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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C03B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03B
管理番号 1261171
審判番号 不服2009-4436  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-02 
確定日 2012-08-09 
事件の表示 特願2002-591406「容易にきれいになるコーティング」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月28日国際公開、WO02/94729、平成16年 9月24日国内公表、特表2004-529057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年5月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年5月18日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成20年1月25日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年7月29日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされたが、平成20年11月25日付けで拒絶査定がなされ、それに対し、平成21年3月2日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに平成21年3月19日付けで特許請求の範囲に係る手続補正がなされた後、平成23年7月13日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされたものの、それに対する回答書が指定期間内に提出されなかったものである。

2.平成21年3月19日付けの特許請求の範囲に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月19日付けの特許請求の範囲に係る手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正の目的
平成21年3月19日付けの特許請求の範囲に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成20年7月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載について、(1)請求項1、5の「網状組織形成ゲル」を「金属酸化物網状組織形成ゲル」と補正し、(2)請求項1の「網状組成形成ゲル」を「網状組織形成ゲル」と補正し、(3)請求項1の「全厚に亘って均一に分散されている」を「全体に亘って均一に分散されている」と補正するものである。
そして、上記(1)の補正は、「網状組織形成ゲル」について、「金属酸化物」との特定を付加し減縮をするものであり、上記(2)の補正は、誤記の訂正をするものであり、上記(3)の補正は、分散状態について、厚み方向だけでなく他の方向にも均一であることの特定を付加し減縮をするものとみることができる。
よって、特許請求の範囲についての本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同第3号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。

2-2.独立特許要件
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下に検討する。

(1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、平成21年3月19日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「加水分解による金属酸化物網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物であって、前記疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている混合物を物の表面に塗布することを特徴とする物の処理方法。」

(2)刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用された刊行物である特開平6-56476号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「セラミックスゾルとフッ素化合物との混合物から形成されたセラミックコーティング層がガラス表面に設けられていることを特徴とする撥水性ウィンドウガラス。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(b)「【作用】以下、本発明の構成を詳細に説明する。本発明でセラミックゾルとは、セラミックスが分散媒中に分散されたもので、塗布後加熱することによりセラミックコーティング膜を形成できるものをいい、・・・・。好適な具体例としてジルコニアゾル(本発明ではジルコニア系ゾルを含むものとする)を挙げることができる。・・・・」(段落【0006】)
(c)「本発明でフッ素化合物は分子中にフッ素元素を含有する化合物で、セラミックスコーティング層に含有されたときに高い撥水性を示すものが好ましく、・・・・。さらに、撥水性を長期に亘って持続させる点から、セラミックスゾルと重縮合反応等により化学的に結合するものを用いるのが好ましい。上記有機溶媒分散のジルコニアゾルと用いた場合、エージングによりジルコニアゾルと重縮合反応し、且つ良好な撥水性を示すフッ素化合物としては、・・・・を挙げることができる。」(段落【0007】)
(d)「本発明のコーティング膜を形成するには、セラミックスゾルとフッ素化合物との混合物をガラス表面に塗布した後、加熱すればよい。・・・・」(段落【0008】)
(e)「・・・・なお、セラミックスとフッ素化合物との重縮合反応等を生じさせる場合には、塗布前に必要に応じてエージングするのが好ましい。ジルコニアゾルを用いた場合には加熱処理温度は・・・・。また、ジルコニアルゾルとフッ素化合物との重縮合反応時間を考慮すると、コーティング液調製後、24時間程度エージングするのが好ましい。
このようなゾルゲル法によるセラミックコーティング膜にはフッ素化合物を容易に取り込むことができ、また、セラミックコーティング膜はガラスとの密着性がよく且つ耐摩耗性が高いので、撥水性を長時間に亘って保持することができる。また、この場合、セラミックスとフッ素化合物とが化学的に結合していると、さらに寿命が長くなるという効果を奏する。」(段落【0010】?【0011】)
(f)「【発明の効果】以上・・・・、本発明の撥水性ウィンドウガラスは、フッ素化合物がゾルゲル法により形成されたセラミックコーティング膜により固定されているので、長期に亘って良好な撥水性、撥霜性を示し、また、製造も容易であるという効果を奏する。」(段落【0016】)

(3)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1には、記載(a)に、「セラミックスゾルとフッ素化合物との混合物から形成されたセラミックコーティング層がガラス表面に設けられていることを特徴とする撥水性ウィンドウガラス。」と記載され、また、記載(d)に、「本発明のコーティング膜を形成するには、セラミックスゾルとフッ素化合物との混合物をガラス表面に塗布した後、加熱すればよい。」と記載されている。
上記記載(d)の「コーティング膜」は、上記記載(a)の「セラミックコーティング層」を表していることは明らかであるから、上記記載(a)及び(d)からみて、刊行物1には、「セラミックスゾルとフッ素化合物との混合物から形成されたセラミックコーティング層」を「ガラス表面に設け」て「撥水性ウィンドウガラス」とする際に、「セラミックスゾルとフッ素化合物との混合物をガラス表面に塗布した後、加熱」する「セラミックコーティング層」の形成方法が記載されているといえる。
イ そして、上記「セラミックコーティング層」に関し、記載(e)に、「このようなゾルゲル法によるセラミックコーティング膜」と記載され、また、記載(f)に、「ゾルゲル法により形成されたセラミックコーティング膜」と記載されていることからみて、上記「セラミックコーティング層」は、「ゾルゲル法」により形成されたものといえる。
ウ また、記載(c)によれば、上記「フッ素化合物」として「セラミックスコーティング層に含有されたときに高い撥水性を示す」とともに「セラミックスゾルと重縮合反応等により化学的に結合する」ものが用いられるとみることができる。
エ さらに、記載(b)によれば、上記「セラミックスゾル」として「ジルコニアゾル」が用いられている。このことから、上記「セラミックコーティング層」は、「ジルコニア系」のものといえる。
オ 上記ア?エで検討したところを踏まえ、刊行物1の記載事項を整理すると、刊行物1には、
「ジルコニアゾルとフッ素化合物との混合物からゾルゲル法により形成されたジルコニア系セラミックコーティング層をガラス表面に設けて撥水性ウィンドウガラスとする際に、フッ素化合物として、セラミックスコーティング層に含有されたときに高い撥水性を示すとともにジルコニアゾルと重縮合反応等により化学的に結合するものを用い、ジルコニアゾルとフッ素化合物との混合物をガラス表面に塗布した後、加熱する、セラミックコーティング層の形成方法。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
ここで、本願補正発明1と刊行1発明とを対比する。
ア まず、本願補正発明1では、「混合物」について、「加水分解による金属酸化物網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物であって、前記疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている混合物」と特定されており、このことからみると、該「混合物」とは「疎水性物質」が内部に「全体に亘って均一に分散されている」「ゲル」であり、「ゲル」とは一般に固化したものをいうから(化学大辞典3 縮刷版第36刷,1997年9月20日,共立出版株式会社,405頁,「ゲル」の項参照。)、該「混合物」は固化したものであるように解される。
一方、本願補正発明1では、「混合物を物の表面に塗布する」と特定されていることからみて、該「混合物」は「塗布」することができる状態のものであるとも解され得るが、そうすると、該「混合物」は固化したものという上記解釈と整合しないこととなる。
そこで、本願補正発明1の「ゲル」及び「塗布」について、本願明細書の記載をみてみると、段落【0013】には、「塗布されるゲル溶液」と記載され、段落【0014】には、「本発明に係るゲルと疎水性物質の混合物は公知のコーティング方法によって塗布され、スプレー塗り、浸漬塗りコーティング法が好ましい。コーティングの厚さは、コーティング溶液粘度とコーティングされるものがコーティング溶液から引き出される引き出し速度の制御によって調整することができる。・・・・塗り終わった後、該層を少なくとも1分間・・・・室温で乾燥し、その後、・・・・高温で硬化する。」と記載され、段落【0021】には、「本発明に係るコーティングを1回の浸漬ステップによって塗布した。次に、そのコーティングを5分間室温で乾燥し、250℃で最高30分間焼き、その結果としてシリカゲルが硬化した。」と記載され、段落【0022】には、「ホウ珪酸ガラスのパネルを実施例1の上記SiO_(2)浸漬溶液に室温で浸漬し、20cm/分の速度で該溶液から引き出した。塗布されたコーティングを5分間室温で乾燥し、その後、オーブンで・・・・焼いた。焼いた後、本発明に係るコーティングは約120nmの厚さであった。」と記載されており、これらの記載からみて、本願補正発明1の「混合物」は、「塗布」時には液状のものであり、その後、室温で乾燥し高温で硬化させて「ゲル」にしたものといえる。
すなわち、本願補正発明1の「加水分解による金属酸化物網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物であって、前記疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている混合物」は、「塗布」時には液状のものであり、「塗布」後に硬化させて「ゲル」にしたものと解すべきものである。
イ 上記アで検討したように、本願補正発明1の「混合物」は、「塗布」時には液状のものであるから、刊行1発明において、「ジルコニアゾルとフッ素化合物との混合物をガラス表面に塗布」することは、本願補正発明1において、「混合物を物の表面に塗布」することに相当する。
また、刊行1発明の「ジルコニア」は、ジルコニウムの酸化物に他ならないから、本願補正発明1の「金属酸化物」に相当する。
さらに、刊行1発明の「フッ素化合物」は、「セラミックスコーティング層に含有されたときに高い撥水性を示す」ものであることから、セラミックスコーティング層に含有させていない状態においても「撥水性」を示すものであることは明らかである。そうすると、刊行1発明の「フッ素化合物」は、「疎水性」であるといえるから、本願補正発明1の「疎水性物質」に相当する。
なお、「撥水性」を示すものが「疎水性」であることについては、化学大辞典7(縮刷版第36刷,1997年9月20日,共立出版株式会社,119頁。)に、「撥水性」の項はないものの、「撥水加工」の項に「防水」の項を参照する旨の指示があり、「防水」の項(化学大辞典8 縮刷版第36刷,1997年9月20日,共立出版株式会社,627頁。)に、「種々の物質の表面をパラフィン、プラスチックのような疎水性物質でコーチングしたり、あるいは適当な疎水性物質で加工して物質自身に疎水性を与えたりすること」と記載されていることからも裏付けられている。
ウ ゾルゲル法により形成された金属酸化物(例えば、ジルコニア)の被覆層が、加水分解反応の進行により網状組織を形成した金属酸化物ゲルであることは、技術常識であるから(例えば、特開平3-229876号公報の第2頁右下欄11行?第3頁右下欄3行、特開平3-265582号公報の第2頁左上欄15行?第3頁左上欄4行、特開平5-85860号公報の段落【0016】?【0022】等参照。)、刊行1発明の「ジルコニアゾルとフッ素化合物との混合物からゾルゲル法により形成されたジルコニア系セラミックコーティング層」は、加水分解反応の進行により網状組織を形成したジルコニアゲルとフッ素化合物との混合物であることは明らかである。
つまり、刊行1発明の「ジルコニアゾルとフッ素化合物との混合物からゾルゲル法により形成されたジルコニア系セラミックコーティング層」は、本願補正発明1の「加水分解による金属酸化物網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物であって、前記疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている混合物」と、「加水分解による金属酸化物網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物」である点で共通する。
エ 刊行1発明の「セラミックコーティング層の形成方法」は、「ジルコニア系セラミックコーティング層をガラス表面に設け」るものであることからみて、「ガラス表面」の処理方法であるとみることができる。
よって、刊行1発明の「セラミックコーティング層の形成方法」は、本願補正発明1と同様、「物の処理方法」であるといえる。
オ 上記ア?エで検討したところを踏まえ、本願補正発明1と刊行1発明とを対比すると、両者は、「加水分解による金属酸化物網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物を物の表面に塗布する物の処理方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:疎水性物質の分散状態について、本願補正発明1では、「疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている」と特定されているのに対し、刊行1発明では、かかる事項が特定されていない点。

(5)相違点についての検討
ア 刊行物1には、フッ素化合物(すなわち、疎水性物質)の分散状態を明示する記載はないが、刊行1発明は、「ジルコニア系セラミックコーティング層」を「ゾルゲル法」により形成するにあたり、フッ素化合物として、「ジルコニアゾルと重縮合反応等により化学的に結合するもの」を用いるものである。そして、刊行物1の記載(c)によれば、フッ素化合物は、エージングによりジルコニアゾルと重縮合反応するといえ、記載(e)に、「セラミックスとフッ素化合物との重縮合反応等を生じさせる場合には、塗布前に必要に応じてエージングするのが好ましい。・・・・ジルコニアルゾルとフッ素化合物との重縮合反応時間を考慮すると、コーティング液調製後、24時間程度エージングするのが好ましい。
このようなゾルゲル法によるセラミックコーティング膜にはフッ素化合物を容易に取り込むことができ」と記載されていることからみて、刊行1発明では、フッ素化合物をコーティング液の塗布前から(すなわち、コーティング液をゲルに硬化させる前から)ジルコニアゾルと重縮合反応等により化学的に結合させておき、その上で、フッ素化合物を「ゾルゲル法」により「ゲル」となる「ジルコニア系セラミックコーティング層」に取り込んでいることは明らかであるから、刊行1発明の「フッ素化合物」は「ジルコニア系セラミックコーティング層」内にその全体に亘って均一に分散されているといえる。
よって、上記相違点は実質的なものではない。
イ なお、本願補正発明1の「疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている」との発明特定事項について、本願明細書をみてみると、段落【0009】には、「本発明により使用されるゲルは、ゾル-ゲルプロセスによって作られる特に金属酸化物である。このプロセスでは、コーティングされる物又は製品への塗布時に、ゲルがその場で形成され、その結果として連続均一ゲル網状組織がコーティングされる物の表面に作られる。・・・・ゲルの形成前及び/又は形成時に、本発明に係る疎水性、必要なら嫌油性、物質のゾル混合物への添加の結果、疎水性物質が、形成されるゲル網状組織の全体にわたり均一に分布され、例えばそのシラノール基の重縮合により化学的に結合される。」と記載され、段落【0010】には、「ゾル-ゲルプロセスによるゲル層の一般的な製造はそれ自体公知であり、数多く記載されている。通常このプロセスでは、重合体反応が無機金属塩又は金属アルコキシドなどの金属有機化合物を含む溶液、好ましく水溶液及び/又はアルコール溶液中の加水分解により生じ、それによりコロイド懸濁液、すなわちゾルが製造される。つながったゲル網状組織はさらなる加水分解により、このゾルから形成される。」と記載され、段落【0011】には、「適切な疎水性物質は、一般に生成ゲルに導入可能な全ての疎水性物質である。」と記載されており、これらの記載からみて、本願補正発明1では、ゾルゲルプロセスによるゲルの形成前及び/又は形成時に、生成ゲルに導入可能な疎水性物質をゾルに添加すると、その結果として、発明特定事項の「疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている」状態となるものと解される。
これに対し、刊行1発明においても、「ゾルゲル法」により「ジルコニア系セラミックコーティング層」を形成するにあたり、フッ素化合物として、「ジルコニアゾルと重縮合反応等により化学的に結合するもの」を用い、さらに、上記アで検討したように、フッ素化合物は、コーティング液の塗布前からジルコニアゾルと重縮合反応等により化学的に結合しておく、すなわち、ゲルの形成前に、フッ素化合物をジルコニアゾルに添加してジルコニアゾルと化学的に結合しておくのであるから、刊行1発明においても、本願補正発明1と同様、「疎水性物質が金属酸化物網状組織形成ゲル内にその全体に亘って均一に分散されている」状態になっているとみることが自然である。
よって、上記相違点は実質的なものではないとの上記判断(上記ア)は、このことからみても妥当である。
ウ 仮に上記相違点が実質的なものではないと直ちにいえないとしても、反応を均一に進めることは、一般的な技術課題であるから、上記相違点に係る発明特定事項を導くことは、当業者が容易に想到し得ることである。
エ したがって、本願補正発明1は、刊行物1に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、仮にそうでないとしても、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2-3.補正却下についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成21年3月19日付けの特許請求の範囲に係る手続補正は、上記2.のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年7月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「加水分解による網状組織形成ゲル及び疎水性物質を含有する混合物であって、前記疎水性物質が網状組成形成ゲル内にその全厚に亘って均一に分散されている混合物を物の表面に塗布することを特徴とする物の処理方法。」

4.刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用された刊行物は、刊行物1(特開平6-56476号公報)であり、その記載事項は、上記2-2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明1を本願補正発明1に照らしてみると、本願発明1は、(1)本願補正発明1の「金属酸化物網状組織形成ゲル」が「網状組織形成ゲル」とされ、(2)本願補正発明1の「網状組織形成ゲル」が「網状組成形成ゲル」とされ、(3)本願補正発明1の「全体に亘って均一に分散されている」が「全厚に亘って均一に分散されている」とされたものである。
そして、上記(1)の点については、「金属酸化物」との特定が削除され、「金属酸化物網状組織形成ゲル」を「網状組織形成ゲル」に拡張するものであり、上記(2)の点については、「網状組成形成ゲル」は「網状組織形成ゲル」の誤記であるから、実質的な変更がなされておらず、上記(3)の点については、分散状態が厚み方向以外の他の方向にも均一であることの特定を削除するものとみることができるから、本願補正発明1の当該発明特定事項を拡張するものといえる。よって、本願発明1は、本願補正発明1を拡張し、それを包含するものといえる。
してみれば、本願補正発明1が、上記2-2.で述べたように、特許を受けることができないものである以上、本願補正発明1を包含するものである本願発明1も、本願補正発明1と同様の理由により、特許を受けることができない。すなわち、本願発明1は、刊行物1に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、仮にそうでないとしても、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上検討したところによれば、本願発明1すなわち本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-12 
結審通知日 2012-03-14 
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2002-591406(P2002-591406)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C03B)
P 1 8・ 121- Z (C03B)
P 1 8・ 575- Z (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三崎 仁  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 目代 博茂
小川 慶子
発明の名称 容易にきれいになるコーティング  
代理人 佐藤 嘉明  

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