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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1260632
審判番号 不服2010-19455  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-27 
確定日 2012-07-25 
事件の表示 特願2001-527993「シール付き圧電式インクジェットモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月12日国際公開、WO01/25018、平成15年 3月25日国内公表、特表2003-511264〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2000年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年10月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年4月5日付けで明細書及び図面の日本語による翻訳文が提出され、平成15年4月11日、平成19年10月5日及び平成22年3月30日付けで手続補正がなされ、平成22年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年8月24日に拒絶査定不服審判である不服2010-19073号が請求されると同時に手続補正(以下「本件補正1」という。)がなされたが、当該不服2010-19073号は平成22年8月27日に請求取下げされ、同日に本件拒絶査定不服審判である不服2010-19455号が請求されると同時に手続補正(以下「本件補正2」という。)がなされ、当審において、本件補正1が平成23年7月19日付けで却下され、同日付けで、本件補正2も却下され、さらに同日付で拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成24年1月26日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成24年1月26日付け手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年1月26日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「インク貯蔵部と、
前記インク貯蔵部内のインクに噴出圧力を与えるように配置され且つ前記インク貯蔵部に隣接する側にのみにおいて電気的接続部を有する圧電素子と、
前記圧電素子の前記電気的接続部に対応しかつ前記圧電素子を駆動させるように配置されている電気的接点を担持している電気絶縁可撓性部材と、を有し、前記電気絶縁可撓性部材は、前記貯蔵部と前記圧電素子との間に配されて前記貯蔵部を封止しかつ前記圧電素子を越えて伸張して前記電気的接点への電気的接続を可能にしていることを特徴とする圧電式インクジェットモジュール。」

3 刊行物の記載事項
(1)当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭60-159064号公報(以下「引用例1」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「技術分野
本発明は、インクジェットプリンタのプリントヘッド用アクチュエータに係る。
発明の背景
インクジェットプリンタの動作中、インク滴が貯蔵室からノズル口を通って押し出され、記録媒体上に被着する。室の一つの壁はアクチュエータによって覆われている開口を有する。アクチュエータは、電気-機械的トランスジューサでもよく、このトランスジューサは室内でインクの圧力を短時間増加させる。この圧力増加によりインク滴をノズル口を通して押し出す。そのようなアクチュエータの一つが…略…米国特許第3,747,120号に記載されている。この特許の記載によると、金属板が圧電結晶板に結合されている。金属板は少量のインクを収容する室の一つの壁を密封するように配置されている。電界が、その圧電結晶板の厚さ方向に印加され、この結晶板を半径方向に収縮させ、曲がる構体を構成している。多くのそのようなアクチュエータおよび対応する室は、一列に配置され、プリントヘッドを形成する。そのようなプリントヘッドを構成することは、特に困難である。なぜなら従来技術に従うと、各金属板および圧電結晶の組合せは、その協働室開口に関して慎重に設置しなければならない。その次に導体が取り付けられる。使用されるインクは多少腐蝕性であり、しばしば導電性となる。金属板は、室内に収容されたインクに隣接して配置された場合に腐食してしまう。更に、インクが室から漏れて導体間を短絡してしまう可能性もある。
前記の引用文献の記載によると、金属板を曲げる力が直接インクに伝わる。2つの媒体間でのエネルギの伝達効果は、しばしばその2つの媒体の音響インピーダンスの大きな差に起因して、低下する。そのような損失を克服するために、比較的高いレベルのエネルギが供給される。本発明の目的は、効率的で製造容易でかつインクの腐蝕作用に対して高い耐蝕性を有するインクジェットプリンタ用アクチュエータを提供することにある。」(2頁右下欄7行?3頁右上欄14行)

イ 「発明の開示
本発明は、インク滴が少量のインクを収容するとじ込め室の壁のノズル口を通して放出されるインクジェットプリンタのプリントヘッド用アクチュエータに係る。室は、圧電結晶板を備えたアクチュエータによって覆われた開口を有する。第1および第2の導電性電極が圧電板の表面の部分を覆う。絶縁材料から成る薄い可撓性シートは、その第1の表面に結合された金属性曲板を有する。その曲板は、また、第1の導電性電極の表面に結合される。曲板は、導電性電極に印加される電位差に応答して生じる圧電結晶板の変形に抵抗する。絶縁材料のシートは、その第2の表面が室の内面に向かうように配置される。固定手段は絶縁材料の第2の表面を、室の外面の開口の周縁に、保持する。第1および第2の電極間に印加された電位差に応答して、室の体積が減少し、インク滴がノズル口を通して放出される。」(3頁右上欄15行?同頁左下欄14行)

ウ 「実施例の説明
第1図に示されているインクジェットプリンタ10は、記録媒体13を支持し搬送するドラム12を含む。また、当該プリンタ10は複数のインクジェット19を備えたプリントヘッド組立体18を搬送する骨組み16を含む。該骨組16は1対の案内レール21によって支えられ所定の経路を移動することができる。…略…。プリントヘッド組立体18は、通路24を介してインク供給貯蔵室26に連絡している複数の閉口端の円筒形状の室22を備えた空洞ブロック20を含む。室22は空洞ブロック20の表面に対して垂直なそれぞれの室22の軸にそって一列に配列されている。
インクジェット19の1つは第3図、第4図および第5図に示されている。図に示されているように、室22の端部はドラム12の方向を向いて配置され、ノズル口28で終る錐状の通路27を備えたノズル板25を含むノズル29によって覆われている。ノズル板25は接着剤30によって空洞ブロックに固着されている。適当な接着剤としては、ポリサルファイドゴム化合物が見い出されている。ノズル板25の表側の表面は耐水性フィルムの層で覆われていて、当該フィルム層はノズル板25の表面をインク液滴でぬれるのを妨げてインク液滴がノズル口28を通って印刷媒体13の方へ移動するのを保障する。
室22のもう一方の端はアクチュエータ50で覆われており、該アクチュエータは層状構造である。アクチュエータ50の第1層は単一の薄い絶縁物のシート52である。適当な絶縁物は、例えば商標KAPTONで呼ばれているデュポン社(E. I. DuPont DeNemours and Company)製のポリイミド物質である。この他の適当な物質は広い範囲のポリマーを含み、例えばポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、およびポリテトラ弗化エチレンである。KAPTONは、過度の反射波を発生することなくインク54に対して効果的な移動を実現することにおいて特に適当である。KAPTONの音響インピーダンス特性は液体インクの音響インピーダンス特性にきわめて類似しているため、当該2つの媒体では効果的なエネルギーの転送が行なわれる。曲板56は接着剤層58でもって絶縁物シート52の表面に固着され、室22の開口上に位置している。曲板56に適切な物質のうちの1つはニッケルである。ニッケルは所望の堅さ、導電性、および接着性を達成できる。曲板56に接続され、絶縁されたシート52の表面上に接着剤層58によって固着された帯状導体59があり、当該導体はまたプリンタ制御回路(図示されていない)に接続されている。曲板56および帯状導体59は一体のものである。すなわち両方とも同じ物質で形成されている。
アクチュエータ50は、さらに圧電結晶板60を含み、当該結晶板は実施例では圧電セラミックである。圧電板60は2つの対向電極62,64を形成する薄い金属フィルムによってコーティングされている。電気めっきでないニッケルは電極として適した物体であることがわかっている。第1の電極62は曲板56にはんだ66で固着されている。導電性エポキシもまた適当であることがわかっている。
プリントヘッド組立体18は、また複数の突起81,81aおび81bを備えた第2の導体72を含んでいる。突起81の1つはハンダ80によってアクチュエータ50の第2の電極64に固着されている。導体72は第2図に示すごとく、,それぞれのアクチュエータ50,50aおよび50bが、それぞれ突起81,81aおよび81bに接続できるように配置されている。導体72の一方の端は、前記制御回路(図示されていない)に接続されている。絶縁スペーサ70は導体72とはんだ層66とのショートを防止するように配設れている。スペーサは接着剤層73によってはんだ層66に固着されている。導体72の端は、接着剤の細帯74によってスペーサ70に取り付けられ、これら組み合わせ体はプリンタ10内で都合よく配向されるフラットケーブル83を形成する。
ケーブル83とアクチュエータ50,50aおよび50bは、一体化されたものとして組み立てることが好ましい。次いで、アクチュエータ50,50aおよび50bがそれぞれの室22,22aおよび22bに対して配列される。可撓性絶縁シート52の露出した表面は接着剤82によって空洞ブロック20の表面に固着されている。実際には、空洞ブロック20の表面は接着剤の薄い層で覆われており、絶縁シート52はその次に配置されている。以上の手続きはアクチュエータ50,50aおよび50bが正確に配置され、そして、それぞれのアクチュエータに関連している曲がった電圧セラミック板がインク54の腐蝕作用から保護されていることを示すものである。
アクチュエータ50の静止位置は第3図に示されている。インク54の表面張力はノズル口28において、当該インク54を室22内に保つに十分な大きさである。電極62,64を横ぎって加えられる電位に応答して、電界が圧電セラミック板60内に形成され、当該圧電セラミック板の厚さをわずかに増加させるとともに表面積を減少させる。該圧電セラミック板に固着されている曲板56は、圧電セラミック板60の表面積の大きさの変化に抵抗する。従って、圧電セラミック板が縮小すると、アクチュエータ50は室22内へ膨張する(第4図)。アクチュエータ50によってつくり出される室22内の圧力および体積変位はインク液滴84を記録媒体13の方に向けてノズル口28から押し出す。」(3頁左下欄15行?5頁左上欄17行)

エ FIG.5には、スペーサ70とはんだ層66との間にある72と、細帯74に接続している72とが記載されているが、FIG.4及び上記ウの記載からみて、導体72は細帯74に接続している72であって、スペーサ70とはんだ層66との間にある72は接着剤層73の明らかな誤記であるので、この誤記を訂正すると、FIG.1ないしFIG.5の記載から、次のことが見て取れる。
(ア)空洞ブロック20には複数の貯蔵室22が一列に配列していること。
(イ)貯蔵室22は、空洞ブロック20のドラム12側の第1の面に開口する第1の端部がノズル29により覆われ、空洞ブロック20の第1の面の逆側の第2の面に開口する第2の端部がフラットケーブル83により覆われており、フラットケーブル83を構成する単一の絶縁物シート52が空洞ブロックに一列に配列している複数の貯蔵室22の各第2の端部の開口をまとめて覆っていること。
(ウ)フラットケーブル83は、空洞ブロック20の第2の面に、その絶縁物シート52を接着剤82で接着することによって固着されていること。
(エ)空洞ブロック20の第2の面に固着されたフラットケーブル83は、空洞ブロック20の第2の面に接着剤82で接着され、複数の貯蔵室22の各第2の端部の開口をまとめて覆う単一の絶縁物シート52と、該絶縁物シート52に接着剤層58によって固着され、各貯蔵室22の第2の端部の開口を覆う位置にそれぞれ配置されている複数の金属性曲板56と、前記絶縁物シート52に接着剤層58によって固着され、前記金属性曲板56のそれぞれとプリンタ制御回路とを接続する複数の第1の帯状導体59と、前記絶縁物シート52に接着剤層58によって固着され、前記貯蔵室22の第2の端部の開口の配列、金属性曲板56の配列及び第1の帯状導体59の配列の外側で、第2の導体72の端部とプリンタ制御回路とを接続する第2の帯状導体とを含んでいること。
(オ)前記金属性曲板56,56a,56bのそれぞれには、対向する面にそれぞれ第1の電極62と第2の電極64とを備えた圧電結晶板60及び絶縁スペーサ70がはんだ層66を介して固着されており、前記圧電結晶板60はその第1の面の第1の電極62が前記はんだ層66にそのはんだ66で固着され、前記絶縁スペーサ70はその第1の面が接着剤層73によって前記はんだ層66に固着されていること。
(カ)前記絶縁スペーサ70のそれぞれの第2の面には第2の導体72の端が接着剤の細帯74によって取り付けられており、前記圧電結晶板60の第2の面の第2の電極64の各々と第2の導体72の複数の突起81,81a,81bの各々とはハンダ80によって固着されることにより、複数の第2の電極64は第2の導体72及び第2の帯状導体を介してプリンタ制御回路に接続されていること。

オ 上記アないしエから、引用例1には、
「多くのアクチュエータ及び対応する貯蔵室が一列に配置されて構成され、前記アクチュエータは圧電結晶板を備え、前記貯蔵室の一つの壁は開口を有し、該開口は前記アクチュエータによって覆われ、該アクチュエータが前記貯蔵室内でインクの圧力を短時間増加させ、この圧力増加によりインク滴をノズル口を通して押し出して記録媒体上に被着するインクジェットプリンタのプリントヘッドにおいて、
圧電結晶板に結合されている金属板が前記貯蔵室の一つの壁を密封するように配置されている従来技術のアクチュエータでは、各金属板および圧電結晶の組合せを前記貯蔵室開口に関して慎重に設置しなければならず、その次に導体が取り付けられるが、使用されるインクは多少腐蝕性であり、しばしば導電性となるので、前記金属板は前記貯蔵室内に収容されたインクに隣接して配置されて腐食してしまい、インクが前記貯蔵室から漏れて前記導体間を短絡してしまう可能性もあり、さらに、前記金属板及びインクの2つの媒体の音響インピーダンスの大きな差に起因してエネルギの伝達効果が低下するのでそのような損失を克服するために比較的高いレベルのエネルギを供給する必要があったので、
効率的で製造容易でかつインクの腐蝕作用に対して高い耐蝕性を有するアクチュエータにするために、前記アクチュエータを、第1及び第2の導電性電極がその表面の部分を覆った圧電結晶板と、第1の表面に金属性曲板を結合した薄い絶縁材料の可撓性シートと、から構成し、前記金属性曲板を前記圧電結晶板の第1の導電性電極の表面に結合し、前記可撓性シートの第2の表面が前記貯蔵室の内面に向かうように前記可撓性シートを配置し、該可撓性シートの第2の表面を前記貯蔵室の外面の開口の周縁に固定手段により保持し、前記圧電結晶板の第1及び第2の導電性電極に印加される電位差に応答して生じる前記圧電結晶板の変形に前記金属性曲板が抵抗し、前記圧電結晶板の第1及び第2の導電性電極間に印加された電位差に応答して、前記貯蔵室の体積が減少してインク滴が前記ノズル口を通して放出されるようにしたインクジェットプリンタのプリントヘッドであって、
前記インクジェットプリンタは、記録媒体13を支持し搬送するドラム12と、複数のインクジェット19を備えた前記プリントヘッドであるプリントヘッド組立体18を搬送する骨組み16とを含み、該骨組16は1対の案内レール21によって支えられ所定の経路を移動することができるものであり、
前記プリントヘッド組立体18は、第1通路24を介してインク供給貯蔵室26に連絡している複数の閉口端の円筒形状の貯蔵室22を備えた空洞ブロック20を含み、前記貯蔵室22は前記空洞ブロック20に一列に配列しており、
前記貯蔵室22は、前記空洞ブロック20の前記ドラム12側の第1の面に開口する第1の端部が、ノズル口28で終る錐状の第2通路27を備えたノズル板25を含むノズル29によって覆われ、前記空洞ブロック20の第1の面の逆側の第2の面に開口する第2の端部が、前記アクチュエータと一体化されたフラットケーブル83により覆われており、該フラットケーブル83を構成する単一の薄い絶縁物シート52が前記空洞ブロックに一列に配列している複数の貯蔵室22の各第2の端部の開口をまとめて覆っており、前記フラットケーブル83は、前記空洞ブロック20の第2の面に、その絶縁物シート52を接着剤82で接着することによって固着されており、単一の前記絶縁物シート52と、該絶縁物シート52に接着剤層58によって固着され、各貯蔵室22の第2の端部の開口を覆う位置にそれぞれ配置されている複数の金属性曲板56と、前記絶縁物シート52に接着剤層58によって固着され、前記金属性曲板56のそれぞれとプリンタ制御回路とを接続する複数の第1の帯状導体59と、前記絶縁物シート52に接着剤層58によって固着され、前記貯蔵室22の第2の端部の開口の配列、前記金属性曲板56の配列及び第1の帯状導体59の配列の外側で、第2の導体72の端部と前記プリンタ制御回路とを接続する第2の帯状導体とを含んでおり、
前記絶縁物シート52は、その音響インピーダンス特性が液体インクの音響インピーダンス特性にきわめて類似しているため、当該2つの媒体では効果的なエネルギーの転送が行なわれ、過度の反射波を発生することなくインク54に対して効果的な移動を実現することができる、商標KAPTONで呼ばれているデュポン社製のポリイミド物質のポリマーを含むものであり、
前記金属性曲板56に適切な物質のうちの1つは所望の堅さ、導電性及び接着性を達成できるニッケルであり、
前記金属性曲板56および前記第1の帯状導体59は両方とも同じ物質で形成される一体のものであり、前記金属性曲板56のそれぞれには、対向する面にそれぞれ第1の導電性電極62と第2の導電性電極64とを備えた圧電結晶板60及び第2の導体72とはんだ層66とのショートを防止するための絶縁スペーサ70が前記はんだ層66を介して固着されており、前記圧電結晶板60はその第1の面の第1の導電性電極62が前記はんだ層66にそのはんだ66で固着され、前記絶縁スペーサ70はその第1の面が接着剤層73によって前記はんだ層66に固着されており、前記絶縁スペーサ70のそれぞれの第2の面には第2の導体72の端が接着剤の細帯74によって取り付けられており、前記圧電結晶板60の第2の面の第2の導電性電極64の各々と第2の導体72の複数の突起81,81a,81bの各々とはハンダ80によって固着されることにより、複数の第2の導電性電極64は第2の導体72及び第2の帯状導体を介して前記プリンタ制御回路に接続されており、
前記アクチュエータ50を正確に配置でき、それぞれのアクチュエータ50に関連している前記圧電結晶板60をインク54の腐蝕作用から保護することができる、インクジェットプリンタのプリントヘッド。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(2)当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-320723号公報(以下「引用例2」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 少なくとも複数のノズルと、該ノズルに対応した複数の圧力室と、圧力室の一部に形成された振動板と、振動板を変形させて圧力室に圧力を発生させる圧電素子と、前記圧電素子に個々に接続され、電気エネルギーを供給する信号電極と、前記圧電素子に共通に接続された共通電極を有するインクジェットヘッドに於いて、
前記圧電素子に接続された前記信号電極及び共通電極が櫛歯状構造であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】 前記櫛歯状の信号電極及び共通電極が、圧電素子と振動板間に配設されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。」

イ 「【0002】
【従来の技術】
(従来技術1)従来の一般的なインクジェットヘッドは、例えば図9の分解斜視図に示すごとく、圧力室1と、インクの吐出するノズル2と、インク供給口3と、インク供給口3から圧力室1にインクを供給する供給口側流路41と、圧力室1上に接着された振動板5と、圧力室1上の振動板5上に配され、図示しない電極から供給された電気エネルギーによって歪むことで圧力室1に圧力を加える圧電素子6と、圧力室1で発生した圧力をノズル2に引き出す、ノズル側流路42と、からなるインクジェットヘッドが知られていた。
【0003】このようにして構成されたヘッドの図9に於けるE仮想面での断面のモデルを示すのが図10であって、1?2、41、42、5?6は図9と同様である。また、7はインク滴である。供給口3から供給されたインクは、供給口側流路41を経て圧力室1及びノズル側流路42、ノズル2まで満たされる。振動板5上に配設された圧電素子6の振動板5側の面及び上面には図示しない電極が配されており、この電極から供給される電気エネルギーによって圧電素子6を変形せしめる構造になっている。例えば、電気エネルギーによって圧電素子6が変形方向が図10の矢印の方向(圧電素子6の収縮方向)に変形しようとした場合、振動板5は収縮しないため、一般のバイメタルと同様に、振動板5の平面方向と垂直方向に応力が働く。この応力によって、図10の点線で示すごとく、圧電素子6及び、振動板5が変形し、圧力室1内のインクの圧力が上昇することになる。その結果、流路内に満たされたインクは、ノズル側流路42を通じてノズル2からインク滴7となって吐出することになる。
【0004】しかしながら、このように構成されたインクジェットヘッドは、ノズルの高密度化が困難であるという課題を有していた。
【0005】即ち、図10に於いて、圧電素子6の厚さ、振動板5の厚さは、製造上或いは組立時の取り廻し上それぞれ100μm程度の厚さが必要であった。更に圧電素子6の駆動電圧を上げることは、駆動回路の大幅なコストアップにつながるため、一定の値以下にする事が必要であった。このような制約の中で圧力室1上の振動板5を変形させ、変形による圧力室の十分な体積変化量を得るためには、圧電素子6の面積を一定以下にできないことになる。このことは、図9に於いて、インクジェットヘッド全体に占める圧力室1及び、圧電素子6の面積が増加し、近年要求が高まりつつあるノズルの高密度化、マルチノズル化を実現する場合、ヘッド面積の増加によるヘッドコストの上昇や、プリンタ全体としての設計の自由度の低下してしまう。」

ウ 「【0006】(従来技術2)このような課題に鑑み提案されたのが、例えば特開平4-185348号公報記載のようなインクジェットヘッドであって、その目的は圧電素子を薄膜製造法による圧電素子の形成による高精細化である。また、圧電素子の薄膜化による駆動力低下を補うのが薄膜製造法による振動板形成であって、従来技術1で100μm程度の厚さが必要であった振動板が1?数μm程度で形成できることによる。
【0007】このような従来技術の場合、インクと圧電素子に接続された電極が接しないようにパッシベーション膜を兼ねた振動板を設けるのが一般的であって、振動板を含んだ従来のインクジェットヘッドの断面図を図11に示す。図中の1?2、5?7は図10と同様であり、81は下電極、82は上電極、91は圧力室1を有する単結晶珪素層、21はノズルプレートである。図11に於いて、単結晶珪素層91上に振動板5を薄膜製造法で成膜する。(以下、従来技術2に於いて、特に説明をしない限り、各層の成膜方法は薄膜製造法である)更に、下電極81を形成後、一般的なフォトリソグラフィー法により、パターニングを行う。次に薄膜圧電素子6を成膜する。一般的に薄膜製造法で成膜された圧電物質は結晶の成長が進行せず、アモルファスの状態であるため圧電性を示さない。このため圧電素子6を成膜後、500?800℃程度に加熱し、ペロブスカイト構造の結晶成長を促進する工程が必要となる。続いて上電極82を成膜する。その後、上電極82を複数の薄膜圧電素子6を駆動するようにフォトリソグラフィー法でパターニングを行う。続いて複数のノズル2を有するノズルプレート21を単結晶珪素層91に接着することにより、インクジェットヘッドを得る。
【0008】このようにして得られたインクジェットヘッドは、下電極81と上電極82間から供給された電気エネルギーによって薄膜圧電素子6が変形することで圧力室1の圧力を高め、圧力室1に充填されたインクをインク滴7として吐出することができるものである。」

エ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこのような構成のインクジェットヘッドでは、図11に於いて下電極81と上電極82間で圧電素子6を介する電気エネルギーのリーク、即ち電極間でのショートによって歩留りが低下してしまうといった課題を有していた。以下に圧電素子6での絶縁性低下について説明する。
【0010】図12(a)?(c)は、図11に於ける圧力室1上の下電極81、圧電素子6上電極82を形成する場合の製造プロセスを示す断面図である。図12(a)に於いて、まず振動板5上に下電極81及び、薄膜圧電素子6を成膜する。この状態では、前述のように薄膜圧電素子6はアモルファス(非晶質)状態であり、電気エネルギーによる結晶構造の変化(圧電性)は示さない。従って、薄膜圧電素子6の場合も、一般的な圧電素子の固相反応による結晶化と同様に、焼成を行うことにより、結晶化を行う。図12(b)は、焼成を行った場合の薄膜圧電素子6の微細構造をモデル化して示してある。薄膜圧電素子6は、理想的には単結晶薄膜に結晶化することが望ましいが、一般的には図12(b)のごとく、微細な結晶粒61の集合体にとして結晶化する。この時、薄膜圧電素子6には結晶粒61間でピンホール10が形成されやすい。この後に図12(c)のごとく、上電極82を成膜するが、上電極82は、ピンホール10を通して下電極81まで到達してしまうため、上電極82と、下電極81がショートすることになり、上電極82と下電極81間に電位差を与えることができなくなってしまうことになる。
【0011】更に、上電極82による駆動力が低下してしまうといった課題も有している。
【0012】これについて説明するのが図13(a)?図13(b)のモデル図であって、5、6、81、82は図11と同様である。また、図中の矢印は力の方向を示している。まず、図13(a)のごとく、上電極82と下電極83間から供給される電気エネルギーにより、薄膜圧電素子6は膜面方向と平行に収縮する力が働く。一方、振動板5、上電極82、下電極81は薄膜圧電素子6の変形に反発する反作用力が働く。この結果、バイメタル構造と同様にそれぞれの膜には膜面方向と直角方向の応力が生じ、図13(b)のごとく図中では下方向に変形することになる。この時、振動板5、下電極81、薄膜圧電素子6の応力方向は図中では下方向であるのに対し、上電極82の応力の方向は図中で上方向になってしまう。従って、本来必要な下方向の力を低下させることになる。
【0013】
【課題を解決するための手段】画像情報に応じて複数のノズルからインク滴を噴射することで被印画物に記録を行うインクジェットプリンタ用のヘッドであって、少なくとも複数のノズルと、該ノズルに対応した複数の圧力室と、圧力室の一部に形成された振動板と、振動板を変形させて圧力室に圧力を発生させる圧電素子と、前記圧電素子に個々に接続され、電気エネルギーを供給する信号電極と、前記圧電素子に共通に接続された共通電極と、圧力室にインクを供給するインク供給口と、から成るインクジェットヘッドに於いて、前記圧電素子に接続された前記信号電極及び共通電極が櫛歯状構造であることを特徴とする。
【0014】また、前記櫛歯状の信号電極及び共通電極が、圧電素子と振動板間に配設されていることを特徴とする。」

オ 「【0020】(実施例1)図1は本発明のインクジェットヘッドの分解斜視図であって、1は圧力室、2はノズル、21はノズルプレート、3はインク供給口、4はインク流路、5は振動板、6は薄膜圧電素子、83は共通電極、84は信号電極、9は基板である。振動板5と基板9は、実際には薄膜製造法で堆積するため予め付着しているが、図1では構造を明確に示すために分離して記入してある。
【0021】基板9を加工して形成された圧力室1に対応して、信号電極84及び、共通電極83による櫛歯構造11が形成され、櫛歯構造11によって薄膜圧電素子6を収縮、伸張させる。この薄膜圧電素子6の収縮、伸張によって、前述のごとく振動板5が薄膜圧電素子6と共に振動し、圧力室1内の圧力を変化させる。一方、インクはインク供給口3から供給され、インク流路4を経て圧力室1に導入される。従って、振動板5によって発生した圧力によって、インクはノズルプレート21に設けられ、各圧力室に対応したノズル2より吐出することになる。圧力室1の配列ピッチは通常141μm程度である。これは、1インチあたり180個に相当する。櫛歯構造の、櫛歯の幅、ピッチ及び本数は、圧力室1の長さ、必要な駆動力、製造プロセス能力等によって決まるが、通常櫛歯の幅は駆動力、圧力室1の長さに関係なく、細いほど好ましく、製造プロセス能力によって決定され、10μm程度が適当である。また、櫛歯間の距離は主に駆動電圧によって決定され、例えば30V程度の電圧で駆動する場合、20μm程度が適当である。また、櫛歯の本数は、インクジェットヘッドの外形から算出される圧力室1の長さと、必要な駆動力から算出、決定され、例えば圧力室1の長さが900μmであったとすると、櫛歯の幅10μm、櫛歯間の距離20μmの時、一つの圧力室1あたり30本の櫛歯(従って信号電極側15本、共通電極側15本)で構成できる。
【0022】次に本発明のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0023】図2は、図1に於けるA仮想面での断面図であって、1?2、5?6、9、21、83?84は図1と同様である。まず、基板9上に振動板5となる材料、例えば窒化シリコン等をCVD法によって1μm程度の膜厚で成膜する。特にCVD法による窒化シリコンは、緻密で、ヤング率が高く、圧力室1に充填されたインクと薄膜圧電素子6との、よいパッシベーション膜になるばかりでなく、薄膜圧電素子6の収縮変形をたわみに変換する時に、損失が少ないため効率がよいといった特徴がある。つぎに薄膜圧電素子6となる材料、例えばPZTをスパッタリング法で3μm程度の膜厚で成膜する。スパッタリングで形成したPZTは、アモルファス状態であるため、そのままでは圧電性を示さない。そこで、500?800℃程度の酸素雰囲気中でで焼成を行い結晶化を行う。結晶化の程度は焼成温度と時間によって変化し、高温であるほど、また、長時間であるほど進行する。さらに共通電極83、信号電極84を形成するための電極膜をスパッタリング法で1μm程度の膜厚で成膜する。電極膜材料はコストや、加工のしやすさからアルミニウムが適当である。次に櫛歯構造にするためにパターニングを行う。パターニングは一般的なフォトリソグラフィー法で可能であり、これによって電極膜は共通電極83と信号電極84に分割することができる。
【0024】また、図3は、図1に於けるB仮想面での断面図であって、1?3、5?6、9、21、83?84は図1と同様である。共通電極83と信号電極84に分割した後、圧力室1を形成するために、基板9の加工を行う。しかしながら、基板9の厚さは、取り廻し上300μm程度の厚さが必要であり、且つ、複数の圧力室1は、通常140μm程度のピッチで形成する必要があるため、圧力室1は100μm程度の幅になる。このような形状を得るため、基板9に単結晶基板を使用した異方性エッチングの技術が利用できる。例えば、110面のシリコン単結晶基板を使用した場合、エッチング液としてKOHを使用すると、図3に於ける縦方向のエッチング速度は、横方向のエッチング速度の180倍程度になる。従って基板9として300μmの厚さの110面シリコン基板を使用すると、サイドエッチングは1.7μm程度に収まるため、圧力室1として十分な形状が得られることになる。次に、圧力室1に対応した複数のノズル2を有するノズルプレート21を接着し、図1のようなインクジェットヘッドを得る。
【0025】ここで、従来技術2のようなインクジェットヘッドと、本発明のインクジェットヘッドの動作原理について図13(a)?図13(b)及び、図4(a)?図4(c)を用いて説明する。図4(a)?図4(b)に於いて、5?6、83?84は図1と同様である。
【0026】従来技術2の動作原理は従来技術1と同様であって、図13(a)に於いて、まず下電極81をマイナス、上電極82をプラスとして、の数kv/cm?数十kv/cm程度の電界をかける。これは分極処理と呼ばれ、薄膜圧電素子6の分域の自発分極の配列を一定方向に揃える処理である。分極処理により、薄膜圧電素子6は図13(a)に於ける上方向がマイナス、下方向がプラスの上下方向に分極する。分極処理は数十℃?数百℃に加熱して行うと効果的である。このように分極処理された薄膜圧電素子6に図13(b)のごとく、上電極82をプラス、下電極をマイナスとして分極処理を行った電圧よりも低い電圧を印加すると、図13(b)に於ける上下方向に伸張し、且つ、薄膜圧電素子6の平面方向に収縮する。この収縮力によって、前述の通り図13(b)に於ける下方向にたわむことになる。
【0027】図4(a)?図4(c)は本発明のインクジェットヘッドの動作原理を示すモデル図である。図4(a)は分極時のモデル図を示し、まず共通電極83をマイナス、信号電極84をプラスとして、分極処理を行う。この分極処理によって薄膜圧電素子6内では共通電極83側をプラス、信号電極84側をマイナスとした、薄膜圧電素子6の平面方向の分極が起こる。この状態を平面で見たものが図4(b)である。このようにして分極処理を行った薄膜圧電素子6を駆動する場合、図4(c)のごとく、分極処理の場合の電界と逆の電界をかけることで行う。即ち、共通電極83をプラス、信号電極84をマイナスにして電圧を印加すると、薄膜圧電素子6は、共通電極83、信号電極84間でそれぞれ収縮する力が働く。(同時に図4(c)に於いて上下方向に伸張する力も働く)これにより、従来技術2と同様に図4(c)に於いて下方向の応力が働き、下方向にたわむことになる。
【0028】また、図13(b)のように、従来技術2では上電極82によって、たわみ方向と逆の応力が発生し、駆動力を低下させることになっていたのに対し、本発明のインクジェットヘッドの場合、図4(c)で明らかなように、薄膜圧電素子6上の電極は分割されていることから、電極による上方向の発生力は少なく、駆動力の低下も少ない。
【0029】本発明のようにして得られたインクジェットヘッドは、上下に電極を配さず、一平面上に配された電極によって従来技術2と同様の動作が可能になるため、電極間のショートが無いため、歩留りがよく低コストのインクジェットヘッドの提供が可能である。また、電極面積の低下が可能になることによる駆動力低下が低くなり、エネルギー効率の高いインクジェットヘッドが実現できる。」

カ 「【0030】(実施例2)図5は本発明の実施例の内、薄膜圧電素子6と振動板5間に共通電極83、信号電極84を配する場合を示す分解斜視図であって、1?6、21、83?84、9、11は図1と同様である。実施例1との相違点は、薄膜圧電素子6と、共通電極83、信号電極84の成膜順序であり、積層順序は、振動板5、共通電極83及び信号電極84、薄膜圧電素子6になる。
【0031】図6は、図5に於けるC仮想面での断面図であって、1?2、5?6、9、21、83?84は図5と同様である。まず、基板9上に振動板5成膜する。これは実施例1と同様に窒化シリコン等が適当である。次に共通電極83、信号電極84を形成するための電極膜をスパッタリング法で成膜し、実施例1と同様にフォトリソグラフィー法でパタニングを行い櫛歯構造に形成する。実施例1の場合、アルミニウムが使用できたが、本実施例ではパターニング後に薄膜圧電素子6を成膜、焼成を行うため、耐熱性が高く、反応性の低い材料を選択する必要があり、プラチナや金等が適当である。更に、薄膜圧電素子6となるPZTをスパッタリング法で成膜し、焼成を行う。その後は、実施例1と同様に、基板9のエッチングを行い、圧力室1を形成し、複数のノズル2を有するノズルプレート21を接着し、インクジェットヘッドを得る。
【0032】このようにして得られたインクジェットヘッドの動作原理を示すモデル図が、図7である。動作原理は実施例1の図4(a)?図4(c)と同様であるが、図4(a)?図4(c)と比較して、共通電極83及び信号電極84が薄膜圧電素子6と振動板5間に配置されているため、実施例1で僅かにたわみ方向と反対に働いていた共通電極83と信号電極84による力がなくなる。これにより、エネルギー効率のより大きなインクジェットヘッドが実現できることになる。」

キ 上記アないしカから、引用例2には、
「圧力室1と、インクの吐出するノズル2と、インク供給口3と、インク供給口3から圧力室1にインクを供給する供給口側流路41と、圧力室1上に接着された振動板5と、圧力室1上の振動板5上に配され、電極から供給された電気エネルギーによって歪むことで圧力室1に圧力を加える圧電素子6と、圧力室1で発生した圧力をノズル2に引き出す、ノズル側流路42と、からなり、供給口3から供給されたインクは、供給口側流路41を経て圧力室1及びノズル側流路42、ノズル2まで満たされ、振動板5上に配設された圧電素子6の振動板5側の面及び上面には電極が配されており、この電極から供給される電気エネルギーによって圧電素子6を変形せしめる構造になっていて、電気エネルギーによって圧電素子6が圧電素子6の収縮方向に変形しようとした場合、振動板5は収縮しないため、一般のバイメタルと同様に、振動板5の平面方向と垂直方向に応力が働き、この応力によって、圧電素子6及び、振動板5が変形し、圧力室1内のインクの圧力が上昇することになり、その結果、流路内に満たされたインクは、ノズル側流路42を通じてノズル2からインク滴7となって吐出するインクジェットヘッドにおいて、
従来は、圧電素子6の厚さ、振動板5の厚さは、製造上或いは組立時の取り廻し上それぞれ100μm程度の厚さが必要であるという制約と、圧電素子6の駆動電圧を上げることは、駆動回路の大幅なコストアップにつながるため、一定の値以下にする事が必要であるという制約とがある制約の中で、圧力室1上の振動板5を変形させ、変形による圧力室の十分な体積変化量を得るためには、圧電素子6の面積を一定以下にできなかったので、インクジェットヘッド全体に占める圧力室1及び、圧電素子6の面積が増加し、近年要求が高まりつつあるノズルの高密度化、マルチノズル化を実現する場合、ヘッド面積の増加によるヘッドコストの上昇や、プリンタ全体としての設計の自由度の低下してしまっていたから、単結晶珪素層91上に振動板5を薄膜製造法で成膜し、更に、下電極81を形成後、一般的なフォトリソグラフィー法により、パターニングを行い、次に薄膜圧電素子6を成膜し、500?800℃程度に加熱して結晶成長を促進し、続いて上電極82を成膜し、上電極82を複数の薄膜圧電素子6を駆動するようにフォトリソグラフィー法でパターニングを行い、続いて複数のノズル2を有するノズルプレート21を単結晶珪素層91に接着してインクジェットヘッドの圧電素子及び振動板を薄膜製造法により形成して高精細化、低駆動力化し、かつ駆動力低下も補い1?数μm程度で振動板を形成したところ、薄膜圧電素子6の焼成による結晶化の時、薄膜圧電素子6には結晶粒61間でピンホール10が形成され、この後成膜した上電極82がピンホール10を通して下電極81まで到達し、下電極81と上電極82間で圧電素子6を介する電気エネルギーのリーク、即ち電極間でのショートによって歩留りが低下したり、上電極82と下電極83間から供給される電気エネルギーにより、薄膜圧電素子6に膜面方向と平行に収縮する力が働く一方、振動板5、上電極82、下電極81は薄膜圧電素子6の変形に反発する反作用力が働く結果、バイメタル構造と同様にそれぞれの膜には膜面方向と直角方向の応力が生じ変形する時、振動板5、下電極81、薄膜圧電素子6の下方向の応力方向と、上電極82の上方向の応力方向とが逆方向になってしまって本来必要な下方向の力を低下させることになり駆動力が低下してしまうといった課題を有することになったので、
上下に電極を配さず、前記圧電素子に接続された前記信号電極及び共通電極を櫛歯状構造のものとして一平面上に電極を配することによって、電極間のショートを無くし、歩留りよく低コストで、駆動力低下が低く、エネルギー効率の高いものを提供可能とし、かつ、前記櫛歯状の信号電極及び共通電極を、圧電素子と振動板間に配設することにより、共通電極83と信号電極84による力がたわみ方向と反対に働くことがないようにして、エネルギー効率がより大きなものとしたインクジェットヘッドであって、
前記振動板5となる材料を、インクと薄膜圧電素子6との、よいパッシベーション膜になるばかりでなく、薄膜圧電素子6の収縮変形をたわみに変換する時に、損失が少ない例えば窒化シリコン等の材料として、インクと圧電素子に接続された電極が接しないようにパッシベーション膜を兼ねた振動板を設けたインクジェットヘッド。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「貯蔵室22」、「圧電結晶板60」、「インク54」、「第1の電極62と第2の電極64」、「『金属性曲板56』、『はんだ層66』、『第2の導体72の複数の突起81,81a,81b』及び『ハンダ80』」、「『可撓性シート』である『フラットケーブル83を構成する単一の薄い絶縁物シート52』」、「『開口』を『覆』う」及び「複数のインクジェット19を備えたプリントヘッドであるプリントヘッド組立体18」は、それぞれ、本願発明の「インク貯蔵部」、「圧電素子」、「インク」、「電気的接続部」、「電気的接点」、「電気絶縁可撓性部材」、「封止」及び「圧電式インクジェットモジュール」に相当する。

(2)引用発明1において、
「圧電素子(圧電結晶板)」は、「電気的接続部(第1及び第2の導電性電極)」がその表面の部分を覆っており、
「圧電素子」の「電気的接続部(第1の導電性電極)」の表面には、第2の表面を「インク貯蔵部(貯蔵室)」の外面の開口の周縁に固定手段により保持した「電気絶縁可撓性部材(可撓性シート)」の第1の表面に結合した「電気的接点(金属性曲板)」が結合されており、
この「圧電素子」と「電気的接点」を結合した「電気絶縁可撓性部材」とでアクチュエータを構成し、
プリントヘッドは、前記「圧電素子」の「電気的接続部(第1及び第2の導電性電極)」に印加される電位差に応答して生じる前記「圧電素子」の変形に前記「電気的接点」が抵抗し、前記「圧電素子」の「電気的接続部(第1及び第2の導電性電極)」間に印加された電位差に応答して、前記「インク貯蔵部」の体積が減少して「インク」滴が前記ノズル口を通して放出されるようにしたものであり、
複数の「電気的接点」は、各「インク貯蔵部」の第2の端部の開口を覆う位置にそれぞれ配置されており、
フラットケーブル83は、前記空洞ブロック20の第2の面に、その「電気絶縁可撓性部材(絶縁物シート52)」を接着剤82で接着することによって固着されており、単一の前記「電気絶縁可撓性部材」と、該「電気絶縁可撓性部材」に接着剤層58によって固着され、各「インク貯蔵部(貯蔵室22)」の第2の端部の開口を覆う位置にそれぞれ配置されている複数の「電気的接点(金属性曲板56)」と、前記「電気絶縁可撓性部材」に接着剤層58によって固着され、前記「電気的接点」のそれぞれとプリンタ制御回路とを接続する複数の第1の帯状導体59と、前記「電気絶縁可撓性部材」に接着剤層58によって固着され、前記「インク貯蔵部」の第2の端部の開口の配列、前記「電気的接点」の配列及び第1の帯状導体59の配列の外側で、第2の導体72の端部と前記プリンタ制御回路とを接続する第2の帯状導体とを含んでおり、
フラットケーブル83を構成する単一の薄い「電気絶縁可撓性部材」が前記空洞ブロックに一列に配列している複数の「インク貯蔵部」をまとめて「封止して(各第2の端部の開口を覆って)」いるから、
引用発明1の「圧電素子」は、「インク貯蔵部」に亘って配置され、「インク貯蔵部」内の「インク」に噴出圧力を与えるように配置され、「インク貯蔵部」に隣接する側に「電気的接続部(第1の導電性電極)」を有するとともにその反対側にも「電気的接続部(第2の導電性電極)」を有していることが明らかであり、
また、引用発明1の「電気絶縁可撓性部材(可撓性シート)」は、「圧電素子」の「電気的接続部(第1の導電性電極)」に対応する「電気的接点(金属性曲板56)」を有して前記「圧電素子」に沿って広がって前記「電気的接点」への電気的接続を可能にするものであり、かつ、前記「インク貯蔵部」と前記「圧電素子」の間に配置されて前記「インク貯蔵部」を「封止」するものであることが明らかである。
したがって、引用発明1の「圧電素子(圧電結晶板)」と本願発明の「インク貯蔵部内のインクに噴出圧力を与えるように配置され且つ前記インク貯蔵部に隣接する側にのみにおいて電気的接続部を有する圧電素子」とは、「インク貯蔵部内のインクに噴出圧力を与えるように配置され且つ前記インク貯蔵部に隣接する側において電気的接続部を有する」点で一致し、
引用発明1の「電気絶縁可撓性部材(可撓性シートである絶縁物シート52)」と本願発明の「電気絶縁可撓性部材」とは、「前記圧電素子の前記電気的接続部に対応しかつ前記圧電素子を駆動させるように配置されている電気的接点を担持している」ものである点及び「前記貯蔵部と前記圧電素子との間に配されて前記貯蔵部を封止しかつ前記圧電素子を越えて伸張して前記電気的接点への電気的接続を可能にしている」するものである点で一致する。

(3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明1とは、
「インク貯蔵部と、
前記インク貯蔵部内のインクに噴出圧力を与えるように配置され且つ前記インク貯蔵部に隣接する側において電気的接続部を有する圧電素子と、
前記圧電素子の前記電気的接続部に対応しかつ前記圧電素子を駆動させるように配置されている電気的接点を担持している電気絶縁可撓性部材と、を有し、前記電気絶縁可撓性部材は、前記貯蔵部と前記圧電素子との間に配されて前記貯蔵部を封止しかつ前記圧電素子を越えて伸張して前記電気的接点への電気的接続を可能にしている、圧電式インクジェットモジュール。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記電気的接続部を有する前記圧電素子が、本願発明では、前記電気的接続部を前記インク貯蔵部に隣接する側にのみにおいて有するのに対して、引用発明1では、前記電気的接続部を、前記インク貯蔵部に隣接する側において有するとともにその反対側にも有する点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用例2には上記2(2)で述べたとおり引用発明2(上記2(2)キ参照。)が記載されている。

(2)引用発明2は、「下電極81と上電極82間で圧電素子6を介する電気エネルギーのリーク、即ち電極間でのショートによって歩留りが低下したり、上電極82と下電極83間から供給される電気エネルギーにより、薄膜圧電素子6に膜面方向と平行に収縮する力が働く一方、振動板5、上電極82、下電極81は薄膜圧電素子6の変形に反発する反作用力が働く結果、バイメタル構造と同様にそれぞれの膜には膜面方向と直角方向の応力が生じ変形する時、振動板5、下電極81、薄膜圧電素子6の下方向の応力方向と、上電極82の上方向の応力方向とが逆方向になってしまって本来必要な下方向の力を低下させることになり駆動力が低下してしまう」といった課題を、「上下に電極を配さず、前記圧電素子に接続された前記信号電極及び共通電極を櫛歯状構造のものとして一平面上に電極を配することによって、電極間のショートを無くし、歩留りよく低コストで、駆動力低下が低く、エネルギー効率の高いものを提供可能」とし、かつ、「前記櫛歯状の信号電極及び共通電極を、圧電素子と振動板間に配設することにより、共通電極83と信号電極84による力がたわみ方向と反対に働くことがないようにして、エネルギー効率がより大きなもの」とするとともに、振動板5となる材料を、「インクと薄膜圧電素子6との、よいパッシベーション膜になるばかりでなく、薄膜圧電素子6の収縮変形をたわみに変換する時に、損失が少ない例えば窒化シリコン等の材料」として、「インクと圧電素子に接続された電極が接しないようにパッシベーション膜を兼ねた振動板を設けた」インクジェットヘッドの発明である。

(3)引用発明1は、「効率的で製造容易でかつインクの腐蝕作用に対して高い耐蝕性を有するアクチュエータ」にするために、前記アクチュエータを、「第1及び第2の導電性電極がその表面の部分を覆った圧電結晶板と、第1の表面に金属性曲板を結合した薄い絶縁材料の可撓性シートと」から構成し、「前記可撓性シートの第2の表面が前記貯蔵室の内面に向かうように」前記可撓性シートを配置し、「該可撓性シートの第2の表面を前記貯蔵室の外面の開口の周縁に」保持し、「前記圧電結晶板の第1及び第2の導電性電極間に印加された電位差」に応答して、「前記貯蔵室の体積が減少してインク滴が前記ノズル口を通して放出」されるようにしたインクジェットプリンタのプリントヘッドである。

(4)上記(2)及び(3)からみて、引用発明1の「絶縁材料の可撓性シート」と引用発明2の「振動板5」とは「インクと圧電素子に接続された電極が接しないようにパッシベーション膜を兼ねた振動板」といえる点で共通し、ともにインクと圧電素子に接続された電極が接しないのでインクの腐蝕作用に対して高い耐蝕性を有するものであるが、引用発明1の「第1及び第2の導電性電極がその表面の部分を覆った圧電結晶板」は、引用発明2の「上下に電極を配した圧電素子」に相当するものであり、「電極間でのショートによって歩留りが低下」したり、前記金属性曲板が「前記圧電結晶板の第1及び第2の導電性電極に印加される電位差に応答して生じる前記圧電結晶板の変形に抵抗」し「前記圧電結晶板の変形に反発する反作用力」が働く結果、「本来必要な下方向の力を低下」させることになり「駆動力が低下」してしまうような圧電結晶板であるといえる。
してみると、引用発明1において、「前記電気的接続部(第1及び第2の導電性電極)を、前記インク貯蔵部(貯蔵室)に隣接する側において有するとともにその反対側にも有する前記圧電素子(圧電結晶板)」を、上下に前記「電気的接続部(第1及び第2の導電性電極)」を配さず、前記「圧電素子(圧電結晶板)」に接続された前記「電気的接続部」を櫛歯状構造の信号電極及び共通電極として一平面上に電極を配した引用発明2の構造の圧電素子とすることによって、電極間のショートを無くし、歩留りよく低コストで、駆動力低下が低く、エネルギー効率の高いものを提供可能とし、かつ、該「電気的接続部(櫛歯状構造の信号電極及び共通電極)」を、圧電素子と可撓性シート(引用発明2の「振動板」に相当する。)間に配設することにより、共通電極と信号電極による力がたわみ方向と反対に働くことがないようにすること、すなわち、引用発明1において、前記圧電素子(圧電結晶板)を、前記「電気的接続部(共通電極と信号電極)」を前記インク貯蔵部(貯蔵室)に隣接する側にのみにおいて有する圧電素子とし、前記「電気的接点(金属性曲板56、はんだ層66、第2の導体72の複数の突起81,81a,81b及びハンダ80)」を該圧電素子の前記「電気的接続部(共通電極と信号電極)」に対応しかつ該圧電素子を駆動させるように配置した電気的接点として、前記圧電素子を越えて伸張している前記「電気絶縁可撓性部材(可撓性シートであるフラットケーブル83を構成する単一の薄い絶縁物シート52)」により該電気的接点への電気的接続を可能にすること、すなわち、引用発明1において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用発明2に基づいて容易になし得た程度のことである。

(5)本願発明が奏する効果は、引用発明1が奏する効果及び引用発明2が奏する効果から当業者が予測することができたものである。

(6)以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、上記5のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-22 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-12 
出願番号 特願2001-527993(P2001-527993)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧 隆志大塚 裕一  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 菅野 芳男
東 治企
発明の名称 シール付き圧電式インクジェットモジュール  
代理人 藤村 元彦  

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