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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08B
管理番号 1260683
審判番号 不服2009-1000  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-13 
確定日 2012-07-24 
事件の表示 平成10年特許願第534304号「デルマタン二硫酸、トロンビン生成および補体活性化阻害剤」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月13日国際公開、WO98/34959、平成15年 4月 2日国内公表、特表2003-512807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、1997年7月3日(パリ条約による優先権主張1997年2月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年2月12日付け拒絶理由通知に対して平成20年8月26日付けで手続補正がされたが、平成20年10月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成21年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされたものである。

2.平成21年1月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年1月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明

平成21年1月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1、8?10は、
「【請求項1】 高極性溶媒を使用して調製され、L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の約75%より多い繰返しを有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1であるデルマタン硫酸を含む、トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害するための組成物。
【請求項8】 高極性溶媒を使用して調製され、L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の繰返しを約75%より多く有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1であるデルマタン硫酸の医薬としての有効量を含有する、トロンビンの生成を阻害するための組成物。
【請求項9】 高極性溶媒を使用して調製され、L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の繰返しを約75%より多く有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1であるデルマタン硫酸の医薬としての有効量を含有する、補体活性化を阻害するための組成物。
【請求項10】 高極性溶媒を使用して調製され、L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の繰返しを約75%より多く有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1であるデルマタン硫酸の医薬としての有効量を含有する、血管内膜過形成を阻害するための組成物。」と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1、8?10に係る発明の「組成物」に「高極性溶媒を使用して調製され、」(以下、「補正1」という。)との限定を付加し、補正前の請求項1に係る発明の「組成物」に「トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害するための」(以下、「補正2」という。)との限定を付加し、補正前の請求項8?10に係る発明の「組成物」に「ための」(以下、「補正3」という。)という記載を付加するものである。
補正1は、補正前の請求項1、8?10に係る発明の「組成物」を調製する条件を限定するものであり、本願当初明細書(特許法第184条の5第1項の規定による書面)の実施例2?4の記載を根拠とするものである。
補正2は、補正前の請求項1に係る発明の「組成物」の用途を限定するものであり、本願当初明細書の第20頁第18?20行(特表2003-512807号公報の第23頁第7?8行)における「極性溶媒、好ましくは、水またはホルムアミドのような極性溶媒、またはジメチルホルムアミドのような非プロトン性極性溶媒」(第20頁第18?20行、特表2003-512807号公報の第23頁第7?8行)との記載および実施例1で「ホルムアミド」が用いられていることを根拠とするものである。
すなわち、補正1および補正2は、いずれも平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
補正3は、補正前の請求項8?10に係る発明の「組成物」の用途を明確にするものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明に該当する。

補正後の請求項1についての補正事項である前記補正1および補正2は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の同法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

(2)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-27402号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、ケ,コ,シのタイトル部分以外の下線は当審で付加した)。

ア.「(1)所与のグリコサミノグリカンを有機溶媒に可溶性の塩に変換し、これを有機溶媒中に可溶化し、溶解した塩を硫酸化剤により処理することを特徴とするグリコサミノグリカン即ちGAGの硫酸化方法。」(特許請求の範囲第1項)

イ.「(6)出発時のGAGがD-ガラクトサミン-ウロン酸交互モチーフを主体とすることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の方法。
(7)出発時のGAGがデルマタン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸又はヒアルロン酸、それらのフラクション及びフラグメントから選択されることを特徴とする特許請求の範囲第6項に記載の方法。」(特許請求の範囲第6項および第7項)

ウ.「本発明はグリコサミノグリカンの硫酸化方法に係る。
本発明は更に、硫酸化度が可変な新規グリコサミノグリカン即ちGAG、及びその生物学的適用に係る。」(第5頁右上欄第13?17行)

エ.「GAGは、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸又はヒアルロン酸のような生物学的に活性な天然GAGのオリゴ及び多糖鎖に見出だされる型のウロン酸-アミノ糖(又は逆)の交互モチーフから本質的に形成されていることが知られている。
ウロン酸モチーフは特にD-グルクロン又はL-イズロン酸構造に対応し、アミノ糖モチーフはD-グルコサミン又はD-ガラクトサミン構造に対応する。
特に凝固障害及び血管壁の不全に関連する疾患、特に血栓形成、アテローム性静脈硬化症及び動脈硬化症の予防及び治療用として、或いは組織の老化又は脱毛症のような退行型症状に対抗するために上記天然GAGを治療薬として使用することの重要性は既知である。」 (第5頁左下欄第7行?右下欄第3行)

オ.「本発明の構成によると、上記GAGのグリコシド鎖の糖モチーフの1又は数個の第一又は第二-OH基は保護基により保護されるので、所望に応じて別の位置を硫酸化し、保護基の代わりに所与の基を導入し、更に保護された-OH基を再生することができる。
前記保護基は、アセチル、置換基を有するアセチル、ベンゾイルのようなアシル基から選択される。」(第8頁左上欄第17行?右上欄第7行)

カ.「GAG塩は有機溶媒中に溶解される。より特定的にはジメチル-ホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホトリアミド(HMPT)又はアセトニトリルのような二極性非プロトン性溶媒が使用される。ピリジンを使用してもよい。
有利には、硫酸化剤は無水硫酸SO_(3)とトリメチルアミン(TMA)又はピリジンのような有機塩基との複合体、・・・から選択される。」(第8頁左下欄第7?16行)

キ.「硫酸化反応は、有利には0℃?100℃程度、特に室温程度又はそれ以上の温度で約10?14時間実施される。場合によっては約20℃というような室温より低い温度も使用され得る。
反応条件、特に反応溶媒、温度及び時間は選択反応を実施するのに好適な方法で選択される。
場合によって存在する保護基は、例えばO-アシル特にO-アセチル保護基の場合は鹸化により、例えばベンゾイル基の場合には接触還元により脱離される。」(第8頁右下欄第5?14行)

ク.「有利なことには、本発明により得られるGAGは所与の生物学的特性を特異的に変調することが可能である。」(第10頁右上欄第16?18行)

ケ.「実験1:ヘパリン及び過硫酸化デルマタン硫酸の抗凝血活性の検査
a)ATIII又はHCIIの存在下での因子Xa及びIIaの阻害
テスト物質 (省略) 抗IIA活性
ATIII HCII
IC50
mg/ml
(省略) (省略) (省略) (省略)
デルマタン硫酸 (省略) 100 5.8

過硫酸化
デルマタン硫酸 (省略) 17 0.34
IC 85 1610

抗トロンビン活性(抗IIa)は硫酸化率と共に増加することが確認される。」(第11頁右下欄第18行?第12頁左上欄最下行)

コ.「c)ウサギ体内におけるデルマタン硫酸及び過硫酸化デルマタン硫酸のin vivo 抗血栓症活性

ヒトのトロンボプラスチンを凝塊形成剤として使用するWessler のモデルで得られた結果によれば、用量100μg/kgでの血栓形成の予防は過硫酸化デルマタン硫酸の場合が80%であるのに対し、デルマタン硫酸の場合には40%に過ぎない。」(第12頁左下欄第9?15行)

サ.「本発明の医薬組成物は特にヒト又は動物の血液凝集の特定段階を、特に患者が主として外科手術、アテロームプロセス、腫瘍形成及びバクテリア又は酵素活性体による凝血傷害に起因する過剰凝血性を示す危険がある場合にコントロール(予防又は治療)するのに適している。
ある種の組成物は補体の作用を特に炎症性の症候群、例えばリューマチ様関節炎に係わる炎症性症候群を変化させ得る。実際、観察される傷害のうちあるものは、少なくとも部分的には、補体がある役割を果たす関節レベルに大量の抗原-抗体複合体が存在するために生起することが知られている。」(第16頁左上欄第13行?右上欄第7行)

シ.「実施例6:過硫酸化デルマタン硫酸の製造(IC 85 1610)

a)テトラブチルアンモニウム塩の製造

デルマタン硫酸25mgを酸に変換し(カチオン交換樹脂)次いで水酸化テトラブチルアンモニウムにより中和する。乾燥凍結後46mgの塩が得られる。

b)デルマタン硫酸の過硫酸化

前述のごとく得られた塩(15mg)を複合体トリエチルアミン/SO_(3)(15mg)の添加によりDMF(1mg)中で過硫酸化する。この生成物は水による希釈、Sephadex G25ゲルでのクロマトグラフィ及びイオン交換樹脂によるナトリウムの有機カチオンの交換の後で得られる。」(第18頁左下欄最下行?右下欄第12行)

引用例1の過硫酸化デルマタン硫酸は、DMF(ジメチル-ホルムアミド)中で、デルマタン硫酸に硫酸化剤である複合体トリエチルアミン/SO_(3)を添加して硫酸化することによって得られたものであり(上記カ,シ)、引用例1の組成物は、トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害するための組成物(上記エ,ケ?サ)であるので、引用例1には、「DMF(ジメチル-ホルムアミド)を使用して調製され、デルマタン硫酸を硫酸化して得られた過硫酸化デルマタン硫酸を含む、トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害するための組成物」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

(3)対比

本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「DMF(ジメチル-ホルムアミド)」は、本願補正発明の「高極性溶媒」に相当する。
また、本願補正発明のデルマタン硫酸は、デルマタン硫酸を硫酸化して得られたものである(本願当初明細書の第26頁第8?23行、特表2003-512807号公報の第27頁第8?20行)。
よって、本願補正発明と引用例1発明とは、「高極性溶媒を使用して調製され、デルマタン硫酸を硫酸化して得られた過硫酸化デルマタン硫酸を含む、トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害するための組成物」である点で一致するが、以下の点で相違する。

・相違点
本願補正発明の過硫酸化デルマタン硫酸は「L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の約75%より多い繰返しを有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1である」のに対し、引用例1発明の過硫酸化デルマタン硫酸には、このような特定がされていない点。

(4)相違点についての判断

デルマタン硫酸は、L-イズロン酸->4-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の繰り返しによって構成されるグリコサミノグリカンであり(特表平6-502840号公報の第8頁左上欄、特開昭62-236803号公報の第2頁左下欄第12行?右下欄第4行を参照。)、その化学構造からみて、硫酸化される部位は、4-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン残基のC-6位の-OH基(以下、「ガラクトサミン残基のC-6位」という。)、L-イズロン酸残基のC-2位の-OH基(以下、「イズロン酸残基のC-2基」という。)、L-イズロン酸残基のC-3位の-OH基(以下、「イズロン酸残基のC-3基」という。)、以上3箇所のいずれかである。
ここで、本願補正発明における「L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位」とは、ガラクトサミン残基のC-6位が硫酸化され、イズロン酸残基のC-2基およびC-3基は硫酸化されていない二糖類単位を示す記載であり、「・・・約75%より多い繰返しを有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1である」とは、過硫酸化デルマタン硫酸の硫酸化の程度を示す記載である。
一方、引用例1発明には、硫酸化されている部位および硫酸化の程度を明示する記載はないものの、引用例1の実施例6(上記シ)で示される製造方法は、特にガラクトサミン残基のC-6位の硫酸化を排除するものではないから、前記実施例6で得られた過硫酸化デルマタン硫酸は、ガラクトサミン残基のC-6位が硫酸化されているものを包含していると解される。
そして、引用例1発明の過硫酸化デルマタン硫酸は、硫酸化度(すなわち硫酸化の程度)が可変であり(上記ウ)、糖モチーフの第一又は第二-OH基を保護基により保護することにより硫酸化される部位を選択でき(上記オ)、硫酸化反応の反応条件(特に反応溶媒、温度及び時間)を、選択反応を実施するのに好適な方法で選択できるものである(上記キ)。
さらに、引用例1には、デルマタン硫酸の過硫酸化により生物学的特性を特異的に変調できることが記載され(上記ク)、抗トロンビン活性(抗IIa)および抗血栓症活性が硫酸化率(すなわち硫酸化の程度)と共に増加することを具体的に示す実験結果が記載されている(上記ケおよびコ)。
このように、引用例1発明の過硫酸化デルマタン硫酸は、その生物学的特性を勘案して、硫酸化される部位や硫酸化の程度を適宜変更することを前提とするものであるから、当業者は、過硫酸化デルマタン硫酸の生物学的特性を勘案して、硫酸化されうる上記3箇所の部位の内、ガラクトサミン残基のC-6位を硫酸化することを試み、かつ、硫酸化の程度を適切な範囲にすることを、容易に想到しえたと言える。
そして、本願当初明細書には、生物学的特性である「トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害する」作用について、デルマタン硫酸と本願補正発明の過硫酸化デルマタン硫酸とを比較した実験結果は示されているものの、イズロン酸残基のC-2基および/またはC-3基が硫酸化されている場合と硫酸化されていない場合とを比較した実験結果、硫酸化の程度が本願補正発明の範囲内である場合と範囲外である場合とを比較した実験結果は、いずれも記載されていない。
さらに、本願当初明細書における実施例以外の記載を参酌しても、本願補正発明の過硫酸化デルマタン硫酸を「L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の約75%より多い繰返しを有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1である」のように特定したことに起因する、引用例1の記載から予測できる範囲を超える技術的意義は認められない。
よって、本願補正発明により得られた効果は、引用例1の記載からみて(特に上記エ,ク?サ)、当業者が予測し得た範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成21年2月12日付け手続補正書(方式)において以下の主張をしている。
(a)「本願発明では、原料であるデルマタン硫酸を可溶化するのに非常に極性の高い溶媒(高極性溶媒)を使用していることにより、イズロン酸を硫酸化しないで、N-アセチル-D-ガラクトサミン部分が選択的に二硫酸化されたデルマタン硫酸が得られるのである(明細書第20頁第17行以下)。
これにより、本願発明の化合物は、別紙添付の図3?4に示すようにS/C比が2.1より大きいもの(>2.1)は、その製造方法から必然的に含まれない。これを明確にするために、特許請求の範囲で限定した。」(「(3)本願発明と引用発明との対比」の「(C)」、なお、下線は当審で付加した。)
(b)「引用文献1に記載の製造法は、トリエチルアミン中間体を経由する方法であり、全て同じようなS/C比を与えるものである。」((「(3)本願発明と引用発明との対比」の「(E)」、注:「S/C比」は「硫酸塩対カルボン酸塩の比」を意味する。)
(c)本願補正発明の過硫酸化デルマタン硫酸は、AT(アンチトロンビン)依存性仲介がない。(「(3)本願発明と引用発明との対比」の「(G)」)

上記主張(a)における「非常に極性の高い溶媒」とは、「極性溶媒、好ましくは、水またはホルムアミドのような極性溶媒、またはジメチルホルムアミドのような非プロトン性極性溶媒」(本願当初明細書の第20頁第18?20行、特表2003-512807号公報の第23頁第7?8行)を意味すると思われるが、引用例1発明でもDMF(ジメチル-ホルムアミド)を用いており(上記シ)、本願当初明細書の記載および技術常識を参酌しても、上記「非常に極性の高い溶媒」を使用することにより「必然的に」「S/C比が2.1より大きいもの(>2.1)」が含まれないことを裏付ける根拠は不明である。
また、上記主張(b)について、引用例1の記載および技術常識を参酌しても、トリエチルアミン中間体を経由することにより、全て同じようなS/C比(すなわち硫酸塩対カルボン酸塩)となることを裏付ける根拠は不明である。
仮に、上記主張(a)および主張(b)を裏付ける根拠が存在するとしても、引用例1発明でもデルマタン硫酸の可溶化に「非常に極性の高い溶媒」であるDMF(ジメチル-ホルムアミド)を用いており(上記シ)、しかも、既に検討したように、引用例1発明の過硫酸化デルマタン硫酸は、その生物学的特性を勘案して、硫酸化される部位や硫酸化の程度を適宜変更できるものであるから、本願補正発明の過硫酸化デルマタン硫酸を得るにあたり、特段の支障となる事項は何ら存在しない。
さらに、上記主張(c)について、AT(アンチトロンビン)依存性仲介か非依存性仲介かの違いは、過硫酸化デルマタン硫酸が抗トロンビン(抗IIa)活性を奏するに至るまでの作用機序の違いを示すものにすぎず、最終的に得られる抗IIa活性を比較した場合、本願補正発明で得られた活性と引用例1発明で得られた活性(上記ケ)とに実質的な差異はない。
よって、請求人の上記主張(a)?(c)は、いずれも認められない。

(4)補正却下についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

平成21年1月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年8月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「L-イズロン酸->4,6-ジ-O-硫酸化-N-アセチル-D-ガラクトサミン二糖類単位の約75%より多い繰返しを有し、且つ硫酸塩対カルボン酸塩の比が約1.5から2.1であるデルマタン硫酸を含む組成物。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断

本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、本願補正発明の「組成物」を調製する条件および用途を限定する事項である「高極性溶媒を使用して調製され、」および「トロンビンの生成、補体活性化、および/または血管内膜過形成を阻害するための」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の「組成物」を特定するために必要な事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-11 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-14 
出願番号 特願平10-534304
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (C08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 玲英子  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 平井 裕彰
前田 佳与子
発明の名称 デルマタン二硫酸、トロンビン生成および補体活性化阻害剤  
代理人 三宅 正夫  

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