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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1260862
審判番号 不服2009-11394  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-22 
確定日 2012-08-02 
事件の表示 特願2000-559158「気相重合用の方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月20日国際公開、WO2000/02929、平成14年7月9日国内公表、特表2002-520426〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成11年7月3日(パリ条約による優先権主張 1998年7月8日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、平成18年6月13日に手続補正書が提出され、平成20年11月27日付けで拒絶理由が通知され、平成21年2月27日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年3月18日付けで拒絶査定がなされ、同年6月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月22日に審判請求書の手続補正書(方式)とともに手続補正書が提出され、同年12月7日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で平成23年8月16日付けで審尋がなされ、それに対して同年12月16日に回答書が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?6に係る発明は、平成21年7月22日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ(ただし、「触媒の重合方法」は「触媒による重合方法」の明らかな誤記と認められるので、そのように認定する。)、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】 少なくとも2つの連結した重合区域で行なわれる気相での触媒による重合方法であって、1以上のモノマーを反応条件の触媒の存在下で、上記重合区域に供給し、この重合区域からポリマー生成物を回収することからなり、成長中のポリマー粒子が迅速な流動又は輸送条件で重合区域の1つ(上昇管)を介して上部に流れ、該管を出て別の重合区域(降下管)に入り、それを介して重力の作用で下方に流れ、該管を出て上昇管に再導入される、つまりポリマーが上昇管と降下管に循環され、さらに
-上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備え、かつ
-上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物が、降下管に導入され、
ここで、該組成が異なるガス及び/又は液体混合物を降下管へ導入することにより、上昇管に存在するガス混合物が降下管に入るのを防ぐ効果をともなう、降下管の上限で供給バリアが確立される、
ことを特徴とする触媒による重合方法。」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由の一つである平成20年11月27日付けの拒絶理由通知書に記載された理由1の概要は、本願発明は、引用文献1(特開平10-67830号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものを含むものであり、平成21年3月18日付けの拒絶査定の備考欄には以下のとおり記載されている。
「この点について検討するに、先の拒絶理由通知書で指摘したとおり、引用文献1には、下図2

で示される、第一の反応帯に含まれる第一の円筒状反応器(20)と、第二の反応帯に含まれる第二の円筒状反応器(30)が、第一のライン(21)によって固体/ガス分離器(22)に連結され、固体/ガス分離器(22)が、ガス再循環ライン(36)により第二のライン(31)の入口点より下で前記反応器(20)の底部における領域で第一の反応器(20)に連結しているとともに、反応器(30)の下方領域は第二のライン(31)により反応器(20)の下方領域に連結している重合装置であって、反応器(30)の一以上の点にモノマー及び/又は開始剤を供給し得るライン(39)及び/又は(39’)を有する装置についても記載されている(【0021】、【図2】参照)。
ここで、上図2における第二の円筒状反応器(30)は、本願発明における「下降管」に相当する。
また、上図2における、反応器(30)の一以上の点にモノマー及び/又は開始剤を供給し得るライン(39)及び/又は(39’)からモノマー及び/又は開始剤を供給することは、本願発明における「上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物が、降下管に導入される」ことに相当する。
そうすると、上記出願人の主張のうち、少なくとも(ii)の部分については出願人の主張が失当であることは明らかである。
また、引用文献1記載の発明において、ライン(39)及び/又は(39’)からモノマー及び/又は開始剤を反応器(30)に供給しようとすれば、当然のことながら、反応器(30)に比較して、ライン(39)及び/又は(39’)の方が高い圧力である必要があるし、そうして反応器(30)にモノマー及び/又は開始剤が供給されれば、反応器(30)中において、ライン(39)及び/又は(39’)から供給されたモノマー及び/又は開始剤の分圧が高くなるのは自明であるから、結果として、第一の円筒状反応器(20)から反応器(30)に導入される反応混合物の分圧が低下することによって、上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのが少なくとも部分的には妨げられるものと認められる。
したがって、引用文献1記載の発明において、ライン(39)及び/又は(39’)は、上記主張するところの(i)及び(ii)の両方に該当することとなり、本願明細書の発明の詳細な説明には、(i)と(ii)が異なる機構、方法でなければならないなどといった規定もないのであるから、仮に引用文献1においてライン(39)及び/又は(39’)を設置する目的が本願発明の解決課題と全く異なるものであったとしても、結果的に得られる作用効果としては、本願発明のそれと全く区別できない。
したがって、出願人の上記主張に拘わらず、本願の請求項1ないし15、及び19に係る発明と引用文献1記載の発明は差異がない・・・」



第4 引用文献の記載事項

引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 第一及び第二の連続した反応帯で実施するオレフィンポリマーグラフトコポリマーを製造する方法であって、該反応帯内をラジカル重合条件及び実質的非酸化環境に保持しつつ該反応帯にオレフィンポリマーの粒子及び1種以上のラジカル重合性モノマーを供給し、そこからグラフトコポリマー粒子生成物を排出させる方法において、グラフトコポリマー粒子が迅速な流動条件下で前記第一の反応帯を流動し、前記第一の反応帯を離れて、重力によりプラグ流れ様式で移動する前記第二の反応帯に入り、前記第二の反応帯を離れて、前記第一の反応帯に再び入ることにより、2つの反応帯間のポリマーの循環が確立されることを特徴とする方法。
・・・
【請求項5】 前記第一の反応帯を離れる気相中のグラフトコポリマー粒子及び混合物が固体/ガス分離帯に搬送され、前記固体/ガス分離帯を離れるグラフトコポリマー粒子が前記第二の反応帯に入る請求項2記載の方法。」(特許請求の範囲請求項1及び5)

(イ)「本発明の方法の別の実施態様を図2に示す。ポリマーが迅速な流動条件下で流動する第一の反応帯には第一の円筒状反応器(20)が含まれる。ポリマーがプラグ流れ様式で移動する第二の反応帯には第二の円筒状反応器(30)が含まれる。反応器(20)の上方領域は第一のライン(21)により固体/ガス分離器(22)に連結しており、それは反応器(30)の上方領域に連結している。反応器(30)の下方領域は第二のライン(31)により反応器(20)の下方領域に連結している。固体/ガス分離器(22)はガス再循環ライン(36)により第二のライン(31)の入口点より下で前記反応器(20)の底部における領域で第一の反応器(20)に連結している。・・・再循環ライン(36)は、圧縮器(26)、熱交換器系(27)及びモノマー(28)及び開始剤(29)を一緒又は別々に導入する系を具備するのが有利である。モノマー及び/又は開始剤は又、ライン(37)により反応器(30)の上部、又はライン(34)により反応器(20)の底部に一緒又は別々に供給しうる。それらは又、例えばライン(38)及び/又は(38′)により反応器(20)の一以上の点で、並びに例えばライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)の一以上の点で供給しうる。」(段落0021)

(ウ)「

」(図2)



第5 引用発明

摘示ア?ウを総合すると、引用文献1には、「第一及び第二の連続した反応帯で実施するオレフィンポリマーグラフトコポリマーを製造する方法であって、該反応帯内をラジカル重合条件及び実質的非酸化環境に保持しつつ該反応帯にオレフィンポリマーの粒子及び1種以上のラジカル重合性モノマーを供給し、そこからグラフトコポリマー粒子生成物を排出させる方法において、
グラフトコポリマー粒子が迅速な流動条件下で前記第一の反応帯を流動し、前記第一の反応帯を離れて、重力によりプラグ流れ様式で移動する前記第二の反応帯に入り、前記第二の反応帯を離れて、前記第一の反応帯に再び入ることにより、2つの反応帯間のポリマーの循環が確立される方法において、ポリマーが迅速な流動条件下で流動する第一の反応帯である第一の円筒状反応器(20)と、ポリマーがプラグ流れ様式で移動する第二の反応帯である第二の円筒状反応器(30)と、反応器(20)の上方領域は第一のライン(21)により固体/ガス分離器(22)に連結しており、それは反応器(30)の上方領域に連結しており、反応器(30)の下方領域は第二のライン(31)により反応器(20)の下方領域に連結しており、固体/ガス分離器(22)はガス再循環ライン(36)により第二のライン(31)の入口点より下で前記反応器(20)の底部における領域で第一の反応器(20)に連結しており、再循環ライン(36)は、圧縮器(26)、熱交換器系(27)及びモノマー(28)及び開始剤(29)を一緒又は別々に導入する系を具備し、モノマー及び/又は開始剤はライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)の一以上の点で供給される
オレフィンポリマーグラフトコポリマーを製造する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。



第6 本願発明と引用発明との対比

引用発明の「ポリマーが迅速な流動条件下で流動する第一の反応帯である第一の円筒状反応器(20)」、「ポリマーがプラグ流れ様式で移動する第二の反応帯である第二の円筒状反応器(30)」及び「前記第二の反応帯を離れて、前記第一の反応帯に再び入ることにより、2つの反応帯間のポリマーの循環が確立される」は、本願発明の「成長中のポリマー粒子が迅速な流動又は輸送条件で重合区域の1つ(上昇管)を介して上部に流れ」、「該管を出て別の重合区域(降下管)に入り、それを介して重力の作用で下方に流れ」及び「該管を出て上昇管に再導入される、つまりポリマーが上昇管と降下管に循環され」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明においては、「反応器(20)の上方領域は第一のライン(21)により固体/ガス分離器(22)に連結して」いることから、気相で重合するものであることは当該技術分野の技術常識からみて明らかである。
また、引用発明の「開始剤」は、本願発明の「触媒」に相当し、開始剤を用いてモノマーを重合することによりポリマーが製造されることも当該技術分野の技術常識からみて明らかであるから、引用発明の「オレフィンポリマーグラフトコポリマーを製造する方法」は、本願発明の「触媒による重合方法」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「少なくとも2つの連結した重合区域で行なわれる気相での触媒による重合方法であって、1以上のモノマーを反応条件の触媒の存在下で、上記重合区域に供給し、この重合区域からポリマー生成物を回収することからなり、成長中のポリマー粒子が迅速な流動又は輸送条件で重合区域の1つ(上昇管)を介して上部に流れ、該管を出て別の重合区域(降下管)に入り、それを介して重力の作用で下方に流れ、該管を出て上昇管に再導入される、つまりポリマーが上昇管と降下管に循環されてなる、触媒による重合方法。」の点で一致し、次の相違点1?3で一応相違する。

<相違点1>
本願発明では、「上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備え」ているのに対し、引用発明では、特に規定されていない点。

<相違点2>
本願発明では、「上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物が、降下管に導入され」ているのに対し、引用発明では、特に規定されていない点。

<相違点3>
本願発明では、「該組成が異なるガス及び/又は液体混合物を降下管へ導入することにより、上昇管に存在するガス混合物が降下管に入るのを防ぐ効果をともなう、降下管の上限で供給バリアが確立される」ものであるのに対し、引用発明では、特に規定されていない点。



第7 相違点に対する判断

1.相違点2について
初めに、相違点2から検討する。
引用発明は、「モノマー及び/又は開始剤はライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)の一以上の点で供給される」ものであることから、ガス及び/又は液体混合物が、第二の円筒状反応器(30)すなわち降下管に導入されていることは明らかである。
そして、第一の円筒状反応器(20)中においては、循環されたポリマー、モノマー及び触媒や供給されたモノマー及び触媒が重合反応しつつ反応器(20)内を流れており、反応器(20)の部分部分によってガス混合物の組成は絶えず変化しているものであることから、ライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)に供給されるモノマー及び/又は開始剤が、上昇管に存在するガス混合物と組成が異なることも明らかであるといえる。
そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。

2.相違点1について
引用発明は、「モノマー及び/又は開始剤はライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)の一以上の点で供給される」ものであるところ、ライン(39)及び/又は(39′)からモノマー及び/又は開始剤を反応器(30)に供給しようとすれば、当然に、反応器(30)内に比較して、ライン(39)及び/又は(39′)内の方が高い圧力である必要があるし、その状態で反応器(30)にモノマー及び/又は開始剤が供給されれば、反応器(30)中において、ライン(39)及び/又は(39′)から供給されたモノマー及び/又は開始剤の分圧が高くなるのは自明であるから、結果として、第一の円筒状反応器(20)から第二の円筒状反応器(30)に導入される反応混合物の分圧が低下することによって、第一の円筒状反応器(20)すなわち上昇管に存在するガス混合物が第二の円筒状反応器(30)すなわち降下管へ入るのが少なくとも部分的には妨げられるものと認められる。
このことは、本願明細書において、
○「本発明の特に有利な具体例によれば、上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物の降下管への導入は、前者の混合物が降下管に入るのを妨げるのに有用である。」(段落0007)、
○「本発明の好ましい具体例によれば、組成が異なるガス及び/又は液体混合物の降下管への導入は、降下管の上限で正味のガス流を上方に安定化さすようになされる。上方へ安定化したガス流は、上昇管中のガス混合物が降下管に入るのを妨げる効果を有する。都合のよいことには、降下管に位置し、好ましくは圧縮された固体で占有される容量の上限に近いポイントの、1以上の導入ラインを介して組成が異なるガス及び/又は液体混合物を導入することによって、上昇管からのガス混合物が降下管に入るのが妨げられる。導入されるガスの流速及び固体の下方への速度は、上方に流れるガスの正味の流れが区域の上限で安定化され、そこに上昇管からのガスが入らないように調節されなければならない。」(段落0008)及び
○「本発明によれば、分離区域4で循環している固体から分離されるガス混合物が降下管2に入るのは、妨げなければならない。本発明の特に有用な具体例によれば、これは、降下管2の適切なポイント、好ましくはその上部に位置するライン15を介して降下管2にガス及び/又は液体を供給することによりなされる。降下管2に供給されるガス及び/又は液体混合物は適切な組成物で、上昇管1中のガス混合物とは異なる。このガス及び/又は液体混合物は、降下管に入るポリマー粒子を伴うガス混合物に部分的又は全体的にとって代わる。このガスを供給する流速は制御されるので、ポリマー粒子の流れに対するガス向流の流れが降下管2、特にその上部で生じ、このためにポリマー粒子を伴う上昇管1からのガス混合物に対するバリアとして作用する。」(段落0013)
と記載されていることとも符合するといえる。
そうすると、引用発明においても上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備えているということができる。
したがって、相違点1も、実質的な相違点ではない。

3.相違点3について
上で述べたとおり、相違点1及び2は実質的な相違点ではないから、引用発明と本願発明とは、共に、
「-上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備え、かつ
-上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物が、降下管に導入され」てなるものであるということができる。
そうすると、引用発明においても、第一の円筒状反応器(20)すなわち上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物を降下管へ導入することにより、第一の円筒状反応器(20)すなわち上昇管に存在するガス混合物が降下管に入るのを防ぐ効果をともなうことは明らかであって、その結果、第二の円筒状反応器(30)すなわち降下管の上限で供給バリアが確立されるものであるということができる。
このことは、上記した本願明細書の段落0013の記載とも符合するといえる。
したがって、相違点3も、実質的な相違点ではない。

よって、本願発明は、引用発明と同一である。



第8 請求人の主張に対する検討

1.意見書における主張について
請求人は、平成21年2月27日に提出した意見書((4)理由1,2について)において、「本願発明は、請求項1に記載しているとおり、
(i)上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備え、かつ
(ii)上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物が、降下管に導入される
ことを特徴とする触媒の重合方法である。
引用文献1には、これらの技術的特徴(i),(ii)は開示されていない。この点に関して、引用文献1は、「モノマー及び/または開始剤は又、ライン(37)により反応器(30)の上部、又はライン(34)により反応器(20)の底部に一緒又は別々に供給しうる。それらは又、例えばライン(38)及び/又は(38’)により反応器(20)も一以上の点で、並びに例えばライン(39)及び/又は(39’)により反応器(30)の一以上の点で供給しうる。」([0021]44?50行の記載)と記載しているのみである。したがって、引用文献1は、モノマー及び/又は開始剤が、降下管30の高さに沿って配置される、一以上の供給ラインによって降下管30に供給されるという一般的な開示のみを含むものである。
引用文献1には、(i)上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備える、という本願発明の特徴を開示するものではない。また、引用文献1は、(ii)上昇管に存在するガス混合物と組成が異なるガス及び/又は液体混合物が、降下管に導入される、という本願発明を何ら開示するものでもない。
本願発明は、「降下管に位置し、好ましくは圧縮された固体で占有される容量の上限に近いポイントの、1以上の導入ラインを介して組成が異なるガス及び/又は液体混合物を導入することによって、上昇管からのガス混合物が降下管に入るのが妨げられる。」(本願明細書[0008]の記載)。
本願発明の装置は、第1反応器(上昇管)中に存在するガス混合物とは異なる組成を有するガス又は液体混合物を該第2反応器(下降管)に供給するためのライン(15)を含むことを特徴とする装置である(本願請求項14)。下降管中に配置されるこの供給ラインは本願明細書の図1?4に明確に示されており、本願明細書の[0013]に記載されている。
引用文献1の装置は、下降管中に存在するモノマー組成を上昇管中のモノマー組成とを区別する目的でこのような供給ラインを含むものではない。
以上のとおり、引用文献1の発明と本願発明とは全く相違する。よって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号には該当しない。」と主張している。

しかしながら、上記第7 1.で述べたとおり、引用発明において、ライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)に供給されるモノマー及び/又は開始剤が、上昇管に存在するガス混合物と組成が異なることも明らかであるといえるから、相違点2を実質的な相違点であるとすることはできないし、上記第7 2.で述べたとおり、引用発明において、上昇管に存在するガス混合物が降下管へ入るのを全体的又は部分的に妨げることができる手段を備えているということができることから、相違点1を実質的な相違点であるとすることはできない。

2.審判請求書における主張について
請求人は、平成21年7月22日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)(3.理由1,2について)において、「上記刊行物は、降下管の高さに沿って供給可能なモノマーと開始剤を一般的に開示するものであり([0021])、本願発明のような降下管の上部でガス/液体供給バリアを導入すること、該供給バリアが重合反応器のバイモーダルな操業の技術的効果を達成することを目的とすることを開示するものでもなく何らの示唆を与えるものでもない。この点については、上記刊行物の実施例によれば、降下管の頂上部でモノマーおよび/または不活性物からなる供給バリアを供給することなく、行われていることからも明白である。
本願の比較例(表2?3)は上記刊行物に記載されているものと同様のプロセスに従って実施され、下降管の頂上部でモノマー/不活性物の供給バリアを提供していない。
これに対して本願発明の重合は、降下管の頂上部でプロピレン(表1)またはエチレン/プロパン/ブテン(表2)を含んでなる供給バリアを導入することにより実施され、下降管内部のガス組成物を上昇管内に存在するガス組成物から効率的に区別することができる。
上記刊行物記載の発明によれば、得られるポリマーの分子量分布の制御が限定される。また上記刊行物記載のプロセスによれば、分子量のバイモーダル分布を得ることはできず、また異なる組成を有するポリマー鎖の均一な混合物を得ることもできない。第2重合区域(下降管)中に充填されたポリマーの存在によって妨げられても、上記刊行物においては、下降管に入ってくるガス混合物は第1重合区域(上昇管)中に存在するものと実質的に同一の組成を有する。
本願発明によって解決される技術的課題は、得られるポリマーの分子量分布を制御することに関して、上記刊行物のプロセスに比べてよりフレキシブルな重合プロセスを提供すること、および高い均一性を維持できる、広い組成物分布のコポリマーを製造するのに適する重合プロセスを提供することにある。このことは、組成が異なるガス及び/又は液体混合物を降下管へ導入して、上昇管に存在するガス混合物が降下管に入るのを防ぐ効果をもち、降下管の上限において供給バリアを確立することにより達成される。
本願発明によれば、上昇管中に存在するガス相組成物を下降管中に存在するガス相組成物と区別して、2つの重合区域中で長さおよび/またはモノマー単位に関して完全に異なるポリマー鎖を得ることができる。
上記刊行物の実施例においては、下降管の頂上部で供給バリアを提供することなく重合が行われており、本願発明のような下降管の上限で供給バリアを確立することに関して何らの示唆も動機付けもないのである。
したがって、本願発明が刊行物とはまったく相違するものであり、本願発明はいわゆる当業者が刊行物に基づいて容易になし得た発明には該当しない。」と主張している。

しかしながら、引用文献1に記載された発明として、その実施例に記載されたもののみに限定して解釈すべき理由ないし根拠は見当たらないし、「上記刊行物においては、下降管に入ってくるガス混合物は第1重合区域(上昇管)中に存在するものと実質的に同一の組成を有する」との主張については、上記第7 1.及び第8 1.で述べたとおり、引用発明では、第一の円筒状反応器(20)中において、循環されたポリマー、モノマー及び触媒や供給されたモノマー及び触媒が重合反応しつつ反応器(20)内を流れており、反応器(20)の部分部分によってガス混合物の組成は絶えず変化しているものであるから、引用発明において、ライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)に供給されるモノマー及び/又は開始剤が、上昇管に存在するガス混合物と組成が異なることも明らかであるといえるから、相違点2を実質的な相違点であるとすることはできない。
そして、請求人が主張する「よりフレキシブルな重合プロセスを提供すること、および高い均一性を維持できる、広い組成物分布のコポリマーを製造するのに適する重合プロセスを提供する」という効果について検討しても、上記第7 1.?3.で述べたとおり、本願発明と引用発明とを比較して両者において特に差異がみあたらないことから、引用発明においても、当然に、本願発明におけるのと同じ効果を奏するものであるといわざるを得ない。

3.回答書における主張について
請求人は、平成23年12月16日に提出した回答書((2)本願発明について)「審尋における前置報告書の内容のうち「『・・・降下管の上限で供給バリアが確立される』なる記載は、単に、拒絶査定時の請求項1に記載された発明特定事項を具備する装置あるいは重合方法を採用すれば、自ずと得られる効果を文言化しただけにすぎず」の記載について、本願発明によれば、上昇管の組成とは異なる組成のガス/液混合物が異なる方法で下降管中に導入され、バリヤ供給を確立する効果を達成することができる。したがって、このご見解は誤りであるといわざるを得ない。一例として、当業者が反応器の壁に接線方向にガス/液を導入したとしても、このような方法では何ら供給バリヤを達成することはできない。
引用文献1におけるモノマーおよび/または開始剤を反応器30にライン(39)および(39’)を介しての供給は、本願発明とは相違する。第一に、引用文献1のライン(39)および(39’)は、本願発明のように下降管の上限に配置されておらず、その高さ方向に配置されている。引用文献1の[0021]には、「モノマー及び/又は開始剤は又、ライン(37)により反応器(30)の上部、又はライン(34)により反応器(20)の底部に一緒又は別々に供給しうる。それらは又、例えばライン(38)及び/又は(38’)により反応器(20)の一以上の点で、並びにライン(39)及び/又は(39’)により反応器(30)の一以上の点で供給しうる。」と記載されている。すなわち、「ライン(39)および(39’)により反応器(30)の一以上の点で供給しうる」(同49?50行)と記載され、「ライン(37)により反応器(30)の上部」(同44?45行)との記載とは相違している。
さらに、引用文献1は、ライン(39)および(39’)を介して供給される組成物が上昇管中に存在する組成物とは異なる組成を有することを開示するものではない。上記の相違点からみて、本願発明が引用文献1とは相違するものであることは明らかである。
なお、バリヤ供給を確立することの意味については、本願明細書[0013]に記載されている。
以上のとおり、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、引用文献1とは全く相違するものであることは明らかであり、また引用文献1から何らの示唆を受けたものには該当しない。よって、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また特許法第29条第2項により特許を受けることができないものにも該当しない。」と主張している。

しかしながら、「引用文献1のライン(39)および(39’)は、本願発明のように下降管の上限に配置されておらず、その高さ方向に配置されている。・・・すなわち、『ライン(39)および(39’)により反応器(30)の一以上の点で供給しうる』と記載され、『ライン(37)により反応器(30)の上部』との記載とは相違している。」という主張については、そもそも本願発明は、ラインが下降管の上限に配置されていると規定するものではない。すなわち、本願発明は、「上昇管に存在するガス混合物が降下管に入るのを防ぐ効果をともなう、降下管の上限で供給バリアが確立される」ものであるところ、本願明細書では、「本発明の特に有用な具体例によれば、これは、降下管2の適切なポイント、好ましくはその上部に位置するライン15を介して降下管2にガス及び/又は液体を供給することによりなされる。」(段落0013)と記載されているとおり、ライン15は降下管2の適切なポイント、好ましくはその上部に位置するものであって、降下管の上限に配置されているものではない。そして、引用発明は、「モノマー及び/又は開始剤はライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)の一以上の点で供給される」ものであることから、降下管に設けられたラインの位置の点でも、本願発明と比較して特に差異は見当たらない。
そして、「本願発明によれば、上昇管の組成とは異なる組成のガス/液混合物が異なる方法で下降管中に導入され、バリヤ供給を確立する効果を達成することができる。したがって、このご見解は誤りであるといわざるを得ない。一例として、当業者が反応器の壁に接線方向にガス/液を導入したとしても、このような方法では何ら供給バリヤを達成することはできない。」という主張については、引用発明が「反応器の壁に接線方向にガス/液を導入した」ものであるとすることはできないし、上記のとおり、引用発明と本願発明とを比較しても、降下管に設けられたラインの位置の点で差異は見当たらず、加えて、ラインからのガス/液の導入方向についても両者において特に差異があるとすることもできない。
また、「引用文献1は、ライン(39)および(39’)を介して供給される組成物が上昇管中に存在する組成物とは異なる組成を有することを開示するものではない。」という主張については、上記第7 1.、第8 1.及び第8 2.で述べたとおり、引用発明では、第一の円筒状反応器(20)中において、循環されたポリマー、モノマー及び触媒や供給されたモノマー及び触媒が重合反応しつつ反応器(20)内を流れており、反応器(20)の部分部分によってガス混合物の組成は絶えず変化しているものであるから、引用発明において、ライン(39)及び/又は(39′)により反応器(30)に供給されるモノマー及び/又は開始剤が、上昇管に存在するガス混合物と組成が異なることも明らかであるといえるから、相違点2を実質的な相違点であるとすることはできない。

したがって、請求人の主張は、いずれも受け入れられるものではない。



第9 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであるから、本願は、この理由により拒絶すべきものである。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-09 
結審通知日 2012-03-12 
審決日 2012-03-23 
出願番号 特願2000-559158(P2000-559158)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 気相重合用の方法及び装置  
代理人 小野 新次郎  
代理人 沖本 一暁  
代理人 社本 一夫  
代理人 小磯 貴子  
代理人 富田 博行  
代理人 松本 謙  
代理人 小林 泰  
代理人 松山 美奈子  
代理人 千葉 昭男  

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