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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1261223 |
審判番号 | 不服2011-18797 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-31 |
確定日 | 2012-08-09 |
事件の表示 | 特願2010-100782「定着装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月22日出願公開、特開2010-160528〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成17年3月28日に出願した特願2005-90626号(以下「原出願」という。)の一部を平成22年4月26日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月6日付けで手続補正がなされ、同年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月31日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 なお、請求人は、当審における平成24年1月11日付け審尋に対して同年3月19日付けで回答書を提出している。 第2 平成23年8月31日付け手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成23年8月31日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 (1)平成23年8月31日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、請求項1について、本件補正前に、 「記録媒体に形成された未定着トナー画像を定着させる定着装置であって、少なくとも、複数のロールで張架され、回転する無端状の定着ベルトと、該定着ベルトと当接して回転する無端状の加圧ベルトと、該加圧ベルトを挟んで前記定着ベルトに向けて面で押圧する圧接面を備えた押圧部材と、前記定着ベルトの周内に配置され、前記加圧ベルトおよび前記定着ベルトを挟んで前記押圧部材に対向し、当該両ベルト間に前記記録媒体が挿通されるニップ部を形成するニップ形成部材と、を有する定着装置において、 前記押圧部材の圧接面が、前記ニップ形成部材の表面形状に倣った圧接面形状を有し、その中央部よりも両端部が、前記定着ベルトの回転方向上流に延伸した湾曲形状の先端辺を有し、 前記記録媒体が前記ニップ部に進入する際、その先端辺における両端部が、中央部よりも早い段階で前記定着ベルトと前記加圧ベルトとに狭持されるように構成されてなることを特徴とする定着装置。」とあったものを、 「記録媒体に形成された未定着トナー画像を定着させる定着装置であって、少なくとも、複数のロールで張架され、回転する無端状の定着ベルトと、該定着ベルトと当接して回転する無端状の加圧ベルトと、該加圧ベルトを挟んで前記定着ベルトに向けて面で押圧する圧接面を備えた押圧部材と、前記定着ベルトの周内に配置され、前記加圧ベルトおよび前記定着ベルトを挟んで前記押圧部材に対向し、当該両ベルト間に前記記録媒体が挿通されるニップ部を形成するニップ形成部材と、を有する定着装置において、 前記押圧部材の圧接面が、前記ニップ形成部材の表面形状に倣った圧接面形状を有し、その中央部よりも両端部が、前記定着ベルトの回転方向上流に延伸した湾曲形状の先端辺を有し、 前記記録媒体が前記ニップ部に進入する際、その先端辺における両端部が、中央部よりも早い段階で前記定着ベルトと前記加圧ベルトとに挟持され、前記両端部から前記中央部にかけて連続的に挟持されるように構成されてなること を特徴とする定着装置。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (2)上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記記録媒体が前記ニップ部に進入する際、その先端辺における両端部が、中央部よりも早い段階で前記定着ベルトと前記加圧ベルトとに挟持され」るとの事項について、前記記録媒体が、その先端辺において、「前記両端部から前記中央部にかけて連続的に挟持され」るとの限定を付加するものである。 2 本件補正の目的 本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。 3 引用刊行物及び引用発明 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-4126号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 内部に熱源を備え、回転駆動される定着ロールと、一部が前記定着ロールの周面と接触し、周回移動が可能に支持された無端状ベルトと、前記定着ロールの軸線方向に沿って配置され、前記無端状ベルトを該無端状ベルトの内側から前記定着ロールに押圧する加圧パッドと、を有し、前記加圧パッドの押圧面は、該無端状ベルトの周方向の寸法が、該無端状ベルトの幅方向の中央部より両端付近で大きくなっていることを特徴とする定着装置。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の画像記録装置において、記録媒体上に形成・担持された未定着トナー画像を記録媒体に定着させる定着装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 広く用いられている電子写真方式の画像記録装置においては、像担持体上に形成された静電潜像にトナーを転移することによってトナー像を形成し、これを記録媒体上に転写した後、定着装置により加圧および加熱して記録画像を得る。 上記定着装置として一般的に知られているものは、熱源を有する定着ロールに加圧ロール又は無端状ベルトを介して加圧部材が圧接されており、定着ロールが高温に加熱された状態で、定着ロールと加圧ロール又は加圧部材との圧接部にトナー像を担持した記録媒体が送り込まれ、トナー像が定着される。 【0003】 このような定着装置では、定着ロールと加圧ロール又は加圧部材との圧接部において幅方向に圧力分布が生じ、シート状の記録媒体を搬送する力が不均等になることがある。このような状態で中央部におけるシートの搬送力が両端部より大きくなると、シートが圧接部に送り込まれるのにともなってシートの両端部が中央部に引き寄せられ、圧接部でシートに搬送方向のしわが生じるおそれがある。また、定着ロールと加圧部材との間に挟み込まれて周回駆動する無端状ベルトにも、シートと同様にしわが生じるおそれがある。 【0004】 上記のようにシートやベルトにしわが生じるのを防ぐために、次のような技術が提案されている。 特許文献1に記載の定着装置では、加熱源を有する加熱ロールと、複数のロールによって張架されて周回駆動する無端状ベルトとが圧接されており、加熱ロールの形状が幅方向の中央部から両端部にかけて径が拡大される、いわゆる逆クラウン型となっている。また、特許文献2に記載の定着装置では、加圧ロールと加熱体とが無端状ベルトを介して圧接されており、加圧ロールが逆クラウン型となっている。このため、幅方向の中央部より両端 部においてシートの搬送速度及びベルトの周回速度が大きくなり、圧接部の上流側でシート及びベルトが幅方向に引張され、シート及びベルトにしわが生じにくくなる。 【0005】 【特許文献1】 特開平6-266253号公報 【特許文献2】 特開平4-44076号公報 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、このような定着装置においては次のような問題点がある。 芯金からなる加熱ロールや芯金と弾性層とからなる加圧ロールの形状を逆クラウン型とするものでは、その径の差は微小であり、極めて精度良く加工する必要がある。このため、多くのコストや時間を要してしまう。特に、弾性層を有する加圧ロールにチュービング加工を施して表面離型層を形成する場合、幅方向における中央部の径と両端部の径との比が所定の値となるように、高精度に加工するのが難しい。そして、中央部と両端部とで径の差が小さすぎると、しわを防止する効果が十分に発揮されない。一方、中央部の径に対して両端部の径が大き過ぎると、幅方向の中央部で記録媒体を十分に圧接することができず、定着不良となるおそれがある。 【0007】 本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、常に良好な画像定着を行うとともに、記録媒体にしわが発生するのを防止することができる定着装置を提供することである。」 ウ 「【0016】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。 図1は、本願に係る発明の一実施形態である定着装置を示す概略構成図である。 この定着装置は、円筒状の定着ロール1の外周面に無端状ベルト2が圧接されており、該無端状ベルト2の内側には、第1のパッド3a及び第2のパッド3bからなり、無端状ベルト2を定着ロール1に押圧する加圧パッド3と、無端状ベルト2の内周面に潤滑剤を供給するオイル供給部材4と、無端状ベルト2の周回移動をガイドするガイド部材5a、5bと、無端状ベルト2と加圧パッド3との間に挟み込まれている摺動用シート6と、第1のパッド3aを支持するパッド支持部材7aと、このパッド支持部材7aを定着ロールに対して付勢するスプリング7bと、第2のパッド3b、オイル供給部材4、ガイド部材5a、5b及びスプリング7bを支持するフレーム8と、フレーム8の幅方向(無端状ベルト2の幅方向)の両端部を支持するベルトエンドガイド9と、ベルトエンドガイド9に取り付けられ、スプリング10aによりベルトエンドガイド9を介してフレーム8を定着ロール1側に付勢する加圧レバー10と、で主要部が構成されている。なお、図1中の符号12は、フレーム8上でスプリング7bを支持する台座、符号13は、スプリング7bの側面をガイドするとともに、一部が無端状ベルトの内面に接触してガイドする補助部材を示す。 【0017】 上記定着ロール1は、円筒状芯金1bの内部にハロゲンランプ等の加熱源1aを有しており、芯金1bの表面にシリコーンゴムからなる弾性体層1cと、最表層にフッ素樹脂からなる離型層1dとが設けられている。該定着ロール1は、直径が約25mmで、図示しない駆動源によって回転駆動される。 【0018】 上記無端状ベルト2は、ベース層と表面層との2層構造となっており、ベース層には、耐熱性、強度、表面平滑性を考慮してポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性樹脂や、アルミニウム、ステンレス等の金属を用い、表面層には、耐熱性およびトナーとの離型性の高いシリコーンゴム、フッ素ゴム、フッ素コート等を用いている。 【0019】 上記加圧パッド3は、図2に示すように、定着ロール1との圧着時に弾性的に変形する第1のパッド3aと、無端状ベルト2の周回方向における第1のパッド3aの下流側に配置され、第1のパッド3aより硬度の高い第2のパッド3bとで構成されている。 第1のパッド3aは、ゴム硬度15°?40°のシリコーンゴムからなり、合成樹脂製のパッド支持部材7aに嵌め合わせて支持されている。そして、スプリング7b及び加圧レバー10を付勢するスプリング10aにより、無端状ベルト2及び摺動シート6を介して定着ロール1に押圧されている。スプリング7bは加圧レバー10を付勢するスプリング10aよりバネ係数が小さくなっており、このスプリング7bを介してパッド支持部材7aを付勢することによって、第2のパッド3bとは独立して、第1のパッド3aの定着ロール1に対する押圧力を適切に設定することができる。この面圧Pは、7.35N/cm^(2)(0.75kg/cm^(2))>P>19.6N/cm^(2)(2.0kg/cm^(2))とするのが望ましい。 【0020】 また、第1のパッド3aの押圧面は、無端状ベルト2の周方向の寸法が幅方向の中央部より両端付近で大きいものとなっている。そして、無端状ベルト2の幅方向の中央部における周方向の寸法aと、幅方向の両端における周方向の寸法bとの比a/b(=α)は0.6となっている。この比αは、1>α>0.3の範囲とすることができ、特に、0.75>α>0.5の範囲とするのが望ましい。これにより、第1のパッド3aと定着ロール1とのニップ部における幅方向の中央部より両端付近で、定着ロール1と無端状ベルト2及び記録紙Pとの摩擦力が大きくなり、搬送力が大きくなる。このため、ニップ部の上流側で無端状ベルト2及び記録紙Pに幅方向に引張する力が作用し、しわが生じるのが防止される。 【0021】 第2のパッド3bは、第1のパッド3aより硬度の高い合成樹脂又は金属からなり、フレーム8及び加圧レバー10を介してスプリング10aによって、第1のパッド3bより大きな力で定着ロール1に押圧されている。この押圧力によって定着ロール1の弾性体層1cにひずみが生じ、この部分で定着ロール1の周面の移動速度が大きくなる。そして、定着ロール1の周面の速度と記録紙が搬送される速度との間にずれが生じ、記録紙Pが定着ロール1から剥離され易くなる。 【0022】 上記オイル供給部材4は、無端状ベルト2の内側に支持され、該オイル供給部材4の表面が無端状ベルト2の内周面に接触している。このオイル供給部材4は、フェルト等の不織布からなり、このフェルトにシリコーンオイル等の離型剤が含浸されている。 【0023】 上記摺動用シート6は、上流側の縁部がガイド部材5aもしくは補助部材13を介してフレーム8に固定され、無端状ベルト2の内周面に沿って接するように加圧パッド3に掛け回され、他方の縁部は拘束されずに自由端となっている。この摺動用シート6は、ポリイミド等の平滑な面を有するシート状部材が用いられ、無端状ベルト2の内周面との摩擦が小さいため、該無端状ベルト2は、定着ロール1の回転に従動して円滑に回転するものとなっている。 【0024】 このような定着装置では、図示しない転写装置によりトナー像が転写された記録紙Pが、上記定着ロール1と無端状ベルト2との間に送り込まれる。そして、定着ロール1と第1のパッド3aとのニップ部に記録紙Pを挟み込んで、定着ロール1の熱によってトナー像を加熱溶融する。これと同時に第1のパッド3a及び第2のパッド3bによって加圧され、溶融したトナー像は記録紙Pに圧着される。このとき、第1のパッド3aの押圧面Sの形状により、記録紙の幅方向における両端部では中央部よりわずかに搬送力が大きくなっているため、記録紙の上流側で幅方向の引張力が作用し、搬送方向のしわが防止される。そして、トナー像が圧着された記録紙Pは、定着ロール1と第2のパッド3bとのニップ部では、定着ロール1の周面速度と記録紙Pの搬送速度とに微小な差が生じて定着ロール1から剥離され、搬送路11に送り出される。」 エ 「【0034】 【発明の効果】 以上説明したように、本願発明の定着装置では、無端状ベルトの内側から定着ロールに押圧される加圧パッドの押圧面は、無端状ベルトの周方向の寸法が、該無端状ベルトの幅方向の中央部より両端付近で大きくなっている。このため、幅方向の中央部より両端付近で定着ロールと無端状ベルト及び記録紙との摩擦力が大きく、無端状ベルト及び記録紙の搬送力が大きいものとなっている。これにより、無端状ベルト及び記録紙に幅方向の引張力が作用し、しわが生じるのが防止される。」 オ 上記ウの記載を踏まえて図1を見ると、第1のパッド3a及び第2のパッド3bの押圧面の形状は、定着ロール1の表面形状に倣った形状であることが見てとれる。 カ 上記ウの記載を踏まえて図2を見ると、第1のパッド3aの押圧面Sの形状は、その中央部よりも両端部が、第2のパッド3bとは反対側に延伸し、両端部から中央部にかけてその先端辺はいずれも直線状であることが見てとれる。 キ 上記アないしカから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。 「内部に熱源を備え、回転駆動される定着ロールと、 一部が前記定着ロールの周面と接触し、周回移動が可能に支持された無端状ベルトと、 前記定着ロールの軸線方向に沿って配置され、前記無端状ベルトを該無端状ベルトの内側から前記定着ロールに押圧する加圧パッドと、 を有し、 前記加圧パッドは、定着ロールとの圧着時に弾性的に変形する第1のパッドと、無端状ベルトの周回方向における第1のパッドの下流側に配置され、第1のパッドより硬度の高い第2のパッドとで構成され、 前記第1のパッド及び前記第2のパッドの押圧面は、前記定着ロールの表面形状に倣った形状を有し、 転写装置によりトナー像が転写された記録紙が、前記定着ロールと無端状ベルトとの間に送り込まれると、定着ロールと第1のパッドとのニップ部に記録紙を挟み込んで、定着ロールの熱によってトナー像を加熱溶融し、これと同時に第1のパッド及び第2のパッドによって加圧し、溶融したトナー像を記録紙に圧着する定着装置において、 第1のパッドの押圧面の該無端状ベルトの周方向の寸法を、該無端状ベルトの幅方向の中央部より両端付近で大きくし、第1のパッドと定着ロールとのニップ部における幅方向の中央部より両端付近で、定着ロールと無端状ベルト及び記録紙との摩擦力を大きくし、搬送力も大きくして、ニップ部の上流側で無端状ベルト及び記録紙に幅方向に引張する力を作用させてしわが生じるのを防止した定着装置であって、 前記第1のパッドの押圧面の形状は、その中央部よりも両端部が、前記第2のパッドとは反対側に延伸し、両端部から中央部にかけてその先端辺はいずれも直線状である定着装置。」(以下「引用発明1」という。) (2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-77834号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像情報記録装置において、記録紙等記録媒体表面の未定着トナー画像を接触加熱定着する定着装置、とりわけ定着のニップ部の形成にベルトを用いたベルトニップ方式の定着装置に関するものである。また、本発明は、かかる定着装置を含む画像形成装置に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来の定着装置としては、一対の加熱されたロール間の圧接領域に未定着トナー画像を通過させることにより定着を行ういわゆる加熱加圧ロール型定着装置が多用されている(以下、これを「ロールニップ方式」と言う)。かかるロールニップ方式の定着装置の模式断面図を図5に示す。図5において、101は矢印F方向に回転する定着ロールであり、106は、定着ロール101に従動して矢印G方向に回転する加圧ロールである。 【0003】 定着ロール101は、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属の中空ロール105の表面に、弾性層104としてシリコーンゴムが被覆され、更にその上に離型性を有するテフロン(R)の被覆層103が形成されたものであり、中空ロール105の内部には加熱源としてハロゲンランプ102が配置される。定着ロール101表面に設けられた温度センサ108の信号をもとに、図示しない温度制御回路によってハロゲンランプ102がオン・オフ制御され、定着ロール101表面が所望の一定温度に調整される。 【0004】 一方加圧ロール106は、芯金ロール109にシリコーンゴム等の比較的厚い耐熱弾性体層110が被覆されたものである。この耐熱弾性体層110の弾性変形によって定着ロール101と加圧ロール106との圧接部(ニップ部)N’が形成される。 【0005】 未定着トナー画像Tが表面に形成された用紙Pは、矢印H方向に進行してニップ部Nに挿通され、圧力と熱エネルギーの作用により未定着トナー画像Tが定着される。ニップ部Nを通過した用紙Pは、トナーの粘着性のため定着ロール101に巻きついてくるので、それを剥がすための剥離爪107が設けられており、これにより定着後の用紙Pが定着ロール101から剥離され、装置外に排出される。 【0006】 しかし、前記定着方式を用いて、より高速に定着しようとした場合、未定着トナー画像Tと用紙Pとに、定着に十分なだけの熱エネルギーと圧力とを与えなければならない。そのためにはニップ部N’の幅(ニップ幅)を定着速度に比例して広くする必要がある。ニップ幅を広くするのに、両ロール101-106間の荷重を大きくする方法、または弾性層104や耐熱弾性体層110の弾性体層の厚さを厚くする方法、両ロール101,106のロール径を大きくする方法等がある。 【0007】 上記両ロール間の荷重を大きくする方法や、上記弾性体層の厚さを大きくする方法では、ロールの撓みに起因するニップ幅の形状がロール軸に沿って不均一になったり、定着むらや紙しわが発生し易くなるため、おのずと限界がある。また上記ロール径を大きくする方法は、前記のような品質上の問題点はないが、装置が大型になり、また定着ロール101を室温から定着可能温度まで上昇させるまでの時間(一般に、「ウォームアップタイム」と称される。)が長くなってしまうという問題点を有する。 【0008】 これらの問題点を解決し、より高速化に対応できるようにするため、特許文献1における図2に示されるような、ベルトを用いた方式が提案されている。(以下、このようにニップ部の形成にベルトを用いた方式を「ベルトニップ方式」と称する。)。かかるベルトニップ方式の定着装置の模式断面図を図6に示す。 【0009】 図6に示される定着装置は、矢印J方向に回転する定着ロール111と、加圧ベルトモジュール116とで主要部が構成されている。加圧ベルトモジュール116は、インレットロール128、圧力ロール129および張架ロール130の3本のロールにより張架されたエンドレスベルト131と、これを介して定着ロール111に押圧される圧力パッド(圧力部材)127とで主要部が構成されている。 【0010】 エンドレスベルト131は、矢印K方向に回転し、インレットロール128-圧力ロール129間が定着ロール111に巻き付くように当接してニップ部N”を形成している。エンドレスベルト131の内側には、圧力パッド127がエンドレスベルト131を介して定着ロール111に押圧される状態で配置されている。当該ニップ部N”のエンドレスベルト125回転方向(矢印K方向)最下流では、加圧ロール128がエンドレスベルト125を介して定着ロール121表面に付勢され、前記ニップ部の終端を形成している。 【0011】 定着ロール111は、図5で示したロールニップ方式の定着装置の定着ロール101と同様、中空ロール115の表面に、シリコーンゴムによる弾性層114が形成され、更にその上に被覆層113が形成されたものであり、中空ロール115の内部には加熱源としてハロゲンランプ112が配置される。 【0012】 図6に示されたベルトニップ方式の定着装置は、前記ニップ部に、未定着トナー画像126が表面に形成された用紙127が挿通され、当該ニップ部における圧力と熱エネルギーとによって定着を行うものである。このような構成にすることで、エンドレスベルト125と定着ロール121とのニップ幅を、従来のロールニップ方式によるニップ幅よりも容易に大きくとることができる(ワイドニップを形成することができる)ので、高速化対応が可能となる。また同じ定着速度で比較した場合には、ロールニップ方式の定着装置よりも小型化を図ることができる。 【0013】 しかしながら、このようなベルトニップ方式の定着装置においても、高速化には自ずと限界がある。このベルトニップ方式の定着装置は、ワイドニップを形成することができるのであるが、高速で短時間に連続して多数枚の定着を行おうとした場合に、定着ロール121の表面温度が一時的に低下して、ある程度の複写枚数を超えると定着不良が発生してしまう場合がある。この現象は、温度ドループと称される。これは、定着ロール121のコアに被覆されている弾性体層であるシリコーンゴムが熱的抵抗体として作用し、十分な熱量をロール内部に与えてもその熱が定着ロール表面にすばやく伝達されないために起こる現象である。特に熱容量が大きい厚紙を定着する場合に温度ドループが大きくなる。温度ドループ発生時は、たとえワイドニップであっても十分な熱量を用紙に与えることができず、ベルトニップ方式のメリットを十分に生かし切れなくなってしまう。 【0014】 この温度ドループを少しでも改善するために、外部加熱を併用した方式が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。図7に、ベルトニップ方式で外部加熱を併用した定着装置の模式断面図を示す。図7に示す定着装置は、図6に示す定着装置と基本的には同一であり、さらに、定着ロール111の表面に当接する外部加熱ロール132を設けて、外部加熱ロール132に配した熱源を利用し、定着ロール111の内部からだけではなく外部からも加熱する構成を有するものである。しかしこの外部加熱の併用は、外部加熱ロール132と定着ロール111の接触幅が狭いので、外部加熱ロール132の熱エネルギーを十分に定着ロール111に与えることができず、期待通りの効果を得ることは困難である。また、外部加熱ロール132からの放熱が大きくなり、エネルギーの利用効率の観点からも改善が望まれる。 【0015】 なお、ベルトニップ方式としては、以上説明したような加圧側のベルトが張架された態様ではなく、当該ベルトがフリーで、かつ従動回転可能な状態で定着側の定着ロールに当接する、いわゆるフリーベルトニップ方式と称される方式も提案されている(たとえば、特許文献3参照)。この場合にも、ベルトニップ方式によるメリットと同時に、上述の如き、高速化に伴う温度ドループの問題、エネルギーの利用効率の問題が、以上説明したような加圧側のベルトが張架された態様と同様に存在する。したがって、「ベルトニップ方式」と言った場合には、「フリーベルトニップ方式」を含めた概念とする。 【0016】 【特許文献1】特開平5-150679号公報 【特許文献2】特開平11-7216号公報 【特許文献3】特開平8-262903号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0017】 したがって本発明は、上記問題点を解決することを目的とするものである。詳しくは、ベルトニップ方式の定着装置のメリット、すなわち、ワイドニップを確保することによる高速定着性を、さらに高い次元で実現するべく、有効に温度ドループの発生を抑制し得る定着装置、および、かかる定着装置を含む画像形成装置を提供することを目的とする。」 イ 「【課題を解決するための手段】 【0018】 上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明の定着装置は、熱源を有する定着ロール、少なくとも1つ以上の定着側張架ロール、およびこれらロールに張架された状態で回転する無端状の定着ベルトから構成される定着ベルトモジュールと、前記定着ロール表面に前記定着ベルトが巻き付けられた部位の範囲内でのみ前記定着ベルトの外周面に当接して、前記定着ベルトとの間に定着用のニップ部を形成する無端状の加圧ベルトを含む加圧ベルトモジュールと、からなり、前記定着ベルトモジュールが、前記定着ベルトのうち前記定着ロールの外周に巻き付けられた部位以外のいずれかの部位において、前記定着ベルトの内周面および/または外周面を加熱する定着ベルト加熱手段を含むことを特徴とする。 つまりは、本発明の定着装置は、既述の従来のベルトニップ方式の定着装置における定着ロール側の構成に、主として定着ベルトおよび定着ベルト加熱手段が付加されていることに特徴を有するものである。 【0019】 すなわち、ベルトニップ方式の定着装置では、加圧側のベルトと定着ロールとの間に形成されたニップ部を定着に利用するものであるが、この定着ロールの表面にさらに定着ベルトの一部を巻き付け(フィルミングし)、当該ベルトと加圧側のベルトとの間にニップ部を形成することが本発明の1つの特徴であり、その意味では、本発明の定着装置は、2ベルト方式と言い得るものである。 【0020】 当該定着ベルトは、その一部が、従来加圧ベルトが当接している定着ロール表面に巻き付けられ、さらに他のロール(定着側張架ロール)により張架され、定着ロールとは離れた位置で、その内周面および/または外周面が定着ベルト加熱手段で加熱される。かかる定着ベルトとしては、例えば、フレキシブルなベース層に離型層としてフッ素樹脂が被覆された構成や、前記ベース層と前記離型層との間に、弾性体層として薄膜のシリコーンゴム層を設けた構成などが挙げられる。 【0021】 いずれの構成であっても、本発明における定着ベルトは、これまでの定着ロールのみで構成される場合の当該定着ロール全体に比較して、非常に小熱容量となる。本発明においては、この定着ベルトを前記定着ロールの外周に巻き付けられた部位以外のいずれかの部位において、定着ベルト加熱手段により速やかに加熱する。これまでの定着ロールのみで構成される場合の当該定着ロールの表面層(あるいはさらに弾性層の一部または全部)に当たる部分が、別途定着ベルトを構成して、当該定着ロールとは別に独立に加熱されるため、加熱に必要な時間を確保しやすく、また効率的かつ速やかに前記定着ベルトのみを所望の温度まで加熱することができ、有効に温度ドループの発生が抑制され、高い高速安定性を実現することができる。 【0022】 さらに本発明では、前記加圧ベルトモジュールの前記加圧ベルトが、前記定着ロール表面に前記定着ベルトが巻き付けられた部位の範囲内でのみ、前記定着ベルトの外周面に当接して、当該領域に定着用のニップ部を形成しているので、当該ニップ部において、前記定着ベルトの内周面側には前記定着ロールが位置している状態となっている。すなわち、定着用のニップ部において、前記定着ベルトと前記加圧ベルトとの当接は、前記定着ロール表面にしっかりと支持された状態となっており、ベルト同士のみの当接のような不安定な状態とはなっていない。 【0023】 このように定着用のニップ部において、両ベルトが前記定着ロール表面にしっかりと支持された状態となっていることから、当該ニップ部に挿通される記録媒体や未定着トナー画像に含まれる水分由来の水蒸気の攪乱による画像欠陥(画像流れ等)を防止することができる。また、ニップ部であっても、ベルト同士のみの当接で形成された不安定な状態では、画像の定着にはほとんど寄与せず熱損失となるが、本発明では、定着用のニップ部全域が、前記定着ロール表面にしっかりと支持された状態となっており、無駄な熱の伝導が無く、熱効率的にも優れている。 【0024】 本発明において、前記定着ベルトモジュールにおける前記定着側張架ロールの少なくとも1つが、その内部に熱源が配されて、前記定着ベルト加熱手段を兼ねることができる。 当該定着側張架ロールの外表面を前記定着ベルトの内周面または外周面と広くラッピングさせることができることから、前記定着側張架ロールの内部に熱源を配することで、加熱された張架ロールから前記定着ベルトに熱エネルギーを伝達する時間を十分に確保することができ、効率的に前記定着ベルトを加熱することが可能となる。 【0025】 また、前記定着ベルトは、前記定着ロールに比して薄膜であることから、熱容量が非常に小さく、定着用のニップ部でトナーおよび記録媒体に奪われた熱は、内部に熱源が配されて前記定着ベルト加熱手段を兼ねる前記定着側張架ロールで補給され、すぐに設定温度まで回復する。このように、前記定着ロールと前記定着側張架ロールとの双方に(好ましくは、できるだけ広いラップ角度で)巻き付けられた前記定着ベルトは、内部加熱された前記定着ロールおよび前記定着側張架ロールの双方のからの熱伝導によって素早く加熱される。 【0026】 このため、熱容量の大きな厚紙を高速で定着する場合においても、熱的応答が優れているので、必要な熱量を常に安定的に供給することができるようになる。これによって、高速定着時の大きな課題であった温度ドループの問題を解決することができる。 【0027】 本発明においては、前記定着側張架ロールを2つ以上有し、そのうちの少なくとも1つが、前記定着ベルトの外周面と当接するように前記定着ベルトが取り回され、かつ、内部に熱源が配されて前記定着ベルト加熱手段を兼ねることができる。 【0028】 一般にベルトを複数のロールで張架する場合、各ロールは、ベルトの周内に配置されるが、3つ以上のロールで張架する場合、全ロールの内のいくつか(MAX、全ロール数マイナス2。例えば全3ロールなら1つのロール。)は、ベルトの周外からベルトを押圧するように配置することができる。このように配置した場合、すなわち、前記定着側張架ロールを2つ以上有し(前記定着ロールを含め計3つ以上のロールで張架した状態。)、そのうちの少なくとも1つのロールが、前記定着ベルトの外周面と当接するように前記定着ベルトが取り回された場合、前記定着ベルトの外周面と当接する定着側張架ロールについて、内部に前記定着ベルト加熱手段としての熱源を配されて前記定着ベルト加熱手段を兼ねることで、前記定着ベルトの外周面を加熱することができる。 【0029】 また、前記定着ベルトの内周面と当接するさらに他の定着側張架ロールの内部にも前記定着ベルト加熱手段としての熱源を設ければ、前記定着ベルトは、外周面と内周面の双方から加熱されるので、さらに多くの熱量を安定的に供給することができるようになり、定着のさらなる高速化が可能となる。」 ウ 上記ア及びイから、引用例2には次の発明が記載されているものと認められる。 「ニップ部の形成に定着ロール及び加圧ベルトを用いたベルトニップ方式の定着装置は、高速で短時間に連続して多数枚の定着を行おうとした場合に、定着ロールの表面温度が一時的に低下して、ある程度の複写枚数を超えると定着不良が発生する、温度ドループと称される現象が発生する場合があったので、 この温度ドループ現象を有効に抑制するために、 定着ロール側の構成を、『熱源を有する定着ロール、少なくとも1つ以上の定着側張架ロール、およびこれらロールに張架された状態で回転する無端状の定着ベルトから構成される定着ベルトモジュール』と、『前記定着ベルトモジュールが、前記定着ベルトのうち前記定着ロールの外周に巻き付けられた部位以外のいずれかの部位において、前記定着ベルトの内周面および/または外周面を加熱する定着ベルト加熱手段』とを含むものとした定着装置。」(以下「引用発明2」という。) 4 対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 (1)引用発明1の「記録紙」、「『転写装置』により『転写』された『トナー像』」、「『加熱溶融』し『これと同時に加圧』し『記録紙』に『圧着』」、「定着装置」、「『定着ロール』に『押圧』される『無端状ベルト』」、「押圧」、「押圧面」、「『第1のパッド』と『第2のパッド』とで構成された『加圧パッド』」、「送り込まれ」、「ニップ部」及び「『挟み込』む」は、それぞれ、本願補正発明の「記録媒体」、「未定着トナー画像」、「定着」、「定着装置」、「無端状の加圧ベルト」、「押圧」、「圧接面」、「押圧部材」、「挿通される」、「ニップ部」及び「挟持」に相当する。 (2)引用発明1の「定着装置」は、「未定着トナー画像(トナー像)」が転写された「記録媒体(記録紙)」が、定着ロールと「加圧ベルト(無端状ベルト)」との間に「挿通され(送り込まれ)」、定着ロールと「押圧部材(第1のパッド)」との「ニップ部」に「記録媒体」を「挟持して(挟み込んで)」、定着ロールの熱によって「未定着トナー画像」を「定着(加熱溶融し、これと同時に加圧し記録紙に圧着)」するものであるから、本願補正発明の「定着装置」と、「記録媒体に形成された未定着トナー画像を定着させる」点で一致する。 (3)引用発明1の「内部に熱源を備え、回転駆動される定着ロール」は、その周面に「加圧ベルト(端状ベルト)」が接触し、「押圧部材(加圧パッド)」の「圧接面(押圧面)」が「加圧ベルト」を該「加圧ベルト」の内側から押圧し、「加圧ベルト」との間に「記録媒体(記録紙)」が「挿通され(送り込まれ)」る「ニップ部」を形成する部材であり、前記「加圧ベルト」を挟んで前記「押圧部材」に対向していることが明らかであるから、引用発明1の「内部に熱源を備え、回転駆動される定着ロール」と、本願補正発明の「『少なくとも、複数のロールで張架され、回転する無端状の定着ベルト』及び『前記定着ベルトの周内に配置され、前記加圧ベルトおよび前記定着ベルトを挟んで前記押圧部材に対向し、当該両ベルト間に前記記録媒体が挿通されるニップ部を形成するニップ形成部材』」とは、「『加圧ベルト』を挟んで『押圧部材』に対向し、『加圧ベルト』が当接し、『押圧部材』が備える『圧接面』により『加圧ベルト』を挟んで面で押圧され、『加圧ベルト』との間に『記録媒体』が『挿通』される『ニップ部』を形成する『定着』部材」である点で共通する。 そして、引用発明1において、「定着部材(定着ロール)」は回転駆動されるから、該「定着部材」が回転駆動されると、一部が該「定着部材」の周面と接触し、周回移動が可能に支持された「加圧ベルト」も従動回転する。 したがって、引用発明1の「加圧ベルト」と本願補正発明の「加圧ベルト」とは、「該定着部材と当接して回転する」点で一致する。 (4)引用発明1の「『押圧部材(第1のパッドと第2のパッドとで構成された加圧パッド)』の『圧接面(押圧面)』」は、「定着部材(定着ロール)」の表面形状に倣った形状を有しているから、本願補正発明の「押圧部材の圧接面」と、「定着部材の表面形状に倣った圧接面形状を有」する点で一致する。 (5)引用発明1において、第2のパッドが無端状ベルトの周回方向における第1のパッドの下流側に配置されていること、及び、第1のパッドの押圧面は、その中央部よりも両端部が、第2のパッドとは反対側に延伸した形状であることから、第1のパッドの押圧面は、無端状ベルトの周回方向の上流側に延伸した形状を有するものであり、また、定着ローラが回転駆動されると、一部が該定着ローラの周面と接触する無端状ベルトも従動回転するから、ニップ部からみて、無端状ベルトの周回方向の上流側は定着ローラの回転方向上流側でもある。 したがって、引用発明1の「押圧部材の圧接面(第1のパッドと第2のパッドとで構成された加圧パッドの押圧面)」と本願補正発明の「押圧部材の圧接面」とは「その中央部よりも両端部が、定着部材の回転方向上流に延伸した形状の先端辺を有」する点で一致する。 (6)引用発明1の押圧面の形状は、その中央部よりも両端部が、定着ローラ及び無端状ベルトの回転方向上流に延伸し、両端部から中央部にかけてその先端辺はいずれも直線状であるから、引用発明1において、転写装置によりトナー像が転写された記録紙が、定着ロールと無端状ベルトとの間に送り込まれ、定着ロールと第1のパッドとのニップ部に記録紙を挟み込んで、定着ロールの熱によってトナー像を加熱溶融し、これと同時に第1のパッド及び第2のパッドによって加圧され、溶融したトナー像が記録紙に圧着されるとき、前記記録紙が前記ニップ部に送り込まれる際、その先端辺における両端部が、中央部よりも早い段階で前記定着ロールと前記無端状ベルトとの間に挟み込まれ、前記両端部から前記中央部にかけて連続的に挟み込まれていくことになる。 したがって、引用発明1の「定着装置」と本願発明の「定着装置」とは「記録媒体がニップ部に進入する際、その先端辺における両端部が、中央部よりも早い段階で定着部材と加圧ベルトとに挟持され、前記両端部から前記中央部にかけて連続的に挟持されるように構成されて」いる点で一致する。 (7)上記(1)ないし(6)から、本願補正発明と引用発明1とは、 「記録媒体に形成された未定着トナー画像を定着させる定着装置であって、定着部材と、該定着部材と当接して回転する無端状の加圧ベルトと、該加圧ベルトを挟んで前記定着部材に向けて面で押圧する圧接面を備えた押圧部材と、を有し、前記定着部材は、前記加圧ベルトを挟んで前記押圧部材に対向し、当該加圧ベルトとの間に前記記録媒体が挿通されるニップ部を形成する定着装置において、 前記押圧部材の圧接面が、前記定着部材の表面形状に倣った圧接面形状を有し、その中央部よりも両端部が、前記定着部材の回転方向上流に延伸した形状の先端辺を有し、 前記記録媒体が前記ニップ部に進入する際、その先端辺における両端部が、中央部よりも早い段階で前記定着部材と前記加圧ベルトとに挟持され、前記両端部から前記中央部にかけて連続的に挟持されるように構成されてなる定着装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1: 前記定着部材が、本願補正発明では、「少なくとも、複数のロールで張架され、回転する無端状の定着ベルト」と、「前記定着ベルトの周内に配置され、前記加圧ベルトおよび前記定着ベルトを挟んで前記押圧部材に対向し、当該両ベルト間に前記記録媒体が挿通されるニップ部を形成するニップ形成部材」とからなるものであるのに対して、引用発明1では「内部に熱源を備え、回転駆動される定着ロール」である点。 相違点2: 前記押圧部材の圧接面の先端辺の形状が、本願補正発明においては、「湾曲」であるのに対して、引用発明1では、両端部から中央部にかけていずれも直線状である点。 5 判断 (1)相違点1について ア 引用例2には、上記3(2)ウで述べたとおりの引用発明2が記載されている。 イ 引用発明2の定着装置は、ニップ部の形成に定着ロール及び加圧ベルトを用いたベルトニップ方式の定着装置は、高速で短時間に連続して多数枚の定着を行おうとした場合に、定着ロールの表面温度が一時的に低下して、ある程度の複写枚数を超えると定着不良が発生する、温度ドループと称される現象が発生する場合があったので、 この温度ドループ現象を有効に抑制するために、 定着ロール側の構成を、「熱源を有する定着ロール、少なくとも1つ以上の定着側張架ロール、およびこれらロールに張架された状態で回転する無端状の定着ベルトから構成される定着ベルトモジュール」と、「前記定着ベルトモジュールが、前記定着ベルトのうち前記定着ロールの外周に巻き付けられた部位以外のいずれかの部位において、前記定着ベルトの内周面および/または外周面を加熱する定着ベルト加熱手段」とを含むものとしたものである。 ウ 引用発明1は、ニップ部の形成に定着ロール及び加圧ベルト(無端状ベルト)を用いたベルトニップ方式の定着装置であるから、上記イからみて、引用発明1の定着装置においても、温度ドループと称される上記現象が発生する場合があることは、当業者に自明である。 エ したがって、引用発明1において、温度ドループ現象の発生を抑制するために、前記定着ロールに加え、引用発明2と同様に、少なくとも1つ以上の定着側張架ロール、およびこれらロールに張架された状態で回転する無端状の定着ベルトを設けて定着ベルトモジュールを構成し、さらに、該定着ベルトモジュールが、前記定着ベルトのうち前記定着ロールの外周に巻き付けられた部位以外のいずれかの部位において、前記定着ベルトの内周面および/または外周面を加熱する定着ベルト加熱手段を備えたものとすることは、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到することができた程度のことである。 オ 上記エにおける、「前記定着ロール」及び「定着ロール及び少なくとも1つ以上の定着側張架ロールに張架された状態で回転する無端状の定着ベルト」は、それぞれ、本願補正発明の「前記定着ベルトの周内に配置され、前記加圧ベルトおよび前記定着ベルトを挟んで前記押圧部材に対向し、当該両ベルト間に前記記録媒体が挿通されるニップ部を形成するニップ形成部材」及び「少なくとも、複数のロールで張架され、回転する無端状の定着ベルト」に相当する。 よって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、上記エからみて、当業者が容易になし得た程度のことである。 (2)相違点2について ア 引用発明1の定着装置は、第1のパッドの押圧面の該無端状ベルトの周方向の寸法を、該無端状ベルトの幅方向の中央部より両端付近で大きくし、第1のパッドと定着ロールとのニップ部における幅方向の中央部より両端付近で、定着ロールと無端状ベルト及び記録紙との摩擦力を大きくし、搬送力も大きくして、ニップ部の上流側で無端状ベルト及び記録紙に幅方向に引張する力を作用させてしわが生じるのを防止したものであるから、「記録媒体にしわが発生するのを防止する」(前記3(1)イ【0006】-【0007】参照。)という課題を、「第1のパッドの押圧面の該無端状ベルトの周方向の寸法が、該無端状ベルトの幅方向の中央部より両端付近で大きい」との構成によって解決するものである。 イ したがって、引用発明1において、第1のパッドの押圧面の先端辺の具体的な形状は、「第1のパッドの押圧面の該無端状ベルトの周方向の寸法が、該無端状ベルトの幅方向の中央部より両端付近で大きい」限りにおいて、当業者が適宜決定すればよい事項であって、「両端部から中央部にかけていずれも直線状」とは異なる形状(例えば、湾曲形状)であってもよいことは、当業者にとって自明である。 ウ 他方、本願補正発明の押圧部材の圧接面の先端辺の形状について、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (ア)「本実施形態に特徴的な当該押圧部材11の形態を、用紙(記録媒体)7と共に斜視図にして図2に示す。押圧部材11は、図2に示されるように、両端部の加圧幅(搬送方向長さ)が23mm、中央部の加圧幅が17mmであり、先端辺が、両端部と中央部とが直線で結ばれたV字形状をしている。また、押圧部材11の圧接面の表面の形状は、定着ロール1の表面形状に倣うような曲面状に形成されている。」(【0036】参照。) (イ)「図4を用いて、第1の本発明の一例である本実施形態の作用並びに効果について説明する。ここで図4は、第1の本発明の作用を説明するためのニップ部入口の模式図である。 押圧部材11の先端辺の両端部が、定着ロール1の回転方向(図4で言えば、用紙7の搬送方向Aと同義。)上流に延伸しているため、ニップ部に用紙7が進入した際、用紙7の両端部が初めに挟持され、搬送力を受ける。このため、用紙7の中央部が先に挟持されることによる縦しわの発生を防止することができる。」(【0041】参照。) (ウ)「上記の如き作用・効果を奏し得る押圧部材の変形例を図5に斜視図にて示す。本変形例の押圧部材11”は、その圧接面の表面の形状が、定着ロール1の表面形状に倣うような曲面状に形成されており、また、その先端辺(定着ロール1の回転方向(図5で言えば、用紙7の搬送方向Aと同義。)上流側の辺)が、湾曲形状をしている。そのため、当該先端辺の両端部が、矢印A方向上流に延伸しており、用紙7はその両端部が初めに挟持され、搬送力を受ける。すなわち、本変形例の押圧部材11”は、本実施形態に用いた押圧部材11と同様の作用・効果が発揮される。」(【0042】参照。) エ 上記ウの(ア)ないし(ウ)の記載からして、本願補正発明の定着装置は、押圧部材の圧接面の先端辺の形状を、その両端部が定着ロールの回転方向上流に延伸して、ニップ部に用紙が進入した際、用紙の両端部が初めに挟持されて、搬送力を受けるように構成することにより、用紙の中央部が先に挟持されることによる縦しわの発生を防止するようにしたものである。 オ したがって、本願補正発明の押圧部材の圧接面の先端辺の形状は、その両端部が定着ロールの回転方向上流に延伸して、ニップ部に用紙が進入した際、用紙の両端部が初めに挟持され、搬送力を受けるように構成されていればよく、その具体的形状は、「V字」形状にしてもよいところ、本願補正発明においては、「湾曲」形状に限定したものである。 したがって、本願補正発明において、押圧部材の圧接面の先端辺の具体的形状を湾曲とした点は、設計事項を超える技術上の意義を有するものではなく、当業者が適宜決定すべき設計上の事項にすぎない。 カ 本願補正発明の押圧部材の圧接面の先端辺の形状は、引用発明1の押圧部材の圧接面の先端辺の具体的形状を「湾曲」としたものに相当するところ、本願補正発明において、押圧部材の圧接面の先端辺の具体的形状を湾曲とした点、すなわち上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、当業者が適宜決定することができた設計上の事項にすぎない。 (3)本願補正発明の効果 本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果及び引用発明2の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。 (4)まとめ したがって、本願補正発明は、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 本願補正発明は、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6 小括 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年5月6日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであるところ、本願発明は、平成23年5月6日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2並びにそれらに記載事項は上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定するものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 本願発明は、以上のとおり、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-06 |
結審通知日 | 2012-06-12 |
審決日 | 2012-06-25 |
出願番号 | 特願2010-100782(P2010-100782) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三橋 健二 |
特許庁審判長 |
小牧 修 |
特許庁審判官 |
清水 康司 北川 創 |
発明の名称 | 定着装置 |
代理人 | 青谷 一雄 |
代理人 | 小泉 雅裕 |
代理人 | 中村 智廣 |
代理人 | 成瀬 勝夫 |