信機にストリーミングすることが可能になる。
別の実施形態では、パケッタイザ・エンクリプタ706は、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータと暗号化ヘッダデータとをパケット化する。
さらに、ヘッダデータを含まない実施形態では、パケッタイザ・エンクリプタ706は、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータのみをパケット化する。
【0034】
エンコーディングシステム700は、セキュアかつスケーラブルにビデオデータをエンコードする。
より詳細には、エンコーディングシステム700は、スケーラブル符号化を漸進的暗号化技術と結合する。
結果としてのスケーラブルにエンコードされ漸進的に暗号化されパケット化されたビデオストリームは、パケット化されたデータを解読することなく、そのためシステムのセキュリティを維持しながら、ビットレート低減および空間ダウンサンプリング等の後続するトランスコーディング操作を(たとえばデータパケットトランケーションまたはデータパケット除去を介して)実行することができる、という特徴を有する。
本発明はまた、セグメンタ702によって形成された領域のすべてではなく一部のみがエンコーディングシステム700から最終的に転送される実施形態にも適している。
例として、一実施形態では、ビデオデータイメージの背景イメージは先の伝送以来変化していない可能性があり、あるいは恐らくは重要なデータを含まないため、前景が転送される。」

2 判断

上記[補正後の請求項1]の各ステップa)ないしe)(以下、ステップa、・・・、ステップeなどという。)が翻訳文等に記載あるいは開示がなされているかについて検討する。

(1)「a)データを受取るステップ」について

翻訳文等の段落【0025】において「さらに、明確かつ簡潔にするために、以下の論考および例は、特にビデオデータを扱う。しかしながら、本発明は、ビデオデータでの使用にのみ限定されない。代りに、本発明は、音声ベースデータ、画像ベースデータ、ウェブページベースデータ、グラフィックデータ等での使用にも適している。特に、本発明は、スケーラブル符号化が漸進的暗号化と結合される任意のデータに向けられる。」と記載され、さらに「図6のステップ602において、一実施形態では、本発明は、ビデオデータを受取ることを述べている。」と記載されており、「データを受取るステップ」が記載されている。

(2)「b)前記データを、複数のサイズの領域にセグメント化するステップ」について

翻訳文等の段落【0027】において「ここで図6のステップ604を参照すると、次に本実施形態は、受取ったビデオデータを対応する領域にセグメント化する。図10Aは、ビデオフレーム1000の概略図を提供する。
ビデオフレーム1000に対応するビデオデータは、図7、図8および図9のセグメンタ702によって受取られる。図10Bは、セグメンタ702がビデオフレーム1000を対応する領域1002、1004、1006、1008、1010および1012にセグメント化した後の同じビデオフレーム1000を示す。かかる量および構成の領域を図10Bに示すが、かかるタイル化の量および構成は単に例示的であることが意図されている。一例として、図10Cは、セグメンタ702がビデオフレーム100をあらゆる非矩形領域1014、1016、1018、1020および1022にセグメント化したセグメント化の別の例を示す。別の例として、図10Dは、セグメンタ702がビデオフレーム100をあらゆる非矩形のオーバーラップした領域1024、1026、1028、1030および1032にセグメント化したセグメント化の別の例を示す。オーバーラップ部分を点線で示す。本発明はまた、セグメンタ702があらゆる矩形領域をオーバーラップした配置で構成する手法にも適している。さらに、本発明はまた、領域がフレーム毎に異なる実施形態にも適している。かかる実施形態を、たとえば移動する前景の人間を追跡するために用いる。」と記載されており、「前記データ」すなわち「ビデオデータ」を、図10Bないし図10Dに図示されるように「複数のサイズの領域にセグメント化」するステップが記載されている。

(3)「c)前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップ」について

翻訳文等の段落【0028】において「ここでステップ606を参照すると、図7、図8および図9のエンコーダ704は、領域をスケーラブルにエンコードしてスケーラブルビデオデータにする。」と記載されており、「前記領域それぞれを」、「スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップ」が記載されていると認められるが、「前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことまでが記載されているとまではいえない。

すなわち、「前記領域それぞれを」、「スケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードするステップ」に対応する「ステップ606」を説明する翻訳文等の段落【0028】および【0029】には、
「本出願の目的のために、スケーラブル符号化を、オリジナルデータを入力とし、出力としてスケーラブルに符号化されたデータを生成するプロセスとして定義する。ここで、スケーラブルに符号化されたデータは、その一部を使用してオリジナルデータをあらゆる品質レベルで復元することができる、という特性を有する。特に、スケーラブルに符号化されたデータを、しばしば埋込みビットストリームとみなす。ビットストリームの第1の部分を使用して、ビットストリームの残りの部分からいかなる情報も必要とすることなく、オリジナルデータの基準品質復元をデコードすることができ、ビットストリームの漸進的に大きい部分を使用して、オリジナルデータの品質が向上した復元をデコードすることができる。すなわち、ビデオフレームの別々の領域を1つまたは複数のデータパケットにエンコードする。本実施形態によって生成されるスケーラブルなビデオデータは、データの最初の小さい部分を基準品質ビデオにデコードするこができ、より大きい部分を品質の向上したビデオにデコードすることができる、という特性を有する。この特性により、単にデータパケットをトランケートすることによって、データパケットをより低いビットレートかまたは空間解像度にトランスコーディングすることができるようになる。」と記載されているが、
この記載における「データの最初の小さい部分」および「より大きい部分」という、大小を示唆する表現は、セグメント化された領域ではなく、符号化された「データの最初の」という意味で「小さい部分」と表現され、その「小さい部分」を含むという意味において「より大きい部分」を表現されていると解するのが相当である。
何故なら、該「本実施形態によって生成されるスケーラブルなビデオデータは、データの最初の小さい部分を基準品質ビデオにデコードするこができ、より大きい部分を品質の向上したビデオにデコードすることができる、という特性を有する。」という記載に続く「この特性により、単にデータパケットをトランケートすることによって、データパケットをより低いビットレートかまたは空間解像度にトランスコーディングすることができるようになる。」という記載は、
データの全体のうち「データの最初の小さい部分」だけ残して「トランケート」すれば「データパケットをより低いビットレートかまたは空間解像度にトランスコーディングすることができる」ことを示していることは明らかであり、
「最初の小さい部分」とは、(領域の大小ではなく)「トランケート」される対象となるデータの一部としての「最初の小さい部分」であるからである。

また、翻訳文等には、「領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことについて上記段落【0028】および【0029】を超える説明はない。
例えば、翻訳文等の段落【0030】において説明される「小さいブロック」等の大小に関する記載は、暗号文におけるブロックであり、「領域のサイズ」に対応する大きさを示すものではないし、
翻訳文等の段落【0034】に「本発明はまた、セグメンタ702によって形成された領域のすべてではなく一部のみがエンコーディングシステム700から最終的に転送される実施形態にも適している。例として、一実施形態では、ビデオデータイメージの背景イメージは先の伝送以来変化していない可能性があり、あるいは恐らくは重要なデータを含まないため、前景が転送される。」と、「領域」に関連する記載があるが、該記載は、「エンコード」に関するものではなく、「領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことを示すものとは認められない。

さらに、「前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことが、翻訳文等の記載だけでなく、周知慣用技術および技術常識を考慮して導き出すことができる程度に自明なこととも認めることはできない。

よって、「前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことは、
翻訳文等には記載されておらず、また、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内とも認められない。

<請求人の主張について>
請求人は、平成23年11月11日付け意見書において「本願翻訳文の第[0027],[0028]段落および図6?図10Dにおいて、上記記載1には、例えば、図10Aに示された「ビデオフレーム1000」が、図10Bに例示されるように複数のサイズの「領域1002?1012」にセグメント化されるという事項が明示的に開示され、上記記載2,3には、「エンコーダ704」が、「データの最初の小さい部分(例えば、図10Bに示された領域1004)を基準品質ビデオにデコード」でき、「より大きい部分(例えば、同じく領域1002,1006?1012)を品質の向上したビデオにデコードすることができる」ように、「領域1002?1012」それぞれを、「スケーラブルにエンコードしてスケーラブルビデオデータにする」という事項が明示的に開示されており、これらは、「領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」ことを明示的に示している。」と反論している。

しかしながら、請求人が主張する「データの最初の小さい部分」および「より大きい部分」という、大小を示唆する表現は、
上述のように、セグメント化された領域ではなく、符号化された「データの最初の」という意味で「小さい部分」と表現され、その「小さい部分」を含むという意味において「より大きい部分」を表現されていると解するのが相当であり、
「データの最初の小さい部分(例えば、図10Bに示された領域1004)」および「より大きい部分(例えば、同じく領域1002,1006?1012)」というような解釈はできない。
何故なら、上述のように、「本実施形態によって生成されるスケーラブルなビデオデータは、データの最初の小さい部分を基準品質ビデオにデコードするこができ、より大きい部分を品質の向上したビデオにデコードすることができる、という特性」は、「この特性により、単にデータパケットをトランケートすることによって、データパケットをより低いビットレートかまたは空間解像度にトランスコーディングすることができるようになる。」という効果を伴うものでなければならないところ、
上記「データの最初の小さい部分」および「より大きい部分」を領域として解釈しても、そのような効果を伴うとは認められないからである。

(4)「d)前記スケーラブルデータを漸進的に暗号化し、漸進的に暗号化されたスケーラブルデータを生成する、暗号化するステップ」について

翻訳文等の段落【0030】において「ステップ608において述べるように、本実施形態は、スケーラブルビデオデータを漸進的に暗号化することにより、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータを生成する。」と記載されており、「前記スケーラブルデータを漸進的に暗号化し、漸進的に暗号化されたスケーラブルデータを生成する、暗号化するステップ」が記載されている。

(5)「e)前記漸進的に暗号化されたスケーラブルデータをパケット化するステップ」について

翻訳文等の段落【0033】において「ここでステップ610を参照すると、本発明は、漸進的に暗号化されたスケーラブルビデオデータをパケット化する。」と記載されており、「前記漸進的に暗号化されたスケーラブルデータをパケット化するステップ」が記載されている。

(6)まとめ

上述(1)ないし(5)の検討によれば、補正後請求項1に係るステップa、ステップb、ステップd、ステップeが、翻訳文等に記載されているといえるものの、
翻訳文等の全ての記載を総合することによっても、ステップcに係る「前記領域それぞれを、前記領域のサイズに対応する品質でスケーラブルデータへとスケーラブルにエンコードする」という技術事項を導くことはできない。
してみると、上記[補正前の請求項1]を上記[補正後の請求項1]にする補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでないというべきであり、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

したがって、上記補正がなされた平成23年5月9日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

第5 むすび

したがって、平成23年5月9日付けの手続補正書による補正は、外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の要件を満たしておらず、本件出願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-23 
結審通知日 2012-02-24 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2002-588077(P2002-588077)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 脇岡 剛岩井 健二  
特許庁審判長 奥村 元宏
特許庁審判官 渡邊 聡
梅本 達雄
発明の名称 セキュアでスケーラブルなストリーミングのエンコーディングおよびデコーディング方法ならびに関連システム  
代理人 特許業務法人アイ・ピー・エス  

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