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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B01J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J |
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管理番号 | 1260694 |
審判番号 | 不服2009-22683 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-11-04 |
確定日 | 2012-07-26 |
事件の表示 | 特願2005- 91800「医療用途等有害物質分解材」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開、特開2006-272062〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成17年3月28日の出願であって、平成20年3月28日付けで拒絶理由が通知され、同年5月28日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに明細書の記載に係る手続補正書が提出され、その後、平成23年10月17日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が同年12月12日に提出されたものである。 第2.平成21年11月4日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年11月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] 平成21年11月4日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、 「【請求項1】 大気中に含まれるエタノールを除去する分解材において、絹素材を焼成した絹焼成体に、少なくともフタロシアニンと光触媒を含む触媒を担持させ、光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質を除去する事を特徴とする分解材。 【請求項2】 前記絹焼成体が窒素原子を18wt%?35wt%含む事を特徴とする請求項1記載の分解材。 【請求項3】 前記絹焼成体が賦活処理されて表面に多数の微細ホールが形成されている事を特徴とする請求項1又は2記載の分解材。 【請求項4】 前記フタロシアニン触媒が1種類もしくは数種類の金属フタロシアニンの混合物である事を特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の分解材。 【請求項5】 前記光触媒がアナターゼ型酸化チタンである事を特徴とする請求項1?4のいずれか1項記載の分解材。 【請求項6】 前記絹焼成体の表層面及び内層面にフタロシアニンを担持し、前記絹焼成体の表層面、又は表層面及び内層面に光触媒を担持した事を特徴とする請求項1?5のいずれか1項記載の分解材。」 と補正された。 この補正は、本件補正前の平成20月5月28日付けの手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項として、「光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質を除去する」という事項を追加する補正を含むものであるが、当該事項は補正前の各請求項に記載されておらず、請求項1のいずれの事項を限定するものでもない。また、上記の補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないことも明らかである。 したがって、この補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、予備的に、前記補正事項が特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとしても、本件手続補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1の発明(以下、「補正後発明1」という。)は、以下に記載の理由で、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反し、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 1.補正後発明1 補正後発明1は、平成21年11月4日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 大気中に含まれるエタノールを除去する分解材において、絹素材を焼成した絹焼成体に、少なくともフタロシアニンと光触媒を含む触媒を担持させ、光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質を除去する事を特徴とする分解材。」 2.刊行物に記載された事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2005/007287号(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「[1] 絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体に触媒を担持させたことを特徴とする有害物質分解材。」(請求の範囲、請求項1) (イ)「[5] 前記触媒がフタロシアニンであることを特徴とする請求項1?3いずれか1項記載の有害物質分解材。 [6] 前記触媒が酸化チタンであることを特徴とする請求項1?3いずれか1項記載の有害物質分解材。」(請求の範囲、請求項5、6) (ウ)「発明の効果 本発明によれば、悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭機能に優れる。 特に、絹素材を低温で焼成することによって、フレキシブル性が維持され、種々の形状に対応できるので、ファンヒーター、エアコン、空気清浄機、自動車、その他の機器のフィルター等として好適に用いることができる。」(段落[0004]) (エ)「この触媒の担持方法は通常の工程で行える。 たとえば、絹焼成体を、硝酸溶液あるいは過酸化水素水中に浸漬して前処理、乾燥をした後、絹焼成体に塩化白金酸溶液を塗布、あるいは絹焼成体を該溶液中に浸漬して絹焼成体に白金を担持させるようにする。同様に、前記前処理をした絹焼成体に、フタロシアニン溶液あるいは酸化チタン溶液を噴霧するとか、絹焼成体をこれら溶液に浸漬するなどして、絹焼成体表面にフタロシアニンあるいは酸化チタンを担持させるのである。」(段落[0006]、明細書第6頁第13?19行) (オ)「触媒としてフタロシアニンを担持させた場合には、常温で触媒作用を発揮する。フタロシアニンの場合には、特に硫黄系化合物の分解に好適であり、メチルメルカプタン、硫化水素、ジスルフィド、スカトール、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解、消臭に好適である。 また、触媒として酸化チタンを用いた場合には、公知のように、紫外線の存在下で、ほとんど全ての有害物質を分解、消臭する。特に、メチルメルカプタン、硫化水素、スカトール、アンモニア、トリメチルアミン、ジスルフィド、ニコチンなどの分解、消臭に有効である。」(段落[0006]、明細書第7頁下から第5行?第8頁第3行) (2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-174831号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (カ)「前記消臭材料として、金属フタロシアニン化合物消臭材およびグラフト重合消臭材のうちのいずれか一方もしくは両者に代えて、あるいは上記いずれか一方もしくは両者とともに光触媒材料を用いたことを特徴とする請求項4記載の消臭フィルタ。」(特許請求の範囲、請求項5) (キ)「本発明は、家庭,事務所および車両その他の室内で用いられる消臭フィルタに関し、特に空気清浄器に好適な消臭フィルタ(脱臭フィルタ)に関する。」(段落【0001】) (ク)「・・・消臭材料が金属フタロシアニン化合物消臭材およびグラフト重合消臭材のうちのいずれか一方もしくは両者である場合には、金属フタロシアニン化合物消臭材が硫黄系臭気やアルデヒド臭気等の酸性臭気ガスに対して特に強い吸着機能および触媒機能を発揮する一方、グラフト重合消臭材が窒素系臭気等のアルカリ性臭気ガスに対して特に強い吸着機能と触媒機能とを発揮する。」(段落【0017】) (ケ)「・・・消臭材料の一部または全部として例えばチタニア(TiO_(2))等を主成分とする光触媒材料が含まれている場合には、酸性臭気ガスやアルカリ性臭気ガスに効果があるのに加えて、NOxガス等の有害ガス成分の分解に効果がある。この光触媒材料は紫外光に当てることで活性化して、上記の有害ガス成分に対して触媒機能を発揮する。」(段落【0018】) 3.対比、判断 (1)刊行物1に記載された発明 ア.刊行物1の記載事項(ア)には、「絹素材を・・・焼成して炭化した絹焼成体に触媒を担持させた・・・有害物質分解材」が記載されており、同記載事項(イ)には、絹焼成体に担持される触媒が「フタロシアニン」又は「酸化チタン」であることが記載されている。 イ.同記載事項(ウ)には、刊行物1に記載の有害物質分解材は「悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭機能」を有するものであり、同記載事項(オ)によると「触媒としてフタロシアニンを担持させた場合には、常温で触媒作用を発揮する。フタロシアニンの場合には、特に硫黄系化合物の分解に好適であり、メチルメルカプタン、硫化水素、ジスルフィド、スカトール、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解、消臭に好適」であり、「触媒として酸化チタンを用いた場合には、公知のように、紫外線の存在下で、ほとんど全ての有害物質を分解、消臭する。特に、メチルメルカプタン、硫化水素、スカトール、アンモニア、トリメチルアミン、ジスルフィド、ニコチンなどの分解、消臭に有効である」ものであるから、上記アの有害物質分解材は、「悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質」、「メチルメルカプタン、硫化水素、ジスルフィド、スカトール、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類」、「メチルメルカプタン、硫化水素、スカトール、アンモニア、トリメチルアミン、ジスルフィド、ニコチン」等の有害物質を吸着、分解、消臭するものである。そして、同記載事項(ウ)には、上記アの有害物質分解材は「ファンヒーター、エアコン、空気清浄機・・・等として好適に用いることができる」ことも記載されている。 以上を踏まえると、刊行物1には、 「ファンヒーター、エアコン、空気清浄機に好適に用いることができ、悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭をするための分解材において、絹素材を焼成した絹焼成体に、フタロシアニン又は酸化チタンを触媒として担持させた有害物質分解材。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。 (2)一致点と相違点 補正後発明1と刊行物1発明とを対比する。 ア.刊行物1発明の有害物質分解材は、「ファンヒーター、エアコン、空気清浄機に好適に用いることができる」ものであり、「悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭をする」ものであるから、大気中の有害物質に対して作用を及ぼすものといえる。そして、ファンヒーター、エアコン、空気清浄機の機能からみて、該分解材は大気中に含まれる有害物質を除去するものであることは明らかである。 イ.そうすると、補正後発明1と刊行物1発明は、 「大気中に含まれる有害物質を除去するための分解材において、絹素材を焼成した絹焼成体に、触媒を担持させた分解材。」である点で一致し、下記(A)?(C)の点で相違する。 相違点(A);補正後発明1の分解材が「大気中に含まれるエタノールを除去する」ものであるのに対して、刊行物1発明の分解材は「ファンヒーター、エアコン、空気清浄機に好適に用いることができ、悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭をする」ものである点。 相違点(B);絹焼成体に担持される触媒が、補正後発明1では「少なくともフタロシアニンと光触媒を含む」ものであるのに対して、刊行物1発明は「フタロシアニン又は酸化チタン」である点。 相違点(C);補正後発明1が「光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質を除去する」ものであるのに対して、刊行物1発明はかかる特定がない点。 (3)相違点についての検討 ア.相違点(A)について ア-1 刊行物1発明の有害物質分解材は、「ファンヒーター、エアコン、空気清浄機に好適に用いることができ、悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭をする」ものであるから、上記したように大気から有害物質を除去するためのものである。 ア-2 そして、本願出願前に頒布された刊行物である特許第2701923号公報の第2頁第4欄第44?46行及び実施例にも記載されるように、「一般的な悪臭成分」として「アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エタノール、メタノール」は本願の出願前から周知のものであるから、悪臭の除去に用いられる刊行物1発明の分解材を一般的な悪臭成分であるエタノールの除去に用いることは当業者であれば容易に想到し得るものである。 イ.相違点(B)について イ-1 まず、刊行物1発明の「酸化チタン」についてみてみる。 刊行物1発明の「酸化チタン」は、刊行物1の記載事項(オ)に「紫外線の存在下」で有害物質を分解、消臭することが記載されており、この「紫外線」は「光」の一種であることは明らかであるから、上記「酸化チタン」は光触媒であるといえる。酸化チタンが光触媒であることについては、刊行物2の記載事項(ケ)において「消臭材料の一部または全部として例えばチタニア(TiO_(2))等を主成分とする光触媒材料が含まれている場合・・・。この光触媒材料は紫外光に当てることで活性化して、上記の有害ガス成分に対して触媒機能を発揮する。」との記載からも明らかである。してみると、刊行物1発明では、絹焼成体に担持される触媒は、フタロシアニン又は光触媒であるといえる。 イ-2 次にエタノールを光触媒により分解することについてみてみる。 本願出願前に頒布された刊行物である「堀雅宏 他,室内環境におけるアセトアルデヒドの生成メカニズム,環境の管理,2004年,52巻」の第103頁第19?26行にも、 「3.3 光触媒型空気清浄機における生成 エチルアルコールは日本の室内環境には比較的多い成分のひとつである。光触媒型空気清浄機にエチルアルコールが導入された場合に中間酸化物のアセトアルデヒドの濃度が増加した(表3)。この結果から光触媒型空気清浄機はVOCを二酸化炭素と水に分解する過程で不完全酸化成分を排出する可能性があることが示唆される。」と記載されるように、光触媒を用いてエチルアルコール(エタノール)を分解する過程において中間酸化物であるアルデヒドが発生することもまた、本願の出願時において技術常識であるといえ、アルデヒドが有害物質であることは、文献を挙げるまでもなく広く知られているところである。 イ-3 してみると、刊行物1発明において、光触媒を用いて有害物質を分解、消臭するにあたり、光触媒による分解時に生成するアルデヒド成分を除去しようと考えることは、当業者にとって自然なものである。 イ-4 ここで、刊行物2の記載をみてみる。 刊行物2には、記載事項(カ)において、「消臭材料として、金属フタロシアニン化合物消臭材およびグラフト重合消臭材の・・・いずれか一方もしくは両者とともに光触媒材料を用いた・・・消臭フィルタ」が記載されており、同記載事項(キ)によると上記「消臭フィルタ」は、「特に空気清浄器に好適な消臭フィルタ(脱臭フィルタ)に関する」ものであるから、空気の清浄に好適で脱臭機能を有することは明らかである。してみると、刊行物2には、脱臭機能を有する触媒として、フタロシアニンとともに光触媒を含むものが記載されているといえる。 イ-5 また、刊行物2の記載事項(ク)に「消臭材料が金属フタロシアニン化合物消臭材・・・である場合には、金属フタロシアニン化合物消臭材が硫黄系臭気やアルデヒド臭気等の酸性臭気ガスに対して特に強い吸着機能および触媒機能を発揮する・・・。」と記載されているように、フタロシアニンがアルデヒド臭気に対して強い吸着機能を及び触媒機能を発揮するものであるから、刊行物1発明の触媒として、刊行物2に記載されたフタロシアニンとともに光触媒を含むものを採用することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。 ウ.相違点(C)について ウ-1 上記イ-2で述べたように、光触媒を用いてエタノールを分解する過程において中間酸化物であるアルデヒドが発生することが技術常識であり、フタロシアニンがアルデヒド臭気に対して強い吸着機能及び触媒機能を有することは、上記イ-5で述べたように周知であるから、光触媒とフタロシアニンの両方を触媒として担持させた際には、光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質がフタロシアニンによって分解されるとみるのが自然であるから、上記相違点(C)に係る補正後発明1の発明特定事項は当業者が適宜なし得ることである。 (4)審判請求人の主張についての検討 請求人は、平成20年5月28日付けの意見書において、本件特許出願前において絹焼成体に複数の触媒を担持させることが困難であり、フタロシアニンと光触媒とを併用することで、顕著な効果を奏すると主張しているが、補正後発明1は【0014】に「絹焼成体に担持するフタロシアニンと光触媒の塗布方法は、最初の触媒が溶解した薬液を塗布する第一次塗布後、乾燥工程を挟み、他方の触媒が溶解した薬液を塗布する第二次塗布を行い、最後に乾燥工程を実施する。また、担持剤であるフタロシアニンと光触媒を混合した溶液にて一度に塗布工程を行ってもよい。」と記載され、【0015】に「第一次塗布では、含浸法、スプレー法、スピンコート法等様々な手法があるが、いずれを選んでもよい。」と記載されているように、ごく一般的な塗布方法が採用できるものであり、その実施例においても、含浸またはスプレー法による塗布を採用しているすぎない。一方、刊行物1発明においても、記載事項(エ)に噴霧(スプレー)や浸漬(含浸)により担持させることが記載されていることからみても、補正後発明1の触媒の担持方法が当業者の技術常識を超える特別なものとは認められない。また、補正後発明1の実施例といえる有害物質除去剤Dは、比較例といえる有害物質除去剤B,Cとは、触媒担持量が異なるものであるから、併用によるある程度の効果は当業者であれば予測できるものであり、格別な効果があるとはいえない。よって、この主張は採用できない。 さらに、請求人は、平成23年12月12日付けの回答書において、刊行物1発明は「絹焼成体にフタロシアニンと光触媒のうちのいずれか一方のみを担持させて、タバコのヤニや硫化水素ガス等の単一の有害物質を吸着、分解することが単に開示されるにすぎず、引用例1(当審注;刊行物1のこと。以下同様。)には、エタノールを光触媒で分解するに際して、他の有害物質が副生成物として発生することについては一切着目するところはありません。」と主張するが、刊行物1発明は、その記載事項(ウ)にも記載されているように、「悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭機能に優れる」ものであり、その記載事項(オ)に「触媒としてフタロシアニンを担持させた場合には、常温で触媒作用を発揮する。フタロシアニンの場合には、特に硫黄系化合物の分解に好適であり、メチルメルカプタン、硫化水素、ジスルフィド、スカトール、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解、消臭に好適である。 また、触媒として酸化チタンを用いた場合には、公知のように、紫外線の存在下で、ほとんど全ての有害物質を分解、消臭する。特に、メチルメルカプタン、硫化水素、スカトール、アンモニア、トリメチルアミン、ジスルフィド、ニコチンなどの分解、消臭に有効である。」と記載されているようにに、単一の有害物質を吸着、分解することのみを記載したものではない。そして、エタノールが一般的な悪臭成分であることは上記(3)のア-1で述べたように本願出願前より周知の事項であるし、エタノールを光触媒で分解するに際して、他の有害物質が副生成物として発生することについても上記(3)のイ-2で述べたように本願出願前より周知の事項であるから、この主張も採用できない。 加えて、請求人は、同回答書において、刊行物2には、「金属フタロシアニン化合物消臭材とチタニアを主成分とする光触媒材料とを不織布に補足させることにより、酸性臭気ガスやアルカリ性臭気ガスに加えてNOx等の有害ガス成分を分解することが単に開示されるにすぎず、本願発明のように、エタノールの分解に際して発生する副生成物を処理可能とすることも、フタロシアニンと触媒とを絹焼成体に担持させることも一切開示されておりません。」と主張し、「引用例3(当審注;刊行物2のこと。)は消臭を目的・・・とするものであって、本願発明とはフタロシアニン及び光触媒を併用することの目的も異なればそれによる効果(結果)も明らかに異なるのであるから、これらの引用例3・・・に記載の技術を引用例1に容易に適用できるとする根拠にはなり得ない」とも主張している。 しかしながら、刊行物2の消臭とは、その記載事項(キ)の記載からみて脱臭を目的とするものであるから、本願補正発明1とその目的を同じくするものであり、刊行物1発明も悪臭の除去すなわち脱臭を目的とするものであるから、これらの目的は臭気成分の除去という点で共通するものである。そして、刊行物2に記載の酸性臭気ガスは、その記載事項(ク)に記載されているようにアルデヒド臭気を含むものであり、同記載事項(ク)には、フタロシアニンがこのアルデヒド臭気に対して強い吸着機能及び触媒機能を有することも記載されている。してみると、光触媒で一般的な悪臭成分であるエタノールを分解すればアルデヒドが生成することは、上記(3)のイ-2で述べたように本願出願前より周知の事項であるから、悪臭成分を分解しようとする刊行物1発明において、刊行物2に記載のように光触媒とフタロシアニンを併用しようとすることは、当業者にとって容易に想到しうることであり、その目的及び効果が異なるものであるとの主張も採用できない。 4.補正後発明1のむすび 以上のとおりであるから、補正後発明1は、本願出願前に頒布された刊行物1,2に記載された発明、および、本願出願前に周知であった技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成21年11月4日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成20年5月28日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 エタノールを含む大気から有害物質を除去するための分解材において、絹素材を焼成した絹焼成体に、少なくともフタロシアニンと光触媒を含む触媒を担持させた事を特徴とする分解材。」 2.引用刊行物 拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1,2の記載事項は、前記「第2.2」に記載したとおりである。 3.対比 本願発明1は、補正後発明1の「エタノールを含む大気から有害物質を除去するための分解材」を「大気中に含まれるエタノールを除去する分解材」に補正し、「光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質を除去する」との限定を削除するものである。 4.判断 本願発明1は、上記の通り補正後発明1の分解材の用途について「大気中に含まれるエタノールを除去する」ものから、「エタノールを含む大気から有害物質を除去する」ものに変更したものであり、「光触媒でエタノールを酸化分解すると同時に、該分解時に発生する有害物質を除去する」との限定を削除したものであるから、本願補正発明1の発明特定事項をすべて含むものである。 してみると、本願発明1は、本願補正発明1と同様の上記「第2.3」に記載した理由により本願発明1も特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-05-23 |
結審通知日 | 2012-05-29 |
審決日 | 2012-06-11 |
出願番号 | 特願2005-91800(P2005-91800) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B01J)
P 1 8・ 57- Z (B01J) P 1 8・ 575- Z (B01J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 政博 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
木村 孔一 國方 恭子 |
発明の名称 | 医療用途等有害物質分解材 |
代理人 | 澤田 達也 |
代理人 | 杉村 憲司 |