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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1260864
審判番号 不服2009-14949  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-18 
確定日 2012-08-02 
事件の表示 特願2003-67455「イヌリン定量法および定量試薬」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月7日出願公開、特開2004-275017〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年3月13日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成20年 9月 3日付け 拒絶理由通知
平成20年11月 7日付け 意見書・手続補正書
平成21年 1月14日付け 拒絶理由通知(最後)
平成21年 3月19日付け 意見書・手続補正書
平成21年 5月14日付け 拒絶査定
平成21年 5月14日付け 平成21年3月19日付け手続補正書の
補正の却下の決定
平成21年 8月18日付け 審判請求書
同日付け 手続補正書
平成21年10月27日付け 手続補正書(方式)
平成21年11月16日付け 前置報告書
平成24年 1月18日付け 審尋
平成24年 3月23日付け 回答書

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、「第1 手続の経緯」のとおり、平成21年3月19日付け手続補正書は却下されたので、平成20年11月7日付け手続補正書の請求項1、2、9、及び10の「エキソキナーゼ」を「エキソイヌリナーゼ」と誤記の訂正を目的とする、平成21年8月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
平均分子量2000?7000のイヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み、さらにそれに続いて、得られたフルクトースを測定する工程を含む、イヌリンの定量法であって、当該イヌリン分解酵素が分離精製されたエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを含み、および当該イヌリンをフルクトースに分解する工程における反応液中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上100U/mL以下であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上100U/mL以下であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上10U/mL以下であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上100U/mL以下であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上10U/mL以下であるイヌリンの定量法。」(以下、「本願発明」という。)

第3 引用例の記載事項及び引用発明
1 原査定に引用された本出願前である2000年に頒布された刊行物である「JOURNAL OF AOAC INTERNATIONAL,Vol.83,No.2,p.356?364」(原査定の引用文献1。以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、引用例1は英文のため引用例1の記載事項は翻訳文で示す。以下、下線は当審で付した。

(1a)「食品成分及び添加物
酵素/分光光度法による食品中の総フルクタン量の測定:コラボラティブスタディ」(題名)

(1b)「AOACのコラボラティブスタディは混合材料及び食品中のオリゴフルクタン及びフルクタンポリサッカライド(イヌリン)を測定するための酵素分析キット手法の正確さ及び信頼度を評価するために行なわれた。サンプルは熱湯で抽出され、アリコートは、スクロースをグルコース及びフルクトースへ、及びデンプンをグルコースへ加水分解するスクラーゼ(特定のスクロース分解酵素)、α-アミラーゼ、プルラナーゼ及びマルターゼの混合物で処理される。その後、これらの還元糖はアルカリホウ素水素化物溶液との処理によって糖アルコールに還元される。その溶液は中和され、過剰のホウ素水素化物は稀酢酸で除去される。フルクタンは、精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼ混合物(フルクタナーゼ混合物)を使用してフルクトース及びグルコースに加水分解される。産生された還元糖(フルクトース及びグルコース)は、p-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジドとの反応後に分光光度計で測定される。分析されたサンプルは、純粋なフルクタン、チョコレート、低脂肪スプレッド、粉乳、ビタミン剤、玉ねぎ粉末、キクイモ細粉、麦の穂、及びスクロース/セルロースコントロール細粉を含む。」(356頁左欄1?23行)

(1c)「コラボラティブスタディ
チョコレート(A,M)、粉乳(B,F)、ビタミン剤(C,E)、麦の穂(I,L)、スクロース/セルロース(K,Q)、低脂肪スプレッド(S,T)、玉ねぎ粉末(D,O)、フルクタンコントロール(G,R)、純粋なフルクタン(H,P)、及びキクイモ(J,N)の10の(コード化された)均質な試験サンプル(フルクタンを含む、あるいは、それにフルクタンは追加として加えられる)が、15人の共同研究者に20のブラインド複製物として提供された。スクロース/セルロース材料はコントロールサンプルとして含まれていた。参考サンプル(フルクタンコントロール細粉)も共同研究者に方法を習熟させるために供給された。試験サンプル重量の選択を促進するために、研究所は、最初の6つのコード化された材料が0?12%の総フルクタン量、残りは12?50%のフルクタンと助言された。共同研究者は、同封の方法によって各材料について単一の決定を行なうことを要求されたが、テスト材料抽出物のアリコートの二重分析も要求された。結果はAOACガイドラインによって評価された(9)。」(357頁左欄31?48行)

(1d)「A.原則
サンプルはフルクタンを溶かすために熱湯で抽出される。抽出物のアリコートは、スクロースをグルコース及びフルクトースへ加水分解するために特定のスクラーゼで、そしてデンプンをグルコースへ加水分解するために純粋なデンプン分解酵素の混合物で処理される。その後、還元糖はすべてアルカリホウ素水素化物との処理によって糖アルコールに還元される。その溶液は中和され、過剰のホウ素水素化物は稀酢酸で除去される。その後、フルクタンは、精製フルクタナーゼ(exo-イヌリナーゼとendo-イヌリナーゼ)でフルクトース及びグルコースに加水分解され、これらの糖は、還元糖のためのp-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)方法で測定される。
B.装置
・・・
(m)ガラス試験管。-16×120mm、丸底、17mL容量。
・・・
C.試薬
すべての試薬は分析的精製等級であるべきである。
(a)マレイン酸ナトリウム緩衝液。-100mM、pH6.5。900mLの蒸留水中に11.6gのマレイン酸を溶かし、2MのNaOH溶液で6.5にpHを調節する。容量フラスコ中で1Lに容量を調節する。4℃で緩衝液を貯蔵する。
(b)酢酸ナトリウム緩衝液。-100mM、pH4.5。900mLの蒸留水に5.8mLの氷酢酸(1.05g/mL)をピペットで移す。1MのNaOHを使用して、pH4.5に調節する。水で1Lに希釈する。4℃で貯蔵する。
(c)PAHBAH還元糖分析試薬。-(1)溶液A。-電磁撹拌機上の250mLビーカー中の60mLの水に10gのPAHBAH(例えばSigma Cat. No. H-9882、シグマ・ケミカル社、セントルイス、ミズーリ州)を加える。スラリーを撹拌し、10mLの濃HClを加える。蒸留水で200mLに調節し、室温(約22℃)で貯蔵する。少なくとも2年間安定している。(2)溶液B。-500mLの蒸留水に24.9gのクエン酸三ナトリウム塩を加え、溶かすためにかき混ぜる。2.20gの塩化カルシウム二水和物を加え、攪拌して溶かす。次に、40.0gのNaOHを加え、攪拌して溶かす。(溶液は白濁しているかもしれないが、稀釈すると透明になる)。2Lに容量を調節する。その溶液は室温(約22℃)で少なくとも2年間安定している。(3)PAHBAH作動試薬。-使用直前に、180mLの溶液Bに20mLの溶液Aを加え、徹底的に混合する。この溶液は氷上に貯蔵されるべきで、約4時間安定している。
(d)水酸化ナトリウム(50mM)。-900mLの蒸留水中に2.0gのNaOHを溶かす。1Lに容量を調節する。室温(約22℃)で貯蔵する。
(e)アルカリホウ素水素化物(50mMのNaOH中の10mg/mLの水素化ホウ素ナトリウム)。-正確にポリプロピレン容器(ねじ蓋を備えた10mL容量)へ50mgの水素化ホウ素ナトリウム(Sigma Cat. No. S-9125)を採る。チューブの重量(利便性のため約10)を記録し、チューブを密閉し、今後使用できるようにデシケーターでそれらを貯蔵する。使用直前に、50mMのNaOH溶液[試薬C(d)]で水素化ホウ素ナトリウム(10mg/mL)を溶かす。この溶液は室温で4?5時間安定である。
(f)酢酸(100mM)。-蒸留水に5.8mLの氷酢酸を加え、1Lに容量を調節する。室温(約22℃)で貯蔵する。
(g)スクラーゼ/アミラーゼ製剤。-2.27ユニット(U)スクラーゼ/mL。22mLのマレイン酸ナトリウム緩衝液C(a)中のスクラーゼ(50U)と、β-アミラーゼ(Bacillus cereus、500U)、プルラナーゼ(Bacillus licheniformis、100U)及びマルターゼ(酵母、1000U、凍結乾燥した粉体として)を含む1バイアルの内容物を溶かす。5mLのアリコート中へ酵素溶液を分配し、微生物汚染を防ぐためポリプロピレン容器中で冷凍貯蔵する。もし緩衝液中で希釈されなければ、-20℃で貯蔵された場合、凍結乾燥された酵素は5年間安定である。1ユニットのスクラーゼ活性は、pH6.5及び40℃でスクロースから1μmoleのグルコース/分を放出するのに必要な酵素の量である。
(h)フルクタナーゼ溶液。-350U/mLのexo-イヌリナーゼ及び35U/mLのendo-イヌリナーゼ。22mLの酢酸ナトリウム緩衝液、C(b)中に8000Uのexo-イヌリナーゼ及び800Uのendo-イヌリナーゼを含む1バイアルの内容物を溶かす。5mLのアリコートに酵素溶液を分割し、微生物汚染を防ぐためポリプロピレン容器中で冷凍貯蔵する。もし緩衝液中で希釈されなければ、-20℃で貯蔵された場合、凍結乾燥された酵素は5年間安定である。1ユニット(U)のexo-イヌリナーゼ活性は、pH4.5及び40℃でケストース(10mg/mL)から還元糖等価物(フルクトースとして)/分の1μmoleを放出するのに必要な酵素の量である。
(i)フルクタンコントロール細粉。-α-セルロース存在下で凍結乾燥されたダリアフルクタンの既知量を含む。室温で乾燥して貯蔵された場合安定している。
(j)スクロースコントロール細粉。-α-セルロース存在下で凍結乾燥されたスクロース。室温(約22℃)で乾燥して貯蔵された場合安定している。
(k)D-フルクトース標準貯蔵溶液。-0.2%安息香酸中の1.5mg/mL。溶液を調製する前に真空下の60℃で16時間乾燥した粉末結晶のフラクトース(純度>97%)。」(357頁右欄9行?359頁左欄3行)

(1e)「D.試験サンプル、標準、試薬ブランク及びスクロースコントロール粉末の準備
(a)試験サンプル。
・・・
(b)フルクトース標準作動溶液。-0.9mLの酢酸緩衝溶液、C(b)に0.2mLのフルクトース標準貯蔵溶液[1.5mg/mL、C(k)]を加え、徹底的に混合する。4通りで4本のガラス試験管、B(m)の底にこの溶液(54.5μgのフルクトースを含む)の0.2mLのアリコートを分配する。各チューブに、0.1mLの酢酸緩衝溶液、C(b)を加える。熱湯浴中のインキュベーションの直前に、5.0mLのPAHBAH作動試薬、C(c)を加える。
(c)試薬ブランク。-試験管へ0.3mLの酢酸緩衝溶液、C(b)を移し、E(c)(3)からの標準分析手順へ進む。
(d)約10%のスクロースを含むスクロースコントロール粉末。
・・・
E.サンプルの総フルクタン量の決定
(a)フルクタンの抽出。
・・・
(b)スクロース、デンプン及び還元糖の除去。-(1)2本のガラス試験管B(m)の底に、0.2mLの分析される濾液(約0.1?1.0mg/mLのフルクタン、あるいはコントロールを含む)を移す。
(2)各チューブへ0.2mLの希釈スクラーゼ/アミラーゼ溶液、C(g)を加え、30分間40℃でインキュベートする。
(3)各チューブへ0.2mLのアルカリホウ素水素化物溶液、C(e)を加える。チューブを勢いよく撹拌し、糖アルコールへの還元糖の完全な還元のために30分間40℃でインキュベートする。
(4)ボルテックスミキサー上で勢いよく撹拌しながら各チューブに、0.5mLの酢酸(100mM)、C(f)を加える。ホウ素水素化物が新しければ、活発な沸騰が観察される。そうでなければ、ホウ素水素化物に問題があり、分析は新鮮なホウ素水素化物で繰り返されなければならない。(この処理物は過剰のホウ素水素化物を除去し、約4.5にpHを適合させる)。これは溶液Aと名付けられる。
(c)フルクタンの加水分解及び測定。-(1)ガラス試験管、B(m)の底に、0.2mLのアリコート溶液A(2通り)を移す。
(2)各試験管に、0.1mLのフルクタナーゼ溶液、C(h)を加え、ボルテックスミキサー上で内容物を撹拌し、フルクトース及びグルコースへのフルクタンの完全な加水分解のために20分間40℃でチューブをインキュベートする。
(3)フルクトース標準作動溶液、D(b)、試薬ブランク、D(c)、及びフルクタンコントロールサンプルの抽出物、C(i)、及びスクロースコントロールサンプル、C(j)を含むすべてのチューブの内容物をPAHBAH作動試薬(5.0mL)で処理し、ちょうど6分間熱湯浴中でインキュベートする。
(4)熱湯浴からチューブをすべて取り除き、直ちに冷水(18?20℃)中に約5分おく。
(5)冷却後のできるだけ早くに試薬ブランクと対照して410nmですべての溶液の吸光度を測定する。PAHBAH色複合体は時間とともに衰退する。室温で、僅かな変化(<5%)が10?15分間で見られる。同じ変化は標準溶液で見られる。」(359頁左欄9行?360頁左欄最下行)

(1f)「さらに、現在の手順で、高度に精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼの混合物が使用される。これらはα-ガラクトシダーゼを取り除くためにクロマトグラフィーで精製され、著しくペクチナーゼ及びβ-グルカナーゼ(セルラーゼ)を減少する。その結果、この酵素混合物(フルクタナーゼ)は特にペクチン及びβ-グルカンを含んでいる混合物中のフルクタンを加水分解するために使用することができる。フルクタナーゼ製剤中のペクチナーゼ及び/又はβ-グルカナーゼの重要なレベルの存在(商用Fructozyme^(R)製剤、Novozym SP 230^(R)、Novo Nordisk、SA、フランス)は、フルクタンの測定及びAOACの総食物繊維方法の統合方法における製剤の使用を妨げる。ペクチナーゼは、熱処理(7)によって効果的に除去できるが、β-グルカナーゼの除去はクロマトグラフィー精製(6)を要求する。現在の手順の中で使用した精製フルクタナーゼ製剤で、総食物繊維を測定するAOAC方法のフルクタン(イヌリン)の決定を統合することは可能である。」(364頁左欄8?24行)

2 原査定に引用された本出願前である平成15年1月29日に頒布された刊行物である「特開2003-26610号公報」(原査定の引用文献2。以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、診断薬として有用なイヌリンを含有する安定な医薬製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】腎疾患患者の症状の進行確認のために行われる糸球体濾過量の測定には、イヌリン製剤が用いられるが、当該イヌリン製剤は、再溶解性及び安定性に大きな改善点を有する。」

(2b)「【0008】
【発明の実施の形態】本発明で用いるイヌリンとしては、現在イヌリンを医薬品として認めている国がごく少数であり、医薬品原料としてのイヌリンが入手困難であるため、食品用として市販されているイヌリン又はこれを精製して用いることができる。食品用イヌリンは、通常、平均分子量3000?7000であり、このいずれをも使用することができる。また、イヌリンとしては、発熱物質を含有しないものが好ましいが、発熱物質を含有するイヌリンを用いた場合には、イヌリンを加温して溶解した溶液を熱時パイロジェンフリーの活性炭で処理して発熱物質を除去して使用することもできる。」

3 原査定に引用された本出願前である平成14年4月23日に頒布された刊行物である「特開2002-119298号公報」(原査定の引用文献3。以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】イヌリンを酵素的に分解することにより生成したフルクトースを測定するに際し、NAD(ニコチンアミドアデニンヌクレオチド)またはNADP(ニコチンアミドアデニンヌクレオチドリン酸)を電子受容体としないフルクトースデヒドロゲナーゼを用いて電子受容体を介して酸素との反応により生成する過酸化水素を測定するイヌリン測定方法において、電子受容体が1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルスルフェート(略称:1-メトキシ-PMS)であり、かつ過酸化水素をペルオキシダーゼの触媒作用により4-アミノアンチピリンとアニリン系トリンダー試薬がカップリングして生成するキノン色素の増加を測定するイヌリン測定方法。」

(3b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イヌリンを正確に測定するための方法、ならびにそのための試薬に関する。」

(3c)「【0004】イヌリンクリアランスを測定する際には、被験者の静脈にイヌリンを投与し、その前後で経時的に単回または複数回採取した被験者の血漿および/または尿についてイヌリン濃度を適当な方法で測定する。イヌリンの測定方法には、従来イヌリンを強酸で加熱して産生するフルフラールをアンスロン等と反応させて発色させる方法が多用されてきたが、強酸での加熱操作が煩雑で危険性が高いことや、反応が非特異的でグルコースなど他の糖類の影響を受けることなどの問題点が指摘されている。特に反応が非特異であることは、クリアランスに好適な物質としてのイヌリンの長所を損なう。中でも糖尿病性腎症などグルコース濃度が高い被験者の場合には問題が大きい。
【0005】そこで、イヌリンを簡便で正確に測定する方法として、下記に示すように酵素を利用する方法が開発されてきた。これらは、イヌリンを一般にイヌリナーゼと呼ばれる酵素等を用いて単糖に分解し、生じたフルクトースを種々の方法で測定するものである。」

(3d)「【0014】本発明に使用するイヌリン分解酵素は、イヌリンを単糖に分解する能力があるものであれば特に限定されない。例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、クリベロマイセス(Klyveromyces)属等の微生物等から得られるエキソイヌリナーゼ(EC3.2.1.80)、エンドイヌリナーゼ(EC3.2.1.7)などがあり、市販品ではエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物である「Fructozyme」(ノボ・ノルディスク社製)などが挙げられる。また、濃度についても特に限定はなく、例えば反応時の濃度として好ましくは1?500単位/mL、さらには3?150単位/mL程度存在させるのがより好ましい。」

(3e)「【0023】実施例1:イヌリン測定(日立7170自動分析機への適用)
1.試薬の調製
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。
R1(濃度はR1中)
酢酸緩衝液(pH5.0) 0.05mol/L
イヌリナーゼ(ノボ・ノルディスク社製Fructozyme) 30単位/mL
フルクトースデヒドロゲナーゼ(東洋紡績株式会社製FCD-301) 100U/mL
1-メトキシ-PMS 100mg/L
R2(濃度はR2中)
TES緩衝液(pH7.5) 0.05mol/L
ペルオキシダーゼ(東洋紡績株式会社製PEO-301) 10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.1g/L
アニリン系トリンダー試薬(TOOS) 1g/L
ネオペレックスF-65(花王製) 20g/L
【0024】2.試料の調製
イヌリン水溶液は、0,10,20,30,40,50mg/dLの各濃度に調製して用いた。
【0025】3.測定
日立7170自動分析機を使用した。試料をそれぞれ2.0μL添加後すぐR1を180μLを添加し混和後37℃にて5分間静置した後と、その後R2を180μL添加し5分間静置した後の2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度を800nmを副波長にして測定した。ブランク、基準液(20mg/dL)についても同様に測定し、次の式によりイヌリン濃度を求めた。
【0026】
【数1】
(試料の吸光度)-(ブランクの吸光度)
イヌリン濃度[mg/dL]=?????????????????×20
(基準液の吸光度)-(ブランクの吸光度)
【0027】4.結果
表1に示す。50mg/dLまで良好な直線性が得られていることが認められる。」

4 原査定に引用された本出願前である平成14年5月21日に頒布された刊行物である「特開2002-142798号公報」(原査定の引用文献4。以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。

(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】イヌリンを酵素的に分解することにより生成したフルクトースを測定するに際し、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)またはNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を電子受容体としないフルクトースデヒドロゲナーゼを用い、電子が1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルスルフェート(略称:1-メトキシ-PMS)を介してテトラゾリウム塩に伝達されることにより生成するホルマザン色素を測定することを特徴とするイヌリン測定方法。」

(4b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イヌリンを正確に測定するための方法、ならびにそのための試薬に関する。」

(4c)「【0004】イヌリンクリアランスを測定する際には、被験者の静脈にイヌリンを投与し、その前後で経時的に単回または複数回採取した被験者の血漿および/または尿についてイヌリン濃度を適当な方法で測定する。イヌリンの測定方法には、従来イヌリンを強酸で加熱して産生するフルフラールをアンスロン等と反応させて発色させる方法が多用されてきたが、強酸での加熱操作が煩雑で危険性が高いことや、反応が非特異的でグルコースなど他の糖類の影響を受けることなどの問題点が指摘されている。特に反応が非特異であることは、クリアランスに好適な物質としてのイヌリンの長所を損なう。中でも、糖尿病性腎症などグルコース濃度が高い被験者の場合には問題が大きい。
【0005】そこで、イヌリンを簡便で正確に測定する方法として、下記に示すように酵素を利用する方法が開発されてきた。これらはイヌリンを一般にイヌリナーゼと呼ばれる酵素等を用いて単糖に分解し、生じたフルクトースを種々の方法で測定するものである。」

(4d)「【0014】本発明に使用するイヌリン分解酵素は、イヌリンを単糖に分解する能力があるものであれば特に限定されない。例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、クリベロマイセス(Klyveromyces)属等の微生物等から得られるエキソイヌリナーゼ(EC3.2.1.80)、エンドイヌリナーゼ(EC3.2.1.7)などがあり、市販品としては、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物である「Fructozyme」(ノボ・ノルディスク社製)などが挙げられる。また、濃度についても特に限定はなく、例えば反応時の濃度として1?500単位/mL、さらには3?150単位/mL程度存在させるのが好ましい。」

(4e)「【0024】実施例1:イヌリン測定(日立7170自動分析機への適用)
1.試薬の調製
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。
R1(濃度はR1中)
PIPES緩衝液(pH7.5) 0.05mol/L
1-メトキシ-PMS 30mg/L
R2(濃度はR2中)
MES緩衝液(pH5.0) 0.15mol/L
イヌリナーゼ(ノボ・ノルディスク社製Fructozyme) 60単位/mL
フルクトースデヒドロゲナーゼ 200U/mL
テトラゾリウム塩 0.8mmol/L
【0025】2.試料の調製
イヌリン水溶液を、0,20,40,60,80,100mg/dLの各濃度に調製したものを用いた。
【0026】3.測定
日立7170自動分析機を使用した。試料をそれぞれ6.0μL添加後すぐにR1を180μLを添加し混和後37℃にて5分間静置した後と、その後R2を60μL添加し5分間静置した後の2ポイントエンド法で450nmにおける吸光度を測定した。ブランク、基準液(20mg/dL)についても同様に測定し、次の式によりイヌリン濃度を求めた。
【0027】
【数1】
(試料の吸光度)-(ブランクの吸光度)
イヌリン濃度[mg/dL]=?????????????????×20
(基準液の吸光度)-(ブランクの吸光度)
【0028】4.結果
表1に示す。100mg/dLまで良好な直線性が得られている。」

5 原査定に引用された本出願前である平成14年4月2日に頒布された刊行物である「特開2002-95498号公報」(原査定の引用文献5。以下、「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。

(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】イヌリンを酵素的に分解し、生成したフルクトースを測定するイヌリン測定方法において、イヌリンを分解する工程にグルコースを基質とする酵素のコンタミネーション率が0.01%以下である酵素を用いることを特徴とするイヌリン測定方法。」

(5b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イヌリンを正確に測定するための方法及びそのために用いる試薬に関する。」

(5c)「【0004】イヌリンクリアランスを測定する際には、被験者の静脈にイヌリンを投与し、その前後で経時的に単回または複数回採取した被験者の血漿および/または尿についてイヌリン濃度を適当な方法で測定する。
【0005】イヌリンの測定方法には、従来イヌリンを強酸で加熱して産生するフルフラールをアンスロン等と反応させて発色させる方法が多用されてきたが、強酸での加熱操作が煩雑で危険性が高いことや、反応が非特異的でグルコースなど他の糖類の影響を受けることなどの問題点が指摘されている。特に反応が非特異的であることは、クリアランスに好適な物質としてのイヌリンの長所を損なう。中でも、糖尿病性腎症などグルコース濃度が高い被験者の場合には問題が大きい。
【0006】そこで、イヌリンを簡便で正確に測定する方法として、下記に示すように酵素を利用する方法が開発されてきた。これらは、イヌリンを一般にイヌリナーゼと呼ばれる酵素等を用いて単糖に分解し、生じたフルクトースおよび/またはグルコースを種々の方法で測定するものである。
・・・
【0010】ところが、実用上はこれらの方法においてもグルコースを基質とする酵素のコンタミネーションにより特異性が損なわれる可能性がある。特に、グルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼが存在する場合、反応系が受ける影響は大きい。これらのコンタミネーションは主として試薬組成中の酵素からもたらされる。中でもイヌリン分解酵素の場合、体外診断薬用グレードの酵素が市販されていないからといって食品用等のグレードをそのまま用いると問題となり易い。」

(5d)「【0014】
【発明の実施の形態】本発明のイヌリン測定方法に使用するイヌリン分解酵素は、イヌリンを単糖に分解する能力があるものであれば特に限定されないが、具体的には、エキソイヌリナーゼ(EC3.2.1.80)、エンドイヌリナーゼ(EC3.2.1.7)等が例示される。これらは、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、キリベロマイセス(Klyveromyces)属等の微生物などより得ることができる。また、市販のイヌリン分解酵素としては、アスペルギルス属由来のエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物である「Fructozyme」(ノボ・ノルディスク社製)などが挙げられる。」

(5e)「【0021】以下に、イヌリン分解酵素のコンタミネーション率を低減させる事例を示す。例えば、市販のイヌリン分解酵素としてFructozyme(ノボ・ノルディスク社製)を選び、それに含まれるグルコースオキシダーゼ含量を測定した。イヌリン分解酵素活性を100%として0.6%であった。本製品を20mMクエン酸緩衝液(pH4.0)にバッファ置換後、55℃で24時間処理を行った。その結果、イヌリン分解活性は86%回収でき、グルコースオキシダーゼ活性は0.00015%に低下していた。
【0022】本発明のイヌリン測定方法における精製されたイヌリン分解酵素の濃度については特に限定されないが、例えば、反応時の濃度として1?500単位/mL、さらに好ましくは3?150単位/mL程度存在させるのがよい。」

(5f)「【0027】実施例1および比較例1:イヌリンおよびグルコースの測定
1.試薬の調製
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。以下、R1、R2はそれぞれ試薬1、試薬2の略号を表す。
R1(濃度はR1中)
酢酸緩衝液(pH5.0) 0.05mol/L
イヌリナーゼ(ノボ・ノルディスク社製) 30単位/mL
R2(濃度はR2中)
TES緩衝液(pH7.5) 0.05mol/L
ペルオキシダーゼ(東洋紡績株式会社製FCD-301)10 U/mL
4-アミノアンチピリン 0.1g/L
アニリン系トリンダー試薬(TOOS) 1g/L
【0028】(実施例1)上記Fructozymeを、20mMクエン酸緩衝液(pH4.0)にバッファ置換後、55℃で24時間処理を行った。試薬中におけるグルコースデヒドロゲナーゼのコンタミネーション率は0.001%であった。
【0029】(比較例1)上記Fructozymeをそのまま用いた。試薬中におけるグルコースデヒドロゲナーゼのコンタミネーション率は0.2%であった。
【0030】試料の調製
精製水(ブランク)
基準液(20mg/dL イヌリン水溶液)
イヌリン水溶液
グルコース水溶液 2.0g/dL
【0031】測定
R1 2.00mLに試料をそれぞれ0.06mL添加し37℃にて5分間静置した後と、その後R2を2.00mL添加し5分間静置した後の2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度を測定した。ブランク、基準液についても同様に測定し、次の式によりイヌリン濃度を求めた。
【0032】
【数2】
(試料の吸光度)-(ブランクの吸光度)
イヌリン濃度[mg/dL]=?????????????????×20
(基準液の吸光度)-(ブランクの吸光度)
【0033】結果
表1に示す。実施例ではグルコースを測定しても測定値はほぼ0であるが、比較例ではイヌリン濃度が0であるにもかかわらず正の値を示し、グルコースの影響を受けていることがわかる。」

6 引用例1の上記(1a)、(1b)によれば、引用例1には、
「食品中のフルクタンを、精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼ混合物(フルクタナーゼ混合物)を使用してフルクトース及びグルコースに加水分解し、産生された還元糖(フルクトース及びグルコース)を、p-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジドとの反応後に分光光度計で測定する、食品中の総フルクタン量の測定方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第4 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「フルクタン」は、「AOACのコラボラティブスタディは混合材料及び食品中のオリゴフルクタン及びフルクタンポリサッカライド(イヌリン)を測定するための酵素分析キット手法の正確さ及び信頼度を評価するために行なわれた。」(上記(1b))、「現在の手順の中で使用した精製フルクタナーゼ製剤で、総食物繊維を測定するAOAC方法のフルクタン(イヌリン)の決定を統合することは可能である。」(上記(1f))との記載からも明らかなとおり、イヌリンと同義に用いられている。そして、イヌリンはフルクトースの任意の重合体であることは技術常識である。
したがって、引用発明の「食品中のフルクタン」と、本願発明の「平均分子量2000?7000のイヌリン」とは、「所定の平均分子量のイヌリン」である点で共通する。

2 引用発明の「精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼ混合物(フルクタナーゼ混合物)」は、本願発明の「イヌリン分解酵素が分離精製されたエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを含」むことからもわかるとおり、「イヌリン分解酵素」といえる。
したがって、引用発明のフルクタンを、「精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼ混合物(フルクタナーゼ混合物)を使用してフルクトース及びグルコースに加水分解」することは、本願発明のイヌリンを「イヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含」むことに相当する。

3 引用発明は、食品中のフルクタンの含有量を測定して決定するものであるから、引用発明の測定方法は定量法と同義といえる。
また、本願発明のフルクトースの測定方法は、本願明細書に段落【0039】に「以下(1)?(4)にその事例を示すが、本発明はこの事例に限定されるものではない。」と記載されているように特定の方法に限定されない。
したがって、引用発明の「産生された還元糖(フルクトース及びグルコース)を、p-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジドとの反応後に分光光度計で測定する、食品中の総フルクタン量の測定方法」は、本願発明の「さらにそれに続いて、得られたフルクトースを測定する工程を含む、イヌリンの定量法」に包含される。

4 以上のことから、両者は、以下の一致点、及び相違点1、相違点2を有する。

一致点:「所定の平均分子量のイヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み、さらにそれに続いて、得られたフルクトースを測定する工程を含む、イヌリンの定量法。」

相違点1:「所定の平均分子量のイヌリン」が、本願発明では、「平均分子量2000?7000のイヌリン」であるのに対し、引用発明では「食品中のフルクタン」であり、分子量の特定がない点。

相違点2:「イヌリン分解酵素」が、本願発明では、「分離精製されたエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを含み」、「当該イヌリンをフルクトースに分解する工程における反応液中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上100U/mL以下であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上100U/mL以下であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上10U/mL以下であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上100U/mL以下であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上10U/mL以下である」であるのに対し、引用発明では、「精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼ混合物(フルクタナーゼ混合物)」である点。

第5 判断
そこで、上記相違点1、相違点2について検討する。

1 相違点1について
引用例1は、食品中の総フルクタン(イヌリン)量を測定するための酵素分析キット手法の正確さ及び信頼度を評価することに関し(上記(1a)、(1b)参照)、15の共同研究者によるコラボラティブスタディが、チョコレート、粉乳、ビタミン剤、麦の穂、スクロース/セルロース、低脂肪スプレッド、玉ねぎ粉末、フルクタンコントロール、純粋なフルクタン、及びキクイモについて実施され、これらの試験サンプルは、それ自体フルクタンを含むか、あるいはそれにフルクタンが追加として加えられたものとされている(上記(1c)参照)。
引用例1には、測定されたサンプル中のフルクタンの平均分子量について記載されていないが、キクイモなどの植物に含まれるイヌリンの分子量がおよそ6000程度であることは、本出願前周知の事項である(五十嵐脩他編、「丸善食品総合辞典」、平成10年3月25日、丸善株式会社、90頁参照)。また、上記(2b)に、「食品用イヌリンは、通常、平均分子量3000?7000であり」と記載されているように、食品に添加するイヌリンは平均分子量3000?7000の範囲にあるものが市販されている。
そうしてみると、引用例1に記載の食品中の総フルクタン(イヌリン)量の測定対象となるイヌリンの平均分子量は3000?7000程度と認められ、この点は実質的な相違点ではない。

ここで、本願発明のイヌリンの定量法は、測定対象となるイヌリンについて平均分子量以外は特定されておらず、請求項1(すなわち、本願発明)を引用する請求項7又は請求項8で初めて血液中又は尿中のイヌリンであることやクリアランス測定用であることが特定されていることから、特定の平均分子量を満たすイヌリンであればどのようなものも本願発明の測定対象となるイヌリンに含まれる。
しかしながら、本願明細書段落【0030】には、「本発明の測定対象であるイヌリンは、医薬品原料、または食品用として市販されているイヌリンまたはこれを精製して用いることができる。」と記載されていること、審判請求書等で特にクリアランス測定におけるイヌリンの定量法に関する旨主張をしていることから、仮にこの点を相違点とした場合についても念のため検討する。
上記のとおり、引用例1には、純粋なフルクタンの測定も行ったことが示されているうえ、測定対象は、食品などから抽出し、スクロース、デンプン及び還元糖を予め除去した後、フルクタン量を測定したことが記載されている(上記(1e)のE.参照)。
また、引用例2には、クリアランス測定用のイヌリンについて、市販の食品用のイヌリンは平均分子量が3000?7000であり、これを精製して用いることができることが記載されている(上記(2a)参照)。
さらに、引用例3?5にあるとおり、クリアランス測定を被験者の静脈にイヌリンを投与し、血液中又は尿中のイヌリンを測定して行うことは本出願前周知の事項である(上記(3c)、(4c)、及び(5c)参照)。
これらのことから、引用発明のフルクタンの測定方法を、食品中に含有されているものに限らず、市販の食品用イヌリンを精製したものや、クリアランス測定のためのイヌリンの定量に応用することも、当業者が適宜なし得たことである。

2 相違点2について
(1)分離精製されたエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを含むことについて
引用例1には、用いる試薬について、「C.試薬 すべての試薬は分析的精製等級であるべきである。」(上記(1d))、「高度に精製されたexo-及びendo-イヌリナーゼの混合物が使用される。これらはα-ガラクトシダーゼを取り除くためにクロマトグラフィーで精製され、著しくペクチナーゼ及びβ-グルカナーゼ(セルラーゼ)を減少する。」、「フルクタナーゼ製剤中のペクチナーゼ及び/又はβ-グルカナーゼの重要なレベルの存在(商用Fructozyme^(R)製剤、Novozym SP 230^(R)、Novo Nordisk、SA、フランス)は、フルクタンの測定及びAOACの総食物繊維方法の統合方法における製剤の使用を妨げる。ペクチナーゼは、熱処理(7)によって効果的に除去できるが、β-グルカナーゼの除去はクロマトグラフィー精製(6)を要求する。」(上記(1f))のように記載されており、分析等級程度に精製されたものとであること、市販のイヌリナーゼ製剤に熱処理やクロマトグラフィー精製などを実施し、高度に精製されたエキソイヌリナーゼ及びエンドイヌリナーゼの混合物を使用することが示されているといえる。
よって、分離精製されたものである点は実質的な相違点ではない。

ここで、本願明細書段落【0034】には、「このとき、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを含む混合物を用いることもできるが、更に好ましくは定量試薬の反応性のロット間差を低減する目的で、エキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを分離精製し、各々の活性値を元にエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを一定の範囲、一定の比率で混合して用いることもできる」と記載されているので、本願発明の「分離精製」を、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを別々に分離して精製すると解した場合についても、念のため補足して検討する。
引用例1に記載されている精製が、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼをそれぞれ分離して精製することを意味するかどうかは不明である。
しかしながら、引用例1には、イヌリナーゼに夾雑物として含まれるα-ガラクトシダーゼ、ペクチナーゼ、及びβ-グルカナーゼを除去して精製することが記載されており(上記(1f)参照)、この場合、精製後のイヌリナーゼは精製されたエキソイヌリナーゼと精製されたエンドイヌリナーゼの混合物となっているといえ、これらをそれぞれ単離精製して混ぜたものと物として相違するとはいえない。
また、他の酵素の混入を防ぐ目的で精製する必要があることが示されていることを考慮すると、イヌリナーゼ自体もそれぞれ単離して、より高度に精製されたものを使用することは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)イヌリンをフルクトースに分解する工程における反応液中のイヌリン分解酵素の活性が特定されている点について
引用例1には、フルクタン(イヌリン)は精製されたエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物を用いてフルクトースに加水分解することが記載されている(上記(1b)、(1d)参照)。
その具体的な試薬について、350U/mLのexo-イヌリナーゼ及び35U/mLのendo-イヌリナーゼ(上記(1d)のC.試薬(h)参照)を用いることが記載され、フルクタンの加水分解は、0.2mLのアリコート溶液Aに対し、上記C.(h)で示されたフルクタナーゼ溶液の0.1mLを加えて実施することが記載されている(上記(1e)のE.サンプルの総フルクタン量の決定(c)フルクタンの加水分解及び測定を参照)。
そうすると、フルクトースに加水分解する際には、試薬は1/3に希釈されているから、約116.7U/mLのエキソイヌリナーゼと約11.7U/mLのエンドイヌリナーゼを含む状態で行われていることになる。
そこで本願発明の条件と比較すると、本願発明では、エキソイヌリナーゼのみを用いる場合、すなわち(i)の他、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物を用いる場合、すなわち(ii)及び(iii)が選択肢としてあげられている。
そして、混合物を用いる場合の各酵素の上限値は、(ii)、(iii)いずれの場合もエキソイヌリナーゼが100U/mL、エンドイヌリナーゼが10U/mLであり、引用例1に記載されている条件より僅かに少ない量が規定されている。
ところで、引用例1は、酵素分析キットの正確さ及び信頼度を評価するために、複数の研究機関に正確に同一の条件で確実に分析を実施してもらい、その結果からの評価を示したものであって、その詳細な手順を記載したものといえる(上記(1a)、(1c)など参照)。
そうしてみると、引用例1に記載の試薬の酵素活性は、用いるべき酵素活性の下限値を示したものとはいえず、経済性や実施する定量法への適用を考慮して、用いる酵素活性を検討して最適化することは、当業者が容易になし得たことであり、引用例1に示された具体的な数値より任意に少ない酵素活性となる濃度として用いることに困難を要するとはいえない。

そのうえ、引用例3?5には、市販品であるエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物であるFructozymeを用いることができ、その反応時の濃度も3?150U/mL程度が好ましいことが記載されている(上記(3d)、(4d)、及び(5e)参照)。
そして、引用例3の実施例では、測定試料2.0μLに30単位/mLの濃度でイヌリナーゼ含む試薬R1の180μを添加して用いており、引用例4の実施例では、測定試料6.0μLと試薬R2の180μLの混合溶液に60単位/mLの濃度でイヌリナーゼを含む試薬R2の60μLを添加して用いており、また、引用例5の実施例では、測定試料0.06mLに30単位/mLのイヌリナーゼを含む試薬R1の2.00mLを添加して用いており、それぞれ反応時の濃度は、30×(180/(2.0+180))≒29.7U/mL、60×(60/(6.0+180+60))≒14.6U/mL、及び30×(2.00/(0.06+2.00))≒29.1U/mLで用いたことが記載されている(上記(3e)、(4e)、及び(5f)参照)。
引用例3?5に記載のFructozymeは、審判請求人の提出した平成24年3月23日付けの回答書によると、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの比が、100対1程度のものであると認められるが、引用例1で使用されている市販品(上記(1f)参照)中のエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの比率は10対1程度である。
そうしてみると、上記引用例3?5に記載の方法で、引用例1に記載されているような市販品の酵素を精製して用いた場合には、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを10対1程度の活性で含む、すなわち、27U/mLと2.7U/mL、13.3U/mLと1.3U/mLあるいは26.5U/mLと2.6U/mL程度の量で使用することも普通のこといえ、本願記載の数値範囲が格別なものということもできない。

3 本願発明の効果について
審判請求人は、本願発明について、より正確性の高いクリアランス測定を可能とするイヌリンの定量法であること、測定対象となるイヌリンの分子量に多少の幅があってもその影響を小さくすることができ、短時間で簡便且つ正確に定量できるものであることを主張している。
また、引用例1の場合は、フルクタンをフルクトース及びグルコースに完全に加水分解するために40℃で20分間インキュベートしたことが記載されているのに対し(上記(1e)のE.(c)(2)参照)、本願明細書記載の実施例では、37℃で10分間の反応時間で測定を行って測定誤差が小さい結果が得られている旨も主張している。
しかしながら、本願発明は、クリアランス測定ではなく、イヌリンの定量法であり、引用発明のような食品を対象とした定量法も含むから、審判請求人の上記主張は採用できない。

仮に、これらの課題、効果を考慮しても、これまで検討したとおり、本願発明と引用発明の実質的な相違点は、酵素活性のみといえ、引用例1に記載の測定方法の方が、本願発明の定量法より酵素活性が高いので、より短時間で定量可能、かつ、フルクタンが充分に分解されるから正確に定量可能であることは自明な事項といえる。そして、引用例1に記載されている酵素活性との差は僅かであり、測定の正確性や測定時間に関して顕著に相違するとは考えられず、本願発明の酵素活性の数値限定に臨界的意義があるとはいえない。
また、引用例1に記載の方法は精製された酵素を用い、任意の食品中のフルクタン(イヌリン)を正確かつ信頼性よく分析できるキットの評価に関するから、平均分子量の違いによらず測定誤差が少ない手法となっていることも予測される。
さらに、引用例3?5に記載されているように、イヌリンクリアランスを測定するのに、従来の酸による加水分解にかえて酵素分解法を用いることで正確性を高めることが知られており、イヌリンクリアランスの測定は正確性が要求されることも、当業者に周知の技術課題である(上記(3a)?(3c)、(4a)?(4c)、(5a)?(5c)参照)。
特に、引用例5には、酵素のコンタミネーションが問題となること、食品用のグレードをそのまま用いると問題となることが示され、イヌリンを分解する工程にグルコースを基質とする酵素のコンタミネーション率が0.01%以下である酵素を用いることが示されている((5a)、(5c)、(5e)、及び(5f)参照)。
そして、引用例3?5の実施例によれば、それぞれ市販品のエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼの混合物である「Fructozyme」(ノボ・ノルディスク社製)を(精製して)用いて、特に分子量が特定されていないイヌリンの加水分解を37℃にて5分間静置して行って、精度よく測定が行えたことが示されている(上記(3d)、(3e)、(4d)、(4e)、(5d)、(5f)参照)。
これらのことから、イヌリンクリアランスを正確に行うために、精製した酵素を最適な酵素活性となる濃度で用いることによって、短時間で正確に測定できること、測定対象のイヌリンの平均分子量に多少の差があってもそれに影響を受けることなく測定できることは、当業者が容易に予測し得たことであって、格別なこととはいえない。

4 その他
審判請求人は、審判審尋に対する平成24年3月23日付けの回答書において、引用例3?5の実施例で使用されている市販の酵素を用いた比較実験を行い本願発明の効果を主張しているので、その点についても補足して検討する。
引用例1及び5には、先にも示したとおり市販の酵素には夾雑物が混入し、これが測定に影響を与えることが示されている(上記(1f)、(5c)、(5e)、及び(5f)参照)。
一方、回答書の実験では、市販の酵素を精製することなく高濃度で用いていることが明らかであり、そうすると、夾雑物による影響が大きいことも自明であるから、この結果によって、本願発明が引用例1に記載の方法に比べて格別な効果を奏するものということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-31 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-06-19 
出願番号 特願2003-67455(P2003-67455)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
鵜飼 健
発明の名称 イヌリン定量法および定量試薬  
代理人 山本 健二  
代理人 村田 美由紀  
代理人 高島 一  
代理人 山本 健二  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 土井 京子  
代理人 村田 美由紀  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 高島 一  
代理人 土井 京子  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 田村 弥栄子  

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