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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01C
管理番号 1261004
審判番号 不服2010-24379  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-29 
確定日 2012-08-03 
事件の表示 特願2005-503144「六脚型圧電振動ジャイロスコープ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日国際公開、WO2004/079296〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月5日(優先権主張 平成15年3月6日 日本)を国際出願日とする特許出願であって、平成22年8月3日付け(送達:同年同月11日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月29日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審より平成24年2月8日付け(発送:同年同月15日)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年4月16日付けで特許請求の範囲についての補正(以下、「補正1」という。)がなされた。

2.当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は、本願各請求項に係る発明は、いずれも、本願優先日前頒布された刊行物である特開2001-255152号公報(以下、「引用例1」という。)に記載された発明、及び同じく本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-201063号公報(以下、「引用例2」という。)に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりである。

「本体部、前記本体部から互いに間隔をおいて第1の方向に延出した一対の励振用アーム、前記励振用アームの間で前記本体部から前記第1の方向に延出した一つの振動可能な非励振用アーム、前記本体部から互いに間隔をおいて前記第1の方向とは反対の第2の方向に延出した一対の検出用アーム、前記検出用アームの間で前記本体部から前記第2の方向に延出した一つの振動可能な非検出用アーム、前記励振用アームにそれぞれ結合された駆動側電極、及び前記検出用アームにそれぞれ結合された検出側電極を含み。
前記励振用アーム、前記振動可能な非励振用アーム、前記検出用アーム、及び前記振動可能な非検出用アームの各々は圧電体からなり、
前記励振用アームの各々と前記振動可能な非励振用アームとは幅寸法において互いに異なり、前記励振用アームの各々と前記検出用アームの各々とは幅寸法において互いに異なり、前記励振用アームの各々と前記振動可能な非検出用アームとは幅寸法において互いに異なり、前記本体部の幾何学的な中心位置に一致した重心を有することを特徴とする圧電振動ジャイロスコープ。」(以下、「本願発明」という。)

4.引用例記載の事項・引用発明

(1)引用例1
引用例1である特開2001-255152号公報には、圧電振動ジャイロスコープおよびその周波数調整方法(発明の名称)に関し、次の事項が図面とともに記載されている。

(1-1)
「【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。図1は本発明の第一実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープを示す斜視図である。同図において、符号1で示す圧電振動ジャイロスコープは、本体2,駆動側アーム3および検出側アーム4を備えた上下左右対称の構造とし、全体が例えばZカットランガサイトの圧電体からなる六脚型圧電振動ジャイロスコープによって形成されている。
【0024】本体2は、表裏面に対応する二つの主面2a,2bおよびこれら両主面2a,2bに連接する上下左右四つの端面2c?2fを有し、特定振動のアーム間伝達を抑制するための高剛性部材からなる矩形板によって形成されている。この場合、特定振動を本体2の主面2a,2bと平行な方向に駆動側アーム3が振動する面内振動とする。
【0025】駆動側アーム3は、それぞれが互いに逆位相で振動する二本の励振用駆動側アーム3a,3bおよびこれら両励振用駆動側アーム3a,3b間に介在する一本の非励振用駆動側アーム3cからなり、本体2に上方の端面2cに主面2a,2bと同一の平面内で垂直に突出するように一体に設けられている。そして、各駆動側アーム3a?3cは、所定のアーム間隔をもって並列するような位置に配置されており、全体が本体2の厚さと同一の厚さをもつ断面ほぼ正方形状の角形棒によって形成されている。
【0026】検出側アーム4は、それぞれが互いに逆位相で振動する二本の振動用検出側アーム4a,4bおよびこれら両振動用検出側アーム4a,4b間に介在する一本の非振動用検出側アーム4cからなり、本体2に下方の端面2dに主面2a,2bと同一の平面内で垂直に突出するように一体に設けられている。そして、各検出側アーム4a?4cは、それぞれが対応する駆動側アーム3a?3cと同一の線上において所定のアーム間隔をもって並列するような位置に配置されており、全体が駆動側アーム3の厚さと同一の厚さをもつ断面ほぼ正方形状の角形棒によって形成されている。
【0027】次に、本実施形態に係る圧電ジャイロスコープにおける電極の配置およびその結線につき、図2?図4を用いて説明する。図2(a)?(c)は本発明の第一実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープにおける電極の配置状態を示す上面図,正面図および下面図である。図3は本発明の第一実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープにおける駆動用電極の接続状態を示す結線図、図4は本発明の第一実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープにおける検出用電極の接続状態を示す結線図である。図2に示すように、励振用駆動側アーム3a,3bには、それぞれ本体2の主面2aと平行な方向に振動する面内振動を励起するための四つの駆動用電極5が設けられている。一方、振動用検出側アーム4a,4bには、それぞれ本体5の主面2aと垂直な方向に振動する面垂直振動を検出するための四つの検出用電極6が設けられている。
【0028】各駆動用電極5は、アーム突出始端部からアーム突出終端部に向かって延びる同一大の正面矩形状電極からなり、各励振用駆動側アーム3a,3bの両主面(本体2の主面2aと平行な二側面)および両側面(本体2の主面2aと垂直な二側面)の幅方向中央部に配置されている。そして、図3に示すように、駆動用電極5のうちそれぞれが互いに対向する位置にある駆動用電極5同士は同一の極性となり、かつそれぞれが互いに隣り合う駆動用電極5同士は異なる極性となるように交流電源Gに接続されている。なお、励振用駆動側アーム3aの駆動用電極5と励振用駆動側アーム3bの駆動用電極5とは、それぞれが互いに反対の極性パターンとなるように交流電源Gに接続されている。
【0029】各検出用電極6は、アーム突出始端部からアーム突出終端部に向かって延びる同一大の正面矩形状電極からなり、各振動用検出側アーム4a,4bの両側面(本体2の主面2aと垂直な面)の幅方向両端部に配置されている。そして、図4に示すように、検出用電極6のうち対角線方向の位置にある二つの検出用電極6同士が同一の極性となり、かつそれぞれが対向する位置にある検出用電極6同士および同一面上にある検出用電極6が異なる極性になるように検出装置(図示せず)に各端子を介して接続されている。なお、振動用検出側アーム4aの検出用電極6と振動用検出側アーム4bの検出用電極6とは、それぞれが互いに反対の極性パターンとなるように検出装置に接続されている。
【0030】次に、本実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープによる角速度の検出時における動作につき、図3?図6を用いて説明する。先ず、駆動用電極5に交流電圧を印加すると、両励振用駆動側アーム3a,3b内に、例えば図3に矢印で示すように電界が励起され、機械的な圧力が生じる。これにより、励振用駆動側アーム3a,3bは本体2の主面2a内で左右(主面2aと平行な方向)に変位する。
【0031】このとき、各励振用駆動側アーム3a,3bは、その電極結線の違いによって、図3に示すように、常に反対方向の電界が励起され、反対方向の機械的変位が生じる。これにより、図5に二点鎖線で示すように、各励振用駆動側アーム3a,3bに振動の位相が180°異なるように主面2a内で左右に振動する面内振動が励起される。この面内振動が本実施形態の六脚型圧電振動ジャイロスコープにおける駆動モードの振動である。
【0032】なお、図5は、説明を判りやすくするために、各励振用駆動側アーム3a,3bが極端に大きな変位をするように示しているが、実際のアーム変位量は、各励振用駆動側アーム3a,3bが互いに当接することがない程度の変位量である。
【0033】次に、各励振用駆動側アーム3a,3bに面内振動が励起されると、圧電振動ジャイロスコープ1が駆動側アーム3a?3cの突出方向すなわちy軸(図1)回りに角速度Ωで回転する回転物上に置かれている場合、励振用駆動側アーム3a,3bには本体2の主面2aに対して垂直な方向にコリオリ力が働く。これにより、図6に二点鎖線で示すように、励振用駆動側アーム3a,3bには、面内振動に対応して、各励振用駆動側アーム3a,3bの振動の位相が互いに180°異なるように、本体2の主面2aに対して垂直な方向(前後)に振動する面垂直振動が励起される。
【0034】このとき、各励振用駆動側アーム3a,3bの面垂直振動が本体2を介して各振動用検出側アーム4a,4bに伝わり、各励振用駆動側アーム3a,3bにおける面垂直振動と同様に、各振動用検出側アーム4a,4bの振動の位相が互いに180°異なるように、本体2の主面2aに対して垂直な方向(前後)に振動する面垂直振動が励起される。この面垂直振動が、本実施形態の六脚型圧電振動ジャイロスコープにおける検出モードの振動である。
【0035】この際、振動用検出側アーム4a,4bにおける面垂直振動の振動変位は、図6に示すように、励振用駆動側アーム3a,3bにおける面垂直振動の振動変位の数倍の大きさになる。なお、本体2は、主面方向の剛性が高いため、各励振用駆動側アーム3a,3bの面内振動が各検出側アーム4a?4cに殆ど伝わらず、各検出側アーム4a?4cには面内振動が殆ど励起されない。
【0036】そして、各振動用検出側アーム4a,4bに面垂直振動による変位によって図4に矢印で示すような電界が生じ、検出用電極6に振動用検出側アーム4a,4bの面垂直振動による変位に対応する電位が励起され、この電位の振幅を測定することにより、回転物のy軸回りの角速度Ωを測定することができる。
【0037】なお、図5および図6は、FEM(有限要素法)によって解析した六脚型圧電振動ジャイロスコープ1の振動モード図を示しているが、実際に六脚型圧電振動ジャイロスコープ1を振動させてレーザードップラーバイブロメータで計測した振動変位分布も図5および図6に示す振動モード図に一致することが確かめられた。
【0038】また、本実施形態における六脚型の圧電振動ジャイロスコープ1は、Zカットランガサイト板からワイヤーカットの方法により、図1に示すような六脚型圧電振動ジャイロスコープ用の素板を切り抜き、蒸着法およびフォトレジスト法によってAu/Cr蒸着電極として、図2に示すような駆動用電極5および検出用電極6を形成することにより製造した。
【0039】さらに、本実施形態においては、駆動モードの面内振動および検出モードの面垂直振動以外の検出の雑音となる振動の発生を抑止するために、全体構造を上下左右対称な形状とし、本体2および各アーム3,4の厚さを同一の寸法に設定することが望ましい。この形状からのずれが大きいと、面内振動の共振周波数および面垂直振動の共振周波数とは異なる周波数の振動が生じ、スプリアス応答が発生してしまう。
【0040】そこで、六脚型の圧電振動ジャイロスコープ1を上下左右対称な形状とすることにより、スプリアス応答のない良好な周波数応答および立ち上がりの早い応答が得られる。本実施形態においては、本体2の長さ,幅および厚さをそれぞれ4mm,4mmおよび0.46mmとし、各アーム3,4の長さ,幅および厚さをそれぞれ6mm,0.4mmおよび0.46mmとした。
【0041】この他、本実施形態において、駆動用電極5への電圧の印加によって高効率で励振用駆動側アーム3a,3bに面内振動を励起するためには、駆動用電極5の大きさを実効的電気機械結合係数(Keff)ができるだけ高くなるような大きさにすることが望ましい。
【0042】次に、駆動用電極5の大きさと実効的電気機械結合係数との関係につき、図7?図9を用いて説明する。図7(a)および(b)は本発明の第一実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープの励振用駆動側アームを示す正面図と側面図、図8は図7の励振用駆動側アームにおける駆動用電極の長さと実効的電気機械結合係数との関係を示す図、図9は図7の励振用駆動側アームにおける駆動用電極の幅と実効的電気機械結合係数との関係を示す図である。本実施形態に示す六脚型の圧電振動ジャイロスコープ1は、駆動側アーム3a?3cのスチフネスに比べて本体2のスチフネスが十分に大きいので、図7に示すように、励振用駆動側アーム3aを片持ち支持梁として動作するものと考えることができる。そこで、片持ち支持梁とみなされる励振用駆動側アーム3aにおいて、駆動用電極5の形状を変えた場合の実効的電気機械結合係数を求めた。
【0043】先ず、駆動用電極6の幅Weと励振用駆動側アーム3aの幅Waとの比We/Waを0.7に保ち、駆動用電極5の長さLeと励振用駆動側アーム3aの長さLaとの比Le/Laを0から1まで変化させたとき、比Le/Laに対する実効的電気機械結合係数(相対値)の変化を求めた結果を図8に示す。同図から明らかなように、励振用駆動側アーム3aの長さLaに対する駆動用電極5の長さLeの比Le/Laの値が0.4?0.7の付近で、実効的電気機械結合係数が大きくなっていることが分かる。
【0044】次に、励振用駆動側アーム3aの長さLaに対する駆動用電極5の長さLeの比Le/Laを0.6に保ち、励振用駆動側アーム3aの幅Waに対する駆動用電極5の幅Weの比We/Waと実効的電気機械結合係数(相対値)との関係を求めた結果を図9に示す。同図から明らかなように、比We/Waの値が0.5?0.7の付近で、実効的電気機械結合係数が大きくなっていることが分かる。
【0045】以上の結果によると、駆動用電極5の長さを励振用駆動側アーム3a?3cの長さの40%?70%とし、駆動用電極5の幅を励振用駆動側アーム3a?3cの幅の50%?70%としたとき、高い実効的電気機械結合係数が得られる。また、本実施形態において、振動用検出側アーム4aの面垂直振動の検出用電極6による検出感度を高めるためには、検出用電極6の大きさを実効的電気機械結合係数ができるだけ高くなるような大きさにすることが望ましい。
【0046】次に、検出用電極6の大きさと実効的電気機械結合係数との関係につき、図10?図12を用いて説明する。図10(a)および(b)は本発明の第一実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープの振動用検出側アームを示す正面図と側面図、図11は図10の振動用検出側アームにおける検出用電極の長さと実効的電気機械結合係数との関係を示す図、図12は図10の振動用検出側アームにおける検出用電極の幅と実効的電気機械結合係数との関係を示す図である。本実施形態に示す六脚型の圧電振動ジャイロスコープ1は、検出側アーム4a?4cのスチフネスに比べて本体2のスチフネスが十分に大きいので、図10に示すように、振動用検出側アーム4aを片持ち支持梁として動作するものと考えることができる。そこで、片持ち支持梁とみなされる振動用検出側アーム4aにおいて、検出用電極6の形状を変えた場合の実効的電気機械結合係数を求めた。
【0047】先ず、振動用検出側アーム4aの幅Wavに対する検出用電極6の二倍幅(同一面に形成された二つの検出用電極6の幅の和)Wevの比Wev/Wavの値を0.5に保ち、検出用電極6の長さLevを変えて、振動用検出側アーム4aの長さLavに対する比Lev/Lavと実効的電気機械結合係数(相対値)との関係を求めた結果を図11に示す。同図から明らかなように、比Lev/Lavの値が0.4?0.7の付近で、実効的電気機械結合係数が大きな値を示すことが分かる。
【0048】次に、振動用検出側アーム4aの長さLavに対する検出用電極6の長さLevの比Lev/Lavを0.6に保ち、振動用検出側アーム4aの幅Wavに対する検出用電極6の二倍幅(同一面に形成された二つの検出用電極6の幅の和)Wevの比Wev/Wavと実効的電気機械結合係数(相対値)との関係を求めた結果を図12に示す。同図から明らかなように、比Wev/Wavの値が0.3?0.5の付近で、実効的電気機械結合係数が大きくなっていることが分かる。
【0049】以上の結果によると、検出用電極6の長さを検出側アーム4a?4cの長さの40%?70%とし、検出用電極6の二倍幅を検出側アーム4a?4cの幅の30%?50%としたとき、高い実効的電気機械結合係数が得られ、周波数応答が広く高感度な圧電振動ジャイロスコープ1を得ることができる。
【0050】このような圧電振動ジャイロスコープ1においては、振動モードの振動の共振周波数と検出モードの振動の共振周波数との差が小さすぎると、感度は高くなるものの、外力による振動などによって生じる角速度の過渡的な変化などの雑音の影響が大きくなってしまう。そこで、周波数応答にすぐれかつ高感度な圧電振動ジャイロスコープ1を得るために、駆動モードの振動の共振周波数と検出モードの振動の共振周波数とに差を付けること、すなわち離調を行うことが望ましい。例えば、圧電振動ジャイロスコープ1を自動車に搭載することを想定すると、駆動モードである面内振動の共振周波数と検出モードである面垂直振動の共振周波数との差は100Hz程度とすることが望ましく、本実施形態でもその差を100Hzとした。
【0051】この際、駆動モードの振動の共振周波数と検出モードの振動の共振周波数との差を所望の値に調整する方法としては、本体2の四隅をレーザーによって切削する方法がある。この方法を用いると、面内振動の共振周波数と面垂直振動の共振周波数とが共に低下するが、面垂直振動の共振周波数の低下量より面内振動の共振周波数の低下量が大きくなることから、本体2の四隅を切削することにより、駆動モードの振動である面内振動の共振周波数と検出モードの振動である面垂直振動の共振周波数との差を調整することができる。
【0052】また、本実施形態においては、圧電振動ジャイロスコープ1の構造全体が上下左右対称であるため、重心部分の振動変位が励振用駆動側アーム3a,3bおよび振動用検出側アーム4a,4bの最大振動変位に比べて10000分の一以下ときわめて小さく、この重心部分において図13に示すように安定性の高い支持(保持)を行うことが可能となる。図13は重心部分に固着した保持体20による圧電振動ジャイロスコープ1の保持状態を示す側面図である。本実施形態では、保持体20が石英ガラスからなり、直径および高さを1mmの寸法とする。
【0053】このように、六脚型の圧電振動ジャイロスコープ1を重心保持した場合でも、圧電振動ジャイロスコープ1の機械的品質係数は、保持しない場合と比べても二割以下しか低下せず、保持することによる損失の増加はほとんど見られなかった。また、重心保持することによる駆動モード(面内振動)の共振周波数および検出モード(面垂直振動)の共振周波数の変化は3Hz以下であった。本実施形態における圧電単結晶ランガサイト製の圧電振動ジャイロスコープ1を、図13に示すように保持し、角速度の検出を行ったところ、0.6mV/(deg/s)と高い感度での検出を行うことができた。
【0054】また、本実施形態に示す圧電振動ジャイロスコープ1において、非励振用駆動側アーム3cおよび非振動用検出側アーム4cの振動変位がきわめて小さいことを利用し、非励振用駆動側アーム3c(アーム突出始端部)と本体2間および本体2と非振動用検出側アーム4c(アーム突出始端部)間の各境界部を保持(二点保持)すると、前述した重心保持した場合と同様に安定性の高い保持を行うことができた。
【0055】以上説明したように、本実施形態に示す圧電振動ジャイロスコープ1では、励振用駆動側アーム3a,3bを逆相で対称面内振動(駆動モードの振動)させると、本体2の主面2aと垂直な方向に働くコリオリ力によって励振用駆動側アーム3a,3bに面垂直振動が励起され、さらにこの面垂直振動が本体2を介して振動用検出側アーム4a,4bに伝達され、振動用検出側アーム4a,4bが面垂直振動(検出モードの振動)する。
【0056】この際、駆動モードの振動は検出側アーム4a?4cには殆ど伝達されないので、検出側アーム4a?4cには駆動モードの振動が発生せず、検出モードの振動のみが発生する。このため、検出側アーム4a?4cにおいては、駆動モードの振動と検出モードの振動との機械的結合がほとんど発生しないので、検出側アーム4a?4cで検出モードの振動を検出することにより、S/N比の良好な検出が可能である。
【0057】また、本実施形態においては、励振用駆動側アーム3a,3bと振動用検出側アーム4a,4bとの間に本体2が介在する構造であるため、駆動用電極5と検出用電極6とが十分に離れており、このため静電的な結合が生じ難く、S/N比の良好な検出が可能である。さらに、本実施形態においては、上下左右対称の六脚型圧電振動ジャイロスコープであるから、従来のように重心部分に振動が発生せず、このため安定した状態で圧電振動ジャイロスコープ1を保持することができる。この他、本実施形態においては、励振用駆動側アーム3a,3bの振動変位に対して振動用検出側アーム4a,4bの振動変位が数倍大きいので、高感度な検出が可能である。
【0058】なお、本実施形態においては、両振動用検出側アーム4a,4bcに検出用電極6を形成して角速度を検出する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、両振動用検出側アーム4a,4bのうちいずれか一方の検出側アームに形成しても角速度を検出することができる。
【0059】次に、本発明の第二実施形態につき、図14?図17を用いて説明する。図14は本発明の第二実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープを示す斜視図である。同図において、符号51で示す圧電振動ジャイロスコープは、本体52,駆動側アーム53および検出側アーム54を備えた上下左右対称の構造とし、全体が例えばXカットランガサイトの圧電体からなる六脚型圧電振動ジャイロスコープによって形成されている。
【0060】本体52は、表裏面に対応する二つの主面52a,52bおよびこれら両主面52a,52bに連接する上下左右四つの端面52c?52fを有し、特定振動のアーム間伝達を抑制するための高剛性部材からなる矩形板によって形成されている。この場合、特定振動を本体2の主面52a,52bと平行な方向に駆動側アーム53が振動する面内振動とする。
【0061】駆動側アーム53は、それぞれが互いに逆位相で振動する二本の励振用駆動側アーム53a,53bおよびこれら両励振用駆動側アーム53a,53b間に介在する一本の非励振用駆動側アーム53cからなり、本体52に上方の端面52cに主面52a,52bと同一の平面内で垂直に突出するように一体に設けられている。そして、各駆動側アーム53a?53cは、所定のアーム間隔をもって並列するような位置に配置されており、全体が本体52の厚さと同一の厚さをもつ断面ほぼ正方形状の角形棒によって形成されている。
【0062】検出側アーム54は、それぞれが互いに逆位相で振動する二本の振動用検出側アーム54a,54bおよびこれら両振動用検出側アーム54a,54b間に介在する一本の非振動用検出側アーム54cからなり、本体52に下方の端面52dに主面52a,52bと同一の平面内で垂直に突出するように一体に設けられている。そして、各検出側アーム4a?4cは、それぞれが対応する駆動側アーム53a?53cと同一の線上において所定のアーム間隔をもって並列するような位置に配置されており、全体が駆動側アーム53の厚さと同一の厚さをもつ断面ほぼ正方形状の角形棒によって形成されている。
【0063】次に、本実施形態に係る圧電ジャイロスコープにおける電極の配置およびその結線につき、図15?図17を用いて説明する。図15(a)?(c)は本発明の第二実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープにおける電極の配置状態を示す上面図,正面図および下面図である。図16は本発明の第二実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープにおける駆動用電極の接続状態を示す結線図、図17は本発明の第二実施形態に係る圧電振動ジャイロスコープにおける検出用電極の接続状態を示す結線図である。図15に示すように、励振用駆動側アーム53a,53bには、それぞれ本体52の主面52a,52bと平行な方向に振動する面内振動を励起するための四つの駆動用電極55が設けられている。一方、振動用検出側アーム54a,54bには、それぞれ本体55の主面52a,52bと垂直な方向に振動する面垂直振動を検出するための四つの検出用電極56が設けられている。
【0064】各駆動用電極55は、アーム突出始端部からアーム突出終端部に向かって延びる同一大の正面矩形状電極からなり、各励振用駆動側アーム53a,53bの両主面(本体52の主面52aと平行な二側面)の幅方向両端部に配置されている。そして、図16に示すように、駆動用電極55のうち対角線方向の位置にある駆動用電極55同士が同一の極性となり、かつそれぞれが対向する位置にある駆動用電極55同士および同一面上にある駆動用電極55同士が異なる極性になるように交流電源Gに接続されている。なお、励振用駆動側アーム53aの駆動用電極55と励振用駆動側アーム53bの駆動用電極55とは、それぞれが互いに反対の極性パターンとなるように交流電源Gに接続されている。
【0065】各検出用電極56は、アーム突出始端部からアーム突出終端部に向かって延びる同一大の正面矩形状電極からなり、各振動用検出側アーム54a,54bの両主面(本体52の主面52aと平行な二側面)および両側面(本体52の主面52aと垂直な二側面)の幅方向中央部に配置されている。そして、図17に示すように、検出用電極56のうちそれぞれが互いに対向する位置にある検出用電極56同士は同一の極性となり、かつそれぞれが互いに隣り合う検出用電極56同士は異なる極性となるように検出装置(図示せず)に各端子を介して接続されている。なお、振動用検出側アーム54aの検出用電極56と振動用検出側アーム54bの検出用電極56とは、それぞれが互いに反対の極性パターンとなるように検出装置に接続されている。
【0066】このように構成された圧電振動ジャイロスコープ51においては、材質が第一実施形態の圧電振動ジャイロスコープ1の材質と異なるため、励振用駆動側アーム53a,53bに面内振動を励起するための電界および振動用検出側アーム54a,54bの面垂直振動によって励起される電界が異なり、これに対応して駆動用電極55および検出用電極56の配置が異なっている。したがって、本実施形態の圧電振動ジャイロスコープ51による角速度の検出時における動作は、動作時に励振用駆動側アーム53a,53bおよび振動用検出側アーム54a,54b内に生じる電界が異なることを除き、第一実施形態の圧電振動ジャイロスコープ1による角速度の検出時における動作とほぼ同様である。
【0067】なお、本実施形態における六脚型の圧電振動ジャイロスコープ51は、Xカットランガサイト板からワイヤーカットの方法により、図14に示すような六脚型圧電振動ジャイロスコープ用の素板を切り抜き、蒸着法およびフォトレジスト法によってAu/Cr蒸着電極として、図15に示すような駆動用電極55および検出用電極56を形成することにより製造した。
【0068】また、本実施形態においては、スプリアス応答のない良好な周波数応答および立ち上がりの早い応答を得るために、第一実施形態と同様に全体構造を上下左右対称な形状とし、本体52および各アーム53,54の厚さを同一の寸法に設定することが望ましい。本実施形態における本体52の長さ,幅および厚さをそれぞれ3mm,3mmおよび0.34mmとし、各アーム3,4の長さ,幅および厚さをそれぞれ4.2mm,0.3mmおよび0.34mmとした。
【0069】さらに、本実施形態において、駆動用電極55への電圧の印加によって高効率で励振用駆動側アーム53a,53bに面内振動を励起するための(実効的電気機械結合係数が大きくなるような)駆動用電極55の外形寸法(長さおよび幅)を、励振用駆動側アーム53a,53bを片持ち支持梁として扱い、駆動用電極55の大きさを変えて実効的電気機械結合係数を求めることにより調べた。この結果、図11および図12に示した結果と同様に、駆動用電極55の長さを駆動側アーム長の40%?70%とし、駆動用電極55の二倍幅(二つの駆動用電極55の幅の和)を駆動側アーム幅の30%?50%としたとき、実効的電気機械結合係数が大きくなることが分かった。
【0070】同様に、振動用検出側アーム54a,54bを片持ち支持梁として扱い、検出用電極56の大きさを変えて実効的電気機械結合係数を求めることにより、振動用検出側アーム54a,54bの面垂直振動の検出用電極56による検出感度を高くする(実効的電気機械結合係数が大きくなる)ような検出用電極56の大きさを調べた。この結果、図8および図9に示した結果と同様に、検出用電極56の長さを検出側アーム長の40%?70%とし、検出用電極56の幅を検出側アーム幅の50%?70%としたとき、実効的電気機械結合係数が大きくなることが分かった。
【0071】この他、本実施形態において、周波数応答にすぐれかつ高感度な圧電振動ジャイロスコープを得るためには、第一実施形態と同様に、駆動モードの共振周波数と検出モードの共振周波数とに差を付けること(離調)が不可欠である。この場合、周波数の調整は、第一実施形態において示した方法と同一の方法によって行うことができる。本実施形態では、駆動モード(図5に示す振動モードと同一)の共振周波数と検出モード(図6に示す振動モードと同一)の共振周波数との差を90Hzとした。
【0072】また、本実施形態においては、圧電振動ジャイロスコープ51の構造全体が上下左右対称であるため、重心部分の振動変位が励振用駆動側アーム53a,53bおよび振動用検出側アーム54a,54bの最大振動変位に比べて10000分の一以下ときわめて小さく、この重心部分において第一実施形態と同様に安定性の高い保持を行うことが可能となる。本実施形態では、図13に示す保持体20をポリイミド樹脂によって形成した。
【0073】このように、六脚型の圧電振動ジャイロスコープ51を重心保持した場合でも、圧電振動ジャイロスコープ51の機械的品質係数は、保持しない場合と比べても三割以下しか低下せず、保持することによる損失の増加はほとんど見られなかった。また、重心保持することによる駆動モード(面内振動)の共振周波数および検出モード(面垂直振動)の共振周波数の変化は5Hz以下であった。本実施形態における圧電単結晶ランガサイト製の圧電振動ジャイロスコープ51を、図13に示すように保持し、角速度の検出を行ったところ、0.7mV/(deg/s)と高い感度での検出を行うことができた。
【0074】さらに、本実施形態に示す圧電振動ジャイロスコープ51において、非励振用駆動側アーム53cおよび非振動用検出側アーム54cの振動変位がきわめて小さいことを利用し、非励振用駆動側アーム53c(アーム突出始端部)と本体52間および本体52と非振動用検出側アーム54c(アーム突出始端部)間の各境界部を保持(二点保持)すると、前述した重心保持した場合と同様に安定性の高い保持を行うことができた。
【0075】以上説明したように、本実施形態に示す圧電振動ジャイロスコープ51では、第一実施形態と同様に、振動用検出側アーム54a,54bに検出モードの振動のみが励起されるため、検出の雑音となる振動が小さく、また励振用駆動側アーム53a,53bと振動用検出側アーム54a,54b間の距離が十分に離れているため、静電的な雑音が小さく、S/N比の良好な検出が可能である。
【0076】また、本実施形態においては、上下左右対称の六脚型圧電振動ジャイロスコープであるから、従来のように重心部分に振動が発生せず、このため安定した状態で圧電振動ジャイロスコープ1を保持することができる。この他、本実施形態においては、励振用駆動側アーム53a,53bの振動変位に対して振動用検出側アーム54a,54bの振動変位が数倍大きいので、高感度な検出が可能である。
【0077】なお、本実施形態においては、両振動用検出側アーム54a,54bcに検出用電極56を形成して角速度を検出する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、両振動用検出側アーム54a,54bのうちいずれか一方の検出側アームに形成しても角速度を検出することができる。
【0078】また、各実施形態においては、圧電体としてZカットランガサイトあるいはXカットランガサイトを用いた圧電振動ジャイロスコープについて説明したが、本発明はこれに限定されず、Xカット水晶,130°回転y板リチウムタンタレートあるいは圧電セラミックス(厚さ方向に一様に分極されたもの)を用いても同様の効果を奏する。
【0079】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、高いS/N比で角速度を検出することができるから、角速度の分解能にすぐれ、地球の自転以下の小さな角速度を検出することが可能となる。また、全体構造を上下左右対称の形状とすることにより、安定性の高い重心保持構造を得ることができる。さらに、電極形状を最適化することにより、励振用駆動側アームの駆動および振動用検出側アームの検出の実効的電気機械結合係数を大きくすることができ、かつ振動用検出側アームの振動変位が励振用駆動側アームの振動変位の数倍となるので、高感度な角速度の検出を行うことができる。」

以上の記載及び図1ないし17の記載内容によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

【引用例1に記載された発明】
「本体2(本体部に相当。)、前記本体2(本体部に相当。)から互いに間隔をおいて第1の方向に延出した励振用駆動側アーム3a,3b(一対の励振用アームに相当。)、前記励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の間で前記本体2(本体部に相当。)から前記第1の方向に延出した非励振用駆動側アーム3c(一つの振動可能な非励振用アームに相当。)、前記本体2(本体部に相当。)から互いに間隔をおいて前記第1の方向とは反対の第2の方向に延出した振動用検出側アーム4a,4b(一対の検出用アームに相当。)、前記振動用検出側アーム4a,4b(検出用アームに相当。)の間で前記本体2(本体部に相当。)から前記第2の方向に延出した非振動用検出側アーム4c(一つの振動可能な非検出用アームに相当。)、前記励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)にそれぞれ結合された駆動用電極5(駆動側電極に相当。)、及び前記振動用検出側アーム4a,4b(検出用アームに相当。)にそれぞれ結合された検出用電極6(検出側電極に相当。)を含み、
前記励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)、前記非励振用駆動側アーム3c(振動可能な非励振用アームに相当。)、前記振動用検出側アーム4a,4b(検出用アームに相当。)、及び前記非振動用検出側アーム4c(振動可能な非検出用アームに相当。)の各々は圧電体(圧電体に相当。)からなり、
前記励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と前記非励振用駆動側アーム3c(振動可能な非励振用アームに相当。)とは幅寸法において互いに同一であり、
前記励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と前記振動用検出側アーム4a,4b(検出用アームに相当。)の各々とは幅寸法において互いに同一であり、
前記励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と前記非励振用検出側アーム4c(振動可能な非検出用アームに相当。)とは幅寸法において互いに同一であり、
厚さが一定で上下左右対称の構造である(本体部の幾何学的な中心位置に一致した重心を有するに相当。)
ことを特徴とする圧電振動ジャイロスコープ1(圧電振動ジャイロスコープに相当。)。」(以下、「引用例1に記載された発明」という。)

5.対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。

引用例1に記載された発明における、「本体2」、「励振凧駆動側アーム3a,3b」、「非励振用駆動側アーム3c」、「振動用検出側アーム4a,4b」、「非振動用検出側アーム4c」、「駆動用電極5」、「検出用電極6」、「圧電体」は、それぞれ、
本願発明における、「本体部」、「一対の励振用アーム」、「一つの振動可能な非励振用アーム」、「一対の検出用アーム」、「一つの振動可能な非検出用アーム」、「駆動側電極」、「検出側電極」、「圧電体」に相当する。
引用例1に記載された発明における、「厚さが一定で上下左右対称の構造である」は、圧電振動ジャイロスコープ1が、厚さが一定で上下左右対称の構造であれば、圧電振動ジャイロスコープ1の重心は、本体部2の幾何学的な中心位置に一致するから、
本願発明における、「本体部の幾何学的な中心位置に一致した重心を有する」に相当する。
引用例1に記載された発明における、「圧電振動ジャイロスコープ1」は、
本願発明における、「圧電振動ジャイロスコープ」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

【一致点】
「本体部、前記本体部から互いに間隔をおいて第1の方向に延出した一対の励振用アーム、前記励振用アームの間で前記本体部から前記第1の方向に延出した一つの振動可能な非励振用アーム、前記本体部から互いに間隔をおいて前記第1の方向とは反対の第2の方向に延出した一対の検出用アーム、前記検出用アームの間で前記本体部から前記第2の方向に延出した一つの振動可能な非検出用アーム、前記励振用アームにそれぞれ結合された駆動側電極、及び前記検出用アームにそれぞれ結合された検出側電極を含み、
前記励振用アーム、前記振動可能な非励振用アーム、前記検出用アーム、及び前記振動可能な非検出用アームの各々は圧電体からなり、
本体部の幾何学的な中心位置に一致した重心を有する
ことを特徴とする圧電振動ジャイロスコープ。」

【相違点】
本願発明では、
励振用アームの各々と振動可能な非励振用アームとは幅寸法において互いに異なり、
励振用アームの各々と検出用アームの各々とは幅寸法において互いに異なり、
励振用アームの各々と振動可能な非検出用アームとは幅寸法において互いに異なるのに対して、
引用例1に記載された発明では、
励振用駆動側アーム3a,3b(本願発明の「励振用アーム」に相当する。以下、同様。)の各々と非励振用駆動側アーム3c(振動可能な非励振用アームに相当。)とは幅寸法において互いに同一であり、
励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と振動用検出側アーム4a,4b(検出用アームに相当。)の各々とは幅寸法において互いに同一であり、
励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と非励振用検出側アーム4c(振動可能な非検出用アームに相当。)とは幅寸法において互いに同一である点。

6.判断
前記相違点について検討する。

引用例2である特開平8-201063号公報には、圧電振動体(発明の名
称)に関し、次の記載がある。

(2-1)
「【0026】
【実施例】以下、本発明の圧電振動体を図面を用いて説明する。
【0027】図TLは本発明の圧電振動体の外観斜視図であり、図2(a)は、一方生面側の平面図、図2(b)は一方側面側の平面図、図2(c)は、他方主面側の平面図、図2(d)は他方側面側の平面図であり、図3は圧電振動体の駆動側振動部の電気的接続状況を説明する概略図であり、図4は圧電振動体の検出側振動部の電気的接続状況を説明する概略図である。
【0028】本発明の圧電振動体1は、駆動側振動部1Aと検出側振動部1Bと結合基部2とから構成されている。
【0029】圧電振動体1は、例えば水晶の結晶分極軸に応じて所定カット、Zカットされた水晶基板などが例示できる。その他に所定方向に分極処理された圧電性セラミック基板なども例示できる。
【0030】結合基部2の一方側に配置された駆動側振動部1Aには、2つの振動枝3、4の他にその振動枝3、4の又部分に中間保持枝5が延出されている。また、結合基部2の他方側に配置された検出側振動部1Bには、2つの振動枝6、7の他にその振動枝6、7の又部分に中間保持枝8が延出されている。これにより、圧電振動体1は全体として、「王」字状となっている。尚、両振動部1A、1Bは夫々固有共振周波数が異なるように、振動枝3、4と6、7の長さや幅が異なっている。」

(2-2)
「【0040】従って、各電極の接続状態においては、駆動側振動部1Aが図
3のように、検出側振動部1Bが図4のようになる。
【0041】上述の構造の圧電振動体1において、駆動入力電極51、52の接続パッド部51a、52a間に駆動交流電圧を与えることにより、駆動側振動部1Aに、図中実線矢印のように、また次の瞬間、図中点線矢印のように音叉振動モードが発生する。尚、この音叉振動は、固有共振周波数が異なる検出側振動部1Bに伝わらない。
【0042】この状態で、圧電振動体1全体に、回転運動が加わると、コリオリカが作用して、例えば図4に示す検出側振動部1Bには、図中実線矢印のように、また次の瞬間、図中点線矢印のようにバタ足振動が発生する。」

(2-3)
「【0059】尚、上述の各実施例において、図では、中間保持枝5、8の幅は、振動枝3、4、6、7の幅と同一に示しているが、この幅を振動枝3、4、6、7の幅よりも小さくすることにより、より感度の高い圧電振動体1にすることができる。
【0060】また、駆動側振動部1Aと検出側振動部1Bの間で振動枝の幅寸法及び長さ寸方を変更したものであってもよい。これにより、駆動側振動部1Aの音叉振動モードによって検出側振動部1Bが直接共振しないようにし、角速度の検出に関連するバタ足振動モードに対して高感度化することができる。」
以上の記載及び図1ないし7によれば、引用例2には、次の技術事項が記載されているものと認める。

【引用例2に記載された技術事項】
「駆動側振動部の振動枝3,4と他の振動枝(検出側振動部の振動枝6,7)との(面内)固有共振周波数を異なるものとし、駆動側振動部の振動枝3,4で発生した面内振動(音叉振動)が他の振動枝(検出側振動部の振動枝6,7)に伝わらないようにするために、
駆動側振動部の振動枝3,4と他の振動枝(検出側振動部の振動枝6,7)とを、幅が異なるように構成する。」(以下、「引用例2に記載された技術事項」
という。)

そして、引用例1に記載された発明において、面内共振周波数が一致して、励振用駆動側アーム3a,3bで発生した面内振動が伝わるアームは、
非励振用駆動側アーム3c、振動用検出側アーム4a,4b、非励振用検出側アーム4cであるから、
引用例1に記載された発明の、
励振用駆動側アーム3a,3bの各々と非励振用駆動側アーム3c、
励振用駆動側アーム3a, 3bの各々と振動用検出側アーム4a,4bの各々、
励振用駆動側アーム3a,3bの各々と非励振用検出側アーム4c、
に対して、「引用例2に記載された技術事項」を適用して、

本願発明の如く、
「励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と非励振用駆動側アーム3c(振動可能な非励振用アームに相当。)とは幅寸法において互いに異なり、
励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と振動用検出側アーム4a,4b(検出用アームに相当。)の各々とは幅寸法において互いに異なり、
励振用駆動側アーム3a,3b(励振用アームに相当。)の各々と非励振用検出側アーム4c(振動可能な非検出用アームに相当。)とは幅寸法において互いに異なる。」
ように構成することは、当業者が容易になし得ることである。

その際、単に幅を異なるようにしたのでは、圧電振動ジャイロスコープ1の重心が、支持(保持)位置である、本体部2の幾何学的な中心位置(上記(1-1)の【0052】及び図13参照。)からずれてしまい安定性の高い支持(保持)ができなくなってしまうから、
左右対称の構造は維持しつつ(これにより、重心の左右方向へのずれは防止できる。)、
励振用駆動側アーム3a,3bそして非励振用駆動側アーム3cの幅の和と
振動用検出側アーム4a,4bそして非励振用検出側アーム4cの幅の和と
を等しくする(これにより、重心の上下方向へのずれは防止できる。)
といった、重心位置をずらさないための何らかの配慮が、必要であることは言うまでもないことである。

そして、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が予測可能な範囲のものであって、格別なものではない。

7.請求人の主張
請求人は、平成24年4月16日付けで意見書を提出して、意見を述べているので、これについて検討しておく。

意見1について

請求人は、「全体構造を上下左右対称な形状とすることが好ましい引用例1の発明と、振動枝の幅寸法を異なるようにするという引用例2の発明とは、相反するものであり、両者を組み合わせることには阻害要因がある。」旨主張する。
しかしながら、引用例1の上下左右対称な形状は、面内振動の共振周波数および面垂直振動の共振周波数とは異なる周波数の振動が生じない(上記(1-1)の【0039】参照。)、つまり、面内振動そして面垂直振動以外の振動が生じないようにすることを目的とし、
引用例2の振動枝の異なる幅寸法は、駆動側振動部の振動枝3,4で発生した面内振動(音叉振動)が他の振動枝(検出側振動部の振動枝6,7)に伝わらないようにすることを目的とするものであり、
両目的は完全に相反するものではなく、前者の目的を可能な限り達成しつつ、かつ、後者の目的も可能な限り達成できるように構成することは、可能である(実際、本願発明は、特開2001-255152号公報(引用例1)に記載の発明に、アーム(振動枝)の幅寸法を異なるようにするという構成を採用してなされたものである。)。
したがって、引用例1の発明と引用例2の発明とを組み合わせることには阻害要因があるとの請求人の主張は、採用することができない。

意見2について

請求人は、「引用例2に記載の圧電振動体1は、2本の保持枝にて2点で保持する構造であって、重心バランスに関する記載は全くなされておらず、引用例1に記載された発明に引用例2に記載された技術事項を適用したとしても、本願発明のように圧電振動ジャイロスコープをその重心で支持することを可能にするという効果を奏することはない。」旨主張する。
しかしながら、「圧電振動ジャイロスコープをその重心で支持すること」は、引用例1に記載されており(上記(1-1)の【0052】及び図13参照。)、このことを重複して引用例2から引用する必要はない。
事実、当審拒絶理由そして本審決は、このことを引用例2からは引用していないし、ましてや、引用例2の【0046】及び【0048】に記載の「2本の保持枝にて2点で保持する構造」を引用しているものでもない(上記(2-1)?(2-3)参照。)。
また、引用例2の【0059】に記載された「中間保持枝5、8の幅寸法を振動枝3、4、6、7の幅よりも小さくするという構成」(上記(2-3)参照。)は、【0060】の記載と合わせ読むと、駆動側振動部1Aの音叉振動モードによって検出側振動部1Bが直接共振しないようにすることを目的とするものであると解するのが自然であるから、当審拒絶理由では上記構成を引用した。
ただし、本審決では、上記構成を直接的に引用せずに容易性の判断をおこなった。このため、上記構成が、「2本の保持枝にて2点で保持する構造」との関係で問題となることはない。
したがって、引用例1に記載された発明に引用例2に記載された技術事項を適用したとしても、本願発明のように圧電振動ジャイロスコープをその重心で支持することを可能にするという効果を奏することはないとの請求人の主張は、採用することができない。

8.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-05 
結審通知日 2012-06-06 
審決日 2012-06-19 
出願番号 特願2005-503144(P2005-503144)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野寺 麻美子  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 ▲高▼木 真顕
山川 雅也
発明の名称 六脚型圧電振動ジャイロスコープ  
代理人 佐々木 敬  
代理人 福田 修一  
代理人 佐々木 敬  
代理人 福田 修一  
代理人 池田 憲保  
代理人 池田 憲保  

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