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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1260561
審判番号 不服2009-11524  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-23 
確定日 2012-07-24 
事件の表示 特願2002-556736「甲状腺新生物の診断および治療におけるヒストン脱アセチル酵素阻害剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月18日国際公開、WO02/55688、平成17年 3月17日国内公表、特表2005-507231〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年(2002年)1月9日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年1月10日 米国)とする出願であって、平成20年2月21日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成21年3月18日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされた後、同年7月22日付で特許請求の範囲について更に手続補正がなされたものである。

第2 平成21年6月23日付の手続補正についての補正却下の決定
ある補正が、特許法第17条の2第4項及び第5項の規定に適合するか否かについての判断をする場合には、当該補正よりも前の時点で最後に適法に補正された特許請求の範囲を基準にしなければならないから、補正の適否については、補正のされた順番に従って順次判断すべき((知的財産高等裁判所)平成17年(行ケ)第10698号判決参照)なので、まず本件の審判請求時になされた平成21年6月23日付の手続補正の適否について検討する。

[補正却下の決定の結論]

平成21年6月23日付の手続補正(以下、「本件補正1」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正1は、特許請求の範囲の請求項1を補正する補正事項を含むものであり、請求項1は、補正前の
「【請求項1】ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量を甲状腺細胞に導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強する方法。」
から、
「【請求項1】ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量を甲状腺細胞にインビトロで導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強するインビトロの方法であって、甲状腺特異的遺伝子がNa^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンである方法。」
へと補正された。

2.補正の目的
上記請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「甲状腺特異的遺伝子」が「Na^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンである」ことを限定するものであり、また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量の甲状腺細胞への導入を「インビトロ」で行うことを限定するものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強する方法が「インビトロ」であることを限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件違反について
そこで、本願補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるBaillieres Best. Pract. Res. Clin. Endocrinol. Metab.,2000年,Vol.14,p.615-629(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による)。

(ア)「我々は、NIS発現の分子生物学を研究し、NIS発現及び機能の損失の原因となるエピゲネティックな変化に関連する証拠を発見した。これらの研究によれば、NISプロモーターの制御領域または最初のNISイントロン部分のCpG DNA配列におけるシトシン残基のメチル化が、ヨウ素取り込みの損失をもたらす転写抑制に寄与しているのかもしれない。NIS発現やインビトロでの測定可能な放射性ヨウ素取り込みがみられないヒト甲状腺癌細胞株を5-アザシチジン(DNA-メチルトランスフェラーゼ阻害剤)で処理すると、NISのmRNAの発現及び放射性ヨウ素の取り込みが回復した。放射性ヨウ素療法を可能とするように、転移性脱分化甲状腺癌患者の腫瘍において放射性ヨウ素取り込みを回復させるため、この薬剤は、臨床試験のフェーズ1bにあり、現在、まさに開発中である。ポリアミン合成の調節剤およびヒストン脱アセチル酵素阻害剤を含むクロマチン構造を変化させて転写を増強する他の薬剤も、同様な実験的な臨床応用に対して開発中である。」(第623頁第30?43行)

(イ)「しかし、同じ腫瘍中の異なった細胞間における、ヨウ化物輸送体(ヨウ化ナトリウム共搬体;NIS)の発現の不均一なレベルの認識は・・・。」(第616頁第10行?第12行)

(2)当審の判断
ア 本願補正発明
本願補正発明1は、「甲状腺特異的遺伝子がNa^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンである」と選択肢で記載されており、そのうち、「甲状腺特異的遺伝子がNa^(+)/I^(-)共搬体である」場合の態様は、以下のとおりである。

「ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量を甲状腺細胞にインビトロで導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強するインビトロの方法であって、甲状腺特異的遺伝子がNa+/I-共搬体である方法」(以下、「本願補正発明1’」という。)

イ 引用例2に記載された発明
引用例2の上記記載事項(イ)には、「ヨウ化ナトリウム共搬体」を「NIS」と表すことが記載されており、本願明細書の段落【0004】には、「ヨウ化ナトリウム共搬体」を「NIS」又は「Na^(+)/I^(-)共搬体」と表すことが記載されているから、引用例2の上記記載事項(ア)において、「NIS」とは、「Na^(+)/I^(-)共搬体」のことである。また、引用例2において、甲状腺癌細胞株を5-アザシチジンで処理することは、インビトロで行われることであると認められる。
また、本願の出願当初明細書の請求項10には、「甲状腺細胞が甲状腺癌細胞である」ことが記載されていることから、引用例2に記載の「甲状腺癌細胞」は、本願補正発明1’の「甲状腺細胞」に相当する。
そうすると、引用例2には、「DNA-メチルトランスフェラーゼ阻害剤である5-アザシチジンの有効量を甲状腺細胞にインビトロで導入して、それによって、Na^(+)/I^(-)共搬体遺伝子の発現を増強するインビトロの方法」が記載されているものと認められる。

ウ 対比
本願補正発明1’と引用例2に記載された発明を対比すると、両者は、物質の有効量を甲状腺細胞にインビトロで導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強するインビトロの方法であって、甲状腺特異的遺伝子がNa^(+)/I^(-)共搬体である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:甲状腺細胞に導入する物質が、本願補正発明1’では、ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質であるのに対し、引用例2では、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤である5-アザシチジンである点

エ 判断
引用例2の上記記載事項(ア)によると、Na^(+)/I^(-)共搬体発現の損失は、Na^(+)/I^(-)共搬体遺伝子の制御領域又はイントロン部分のDNAのメチル化が原因であって、Na^(+)/I^(-)共搬体の発現のない甲状腺癌細胞に、DNA-メチルトランスフェラーゼ阻害剤である5-アザシチジンを作用させると、DNAのメチル化を触媒するDNA-メチルトランスフェラーゼの活性が阻害され、Na^(+)/I^(-)共搬体遺伝子の発現が回復するものである。
そして、引用例2の上記記載事項(ア)の最終文には、クロマチン構造を変化させることにより転写を増強させる作用を有するヒストン脱アセチル酵素阻害剤が、DNA-メチルトランスフェラーゼ阻害剤と同様な実験的な臨床応用に対して開発中であることが記載されている。
引用例2のこのような記載に接した当業者であれば、甲状腺細胞におけるNa^(+)/I^(-)共搬体遺伝子の発現を増強するために作用させる物質として、DNA-メチルトランスフェラーゼ阻害剤に代えて、同様に、遺伝子の転写を増強する作用を有するヒストン脱アセチル酵素阻害剤を用いて、Na^(+)/I^(-)共搬体遺伝子の発現が増強されるかを確認することは、容易に想到し得ることである。

オ 請求人の主張
請求人は、審判請求の理由において、下記の点を主張する。
「引用文献2は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤ではなく、DNA-メチルトランスフェラーゼ阻害剤により、NISプロモーターの調節領域または最初のNISイントロン部分におけるCpG DNA配列中のシトシン残基のメチル化を阻害することによって、放射性ヨウ素取り込みを回復させる可能性について教示する一方で、本願発明に記載のHDAC阻害剤については、クロマチン構造を変化させる薬剤の例として最後に一行のみの記載があるものの、HDAC阻害剤によりクロマチン構造を変化させて、よってNa^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンの転写を増強することについて、何ら具体的な根拠またはデータを開示していません。さらにはHDAC阻害剤についての記載の根拠となるDresselらの文献においても、HDAC阻害剤がNa^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンの発現を増強すること、あるいは甲状腺癌に適用しうることを教示または示唆するような記載はございません。したがいまして、引用文献2には、当業者が本願発明に想到し得るような具体的な記載は何ら存在しないものと言えます。」(平成21年7月22日付手続補正書(3-d)最終段落参照。)

しかしながら、上記エで述べたように、引用例2には、甲状腺癌細胞におけるNa^(+)/I^(-)共搬体遺伝子の発現を増強するために、ヒストン脱アセチル酵素阻害剤を用いることが明記され、しかもそれが開発中であることも記載されている以上、当業者がヒストン脱アセチル酵素阻害剤を用いることに強い動機付けがあるものといえる。
そして、引用例2には、ヒストン脱アセチル酵素阻害剤によりNa^(+)/I^(-)共搬体の転写を増強することについて、具体的な根拠またはデータが記載されていないことや、Dresselらの文献(添付資料1:AntiCancer Research,2000, Vol.20,p.1017-1022)には、ヒストン脱アセチル酵素阻害剤がNa^(+)/I^(-)共搬体の発現を増強すること、あるいは甲状腺癌に適用しうることを示唆する記載がないからといって、ヒストン脱アセチル酵素阻害剤を用いてみようとする試みを阻害する要因にはならない。
よって、請求人の主張は採用することができない。

カ 小括
以上のように、本願補正発明1’は、引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願補正発明1’をその態様として包含する本願補正発明1も同様に、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
よって、本件補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 平成21年7月22日付の手続補正についての補正却下の決定
平成21年6月23日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、次に平成21年7月22日手続補正が、平成20年2月21日付手続補正書の特許請求の範囲に対して適法な補正であるか検討する。

[補正却下の決定の結論]

平成21年7月22日付の手続補正(以下、「本件補正2」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正2は、特許請求の範囲の請求項1を補正する補正事項を含むものであり、請求項1は、補正前の
「【請求項1】ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量を甲状腺細胞に導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強する方法。」
から、
「【請求項1】ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量を甲状腺細胞にインビトロで導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強するインビトロの方法であって、該甲状腺特異的遺伝子がNa^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンである方法。」
へと補正された。

2.補正の目的
上記請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「甲状腺特異的遺伝子」が「Na^(+)/I^(-)共搬体および/またはサイログロブリンである」ことを限定するものであり、また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量の甲状腺細胞への導入を「インビトロ」で行うことを限定するものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強する方法が「インビトロ」であることを限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件違反について
そこで、本願補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

ここで、本件補正2による補正後の請求項1に係る発明は、前記第2で検討した本件補正1による補正後の請求項1に係る発明と、「甲状腺特異的遺伝子」が「該甲状腺特異的遺伝子」と記載されている点でのみ異なるものであって、この差異により、両補正により補正された請求項1に係る発明が異なるものにはならない。
よって、本件補正2による補正後の請求項1に係る発明は、本件補正1による補正後の請求項1に係る発明と同一である。

そうすると、本件補正2により補正された請求項1に記載されている事項により特定される発明は、上記「第2の3.」において、本件補正1による補正後の請求項1に係る発明について述べたと同様の理由により、引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

よって、本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第4 本願発明
1.本願発明
平成21年6月23日付及び平成21年7月22日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成20年2月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】ヒストン脱アセチル酵素を阻害する物質の有効量を甲状腺細胞に導入して、それによって甲状腺特異的遺伝子の発現を増強することを含む、甲状腺細胞における甲状腺特異的遺伝子の発現を増強する方法。
【請求項2】甲状腺特異的遺伝子がNa^(+)/I^(-)共搬体である、請求項1記載の方法。」

2.特許法第29条第2項
本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、本願補正発明1’における「インビトロ」という特定事項が付加されていないものであり、本願補正発明1’を一態様として包含する発明である。
そして、本願補正発明1’は上記「第2の3.」で述べた理由により、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2も同様の理由により、引用例1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-28 
結審通知日 2012-02-29 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2002-556736(P2002-556736)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 572- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 光本 美奈子深草 亜子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 冨永 みどり
六笠 紀子
発明の名称 甲状腺新生物の診断および治療におけるヒストン脱アセチル酵素阻害剤  
代理人 清水 初志  

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