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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
管理番号 1260695
審判番号 不服2009-23325  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-27 
確定日 2012-07-26 
事件の表示 特願2003-11454号「溶射皮膜付きガラス容器およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年8月12日出願公開、特開2004-224599号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年1月20日の出願であって、平成20年5月23日付けの拒絶理由が通知され、平成20年7月23日付けで意見書および手続補正書が提出され、平成21年3月10日付けの最後の拒絶理由が通知され、平成21年4月24日付けで意見書が提出され、平成21年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年11月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものであり、さらに、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成23年10月17日付けの審尋が通知され、平成23年11月24日付けで回答書が提出され、平成24年3月9日付けの当審による補正却下の決定および拒絶理由が通知され、同年5月1日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年5月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「底部の裏面を平滑に形成した透光性を有するガラス製の容器と、
前記裏面に粗面加工を施すことなく棒状の溶射材料と不活性ガスとを用いたプラズマ溶射法により形成された非磁性体金属を用いたコーティング層とを備え、
前記コーティング層と前記裏面との間の界面には、光沢を有する鏡面部が形成されていることを特徴とする溶射皮膜付きガラス容器。」

3.引用例記載の事項
(3-1)当審による拒絶理由において引用した特開2000-150125号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載および図示がある。
(a)「【請求項1】 非磁性体セラミック陶磁器又はガラス食器の容器本体の外面に発熱体として亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属又はその合金を溶射法により薄くコーティング層を形成することを特徴とする電磁加熱用陶磁器又はガラス食器。
【請求項2】 上記容器本体と上記コーティング層との密着性を高めるためにニッケルアルミ合金などのニッケルを主成分とした合金をアンダーコート層とすることを特徴とする請求項1記載の電磁加熱用陶磁器又はガラス食器。
【請求項3】 上記容器本体の外面に前処理のブラスト処理を行うことなく酸化物セラミックのプラズマ溶射により粗面層を形成した後に請求項1又は2記載のコーティング層又はアンダーコート層を形成することを特徴とする電磁加熱用陶磁器又はガラス食器。」

(b)「【0008】そこで、ブラスト処理を行うときは、ブラスト材としてアランダム#60より細かい粒度(#80、#100、#120)のものを使用し、ブラスト処理を行わないときは、陶器(磁器を含む)やガラス食器に直接酸化物セラミックをプラズマ溶射して約50?100μmの粗面層4を形成したり、無機系接着剤を直接塗布して粗面層4を形成する。この前処理を施した上に発熱体(コーティング層3)の溶射皮膜を形成する。発熱体の皮膜の厚みは、約50?150μmが望ましい。この発熱体の皮膜の膜厚が約50?150μmである理由は、皮膜の厚みが50μmより少ないと適切な発熱量が得られず、150μm以上であると皮膜の剥離が発生しやすくなるからである。従って、発熱体の皮膜の厚みは、50μm以上150μm以内が最も良好な厚みである。これらの溶射皮膜の積層仕様は、1層でも2層以上でも良い。また、これらの溶射施工後に耐久性や商品性を高めるために溶射施工部分に耐熱塗料などを塗布しても良い。
【0009】使用するアンダーコート層2の皮膜の厚みは、約50?100μmが望ましい。アンダーコート層2は、陶磁器やガラス食器の容器本体1の基材とトップコート(コーティング層3)の発熱体で使用する亜鉛、アルミニウム及びその合金との熱膨張率の違いを緩和して密着性を高めるために行うコーティングである。皮膜の厚みについては上記発熱体の皮膜の厚みと同様の理由である。
【0010】又使用する溶射は、プラズマ溶射、アーク溶射、ガス溶射などの方法が適用される。電磁誘導加熱で使用する発熱体の溶射材料は、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属またはその合金などを用いる。アンダーコート層を形成する溶射材料は、ニッケルアルミ、ニッケルクロムなどのニッケルを主成分とする合金を用いる。また、粗面層4を形成するのに用いる溶射材料は、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、アルミナを主成分とする複合材料などの酸化物セラミックを用いる。これらの材料形態は、粉末、ワイヤーなどである。」

(c)「【0012】使用する容器本体の基材は、陶磁器の場合、土鍋用セラミック(コーディライト系、ペタライト系、ユークリプタイト系などのセラミック)で、耐熱ガラスの場合、耐熱ガラス(岩城ガラス、日本電気硝子(株)、HARIO社製などの耐熱ガラス)を用いる。」

(d)「【0019】
【発明の効果】以上述べてきたように本発明によれは、非磁性体である陶磁器(土鍋等)やガラス食器の容器本体の外面に亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属またはその合金材料を溶射して薄い皮膜として発熱体を形成することで、高い発熱量を発生することができるので、軽量で、熱効率及び耐食性に優れた調理に適した実用的な電磁加熱用陶磁器とガラス食器を提供することができる。また、本発明によれば、薄い溶射皮膜で実用可能であるため、容易に低コストで製造することができ、剥離に対しても強い、耐久性に優れた製品を提供することができる。」

(e)【図1】には、「容器本体1の底部の裏面に粗面層4とアンダーコート層2とコーティング層3とが形成された容器」の図示がある。

(f)上記(a)の「【請求項1】 非磁性体セラミック陶磁器又はガラス食器の容器本体の外面に発熱体として亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属又はその合金を溶射法により薄くコーティング層を形成する・・・」との記載、および、「亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属又はその合金」が「非磁性体金属」であることは技術常識であることからして、引用例1には、「非磁性体金属を用いたコーティング層」が記載されているということができる。

上記(a)ないし(e)の記載事項・図示内容および上記(f)の検討事項より、引用例1には、
「容器本体1の底部の裏面にブラスト処理による粗面化を行っていない耐熱性ガラス製のガラス容器と、
裏面にブラスト処理による粗面化を行うことなくプラズマ溶射法により形成された『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』とを備えた『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』付きガラス容器。」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が開示されている。

(3-2)当審による拒絶理由において引用した特開昭49-48711号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載および表示がある。
(g)特許請求の範囲
「ガラス基板を150℃以上歪点以下の温度に加熱し、加熱した該基板の表面に金属を溶射することを特徴とする金属皮膜つきガラス基板の製造方法。」

(h)第1頁右下欄4?14行
「従来、金属皮膜つきガラス基板はガラス基板の表面に金属を溶射して造られている。
しかしてガラス基板の表面に直ちに金属を溶射したのでは皮膜の密着性が劣るためガラス基板の表面を清浄化した後、該表面をグリツドブラスト法等を用いて粗面化することにより投錨効果を増大している。
しかしながらこの様な方法では、吹き付けられたグリツドによりガラス基板周辺部に割れを生じて基板を損傷してしまう恐れがあるばかりか、工程が複雑となり極めて面倒であった。」

(i)第2頁左上欄13?20行
「本発明方法は、先ずガラス基板を150℃以上歪点以下の温度に、電熱ヒータを用いる等適当な方法で加熱し、この温度を保つて直ちに前記基板表面へ銅、アルミニユーム、鉄等の金属を通常の溶射条件、例えば溶射距離を300mm以下、噴出ガス流量を5l/min以上の条件で、電気溶射式、ガス溶線式又は粉末式等任意な金属溶射法を用いて所望の形状に溶射すればよい。」

(j)第2頁左下欄下から3行?同頁右下欄14行
「しかして本発明方法によれば、ガラス基板を150℃以上歪点以下に保ちながら前記基板の表面に金属を溶射するから、基板表面は脂肪分が除去されると同時にガラス基板表面に溶射された金属粉末又は粒子の熱が、150℃以上歪点以下の温度に保持されているガラス基板の溶射される基板表面部にのみ付加され、充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化し、溶射された金属はガラス基板表面に噛みつき充分な密着性を有して形成される。この場合基板の軟化する部分は、金属が溶射されている表面部のみであるから、ガラス基板全体が均一的に歪点を超えることは殆んどなく、ガラス基板を変形せしめたり或は強化ガラスの強化効果を減失せしめる等損傷する恐れはない。更にガラス基板は予め所定の温度に保持されているから割れを起すことも殆んどない。」

(k)第3頁左上欄の第2表には、「ガラスの種類 テンパライト(旭ガラス社の商品名でソーダガラスを熱強化したガラス)」との表示がある。

(l)第3頁左下欄8?18行
「実施例2
プラズマ溶射法を用い、ガラス基板の予熱温度が金属溶射皮膜の密着性におよぼす影響について調査した。
即ち前記実施例1と同様の大きさを有する第4表に示す如き各種ガラスを用い、これを同種数枚を同第4表に示す温度範囲で夫々違つた温度に予熱し、しかる後前記夫々のガラス基板表面に第5表に示す如き同一の溶射条件で前記実施例1と同様に約0.2mmtのアルミニユーム溶射皮膜を加熱後10分以内に形成した。」

(m)第3頁右下欄の第4表には、「ガラスの種類 テンパライト」との表示がある。

(n)第3頁右下欄下から6行?第4頁左上欄3行
「次にこのようにして夫々のガラス基板表面に形成した金属溶射皮膜を前記実施例1と同様に引張試験を行つて密着性を測定した。
この結果を第2図に示した。
第2図からも明らかなようにいずれのガラスにおいても予熱温度が150℃以上となると引張強度は0.4Kg/mm^(2)を超え密着性は飛躍的に向上している。また予熱の最高温度は夫々のガラスの歪点以下である。」

(o)上記(h)ないし(j)の記載事項より、引用例2には、「ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行うことなくガラス基板の加熱とプラズマ溶射法によって充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化したガラス基板表面に形成されたアルミニュームを用いた金属溶射皮膜」が記載されているということができる。

上記(g)ないし(n)の記載事項・表示内容および上記(o)の検討事項より、引用例2には、
「ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行っていない熱強化テンパライトガラス基板と、
ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行うことなくガラス基板の加熱とプラズマ溶射法によって充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化したガラス基板表面に形成されたアルミニュームを用いた金属溶射皮膜とを備えた溶射皮膜付きテンパライトガラス基板。」の発明(以下、「引用例2記載の発明」という。)が開示されている。

4.対比・判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例1記載の発明の「耐熱性ガラス製」、「ブラスト処理による粗面化を行うことなく」、「コーティング層3」、「『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』付き」は、本願発明の「ガラス製」、「粗面加工を施すことなく」、「コーティング層」、「溶射皮膜付き」にそれぞれ相当する。

○本願明細書の「【0015】平滑とは、表面粗さが他の面と同じ程度に形成されており、特に粗面加工が施されていないことをいう。」との記載より、「平滑な面」の定義を「粗面加工が施されていない面」であるとするとき、引用例1記載の発明の「容器本体1の底部の裏面にブラスト処理による粗面化を行っていない耐熱性ガラス製のガラス容器」は、容器本体1の底部の裏面はブラスト処理による粗面化が行われていないことから平滑であり、また、容器本体1はガラス製であることから透光性を有しているということができるので、「容器本体1の底部の裏面を平滑に形成した透光性を有するガラス製の容器」にあたり、本願発明の「底部の裏面を平滑に形成した透光性を有するガラス製の容器」に相当する。

○引用例1記載の発明の「『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』」と本願発明の「コーティング層」とは、「層」という点で共通している。

上記より、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「底部の裏面を平滑に形成した透光性を有するガラス製の容器と、
裏面に粗面加工を施すことなくプラズマ溶射法により形成された層とを備えた溶射皮膜付きガラス容器。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、「裏面に粗面加工を施すことなくプラズマ溶射法により形成された非磁性体金属を用いたコーティング層とを備え、コーティング層と裏面との間の界面には、光沢を有する鏡面部が形成されている溶射皮膜付きガラス容器」であるのに対して、
引用例1記載の発明では、「裏面に粗面加工を施すことなくプラズマ溶射法により形成された『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』とを備えた溶射皮膜付きガラス容器」である点。

<相違点2>
本願発明では、「棒状の溶射材料と不活性ガスとを用いた」プラズマ溶射法であるのに対して、
引用例1記載の発明では、プラズマ溶射法であるものの、「棒状の溶射材料と不活性ガスとを用いた」ものであるかどうか明らかでない点。

上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
上記(3-1)の(a)(b)(d)の記載からして、引用例1記載の発明は、粗面層4およびアンダーコート層2を形成しなくても裏面と非磁性体金属を用いたコーティング層3との高い密着性が達成されるのであれば、粗面層4およびアンダーコート層2を形成しなくてもよいという技術思想を開示するものであるということができる。
また、引用例1記載の発明は、上記で示したように「底部の裏面を平滑に形成した透光性を有するガラス製の容器と、
裏面に粗面加工を施すことなくプラズマ溶射法により形成された『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』とを備えた溶射皮膜付きガラス容器。」であり、
ここで、上記「裏面」、「ガラス製の容器」および「ガラス容器」は、「ガラス基板表面」、「ガラス製品」にそれぞれあたるので、
引用例1記載の発明は、「ガラス基板表面を平滑に形成した透光性を有するガラス製品と、
ガラス基板表面に粗面加工を施すことなくプラズマ溶射法により形成された『酸化物セラミックからなる粗面層4と、アンダーコート層2と、非磁性体金属を用いたコーティング層3とからなる層』とを備えた溶射皮膜付きガラス製品。」であるということができる。
一方、上記(3-2)で示したように、引用例2記載の発明は、
「ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行っていない熱強化テンパライトガラス基板と、
ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行うことなくガラス基板の加熱とプラズマ溶射法によって充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化したガラス基板表面に形成されたアルミニュームを用いた金属溶射皮膜とを備えた溶射皮膜付きテンパライトガラス基板。」であり、
ここで、上記「ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行っていない熱強化テンパライトガラス基板」、「ガラス基板表面にグリッドブラスト法等による粗面化を行うことなく」、「アルミニューム」、「金属溶射皮膜」、「溶射皮膜付きテンパライトガラス基板」は、「ガラス基板表面を平滑に形成した透光性を有するガラス製品」、「ガラス基板表面に粗面加工を施すことなく」、「非磁性体金属」、「コーティング層」、「溶射皮膜付きガラス製品」にそれぞれあたるので、
引用例2記載の発明は、「ガラス基板表面を平滑に形成した透光性を有するガラス製品と、
ガラス基板表面に粗面加工を施すことなくガラス基板の加熱とプラズマ溶射法によって充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化したガラス基板表面に形成された非磁性体金属を用いたコーティング層とを備えた溶射皮膜付きガラス製品。」であり、「ガラス基板表面と非磁性体金属を用いたコーティング層との高い密着性を達成する」ものであるということができる。
上記より、引用例1、2記載の発明は、「ガラス基板表面を平滑に形成した透光性を有するガラス製品と、
ガラス基板表面に粗面加工を施すことなく、プラズマ溶射法により形成された非磁性体金属を用いたコーティング層とを備えた溶射皮膜付きガラス製品。」という点で共通している。
そうすると、引用例1記載の発明について、上記で示した技術思想の「裏面(ガラス基板表面)と非磁性体金属を用いたコーティング層3との高い密着性が達成されるのであれば、粗面層4およびアンダーコート層2を形成しなくてもよい」という観点に基いて、上記の点で共通している引用例2記載の発明の「ガラス基板表面と非磁性体金属を用いたコーティング層との高い密着性を達成する」上記事項を適用することで、粗面層4およびアンダーコート層2を形成せずに、「裏面(ガラス基板表面)に粗面加工を施すことなくプラズマ溶射法によって充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化した裏面に形成された非磁性体金属を用いたコーティング層とを備えた溶射皮膜付きガラス容器(ガラス製品)」を構成することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、本願発明と引用例2記載の発明とは、粗面化が施されていないガラス基板表面に、プラズマ溶射法により非磁性体金属を用いたコーティング層(金属溶射皮膜)を形成するという点で同じであることから、両者は同様に「充分な投錨効果を得ることが出来る凹凸面が形成される程度に軟化したガラス基板表面に形成された非磁性体金属を用いたコーティング層とを備え、コーティング層とガラス基板表面との間の界面には、光沢を有する鏡面部が形成されている」、つまり、「鏡面の範囲内の極めて小さい凹凸面が形成されたガラス基板表面とコーティング層との間の界面には、光沢を有する鏡面部が形成されている」とみるのが妥当であるので、引用例1記載の発明について、上記のように「裏面(ガラス基板表面)に・・・ガラス容器(ガラス製品)」を構成する際、「コーティング層と裏面との間の界面には、光沢を有する鏡面部が形成されている」というべきである。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例1、2記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点2>について
一般に、プラズマ溶射法について、「棒状の溶射材料と不活性ガスとを用いた」プラズマ溶射法自体、本願出願前周知の事項(例えば、特開平03-068469号公報の特に第2頁右上欄12行?同頁左下欄19行及び第4図、特開平09-308970号公報の特に段落【0004】【図6】、特開昭63-277747号公報の特に第4頁左上欄5行?同頁右上欄19行及び第1a図参照)であることから、引用例1記載の発明のプラズマ溶射法について、上記周知の事項を適用することで、「棒状の溶射材料と不活性ガスとを用いた」プラズマ溶射法とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例1、2記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願発明の「裏面と非磁性体金属を用いたコーティング層との密着性を高める等」の作用効果は、特に上記(3-2)で示した引用例2の(j)(n)の記載からして、当業者であれば十分に予測し得ることである。
よって、本願発明は、引用例1、2記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1、2記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-25 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2003-11454(P2003-11454)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
目代 博茂
発明の名称 溶射皮膜付きガラス容器およびその製造方法  
代理人 久保山 隆  
代理人 久保山 隆  
代理人 加藤 久  
代理人 加藤 久  

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