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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1261215
審判番号 不服2011-14477  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-05 
確定日 2012-08-09 
事件の表示 特願2008-184874「エレベーターのドア装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月 4日出願公開、特開2010- 23951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成20年7月16日の出願であって、平成22年10月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年12月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年4月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年7月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年3月5日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年5月2日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年7月5日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年7月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成23年7月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年12月1日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1及び2を下記の(b)に示す請求項1及び2と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
ドア開閉機構によりエレベーターの出入口を開閉する片引戸形式のかごドアと、このかごドアの開閉を案内する溝を備えた敷居と、かご戸当り柱に設けられ、このかご戸当たり柱と前記かごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する感圧センサとを有し、少なくとも床面の高さ位置から前記かごドアの下端面の高さ位置に至るかごドア下部隙間を塞ぎ部材により塞ぐとともに、前記感圧センサが、前記床面の高さ位置、もしくは前記溝内の所定の高さ位置から上方に向かって所定の高さ位置まで延設され、前記かごドアは、全閉すると感圧センサと密着し、異物が前記かごドアと前記かご戸当り柱に挟まると前記感圧センサで局部的な圧力増加を検出することを特徴とするエレベーターのドア装置。
【請求項2】
前記塞ぎ部材が、前記かごドア、もしくは前記かごドアを前記溝に沿って開閉を案内する案内部材に備えられるとともに、前記かごドア下端面から前記溝内に入り込むように配設されることを特徴とする請求項1記載のエレベーターのドア装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
ドア開閉機構によりエレベーターの出入口を開閉する片引戸形式のかごドアと、このかごドアの開閉を案内する溝を備えた敷居と、かご戸当り柱に設けられ、このかご戸当たり柱と前記かごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する感圧センサとを有し、少なくとも床面の高さ位置から前記かごドアの下端面の高さ位置に至るかごドア下部隙間を塞ぎ部材により塞ぐとともに、前記感圧センサが、前記床面の高さ位置、もしくは前記溝内の所定の高さ位置から上方に向かって所定の高さ位置まで延設され、前記かごドアは、全閉すると感圧センサと密着し、何も異物を挟まない時は検出信号を出さず、異物が前記かごドアと前記かご戸当り柱に挟まると前記感圧センサで局部的な圧力増加を検出することを特徴とするエレベーターのドア装置。
【請求項2】
前記塞ぎ部材が、前記かごドア、もしくは前記かごドアを前記溝に沿って開閉を案内する案内部材に備えられるとともに、前記かごドア下端面から前記溝内に入り込むように配設されることを特徴とする請求項1記載のエレベーターのドア装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「・・・・・異物が前記かごドアと前記かご戸当り柱に挟まると前記感圧センサで局部的な圧力増加を検出する・・・・・」の記載を、「・・・・・何も異物を挟まない時は検出信号を出さず、異物が前記かごドアと前記かご戸当り柱に挟まると前記感圧センサで局部的な圧力増加を検出する・・・・・」とするものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「感圧センサ」の動作ないし機能について、「何も異物を挟まない時は検出信号を出さ」ないものであることを限定するものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項に限定を付加したものといえるので、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平9-12254号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0018】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このように構成されたエレベータのドアにおいては、乗場やかご室の利用者の所持した細い金属棒や紐などがすきまC,D,Eなどに入るおそれがある。
【0019】すると、かごや乗場には、これらの金属棒や紐を検出してエレベータの駆動回路の駆動条件とする検出器などは設けられていないので、かごが運転されるおそれがある。
【0020】もし、このような状態でかごが起動されると、昇降するかごによって金属棒が折損するだけでなく、その反力でドアパネル1A,1Bが損傷したり、乗客が怪我をするおそれもある。
【0021】乗客の誰かが気付いて、かご側のドアが閉じる前に開ボタンを押せばよいが、もし、気付かなかった場合には、問題となるおそれがある。そこで、本発明の目的は、ドアパネルと敷居との間のすきまに起因する事故の発生のおそれを解消することのできるエレベータのドアを得ることである。」(段落【0018】ないし【0021】)

b)「【0029】
【実施例】以下、本発明のエレベータのドアの一実施例を図面を参照して説明する。図1は、本発明のエレベータのドアの第1の実施例を示す部分背面図で、従来の技術で示した図4(a)に対応し、この図4(a)で示した右側のドアパネル1Bが僅かに開動作した状態と、このドアパネル1Bの上下の部分を示す。
【0030】また、図2(a)は、本発明のエレベータのドアの第1の実施例を示す図1と異る部分背面図で、図4で示した左右のドアパネル1A,1Bの戸当り部の下部周辺を示す。さらに、図2(b)は、図2(a)の右側面図で、図4(b)の下部に対応する図である。
【0031】図1及び図2(a),(b)において、従来の技術で示した図4及び図5と異るところは、図4及び図5で示した左右のドアパネル1A,1Bと敷居5との間に形成されたすきまC,D,Eを塞ぐための遮蔽板17A,17B及び遮蔽板17Cを取り付けたことで、他は、従来の技術で示した図4及び図5と同一である。したがって、これらの図4及び図5と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0032】すなわち、図1及び図2(a),(b)において、一対の溶接ナット14とボルト16を介してドアパネル1A,1Bの下端に垂設されたガイドシュー8C,8Dの上端のかご側には、以下説明するアルミ合金板製の遮蔽板17A,17B,17Cが添設され、一対のボルト16でガイドシュー8C,8Dとともに溶接ナット14に固定されている。
【0033】このうち、ドアパネル1A,1Bの戸当り側の下端に取り付けられた遮蔽板17Aは、図2(b)の部分詳細図を示す図2(c)とこの図2(c)の左側面図となる図2(d)に示すように、略L字形に形成されている。
【0034】この遮蔽板17Aの図1及び図2(d)の左端には、部分平面図を示す図2(e)に示すように、かご側に直角に曲った折り曲げ部17aが形成され、遮蔽板17Aは、折り曲げ部17aの戸当り側の端面がドアパネル1A,1Bの戸当り側の端面と一致するように組み込まれている。」(段落【0029】ないし【0034】)

c)「【0045】さらに、遮蔽板17Aの折り曲げ部17aの先端面に対して、圧力検出器を取り付け、この圧力検出器の信号線をドア駆動回路の鎖錠条件の一つとして、ドアセフティの機能を持たせてもよい。この圧力検出器は、戸当りゴム20と折り曲げ部17aの間に設けてもよい。
【0046】また、上記実施例では、乗場戸と敷居との間のすきまを塞ぐ例で説明したが、かご戸の場合でも同様に適用することができる。さらに、上記実施例では、両開き戸の場合で説明したが、片開き戸の場合でも同様に適用することができる。」(段落【0045】及び【0046】)

d)「【0047】
【発明の効果】以上、請求項1に記載の発明のエレベータのドアによれば、下部に垂設された複数のガイドシューが敷居の溝に遊嵌するドアパネルが開閉自在に懸架されたエレベータのドアにおいて、ドアパネルの下端と敷居との間に形成された間隙を遮蔽する遮蔽板をドアパネルに垂設することで、ドアパネルと敷居との間に形成されたすきまへの乗場側やかご内部からの異物の侵入を阻止したので、ドアパネルと敷居との間のすきまに起因する事故の発生のおそれを解消することのできるエレベータのドアを得ることができる。
【0048】また、請求項2に記載のエレベータのドアによれば、遮蔽板をガイドシューのドアパネルの固定部に固定することで、遮蔽板は、既設のエレベータのドアに対しても取付が容易となるので、ドアパネルと敷居との間のすきまに起因する事故の発生のおそれを解消することのできるエレベータのドアを得ることができる。
【0049】また、請求項3に記載の発明のエレベータのドアによれば、遮蔽板の戸当り側の端部に緩衝材を備えることで、戸当り側に薄い異物が挟まれた場合にも、かごの運転を阻止したので、ドアパネルの下端の戸当り面のすきまに起因する事故の発生のおそれを解消することのできるエレベータのドアを得ることができる。
【0050】さらに、請求項4に記載のエレベータのドアによれば、遮蔽板の戸当り側の端面に圧力検出器を介在させることで、戸当り側に薄い異物が挟まれた場合にも、かごの運転を阻止したので、ドアパネルの下端の戸当り面のすきまに起因する事故の発生のおそれを解消することのできるエレベータのドアを得ることができる。」(段落【0047】ないし【0050】)

(2)上記(1)a)ないしd)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)d)の記載によれば、ドアパネルが開閉自在に懸架されており、上記(1)c)の記載によれば、ドア駆動回路が備えられていることから、技術常識に照らせば、ドアパネルの開閉機構が備えられていることが明らかである。

ロ)上記(1)b)及びc)の記載によれば、「実施例では、乗場戸のドアパネルの例で、両開き戸の場合で説明したが、かご戸の場合でも、片開き戸の場合でも同様に適用することができる」旨の説明がなされているのであるから、この説明にしたがって、実施例のエレベータのドアについて、乗場戸をかご戸と、両開き戸を片開き戸と、それぞれ置き換えると、当然にかご戸が当接するかご戸当たり柱を備えるものとなることが明らかであるから、上記(1)b)ないしd)及び図1ないし3の記載並びに上記イ)とあわせてみると、エレベータのドアは、ドア開閉機構によりエレベータの出入口を開閉する片開き戸形式のかご戸と、このかご戸の開閉を案内する溝を備えた敷居と、かご戸当たり柱とかご戸との間おける異物の挟み込みを検出する圧力検出器とを有することが分かる。

ハ)上記(1)b及びd)の記載によれば、エレベータのドアは、「ドアパネルの下端と敷居との間に形成された間隙を遮蔽する遮蔽板」を備えているのであるから、図1ないし3の記載及び上記ロ)とあわせてみると、遮蔽板17Aは、少なくとも床面の高さ位置からかご戸の下端面の高さ位置に至るかご戸下部隙間を遮蔽するものであることが分かる。

ニ)圧力検出器は、圧力を検出するものであることが明らかであるから、上記(1)c)及びd)の記載を上記ロ)とあわせてみると、異物がかご戸とかご戸当たり柱に挟まると圧力検出器で圧力を検出することが分かる。

ホ)上記(1)a)、c)及びd)の記載によれば、エレベータのドアは、敷居とかご戸とのすきまへの異物の挟み込みを検出するという目的を備えていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「ドア開閉機構によりエレベータの出入口を開閉する片開き戸形式のかご戸と、このかご戸の開閉を案内する溝を備えた敷居と、遮蔽板17Aの折り曲げ部17aの先端面に設けられ、かご戸当たり柱とかご戸との間おける異物の挟み込みを検出する圧力検出器とを有し、少なくとも床面の高さ位置からかご戸の下端面の高さ位置に至るかご戸下部隙間を遮蔽板17Aにより遮蔽するとともに、異物がかご戸とかご戸当たり柱に挟まると圧力検出器で圧力を検出するエレベータのドア。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2006-89251号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【請求項2】
かご、
上記かごと乗場との間の出入口を開閉するドア本体、
上記出入口に設けられ、戸閉状態のときに上記ドア本体の戸閉側端部に当たる戸当たり部、
戸閉状態のときに上記戸閉側端部と上記戸当たり部との間に挟まれるように、上記戸閉側端部及び上記戸当たり部の少なくともいずれか一方に上記戸閉側端部の長手方向に沿って連続して設けられている複数の圧力センサ、及び
上記圧力センサからの信号に応じて上記ドア本体の開閉を制御する開閉制御部
を備えていることを特徴とするエレベータ装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)

b)「【0005】
上記のような従来のエレベータ装置では、例えば張力が働いていない紐や鎖等の異物がドア間に挟まった場合には、可動体及び停止反転装置が押圧されず、ドア間に異物が挟み込まれたまま、かごが昇降される可能性があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、戸閉時の異物検出能力を向上させることができるエレベータ装置を提供することである。」(段落【0005】及び【0006】)

c)「【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるエレベータ装置の乗場を示す正面図である。図において、乗場出入口1の両側部及び上部には、三方枠2が固定されている。三方枠2は、垂直に伸びる一対の縦枠3と、縦枠3の上端部間に水平に設けられた上枠4と有している。乗場出入口1の床部には、乗場敷居(図示せず)が固定されている。乗場敷居には乗場出入口1の間口方向に平行に伸びる敷居溝(図示せず)が設けられている。
【0010】
乗場出入口1は、乗場ドア5によって開閉される。実施の形態1の乗場ドア5は、水平両開き式(中央開き式)である。乗場ドア5は、第1のドア本体である第1の乗場ドア本体6と第2のドア本体である第2の乗場ドア本体7とを有している。第1の乗場ドア本体6及び第2の乗場ドア本体7の上端部には、上枠4に固定されたハンガーレール(図示せず)から第1の乗場ドア本体6及び第2の乗場ドア本体7を吊り下げるためのドアハンガ(図示せず)が固定されている。第1の乗場ドア本体6及び第2の乗場ドア本体7は、ハンガーレール及び敷居溝に沿って水平に開閉される。」(段落【0009】及び【0010】)

d)「【0014】
かご出入口18は、かごドア20によって開閉される。かごドア20は、第1のかごドア本体19と第2のかごドア本体24とを有している。第1のかごドア本体19及び第2のかごドア本体24の上端部にはかご側全閉認識用スイッチ21が設けられている。かご側全閉認識用スイッチ21は、かごドア20が閉じられたときにON状態になる機械式のスイッチである。
【0015】
かご15には、ドアモータ22が搭載されている。ドアモータ22は、かごドア20を駆動し、かごドア20を開閉させるものである。ドアモータ22の駆動、即ちかごドア20の開閉動作は、エレベータ制御装置16内の開閉制御部23によって制御される。
【0016】
かご15が乗場階に着床すると、かごドア20は乗場ドア5と係合される。これによって、乗場ドア5は、かごドア20の開閉に連動して開閉される。従って、かご15と乗場との間の出入口、即ちかご出入口18及び乗場出入口1の開閉は、開閉制御部23によって制御される。」(段落【0014】ないし【0016】)

e)「【0018】
図3は、図1の第1の乗場ドア本体6を示す斜視図である。図において、第1の戸閉側端部6aの第2の戸閉側端部7aと当たる位置には、第1の戸閉側端部6aの高さ方向(長手方向)に沿って実質的に連続するように複数の圧力センサ25が配置されている。即ち、第1の戸閉側端部6aは、高さ方向に沿って連続して並んだ複数のブロックに区分されており、圧力センサ25は、すべてのブロックに配置されている。圧力センサ25は、戸閉状態のときに第1及び第2の戸閉側端部6a,7a間に挟まれる。また、圧力センサ25は、第1の戸閉側端部6aに対して実質的に移動しないように固定されている。さらに、圧力センサ25は、圧力を検出しているかどうかの信号を開閉制御部23に対して発する。
【0019】
図4は、図3の圧力センサ25の異物の検出方法を説明するための説明図である。図4の(a)は、第1の戸閉側端部6aと第2の戸閉側端部7aとが異物を挟むことなく当たったときの圧力センサ25の状態を示している。図において、第1の乗場ドア本体6と第2の乗場ドア本体7との間に異物がなく、第1の戸閉側端部6aと第2の戸閉側端部7aとが互いの高さ方向の全面に渡って当たったときには、設けられているすべての圧力センサ25が均等に圧力を検出する(正常戸閉状態)。
【0020】
図4の(b)は、第1の戸閉側端部6aに異物が当たったときの圧力センサ25の状態を示している。図において、第1の戸閉側端部6aに異物(この図では、張力がかっている紐)が当たったときには、異物の大きさと異物の当たった位置とに応じて、圧力センサ25が圧力を検出する。即ち、圧力センサ25から開閉制御部23に対する信号には、圧力検出状態を示す信号と圧力未検出状態を示す信号とが混在している(異物検出状態)。
【0021】
図4の(c)は、第1の戸閉側端部6aと第2の戸閉側端部7aとが異物を挟んで当たったときの圧力センサ25の状態を示している。第1の戸閉側端部6aと第2の戸閉側端部7aとが異物を挟んで当たったときには、異物を挟み込んでいる位置及び第2の戸閉側端部7aと当接している位置の圧力センサ25は圧力を検出する。また、異物の大きさに応じて、第1の戸閉側端部6a及び第2の戸閉側端部7a間に隙間ができ、異物近傍の圧力センサ25は圧力を検出しない。従って、圧力センサ25から開閉制御部23に対する信号には、圧力検出状態を示す信号と圧力未検出状態を示す信号とが混在している(異物挟み込み状態)。
【0022】
開閉制御部23は、圧力センサ25からの信号に基づいて、乗場ドア5及びかごドア20の開閉を制御する。圧力センサ25からの信号が、乗場ドア5及びかごドア20の戸閉動作中に、異物検出状態又は異物挟み込み状態を示すときには、開閉制御部23は、戸反転指示を発して第1の乗場ドア本体6及び第2の乗場ドア本体7に戸開動作を行わせる。その後、第1の乗場ドア本体6及び第2の乗場ドア本体7を再び戸閉させる。
【0023】
また、開閉制御部23は、圧力センサ25からの信号によって検出位置及び検出範囲を判定することができる。開閉制御部23には、それら検出位置及び検出範囲に応じた検出反応動作が予め登録されている。
【0024】
開閉制御部23が行う検出反応動作としては、例えば、異物検出位置が床部から0.2?0.6mであれば、圧力センサ25によって車椅子のエレベータ利用者が検出されたと判断し、再戸閉時の戸閉速度を遅くする動作がある。また、開閉制御部23は、検出反応動作として、異物検出位置が床部から1mで、検出範囲が複数の圧力センサ25に渡るものであれば、圧力センサ25によって子供が検出されたと判断し、子供用の注意を促すアナウンスを放送させ、戸閉速度を遅くする動作、又は上述の高さに比べ高い位置で異物が検出されれば、大人の利用者が検出されたと判断し、大人用の注意を促すアナウンスを放送させ、通常の戸閉速度で戸閉する動作等も行う。即ち、開閉制御部23は、異物が検出された高さに応じて、戸閉速度を選択的に制御し、またアナウンスを行うための信号を選択的に発する。」(段落【0018】ないし【0024】)

f)「【0039】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2によるエレベータ装置の乗場を示す正面図である。図において、乗場出入口30は、ドア本体31を有する乗場ドア32によって開閉される。実施の形態2の乗場ドア32は、水平片開き式である。ドア本体31は、戸閉側端部31aを有している。戸閉側端部31aは、戸閉状態のときに戸当たり部35に当たる。戸当たり部35は、乗場出入口30側部に設けられている。戸閉側端部31aには、実施の形態1の第1の戸閉側端部6aと同様に、戸閉側端部31aに戸閉側端部31aの高さ方向に沿って連続して複数の圧力センサ25が設けられている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0040】
このように、片開き式のドア装置を有するエレベータ装置にもこの発明は適用でき、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、実施の形態2において、圧力センサ25は、戸閉側端部31aに設けられているように説明したが、圧力センサは、戸当たり部に設けてもよく、又は戸閉側端部と戸当たり部との両方に設けてもよい。」(段落【0039】ないし【0041】)

g)「【0044】
さらにまた、圧力センサは、必ずしも戸閉側端部全面に設けなくてもよく、部分的、例えば出入口部分のみに設けてもよい。即ち、出入口以外の領域の戸閉側端部では、異物を挟み込む可能性が低いので、戸閉側端部の出入口からはみ出した部分には、圧力センサを設けなくてもよい。例えば、水平開き式のドア装置を有するエレベータ装置では、戸閉側端部の出入口よりも上方の部分には、圧力センサを設けなくてもよい。
【0045】
また、圧力センサ25は乗場ドア5,32に設けられているように説明したが、圧力センサは、かごドア(かごドア戸閉側端部)に設けてもよく、また乗場ドア及びかごドアの両方に設けてもよい。」(段落【0044】及び【0045】)

(5)上記(4)a)ないしg)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)d)の記載によれば、エレベータのかご出入口は、かごドアによって開閉されるものであるから、技術常識に照らせば、ドア開閉機構を備えており、かごドアは、溝を備えた敷居により案内されることが明らかである。

ロ)上記(4)e)並びに図3及び4の記載によれば、正常戸閉状態においては、第1の乗場ドア本体と第2の乗場ドア本体との間に異物がなく、第1の戸閉側端部と第2の戸閉側端部とが互いの高さ方向の全面に渡って当たったときには、設けられているすべての圧力センサ25が均等に圧力を検出するのであるから、かごドアは、正常戸閉状態で圧力センサと密着することが分かる。
また、上記(4)e)並びに図3及び4の記載によれば、圧力センサが、かごドアの戸閉側端部と戸当たり部とが当たる位置に高さ方向に沿って実質的に連続するように延設されていること、及び、異物が挟まると圧力センサで局部的な圧力増加を検出することが分かる。

ハ)上記(4)f)の記載によれば、実施の形態2の乗場ドアは、水平片開き式であることが分かり、また、「実施の形態2において、圧力センサは、戸閉側端部に設けられているが、圧力センサは、戸当たり部に設けてもよい」旨の説明がなされており、上記(4)g)の記載によれば、「圧力センサは乗場ドアに設けられているように説明したが、圧力センサは、かごドア(かごドア戸閉側端部)に設けてもよい」旨の説明がなされているのであるから、上記ロ)とあわせてみると、圧力センサは、片開き式のかごドアが当たる戸当たり部に設けられており、かごドアの戸閉側端部と戸当たり部とが当たる位置に高さ方向に沿って実質的に連続するように延設され、かごドアは、正常戸閉状態で圧力センサと密着し、異物がかごドアと戸当たり部に挟まると圧力センサで局部的な圧力増加を検出することが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2に記載された発明>

「ドア開閉機構によりエレベータのかご出入口を開閉する片開き式のかごドアと、このかごドアの開閉を案内する溝を備えた敷居と、戸当たり部に設けられ、この戸当たり部とかごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する圧力センサとを有し、圧力センサが、かごドアの戸閉側端部と戸当たり部とが当たる位置に高さ方向に沿って実質的に連続するように延設され、かごドアは、正常戸閉状態で圧力センサと密着し、異物がかごドアと戸当たり部に挟まると圧力センサで局部的な圧力増加を検出するエレベータ装置。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「エレベータ」、「片開き戸」、「かご戸」、「圧力検出器」、「遮蔽板17A」、「遮蔽する」及び「ドア」は、それぞれ、本件補正発明における「エレベーター」、「片引戸」、「かごドア」、「感圧センサ」、「塞ぎ部材」、「塞ぐ」及び「ドア装置」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「異物がかご戸とかご戸当たり柱に挟まると圧力検出器で圧力を検出する」は、前述のとおり、刊行物1に記載された発明における「かご戸」及び「圧力検出器」が、それぞれ、本件補正発明における「かごドア」及び「感圧センサ」に相当することをあわせてみると、「異物がかごドアとかご戸当たり柱に挟まると感圧センサで圧力を検出する」という限りにおいて、本件補正発明における「異物がかごドアとかご戸当り柱に挟まると感圧センサで局部的な圧力増加を検出する」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「ドア開閉機構によりエレベーターの出入口を開閉する片引戸形式のかごドアと、このかごドアの開閉を案内する溝を備えた敷居と、かご戸当り柱に設けられ、このかご戸当たり柱と前記かごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する感圧センサとを有し、少なくとも床面の高さ位置から前記かごドアの下端面の高さ位置に至るかごドア下部隙間を塞ぎ部材により塞ぐとともに、異物がかごドアとかご戸当たり柱に挟まると感圧センサで圧力を検出するエレベーターのドア装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

「かご戸当たり柱とかごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する感圧センサ」の設置形態及び動作状態に関し、
本件発明においては、その設置形態として、「かご戸当り柱に設けられ」、「床面の高さ位置、もしくは溝内の所定の高さ位置から上方に向かって所定の高さ位置まで延設され」ており、その動作状態として、「かごドアは、全閉すると感圧センサと密着し、何も異物を挟まない時は検出信号を出さず、異物がかごドアとかご戸当り柱に挟まると感圧センサで局部的な圧力増加を検出する」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、その設置形態として、「遮蔽板17Aの折り曲げ部17aの先端面に設けられ」ており、その動作状態として、「異物がかご戸(本件補正発明における「かごドア」に相当する。)とかご戸当たり柱に挟まると圧力検出器(本件補正発明における「感圧センサ」に相当する。)で圧力を検出する」ものであるものの、「かごドアは、全閉すると感圧センサと密着し、何も異物を挟まない時は検出信号を出さず、異物がかごドアとかご戸当り柱に挟まると感圧センサで局部的な圧力増加を検出する」ものであるか否か不明である点(以下、「相違点という」)。

上記相違点について検討する。
刊行物2に記載された発明は、刊行物2における上記1.(4)b)の記載を参酌すれば、エレベータ装置の戸閉時における紐等の異物検出能力を向上させることを目的としていることが明らかである。
そこで、本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物2に記載された発明における「エレベータ」、「かご出入口」、「水平片開き式」、「戸当たり部」、「圧力センサ」、「正常戸閉状態で」及び「エレベータ装置」は、それぞれ、本件補正発明における「エレベーター」、「出入口」、「片引戸形式」、「かご戸当り柱」、「感圧センサ」、「全閉すると」及び「ドア装置」に相当するので、刊行物2に記載された発明は、本件補正発明の用語を用いると、「ドア開閉機構によりエレベーターの出入口を開閉する片引戸形式のかごドアと、このかごドアの開閉を案内する溝を備えた敷居と、かご戸当り柱に設けられ、このかご戸当たり柱とかごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する感圧センサとを有し、感圧センサが、かごドアの戸閉側端部と戸当たり柱とが当たる位置に高さ方向に沿って実質的に連続するように延設され、かごドアは、全閉すると感圧センサと密着し、異物がかごドアと戸当たり柱に挟まると感圧センサで局部的な圧力増加を検出するエレベーターのドア装置。」と表現することができる。
そして、刊行物2に記載された発明は、前述のとおり、エレベータ装置の戸閉時における紐等の異物検出能力を向上させることを目的としているのであるから、異物検出に着目すると、刊行物2に記載された発明から、以下の技術を抽出することができる。
「エレベーターのドア装置における異物の検出を目的として、かご戸当たり柱とかごドアとの間おける異物の挟み込みを検出する感圧センサが、かご戸当り柱に設けられ、かごドアの戸閉側端部と戸当たり柱とが当たる位置に高さ方向に沿って実質的に連続するように延設され、かごドアは、全閉すると感圧センサと密着し、異物がかごドアと戸当たり柱に挟まると感圧センサで局部的な圧力増加を検出する技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)。」
一方、エレベータのドア装置において、異物の挟み込みを検出する圧力検出器の動作状態に関し、ドアは、全閉すると感圧センサと密着し、何も異物を挟まない時は検出信号を出さず、異物が挟まると圧力増加を検出する技術は、本件出願前周知の技術(例えば、特開2007-131389号公報[特に、段落【0015】及び【0016】並びに図1ないし3]、実願平3-87668号(実開平5-37857号)のCD-ROM[特に、段落【0010】及び図1及び3]、特開平7-172745号公報[特に、段落【0010】及び【0012】並びに、図1ないし4]及び特開2008-143619号公報[平成20年6月26日出願公開。特に、段落【0022】及び図2]等参照。以下、「周知技術」という。)である。
してみると、刊行物1に記載された発明において、圧力検出器(本件補正発明における「感圧センサ」に相当する。)の設置形態について、刊行物2に記載された技術を適用して、かご戸当り柱に設け、敷居とかご戸のすきまへの異物の挟み込みを検出するという刊行物1に記載された発明における目的(上記1.(2)ホ)を参照。)を考慮して、床面の高さ位置、もしくは溝内の所定の高さ位置から上方に向かって所定の高さ位置まで延設する一方、圧力検出器(本件補正発明における「感圧センサ」に相当する。)の動作状態について、周知技術を採用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成23年7月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、平成22年12月1日付けの手続補正により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1(特開平9-12254号公報)及び刊行物2(特開2006-89251号公報)には、それぞれ、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)及び(4)ないし(6)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明から、「何も異物を挟まない時は検出信号を出さず、」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明を全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-11 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-28 
出願番号 特願2008-184874(P2008-184874)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B66B)
P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出野 智之  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 柳田 利夫
中川 隆司
発明の名称 エレベーターのドア装置  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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