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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1261129
審判番号 不服2009-20613  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-26 
確定日 2012-08-06 
事件の表示 特願2003-552246「グルタチオンおよび第2相解毒酵素による酸化ストレス障害の予防および治療」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月26日国際公開、WO03/51313、平成17年12月 2日国内公表、特表2005-536449〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、2002年12月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年12月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?3に係る発明は、平成21年6月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項2】医薬用賦形剤と医薬的有効量のスルフォラファンとを含んでなる、網膜変性からヒト対象を保護するための医薬組成物。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である「Food Chem. Toxicol., 1999年9月10日, Vol.37, No.9-10, p.973-979」(以下、「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文のため日本語訳で記載する。

(A1)「The widespread ・・・processes.」(第973頁左欄第2?6行)
「酸化障害は、癌、老化、及び様々な慢性疾患の主要原因であると広く信じられていることから、科学界及び世間一般において、抗酸化剤が、酸化障害に至るまでの工程を阻止する、もしくは少なくとも遅延させる可能性があるのではないかと注目されている。」

(A2)「Antioxidants ・・・reactions.」(第973頁左欄第7?13行)
「抗酸化剤には直接的抗酸化剤と間接的抗酸化剤がある。直接的抗酸化剤(例えばグルタチオン(GSH)、トコフェノール、アスコルビン酸及びカロテノイド)は、生理学的、生化学的または細胞内において、フリーラジカルを不活性化させるか、あるいはフリーラジカルによる化学反応開始を阻止する工程に参加することができる物質である。」

(A3)「There is ・・・antioxidant capacity.」(第973頁左欄第22行?右欄第10行)
「第2相酵素(例えばグルタチオントランスフェラーゼ(GSTs)、NAD(P)H:キノンレダクターゼ(QR)・・・)は、求電子物質の無毒化に重要な役割を担っており、それらの誘導は、動物や動物細胞を発癌や突然変異の生成から防御することについて、本質的な、また数多くの証拠が存在する。・・・(中略)・・・本論文において、我々は、非常に重要であるにもかかわらずほとんど認識されていなかった、第2相酵素の誘導による、細胞内抗酸化機能の増強という結果についての証拠を示す。」

(A4)「Inducers of ・・・tissue GSH levels」(第973頁右欄第28?32行)
「第2相酵素を誘導する物質は、GSH合成の律速段階酵素であるγ-グルタミルシステインシンテターゼの活性も向上させるので、組織中のGSHレベルを向上させる。」

(A5)「There is・・・oxidative toxicity.」(第977頁左欄第2?13行)
「スルフォラファンは第2相酵素を顕著に誘導し、細胞内グルタチオンレベルを上昇させるという数多くの証拠が存在する。第2相酵素が求電子物質の毒性から細胞を保護するにあたって重要な役割を担っていることは広く知られている。しかし、我々はここで、幾つかの第2相酵素は広範囲の酸化ストレスから細胞を保護すること、及びこれらの第2相酵素の誘導が、活性酸素種による毒性及びその他の酸化毒性から細胞を保護するためのメカニズムに寄与することを示す。」

(A6)「Indirect antioxidants ・・・types of oxidants」(第977頁左欄第13?28行)
「スルフォラファンや他の第2相酵素誘導物質のような間接的抗酸化剤は、下記の理由により、実際に非常に有効かつ汎用性のある抗酸化剤である。
(a)直接的抗酸化剤と異なり、抗酸化作用が働く際に、化学量論的に消耗されない。(b)間接的抗酸化剤により誘導された酵素の半減期が日単位と長いので、抗酸化作用がより長く持続し、また、間接的抗酸化剤の細胞内濃度を高く維持する必要がない。(c)間接的抗酸化剤は、トコフェロールやコエンザイムQといった重要な天然の、かつ直接的な抗酸化剤の作用を支援している。(d)間接的抗酸化剤は、細胞内に最も豊富に存在する直接的抗酸化剤であるグルタチオン合成を促進し、さらに(d)多種多様な酸化物質に対処しうる酵素の量を増加させる。」

また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である「Exp.Cell Res., 1999年5月, Vol.248, No2, p.520-530」(以下、「引用例B」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文のため日本語訳で記載する。

(B1)「Retinitis pigmentosa is ・・・in photoreceptor cell death.」(第520頁左欄第1?9行)
「網膜色素変性症は、アポトーシス過程による光受容体の進行性の減少を特徴とする網膜変性の一種である。・・・従前の研究により、抗酸化剤は、光により引き起こされる網膜変性を改善することが報告されており、これは光受容体の細胞死に酸化ストレスが係わっていることを示唆するものである。」

(B2)「The ability of ・・・by antioxidants.」(第520頁左欄第18?23行)
「抗酸化剤として知られている塩化亜鉛及びピロリジンジチオカルバメートが、細胞内の活性酸素種を捕獲して光受容体のアポトーシスを阻害する機能を有することは、活性酸素種が、インビトロにおける光受容体のアポトーシスのメディエーターである可能性を意味するものである。」

(B3)「Our results ・・・to inhibit photoreceptor apoptosis.」(第521頁左欄第8?18行)
「我々の結果は、光受容体のアポトーシスの初期に活性酸素種が生じ、それに伴い細胞内グルタチオンレベル(GSH)レベルが急速に減少することを示している。・・・さらに、我々の結果は、抗酸化剤が、光受容体のアポトーシスを阻害する能力を有することを示している。 」

(B4)「The finding that ・・・to all forms of RP.」(第525頁右欄第35?41行)
「動物モデル及びヒトの網膜色素変性症において、光受容体の減少がアポトーシスにより起こることは、アポトーシスが、この疾患の全ての形態において共通する最終過程であることを示唆している。このように、光受容体のアポトーシス過程を解明することにより、全ての形態の網膜色素変性症に関連する有望な治療ターゲットが得られる可能性がある。」

(B5)「Our results ・・・in the cellular redox status.」(第527頁左欄第17?24行)
「光受容体のアポトーシスにおいて観察される高い過酸化レベルを低下させる作用を示したことから裏付けられるとおり、我々の結果は、PDTC(ピロリジンジチオカルバマート)及び亜鉛が有効な抗酸化剤として機能することを示した。この研究において用いられた抗酸化剤は、細胞内GSHの枯渇を機能的に補填し、そのことにより細胞の酸化還元状態のさらなる不均衡を防いでいるようである。」

(B6)「The data・・・for therapeutic purposes.」(第527頁右欄最下行?第528頁左欄第6行)
「この研究において提示されたデータは、光受容体細胞における酸化ストレスが、アポトーシス過程に密接に係わっていることを示している。さらに重要なことは、これらのデータは抗酸化剤による網膜変性の防止に分子レベルの基礎を提供するものであり、治療目的のため、このような一群の化合物のさらなる開発につながるものである。」

3.対比

引用例Aには、スルフォラファンが、細胞内抗酸化機能を増強して広い範囲の酸化ストレスから細胞を保護する第2相酵素を顕著に誘導する作用、及び細胞内に最も豊富に存在する直接的抗酸化剤であるグルタチオン合成を促進して細胞内グルタチオンレベルを上昇させる作用を有しており、活性酸素種による毒性から細胞を保護する非常に有効かつ汎用性のある間接的抗酸化剤であることが、記載されている(上記(A1)?(A6)を参照。)。
よって、引用例Aには、「スルフォラファンからなり、活性酸素種による毒性から細胞を保護するための間接的抗酸化剤」の発明(以下、「引用例A発明」という。)が記載されている。
そこで、本願発明と引用例A発明を対比すると、両者はいずれも「スルフォラファンを含有しているもの」である点で一致するが、下記の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は「網膜変性からヒト対象を保護するため」のものであるのに対し、引用例A発明は「活性酸素種による毒性から細胞を保護するため」のものである点。

[相違点2]
本願発明は、医薬用賦形剤と医薬的有効量のスルフォラファンとを組み合わせて用いた医薬組成物であるのに対し、引用例A発明は、スルフォラファンを間接的抗酸化剤として用いるものであって、医薬用賦形剤と医薬的有効量のスルフォラファンとを組み合わせて用いて医薬組成物とするものではない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について

引用例Bには、網膜色素変性症は、アポトーシス過程による進行性の光受容体の減少を特徴とする網膜変性の一種であること、酸化ストレスが光受容体のアポトーシスに係わっていること、また、活性酸素がおそらくは光受容体のアポトーシスのメディエーターであり、活性酸素種を捕獲する抗酸化剤によって、当該アポトーシスを阻害しうることが、記載されている(上記(B1)?(B3)を参照。)。
さらに、引用例Bには、動物モデル及びヒト網膜色素変性症においてアポトーシスによる光受容体の減少が生じており、光受容体のアポトーシス過程の解明によって全ての形態の網膜色素変性症に関連する有望な治療ターゲットが得られる可能性があること、抗酸化剤は網膜変性を分子レベルで防止でき、抗酸化剤を治療目的に適用しうることが、記載されている(上記(B4)?(B6)を参照。)。
このように、引用例Bには、網膜変性における光受容体のアポトーシスは活性酸素種の毒性により引き起こされるものであり、抗酸化剤が、アポトーシスすなわち網膜変性から光受容体を保護することが記載されているので、当業者は、活性酸素種による毒性から細胞を保護するための、非常に有効かつ汎用性のある抗酸化剤として知られている引用例A発明のスルフォラファンが、活性酸素種による毒性、及びそれによる光受容体のアポトーシスを阻害して、網膜変性から光受容体を保護しうることを、容易に認識できたはずである。
そして、特に上記(B4)における、ヒト網膜色素変性症に関する記載等からみて、前記「光受容体」が「ヒト対象」を包含することは、明らかである。
よって、引用例A発明のスルフォラファンを「網膜変性からヒト対象を保護するため」に用いることは、引用例Bの記載からみて、当業者が容易に想到しえたものにすぎない。

(2)相違点2について

前記「4.(1)」で検討したように、引用例A発明のスルフォラファンを「網膜変性からヒト対象を保護するため」に用いることは、引用例Bの記載からみて、当業者が容易に想到しえたものであるから、当該スルフォラファンを医薬用途に適用し、その医薬的有効量を用いて医薬組成物とすることは自明である。
そして、医薬組成物とするにあたり医薬用賦形剤を用いることは、単なる周知技術の適用にすぎない。

(3)効果について

請求人は、平成21年12月25日付け手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、(i)引用文献3(本審決における引用例B)で
いう「抗酸化剤」は直接的抗酸化剤であり、直接的抗酸化剤が網膜変性に効
果的であったことを理由として、スルフォラファンのような間接的抗酸化剤も同様に効果的であるとは言えないこと、及び(ii)引用文献3(本審決における引用例B)はマウスの組織細胞を用いた実験系の結果を示すものにすぎず、ヒトについて抗酸化剤による網膜変性保護効果を示すものではないこと、を主張している。
まず、上記(i)について検討すると、上記「4.(1)」で指摘したように、本願優先日当時、スルフォラファンのような間接的抗酸化剤は、作用機序は異なるものの「活性酸素種による毒性から細胞を保護する」という点で、直接的抗酸化剤と同様の抗酸化作用を有するものであると認識されていた(特に上記(A6)を参照。)。
そして、直接的抗酸化剤は、前記「活性酸素種による毒性から細胞を保護する」という抗酸化作用によって、網膜変性から光受容体を保護するのであるから(特に上記(B2)及び(B5)を参照。)、同様の抗酸化作用を有するスルフォラファンが、直接的抗酸化剤と同様に網膜変性から光受容体を保護することを、当業者は容易に認識できたはずである。
次に、上記(ii)について検討すると、確かに引用例Bの実験系ではマウスの組織細胞(Adult C57/BL mice)が用いられているが、動物モデル及びヒト網膜色素変性症において、光受容体の減少がアポトーシスにより生じており、アポトーシスは、網膜色素変性症の全ての形態において共通する最終過程であることが示唆されているのであるから(上記(B4)を参照)、当業者が、「動物モデル」の実験結果から「ヒト対象」の実験結果を容易に予測できることは明らかである。
そして、前記「動物モデル」に相当する引用例Bの「マウスの組織細胞(Adult C57/BL mice)」から得られた結果からみて、本願明細書で示されている、「ヒト対象」に相当する「ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)」から得られた結果は、当業者が予測しえた程度のものにすぎない。
このように、請求人の主張(i)及び(ii)はいずれも認められず、本願発明の構成をとることによる効果は、引用例A及び引用例Bに記載された事項から当業者が予測しうる範囲を超えるものではなく、格別顕著なものではない。

以上(1)?(3)で検討したように、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用例A、引用例Bに記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび

以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-28 
結審通知日 2012-03-02 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2003-552246(P2003-552246)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 新留 豊
前田 佳与子
発明の名称 グルタチオンおよび第2相解毒酵素による酸化ストレス障害の予防および治療  
代理人 奥山 尚一  
代理人 中村 綾子  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  
代理人 吉田 尚美  
代理人 森本 聡二  
代理人 深川 英里  
代理人 松島 鉄男  

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