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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K |
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管理番号 | 1260636 |
審判番号 | 不服2010-29161 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-24 |
確定日 | 2012-07-25 |
事件の表示 | 特願2003-583692「溶接領域の監視装置および監視方法ならびに溶接装置ならびに溶接作業の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月23日国際公開、WO03/86695、平成17年 7月28日国内公表、特表2005-522332〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件出願は、2003年3月4日(優先権主張2002年4月5日、スウェーデン王国)の国際出願であって、平成20年6月17日付拒絶理由通知に対して同20年12月22日付で意見書と手続補正書が提出され、同21年10月20日付の最後の拒絶理由通知に対して同22年1月21日付で意見書と手続補正書が提出されたが、同22年1月21日付手続補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないとの理由により同22年8月24日付で却下され、同日付で拒絶査定がなされた。本件審判は該拒絶査定の取消を求めて平成22年12月24日に請求されたものである。 請求人は審判請求書において、平成22年1月21日付手続補正は、同21年10月20日付拒絶理由通知書の拒絶理由に示す事項について、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、改正前特許法第17条の2第4項第4号の規定を満たすものであるから、同22年1月21日付手続補正書を却下し、同21年10月20日付拒絶理由通知の理由により拒絶すべきものとした拒絶査定には理由がない、と主張し、当審が同23年8月30日付拒絶理由通知において、同22年8月24日付の補正却下の決定を取消すとともに、新たに拒絶理由を通知したのに対し、同24年2月2日付で意見書と手続補正書が提出されている。 2.当審の拒絶理由の概要 当審が平成23年8月30日付で通知した拒絶理由は、概略、平成22年1月21日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の、 (1)請求項1,2,13,17?19,20,35,36に係る発明は特開2000-263266号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開2000-176667号公報(以下、「刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、 (2)その他の請求項に係る発明についても検討すると、いずれも当然の設計、もしくは単に発明のカテゴリーの違いによる記載の違いにすぎないため、同様に特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、 (3)請求項1の記載が不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、 というものである。 3.本件出願の発明 本件出願の請求項1ないし30に係る発明は、平成24年2月2日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は以下のとおりである。 「溶接対象となる部材(14)の溶接領域を監視するための装置(2)であって、該装置は、前記溶接領域を撮像するための手段(3)と、前記撮像手段(3)の中または前方に設けられた少なくとも1つのフィルタ(4)と、前記溶接領域に多くの紫外線スペクトル線を有する紫外線を放射可能な照明するための手段(5)と、を備え、前記フィルタ(4)は、溶接領域にて反射された紫外線放射を前記紫外線スペクトル線のうち1本にほぼ対応した波長でフィルタリングすることに適したバンドパスフィルタから成り、前記撮像するための手段(3)は、前記フィルタリングされた紫外線放射に基づいて、溶接領域の映像を撮像するように配置され、前記バンドパスフィルタのフィルタリングする波長が、280?450nmの波長範囲内にあることを特徴とする監視装置。」(以下、「本件発明」という。) 4.刊行物記載の発明または事項 4.1 刊行物1 a.(発明の詳細な説明、段落34?36) 「【0033】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態の例について図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例である装置の構成を示す概要図である。図1において1は溶接材料である鋼板、2はレーザ、3はレーザ光、4は溶接前のシーム部、5は溶接ビード、6は投光器、7は撮像装置、8はレーザ照射位置検出手段、9はシーム位置検出手段、10は自動閾値設定手段である。 【0034】鋼板1はパイプ形状に曲げられ、その付き合わせ部(シーム部)にレーザ2からレーザ光3が照射される。これにより、レーザ光の照射部においてはシーム部3の温度が上昇し、鋼板が溶解すると共にプラズマが発生する。シーム部3が溶解して溶接され、溶接ビード5が形成されて、溶接鋼管が製造される。溶接鋼管は図の右側に走行し、溶接は連続的に行われる。 【0035】投光器6からの光は溶接部(レーザ光照射部の近傍)に照射されている。撮像装置7は、鋼板1によって反射されるこの照射光と、プラズマからの光を撮像する。プラズマからの光は、鋼板1からの反射光に比して非常に強いため、撮像装置の感度を、プラズマからの光により撮像素子が飽和しないような感度とすると、鋼板1からの反射光が十分に観察できなくなる。 【0036】よって、投光器6からの照射光を紫外光とし、撮像装置7の前に紫外線透過フィルタを設けて、そこでレーザ光と、高温で溶けた材料から出るプラズマ光の可視及び赤外光の光量を低減させる。これにより、照射を行っているレーザそのものは見えなくなるが、溶けた材料から出るプラズマ光は減光されて検出することができる。このプラズマ光の位置はレーザを照射し溶けた材料の位置で発生するため、プラズマ光の位置を検出することでレーザ照射位置及び溶融池の位置を検出したことと等価になる。」 b.(同、段落43) 「【0043】最適な溶接を行うためにはレーザ照射位置を検出すると同時にシーム4の位置を検出し位置関係を制御する必要がある。溶接前のシーム部4は、溶接する材料を付き合わせ、多少隙間があいた状態になっており、光を当ててもシーム4位置からは光が反射しにくい。この性質を利用して、図1、図3の投光器6によってシーム4位置周辺の材料に光を当て、撮像装置7でその照射面を撮像し、シーム位置検出手段9により、シーム位置を、撮像画面において、周辺より暗い場所として検出する。」 上記記載において、紫外線透過フィルタは溶接部の鋼板によって反射される投光器からの紫外線照射光を透過させるものであることは自明であって、「溶接部にて反射された紫外線照射光をフィルタリングすることに適したフィルタ」ということができる。 そこで、技術常識を考慮しつつ、刊行物1の記載を本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。 「溶接材料となる鋼板に対し、レーザ照射位置またはシーム位置を検出するための検出装置であって、該装置は、前記溶接部を撮像するための撮像装置と、前記撮像装置の前方に設けられた少なくとも1つの紫外線透過フィルタと、前記溶接部に紫外光を放射可能であって前記溶接部を照明するための投光器と、を備え、前記紫外線透過フィルタは、溶接部にて反射された紫外線照射光をフィルタリングすることに適したフィルタから成り、前記撮像装置は、前記フィルタリングされた紫外線照射光に基づいて、溶接部の映像を撮像するように配置されている検出装置。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。) 4.2 刊行物2 a.(発明の詳細な説明、段落10) 「【0010】本発明に係るレーザ溶接加工モニタリング装置では、モニタリング光をレーザ加工部分に照射する。モニタリング光のうち開口部内に照射した光は反射せず開口部の外側に照射した光が反射する。なお、溶接加工部は高熱になっていて温度に応じて赤外線を主体とする熱輻射を行っている。また強い溶接用レーザを受けており加工部から反射してモニタリング装置に入射する。モニタリング装置は、モニタリングに用いる光を透過するバンドパスフィルタを介して光検出を行っている。モニタリング光は溶接用レーザ光と波長が異なるので、バンドパスフィルタで溶接用レーザ光を減衰させてモニタリング光のみを検出することができる。」 b.(同、段落13) 「【0013】なお、モニタリング光として少なくとも2個の異なる波長を有する光を用いることができる。異なる波長の光をそれぞれ開口部に照射し、開口部の面積変動を表す信号を取得し互いに照会しながら判定すれば、より確実に開口部形状の不安定状態を検出することができ、判定漏れを防ぐことができる。アルゴン(Ar)レーザの2波長同時発振光をモニタリング光として用いることができる。Arレーザは、488.0nmと514.5nmの2つの波長のレーザを同時に発振するので、これを例えばYAGレーザ(波長1064nm)など赤外線領域の溶接用レーザに対して使用すると、簡単に溶接用レーザと異なる2波長のモニタリング光を得ることができる。」 c.(同、段落28) 「【0028】ワーク13の表面に照射したモニタリング光は、通常はキーホール15の開口内部に射入し吸収されるが、開口部がワーク13の溶融物で塞がれたりキーホール15の内壁が膨らんで疑似黒体でなくなると、それら部分で反射して第2レンズ群19で集光されコーティングミラー27で反射し、さらにハーフミラー25により垂直方向に反射し第2の凸レンズ29で集光してフィルタ33を透過し受光素子31に入射する。フィルタ33はモニタリング光の中心波長部分を透過するバンドパスフィルタで、受光素子31の前面に設けられている。受光素子31はフォトセルなど応答性の速い感光素子で、フィルタ33を透過する光に対応する検出信号を図外の光度分析装置に送信する。」 d.(同、段落32,33) 「【0032】 【実施例2】第2の実施例は、第1の実施例と比較して、2個以上の異なる波長の光をモニタリング光とし、それぞれの検出信号相互間で信号処理してより確実にキーホール挙動を検出するようにしたところが異なるもので、その他の部分には差異がない。図7は本実施例の原理を説明する図面である。第1のモニタリング光41と第2のモニタリング光42を同時にワーク43の溶接箇所に照射する。 【0033】溶接部に正常なキーホール45が形成されている間は照射されたモニタリング光はキーホール45中に吸収され外部に出てこない。キーホール45が不安定になると溶融物がキーホール45の開口部を狭めたり蓋44を形成するので、モニタリング光41,42が反射して受光素子46,48に入射する。第1の受光素子46には第1のバンドパスフィルタ47が付属し、第2の受光素子48には第2のバンドパスフィルタ49が付属している。第1バンドパスフィルタ47は第1モニタリング光41のみを透過するフィルタで、第2バンドパスフィルタ49は第2モニタリング光42のみを透過するフィルタである。」 上記記載を整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認められる。 「レーザ溶接加工モニタリング装置において、2個の異なる波長を有するモニタリング光を溶接加工部に放射可能なアルゴンレーザと、溶接加工部にて反射された光線を前記2個の異なる波長のそれぞれにほぼ対応した波長でフィルタリングすることに適した2個のバンドパスフィルタとを備えること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。) 5.対比 本件出願の請求項1の発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「溶接材料となる鋼板」、「溶接部」、「撮像装置」、「紫外線透過フィルタ」、「紫外光を放射可能であって前記溶接部を照明するための投光器」、「反射された紫外線照射光」が、前者の「溶接対象となる部材」、「溶接領域」、「撮像手段」、「フィルタ」、「紫外線スペクトル線を有する紫外線を放射可能な照明するための手段」、「反射された紫外線放射」にそれぞれ相当することは明白である。また、後者において「レーザ照射位置またはシーム位置を検出する」ことが、前者において「溶接領域を監視する」ことに相当することも明白であるため、後者の「検出装置」は、前者の「監視装置」に相当する。 したがって、両者は以下の点で一致及び相違すると認められる。 <一致点> 「溶接対象となる部材の溶接領域を監視するための装置であって、該装置は、前記溶接領域を撮像するための手段と、前記撮像手段の前方に設けられた少なくとも1つのフィルタと、前記溶接領域に紫外線スペクトル線を有する紫外線を放射可能な照明するための手段と、を備え、前記フィルタは、溶接領域にて反射された紫外線放射をフィルタリングすることに適したフィルタから成り、前記撮像手段は、前記フィルタリングされた紫外線照射光に基づいて、溶接部の映像を撮像するように配置されている監視装置。」である点。 <相違点> 前者では、溶接領域を照明する手段が、多くの紫外線スペクトル線を有する紫外線を放射可能であり、フィルタが、溶接領域にて反射された紫外線放射を前記紫外線スペクトル線のうち1本にほぼ対応した波長でフィルタリングすることに適したバンドパスフィルタから成り、該バンドパスフィルタのフィルタリングする波長が、280?450nmの波長範囲内にあるのに対し、後者ではこのようなものであるのか不明である点。 6.当審の判断 上記相違点について検討する。 刊行物2記載の事項において、レーザ溶接加工モニタリング装置が溶接領域を監視する装置であって、アルゴンレーザが2個の異なる波長を有する、すなわち複数のスペクトル線を有するモニタリング光で溶接領域を照明し、2個のバンドパスフィルタのそれぞれが複数のスペクトル線のうち1本にほぼ対応した波長でフィルタリングすることは、当業者が容易に理解し得る。 刊行物1記載の発明と刊行物2記載の事項とが、溶接領域を光学的に監視するという同一の技術分野に関するものであることを考慮すると、刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用し、刊行物1記載の発明の紫外線を放射する照明手段を、複数の紫外線スペクトル線を有する紫外線を放射可能なものとするとともに、フィルタを紫外線スペクトル線のうち1本にほぼ対応した波長でフィルタリングすることに適したバンドパスフィルタとすることは、当業者であれば容易に想到し得る。「複数の紫外線スペクトル」を、2個より多い、「多数の紫外線スペクトル」とすることは、必要に応じて当業者が適宜採用し得る設計である。 また、本件出願の明細書及び図面にはバンドパスフィルタのフィルタリングする波長を280?450nmの波長範囲内とすることの技術的な意義について何ら記載されていないが、「紫外線」とは通常、400nm以下の波長を有する光線を指すこと、及び200nm以下の波長を有する紫外線を用いるには真空雰囲気が必要であること、は普通に知られている(例えば、「理化学辞典」第5版、岩波書店1998年、p.560 参照。)ため、溶接領域を監視するに際し、バンドパスフィルタのフィルタリングする波長を200?400nmの近傍である280?450nmの波長範囲内に選定することは、当業者にとっては容易になし得る設計に過ぎない。 そして、本件発明には、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び周知の技術事項に基づいて普通に予測し得る範囲を超える格別の作用効果を見出すこともできないため、本件発明は刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.むすび 以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件出願の請求項2ないし30に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 . |
審理終結日 | 2012-02-21 |
結審通知日 | 2012-02-28 |
審決日 | 2012-03-12 |
出願番号 | 特願2003-583692(P2003-583692) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B23K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中島 昭浩 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 長屋 陽二郎 |
発明の名称 | 溶接領域の監視装置および監視方法ならびに溶接装置ならびに溶接作業の制御方法 |
代理人 | 重信 和男 |
代理人 | 中野 佳直 |
代理人 | 高木 祐一 |
代理人 | 清水 英雄 |
代理人 | 溝渕 良一 |
代理人 | 堅田 多恵子 |
代理人 | 秋庭 英樹 |