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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q
管理番号 1260997
審判番号 不服2009-9468  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-30 
確定日 2012-08-03 
事件の表示 特願2003-575451「広帯域平板状逆Fアンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月18日国際公開、WO03/77355、平成18年 1月12日国内公表、特表2006-501699〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2003年1月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年3月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年1月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において平成23年8月4日付けで拒絶理由通知がなされ、平成24年2月7日付けで手続補正がなされたものである。

第2.特許法第29条第2項について
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年2月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「アンテナであって、
第1の平面および第1のエリアを有するグランド板(204)と、第2の平面および第2のエリアを有する1つの放射素子(202)とを有し、
該放射素子(202)の第2の平面は、該グランド板(204)の第1の平面と、垂直方向に実質的に平行であり、
第1の接続線路(210,116)が、該グランド板(204)の第1の縁部に結合されており、かつ第1のコンタクト位置(208)にて該放射素子(202)の第2の縁部に結合されており、
第2の接続線路(212,114)が該放射素子(202)の第2の縁部に、第2のコンタクト位置(206)および第3のコンタクト位置(218)にて、接続バー(220)を介して結合されていることを特徴とするアンテナ。」

2.引用例
当審で通知した拒絶理由に引用された国際公開第01/3238号(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がある。邦訳は、対応する特表2003-504902号公報による。また、ウムラウトは省略し、エスツェットはssと表記した。

イ.「Aufgabe der vorliegenden Erfindung ist es, eine Antenne der eingangs genannten Art anzugeben, welche keinen Stummel aufweist, in Kommunikationsendgerategehause integrierbar ist und die geforderte Dualbandfahigkeit besitzt.

Zur Losung dieser Aufgabe besteht die eingangs genannte Antenne aus einer uber einer Masseflache liegenden und im wesentlichen rechteckformigen Gesamtflache, welche zur Abstrahlung zweier unabhangiger Frequenzen aus einer L-formigen PIFA-Antenne und einer rechteckformigen PIFA-Antenne besteht, wobei die PIFA-Antennen drei oder vier Anschlusse aufweisen, die uber Leitungen mit zwei Kontaktpunkten verbunden sind.

Das oben angesprochene Problem wird erfmdungsgemass durch den Einsatz einer Antenne gelost, die aus einer raumlichen Verschachtelung von zwei PIFA (Planar Inverted F-Antenna) Antennenstrukturen besteht, die durch spezielle Leitungsstrukturen miteinander verbunden sind. Dadurch entsteht eine kleine raumliche Struktur, die fur Dualbandanwendungen geeignet ist und sich an ein aus nicht ebenen Flachen bzw. abgerundeten Kanten bestehenden Gehause anpassen kann. Die Antenne lasst sich insbesondere auch in der Nahe, d.h. in einigen Millimeter Abstand, von unvermeidlichen Metallflachen, welche ublicherweise die metallische Abschirmung der Elektronik bilden, betreiben.

Die fur die Herstellung verwendbare Standardtechnologie des Stanzens und Biegens von Blechteilen lasst extrem hohe Fertigungsgeschwindigkeiten zu und es ergeben sich somit geringe Herstellungskosten. Ausserdem konnen daruberhinaus auch die Herstellungskosten der Antennenkontaktfeder, die den Kontakt zwischen Antenne und Elektronik des Gerates herstellen, gespart werden, da die Antennenfeder als integrierter Teil der Antenne in einem Produktionsprozess hergestellt werden kann.

Durch eine Optimierung ist es moglich, dass die Antenne nahe ihrer ersten Resonanzfrequenz fur eines der Zielfrequenzbander (z.B. GSM) einsetzbar ist und nahe der zweiten Resonanzfrequenz so breitbandig arbeitet, dass damit ein Einsatz bei einem weiteren Frequenzband moglich ist (z.B. PCN oder PCS). Daruber hinaus ist es moglich, gleichzeitig eine Nennimpedanz von etwa 50 Ohm zu realisieren, so dass die Antenne ohne Anpassnetzwerk oder mit einer geringen Anzahl von Anpasselementen betrieben werden kann. Dies hat wiederum zur Folge, dass die in Anpassschaltungen immer auftretenden Verluste vermieden werden konnen.

Der erfinderische Schritt liegt darin, die unvermeidliche Verkopplung der beiden Teilbereiche so zu berucksichtigen, dass das Gesamtsystem in mehreren Frequenzbandern betrieben werden kann. Dazu wird eine spezielle Speisung der Antenne verwendet, bei der drei oder vier Kontakte an den strahlenden Flachen auf zwei Kontaktpunkte abgebildet werden. 」(1頁21行?2頁36行)

(邦訳)「本発明の課題は、余す所を有さず、通信端末装置のケーシング内に集積することが可能であり、また必要とされるデュアルバンド性能を有する、冒頭で述べたようなアンテナを提供することである。

この課題を解決するために、冒頭で述べたアンテナは、アース面の上に位置し実質的には全体が矩形である面から成っており、この面は2つの独立した周波数を放射するためにL形のPIFAアンテナと矩形のPIFAアンテナから成る。ここでPIFAアンテナは3つまたは4つの端子を有し、この端子は線路を介して2つの接点と接続されている。

冒頭で述べた問題は、本発明によれば以下のようなアンテナを使用することにより解決される。すなわちアンテナは、特別な線路構造体によって相互に接続されている2つのPIFA(Planar Inverted F-Antenna)アンテナ構造体が、立体的に入り組んだ状態から成る。このことによって、デュアルバンドの使用に適しており、また面が平坦ではない、ないしは縁が丸まった既存のケーシングに適合させることが可能な小さい立体構造体が生じる。アンテナは例えば、通常は電子機構の金属製の遮蔽を形成する不可避の金属面の近傍、すなわちそこから数ミリメートルの距離においても動作することができる。

製造のために使用可能な金属板を打ち抜いたり曲げたりする標準的な技術によっては、製造速度を非常に高めることができ、またしたがって製造コストが低くなる。さらにそれに加えて、アンテナと装置の電子機構との間の接触を確立するアンテナ接触バネの製造コストも節約することができる。何故ならばアンテナバネは製造工程においてアンテナの集積形部分として製造することができるからである。

最適化によってアンテナは、第1の共振周波数の近くでは目的の周波数帯域(例えばGSM)のうちの1つのために使用することが可能であり、第2の共振周波数の近くでは別の周波数帯域(PCNまたはPCS)において使用することができるように広帯域で動作する。それに加え、同時に約50オームの定格インピーダンスを実現することが可能であり、その結果アンテナは整合回路網がなくとも、または僅かな個数の整合素子でもって動作することができる。このことは他方では、整合回路において常に生じる損失を回避することができる。
本発明によるステップは以下のことに拠る。すなわち、2つの部分領域の不可避の結合を、システム全体が複数の周波数帯域内において動作することができるように考慮することである。このためにアンテナの特別な給電が使用され、このアンテナでは、放射面における3つまたは4つの接触部が2つの接点に対応づけられる。」

ロ.「Bei den in Figur 1 und Figur 2 dargestellten Ausfuhrungsformen sind die beiden dargestellten Teilstrukturen Sl und S2 jeweils durch eine Leitung Ll an definierten Anschlussstellen Pl und P2 miteinander verbunden. Dabei ist die Teilstruktur Sl im wesentlichen L-formig ausgebildet, wahrend die Teilstruktur S2 im wesentlichen rechteckformig ausgebildet ist.

Zusatzlich sind zwei weitere Anschlussstellen P3 und P4 mittels einer zweiten Leitung L2 miteinander verbunden.

An zwei festgelegten Stellen sind an diesen Leitungen die beiden Kontakte Kl und K2 realisiert.

Es entsteht somit eine Antenne aus zwei parallel geschalteten Teilbereichen mit einem zweipoligen Anschlusskontakt.

Die Antenne besteht aus zwei unterschiedlichen Flachenstrukturen bzw. Patches. Dabei arbeitet das L-formige Patch hauptsachlich im GSM-Band und das naherungsweise rechteckformige Patch arbeitet vornehmlich im PCN-Band. Daher kann das Gesamtsystem durch die Leitungsverbindungen der zwei Patches in zwei oder mehreren Bandern betrieben werden.

Die beiden Antennenpatches Sl und S2 sind durch die Leitungen Ll und L2 miteinander verbunden. Die Leitung Ll kann auch durch einen kurzen und breiten Metallstreifen und aus Teilen der Patches gebildet werden (siehe hierzu Fig. 2).

Die Anschlussstellen Pl und P2 liegen normalerweise m gegenuberliegenden Ecken der beiden Patches Sl und S2. Die Abstande zwischen den Anschlussstellen P4 und Pl auf dem Patch Sl und zwischen den Anschlussstellen P2 und P3 auf dem Patch S2 legen im wesentlichen Mass die Eingangsimpedanz der Antenne fest.

Kl und K2 sind unter anderem durch die Eingangsimpedanz der Antenne und hauptsachlich durch das Layout der Leiterplatte festgelegt. Ein Kontakt wird mit der Masse der Leiterplatte verbunden und der andere Kontakt wird mit dem Eingang des Senders bzw. des Empfangers der Elektronik des Mobilfunkgerates verbunden.

Durch die Elektronik des Mobilfunkgerates ist die Impedanz
(typisch sind 50 Ohm) definiert. Anhand von Berechnungen werden die Positionen der Anschlussstellen P3 und P4 so gewahlt, dass die Impedanz der Elektronik und der Antenne konjungiert komplex zueinander sind.

Die Figuren 3 bis 5 zeigen konkrete Ausfuhrungsformen der vorliegenden Erfindung, wie sie zum Beispiel in ein Mobilfunkgerat einbaubar sind. 」(3頁20行?4頁33行)

(邦訳)「図1及び図2に図示された実施形態では、2つの図示された部分構造体S1及びS2がそれぞれ線路L1によって、規定された端子位置P1及びP2において相互に接続されている。ここで部分構造体S1は実質的にL形に形成されており、一方部分構造体S2は実質的に矩形に形成されている。

付加的に、2つの別の端子位置P3及びP4が、第2の線路L2によって相互に接続されている。

設定された2つの位置では、これらの線路において2つの接触部K1及びK2が実現されている。

したがってアンテナは、双極の端子接触部を有する2つの並列に接続された部分領域から生じる。

アンテナは2つの異なる面構造体ないしはパッチから成る。ここでL形のパッチは主にGSMバンドにおいて動作し、またほぼ矩形であるパッチは特にPCNバンドにおいて動作する。したがってシステム全体は、2つのパッチを線路でもって接続することにより、2つまたは複数のバンドにおいて動作することができる。

2つのアンテナパッチS1及びS2は、線路L1及びL2によって相互に接続されている。線路L1は、短く幅の広い金属ストライプからも形成することがき、またパッチの一部分からも形成できる(これについては図2を参照されたい)。

端子位置P1及びP2は通常、2つのパッチP1及びP2の対向する角にある。パッチS1上における端子位置P4とP1との間隔、及びパッチS2における端子位置P2とP3との間隔は、実質的にアンテナの入力インピーダンスを設定する。

K1及びK2は、例えばアンテナの入力インピーダンスによって、また主に回路基板のレイアウトによって決定されている。一方の接触部は回路基板のアースと接続されており、また他方の接触部は移動無線装置における電子機構の送信器ないしは受信器の入力側と接続されている。

移動無線装置の電子機構によって、インピーダンス(典型的に50オーム)が規定されている。計算に基づいて、端子位置P3及びP4の位置は、電子機構とアンテナのインピーダンスが互いに複素共役であるように選択される。

図3から図5は、本発明の具体的な実施形態を示し、これは例えば移動無線装置に取り付けることが可能である。」

ハ.「 Patentanspruche
1. Integrierbare Dualband-Antenne, gekennzeichnet durch eine uber einer Masseflache liegenden und im wesentlichen rechteckformigen Gesamtflache, welche zur Abstrahlung zweier unabhangiger Frequenzen aus einer L-formigen PIFA- Antenne und einer rechteckformigen PIFA-Antenne besteht, wobei die PIFA-Antennen drei oder vier Anschlusse aufweisen, die uber Leitungen mit zwei Kontaktpunkten verbunden sind.」(5頁1行?9行)

(邦訳)「特許請求の範囲
1.集積形デュアルバンドアンテナにおいて、
アース面の上に位置し全体が実質的に矩形である面を有し、
該面はL形のPIFAアンテナ及び矩形のPIFAアンテナから成り、2つの独立した周波数を放射し、
該PIFAアンテナは3つまたは4つの端子を有し、
該端子は線路を介して2つの接点と接続されていることを特徴とする、集積形デュアルバンドアンテナ。」

引用例のイ.の「冒頭で述べたアンテナは、アース面の上に位置し実質的には全体が矩形である面から成っており」、引用例のハ.の「アース面の上に位置し全体が実質的に矩形である面を有し」等の記載によれば、引用例のアンテナは、アース面と実質的に矩形である面を有するものであり、両者は垂直方向に離れて配置されているといえる。
図4および図5には、実施形態が示されており、特に図4に着目すると、「実質的に矩形である面」の上側の辺に、2つの接触部が設けられている。
ここで、図4における上側の辺を「第2の縁部」とし、右側の接触部を「第1の接触部」、左側の接触部を「第2の接触部」と称することにすると、「実質的に矩形である面」の「第2の縁部」には、「第1の接続位置」にて「第1の接触部」が設けられているものであるといえる。そして、「実質的に矩形である面」の「第2の縁部」には、「第2の接触部」が設けられ、「第2の接触部」は、「第2の接続位置」および「第3の接続位置」にて、「接続部材」を介して結合されているといえる。
引用例のハ.には、「該面はL形のPIFAアンテナ及び矩形のPIFAアンテナから成り、2つの独立した周波数を放射し」と記載され、引用例のロ.には、「一方の接触部は回路基板のアースと接続されており、また他方の接触部は移動無線装置における電子機構の送信器ないしは受信器の入力側と接続されている。」と記載されている。「第1の接触部」及び「第2の接触部」には、それぞれ線路が接続されていることは自明であるので、「第1の接触部」に接続される線路を「第1の接続線路」、「第2の接触部」に接続される線路を「第2の接続線路」と呼ぶことにする。そして、アンテナのアース面は、アースに接続されることは技術常識であるから、第1の接続線路はアースと接続するためのものであるといえる。

したがって、引用例には、技術常識を考慮すると、
「アンテナであって、
アース面と、実質的に矩形である面とを有し、
該実質的に矩形である面は、該アース面と、垂直方向に離れて配置され、
該実質的に矩形である面の第2の縁部には、第1の接続位置にて、アースと接続するための第1の接続線路が結合される第1の接触部が設けられ、
該実質的に矩形である面の第2の縁部には、第2の接触部が設けられ、第2の接続線路が結合される第2の接触部は、第2の接続位置および第3の接続位置にて、接続部材を介して結合されているアンテナ。」
との発明(以下、「引用例発明」という。)が開示されていると認めることができる。

3.対比
本願発明と引用例発明とを対比する。
引用例発明の「アース面」と、本願発明の「第1の平面および第1のエリアを有するグランド板」とは、いずれもグランドに接続される面であるから、「グランド面」である点で共通するといえる。
引用例発明の「実質的に矩形である面」と、本願発明の「第2の平面および第2のエリアを有する1つの放射素子」とは、いずれも電波を放射する面であるから、「放射面」である点で共通するといえる。
そうすると、引用例発明と本願発明とは、「該放射面は、該グランド面と、垂直方向に離れて配置され」ている点で共通するといえる。
引用例発明の「第1の接続位置」は、本願発明の「第1のコンタクト位置」に相当するので、引用例発明と本願発明とは、「第1の接続線路が、第1のコンタクト位置にて、該放射面の第2の縁部に結合されて」いる点で共通している。
引用例発明の「第2の接続位置」、「第3の接続位置」、「接続部材」は、本願発明の「第2のコンタクト位置」、「第3のコンタクト位置」、「接続バー」にそれぞれ相当するので、引用例発明と本願発明とは、「第2の接続線路が、該放射面の第2の縁部に、第2のコンタクト位置および第3のコンタクト位置にて、接続バーを介して結合されている」点で共通している。

したがって、本願発明と引用例発明とは、
「アンテナであって、
グランド面と、放射面とを有し、
該放射面は、該グランド面と、垂直方向に離れて配置され、
第1の接続線路が、第1のコンタクト位置にて、該放射面の第2の縁部に結合されており、
第2の接続線路が、該放射面の第2の縁部に、第2のコンタクト位置および第3のコンタクト位置にて、接続バーを介して結合されているアンテナ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
「グランド面」について、本願発明では、「第1の平面および第1のエリアを有するグランド板」であるのに対して、引用例発明では、「アース面」である点。

[相違点2]
「放射面」について、本願発明は、「第2の平面および第2のエリアを有する1つの放射素子」であるのに対して、引用例発明では、「実質的に矩形である面」である点。

[相違点3]
「放射面」と「グランド面」について、本願発明では、「該放射素子の第2の平面は、該グランド板の第1の平面と、垂直方向に実質的に平行」であるのに対して、引用例発明では、「放射面は、グランド面と垂直方向に離れて配置」されるものである点。

[相違点4]
本願発明は、「第1の接続線路が、該グランド板の第1の縁部に結合されて」いるのに対して、引用例発明は、第1の接続線路とアース面との関係が明らかでない点。

4.当審の判断
[相違点1?3]について
グランド面と放射面を有する逆Fアンテナにおいて、グランド面と放射面とを平面の金属板とし、両者を垂直方向に実質的に平行に配置したものは、特開平8-307143号公報、特開平9-252214号公報、特開昭60-58704号公報に示されるように、周知のものであり、引用例発明のグランド面と放射面、及び両者の配置を当該周知のものとすることに困難性はない。その場合は、グランド面は、「第1の平面および第1のエリアを有するグランド板」となり、放射面は、「第2の平面および第2のエリアを有する1つの放射素子」となる。そして、「該放射素子の第2の平面は、該グランド板の第1の平面と、垂直方向に実質的に平行」であるといえる。
したがって、引用例発明において、相違点1?3に係る構成を採用することは格別のことではない。

[相違点4]について
「第1の接続線路」が、アンテナを、アース、即ちグランドに接続するためのものである点で、引用例発明と本願発明とは、共通しているものである。そうすると、「グランド板」をグランドに接続するために、グランド板と第1の接続線路との結合をどの位置にするかは、当業者がアンテナの設計に際して適宜決定すべき事項にすぎないものでり、相違点4に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たものというべきである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例発明及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

第3.特許法第36条について

1.特許法第36条についての拒絶理由

当審において、平成23年8月4日付けで特許法第36条について、以下の拒絶の理由が通知された。
「本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

本願発明の課題は、平板状逆Fアンテナ(PIFA)の広帯域化にあるものと認められるが、本願の特許請求の範囲の各請求項に記載されたアンテナの構成、また、詳細な説明に記載された実施例のアンテナの構成によって、上記課題が解決される理由が不明であり、本願明細書及び図面は、当業者が本願発明を実施できる程度に記載されたものではない。
明細書の段落【0030】?【0031】には、PIFAの広帯域化について記載されているが、その記載によっても、どのようにしてPIFAの広帯域化がなされるのか不明である。
例えば、段落【0030】には、図3AのPIFAの共振周波数は、約1900MHzであり、図3BのPIFAの共振周波数は、約2100MHzであり、両者の共振周波数が異なるのは、コンタクト位置が異なる場所に位置することによる旨記載されている。
しかしながら、「コンタクト位置が異なる場所に位置する」ことが、具体的にどのようなことを意味するのか不明であり、また、「コンタクト位置が異なる場所に位置する」ことと、共振周波数とがどのような関係にあるのかも不明である。また、放射素子の形状や、グランドに接続されるコンタクトとの位置との関係が共振周波数にどのように関係するのかも不明である。
また、段落【0032】及び図4には、本発明の実施形態のPIFAの帯域幅が示されているが、このPIFAの具体的な構成がどのようなものか不明であり、本願発明の効果が不明である。」

2.請求人の対応
上記拒絶理由通知に対して、請求人は、平成24年2月17日付けで意見書と手続補正書を提出した。
拒絶理由の指摘に対して、請求人は、意見書において、
「本願発明はこのような技術的問題、すなわち所要スペースを小さく抑えながら広帯域化を実現するという課題を解決するものであり、[0030]?[0031]において、本願発明の構成が具体的にどのようにこの問題を解決するのか、すでに十分に説明がなされております。」、「本願発明は上述のように、素子の面積や間隔の調整による従来の広帯域化技術に代わるものとして、放射素子とグランド板との接続構成によって広帯域化を実現し、所要スペースや体積の削減を実現できる、新規の手段を提供するものであります。このことは当業者に明らかであり、したがって、図4に示された対比結果だけでは本願発明の効果が不明であるという認定は失当であります。」等の主張をしている。

3.当審の判断
請求人の主張は、本願明細書及び図面の記載によって、当業者が本願発明を十分に実施できるものであるというものであり、その根拠として、明細書の段落【0030】?【0031】の記載を挙げている。
しかしながら、当審の拒絶理由通知では、明細書の当該記載について、
「明細書の段落【0030】?【0031】には、PIFAの広帯域化について記載されているが、その記載によっても、どのようにしてPIFAの広帯域化がなされるのか不明である。
例えば、段落【0030】には、図3AのPIFAの共振周波数は、約1900MHzであり、図3BのPIFAの共振周波数は、約2100MHzであり、両者の共振周波数が異なるのは、コンタクト位置が異なる場所に位置することによる旨記載されている。
しかしながら、「コンタクト位置が異なる場所に位置する」ことが、具体的にどのようなことを意味するのか不明であり、また、「コンタクト位置が異なる場所に位置する」ことと、共振周波数とがどのような関係にあるのかも不明である。また、放射素子の形状や、グランドに接続されるコンタクトとの位置との関係が共振周波数にどのように関係するのかも不明である。」との指摘に対して何ら具体的な反論はなされておらず、明細書の段落【0030】?【0031】の記載自体が不明瞭なものであり、請求人の主張は採用できない。
さらに、請求人は、本願発明の効果が不明であるとの認定は失当であるとも主張している。
明細書の段落【0032】及び図4には、本発明の実施形態のPIFAの帯域幅が示されているが、このPIFAの具体的な構成が明らかでない以上、これらの記載を根拠として本願発明の効果を認めることはできないというべきである。

したがって、本願の発明の詳細な説明及び図面は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

よって、本件出願は、発明の詳細な説明及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本件出願は、発明の詳細な説明及び図面の記載に不備があり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-27 
結審通知日 2012-03-07 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2003-575451(P2003-575451)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01Q)
P 1 8・ 121- WZ (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸田 伸太郎  
特許庁審判長 竹井 文雄
特許庁審判官 藤井 浩
神谷 健一
発明の名称 広帯域平板状逆Fアンテナ  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 星 公弘  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 二宮 浩康  
代理人 久野 琢也  

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