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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1261132
審判番号 不服2010-5572  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-13 
確定日 2012-08-06 
事件の表示 特願2003-198081号「少痛針」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月6日出願公開、特開2005-611号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年6月13日の出願であって、平成21年12月4日付けで拒絶査定がなされたところ、平成22年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成23年11月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成24年1月10日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項3に係る発明は、平成24年1月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。
「一本の金属から構成されている線材の周囲に電鋳により金属を堆積させて棒状の電鋳体を形成し、上記線材を上記電鋳体から引き抜くことにより出来て、出来たものが皮膚神経を傷つけることを最小限に押さえることを出来る様になった、
ことを特徴とする注射針。」

3.当審の拒絶理由
一方、当審において平成23年11月10日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の出願日前の平成14年10月8日に頒布された刊行物である特開2002-291884号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4.刊行物の記載内容
(1)平成23年11月10日付けの拒絶理由で引用され、本願の出願日前の平成14年10月8日に頒布された刊行物である特開2002-291884号公報(引用文献1)には、図面とともに次の事項が記載されている。
文献1ア:「【発明の属する技術分野】本発明は、液体注入針および液体注入装置に関し、特に、生体に作用する薬液を皮内、皮下、筋肉層などの生体内に経皮的に注入する際に用いられる液体注入針および液体注入装置に関する。」(【0001】)

文献1イ:「このように、極細の針は、患者に与える苦痛を低減することが可能であるが、製造の困難性や強度の不足および高い注入抵抗を有し、上記のような種々の問題を生じるため、実際上、実現されていない。
本発明は、このような従来の問題を解決するために成されたものであり、製造が容易で十分な強度および低い注入抵抗を有し、かつ患者に与える苦痛を低減できる極細の液体注入針と、当該液体注入針を備えた液体注入装置とを提供することを目的とする。」(【0017】?【0018】)

文献1ウ:「図1および図2に示されるように、本実施の形態に係る薬液注入装置1は、薬液注入針10と本体4とから構成される。薬液注入針10は、異形の中空の針部2と、針部2が固着される支持部3とを有する。本体4は、略円筒状であり、プランジャ5が長手方向に往復動可能に挿入される内部空間41を有する。」(【0057】)

文献1エ:「針部2は、図3および図4に示されるように、穿刺部21と固定部22とを有する。穿刺部21は、支持部3から外方へ突出する延長部であり、生体内へ穿刺可能である。固定部22は、支持部3の内部を延長する延長部であり、本体4の内部空間41と連通する通路31と連絡している。
穿刺部21の先端は、刃面が形成された傾斜部21aを有しており、皮膚を穿孔可能である。刃面は、例えば、先端を斜めにカットすることにより形成される。
穿刺部21の先端側外径つまり傾斜部21aの近傍における穿刺部21の外径は、0.1mm以上かつ0.25mm以下、好ましくは0.1mm以上かつ0.20mm以下に設定される。
穿刺部21の先端側外径の上限は、患者に与える穿刺痛を低減する観点から、従来より小さく設定されている。また、下限は、所定の強度を確保し、薬液注入時における流路抵抗の増大を抑える観点から設定されている。穿刺部21の先端側内径は、これに伴って、0.05mm以上かつ0.15mm以下が好ましい。
一般に、針による経皮的な穿刺においては、針の先端部が皮膚を切り裂きながら皮膚深部へと突き進められることによって、痛みに関係する神経や血管が刺激を受け、あるいは損傷されて、痛覚が誘発される。
しかし、本実施の形態においては、穿刺部21の先端側外径は、極めて小さく設定されている。したがって、皮膚を穿孔し生体組織を切り裂く傾斜部21aによって、神経や血管が受ける刺激や損傷は、極力小さくなる。つまり、穿刺部21は、患者に対して、穿刺痛を殆ど、若しくは全く感じさせない。
一方、穿刺部21の基端側外径は、穿刺部21の先端側外径より大きく設定されている。このため、穿刺部21を生体内へ穿刺するために必要な強度を十分確保できる。したがって、例えば、穿刺部21が折れて、穿刺部21を生体内に穿刺できない事態を防止できる。」(【0068】?【0074】)

文献1オ:「針部2は、一般的には、ステンレス鋼を使用して、例えば、塑性加工によって製造される。但し、チタンなどの他の金属あるいはプラスチック等の材料から、針部2を製造することも可能である。」(【0088】)

文献1カ:「次いで、針部2の穿刺部21が、薬液注入対象となる患者の生体内へ、経皮的に穿刺される。しかし、穿刺部21の先端部21bは、従来の針よりも細い。したがって、痛みに関係する神経あるいは血管ヘの刺激、あるいは神経や血管の損傷を低下させることができ、痛みの発生が低減される。」(【0109】)

文献1キ:文献1オの「針部2は、一般的には、ステンレス鋼を使用して、例えば、塑性加工によって製造される。」との記載からして、引用文献1に記載された薬液注入針10の穿刺部21は、塑性加工によって出来るといえる。

文献1ク:文献1エの「穿刺部21の先端側外径は、極めて小さく設定されている。したがって、皮膚を穿孔し生体組織を切り裂く傾斜部21aによって、神経や血管が受ける刺激や損傷は、極力小さくなる。」との記載における「神経」が「皮膚神経」といえることは明らかであるから、引用文献1に記載された薬液注入針10の穿刺部21は、皮膚神経の受ける損傷を極力小さくすることができる様になったといえる。

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「ステンレス鋼を塑性加工することにより出来て、出来た薬液注入針10の穿刺部21が皮膚神経の受ける損傷を極力小さくすることができる様になった薬液注入針10。」

(2)平成23年11月10日付けの拒絶理由で引用され、本願の出願日前の平成14年3月22日に頒布された刊行物である特開2002-80991号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

文献2ア:「【発明の属する技術分野】本発明は、細孔チューブの製造方法に関する。」(【0001】)

文献2イ:「【従来の技術】従来、チューブの製造には引き抜き加工が用いられてきた。すなわち、加工の容易な大きさの範囲まで、金属を管状に成形し、この一端をテーパー状の孔を有するダイスの入口側の大きい孔にくぐらせ、出口側の小さい孔の方向に引き抜き、塑性加工によって小さい孔の内径に等しい外径に細める。所要の寸法によっては、順次孔径の小さいダイスに交換し、引き抜き加工と熱処理工程を繰返し、漸次細めてゆく必要がある。 この方法によれば、加工は外径に対して行われ、内側の孔は工具と接触することなく、引き抜きによる塑性変形の結果として細められたものである。仕上程度も使用目的によっては要求を充し得ない場合が多い上に、孔が細いために内面仕上の追加加工の手段はない。このような引き抜き加工による細孔チューブの内面仕上程度の弱点を解決するために、芯材を使用し、その表面を電鋳法によって転写してチューブの内面とし、電着層をチューブの肉厚とする細孔チューブの製造方法が提案されている。
この方法は、チューブの内径に等しい芯材にニッケル等のメッキ層を電着し、所定の厚さの電鋳層を生成した後、芯材を除去することにより電鋳層自体をチューブとして使用するものである。芯材としては、樹脂を用いその表面を無電解ニッケル等の手段によって導電化し、その上に電鋳層を生成した後、芯材を引き抜く方法、あるいは芯材にアルミ線を用い表面に直接電鋳層を生成した後、アルミ芯材を化学的に溶解除去して細孔チューブとする方法等が提案されている。」(【0002】?【0004】)

文献2ウ:「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明による細孔チューブの製造方法は、以下の方法を採用する。すなわち、芯材を用い電鋳法によって良好な内面仕上精度をもつ細孔チューブを製造するには、芯材の材質としてオーステナイト系のステンレス線を使用する。表面がそのま々転写されてチューブの内側となるために良好な仕上面状態のものが必要である。芯材を真直且鉛直に保持し電解ニッケルメッキ浴中に浸漬するに適した治具に取り付け、上下両端の芯材取付部付近をテープで遮蔽する。芯材は治具と共に浴中で回転しながらその表面に均等に近い厚みのニッケル電鋳層を生成させるが、なお厚みの一様化と能率向上のため、浴中に複数の正電極を増設することもある。
このニッケル電鋳の工程においては、浴濃度・PH・電流密度・添加剤等の条件に注意しつつ、電鋳層に発生する内部応力の制御を行い、電鋳工程の終了時において適切な圧縮応力が残るように工程管理を行う。電鋳層が所定の厚みに達すれば、電解槽より引き上げ、芯材と電鋳層が一体となったものを治具より取りはずし、芯材両端の遮蔽テープを取り除く。外側の電鋳層部分をバイス等で固定し、テープが除かれた芯材の露出部分を工具等でくわえ、芯材に引き抜く力を加えれば、オーステナイト系ステンレス特有の塑性加工性と電鋳層に内蔵された圧縮応力の効果によって容易に芯材を抜きとることができ、引き抜き加工では得られなかった良好な内面仕上精度をもつ細孔チューブを製造することができる。」(【0009】?【0010】)

(3)平成23年11月10日付けの拒絶理由で引用され、本願の出願日前の平成15年5月21日に頒布された刊行物である特開2003-147569号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

文献3ア:「【請求項1】電鋳メッキ処理の少なくとも初期段階に於いて導電性を有する芯線に電流を通し電解液の温度以上に加熱し、所定の電鋳層が形成されたる後、その芯線を抜線してなる円筒の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

文献3イ:「【発明の属する技術分野】本発明は、精度高く円筒を製造するメッキ技術に関するものである。」(【0001】)

文献3ウ:「【課題を解決するための手段】電気鋳造(電気メッキによる円筒部分の形成法を云う) を行う初段階に於いてその芯線となる導電性を有する線に電流を流して加熱膨張させた状態でメッキ層を成長させる。次にそのメッキ層が所定の寸法に達したる後、電解液槽から取り出し、充分洗浄したる後、電流を切った事によって芯線が、メッキ層から形成される円筒の内周部と分離をし安易に抜芯線作業が行え、この工程で従来多発していた円筒の破損、芯線の切れなどが防止出来た。」(【0004】)

文献3エ:「【発明の実施の形態】本発明の特徴を明らかにする為に、光ファイバーのコネクターに用いられる接続具である円筒を製造する場合に就いて記述する。その模式図を図1に示す如く、槽01に電解液02を用意し、一般的な建浴法に基づいて規定量の70%程度の水を注入し、約55?60℃に加熱した状態でホウ酸40g/lを溶解させて、次に硫酸ニッケル240g/l、又塩化ニッケル60g/lの割合とした後、所定の容量まで湯を注入した。同図面では循環フィルター或は、その浴液の攪拌の為の気泡などは割愛した。これ等の浴槽の外周(外壁近傍)に正極性の電極板03を、又概ね中央部分に設けられた上下可動形の支持柱09に複数本の芯線04を上下支持具06、08を用いて配置付け、これ等の共通の一端(例えば上端部)に同時通電をする為の連絡線11により電気的に接続し、その連絡線11と前述の正電極に対応する負電極とし主なる直流電源PMに接続する。次に本発明の特徴である所の導電性の芯線、例えばステンレス材からなる太さ0.120φmmの針金を芯線として上端部はそれぞれ電気連絡線11によって接続し、下端部は下側連絡線10によりそれぞれの下側先端部を電気的に連絡を取り、その連絡線10と対向する上側連絡線11の電気端子間に芯線加熱用の電源PHを接続して電流を芯線に流して、浴温度よりも高くなる様に電力を制禦する。浴温約55℃よりも芯線の温度を高めた状態で、換言すると、浴温TL<電解メッキ層の温度TM<芯線の温度TCとなる様に芯線に印加する加熱用電源のパワーを調整する。目的の円筒外径を1.25φmmとした場合、約7時間30分でメッキ層が成長した。この結果は、一般のファラデーの法則に従じたるものであった。かくして製造された長さ50cmの円筒05を上側支持板06上の固定具07を外し、又下側の図上は割愛しているが、芯線を直線状に懸垂する為の金具等を取り外して芯線04と円筒05の一部を図1中のAで示す部分を図2に拡大図で示す如き芯線を取り出し、その断面の図を図3に示す如くSEMで観察した所、数値的な読取は困難であったが、電解メッキ層から成長した円筒05の内径と極めて微少ではあるが、点線41の如く芯線04の外径との間にギャップが見られた。従来の芯線に加熱処理を施す事なく円筒の長さが10mmである場合、芯線引き抜きに要する力は、550g以上を必要としたが、本発明の方法で芯線04を加熱し、膨張させた状態で初期の電解メッキ層を形成させた円筒からの芯線04を引き抜くに要する力は230g以下であり、明らかに数値的には微少なるも、原理的に円筒は浴温に近い状態で最終段階の電解メッキ層が形成される為に、円筒の外周部分の芯線からの熱の影響が少なく、槽01から取り出した後、最も大きく熱収縮をする部分は、芯線04そのものである為に、円筒05の内径との芯線04の外径の差が生じ、抜線作業が安易になる。この結果、従来の如く芯線に離型剤を塗り、その膜厚の不均一さの為に電気メッキ層の形成が不均一になり、精度高く円筒を得る事が出来ないと云う様な幼稚な時代から直近の芯材料を電解メッキが付着しにくい材質選ぶも、高い割合で芯抜き作業で不良が発生していたが、本発明の適用でこれ等の不良原因を解消出来たので、高い歩留で生産を実施する事が可能となった。」(【0005】)

(4)平成23年11月10日付けの拒絶理由で引用され、本願の出願日前の平成14年5月17日に頒布された刊行物である特許3308266号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

文献4ア:「電鋳液3は、線材9の周囲に電鋳しようとする金属の材質に応じて決定され、例えば、ニッケル又はその合金、鉄又はその合金、鋼又はその合金、コバルト又はその合金、タングステン合金、微粒子分散金属などの電鋳用金属を用いることができ、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸第一鉄、ホウフッ化第一銑、ピロリン酸銅、硫酸銅、ホウフッ化銅、ケイフッ化銅、チタンフッ化銅、アルカノールスルフォン酸銅、硫酸コバルト、タングステン酸ナトリウムなどの水溶液を主成分とする液、又は、これらの液に炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、酸化ジルコニウム、チッ化ケイ素、アルミナ、ダイヤモンドなどの微粉末を分散させた液が使用される。これらのうち特に、スルファミン酸ニッケルを主成分とする液が、電鋳の容易さ、電鋳物の応力が小さいこと、化学的安定性、溶接の容易性などの面で適している。」(【0032】)

文献4イ:「次に、図2に示した電鋳装置100を用いて管状部材を電鋳により形成する操作を説明する。電鋳浴50に、電鋳液3を充填した後、4?20A/dm2程度の電流密度になるように陽極4及び陰極8にDC電圧を印加する。この電流密度でほぼ1日間電鋳することにより線材9の周囲に直径3mmの太さの電着物に成長させることができる。電鋳の終了後、支持治具5を浴50から取り出して、線材9を支持治具5から取り外す。線材9は電着物から引き抜くか、加熱した酸またはアルカリ水溶液に溶かすなどで除去することができる。ハンダメッキの金属線の場合は、金属線を加熱しながら引き抜けばよい。
また、電着物から線材9を押し出しにより取り出すことも可能である。例えば、図6に示すような貫通孔21aが内部に形成されたガイド21と超硬ピン22を用いて、ガイド21を、電鋳品23に対して、互いの貫通孔21a及び23aが超硬ピン22を通じて連結するように配置して、超硬ピン22で電鋳品23から線材9を押し出すこともできる。この場合は、電鋳品23の線材9の一端を、薬品で少し溶かしてから実施するのが望ましい。
選択した線材9の材料により、電鋳品の中心に存在する線材9を引き抜くか、押し出すか、あるいは薬品で溶解するかを決定すればよい。一般には、線材が薬品に溶解しにくく、引っ張り強度の高いものは、引き抜きまたは押し出しを利用し、薬品に溶解しやすいものは、溶解させるのがよい。例えば、鉄またはその合金の場合は、線材9を離型処理した後、図7に示すようにビニルテープなどの電気絶縁体20で一部を覆って前述の電鋳を実施し、電鋳品から電気絶縁体20を剥がして線材9を図8に示すように露出させると、電鋳品23から線材9を引き抜き易くなる。上記ハンダメッキした金属線、無電解メッキしたプラスチック線の場合には、離型処理なしで同様の方法で引き抜けばよく、ハンダメッキした金属線の場合には、加熱しながら引き抜けばよい。引き抜き法の場合には、特に線材9は鉄の合金であるステンレス線が望ましく、実験的には、直径0.126mmのステンレス線で100mm程度の長さまで引き抜くことができた。」(【0043】?【0045】)

文献4ウ:「産業上の利用可能性
本発明は、電鋳法を用いているため、高価で且つ耐久性を要する特殊な成型機及び金型を必要とせず、安価な汎用の電鋳装置を用いて容易にフェルールを製造することができる。」(【0081】)

(5)本願の出願日前の平成7年8月24日に頒布された刊行物である特表平7-507488号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

刊行1ア:「上記混合・計量ニードルを製造するための本発明の方法は、下記の工程を含むことを特徴とする。製造されるべきニードルに対応する形状の細長い型の周囲に、電解析出による電気鋳造法を使用して金属層を形成する工程。その金属層の内側から型を除去して、内側に細長い通路が形成された管状の金属ニードルを得る工程。」(5頁左上欄13?17行)

刊行1イ:「次に、本発明に係る混合・計量ニードル1の製造方法は、電気鋳造法を用いて行うことが望ましい。図12?14はその各製造工程を示すものである。この方法では、ニードル形状に対応した細長いアルミ型11が使用され、その内側にはアルミ型11の先端12まで延びる通路13が形成されている。そして、そのアルミ型12の表面にニッケル・コバルト合金層14が電解析出により形成される。」(5頁右下欄17?21行)

5.対比
引用発明1の「薬液注入針10」及び「薬液注入針10の穿刺部21」は本願発明の「注射針」に相当する。

引用発明1の「ステンレス鋼」は金属といえるから、引用発明1の「ステンレス鋼を塑性加工することにより出来て」と本願発明の「一本の金属から構成されている線材の周囲に電鋳により金属を堆積させて棒状の電鋳体を形成し、上記線材を上記電鋳体から引き抜くことにより出来て」とは、「金属から出来て」いる点で共通する。

引用発明1の「出来た薬液注入針10の穿刺部21」は本願発明の「出来たもの」に相当し、引用発明1の「皮膚神経の受ける損傷を極力小さくすることができる様になった」は「皮膚神経を傷つけることを最小限に押さえることを出来る様になった」といえるから、引用発明1の「出来た薬液注入針10の穿刺部21が皮膚神経の受ける損傷を極力小さくすることができる様になった」は本願発明の「出来たものが皮膚神経を傷つけることを最小限に押さえることを出来る様になった」に相当する。

以上によれば、本願発明と引用発明1とは次の点で一致する。
「金属から出来て、出来たものが皮膚神経を傷つけることを最小限に押さえることを出来る様になった注射針。」

そして、本願発明と引用発明1とは次の点で相違する。
(相違点)
本願発明では、「注射針」が、「一本の金属から構成されている線材の周囲に電鋳により金属を堆積させて棒状の電鋳体を形成し、上記線材を上記電鋳体から引き抜くことにより出来て」いるのに対して、
引用発明1では、「薬液注入針10の穿刺部21」が、「金属を塑性加工することにより出来て」いる点。

6.判断
(1)相違点について検討する。
引用文献2の「芯材(ステンレス線)」、引用文献3の「導電性の芯線(ステンレス材からなる針金)」、引用文献4の「線材9(ステンレス線)」は、それぞれ「一本の金属から構成されている線材」といえ、引用文献2の「芯材と電鋳層が一体となったもの」、引用文献3の「芯線に電鋳層が形成されたもの」、引用文献4の「線材9の周囲に電着物を成長させたもの」は、それぞれ「一本の金属から構成されている線材の周囲に電鋳により金属を堆積させた棒状の電鋳体」といえ、引用文献2の「細孔チューブ」、引用文献3の「円筒」、引用文献4の「管状部材」は、それぞれ「管状体」といえるとともに、引用文献4には電鋳用金属として「電鋳液3は、線材9の周囲に電鋳しようとする金属の材質に応じて決定され、例えば、ニッケル又はその合金、鉄又はその合金、鋼又はその合金、コバルト又はその合金、タングステン合金、微粒子分散金属などの電鋳用金属を用いることができ」(文献4ア)と記載されている。
してみると、引用文献2?4の記載事項からして、一本の金属から構成されている線材の周囲に電鋳により電鋳用金属(ニッケル又はその合金、鉄又はその合金、鋼又はその合金、コバルト又はその合金、タングステン合金、微粒子分散金属など)を堆積させて棒状の電鋳体を形成し、上記線材を上記電鋳体から引き抜く電鋳法により電鋳用金属の管状体を製造する方法及び該電鋳法による管状体の製造方法により出来た電鋳用金属の管状体は、金属加工一般において本願の出願前に周知であったといえる。
ところで、引用文献1の「針部2は、一般的には、ステンレス鋼を使用して、例えば、塑性加工によって製造される。但し、チタンなどの他の金属あるいはプラスチック等の材料から、針部2を製造することも可能である。」(文献1オ)との記載からして、引用文献1において、ステンレス鋼は薬液注入針10を製造する「一般的」な材料として例示されているにすぎず、引用文献1には、薬液注入針10をステンレス鋼以外の他の金属から製造することが示唆されているといえる。
さらに、引用文献1の上記記載は、塑性加工を薬液注入針10をステンレス鋼から製造する場合の製造方法として例示(「例えば」)するものにとどまり、薬液注入針10をステンレス鋼以外の他の金属から製造する場合において、薬液注入針10を塑性加工以外の製造方法で製造することを否定するものではない。
してみると、引用文献1においては、薬液注入針10をステンレス鋼以外の他の金属から製造することが示唆されているとともに、薬液注入針10をステンレス鋼以外の他の金属から製造する場合の製造法は格別特定されているとはいえず、しかも、当業者であれば上記金属加工一般における周知技術を当然認識するといえるから、引用発明1において、ステンレス鋼を塑性加工することにより出来た薬液注入針10(金属の管状体)に代えて、周知の電鋳法による管状体の製造方法で出来た電鋳用金属の管状体(金属の管状体)を用いることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

(2)上記の点につき、請求人は、引用文献1?4には「電鋳法を用いて注射針を製造する」ことと「皮膚神経を傷つけることを最小限に押さえることを出来る様になった」こととが記載されておらず、引用文献1?4に記載された技術事項を組み合わせてもこれらの構成を容易に想到し得ない旨主張する(平成24年1月10日付け意見書の「4.(2)請求項3、請求項5について、」の項)。
しかしながら、引用文献1?4に「電鋳法を用いて注射針を製造する」ことが記載されていないとしても、そのことは、引用発明1及び周知技術の認定並びに引用文献1の示唆についての上記理解を否定するものではなく、これらに基く容易想到性についての上記判断を左右するものともいえない。
また、引用発明1の薬液注入針10として周知の電鋳法による管状体の製造方法で出来た電鋳用金属の管状体を採用することを阻害する程の要因を見出すことはできず、引用文献2(文献2イ)に金属の管状体の製造方法として「塑性加工」に代えて「電鋳法」を用いることが従来技術として記載されていることや、引用文献2?4以外に、例えば本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物1(刊行1ア、刊行1イ)に混合・計量ニードルの分野においてもニードル(金属の管状体)の製造に電鋳法を用いることが記載されていることからしても、引用発明1において、ステンレス鋼を塑性加工することにより出来た薬液注入針10(金属の管状体)に代えて、周知の電鋳法による管状体の製造方法で出来た電鋳用金属の管状体(金属の管状体)を用いることに格別の困難性は見出せない。
そして、引用発明1が「皮膚神経を傷つけることを最小限に押さえることを出来る様になった」ものであることは、前記「5.対比」において説示したとおりである。
以上によれば、請求人の上記主張を採用することはできず、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものである。

(3)請求人は、本願発明の効果について、「電鋳法」を用いれば、「周長が短く」かつ「厚みが薄い」「注射針」を容易に製造でき、特に、電鋳時間を選択することにより、所望の寸法の「厚みの薄い」「注射針」を製造できる旨主張する(平成24年1月10日付け意見書の「5.顕著な効果、その他について、」の項)。
しかしながら、引用文献2に「電鋳層が所定の厚みに達すれば、電解槽より引き上げ」(文献2ウ)と記載され、引用文献3に「そのメッキ層が所定の寸法に達したる後、電解液槽から取り出し」(文献3ウ)と記載され、引用文献4に「この電流密度でほぼ1日間電鋳することにより線材9の周囲に直径3mmの太さの電着物に成長させることができる。」(文献4イ)と記載されているように、周知の電鋳法による電鋳用金属の管状体の製造方法においても電鋳時間を選択することにより所望の寸法の層を形成できることは明らかである。
してみると、請求人が主張する、電鋳時間を選択することにより所望の寸法の「厚みの薄い」「注射針」を製造できるという本願発明の効果は、当業者であれば引用発明1の薬液注入針10として周知の電鋳法による管状体の製造方法で出来た電鋳用金属の管状体を用いた場合に当然予測し得る程度のものであって、格別顕著な効果とはいえない。
さらに、例えば引用文献4に「本発明は、電鋳法を用いているため、高価で且つ耐久性を要する特殊な成型機及び金型を必要とせず、安価な汎用の電鋳装置を用いて容易に・・・製造することができる。」(文献4ウ)と記載されているように、請求人が主張する、「電鋳法」を用いて製造を容易にできるという本願発明の効果も、当業者であれば引用発明1の薬液注入針10として周知の電鋳法による管状体の製造方法で出来た電鋳用金属の管状体を用いた場合に当然予測し得る程度のものであって、格別顕著な効果とはいえない。
以上によれば、本願発明による効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-15 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願2003-198081(P2003-198081)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 関谷 一夫
田合 弘幸
発明の名称 少痛針  
代理人 小塚 敏紀  

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