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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1261140
審判番号 不服2011-244  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-06 
確定日 2012-08-07 
事件の表示 特願2004-551804号「人工乳首」拒絶査定不服審判事件〔平成16年5月27日国際公開、WO2004/043325号、平成18年2月16日国内公表、特表2006-505353号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、2003年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年11月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年8月27日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年9月6日)、これに対し、平成23年1月6日に拒絶査定不服の審判の請求がなされたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、平成22年1月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「使用者の口に挿入されるようになっていて、約5より小さいショアーA硬度を有する材料で形成された中実の乳首部分と、
流体を乳首の中に導くための少なくとも1つのダクトと、を有し、使用中乳首は、前記少なくとも1つのダクトの中を通る流体の流れを制限するように乳首の半径に沿う収縮ができる、乳首。」

3 刊行物について
原査定の拒絶の理由において提示された、本願の優先権主張の日前の刊行物である実公平4-41864号公報(以下「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審にて付与。)。
ア 「実用新案登録請求の範囲
(1)ゴム状弾性体からなる乳首本体の内側に、当該乳首本体より軟らかいゴム状弾性体からなる乳首内装材を全面で接合して一体に設け、この乳首内装材に、前記乳首本体の先端部に設けた吸乳孔に連通する連通路を形成すると共に、この連通路に一端を開口し且つ他端を乳首本体の鍔部に開口した空気抜孔を形成したことを特徴とする哺乳器用乳首。
(2)前記ゴム状弾性体はシリコンゴムであることを特徴とする請求項第1項記載の哺乳器用乳首。」(第1欄第1?12行)
イ 「[産業上の利用分野]
本考案は、哺乳器用の乳首に関し、特に肉感を有する哺乳器用乳首に係る。
[従来の技術とその問題点]
従来の、この種の哺乳器用乳首は、第4図に示すように、全体に渡つて所定の肉厚により形成された乳首本体1からなり、その乳首本体1は特殊人造ゴム或は天然ゴム等で形成されていて、小さな外力によつても容易に弾性変形し得るように構成している。
そのため、哺乳器に装着してミルクを吸入する際に、上記乳首本体Aは乳児が口に含んだだけで弾性変形してしまい、母親の乳房による授乳感覚と大きく異なるという問題点があつた。
本考案は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、乳首本体の内側に当該乳首本体よりも軟らかい乳首内装材を設けることにより、母親の乳房での授乳に近い状態で授乳させることができる肉感をもつていると共に、製造が容易であつてミルクの吸乳をスムースに行うことができる哺乳器用乳首を提供することを目的としている。」(第1欄第14行?第2欄第9行)
ウ 「[実施例]
次に、本考案の実施例について図面を参照して説明する。
第1図は、本考案の一実施例を示す縦断面図である。
まず、構成を説明すると、図中1は乳首本体、2は乳首内装材である。
乳首本体1は、半球形をなす胴部3と、その中央に突出形成した円筒形をなす首部4と、この首部4の先端に設けた球形をなす乳頭部5と、胴部3の開口側に設けた半径方向側に延びる鍔部6とからなり、これらはゴム状弾性体の一具体例を示すシリコンゴムによつて一体に形成している。胴部3及び鍔部6の肉厚は厚く、また、首部4及び乳頭部5の肉厚は薄く形成している。そして、乳頭部5の中央には吸乳孔7を穿設しているとともに、胴部3の外側には、鍔部6との間に所定の隙間をあけて周凸部8を設けることによつて周溝9を形成している。
乳首内装材2は、上記乳首本体1よりも軟らかいシリコンゴムかせなり、乳首本体1の内側の凹部全体を埋めるようにして当該乳首本体1と加硫接着等の接合手段によつて一体に形成している。そして、乳首内装材2の中央には、前記吸乳孔7に連通する内径を一定にした連通路10を設け、また、この連通路10に一端が連通し且つ他端が鍔部6の外周面に開口する空気抜孔11を設けている。
次に、本実施例の作用について説明する。
本実施例に係る哺乳器用乳首は、従来のものと同様に、図示しない締付キヤツプを用いて哺乳瓶に装着して使用する。
ミルクを充填した哺乳瓶に締付キヤツプを緊締した状態で授乳させると、乳児の吸飲力によつて哺乳瓶内のミルクが連通路10を介して吸乳孔7から当該乳児に吸飲される。
この際、シリコンゴムで形成した乳首本体1の内側にはそれよりも軟らかいシリコンゴムで形成した乳首内装材2を一体に設けているため、全体の弾性が高くなつて弾性変形し難くなつている。そのため、これを乳児が口に含んだ場合、当該乳児には乳首が肉感的に感じられることとなり、あたかも母親の乳房での授乳に近い状態で授乳を受けることができる。」(第3欄第4行?第4欄第3行)
エ 「[考案の効果]
以上説明してきたように、本考案によれば、乳首本体の内側にそれよりも軟らかい乳首内装材を全面で接合して一体に設けると共に、吸乳孔に連通する連通路と、この連通路を鍔部に開口させる空気抜孔とを形成する構造としたため、全体に肉感を持たせることができ、従つて、あたかも母親の乳房での授乳に近い状態で授乳することができると共に、乳首全体を所定硬度に容易に設定することができ、製造が容易であつて、しかもミルクの吸乳をスムースに行うことができる哺乳器用乳首を提供することができるという効果が得られる。」(第4欄第33行?第5欄第1行)

上記ア?エの記載事項、及び、図面の図示内容を総合勘案すると刊行物には、次の発明という。)が記載されていると認められる。
「乳児が口に含むものであって、ゴム状弾性体からなる乳首本体の内側に、当該乳首本体より軟らかいゴム状弾性体からなる乳首内装材を全面で接合して一体に設け、
この乳首内装材に、乳首本体の先端部に設けた吸乳孔に連通するように形成した連通路を備え、
あたかも母親の乳房での授乳に近い状態で授乳することができると共に、乳首全体を所定硬度に容易に設定することができる哺乳器用乳首。」

4 対比
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
刊行物に記載された発明の「乳児が口に含む」ことは、その構成及び機能からみて、本願発明の「使用者の口に挿入されるようになってい」ることに相当する。
そして、刊行物に記載された発明の「ゴム状弾性体からなる乳首本体の内側に、当該乳首本体より軟らかいゴム状弾性体からなる乳首内装材を全面で接合して一体に設け」ることと、本願発明の「約5より小さいショアーA硬度を有する材料で形成された中実の乳首部分」は、前者において、乳首全体は所定硬度を有し、また、哺乳器用乳首は、乳首本体の内側に乳首内装材を全面で接合して一体に設けることにより中実となっているから、両者は、「所定硬度を有する材料で形成された中実の乳首部分」である点で共通する。 また、刊行物に記載された発明の「乳首本体の先端部に設けた吸乳孔に連通するように形成した連通路」は、その構成及び機能からみて、本件補正発明の「流体を乳首の中に導くための少なくとも1つのダクト」に相当し、同様に、
「哺乳器用乳首」は、「乳首」に相当する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「使用者の口に挿入されるようになっていて、所定硬度を有する材料で形成された中実の乳首部分と、流体を乳首の中に導くための少なくとも1つのダクトとを有する乳首。」

[相違点1]
中実の乳首部分が、本願発明では、約5より小さいショアーA硬度を有する材料で形成されるものであるのに対して、刊行物に記載された発明では、ゴム状弾性体からなる乳首本体の内側に、当該乳首本体より軟らかいゴム状弾性体からなる乳首内装材を全面で接合して一体に設けたものである点。

[相違点2]
本願発明では、使用中乳首は、少なくとも1つのダクトの中を通る流体の流れを制限するように乳首の半径に沿う収縮ができるのに対して、刊行物に記載された発明では、この点が不明な点で相違する。

5 当審による判断
(1)上記相違点1について検討する。
本願発明において、中実の乳首部分を形成する材料のショアーA硬度を「約5より小さい」ものとすることは、「自然の胸の乳首にもっと厳密にまね、口の発達に関して人工栄養の影響を減じ又は除去する人工乳首の要求」を満たすため(本願明細書の段落【0007】)である。
そこで、本願発明が、中実の乳首部分を形成する材料のショアーA硬度を「約5より小さい」ものとすることの臨界的意義について検討する。
本願明細書には、中実の乳首部分の硬度に関して、「乳首は、約10よりも小さいそして1より下のショアーA硬度であるのがよい。特に、ショアー00スケールでは、約20ないし約45の範囲が、現在のところでは最も望ましいと考えられる。」(段落【0011】)、「最も好ましいデュロメーターは約ショアーA5又はそれより下の範囲であると考えられ、最も好ましくは、ショアー00 20乃至45のあたりである。後者の範囲よりしたでも有用である。」(段落【0023】)、「好ましくは、乳首部分12を作っている材料は、実質的に約1乃至約20の範囲内にあるデュロメーターA(又はショアーA)硬度を有する。もっと好ましくは、第1材料は、1乃至約3の範囲内にあり、又はショアー00に変換すると、最も好ましくは、約20乃至約45の範囲内にあるデュロメーターAを有する。」(段落【0028】)と記載されている。
しかしながら、本願明細書には、中実の乳首部分を形成する材料のショアーA硬度を「約5より小さい」ものとすることによる技術的意義については、何ら記載も示唆もされておらず、本願発明において、中実の乳首部分を形成する材料のショアーA硬度を「約5より小さい」ものとすることに臨界的意義は確認できず、自然の胸の乳首に近いものという程度に止まるものである。

一方、刊行物に記載された発明の哺乳器用乳首は、本願発明の課題と同様に、あたかも母親の乳房での授乳に近い状態で授乳することができるように、「乳首全体を所定硬度に容易に設定することができる」ものである。そうすると、刊行物に記載された発明において、乳首本体と乳首内装材を一体とした哺乳器用乳首全体の硬度を、製法、材質、形状を考慮してあたかも母親の乳房での授乳に近い状態となるように実験等を通して調節して、例えば、約5より小さいショアーA硬度とすることは、当業者が容易になし得たものといわざるを得ない。

(2)上記相違点2について検討する。
刊行物に記載された発明のダクトが形成される内装材は、中実のやわらかいゴム状弾性体からなるものであるから、乳児の授乳の際に、連通路を含めた哺乳器用乳首の伸縮は妨げられるものではない。そうすると、刊行物に記載された発明において、哺乳器用乳首の伸縮に伴い、連通路の中を通る流体の流れを制限するように、哺乳器用乳首の半径に沿う収縮ができることは、当業者にとって自明である。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
本願発明の奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。

6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-09 
結審通知日 2012-03-12 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2004-551804(P2004-551804)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 真徳  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 松下 聡
長崎 洋一
発明の名称 人工乳首  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  
代理人 井野 砂里  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  

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