• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1260710
審判番号 不服2011-686  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-12 
確定日 2012-07-26 
事件の表示 特願2008-306497「画像表示システム、USBメモリ、画像表示方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月27日出願公開、特開2009-194897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年12月1日(優先権主張 平成20年1月17日)の出願であって、平成22年10月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年2月1日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項7に記載された、
「ネットワークに接続された画像表示装置と該画像表示装置とは異なる他の装置との通信の設定を行って前記画像表示装置に画像を表示する方法であって、
USBメモリを、前記画像表示装置の第1のUSB接続手段に接続し、
該第1のUSB接続手段に接続されたUSBメモリに、前記画像表示装置との前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報を書き込み、
該設定情報が書き込まれた前記USBメモリが、前記画像表示装置の前記第1のUSB接続手段から離脱された後、前記他の装置の第2のUSB接続手段に接続されたとき、前記他の装置において、前記USBメモリに書き込まれた前記設定情報を利用して、前記他の装置と前記画像表示装置との前記ネットワーク接続を成立させる設定処理を行い、
前記ネットワーク接続の成立に伴い、前記画像表示装置と前記他の装置とが前記ネットワークを介した通信を行って、前記他の装置から画像データを送信し、前記画像表示装置において、前記送信された画像データを受け取って画像を表示する
画像表示方法。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、平成23年1月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項5に記載された、

「ネットワークに接続された画像表示装置と該画像表示装置とは異なる他の装置との通信の設定を行って前記画像表示装置に画像を表示する方法であって、
任意のデータファイルを格納可能な記憶領域であるデータ格納領域と、前記画像表示装置と前記他の装置との間での前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報を格納する記憶領域である設定情報格納領域とを備えたUSBメモリが、前記画像表示装置の第1のUSB接続手段に接続され、
前記画像表示装置において、前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリが所定の識別情報を有すると判断した場合に、前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリの前記設定情報格納領域に、前記設定情報を書き込み、
該設定情報が書き込まれた前記USBメモリが、前記画像表示装置の前記第1のUSB接続手段から離脱された後、前記他の装置の第2のUSB接続手段に接続されたとき、前記他の装置において、前記USBメモリに書き込まれた前記設定情報を利用して、前記他の装置と前記画像表示装置との前記ネットワーク接続を成立させる設定処理を行い、
前記ネットワーク接続の成立に伴い、前記画像表示装置と前記他の装置とが前記ネットワークを介した通信を行って、前記他の装置から画像データを送信し、前記画像表示装置において、前記送信された画像データを受け取って画像を表示する
画像表示方法。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件について
上記本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項7の「USBメモリ」を「任意のデータファイルを格納可能な記憶領域であるデータ格納領域と、前記画像表示装置と前記他の装置との間での前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報を格納する記憶領域である設定情報格納領域とを備えたUSBメモリ」と限定し、また、「設定情報を書き込む」条件及び場所を「前記画像表示装置において、前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリが所定の識別情報を有すると判断した場合」及び「USBメモリの前記設定情報格納領域」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成23年改正前特許法第17条の2第3項(新規事項)及び同法第17条の2第5項(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-1) 補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で認定したとおりである。

(2-2) 引用発明
A.原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-186676号公報(以下「引用例1」という。)には、「電子機器及び無線通信制御方法」として図面とともに以下の事項(イ.?ニ.)が記載されている。

(引用例1)
イ.「【0003】
また、近年、例えばネットワーク機能を設けることで、表示データを出力させるパーソナルコンピュータを換える場合に、コネクタを接続し直すといった煩わしい作業を不要とする等、その使い勝手を向上させたプロジェクタも種々提案されている(例えば特許文献1?6等参照)。
【特許文献1】特開2003-69923公報
【特許文献2】特開2002-247539公報
【特許文献3】特開2003-198870公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では、ワイヤレスでデータを送受信することのできる無線通信機能を備えた電子機器が普及し始めている。例えば無線LANに接続するためのインターフェースを備えたいわゆるワイヤレスプロジェクタであれば、各人が持ち込んだパーソナルコンピュータからの表示データを無線通信で受信して投影することができる。
【0005】
しかしながら、無線LANに精通していないユーザにとって、例えばSSID(Service set identification)やWEP(wired equivalent privacy)キー等、無線通信の環境設定を行うことは困難である。また、無線LANでは、正規の相手以外との無線通信を制限するためのセキュリティ対策も非常に重要である。」(4頁4?23行)

ロ.「【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、正規の相手との間の無線通信によるデータ転送を簡単に開始させることを可能とした電子機器および無線通信制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信システムが行う無線通信制御の概要を説明するための図である。
【0012】
図1に示すように、この無線通信システムは、表示データを受信してスクリーンに投影するプロジェクタ1と、このプロジェクタ1に表示データを送信するパーソナルコンピュータ2とが無線通信を実行するものであり、それぞれが、不揮発性の記憶媒体であるメディア3を着脱できるようになっている。また、プロジェクタ1には、遠隔操作を行うためのリモートコントローラ4が付属機器として設けられている。
【0013】
ここでは、例えば会議室などにプロジェクタ1が設置されており、この会議室でプロジェクタ1を使いながら会議を進めようと考えている者が、自分のパーソナルコンピュータ2を持ち込むような状況を想定する。そして、この無線通信システムは、このような状況において、無線通信の環境設定に不慣れな者であっても、会議室に設置されたプロジェクタ1に対して、自分が持ち込んだパーソナルコンピュータ2からのデータ転送を簡単に開始させることを可能としたものであり、以下、この点について詳述する。
【0014】
自分が持ち込んだパーソナルコンピュータ2の表示データ(ディスプレイに表示されている画像のデータ)をプロジェクタ1に投影させたい場合、ユーザは、まず、メディア3をプロジェクタ1側に装着し、リモートコントローラ4の専用ボタンを押下する。この操作が行われると、プロジェクタ1は、乱数を生成して、この生成した乱数を、MACアドレス、SSIDおよびWEPキー等と共にメディア3に格納する。
【0015】
なお、この実施形態では例として、生成した乱数を、機器を識別するための機器固有IDとして用いている。しかし、本発明は機器固有IDとして必ずしも乱数を用いる必要はなく、機器を識別するための機器固有IDとして用いることができるものであればよい。
【0016】
なお、ここでは、専用ボタンの押下を一例として取り上げるが、例えば本来の機能が別途割り当てられた複数のボタンを同時に押下することによって援用する等、その操作方法自体はどのようなものであっても構わない。
【0017】
次に、ユーザは、この乱数を含む各種情報が格納されたメディア3をプロジェクタ1から抜き取り、その抜き取ったメディア3を今度は自分のパーソナルコンピュータ2側に装着すると共に、専用のユーティリティプログラムを起動する。このユーティリティプログラムは、起動されると、プロジェクタ1側で格納された各種情報をメディア3から読み出し、この読み出したSSIDやWEPキーを使って、プロジェクタ1と無線通信するための環境設定を行う。この環境設定が終了すると、ユーティリティプログラムは、メディア3から読み出したMACアドレスで示されるプロジェクタ1に対し、相互間のリンク(無線通信路)を確立させるための接続要求を送信する。この時、ユーティリティプログラムは、同じくメディア3から読み出した乱数を当該接続要求に添付させる。
【0018】
一方、この接続要求を受け取ったプロジェクタ1は、先に自分が生成してメディア3に格納した乱数が添付されているかどうかを調べ、添付された乱数が自分が生成した乱数と一致していれば、この接続要求を受け入れ、許可通知をパーソナルコンピュータ2に返信する。そして、この許可通知を受けたパーソナルコンピュータ2では、ユーティリティプログラムが、表示データのプロジェクタ1への無線転送を自動的に開始し、プロジェクタ1では、このように無線転送されてくる表示データの投影を自動的に開始する。
【0019】
つまり、この無線通信システムにおいては、プロジェクタ1にメディア3を収納してリモートコントローラ4の専用ボタンを押下した後、このメディア3をパーソナルコンピュータ2に収納し直して専用のユーティリティプログラムを起動するだけで、無線通信の環境設定に不慣れな者であっても、パーソナルコンピュータ2の表示データをプロジェクタ1に無線転送して投影させることが可能となる。
【0020】
また、このような手順の無線通信制御を行うことにより、例えば他のパーソナルコンピュータ2からの表示データが割り込んで投影されてしまうことを防止する等、いわゆる排他制御が適切に実現されることになる。」(5頁10行?6頁21行)

ハ.「【0029】
また、乱数生成部105は、任意の数を無作為に生成する。判定部106は、接続要求の受信時に、その要求を許可するかどうかを添付された乱数により判定する。設定部107は、例えばユーザインタフェース部102による設定画面の提示に対してリモートコントロール部103経由で取得されるSSIDやWEPキーを使って、無線通信用の環境設定を行う。そして、無線LANデバイスドライバ108は、ハードウェアである無線LANデバイス18をソフトウェアで駆動制御するために設けられるものである。」(7頁15-21行)

ニ.「【0034】
図6は、プロジェクタ1においてメディア3に乱数を含む各種情報を格納する場合の動作手順を示すフローチャートである。
【0035】
リモートコントローラ4の専用ボタンが押下された旨をリモートコントロール部103から通知されると(ステップA1のYES)、メイン処理部101は、メディア3の装着有無をメディアドライバ部104に問い合わせる(ステップA2)。もし、メディア3が装着されていなければ(ステップA2のNO)、メイン処理部101は、メディア3の装着を促すためのエラーメッセージをユーザインタフェース部102に表示させる(ステップA3)。
【0036】
メディア3が装着されていれば(ステップA2のYES)、メイン処理部101は、乱数生成部105に無作為の値である乱数を生成させる(ステップA4)。そして、メイン処理部101は、メディア3のマウントと、この生成された乱数を含む各種情報のメディア3への書き込みとをメディアドライバ部104に指示し(ステップA5)、この書き込みが成功したら(ステップA6のYES)、メディア3のアンマウントをメディアドライバ部104に指示する(ステップA7)。」(7頁46行-8頁12行)

上記引用例1の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
(a)まず、上記引用例1のイ.(【0010】、【0012】、【0013】)及び図1にあるように、無線通信システムは表示データを受信してスクリーンに投影するプロジェクタ1と、プロジェクタ1に表示データを送信するパーソナルコンピュータ2とが無線通信を実行するものであり、データ転送を簡単に開始させることを可能とした無線通信制御方法であるから、引用例1には、『無線通信を行うプロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との通信制御を行って前記プロジェクタ1に画像を表示する方法』が記載されている。
(b)また、上記引用例1のイ.(【0014】)、ロ.(【0029】)並びに図1および図3によれば、メディア3をプロジェクタ1に装着し、リモートコントローラ4の専用ボタンが操作されると、プロジェクタ1は乱数、MACアドレス、SSIDおよびWEPキー等をメディア3に格納するものであり、(d)に後述のようにパーソナルコンピュータ2側において、このSSIDやWEPキーを使って無線通信用の環境設定を行うからSSID等は「設定情報」といえ、引用例1には『プロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との間での無線通信の環境設定に要する設定情報を格納するメディア3が、前記プロジェクタ1のメディア収容部14に装着され』ることが記載されている。
(c)さらに、上記引用例1のイ.(【0020】)、ハ.(【0035】、【0036】)および図6には、他のパーソナルコンピュータ2からの表示データが割り込んで投影されることを防止するため、プロジェクタ1が、ユーザによる前記設定情報の書込み指示が有ったと判断した際に、前記メディア収容部14に装着されたメディア3に、前記設定情報を書き込むから、引用例1には『前記プロジェクタ1において、ユーザによる前記設定情報の書込み指示が有ったと判断した際に、前記メディア収容部14に装着された前記メディア3に、前記設定情報を書き込』むことが記載されている。
(d)また、上記イ.(【0017】-【0019】)並びに図3および図5によれば、次に、メディア3がプロジェクタ1のメディア収容部14から抜き取られ、前記パーソナルコンピュータ2のメディア収容部26に装着されると、前記パーソナルコンピュータ2において、メディア3から読み出したSSIDやWEPキー(設定情報)を使って、プロジェクタ1と無線通信のための環境設定を行うものである。そして、無線通信路の確立された後、前記パーソナルコンピュータ2は表示データを前記プロジェクタ1へ無線転送し、前記プロジェクタ1は無線転送される表示データを投影するから、引用例1には、『前記設定情報が書き込まれた前記メディア3が、前記プロジェクタ1の前記メディア収容部14から抜き取られた後、前記パーソナルコンピュータ2のメディア収容部26に装着されたとき、前記パーソナルコンピュータ2において、前記メディア3に書き込まれた前記設定情報を利用して、前記パーソナルコンピュータ2と前記プロジェクタ1との無線接続を成立させる設定処理を行い、
前記無線接続の成立に伴い、前記プロジェクタ1と前記パーソナルコンピュータ2とが無線通信を行って、前記パーソナルコンピュータ2から表示データを送信し、前記プロジェクタ1において、前記送信された表示データを受け取ってデータを表示する』ことが記載されている。

したがって、上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明1)
「無線通信を行うプロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との通信制御を行って前記プロジェクタ1に画像を表示する方法であって、
プロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との間での無線通信の環境設定に要する設定情報を格納するメディア3が、前記プロジェクタ1のメディア収容部14に装着され、
前記プロジェクタ1において、ユーザによる前記設定情報の書込み指示が有ったと判断した際に、前記メディア収容部14に装着された前記メディア3に、前記設定情報を書き込み、
前記設定情報が書き込まれた前記メディア3が、前記プロジェクタ1の前記メディア収容部14から抜き取られた後、前記パーソナルコンピュータ2のメディア収容部26に装着されたとき、前記パーソナルコンピュータ2において、前記メディア3に書き込まれた前記設定情報を利用して、前記パーソナルコンピュータ2と前記プロジェクタ1との無線接続を成立させる設定処理を行い、
前記無線接続の成立に伴い、前記プロジェクタ1と前記パーソナルコンピュータ2とが無線通信を行って、前記パーソナルコンピュータ2から表示データを送信し、前記プロジェクタ1において、前記送信された表示データを受け取ってデータを表示する、
画像を表示する方法。」

B.同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-4978号公報(以下「引用例2」という。)には、「無線通信システム、無線通信装置、及び無線通信装置間での暗号鍵の交換方法」の発明に関し、図面とともに以下の事項(ホ.?ト.)が記載されている。

(引用例2)
ホ.「【課題を解決するための手段】
【0011】
本願で開示される発明は、上記課題を達成するため、概略以下の通りとされる。本発明の1つのアスペクト(側面)に係るシステムは、暗号化された通信データを無線により互いに送受信する第1の通信装置及び第2の通信装置を備える無線通信システムである。ここで、前記第1の通信装置は、前記通信データの暗号化及び暗号化された前記通信データの復号化を行う第1の暗号化・復号処理部と、可搬性のある不揮発性メモリを物理的に着脱でき、前記不揮発性メモリと電気的に接続可能な第1のインタフェース部と、前記通信データの暗号化及び復号化に用いる一時暗号鍵、及び当該一時暗号鍵のマスター暗号鍵を生成する第1の暗号鍵処理部とを備える。さらに、前記第2の通信装置は、前記通信データの暗号化及び暗号化された前記通信データの復号化を行う第2の暗号化・復号処理部と、前記マスター暗号鍵が書き込まれた前記不揮発性メモリを物理的に着脱でき、前記不揮発性メモリと電気的に接続可能な第2のインタフェース部と、前記第2のインタフェース部に接続された前記不揮発性メモリから読み出された前記マスター暗号鍵を用いて前記通信データの暗号化及び復号化に用いる一時暗号鍵を生成する第2の暗号鍵処理部とを備える。
【0012】
このような構成により、第1のインタフェース部に物理的に装着された不揮発性メモリに対して、第1及び第2の通信装置の間で共有されるマスター暗号鍵を書き込んだ後に、この不揮発性メモリを第1のインタフェース部から取り外し、次にこの不揮発性メモリを第2の通信装置が備える第2のインタフェース部に物理的に装着することにより、マスター暗号鍵を第2の通信装置に配送することができる。これにより、第1及び第2の通信装置におけるマスター暗号鍵の共有化を、簡易かつ安全な暗号鍵の配送処理によって実現することができる。また、可搬性のある不揮発性メモリを暗号鍵の配送に使用するため、接続ケーブルを使用する場合のような距離の制約は生じない。」(5頁46行?6頁20行)

ヘ.「【発明の効果】
【0016】
本発明により、電波傍受等のリスクが少なく安全であり、かつ接続ケーブルを使用する場合のような距離の制約のない配送処理によって、無線通信装置間での暗号鍵の共有化を行うことが可能な無線通信システム、無線通信装置、及び無線通信装置間での暗号鍵の交換方法を提供することができる。」(7頁1行?6行)

ト.「【0035】
続いて以下では、図1および図2を参照して、本実施の形態に係るWUSB通信システムにおけるコWUSBホスト1及びWUSBデバイス2の間でのネクション鍵CKの共有方法について説明する。
【0036】
図2は、WUSBホスト1及びWUSBデバイス2の間でのコネクション鍵CKの共有方法を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS11において、図1に示すUSBメモリ3をWUSBホスト1が備えるUSB I/F14の空きレセプタクルに装着する。
【0037】
ここで、USBメモリ3はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリであれば良く、市販されている一般のUSBメモリでも、暗号鍵を搬送するための暗号鍵専用メモリであっても良い。暗号鍵専用メモリの場合は、安全性を高めるためにパスワードを設定しておき、正しいパスワードを入力しないと暗号鍵専用USBメモリにアクセス出来ないようにするなどの対策を行っても良い。すなわち、暗号鍵専用USBメモリがUSB I/F14の空きレセプタクルに装着されると、暗号鍵処理部11が、装着されたUSBメモリ3が暗号鍵専用USBメモリであるか否かを認識し、暗号鍵専用USBメモリであると認識した場合にパスワードを入力するように操作者に促すメッセージをWUSBホスト1が備える表示装置(不図示)等に表示する。操作者によって正しいパスワードが入力されると、ステップS12以降の処理を行う。一方、入力されたパスワードが不正である場合は、ステップS12の処理は実行せず、表示装置(不図示)に警告のメッセージを表示するなどの処理を行う。なお、上記に説明したパスワードの設定は本発明の通信システムにおいて必須ではなく、用途に応じて適宜適用すればよい。
【0038】
なお、暗号鍵専用のUSBメモリ3がUSBホスト1に装着されたことを認識するためには、当該目的に使用されるUSBメモリ3を識別可能なシリアル番号等のID情報をUSBメモリ3に予め格納しておき、USBメモリ3に格納されたシリアル番号等のID情報と暗号鍵処理部11が予め保持しているID情報を照合すればよい。」(9頁22行?49行)

上記引用例2の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
(e)まず、上記ニ.、ホ.および図1によれば、電波傍受による暗号鍵の解読防止等のため、第1の通信装置の第1のインタフェース部に物理的に装着された不揮発性メモリ(USBメモリ)に対して、第1及び第2の通信装置の間で共有されるマスター暗号鍵を書き込んだあとに、該不揮発性メモリ(USBメモリ)を第1のインタフェース部から第2の通信装置の第2のインタフェース部に物理的に挿入することによりマスター暗号鍵を共有することができるから、『USBメモリを介して、無線通信装置間で通信のための暗号鍵を共有する方法』が記載されている。

(f)また、上記ヘ.、図1および図2にあるように、無線通信を行うWUSBホスト1において、暗号鍵を搬送するための暗号鍵専用のUSBメモリがWUSBホスト1のUSB I/F14の空きレセプタクルに装着されたことを認識するために、識別可能なシリアル番号等のID情報をUSBメモリ3に予め格納しておき、WUSBホスト1の暗号鍵処理部11が予め保持するID情報と照合し、装着されたUSBメモリ3が暗号鍵専用USBメモリである場合に、図2のステップS12以降の処理、すなわち、コネクション鍵CKの暗号鍵等をUSBメモリ3に書き込むから、引用例2には、
『無線通信装置のWUSBホスト1において、WUSBホスト1のUSB I/F14の空きレセプタクルに接続されたUSBメモリ3が識別可能なシリアル番号等のID情報を有すると判断した場合に、前記USB I/F14の空きレセプタクルに接続されたUSBメモリ3に暗号鍵等の情報を書き込む』ことが記載されている。

したがって、上記引用例2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明2)
「USBメモリを介して、無線通信装置間で通信のための暗号鍵を共有する方法であって、
無線通信装置のWUSBホスト1において、WUSBホスト1のUSB I/F14の空きレセプタクルに接続されたUSBメモリ3が識別可能なシリアル番号等のID情報を有すると判断した場合に、前記USB I/F14の空きレセプタクルに接続されたUSBメモリ3に暗号鍵等の情報を書き込む
無線通信装置間で通信のための暗号鍵を共有する方法。」

(2-3) 対比・判断
[対比]
補正後の発明と引用発明1を対比する。

(ア)まず、引用発明1の「プロジェクタ1」が画像を表示するための装置であるのは技術常識であり、「パーソナルコンピュータ2」は明らかにプロジェクタ1とは異なる他の装置であるからそれぞれ、補正後の発明の「画像表示装置」、「該画像表示装置とは異なる他の装置」に相当する。
そして、引用発明1では、「プロジェクタ1」と「パーソナルコンピュータ2」との無線接続を成立させるように設定処理を行うから、補正後の発明の「通信の設定を行」うといえる。
さらに、引用例1のイ.(【0003】、【0005】)に「ネットワーク機能」、「無線LAN」とあるように引用発明1は、プロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2はネットワークに接続されることを前提としているから、以上の点を総合すると、
引用発明1の「無線通信を行うプロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との通信制御を行って前記プロジェクタ1に画像を表示する方法」は、補正後の発明の「ネットワークに接続された画像表示装置と該画像表示装置とは異なる他の装置との通信の設定を行って前記画像表示装置に画像を表示する方法」と一致する。

(イ)また、上記対比を踏まえれば、引用発明1の「プロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との間での無線通信の環境設定に要する設定情報」は、補正後の発明の「前記画像表示装置と前記他の装置との間での前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報」に相当する。
また、引用発明1の「メディア3」は上記「設定情報」を格納するから、記憶メディア(記憶媒体(すなわち、メモリ))であり、設定情報格納領域を備えることは当業者にとって自明であること、さらに、記憶媒体として様々なものが実用されているという技術常識を踏まえれば、補正後の発明の「USBメモリ」と、「メモリ」の点で一致する。
さらに、引用発明1の「前記プロジェクタ1のメディア収容部14」は、補正後の発明の「前記画像表示装置の第1のUSB接続手段」と「前記画像表示装置の第1のメモリ接続手段」として一致する。
また、引用発明1の「装着」は、補正後の発明の「接続」に相当する。
したがって、引用発明1の「プロジェクタ1とパーソナルコンピュータ2との間での無線通信の環境設定に要する設定情報を格納するメディア3が、前記プロジェクタ1のメディア収容部14に装着」は、補正後の発明の「任意のデータファイルを格納可能な記憶領域であるデータ格納領域と、前記画像表示装置と前記他の装置との間での前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報を格納する記憶領域である設定情報格納領域とを備えたUSBメモリが、前記画像表示装置の第1のUSB接続手段に接続」と、
『前記画像表示装置と前記他の装置との間での前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報を格納する記憶領域である設定情報格納領域を備えたメモリが、前記画像表示装置の第1のメモリ接続手段に接続』の点で共通である。

(ウ)また、引用発明1の「ユーザによる前記設定情報の書込み指示が有った」ことは、前記メディア3(メモリ)に前記設定情報を書込む条件であり、補正後の発明の「前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリが所定の識別情報を有する」ことも前記設定情報を書込む条件であるから、両者は「所定の条件」として共通する。
そして、引用発明1の「前記プロジェクタ1において、ユーザによる前記設定情報の書込み指示が有ったと判断した際に、前記メディア収容部14に装着された前記メディア3に、前記設定情報を書き込」むことと、補正後の発明の「前記画像表示装置において、前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリが所定の識別情報を有すると判断した場合に、前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリの前記設定情報格納領域に、前記設定情報を書き込」むこととは、
『前記画像表示装置において、所定の条件を有すると判断した場合に、前記第1のメモリ接続手段に接続された前記メモリの前記設定情報格納領域に、前記設定情報を書き込』むという点で共通する。

(エ)また、引用発明1の「抜き取られた」は、補正後の発明の「離脱された」に相当する。そして、上記(ア)、(イ)、(ウ)の対比を踏まえれば、引用発明1の「前記設定情報が書き込まれた前記メディア3が、前記プロジェクタ1の前記メディア収容部14から抜き取られた後、前記パーソナルコンピュータ2のメディア収容部26に装着されたとき、前記パーソナルコンピュータ2において、前記メディア3に書き込まれた前記設定情報を利用して、前記パーソナルコンピュータ2と前記プロジェクタ1との無線接続を成立させる設定処理を行」うことは、補正後の発明の「該設定情報が書き込まれた前記USBメモリが、前記画像表示装置の前記第1のUSB接続手段から離脱された後、前記他の装置の第2のUSB接続手段に接続されたとき、前記他の装置において、前記USBメモリに書き込まれた前記設定情報を利用して、前記他の装置と前記画像表示装置との前記ネットワーク接続を成立させる設定処理を行」うことと、
『該設定情報が書き込まれた前記メモリが、前記画像表示装置の前記第1のメモリ接続手段から離脱された後、前記他の装置の第2のメモリ接続手段に接続されたとき、前記他の装置において、前記メモリに書き込まれた前記設定情報を利用して、前記他の装置と前記画像表示装置との前記ネットワーク接続を成立させる設定処理を行』う点で一致する。

(オ)また、引用発明1の「表示データ」、「データ」は、補正後の発明の「画像データ」、「画像」に相当する。そして、上記(ア)の対比を踏まえれば、引用発明1の「前記無線接続の成立に伴い、前記プロジェクタ1と前記パーソナルコンピュータ2とが無線通信を行って、前記パーソナルコンピュータ2から表示データを送信し、前記プロジェクタ1において、前記送信された表示データを受け取ってデータを表示する」ことは、補正後の発明の「前記ネットワーク接続の成立に伴い、前記画像表示装置と前記他の装置とが前記ネットワークを介した通信を行って、前記他の装置から画像データを送信し、前記画像表示装置において、前記送信された画像データを受け取って画像を表示する」ことに一致する。

(カ)また、引用発明1の「画像を表示する方法」は、補正後の発明の「画像表示方法」に相当する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「ネットワークに接続された画像表示装置と該画像表示装置とは異なる他の装置との通信の設定を行って前記画像表示装置に画像を表示する方法であって、
前記画像表示装置と前記他の装置との間での前記ネットワークを介した通信の設定に要する設定情報を格納する記憶領域である設定情報格納領域を備えたメモリが、前記画像表示装置の第1のメモリ接続手段に接続され、
前記画像表示装置において、所定の条件を有すると判断した場合に、前記第1のメモリ接続手段に接続された前記メモリの前記設定情報格納領域に、前記設定情報を書き込み、
該設定情報が書き込まれた前記メモリが、前記画像表示装置の前記第1のメモリ接続手段から離脱された後、前記他の装置の第2のメモリ接続手段に接続されたとき、前記他の装置において、前記メモリに書き込まれた前記設定情報を利用して、前記他の装置と前記画像表示装置との前記ネットワーク接続を成立させる設定処理を行い、
前記ネットワーク接続の成立に伴い、前記画像表示装置と前記他の装置とが前記ネットワークを介した通信を行って、前記他の装置から画像データを送信し、前記画像表示装置において、前記送信された画像データを受け取って画像を表示する
画像表示方法。」

(相違点)
(1)「設定情報格納領域」を備えた「メモリ」に関し、
補正後の発明では、「任意のデータファイルを格納可能な記憶領域であるデータ格納領域」も備えるのに対し、
引用発明1では、データ格納領域を備えるか不明である点。
(2)「所定の条件」に関し、
補正後の発明では、「前記第1のUSB接続手段に接続された前記USBメモリが所定の識別情報を有する」と判断した場合であるのに対し、
引用発明1では、「ユーザによる前記設定情報の書き込み指示が有った」と判断した場合である点。
(3)「メモリ」に関し、
補正後の発明では、「USBメモリ」であるのに対し、
引用発明1では「メディア」である点。
(4)「第1のメモリ接続手段」、「第2のメモリ接続手段」に関し、
補正後の発明では、「第1のUSB接続手段」、「第2のUSB接続手段」であるのに対し、
引用発明1では、「メディア収容部14」、「メディア収容部26」である点。


[判断]
上記相違点(1)について検討する。
一般的に、不揮発性の記憶媒体であるメディアに任意のデータファイルを格納可能なデータ格納領域を設けることは当業者に周知の構成である。そして、引用発明1の設定情報格納領域を備えたメディア3に追加してデータ格納領域を設けることに特段の阻害要因は認められないから、引用発明1のメディア3に追加してデータ格納領域を設けることは当業者が必要に応じて適宜選択すべき設計事項であって、格別のものではない。

次に、上記相違点(2)について検討する。
可搬性のある不揮発性メモリのUSBメモリ等を介して、無線通信設定を行うための設定情報を無線通信装置間で共有し、無線通信設定することは、引用発明2に記載されており、引用発明2の「USBメモリ」、「暗号鍵」、「WUSB1」、「WUSBホスト1のUSB I/F14の空きレセプタクル」、「識別可能なシリアル番号等のID情報」は、補正後の発明の「USBメモリ」、「設定情報」、「画像表示装置」、「前記第1のUSB接続手段」、「所定の識別情報」に相当する。
引用発明1及び引用発明2は、他のパーソナルコンピュータからの誤った通信を防止及び電波傍受による暗号鍵の解読等、意図しない通信を防止する点で共通の課題を有しているから、設定情報をメディアに書き込む際の所定の条件として、引用発明1の「ユーザによる設定情報の書き込み指示が有った」という構成に代えて、引用発明2の「USBメモリに所定の識別情報を有する」という構成を採用し、補正後の発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

次に上記相違点(3)、(4)について検討する。
可搬型のメモリとして、USBメモリの他、SDカード、メモリスティック等当業者に周知のものであり、いずれのメモリを用いるかは当業者が適宜選択すべき事項であって格別のものでない。
また、選択したメモリに対応した接続コネクタを画像表示装置等に備えることは自明であって、引用発明1において、USBメモリを適宜選択した際に、プロジェクタ及びパーソナルコンピュータの「メディア収容部」を「USB接続手段」と呼ぶことに格別困難性は認められない。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明1、2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、補正後の発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成23年改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項〔独立特許要件〕の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項〔補正却下〕の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の「(2-2) 引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記補正後の発明から当該補正に係る構成を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加又は限定した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の「(2-3)対比・判断」の項に記載したとおり、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-28 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2008-306497(P2008-306497)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 脇水 佳弘  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 遠山 敬彦
藤井 浩
発明の名称 画像表示システム、USBメモリ、画像表示方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ