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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1261278
審判番号 不服2010-25044  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-08 
確定日 2012-08-10 
事件の表示 特願2003-425354「光近接効果補正のために集積回路を分類する方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月12日出願公開、特開2004-226965〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という)は、平成15年12月22日(パリ条約による優先権主張 2002年12月20日 米国)の出願であって、平成22年1月8日付けで拒絶理由が通知され、同年4月13日付けで手続補正がなされたが、同年7月6日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成22年11月8日に請求された拒絶査定不服審判事件であり、当該請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成23年5月27日付けで審尋がなされ、同年8月30日付けで当該審尋に対する回答書が提出された。



2.補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成22年11月8日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]

2-1.本願補正発明
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を以下のとおり補正することを含むものである(下線は補正箇所を示す)。

「集積回路(IC)チップ・デザインに対して光近接効果補正(OPC)を実行する方法であって、
(a)前記ICチップを複数の局所タスク領域に分割するステップであって、前記局所タスク領域の各々が、前記ICチップのレイアウト・グリッド・サイズの整数倍のサイズを有するように、分割するステップと、
(b)前記局所タスク領域に関する光学的影響の拡張された領域を特定するステップと、
(c)一致する局所タスク領域を識別するステップであって、
それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域内の形状及び該形状の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトルを生成するステップと、
前記特性ベクトルのそれぞれを正規化するステップであって、各特性ベクトルを形状インデックスによってソートしかつ前記拡張された領域を操作して、第1の特徴インスタンスが所定のノーマル位置にあるようにする、正規化ステップと、
前記正規化された前記特性ベクトルを比較して、一致する局所タスク領域を決定するステップと
からなる識別ステップと、
(d)一致する局所タスク領域を対応するグループにグループ化するステップと、
(e)一致する局所タスク領域のそれぞれのグループに単一のOPC工程を実行するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

上記の請求項1に係る補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明において、発明を特定するための事項である「正規化するステップ」について、「各特性ベクトルを形状インデックスによってソートしかつ前記拡張された領域を操作して、第1の特徴インスタンスが所定のノーマル位置にあるようにする」ものであると限定することを含むものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明(以下「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて以下に検討する。


2-2.引用発明
2-2-1.刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開2001-013669号公報(以下「引用例」という)には、以下の技術事項が記載されている(後述の「2-2-2.引用発明の認定」において引用した記載に下線を付した)。

「【請求項1】 リソグラフィで用いられるマスクの描画データ作成方法において、設計グリッド(G0)を持つ入力データの一部のパターンレイアウトを抽出する工程と、抽出された領域のパターンレイアウトのグリッドをG0より大きいG1に変換する工程と、このG1で定義されたパターンレイアウトをパターンマッチングする工程とを含むことを特徴とするマスク描画データ作成方法。
【請求項2】 請求項1において、マスク描画データ作成方法はさらに、パターンマッチングされたパターンを補正する工程、マッチングされたパターンに対する補正を入力データ全体に反映させる工程とを含むことを特徴とするマスク描画データ作成方法。
【請求項3】 請求項2のパターンの補正は、マスク描画、マスクのレジスト現像、マスクパターン形成のためのエッチング、ウエハ露光、ウエハのレジスト現像、ウエハパターンのエッチングのうちのいずれか1つ以上の工程において生じる近接効果を補償するようにパターンを変形するか、又はマスク描画時にパターンに与える照射量を調整することを特徴とするマスク描画データ作成方法。」

「【0014】
【発明の実施の形態】実施例
(第一の実施例)以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。図1は請求項1、2、3の実施形態に関わるマスク描画データ作成方法を説明するためのフローチャートである。図2(a)に示す入力データを具体例に説明する。入力データグリッドG_(0)はこの例では、1nmで、図2(a)に示す入力データの座標値はμm表示になっている。
【0015】まず、補正対象の点又は領域を抽出する(図1 STEP0)。ここでは、0.2μm□の矩形を補正対象とする。続いて、補正対象領域ごとに以下の処理を行う。
【0016】最初に補正対象領域周囲に設けたパターンマッチング領域のパターンレイアウトを抽出する(図1 STEP1、図2(b))。ここでパターンマッチング領域の大きさは0.2μmの矩形の外側0.5μmの領域としている。続いてパターンマッチング領域のグリッドをG_(0)より大きいG_(1)に変換する(図1 STEP2、図3(a))。グリッドG_(0)の段階では、パターンマッチング領域はA,B,Cで異なるが、グリッドG_(1)に変換後、AとCのパターンマッチング領域は、y軸中心にミラー反転すれば一致するので、A,B,Cのパターンマッチング領域は、パターン1とパターン2の2種類に分類することが出来る(図1 STEP3、図3(a))。
【0017】全ての補正対象領域についてパターンマッチングを行った後、分類されたパターンマッチング領域を補正する(図1 STEP4、図3(b))。本実施例では、マスクパターンをウエハ上に転写した際の光近接効果を補正するようにパターン角部に突起(セリフ)を付加した。補正の形状や補正量は、マスク描画、マスクのレジスト現像、マスクパターン形成のためのエッチング、ウエハ露光、ウエハのレジスト現像、ウエハパターンのエッチング等の近接効果を生じせしめる現象のうち、どの現象を補正するかによって決まる。
【0018】特にマスク描画を荷電粒子ビームで行う場合は、後方散乱電子に起因する近接効果を補正する必要があり、近接効果を補正する方法として、パターンを変形させずに、パターン照射のドーズ量を調整する場合もある。この場合は、パターンマッチング領域を補正した結果、図形が変形されるのではなく、補正対象領域にドーズ量の情報を与えることになる。
【0019】各パターンマッチング領域を補正した結果を入力レイアウト全体に反映させた結果(図1 STEP5) 、図3(c)に示す補正後のレイアウトが得られる。
(第二の実施例)図4は請求項4の実施形態に関わるマスク描画データ作成方法を説明するための図である。図4(a)はパターンAのパターンマッチング領域を図示したもので、この領域にはパターンB,C,Dが含まれる。グリッドは1nmで定義されている。図4の座標はμm単位の表示である。本実施例では、パターンマッチング領域をパターンAを中心とした1.8μm□の領域と、その外側3.2μm□までの領域とに分け、前者の領域内では、グリッドを5nmに変換し、後者の領域では10nmに変換した。通常パターン相互の近接効果は距離が遠いほど影響が小さくなるため、注目パターンから遠い領域ほど大きいグリッドに丸めても丸めによる影響は小さい。
【0020】図4(a)のパターンマッチングについてグリッドを変換した結果を図4(b)に示す。パターンBは幅が元々5nmしか無かったため、グリッドを変換した結果パターンが消滅してしまった。
【0021】本実施例では、領域を矩形状に分割したが、注目パターンを中心に同心円状に分割しても構わない。
【0022】また、領域分割の別の方法として、パターンマッチング領域の中心に配置された補正対象のパターンを定義するグリッドをGfとし、それ以外のパターンを定義するグリッドをGc( Gf< Gcの関係がある)としても良い。
(第三の実施例)図5は請求項5の実施形態に関わるマスク描画データ作成方法を説明するためのフローチャートである。レイアウト設計が終了した後(STEP0)、レイアウトデータはグリッドG_(0)で定義されている。 G_(0)より大きいグリッドG_(1)に変換する処理(STEP1)を行う。 G_(1)を設定する際には、グリッドを大きくすることによるデータ量の削減効果とグリッド丸めによる精度の劣化のバランスを考慮する。さらに、マスク描画装置のデータグリッド、マスク検査装置のデータグリッドとも整合が取れている方が好ましい。G_(1)で定義されたパターンデータ0に対し、Boolean演算を始めとするパターンデータ処理1(STEP2)、光近接効果補正(STEP3)、マスクプロセスを考慮したパターンデータ処理2(STEP4)、描画データへのフォーマット(STEP5)を順次行う。STEP1のグリッド変換はレイアウト設計後からマスク描画データが生成される前までの間のどこで行ってもよいが、なるべく上流で行った方が以降の処理における処理データ量を減らすことが出来るため好ましい。表1にグリッドの大きさとデータ量/処理時間の関係を示す。グリッドを大きくすることにより、データ量が大幅に削減し、さらに処理時間も短縮することが出来る。
(第四の実施例)図6は請求項6の実施形態に関わるマスク描画データ作成装置の構成図である。本装置は、例えば磁気ディスク等の記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、このプログラムによって動作が制御されるコンピュータによって実現される。
【0023】本装置は大きく分けて、制御部20、表示部30、入力部40、パターンデータ格納部50、パターンマッチングテーブル60から構成されている。
【0024】制御部20では、まずパターンレイアウト抽出手段21を用い、入力データの一部のパターンレイアウトを抽出する。ここで入力データのグリッドはG_(0)とする。続いて、グリッド変換手段22を用い、抽出された領域のパターンレイアウトをG_(0)より大きいG_(1)に変換する。さらにパターンマッチング手段23を用い、G_(1)で定義されたパターンレイアウトをパターンマッチングテーブル60を参照しながら分類する。マッチングパターン補正手段24では、パターンマッチングテーブルに含まれるパターンレイアウトについて、それぞれ補正を行う。補正の形状や補正量は、マスク描画、マスクのレジスト現像、マスクパターン形成のためのエッチング、ウエハ露光、ウエハのレジスト現像、ウエハパターンのエッチング等の近接効果を生じせしめる現象のうち、どの現象を補正するかによって決まる。
【0025】最後にレイアウト全体に補正を反映する手段25を用いて、パターンマッチング領域の補正結果をレイアウト全体に反映する。補正されたレイアウトはパターンデータ格納部50に格納する。」









2-2-2.引用発明の認定
上記段落【0014】乃至【0016】及び図2を参酌すると、パターンマッチング領域の入力データは、当該パターンマッチング領域に含まれる個々のパターンの各頂点の位置(座標)を用いて表現されたものであるといえる。
上記段落【0015】乃至【0019】、図2及び図3、並びに、当業者の技術常識を参酌すると、パターンマッチング領域とは、補正対象領域に関して(光)近接効果に影響を及ぼす範囲であると認められる。
上記段落【0016】及び【0024】の記載内容を参酌すると、引用例のパターンマッチング手段は、ミラー反転すれば一致するものも含め、複数のパターンマッチング領域を、パターンレイアウトが一致するもの毎に分類するものであるといえる。また、当該一致するもの毎に分類する際、一致するパターンマッチング領域を識別していることは明らかである。
上記段落【0015】乃至【0017】及び図3(b)の記載内容を参酌すると、引用例の補正(光近接効果補正)は、パターンレイアウトにおける補正対象の領域に対して行われていることがわかる。


上記事項及び引用例の全記載から、引用例には、

「 近接効果を補償するようにパターンを変形することを含む、リソグラフィで用いられるマスクの描画データ作成方法であって、
入力データグリッドG_(0)1nmにおいて0.2μm□の矩形の複数の補正対象領域を抽出し、
補正対象領域毎に、補正対象領域に関して近接効果に影響を及ぼす範囲であるパターンマッチング領域のパターンレイアウトを抽出し、パターンマッチング領域の大きさは0.2μmの矩形の外側0.5μmの領域とし、
各パターンマッチング領域のパターンレイアウトの入力データは、当該パターンマッチング領域に含まれる個々のパターンの各頂点の位置(座標)を用いて表現されたものであり、
パターンマッチング領域のグリッドをG_(0)より大きいG_(1)に変換した後、パターンマッチング手段により、一致するパターンマッチング領域を識別し、ミラー反転すれば一致するものも含め、複数のパターンマッチング領域を、パターンレイアウトが一致するもの毎に分類し、
マッチングパターン補正手段により、パターンマッチングテーブルに含まれるパターンマッチング領域のパターンレイアウトにおける補正対象の領域に対して、近接効果を生じせしめる現象のうちどの現象を補正するかによって決まる補正の形状や補正量に基づいた補正をそれぞれ行う、
方法。」
(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。


2-3.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】乃至【0010】の記載を参酌すると、本願補正発明において、光近接効果補正を行う対象は、集積回路(IC)チップを作成する際に用いられるレチクル(マスク)の設計データであると認められる。
よって、引用発明の「近接効果を補償するようにパターンを変形することを含む、リソグラフィで用いられるマスクの描画データ作成方法」は、本願補正発明の「集積回路(IC)チップ・デザインに対して光近接効果補正(OPC)を実行する方法」に相当する。

本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】を参酌すると、本願補正発明の「レイアウト・グリッド・サイズ」とは、レチクル(マスク)の設計データにおける最小単位を表すものと認められる。
一方、引用発明の「入力データグリッド」とは、段落【0014】及び図2の記載並びに当業者の技術常識から、マスクの描画データにおける最小単位であることは明らかである。
よって、引用発明の「入力データグリッド」は、本願補正発明の「レイアウト・グリッド・サイズ」に相当し、前記のように該入力データグリッドはマスクの描画データにおける最小単位であるから、マスクの描画データにおける各領域のサイズがその整数倍となっていることは明らかである(例えば、引用発明の「補正対象領域」は「0.2μm□の矩形」であり、そのサイズは「入力データグリッドG_(0)1nm」の200倍であることが分かる)。
してみれば、引用発明の「入力データグリッドG_(0)1nm」における「0.2μm□の矩形の複数の補正対象領域」は、本願補正発明の「ICチップのレイアウト・グリッド・サイズの整数倍のサイズを有する」「局所タスク領域」に相当する。
また、引用発明において、「複数の補正対象領域を抽出し」ていることは、本願補正発明において、「ICチップを複数の局所タスク領域に分割する」ことに相当する。
したがって、引用発明の「入力データグリッドG_(0)1nmにおいて0.2μm□の矩形の複数の補正対象領域を抽出」することは、本願補正発明の「前記ICチップを複数の局所タスク領域に分割するステップであって、前記局所タスク領域の各々が、前記ICチップのレイアウト・グリッド・サイズの整数倍のサイズを有するように、分割するステップ」に相当する。

本願補正発明において、「局所タスク領域に関する光学的影響の拡張された領域」とは、局所タスク領域に関して光近接効果に影響を及ぼす領域を意味することは明らかであるので、引用発明において、「補正対象領域毎に、補正対象領域に関して近接効果に影響を及ぼす範囲であるパターンマッチング領域のパターンレイアウトを抽出し、パターンマッチング領域の大きさは0.2μmの矩形の外側0.5μmの領域とし」ていることは、本願補正発明の「前記局所タスク領域に関する光学的影響の拡張された領域を特定するステップ」に相当する。

本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】、【0022】及び図3を参酌すると、本願補正発明における「形状」とは、設計データ上の個々のパターンを意味するものと認められる。
よって、引用発明の「個々のパターン」は、本願補正発明の「形状」に相当する。
本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】及び図5を参酌し、かつ、局所タスク領域に対する光近接効果補正が、その周辺領域(本願補正発明における「局所タスク領域に関する光学的影響の拡張された領域」(本願の明細書の発明の詳細な説明における「拡張タスク領域」))のパターンの配置に影響されることも考慮すると、本願補正発明の「それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域内の形状及び該形状の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトルを生成する」ことは、それぞれの局所タスク領域に対して設定される光学的影響の拡張された領域内のパターン(形状)、該パターン(形状)の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトルを生成することであると認められる。
したがって、引用発明において、「各パターンマッチング領域のパターンレイアウトの入力データは、当該パターンマッチング領域に含まれる個々のパターンの各頂点の位置(座標)を用いて表現されたものであり」、「一致するパターンマッチング領域を識別し」ていることと、本願補正発明において、
「一致する局所タスク領域を識別するステップ」
を有し、該ステップが、
「それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域内の形状及び該形状の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトルを生成するステップ」と、
「前記特性ベクトルを比較して、一致する局所タスク領域を決定するステップと
からなる識別ステップ」
とは、
「一致する局所タスク領域を識別するステップ」
を有し、該ステップが、
「それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域を記述するデータを生成するステップと、
一致する局所タスク領域を決定するステップと、
からなる識別ステップ」
である点で一致する。

前述のように、本願補正発明の「特性ベクトル」は局所タスク領域に対して設定される光学的影響の拡張された領域内のパターン(形状)について生成されるものであると認められ、本願補正発明では、当該特性ベクトルを比較して一致する局所タスク領域を決定しているのであるから、本願補正発明における「一致する局所タスク領域を対応するグループにグループ化する」ことは、局所タスク領域に対して設定される光学的影響の拡張された領域が一致する領域をグループとしてグループ化することであると認められる。
したがって、引用発明の「パターンマッチング手段により」、「複数のパターンマッチング領域を、パターンレイアウトが一致するもの毎に分類」することは、本願補正発明の「一致する局所タスク領域を対応するグループにグループ化するステップ」に相当する。

引用発明の「マッチングパターン補正手段により、パターンマッチングテーブルに含まれるパターンマッチング領域のパターンレイアウトにおける補正対象の領域に対して、近接効果を生じせしめる現象のうちどの現象を補正するかによって決まる補正の形状や補正量に基づいた補正をそれぞれ行う」ことは、本願補正発明の「一致する局所タスク領域のそれぞれのグループに単一のOPC工程を実行するステップ」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、

「集積回路(IC)チップ・デザインに対して光近接効果補正(OPC)を実行する方法であって、
(a)前記ICチップを複数の局所タスク領域に分割するステップであって、前記局所タスク領域の各々が、前記ICチップのレイアウト・グリッド・サイズの整数倍のサイズを有するように、分割するステップと、
(b)前記局所タスク領域に関する光学的影響の拡張された領域を特定するステップと、
(c)一致する局所タスク領域を識別するステップであって、
それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域を記述するデータを生成するステップと、
一致する局所タスク領域を決定するステップと
からなる識別ステップと、
(d)一致する局所タスク領域を対応するグループにグループ化するステップと、
(e)一致する局所タスク領域のそれぞれのグループに単一のOPC工程を実行するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

である点で一致し、以下の各点で一応相違する。

(相違点1)
本願補正発明では、「局所タスク領域を記述するデータ」が、「局所タスク領域内の形状及び該形状の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトル」であるのに対し、引用発明では、「パターンマッチング領域に含まれる個々のパターンの各頂点の位置(座標)を用いて表現されたものあ」る点。

(相違点2)
本願補正発明では、「一致する局所タスク領域を識別するステップ」が、
「前記特性ベクトルのそれぞれを正規化するステップであって、各特性ベクトルを形状インデックスによってソートしかつ前記拡張された領域を操作して、第1の特徴インスタンスが所定のノーマル位置にあるようにする、正規化ステップ」
を有しているのに対し、引用発明では、上記正規化するステップが特定されていない点。

(相違点3)
「一致する局所タスク領域を決定するステップ」が、本願補正発明では「正規化された」「特性ベクトルを比較して」行われているのに対し、引用発明では、一致するパターンマッチング領域を識別するための手法が特定されていない点。


2-4.判断
2-4-1.相違点1について
引用発明において、パターンの各頂点の位置(座標)から、パターン(の形状)、パターンの相対的方向、パターンの位置を決定することができるので、引用発明の「入力データ」は、「パターンマッチング領域に含まれる個々のパターン」の形状、該形状の相対的方向及び位置を記述したものであるといえる。
よって、引用発明において、「各パターンマッチング領域のパターンレイアウトは、当該パターンマッチング領域に含まれる個々のパターンの各頂点の位置(座標)を記述することにより表現したものであ」る「入力データ」は、パターンマッチング領域(本願補正発明の「光学的影響の拡張された領域」)内のパターンの形状、相対的方向及び位置を記述するものであり、本願補正発明の「それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域内の形状及び該形状の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトル」と実質的に変わりはない。
よって相違点1は実質的な相違点ではない。

2-4-2.相違点2について
まず、本願の明細書及び図面全体を参酌するに、本願補正発明における上記相違点2における「特徴インスタンス」は、本願補正発明における「形状」と同じものを指すと認められる。
また、本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0033】、【0034】及び図5、8を参酌すると、本願補正発明の「所定のノーマル位置にあるようにする」とは、反転や回転を行うことにより、予め決められた所定位置及び向きとすることであると認められる。
これらの事項及び本願の明細書及び図面全体並びに当業者の技術常識を参酌すると、本願補正発明における「正規化ステップ」は、特性ベクトル同士を比較可能なように、所定の記述形式に統一するためのものであるといえる。

一方、引用発明においては、「パターンマッチング手段により」、「ミラー反転すれば一致するものも含め、複数のパターンマッチング領域を、パターンレイアウトが一致するもの毎に分類し」ているのであるから、複数のパターンマッチング領域は、それら全てのパターンマッチング領域が相互に比較されるものであると認められる。
上記のような比較が行われる場合、引用例の図2、3等からも明らかなように、各パターンマッチング領域には複数のパターンが存在する場合があるので、それらが一致するか否かを判断する際、当該パターンレイアウトの記述表現において、上記複数のパターンをどのような順序で記述するのかを統一、すなわち何らかのソートをしておく必要があることは明らかである。
よって、引用発明のパターンレイアウトの記述表現において、複数のパターンの記述順序を統一するために、何らかのソートを行うものである蓋然性が高い。仮にそうでないとしても、同様の理由により、何らかのソートを行う構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
ここで、当該ソートは、比較対象の領域間で記述表現が統一されていれば足り、どのようなパラメータでソートを行うかに何ら技術的意味はなく、領域間で比較可能にするためのデータ処理手法の違いに過ぎない。
よって、ソートを行うパラメータとして「形状インデックス」を採用することは、単なるデータ処理手法の1つを選択したに過ぎず、当業者が適宜設計する事項である。
また、引用発明においても、ミラー反転したもの同士をパターンレイアウトが一致するものと判断していること、及び、相対回転したものも同様の光近接効果補正が行われることは当業者の技術常識であることから、当該一致するか否かの判断における比較を行う際、上記のようなパターンレイアウト同士が一致するものであると判断されるようにするために、パターンレイアウトの記述表現において所定のパターンが予め決められた位置及び向きとなるようにすることは、領域間のパターンレイアウトを比較可能とするためのデータ処理の手法に過ぎず、当業者が適宜成し得る事項であると認められる。

したがって、上記相違点2の「前記特性ベクトルのそれぞれを正規化するステップであって、各特性ベクトルを形状インデックスによってソートしかつ前記拡張された領域を操作して、第1の特徴インスタンスが所定のノーマル位置にあるようにする、正規化ステップ」という事項は、領域間のパターンレイアウトを比較可能とするためのデータ処理の手法に過ぎず、引用発明に上記事項を採用することは、当業者が適宜成し得る事項であると認められるから、相違点2に係る本願補正発明の構成を得ることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

2-4-3.相違点3について
引用発明では、「パターンマッチング領域のパターンレイアウトの入力データ」を「パターンマッチング領域に含まれる個々のパターンの各頂点の位置(座標)を用いて表現」しているのであるから、一致するパターンマッチング領域を識別する際、入力データ(本願補正発明の「特性ベクトル」)を比較して行うことは、当業者が適宜なし得る事項である。また、“正規化”については、「2-4-2.相違点2について」で既に述べたように、当業者が適宜成し得る事項であると認められる。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の構成を得ることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。


2-5.本願補正発明の効果について
本願補正発明による効果は、引用発明に基いて、当業者が予測し得る範囲内のものに過ぎず、格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は回答書において、
「・・・引用文献1、3及び4に記載された発明をどのように引用文献2の発明と組み合わせても・・・本願発明の特徴的な構成によって達成される著しい効果も得られない」
と主張しているが、当該“著しい効果”がどのようなものであるのか何ら述べられておらず、何ら格別なものは見出せない。


2-6.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



3.本願発明について
3-1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成22年4月13日付け手続補正により補正された以下のとおりのものである。

「集積回路(IC)チップ・デザインに対して光近接効果補正(OPC)を実行する方法であって、
(a)前記ICチップを複数の局所タスク領域に分割するステップであって、前記局所タスク領域の各々が、前記ICチップのレイアウト・グリッド・サイズの整数倍のサイズを有するように、分割するステップと、
(b)一致する局所タスク領域を識別するステップであって、
(b1)それぞれの局所タスク領域に対して、該局所タスク領域内の形状及び該形状の相対的方向及び位置を記述する特性ベクトルを生成するステップと、
(b2)前記特性ベクトルを比較して、一致する局所タスク領域を決定するステップとからなる識別ステップと、
(c)一致する局所タスク領域を対応するグループにグループ化するステップと、
(d)一致する局所タスク領域のそれぞれのグループに単一のOPC工程を実行するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」


3-2.引用例
引用例及びその記載事項は、前記「2-2.引用例」に記載したとおりである。


3-3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明において、「前記局所タスク領域に関する光学的影響の拡張された領域を特定するステップ」を含み、かつ、「一致する局所タスク領域を識別するステップ」が「前記特性ベクトルのそれぞれを正規化するステップであって、各特性ベクトルを形状インデックスによってソートしかつ前記拡張された領域を操作して、第1の特徴インスタンスが所定のノーマル位置にあるようにする、正規化ステップ」からなると限定のあるところ、これを削除したものに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、前記「2-3.対比」で述べた相違点1及び3において相違するが、前記「2-4-1.相違点1について」及び「2-4-3.相違点3について」で述べたように、相違点1及び3は、引用発明に基いて当業者が容易に想到することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。


3-4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受ける事ができない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-16 
結審通知日 2012-03-19 
審決日 2012-04-02 
出願番号 特願2003-425354(P2003-425354)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
神 悦彦
発明の名称 光近接効果補正のために集積回路を分類する方法及びシステム  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 大塚 住江  
代理人 小野 新次郎  

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