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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1261128
審判番号 不服2009-14770  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-14 
確定日 2012-08-07 
事件の表示 特願2005-298418「GLP-1の類似体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 77022〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,1999年(平成11年)12月7日(パリ条約による優先権主張1998年12月7日,米国)を国際出願日とする特願2000-586774号の一部を,特許法第44条第1項の規定により平成17年10月13日に分割出願したものであって,平成18年11月21日付で拒絶理由が通知され,これに対し,平成19年5月23日付で意見書とともに特許請求の範囲について手続補正書が提出され,平成21年4月13日付で拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月14日に審判請求がなされたものである。

本願発明は,平成19年5月23日付手続補正書により補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうちの請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
式(I)の化合物
(R^(2)R^(3))-A^(7)-A^(8)-A^(9)-A^(10)-A^(11)-A^(12)-A^(13)-A^(14)-A^(15)-A^(16)-A^(17)-A^(18)-A^(19)-A^(20)-A^(21)-A^(22)-A^(23)-A^(24)-A^(25)-A^(26)-A^(27)-A^(28)-A^(29)-A^(30)-A^(31)-A^(32)-A^(33)-A^(34)-A^(35)-A^(36)-A^(37)-R^(1)(I)
[式中:
A^(7)はL-His,Ura,Paa,Pta,D-His,Tyr,3-Pal,4-Pal,Hppa,Tma-His,Ampであるか又は削除され(但し,A^(7)がUra,Paa,Pta又はHppaである場合,R^(2)及びR^(3)は削除される);
A^(8)はAla,D-Ala,Aib,Acc,N-Me-Ala,N-Me-D-Ala,Arg又はN-Me-Glyであり;
A^(9)はGlu,N-Me-Glu,N-Me-Asp又はAspであり;
A^(10)はGly,Acc,Ala,D-Ala又はPheであり;
A^(11)はThr又はSerであり;
A^(12)はPhe,Acc,Aic,Aib,3-Pal,4-Pal,β-Nal,Cha,Trp又はX^(1)-Pheであり;
A^(13)はThr又はSerであり;
A^(14)はSer,Thr,Ala又はAibであり;
A^(15)はAsp,Ala,D-Asp又はGluであり;
A^(16)はVal,D-Val,Acc,Aib,Leu,Ile,Tle,Nle,Abu,Ala,D-Ala,Tba又はChaであり;
A^(17)はSer,Ala,D-Ala,Aib,Acc又はThrであり;
A^(18)はSer,Ala,D-Ala,Aib,Acc又はThrであり;
A^(19)はTyr,D-Tyr,Cha,Phe,3-Pal,4-Pal,Acc,β-Nal,Amp又はX^(1)-Pheであり;
A^(20)はLeu,Ala,Acc,Aib,Nle,Ile,Cha,Tle,Val,Phe又はX^(1)-Pheであり;
A^(21)はGlu,Ala又はAspであり;
A^(22)はGly,Acc,Ala,D-Ala,β-Ala又はAibであり;
A^(23)はGln,Asp,Ala,D-Ala,Aib,Acc,Asn又はGluであり;
A^(24)はAla,Aib,Val,Abu,Tle又はAccであり;
A^(25)はAla,Aib,Val,Abu,Tle,Acc,Lys,Arg,hArg,Orn,HN-CH((CH_(2))n-N(R^(10)R^(11)))-C(O)又はHN-CH((CH_(2))e-X^(3))-C(O)であり;
A^(26)はLys,Ala,3-Pal,4-Pal,Arg,hArg,Amp,HN-CH((CH_(2))n-N(R^(10)R^(11)))-C(O)又はHN-CH((CH_(2))e-X^(3))-C(O)であり;
A^(27)はGlu,Ala,D-Ala又はAspであり;
A^(28)はPhe,Ala,Pal,β-Nal,X1-Phe,Aic,Acc,Aib,Cha又はTrpであり;
A^(29)はIle,Acc,Aib,Leu,Nle,Cha,Tle,Val,Abu,Ala,Tba又はPheであり;
A^(30)はAla,Aib,Accであるか又は削除され;
A^(31)はTrp,Ala,β-Nal,3-Pal,4-Pal,Phe,Acc,Ampであるか又は削除され;
A^(32)はLeu,Ala,Acc,Aib,Nle,Ile,Cha,Tle,Phe,X1-Phe,Alaであるか又は削除され;
A^(33)はVal,Acc,Aib,Leu,Ile,Tle,Nle,Cha,Ala,Phe,Abu,X1-Phe,Tba,Gabaであるか又は削除され;
A^(34)はLys,Arg,hArg,Amp,Gaba,HN-CH((CH_(2))n-N(R^(10)R^(11)))-C(O),HN-CH((CH_(2))e-X^(3))-C(O)であるか又は削除され;
A^(35)はGlyであるか又は削除され;
A^(36)はL-又はD-Arg,D-又はL-Lys,D-又はL-hArg,Amp,HN-CH((CH_(2))n-N(R^(10)R^(11)))-C(O),HN-CH((CH_(2))e-X^(3))-C(O)であるか又は削除され;
A^(37)はGlyであるか又は削除され;
X^(1)は,それぞれの出現につき,(C_(1)-C_(6))アルキル,OH及びハロからなる群から独立して選択され;
R^(1)はOH,NH_(2),(C_(1)-C_(12))アルコキシ又はNH-X^(2)-CH_(2)-Z^(0)であり{ここでX^(2)は(C_(1)-C_(12))炭化水素部分であり,Z^(0)はH,OH,CO_(2)H又はCONH_(2)である};
X^(3)は,

又は-C(O)-NHR^(12)であり{ここで,X^(4)は,それぞれの出現につき独立して,-C(O)-,-NH-C(O)-又は-CH_(2)-であり,及びfは,それぞれの出現につき独立して,1から29の整数である};
R^(2)及びR^(3)のそれぞれは,H,(C_(1)-C_(30))アルキル,(C_(2)-C_(30))アルケニル,フェニル(C_(1)-C_(30))アルキル,ナフチル(C_(1)-C_(30))アルキル,ヒドロキシ(C_(1)-C_(30))アルキル,ヒドロキシ(C_(2)-C_(30))アルケニル,ヒドロキシフェニル(C_(1)-C_(30))アルキル,及びヒドロキシナフチル(C_(1)-C_(30))アルキルからなる群から独立して選択されるか;又はR^(2)及びR^(3)の1つはC(O)X^(5)であり{ここで,X^(5)は(C_(1)-C_(30))アルキル,(C_(2)-C_(30))アルケニル,フェニル(C_(1)-C_(30))アルキル,ナフチル(C_(1)-C_(30))アルキル,ヒドロキシ(C_(1)-C_(30))アルキル,ヒドロキシ(C_(2)-C_(30))アルケニル,ヒドロキシフェニル(C_(1)-C_(30))アルキル,ヒドロキシナフチル(C_(1)-C_(30))アルキル,

又は

であり,ここでYはH又はOHであり,rは0?4であって,qは0?4である};
eは,それぞれの出現につき独立して,1から4の整数であり;
nは,それぞれの出現につき独立して,1から5の整数であり;及び
R^(10)及びR^(11)は,それぞれの出現につき,それぞれ独立して,H,(C_(1)-C_(30))アルキル,(C_(1)-C_(30))アシル,(C_(1)-C_(30))アルキルスルホニル,-C((NH)(NH_(2)))又は

であり{但し,R^(10)が(C_(1)-C_(30))アシル,(C_(1)-C_(30))アルキルスルホニル,-C((NH)(NH_(2)))又は

である場合,R^(11)はH又は(C_(1)-C_(30))アルキルである};及び
R^(12)は(C_(1)-C_(30))アルキルである;
但し:
(i)式(I)の化合物の少なくとも1つのアミノ酸は,非天然アミノ酸であって,hGLP-1(7-36又は-37)NH_(2)(SEQ ID NOS:1,2)又はhGLP-1(7-36又は-37)OH(SEQ ID NOS:3,4)のネーティブ配列と同じではなく;
(ii)式(I)の化合物は,1つの位置がAlaにより置換された,hGLP-1(7-36又は-37)NH_(2)(SEQ ID NOS:1,2)又はhGLP-1(7-36又は-37)OH(SEQ ID NOS:3,4)の類似体ではなく;
(iii)式(I)の化合物は,[Lys^(26)(N^(ε)-アルカノイル)]hGLP-1(7-36又は-37)-E(SEQ ID NOS:5?8),[Lys^(34)(N^(ε)-アルカノイル)]hGLP-1(7-36又は-37)-E(SEQ ID NOS:9?12),[Lys^(26,34)-ビス(N^(ε)-アルカノイル)]hGLP-1(7-36又は-37)-E(SEQ ID NOS:13?16),[Arg^(26),Lys^(34)(N^(ε)-アルカノイル)]hGLP-1(8-36又は-37)-E(SEQ ID NOS:17?20)又は[Arg^(26,34),Lys^(36)(N^(ε)-アルカノイル)]hGLP-1(7-36又は37)-E(SEQ ID NOS:21?24)),[Aib^(8)]hGLP-1(7-36又は-37)-E(ここでEは-OH又は-NH_(2)である)ではなく;
(iv)式(I)の化合物は,Z^(1)-hGLP-1(7-36又は37)-OH,Z^(1)-hGLP-1(7-36又は37)-NH_(2)ではなく{ここでZ^(1)は以下の群から選択される:
(a)[Arg^(26)](SEQ ID NOS:25?28),[Arg^(34)](SEQ ID NOS:29?32),[Arg^(26,34)](SEQ ID NOS:33?36),[Lys^(36)](SEQ ID NOS:37?40),[Arg^(26),Lys^(36)](SEQ ID NOS:41?44),[Arg^(34),Lys^(36)](SEQ ID NOS:45?46),[D-Lys^(36)],[Arg^(36)](SEQ ID NOS:37?40),[D-Arg^(36)],[Arg^(26,34),Lys^(36)](SEQ ID NOS:49?52)又は[Arg^(26,36),Lys^(34)](SEQ ID NOS:25?28);
(b)[Asp^(21)](SEQ ID NOS:53?56);
(c)[Aib^(8)](SEQ ID NOS:57?60),[D-Ala^(8)]及び[Asp^(9)](SEQ ID NOS:61?64)のうち少なくとも1つ;及び
(d)[Tyr^(7)](SEQ ID NOS:65?68),[N-アシル-His^(7)](SEQ ID NOS:69?72),[N-アルキル-His^(7)](SEQ ID NO:73?76),[N-アシル-D-His^(7)]又は[N-アルキル-D-His^(7)]};
(v)式(I)の化合物は,群(a)?(d)に列挙した置換基のいずれか2つの組み合わせではなく;及び
(vi)式(I)の化合物は,[N-Me-Ala^(8)]hGLP-1(8-36又は-37)(SEQ ID NOS:77,78),[Glu^(15)]hGLP-1(7-36又は-37)(SEQ ID NOS:79,80),[Asp^(21)]hGLP-1(7-36又は-37)(SEQ ID NOS:53,54),[Phe^(31)]hGLP-1(7-36又は-37)(SEQ ID NOS:81,82)又は(Aib^(8,35),Arg^(26,34),Phe^(31))hGLP-1(7-36)NH_(2)ではない]
又はその製剤的に許容される塩。」

2.引用例

これに対して,原査定の拒絶の理由に刊行物4として引用された本願優先日前の1993年9月22日に頒布された刊行物である特表平5-506427号公報(以下,「引用例」という。)には,「糖尿病治療に有用なGLP-1アナログ」について以下の事項が記載されている。

(1)「1.II型糖尿病の治療薬として有用なペプチドであって,該ペプチドが,島細胞からのインシュリンの放出を刺激するのに,グルカゴンよりも強力であり,該ペプチドが,実質的に,GLP-1(7-34),GLP-1(7-35),GLP-1(7-36)またはGLP-1(7-37)あるいはそのC末端アミド形態からなり,以下よりなる群から選択される少なくとも1つの改変を有する,ペプチド:
(a)26位および/または34位のリシンを,中性アミノ酸,アルギニンまたはD形リシンに置換,および/または36位のアルギニンを,中性アミノ酸,リシンまたはD形アルギニンに置換;
(b)31位のトリプトファンを,酸化耐性アミノ酸に置換;
(c)以下の少なくとも1つの置換:
16位のVをYに;
18位のSをKに;
21位のEをDに;
22位のGをSに;
23位のQをRに;
24位のAをRに;および
26位のKをQに;
(d)以下の少なくとも1つを含む置換:
8位のAを,他の小中性アミノ酸に;
9位のEを,他の酸性アミノ酸または中性アミノ酸に;
10位のGを,他の中性アミノ酸に;および
15位のDを,他の酸性アミノ酸に;ならびに
(e)7位のヒスチジンを,他の中性アミノ酸,あるいはDまたはNアシル化またはアルキル化形のヒスチジンに置換,
ここで,(a),(b),(d)および(e)において,置換するアミノ酸は,必要に応じて,D形であり得,そして7位に置換するアミノ酸は,必要に応じて,Nアシル化またはNアルキル化形であり得る。」(特許請求の範囲第1項)

(2)「2.唯一の改変が,請求項1のパラグラフ(a)に記載されるものであり,26位および/または34位のリシンを置換するアミノ酸が,K^(†),G,S,A,L,I,Q,M,RおよびR^(†)からなる群から選択され,そして36位のアルギニンを置換するアミノ酸が,K,K^(†),G,S,A,L,I,Q,MおよびR^(†)からなる群から選択され,
必要に応じて,請求項1のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わされる,請求項1に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第2項)

(3)「3.唯一の改変が,請求項1のパラグラフ(b)に記載されるものであり,そして31位のトリプトファンを置換するアミノ酸が,F,V,L,I,AおよびYからなる群から選択され,必要に応じて,請求項1のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わさる,請求項1に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第3項)

(4)「4.唯一の改変が,請求項1のパラグラフ(c)に記載されるものであり,22位のGをSに置換すること,23位および24位のそれぞれQおよびAをRに置換すること,ならびに26位のKをQに置換することを組合せて行ったが,あるいは16位のVをYで置換すること,および18位のSをKで置換することを行ったが,あるいはこれらの置換と21位のEをDで置換することを行っており,必要に応じて,請求項1のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わされる,請求項1に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第4項)

(5)「5.唯一の改変が,請求項1のパラグラフ(d)に記載されるものであり,8位のアラニンを置換する小さい中性アミノ酸が,S,S^(†),G,C,C^(†),Sar,A^(†),beta-alaおよびAibからなる群から選択され,そして9位のグルタミン酸を置換する酸性または中性アミノ酸が,E^(†),D,D^(†),Cya,T,T^(†),N,N^(†),Q,Q^(†),Cit,MSOおよびアセチル-Kからなる群から選択され,そして10位のグリシンを置換する代替の中性アミノ酸が,S,S^(†),Y,Y^(†),T,T^(†),N,N^(†),Q,Q^(†),Cit,MSO,アセチル-K,FおよびF^(†)からなる群から選択され,必要に応じて,請求項1のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わされる,請求項1に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第5項)

(6)「6.唯一の改変が,請求項1のパラグラフ(e)に記載されるものであり,7位のヒスチジンを置換するアミノ酸が,H^(†),Y,Y^(†),F,F^(†),R,R^(†),Orn,Orn^(†),M,M^(†),N-ホルミル-H,N-ホルミル-H^(†),N-アセチル-H,N-アセチル-H^(†),N-イソプロピル-H,N-イソプロピル-H^(†),N-アセチル-K,N-アセチル-K^(†),PおよびP^(†)からなる群から選択され,必要に応じて,請求項1のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わされる,請求項1に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第6項)

(7)「7.以下からなる群から選択される,請求項1に記載のペプチド:
(H^(†))^(7)-GLP-1(7-37)
(Y)^(7)-GLP-1(7-37)
(N-アセチル-H)^(7)-GLP-1(7-37)
(N-イソプロピル-H)^(7)-GLP-1(7-37)
(A^(†))^(8)-GLP-1(7-37)
(E^(†))^(9)-GLP-(7-37)
(D)^(9)-GLP-1(7-37)
(D^(†))^(9)-GLP-1(7-37)
(F^(†))^(10)-GLP-1(7-37)
(S)^(22)(R)^(23)(R)^(24)(Q)^(26)-GLP-1(7-37),および
(S)^(8)(Q)^(9)(Y)^(16)(K)^(18)(D)^(21)-GLP-1(7-37)。」(特許請求の範囲第7項)

(8)「8.II型糖尿病の治療薬として有用なペプチドであって,該ペプチドが,GLP-1(7-37)と比較して,プラズマ中での分解耐性が向上しており,該ペプチドが,実質的に,GLP-1(7-34),GLP-1(7-35),GLP-1(7-36)またはGLP-1(7-37),あるいはそのC末端アミド形からなり,以下からなる群から選択される少なくとも1つの改変を有する,ペプチド:
(a)7位のヒスチジンを,D形中性または酸性アミノ酸,あるいはD形ヒスチジンに置換;
(b)8位のアラニンを,D形アミノ酸に置換;および
(c)7位のヒスチジンを,Nアシル化(1-6C)またはNアルキル化(1-6C)形態の代替アミノ酸またはヒスチジンに置換。」(特許請求の範囲第8項)

(9)「9.唯一の改変が,請求項8のパラグラフ(a)に記載されるものであり,7位のヒスチジンを置換するD形アミノ酸が,P^(†),D^(†),E^(†),N,Q^(†),L^(†),V^(†),I^(†)およびH^(†)からなる群から選択され,必要に応じて,請求項8のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わされる,請求項8に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第9項)

(10)「10.唯一の改変が,請求項8のパラグラフ(b)に記載されるものであり,8位のD形アミノ酸が,P^(†),V^(†),L^(†),I^(†)およびA^(†)からなる群から選択され,必要に応じて,請求項8のもう1つの別のパラグラフに記載の改変と組合わされる,請求項8に記載のペプチド。」(特許請求の範囲第10項)

(11)「14.以下からなる群から選択される,請求項8に記載のペプチド:
(H^(†))^(7)-GLP-1(7-37),
(N-アセチル-H)^(7)-GLP-1(7-37),
(N-イソプロピル-H)^(7)-GLP-1(7-37),
(N-アセチル-K)^(7)-GLP-1(7-37),および
(A^(†))^(8)-GLP-1(7-37)。」(特許請求の範囲第14項)

(12)「本発明は,GLP-1(7-34);(7-35);(7-36)もしくは(7-37)ヒトペプチドの改変型またはこれらのC末端がアミド化された形態の改変型を提供する。天然ペプチドは,
7 10 15 20
H-A-E-G-T-F-T-S-D-V-S-S-Y-L-E-G-Q
25 30 37
-A-A-K-E-F-I-A-W-L-V-K-(G)-(R)-(G)
のアミノ酸配列を有しており,この配列中の(G),(R)および(G)が存在するかどうかは,指示された鎖長による。
改変型では,天然の構造に1箇所またはそれ以上の改変が加えられており,治療に有用な能力が向上している。これらの改変型では,グルカゴンよりもインスリン分泌を促進するための有効性が高いか,もしくは血漿中での安定性が向上しているか,またはその両方である。この有効性および向上した安定性は,以下に記載するように分析され得る。
アミノ酸には標準一文字略記コードを使用する。
インスリン刺激特性の向上を呈する本発明のアナログは,前記の配列またはそのC末端アミド化物に,以下からなる群から選択される少なくともひとつの改変を加えた配列を有する:
(a)・・・
(b)・・・
(c)・・・
(d)・・・
(e)・・・
(a),(b),(d)および(e)の改変に関しては,置換するアミノ酸は,D型であり得る。これは,例えばC^(†)などのように上付き文字^(†)で示される。7位において置換するアミノ酸はNアシル化またはアルキル化型でもあり得る。
したがって,本発明は,そのひとつの局面において,上記のように向上したインスリン刺激特性を有し,上述のGLP-1(7-34)からGLP-1(7-37)までの切断型と相同性のあるペプチドに関する。」(第4頁左上欄第9行?左下欄第10行)

(13)「ある種のよく見られるアミノ酸は,遺伝子コードでコードされない。
このようなアミノ酸としては,例えば,β-アラニン(β-ala),または3-アミノプロピオン酸,4-アミノ酪酸などの他のω-アミノ酸,α-アミノイソ酪酸(Aib),サルコシン(Sar),オルニシン(Orn),シトルリン(Cit),ホモアルギニン(Har),t-ブチルアラニン(t-BuA),t-ブチルグリシン(t-BuG),N-メチルイソロイシン(N-MeIle),フェニルグリシン(Phg),およびシクロへキシルアラニン(Cha),ノルロイシン(Nle),システイン酸(Cya)並びにメチオニンスルホキシド(MSO)がある。これらもまた,適切に特定のカテゴリーに属する。
上記の定義に基づいて,
Sarおよびβ-alaは中性/非極性/小型であり;
t-BuA,t-BuG,N-MeIle,NleおよびChaは,中性/非極性/大型/非芳香族であり;
HarおよびOrnは塩基性/非環式であり;
Cyaは酸性であり;
Cit,アセチルLys,およびMSOは,中性/極性/大型/非芳香族であり;そして,
Phgは,中性/非極性/大型/芳香族である。・・・
種々のω-アミノ酸は,サイズによって,中性/非極性/小型(β-ala,即ち,3-アミノプロピオン酸,4-アミノ酪酸)または大型(その地全てのω-アミノ酸)に分類される。」(第9頁左上欄第20行?右上欄第20行)

(14)「実施例2 GLP-1アナログの向上した安定性
・・・
D.HPLCによる,アナログのプロテアーゼ耐性
GLP-1(7-37)と比較した場合の,様々なアナログの分解耐性もまた,上記のように,HPLCによってテストした。血漿中でのインキユベーションを60分間行い,この後,分解は観察されなかった。すなわち分解は完了した。その結果を表2に示す。」(第12頁左下欄第4行?第13頁左上欄第4行)

(15)「表2

」(第13頁右上欄)

以上の記載から,引用例1には,II型糖尿病の治療薬として有用な,GLP-1(7-34),GLP-1(7-35),GLP-1(7-36)またはGLP-1(7-37)あるいはそのC末端アミド形態からなり,少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を有するペプチドであって,改変は非天然アミノ酸への置換であってもよいこと,改変型では,グルカゴンよりもインスリン分泌を促進するための有効性が高いか,もしくは血漿中での安定性が向上しているか,またはその両方であることが記載されている。

3.対比・判断
(1)対比
本願発明1について,明細書の段落【0005】には,「GLP-1は代謝的に不安定であり,in vivo での血漿半減期(t1/2)は1?2分にすぎない。・・・従って,ネーティブなGLP-1より活性であるか又はより代謝的に安定であるGLP-1類似体に対するニーズが存在するのである。」と記載されているから,本願発明1の課題は,ネーティブなGLP-1より活性であるか又はより代謝的に安定であるGLP-1類似体を提供することであると認める。
また,本願明細書段落【0001】の「本発明は,グルカゴン様ペプチド-1のペプチド類似体,その製剤的に許容される塩,・・・に向けられている。」との記載,段落【0026】?【0027】の「式(I)の最も好ましい化合物は,・・・[D-Ala^(8),Ala^(17,22,23,27),3-Pal^(19,31),Gaba^(34)]-GLP-1(7-34)NH_(2)・・・」との記載,及び段落【0048】の「本発明のペプチドはまた,本明細書では別の形式により,例えば[A5c^(8)]hGLP-1(7-36)NH_(2)(SEQ ID NO:130)と示されるが,ここでは天然の配列から置換されたアミノ酸が最初の括弧のなかに配置される(例えば,hGLP-1のAla^(8)に対するA5c^(8))。略号GLP-1はグルカゴン様ペプチド-1を意味し,hGLP-1はヒトグルカゴン様ペプチド-1を意味する。括弧内の数字はこのペプチドに存在するアミノ酸の位数を意味する(例えば,hGLP-1(7-36)(SEQ ID NO:3)は,ヒトGLP-1のペプチド配列のアミノ酸7位?36位である)。」との記載から,本願発明1の式(I)の化合物は,ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)類似体であり,A^(7)等はそれぞれ天然のGLP-1の配列の7番目のアミノ酸等を意味していると認められる。
そこで,本願発明1と引用例に記載された事項を比較すると,両者は,ネーティブなGLP-1より活性であるか又はより代謝的に安定であるGLP-1類似体を提供することを課題とするものであって,式(I)の化合物で表されるGLP-1の類似体であり,式(I)の化合物の少なくとも1つのアミノ酸は,非天然アミノ酸であって,hGLP-1(7-36又は-37)NH_(2)(SEQ ID NOS:1,2)又はhGLP-1(7-36又は-37)OH(SEQ ID NOS:3,4)のネーティブ配列と同じではない点で共通し,以下の点で相違する。

ア.GLP-1の少なくとも1つのアミノ酸残基の置換について,本願発明1においては,7番目から34番目,36番目において置換する際の選択肢として特定の天然あるいは非天然アミノ酸残基が記載されているのに対し,引用例には各種の置換位置及び置換後のアミノ酸残基についての記載はあるが,本願発明1に包含されるそれ以外の類似体についての記載はない点。

(2)当審の判断
上記相違点について検討する。
相違点アについて,引用例には,培養物中の単離されたラット島細胞からのインスリン放出を測定するインビトロでのアッセイでグルカゴンよりも高い有効性を呈すること,もしくは,血漿中での安定性の向上を示すこと,またはこれらの両方である改変体を取得するためにGLP-1(7-34),(7-35),(7-36)または(7-37)に1箇所またはそれ以上の改変を加えることが記載されている(記載事項(12))。
そして,本願優先日前,生理活性タンパク質において,より活性の高いタンパク質,あるいは,生体内で分解されにくい安定なタンパク質を取得する目的で,天然アミノ酸を欠失あるいは置換することは周知の技術的課題であった。また,安定性を向上させる目的でタンパク質のアミノ酸を非天然アミノ酸に置換することも周知の技術的事項であった(例えば国際公開第97/26279号,国際公開第97/34617号等参照)。
このような技術常識をふまえると,引用例に記載されたGLP-1(7-34),(7-35),(7-36)または(7-37)において,より活性であるか又はより代謝的に安定であるものを取得する目的で,上記記載事項(1),(8)に置換することが示された位置以外のアミノ酸についても,他の天然アミノ酸あるいは非天然アミノ酸に置換すること,そのうち少なくとも1つを非天然アミノ酸とすることは容易に想到し得たものである。
また,引用例に記載の発明において挙げられた各置換位置を,引用例には具体的に記載されていない他の天然アミノ酸あるいは他の非アミノ酸残基に置換してみること,そのうち少なくとも1つを非天然アミノ酸とすることも,当業者が適宜なし得たことである。
そして,本願発明1には,7?37番目のアミノ酸のうち一残基のみを置換したものも包含され,例えば,7番目や8番目のアミノ酸残基のみを置換した類似体は引用例にも同じ位置が置換された改変体が記載され,しかも非天然アミノ酸に置換されているから(記載事項(7)(11)(15)),本願発明1のうち一残基のみを置換した類似体について,引用例に記載された位置のアミノ酸を他の非天然アミノ酸に置換させること,その種類を決定することは,引用例の記載からきわめて容易に想到し得たことである。

そして,本願発明1の効果について,本願出願時の明細書には,何ら実験データが示されておらず,本願発明1の化合物の活性や安定性がどの程度であるか不明であるから,引用例に記載の発明と比較して格別な効果を奏するものであるとすることはできない。

(3)小括
したがって,本願発明1は引用例の記載ならびに上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は,平成19年5月23日付意見書において,本願発明の化合物は少なくとも1つの遺伝コードでコードされていない非天然アミノ酸を有すること,引例4(上記引用例に相当する)は,ネーティブなGLP-1と異なるアミノ酸であって,遺伝コードでコードされていない非天然アミノ酸として用いるもの及びその置換位置が,本願発明1と異なること,GLP-1類似体をアミノ酸の置換により得る際には,1つまたは複数のどの位置のアミノ酸を,どのようなアミノ酸に置換させるかによって,無数のGLP-1類似体の組み合わせが考えられ,その全てにおいてアミノ酸配列の構成が異なる引用例に基づき,本願発明のGLP-1類似体を得ることは当業者が容易に想到出来たことではなく出願時の技術常識からは非常に困難であったこと,その作用もGLP-1と類似するものであり,新たなGLP-1類似体を提供するものであることを主張している。

しかし,引用例において,本願発明1の化合物において非天然アミノ酸に置換する位置の全ては記載されてはいないものの,7,8,10,26,31,34,36番目については非天然アミノ酸に置換することが記載されており,本願発明1の化合物は,これらの位置のみが置換されたものも包含しているので,これらの位置を非天然アミノ酸に置換することは当業者が容易に想到することである。また,他の位置のアミノ酸を引用例に具体的に記載されていない他の天然アミノ酸あるいは他の非アミノ酸残基に置換してみることも当業者が適宜なし得たことであることは3(2)において述べた通りである。
また,引用例には,7又は8位の天然アミノ酸をDアミノ酸で置換することにより,類似体の安定性が向上したことが記載されており(記載事項(15)),3(2)において述べたように,非天然アミノ酸で置換することでタンパク質の安定性を向上させることも周知の技術的事項であるから,引用例に記載されたGLP-1について非天然アミノ酸で置換することは当業者が通常行う範囲のことである。
また,置換位置及びどのようなアミノ酸で置換するか決定することについて,置換を行うことで特に顕著な効果を示す改変体については選択することが困難であるかもしれないが,それ以外の改変体については置換する位置及び置換するアミノ酸は適宜決定し得た範囲といわざるを得ず,実際に特定の位置に置換を有するものが,顕著な効果を奏することは本願明細書に示されていない。そして,予測できない効果が記載されていない本願発明1については当業者は引用例を基礎として,困難を伴うことなく,本願発明1に至ることができるものと判断される。(知財高裁平成23年12月26日判決言渡(平成22年(行ケ)第10367号)参照)。

したがって,審判請求人の主張はいずれも採用できない。

5.むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

6.付言
なお,請求項1に記載の式(I)の化合物には,A^(7)がD-Hisであり,A^(8)?A^(37)は天然アミノ酸である化合物が包含され((iv)(d)で除かれているのは,[N-アシル-D-His^(7)]と[N-アルキル-D-His^(7)]のみである),該化合物は引用例の記載事項(7)及び(11)に記載された(H^(†))^(7)-GLP-1(7-37)と区別できない。
よって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第1項第3号に該当するので,特許を受けることができないものであるともいえることを付言する。
 
審理終結日 2012-03-12 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2005-298418(P2005-298418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小暮 道明  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 六笠 紀子
冨永 みどり
発明の名称 GLP-1の類似体  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 江尻 ひろ子  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 社本 一夫  
代理人 江尻 ひろ子  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 社本 一夫  

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