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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1260697
審判番号 不服2010-1085  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-18 
確定日 2012-07-26 
事件の表示 特願2005-252976「学習記憶障害改善剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月15日出願公開、特開2007- 61028〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2005年9月1日の出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年 6月25日付け 拒絶理由通知書
平成21年 8月25日 意見書・手続補正書
平成21年10月 9日付け 拒絶査定
平成22年 1月18日 審判請求書・手続補正書
平成22年 3月15日付け 前置報告書
平成23年 9月27日付け 審尋
平成23年11月28日 回答書

第2 平成22年1月18日付けの手続補正について

1 本件補正

平成22年1月18日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の,

「【請求項1】柑橘類の果皮を含む全果の粉砕搾汁液からのエタノール抽出物を含有し,CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害を改善する機能性食品。

【請求項2】前記柑橘類は,ハナユ,コウライタチバナ,シキキツ,キジツ,ナツミカン,ダイダイ,ポンカン,地中海マンダリン, ダンシータンジェリン,オオベニミカン,タチバナ,コベニミカン,無核キシュウ,シークワーサー,フクレミカン,カプチー,太田ポンカン,ヒラキシュウ,ウンシュウ,サンキツ,クレオパトラ,コウジ,ギリミカン,およびイーチャンレモンを含む柑橘類から選択される請求項1に記載の学習記憶障害を改善する機能性食品。

【請求項3】柑橘類の果皮を含む全果の砕搾汁液からのエタノール抽出物を含有し,CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤。

【請求項4】前記柑橘類は,ハナユ,コウライタチバナ,シキキツ,キジツ,ナツミカン,ダイダイ,ポンカン,地中海マンダリン, ダンシータンジェリン,オオベニミカン,タチバナ,コベニミカン,無核キシュウ,シークワーサー,フクレミカン,カプチー,太田ポンカン,ヒラキシュウ,ウンシュウ,サンキツ,クレオパトラ,コウジ,ギリミカン,およびイーチャンレモンを含む柑橘類から選択される請求項3に記載の学習記憶障害改善剤。」を,

「【請求項1】柑橘類の果皮を含む全果の砕搾汁液からのエタノール抽出物を含有し,CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤。

【請求項2】前記柑橘類は,ハナユ,コウライタチバナ,シキキツ,キジツ,ナツミカン,ダイダイ,ポンカン,地中海マンダリン, ダンシータンジェリン,オオベニミカン,タチバナ,コベニミカン,無核キシュウ,シークワーサー,フクレミカン,カプチー,太田ポンカン,ヒラキシュウ,ウンシュウ,サンキツ,クレオパトラ,コウジ,ギリミカン,およびイーチャンレモンを含む柑橘類から選択される請求項1に記載の学習記憶障害改善剤。」

と補正するものである。

2 補正の適否

上記補正は,補正前の請求項1,2を削除し,補正前の請求項3,4を新たに請求項1,2とするものである。

したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号の請求項の削除に該当し,同法同条同項の規定に適合する。

第3 本願発明の認定

この出願の請求項1及び2に係る発明は,平成22年1月18日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「柑橘類の果皮を含む全果の砕搾汁液からのエタノール抽出物を含有し,CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤。」

第4 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


特開2002-60340号公報(原査定における引用文献1。以下,「刊行物1」という。)

第5 刊行物の記載事項

この出願前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。

1a「【請求項3】ミカン科植物の抽出物を含有する,神経突起伸長剤。

【請求項4】前記ミカン科植物の抽出物が、下記一般式(1)で表されるポリアルコキシフラボノイド:【化2】(略)ここで、式中、R1は、HまたはC1?C6の低級アルキル基であり、R2、R3およびR4は、各々独立してHまたはC1?C6のアルコキシ基であり、そしてR5は、C1?C6の低級アルキル基である;を含有する、請求項3に記載の神経突起伸長剤。

【請求項5】前記一般式(1)で表されるポリアルコキシフラボノイドがノビレチンまたはタンゲレチンである、請求項4に記載の神経突起伸長剤。

【請求項6】医薬品,医薬部外品または食品の形態に加工されている,請求項1から5のいずれかに記載の神経突起伸長剤。」

1b「【0010】本発明は・・神経細胞に対して神経突起伸長作用を有する新規な神経突起伸長剤を提供することにある。」

1c「【0031】本発明の神経突起伸長剤はまた,ミカン科植物の抽出物を含有するものであってもよい。
【0032】本発明に用いられるミカン科植物としては,Citrus属のヒラミレモン(Citrus depressa),ウンシュウミカン(Citrus unshiu)・・オオベニミカン(Citrus tangerina),コベニミカン(Citrus erythrosa),ダイダイ(Citrus aurantium)・・ポンカン(Citrus rericulata)・・などが挙げられる。これらの中でも特に・・ウンシュウミカンおよびダイダイが好ましい。本発明においては,上記ミカン科植物の抽出物を混合して用いてもよい。
【0033】本発明に用いられるミカン科植物の抽出物は,採取後の生の状態または乾燥された状態のいずれの状態から抽出されたものであってもよい。部位としては,成熟したまたは未成熟の,果実,果皮,種子,葉,葉柄,枝,根,花などが挙げられる。特に,果実,果皮が好ましい。
【0034】ミカン科植物抽出物は,例えば,以下のようにして得ることができる。
【0035】まず,ミカン科植物の所定部位を抽出溶媒に浸漬する。抽出溶媒の量はミカン科植物が浸る量であればよいが,ミカン科植物の重量に対して2倍量から100倍量が好ましい。使用される抽出溶媒は特に限定されない。使用され得る抽出溶媒の例としては,メタノール,エタノール・・のような低級アルコール類・・が挙げられる。これら抽出溶媒は単独または組合せて用いられる。本発明においては,メタノール,エタノール,酢酸エチルまたはこれら溶媒と水との組合わせが好ましく,毒性が低いという生体内における安全性を考慮すれば,エタノール,または水とエタノールとの混合溶媒がさらに好ましい。抽出温度などのその他抽出条件は特に限定されず,当業者により適切に設定され得る。」

1d「【0081】【発明の効果】本発明によれば,細胞に対して,安全性が高くかつ優れた神経突起伸長作用を提供することができる。・・本発明の神経突起伸長剤は,医薬品,医薬部外品または食品組成物として使用することができ,アルツハイマー型痴呆症,脳虚血病態などの神経変性疾患の予防および/または治療に有用である。」

第6 当審の判断

1 刊行物1に記載された発明

刊行物1の特許請求の範囲の請求項1には,「ミカン科植物の抽出物を含有する,神経突起伸長剤。」(摘示1a 請求項1)が記載されている。

したがって,刊行物1には,

「ミカン科植物の抽出物を含有する,神経突起伸長剤。」

の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明との対比

(1)引用発明の「ミカン科植物」としては,刊行物1の記載「ウンシュウミカン(Citrus unshiu)・・オオベニミカン(Citrus tangerina),コベニミカン(Citrus erythrosa),ダイダイ(Citrus aurantium)・・ポンカン(Citrus rericulata)」(摘示1c)が挙げられており,柑橘類が含まれている。
他方,本願発明の「柑橘類」としては,本願の特許請求の範囲に「【請求項2】前記柑橘類は・・ナツミカン,ダイダイ,ポンカン・・オオベニミカン,・・コベニミカン,・・太田ポンカン・・を含む柑橘類から選択される」と記載されている。
そうすると,引用発明の「ミカン科植物」は,本願発明の「柑橘類」に相当する。

(2)引用発明の「ミカン科植物の抽出物」について,刊行物1には,「【0033】本発明に用いられるミカン科植物の抽出物は,採取後の生の状態または乾燥された状態のいずれの状態から抽出されたものであってもよい。部位としては,成熟したまたは未成熟の・・特に,果実,果皮が好ましい。」(摘示1c),及び,「【0034】ミカン科植物抽出物は,例えば,以下のようにして得ることができる。【0035】まず,ミカン科植物の所定部位を抽出溶媒に浸漬する・・使用され得る抽出溶媒の例としては・・エタノール・・が挙げられる・・毒性が低いという生体内における安全性を考慮すれば,エタノール・・がさらに好ましい」(摘示1c)より,ミカン科植物の果実,果皮を抽出溶媒であるエタノールに浸漬して抽出されるものといえる。
ここで,ミカン科植物の果実,果皮は,ミカン科植物の果実関連物といえる。

そうすると,引用発明の「ミカン科植物の抽出物」と,本願発明の「柑橘類の果皮を含む全果の砕搾汁液からのエタノール抽出物」とは,上記(1)で述べたことを踏まえると,「柑橘類の果実関連物」「のエタノール抽出物」である点で共通する。

(3)引用発明の「神経突起伸長剤」は,刊行物1の「神経細胞に対して神経突起伸長作用を有する新規な神経突起伸長剤」(摘示1b)より,神経細胞に作用するもので,「医薬品,医薬部外品または食品の形態に加されている」「剤」(摘示1a 請求項2)である。

他方,本願発明の「CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤」は,本願明細書の記載「【0003】学習記憶を制御調整する重要な神経細胞内シグナル伝達経路(脳の情報ネットワーク)として,サイクリックアデノシン3′,5′-1リン酸(cAMP)/cAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA)/cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)系が,近年,明らかになってきた。そして,この神経細胞内シグナル伝達経路を活性化すると,学習記憶能力が亢進する」より,神経細胞に作用し,神経細胞内シグナル伝達経路の伝達物質であるCREBの活性化を作用機構とする「剤」である。

そうすると,引用発明の「神経突起伸長剤」と本願発明の「CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤」とは,神経細胞に作用する剤である点で共通する。

(4)したがって,両者は,

「柑橘類の果実関連物のエタノール抽出物を含有する,神経細胞に作用する剤。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

ア 柑橘類の果実関連物が,
本願発明では,果皮を含む全果の砕搾汁液であるのに対し,
引用発明では,果実,果皮であり,その砕搾汁液であるかは明らかでない点。(以下,「相違点ア」という。)

イ 神経細胞に作用する剤が,
本願発明では,「CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤」であるのに対し,
引用発明では,神経突起伸長剤である点。(以下,「相違点イ」という。)

3 相違点についての判断

(1)相違点について

ア 相違点アについて

刊行物1には,ミカン科植物の部位として「特に,果実,果皮が好ましい」(摘示1c【0033】)と記載され,これは果実,果皮を含むものすなわち果皮を含む全果でも良いといえる。

そして,一般に,果皮や果実の成分を抽出する場合,前処理として成分が抽出され易いよう,果皮や果実を粉砕したり搾汁したりすることは,本願出願当時,慣用手段であった。

そうすると,引用発明において,ミカン科植物の部位として上述の如く果皮を含む全果を選択しその成分をエタノール抽出する際,成分を抽出し易いよう,上記慣用手段を適用し,前処理として果皮を含む全果を粉砕,搾汁し得られる液からエタノール抽出することは,当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点イについて

(ア)神経突起伸長剤を学習記憶障害改善剤とすることについて

神経突起の伸長に伴うシナプス形成は記憶と密接な関係があると考えられており,神経突起を形成させることにより,記憶の改善ないし痴呆の治療を行うことが可能であることは,本願出願当時,周知事項であった(特開2000-154199号公報の段落【0002】参照。)。

そうすると,引用発明において,上記周知事項を勘案し,神経突起伸長剤を,記憶の改善を行う学習記憶障害改善剤とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)学習記憶障害改善剤の作用機構について

刊行物1には,ミカン科植物の抽出物を神経突起伸長剤としての用途に用いる際,CREBの活性化を作用機構とするものであることは記載されてはいない。
しかしながら,上記「ア」で述べたことを行い,引用発明のミカン科植物の抽出物として,ミカン科植物の果皮を含む全果の砕搾汁液のエタノール抽出物を適用すれば,エタノール抽出物として本願発明と同じ成分を含有していることとは,明白である。
そして,本願発明と引用発明は,含まれる成分が同じである以上,本願発明の「CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤」という技術は,引用発明において記載,開示されていた神経突起伸長剤を,上記「(ア)」で述べたように記憶の改善を行う学習記憶障害改善剤とした場合,その学習記憶障害改善剤としての用途と実質的に何ら相違はなく,新規な用途とはいえないのであって,柑橘類の果皮を含む全果の砕搾汁液のエタノール抽出物に備わった上記の性質(作用機構)を解明し,これを発明の技術的事項として付加したにすぎないといえる。すなわち,「CREBの活性化を作用機構とする」という技術的事項は,学習記憶障害改善剤として,従来技術において行われていた用途とは相違する新規な用途の提示とはいえない。
なお,本願発明と引用発明で,含まれる成分が同じであることについては,実際に,本願発明の「CREBの活性化を作用機構とする学習記憶障害改善剤」としての機能を発揮する,果皮を含む全果の砕搾汁液のエタノール抽出物中の成分は,平成21年8月25日提出の意見書に「果皮を含む全果の粉砕搾汁液からのエタノール抽出物は、果実だけの粉砕搾汁液と比べてフラボノイド類、特に、ノビレチン(nobiletin)を多く含みます。フラボノイド類、特に、ノビレチン(nobiletin)を多く含む全果の粉砕搾汁液からのエタノール抽出物は、CREBの活性化を作用機構として学習記憶障害を改善する生体機能の調整、生理面での働きに適用可能」と記載されており,フラボノイド類特にノビレチンであるといえる。他方,引用発明の神経突起伸長剤としての機能を発揮する,ミカン科植物の抽出物の成分の1つは,摘示1aの請求項5に明示されている,ポリアルコキシフラボノイドであるノビレチンであり,本願発明の上記成分と同じであることからも明白である。

(2)発明の効果について

上記(1)で述べたことを勘案すれば,本願発明の効果は,引用発明及び周知技術から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものではない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,この出願の出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるので,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-22 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2005-252976(P2005-252976)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 光本 美奈子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
齊藤 真由美
発明の名称 学習記憶障害改善剤  
代理人 大島 陽一  
代理人 大島 陽一  
代理人 大島 陽一  

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