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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1261193
審判番号 不服2010-27859  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-09 
確定日 2012-08-09 
事件の表示 特願2005-171160「携帯通信端末、記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月21日出願公開、特開2006-345406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年6月10日の出願であって、原審において平成22年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年12月9日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出があったものである。
なお、平成23年12月22日付けの当審よりの審尋に対し、平成24年3月2日に回答があった。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のように補正前の平成22年7月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

(本願発明)
「【請求項1】規制対象でないサービスを示す許可リストと規制対象であるサービスを示す非許可リストとから構成され、自端末の発信動作を規制するための規制ルールを定めた規制テーブルを記憶する記憶手段と、外部から規制レベル情報が報知された場合に、前記記憶手段に記憶された規制テーブルの内容を参照して発信動作を規制する発信規制制御手段とを含むことを特徴とする携帯通信端末。」

(補正後の発明)
「【請求項1】規制対象でないサービスを示す許可リストと規制対象であるサービスを示す非許可リストとから構成され、ネットワークの輻輳有無にかかわらず自端末の発信動作を規制するための規制ルールを定めた規制テーブルを記憶する記憶手段と、外部から規制レベル情報が報知された場合に、前記記憶手段に記憶された規制テーブルの内容を参照して発信動作を規制する発信規制制御手段とを含み、前記発信規制制御手段は、パケット通信を用いて提供されるサービス個々に関連する発信動作を規制することを特徴とする携帯通信端末。」


2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件
上記本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「記憶手段」に「ネットワークの輻輳有無にかかわらず」という構成を追加し、また、「発信規制制御手段」に「前記発信規制制御手段は、パケット通信を用いて提供されるサービス個々に関連する発信動作を規制する」という構成を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
原審の拒絶理由に引用された特開2001-78260号公報(以下、「引用例」という。)には、「移動通信システムにおける輻輳制御方法、移動端末及び基地局」として図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】?【請求項3】(略)
【請求項4】 基地局がカバーする無線ゾーン内に1以上の移動端末が存在し、前記移動端末が前記基地局との間または前記移動端末相互間で通信を行う移動通信システムにおける前記移動端末であって、
前記基地局から前記輻輳情報を受信する受信手段と、
発呼要求する通信サービスの通信サービス種別を入力する入力手段と、
前記輻輳情報および前記通信サービス種別を少なくとも入力条件とし、通信サービスの規制基準に基づいて発信規制するサービス規制判定手段、
を有することを特徴とする移動端末。
【請求項5】、【請求項6】(略)
【請求項7】 発信規制されるサービス種別、およびまたは、発信規制されないサービス種別が格納されるサービス規制項目格納メモリを有し、
前記サービス規制判定手段は、前記入力条件に応じて、前記サービス規制項目格納メモリを読み出すことにより発信規制する、
ことを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の移動端末。
【請求項8】 前記輻輳情報は、複数段階の輻輳レベルを有し、
前記サービス規制判定手段は、前記輻輳レベルが高くなるに応じて、輻輳を起こしやすい通信サービスから発信規制する、
ことを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の移動端末。
【請求項9】、【請求項10】(略)
【請求項11】 前記輻輳情報は、複数段階の輻輳レベルを有し、
前記サービス規制判定手段は、前記輻輳レベルに関わらず、ショートメッセージ通信サービスについては発信規制しない、
ことを特徴とする請求項4ないし10のいずれか1項に記載の移動端末。
【請求項12】 前記輻輳情報は、複数段階の輻輳レベルを有し、
前記サービス規制判定手段は、前記輻輳レベルに応じて、音声通信サービスの発信規制を行う、
ことを特徴とする請求項4ないし11のいずれか1項に記載の移動端末。
【請求項13】 前記輻輳情報は、複数段階の輻輳レベルを有し、
前記サービス規制判定手段は、前記輻輳レベルに応じて、画像通信サービスの発信規制を行う、
ことを特徴とする請求項4ないし12のいずれか1項に記載の移動端末。」(2頁1欄?2欄)

ロ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動通信システムにおける輻輳制御方法、移動端末、および、基地局に関するものである。」(3頁3欄)

ハ.「【0002】
【従来の技術】近年、移動通信に対する需要は急増している。その中で、業務用移動通信システムでは、1つの基地局でカバーする無線ゾーン(基地ゾーン)が比較的広いにもかかわらず、1つの無線ゾーン内の通話チャネル(サービスチャネル)が5,6チャネル程度であって少ない。したがって、ある無線ゾーンにおいて災害等が発生し、多数の呼が生起すると輻輳状態になりやすい。しかし、業務用移動通信は、公共的色彩の強いユーザが使用するため、呼の輻輳時におけるシステムのサービス機能低下を防止するネットワークを構築する必要がある。
【0003】従来、移動通信システムの無線ゾーン内の輻輳時において、緊急呼を優先して呼設定する方式が、例えば、特開平5-75536号公報等で知られている。(以下略)」(3頁3欄)

ニ.「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、輻輳状態であっても通信サービスの種別によっては発呼を可能とする移動通信システムにおける輻輳制御方法、および、移動端末を提供することを目的とするものである。また、輻輳状態であっても優先度の高い呼の通信を確保する移動通信システムにおける輻輳制御方法、および、基地局を提供することを目的とするものである。」(4頁5欄?6欄)

ホ.「【0030】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1の実施の形態を説明するためのブロック構成図である。基地局1と移動端末2との間の接続方式は即時式であり、したがって、発呼時に空きの通話チャネル(サービスチャネル)がある場合に限り、呼設定が可能であり、空きがなければ、待機することなく呼は捨てられる。チャネル割り当てアルゴリズムは、呼に優先度をつけてチャネルを割り当てる方式とする。呼の優先度は、例えば、一般呼,緊急呼といった呼の内容の優先度、および、移動端末の端末クラスの優先度、いずれか一方もしくは両者の組み合わせによって決定される。両者の組み合わせによって決定する場合に、2通りの方法がある。第1の方法は、組み合わせに基づいて優先レベルを設定する方法である。第2の方法は、それぞれに個別に優先レベルを設定し、各優先レベルを組み合わせたものとする方法である。第1の実施の形態においては、後者の方法で呼の優先度を決めている。
【0031】基地局1は、無線ゾーンの輻輳状態を常に監視し、輻輳レベルを算出し、この輻輳レベルを輻輳情報として移動端末2に通知する。一方、移動端末2は、輻輳レベルおよび通信サービスの種別に応じて、さらには、これに呼の優先度を加えて、発信規制(発呼規制)を行う。なお、基地局1では輻輳状態を監視したデータを輻輳情報として移動端末2に送出し、移動端末2でこの監視データから輻輳レベルを算出するようにしてもよい。
【0032】1aは基地局制御部であって、輻輳レベルを算出し、図示しない送信部を経由して移動端末2に輻輳情報を送出する。移動端末2は、メモリ部3、表示部4、送受信部5、比較部6、ユーザI/F(ユーザインターフェース)部7、移動端末制御部8を備える。通話情報(ユーザデータ)を処理するベースバンド部、変復調部、フロントエンド等は、図示および説明を省略する。
【0033】送受信部5は、通話情報(ユーザデータ)の送受信のほか、制御情報の送受信や、輻輳情報の受信等を行う。メモリ部3は、基地局1から送出された輻輳レベルを送受信部5を経由して格納する輻輳情報格納メモリ3a、工場出荷時にこの移動端末2に固定的に割り付けられた一般クラス,優先クラス等の端末クラスを格納した端末クラス格納メモリ3b、ユーザが発呼要求時に、ユーザI/F部7を経由して入力する、緊急呼等の呼種別を格納する呼種別格納メモリ3c、同じくユーザが発呼要求時にユーザI/F部7を経由して入力する、音声通信,ショートメッセージ,画像通信等の通信サービス機能の種別を格納するサービス種別格納メモリ3d、工場出荷時にこの移動端末に予め設定され、図4を参照して後述するサービス規制項目格納メモリ3e等からなる。
【0034】優先クラスとされる移動端末としては、例えば、災害時に優先的に通信を必要とする一部の特別なユーザが使用する移動端末がある。また、緊急呼とみなすダイヤル番号としては、同様な理由で、消防署,警察署等のダイヤル番号がある。サービス種別としては音声通信、ショートメッセージ通信、動画像通信、静止画像通信、ファクシミリ通信、その他のデータ通信がある。以下には、一具体例として、音声、ショートメッセージ、(静止)画像の3種類の通信サービスについて例示する。なお、ショートメッセージ通信とは、定型文,自由文など字数制限のある文字メッセージである。
【0035】上述した各機能ブロックは、ROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムにより動作するCPU(Central Processing Unit)により、RAM(Random Access Memory)を用いて、入力I/F部7、表示部4、送受信部5等の各ハードウエアを制御することにより実行される。上述した輻輳情報格納メモリ3a,呼種別格納メモリ3c,サービス種別格納メモリ3dには、例えばRAMを用いる。上述した端末クラス格納メモリ3b,サービス規制項目格納メモリ3eには、例えば、EEPROM(electrically erasable and programmable read only memory)等のROMを用いて、工場出荷時に格納内容を書き込むが、出荷後に、システム管理者により内容を書き換えるようにしてもよい。
【0036】ユーザI/F部7内の呼種別識別部7aは、プッシュボタンダイヤル等を用いてユーザが入力したダイヤル番号から呼種別を識別し、呼種別を呼種別格納メモリ3cに書き込み、ユーザI/F部7内のサービス種別識別部7bは、サービスモードボタン等を用いてユーザが入力したサービス種別を識別し、これをサービス種別格納メモリ3dに書き込む。
【0037】判定部6は、輻輳情報格納メモリ3a,端末クラス格納メモリ3b,呼種別格納メモリ3cに格納された内容を入力し、サービス規制基準に基づいて、ユーザによって入力されたダイヤル番号の呼種別、および、サービス種別とが、ユーザの移動端末の端末クラスおよび現在の輻輳状態において、通信サービスすべきものであるか否かを判定し、判定結果をサービス規制部8aに出力する。サービス規制部8aは、発信規制をすべきサービスであるときには、発呼要求があっても発信を行わないように発信制御部8bを制御し、規制をしない通信サービスであるときには、発呼要求に応じて入力されたダイヤル番号先との呼設定を発信制御部8bに行わせる。表示部4は、必要に応じて、メモリ3に格納されたサービス種別,輻輳状態,発信規制状態等の表示を行うとともに、規制音を発生させて可聴表示する。
【0038】図2は、本発明の第1の実施の形態の動作を説明するための移動端末の機能ブロック図である。図中、図1、図9と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図3は、本発明の第1の実施の形態の動作を説明するための移動端末側のフローチャートである。図4は、図1,図2に示したサービス規制項目格納メモリ3eの内容の説明図である。
【0039】図3のフローに沿って、他の図を合わせて参照しながら、動作を説明する。まず、オフフック操作等の検出による、ユーザの発呼要求を検出したときに、S11において、呼種別識別部7aから呼種別を、サービス種別識別部7bからサービス種別を、それぞれ、呼種別格納メモリ3c、サービス種別格納メモリ3dに格納する。同時に、例えば、緊急/一般などの呼種別情報を表示器4の呼種別表示部4aに表示し、S12に処理を進める。
【0040】基地局制御部1aより適宜のタイミングで通知された輻輳レベルなどの輻輳情報は、受信部5aで受信しており、輻輳情報格納メモリ3aに格納されている輻輳情報は、逐次、最新のものに更新される。輻輳レベルの算出方法には、種々の方法が考えられるが、ここでは、2つの具体例を説明する。
【0041】第1の方法は、ある時点の無線ゾーン内において、通信中または呼設定処理中の移動端末の総数を監視して、この総数に基づいて作成される。第2の方法は、1または複数個の劣化判定閾値B_(k)をあらかじめ設定しておく。所定計測時間T_(0)内の呼損率が、各劣化判定閾値B_(k)のそれぞれに対して、各劣化判定閾値B_(k)よりも劣化したときに、劣化判定回数を1と計数し、この計数を時間長T_(0)よりも長い所定判定期間T_(1)にわたって行い、そのときの劣化判定回数が、所定の上限値n回以内となるときの、最も小さな劣化判定閾値B_(k)の値に応じて、輻輳レベルを算出する。呼損率としては、例えば、無線ゾーン内の移動端末から基地局に対して発呼がなされたが、通話チャネル(サービスチャネル)が割り当てられず、通信接続されなかった呼の数を、通話チャネルの総数で割った値とする。
【0042】具体的に、説明用の数値を用いて説明すると、T_(0)=10秒,T_(1)=2分,n=5回とする。このとき、B_(1)=30%,B_(2)=40%,B_(3)=50%とする。B_(1)=30%としたときにn=5回以内であれば、輻輳レベルを0とする。さらに、B=40%としたときにはじめてn=5回以内となれば、輻輳レベルを1とする。さらに、B=50%としたときにはじめてn=5回以内になったとき、輻輳レベルを2とする。ここで、B=50%としたときにもn=5回以内にならないときは、輻輳レベルを3とする。ここで、輻輳レベル0は、全く輻輳が起きていない状態を含む最も輻輳の程度が低いレベルであり、輻輳レベル3は最も輻輳した状態を示している。
【0043】S12において、輻輳情報格納メモリ3aに格納されている輻輳レベルを読み出すことにより輻輳状態を分析し、輻輳レベルを判定部6および輻輳レベル表示部4cに出力し、S13に処理を進める。輻輳レベル表示部4cは、例えば、0,1,2,3等の数字で輻輳レベルをユーザに知らせる。S13において、判定部6は、呼種別格納メモリ3c、サービス種別格納メモリ3d、端末クラス格納メモリ3b、輻輳情報格納メモリ3aにそれぞれ格納された、ユーザによって現在発呼を要求している呼の、呼種別,サービス種別,端末クラスと、現在の通信網の輻輳レベルを入力し、サービス規制項目格納メモリ3eに格納されたサービス規制項目テーブルを判定基準として参照して、要求された通信サービスを規制すべきか否かを判定し、S14に処理を進める。
【0044】図4(a)は端末クラスが「優先クラス」であるときの、また、図4(b)は端末クラスが「一般クラス」であるときの、サービスが使用可能か(発信処理)、使用禁止か(発信規制)かを示す説明図である。サービス規制項目格納メモリ3eには、このような判定基準を参照テーブルの形で格納している。例えば、呼種別,端末クラス,輻輳レベルに基づいてアドレスを指定し、そのアドレスに発信規制する1または複数のサービス種別が格納されており、発呼要求しているサービス種別が、このサービス規制項目格納メモリ3eから読み出されたサービス種別に一致するかどうかを判定する。なお、サービス規制項目格納メモリ3eには、逆に、サービス規制しないサービス種別を格納しておいてもよいし、サービス規制するものとしないものとを区別して格納しておいてもよい。
【0045】通信サービス規制の基本的考え方は、輻輳レベルに応じて、サービス種別ごとに発信規制するものであって、輻輳レベルが高くなるにつれて、輻輳を起こしやすい、情報量が多いために長い通信時間(保留時間)を要する通信サービスから発信規制するというものである。
【0046】図4(a)に示した例では、端末クラスが優先クラスで一般呼の場合、音声通信サービスについては、輻輳レベルが最も高いレベル3になってはじめて発信規制を行い、画像通信サービスについては、輻輳レベルが2以上の場合に発信規制を行う。これに対し、伝送量が少ないために通信時間が短いショートメッセージについては発信規制を行わない。一方、端末クラスが優先クラスで緊急呼の場合については、画像通信サービスについてのみ、一般呼と同様に、輻輳レベルが2以上のときに発信規制を行う。
【0047】図4(b)に示した例は、端末クラスが一般で一般呼の場合である。音声通信サービスについては、輻輳レベルが2になってはじめて発信規制を行い、画像通信サービスについては、輻輳レベルが1以上について発信規制を行う。ショートメッセージについては、輻輳レベルに関わらず、発信規制を行わない。一方、端末クラスが一般で緊急呼の場合については、端末クラスが優先で緊急呼の場合と同様とする。
【0048】上述した例では、輻輳レベルが高い場合(例えば、レベル3)の場合に、通信を要求した呼が一般呼であっても、短い通信時間で必要な情報を送ることができるショートメッセージ通信サービスだけは、移動端末2においてユーザの発呼要求が受け付けられ、通信サービスが利用可能になっている。したがって、ユーザは、最低限の通信サービスだけは確保することができる。
【0049】また、輻輳レベルが高い(例えば、レベル3)場合に、一般呼については、音声通信サービス、画像通信サービスを発信規制し、緊急呼についても、画像通信サービスだけは発信規制している。発信規制されないショートメッセージ通信サービスは通信時間が短い。したがって、輻輳レベルが高いときに、呼量が現在以上に大幅増加するおそれがないため、呼損率が改善されて輻輳状態を回避することができるとともに、新たに発呼する移動端末は、ショートメッセージ通信サービスで発呼を行うため、通信を行う移動端末数を増加させることができる。
【0050】情報量が大きく、長い通信時間の必要な画像通信については、音声通信サービスよりも輻輳を起こしやすいため、発信規制する輻輳レベルを下げているため、通信網の輻輳状態の悪化を事前に回避することができる。また、上述した例では、端末クラスの優先度に応じた通信サービスを提供しており、端末クラスが優先の場合、一般の場合に比べて、音声通信サービス,画像通信サービスについて発信規制する輻輳レベルを1段階上げている。緊急呼については、一般呼に比べて、発信規制を緩和し、画像通信サービスについてだけ輻輳レベルが2以上のときに発信規制を行っている。
【0051】S14においては、判定結果に応じて、サービス規制部8aにサービス規制を行うか否かを指示しS15に処理を進める。S15において、サービス規制部8aは、サービス規制を行わないときにはS16に処理を進め、サービス規制をするときにはS17に処理を進める。S16において、発信制御部8bは、送信部5bに、基地局に対する呼設定のための送信を行わせる。一方、S17において、発信制御部8bは、通信拒否処理を行うとともに、発信不可の理由を発信不可理由表示部4bに表示させ、S18に処理を進める。たとえば、呼種別または端末クラスの優先度が低いために優先度が低い呼で発呼要求したときは、「全通信チャネル使用中」などの表示をする。S18においては、発呼要求を拒否することを示す規制音を移動端末2の受話器等から放音する。」(6頁9欄?8頁14欄)

ヘ.「【0072】
【発明の効果】本発明によれば、上述した説明から明らかなように、輻輳状態であっても通信サービスの種別によっては発呼が可能であるという効果がある。その結果、例えば、通信網が輻輳状態であって、このとき、呼の優先度が低くても、輻輳を起こしにくい通信サービスを確保することによって、システムのサービス機能低下を防止することができる。また、輻輳レベルに応じて、輻輳を起こしやすい通信サービスから発信規制を行うことにより、通信網の輻輳状態の悪化を回避することができる。輻輳レベル、呼種別,端末クラス等に基づく呼の優先度に応じて、通信サービスの発信規制を行う場合には、きめ細かな発信規制を行うことができる結果、輻輳状態における移動通信システムのサービス機能低下を最小限に抑えることができるという効果がある。また、本発明によれば、輻輳状態であっても優先度の高い呼の通信を確保することができるという効果がある。」(10頁18欄)


上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、引用例記載の「移動端末2」は、上記イ.【請求項4】、ホ.【0031】、図1にあるように、『基地局1がカバーする無線ゾーン内に1以上の移動端末2が存在し、前記移動端末2が前記基地局1との間または前記移動端末2相互間で通信を行う移動通信システムにおける前記移動端末2』である。

また、引用例記載の「移動端末2」は、上記イ.【請求項4】、【請求項8】、ホ.【0033】及び図1にあるように『基地局1から通知される複数段階の輻輳レベルを有する輻輳情報を受信する送受信部5』を有するものである。

また、引用例記載の「移動端末2」は、上記イ.【請求項4】、ホ.【0033】、【0036】及び図1にあるように『音声通信、ショートメッセージ、画像通信等の通信サービス種別を入力する入力手段』を有するものである。

また、引用例記載の「移動端末2」は、上記イ.【請求項7】、【請求項11】?【請求項13】、ホ.【0044】及び図1、図4にあるように『通信サービス種別毎の規制基準を参照テーブルの形で格納したサービス規制項目格納メモリ3e』を含み、引用例図4からも明らかなように、この「サービス規制項目格納メモリ3e」には、『音声通信、画像通信等の発信規制されるサービス種別と、ショートメッセージ等の発信規制されないサービス種別とが区別して格納される』ものである。

また、引用例記載の「移動端末2」は、上記イ.【請求項4】、ホ.【0043】及び図1にあるように『前記輻輳情報および前記通信サービス種別を少なくとも入力条件とし、前記サービス規制項目格納メモリ3eに格納された通信サービス種別毎の規制基準に基づいて発信規制するか否かを判定する判定部6』を有するものである。

そして、引用例記載の「移動端末2」は、上記イ.、ホ.【0051】及び図1にあるように『前記判定部6の判定結果に応じて発信規制すべきサービスであるときには、発呼要求があっても発信を行わないように制御し、発信規制しない通信サービスであるときには、発信を行わせるサービス規制部8a、及び発信制御部8b』を有するものである。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「基地局1がカバーする無線ゾーン内に1以上の移動端末2が存在し、前記移動端末2が前記基地局1との間または前記移動端末2相互間で通信を行う移動通信システムにおける前記移動端末2であって、
基地局1から通知される複数段階の輻輳レベルを有する輻輳情報を受信する送受信部5と、
音声通信、ショートメッセージ、画像通信等の通信サービス種別を入力する入力手段と、
前記通信サービス種別毎の規制基準を参照テーブルの形で格納したサービス規制項目格納メモリ3eと、
前記輻輳情報および前記通信サービス種別を少なくとも入力条件とし、前記サービス規制項目格納メモリ3eに格納された通信サービス種別毎の規制基準に基づいて発信規制するか否かを判定する判定部6と、
前記判定部6の判定結果に応じて発信規制すべきサービスであるときには、発呼要求があっても発信を行わないように制御し、発信規制しない通信サービスであるときには、発信を行わせるサービス規制部8a、及び発信制御部8bと、
を有し、
前記サービス規制項目格納メモリ3eには、音声通信、画像通信等の発信規制されるサービス種別と、ショートメッセージ等の発信規制されないサービス種別とが区別して格納される移動端末2。」


[対比・判断]
補正後の発明と引用発明を対比する。

まず、引用発明中段の「前記通信サービス種別毎の規制基準を参照テーブルの形で格納したサービス規制項目格納メモリ3e」において、
「サービス規制項目格納メモリ3e」は、「メモリ」であるから、「記憶手段」であり、
その記憶(格納)内容である「規制基準」は「規制ルール」ということができ、引用発明後段の記載も参照すれば「移動端末」の「発信規制」に係る「規制基準」であるから、補正後の発明の「自端末の発信動作を規制するための規制ルール」に相当し、
その記憶(格納)形式は「参照テーブル」の形であるから「テーブル」であり、「規制基準」(規制ルール)のテーブルであるから「規制テーブル」ということができ、
小括すると、引用発明の「前記通信サービス種別毎の規制基準を参照テーブルの形で格納したサービス規制項目格納メモリ3e」は、補正後の発明の「自端末の発信動作を規制するための規制ルールを定めた規制テーブルを記憶する記憶手段」にあたる。

また、引用発明後段の「前記サービス規制項目格納メモリ3eには、音声通信、画像通信等の発信規制されるサービス種別と、ショートメッセージ等の発信規制されないサービス種別とが区別して格納される」において、
「音声通信、画像通信等の発信規制されるサービス種別」、「ショートメッセージ等の発信規制されないサービス種別」は、前記「規制テーブル」の認定を踏まえれば、それぞれ「テーブル」(表)に区別して格納される構成部分であるから「リスト」ということができ、
「発信規制されるサービス」は「規制対象であるサービス」として「非許可」いうことができ、
「発信規制されないサービス」は「規制対象でないサービス」として「許可」いうことができるから、
結局、引用発明の「参照テーブル」(規制テーブル)は、「規制対象であるサービスを示す非許可リスト」と「規制対象でないサービスを示す許可リスト」から構成される点で補正後の発明と一致するものである。

また、引用発明の「基地局1から通知される複数段階の輻輳レベルを有する輻輳情報を受信する送受信部5」において、「基地局1から通知される複数段階の輻輳レベルを有する輻輳情報」は、「基地局1」すなわち(移動端末2の)「外部」から「通知」(報知)される「情報」であって、「複数段階の輻輳レベル」に応じて規制のレベルが定まるから「規制レベル情報」といえ、
同様に、引用発明の「音声通信、ショートメッセージ、画像通信等の通信サービス種別を入力する入力手段」において、「通信サービス種別」は(移動端末2の)「外部」から「入力」(報知)される規制レベルに関連する「情報」であるから、
結局、引用発明は、「外部から規制レベル情報が報知され」る点で補正後の発明と一致する。

また、引用発明の「判定部6」は、「前記輻輳情報および前記通信サービス種別を少なくとも入力条件とし、前記サービス規制項目格納メモリ3eに格納された通信サービス種別毎の規制基準に基づいて発信規制するか否かを判定」するものであり、
引用発明の「サービス規制部8a、及び発信制御部8b」は、「前記判定部6の判定結果に応じて発信規制すべきサービスであるときには、発呼要求があっても発信を行わないように制御し、発信規制しない通信サービスであるときには、発信を行わせる」ものであるが、
引用発明の「前記輻輳情報および前記通信サービス種別を少なくとも入力条件とし、」とは、前記「規制レベル情報」(輻輳情報、通信サービス種別)の認定を踏まえれば、「外部から規制レベル情報が報知された場合に、」ということであり、
引用発明の「前記サービス規制項目格納メモリ3eに格納された通信サービス種別毎の規制基準に基づいて」とは、「前記記憶手段に記憶された規制テーブルの内容を参照して」ということであり、
引用発明の「発信規制するか否かを判定」して、「前記判定部6の判定結果に応じて発信規制すべきサービスであるときには、発呼要求があっても発信を行わないように制御し、発信規制しない通信サービスであるときには、発信を行わせる」とは、要すれば「発信動作を規制する発信規制制御」ということができるから、
結局、引用発明の「判定部6」と「サービス規制部8a、及び発信制御部8b」は、これらをまとめて補正後の発明の「外部から規制レベル情報が報知された場合に、前記記憶手段に記憶された規制テーブルの内容を参照して発信動作を規制する発信規制制御手段」に相当する。

また、この「発信規制制御手段」は、「通信サービス種別毎の規制基準」に基づいて発信規制制御を行うものであるから、「提供されるサービス個々に関連する発信動作を規制する」ものといえる。

そして、引用発明の「移動端末2」と補正後の発明の「携帯通信端末」と対比すると、両者は「端末」の点で一致する。

したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「規制対象でないサービスを示す許可リストと規制対象であるサービスを示す非許可リストとから構成され、
自端末の発信動作を規制するための規制ルールを定めた規制テーブルを記憶する記憶手段と、
外部から規制レベル情報が報知された場合に、前記記憶手段に記憶された規制テーブルの内容を参照して発信動作を規制する発信規制制御手段とを含み、
前記発信規制制御手段は、提供されるサービス個々に関連する発信動作を規制する端末。」

(相違点1)
「規制ルール」が、補正後の発明では「ネットワークの輻輳有無にかかわらず」規制するためのものであるのに対して、引用発明では、この点が不明である点。

(相違点2)
「提供されるサービス」が、補正後の発明では「パケット通信を用いて提供される」のに対し、引用発明では、この点が不明である点。

(相違点3)
「端末」が、補正後の発明では「携帯通信端末」であるのに対して、引用発明では「移動端末2」である点。


そこで、まず、上記相違点1の、「ネットワークの輻輳有無にかかわらず」規制する点について検討する。
まず、審判請求時になされたこの補正の意味内容を検討するに、審判請求書には、この補正の根拠として「記憶手段に記憶されている規制テーブルが、ネットワークの輻輳有無にかかわらず自端末の発信動作を規制するための規制ルールを定めている点を明記しました。規制テーブルは、事前に構築しておくことが本願明細書段落[0013]末文に明記されており、ネットワークの輻輳有無と関係が無いことは明らかです。」との記載があり、「ネットワークの輻輳有無にかかわらず」とは、実質的には「規制テーブル」を「事前に構築しておく」ことであると審判請求人は主張している。
この点について引用例を検討すると、引用例の上記ホ.【0035】後段には、引用発明の「参照テーブル」(規制テーブル)を格納する「サービス規制項目格納メモリ3e」には、「例えば、EEPROM(electrically erasable and programmable read only memory)等のROMを用いて、工場出荷時に格納内容を書き込むが、出荷後に、システム管理者により内容を書き換えるようにしてもよい。」との記載があり、実質的には引用発明の「参照テーブル」(規制テーブル)も「事前に構築しておく」ことが示唆されており、審判請求人の上記主張に立てば、本相違点1は格別のことではない。
また、仮に「ネットワークの輻輳有無にかかわらず」との要件を字義通りに「(現実の)ネットワークの輻輳(の発生の)有無にかかわらず」という意味に解したとしても、
例えば、特開2002-218535号公報(【0003】?【0008】、【0044】等参照)、特開2004-193867号公報(【0001】?【0005】等参照)、特開平11-331948号公報(【0002】?【0007】等参照)、特開2002-209243号公報(【0002】、【0018】?【0020】等参照)に記載されているように、病院、映画館等、公共の場所での発信禁止等、(現実の)ネットワークの輻輳(の発生の)有無にかかわらず(予備的、予防的に)発信規制する携帯通信端末は周知である。
引用発明も、発信規制する通信端末という点で技術分野、及び機能を共通にするものであるから、引用発明に上記周知技術を適用して、「規制ルール」を「ネットワークの輻輳有無にかかわらず」規制するためのものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、この観点からも相違点1は格別のことではない。

ついで、上記相違点2の「提供されるサービス」が、「パケット通信を用いて提供される」点について検討するに、
情報を小分けしたデータの固まりである「パケット」を単位として通信を行う「パケット通信」は、インターネット等のデジタル通信方式において従来より広く用いられているものであるが、移動体通信においても、例えば電子メールやインターネットアクセスなどのパケット通信を用いて提供される各種サービスを受けるようにした通信端末は、特に例示するまでもなく本願出願前に既に周知のものであり、これを引用発明に適用することは当業者であれば適宜なし得ることに過ぎない。
したがって、相違点2も格別のことではない。

最後に、相違点3の「携帯通信端末」の点について検討するに、
例えば携帯電話機のような「携帯通信端末」は、「移動端末」の一形態であって、これも特に例示するまでもなく本願出願前に既に周知のものであるから、引用発明の「移動端末2」を「携帯通信端末」とすることは、当業者であれば適宜なし得ることに過ぎない。
したがって、相違点3も格別のことではない。

また、補正後の発明が奏する効果も前記引用発明及び周知技術から容易に予測出来る範囲内のものである。
そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。

よって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年12月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の[引用発明]で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-06 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-26 
出願番号 特願2005-171160(P2005-171160)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 伊佐雄  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 遠山 敬彦
新川 圭二
発明の名称 携帯通信端末、記憶媒体  
代理人 小西 恵  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 阪間 和之  
代理人 森 哲也  

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