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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1261318
審判番号 不服2011-1935  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-26 
確定日 2012-08-08 
事件の表示 特願2004-120194「有機ELディスプレイパネル及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月11日出願公開、特開2004-319507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年(2004年)4月15日(パリ条約による優先権主張 2003年4月16日 大韓民国)の出願(特願2004-120194号)であって、平成21年11月16日付けで拒絶理由が通知され、平成22年2月24日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年3月18日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年6月18日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年9月30日付けで同年6月18日付け手続補正に対する補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年1月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成23年8月25日付けで当審から期限を指定して審尋をしたが、期限内に回答書は提出されなかった。

第2 平成23年1月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成23年1月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成22年2月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「ITOストリップ、補助電極、有機EL層、陰極ストリップが形成されたガラス基板を密封材で封止板に結合して形成される有機ELディスプレーパネルにおいて、
前記補助電極と前記密封材が交差する部分で、前記補助電極を格子形態に形成し、
前記格子形態は、複数の円形によって形成され、
前記補助電極の前記複数の円形は、第1方向および第2方向に整列され、
前記第1方向は、前記第2方向に対して垂直であり、
前記第1方向に沿って配置された前記複数の円形の間の第1距離は、前記第2方向に沿って配置された前記複数の円形の間の第2距離よりも小さい
ことを特徴とする有機ELディスプレーパネル。」が

「ITOストリップ、補助電極、有機EL層、陰極ストリップが形成されたガラス基板を密封材で封止板に結合して形成される有機ELディスプレーパネルにおいて、
前記補助電極と前記密封材が交差する部分で、前記補助電極を格子形態に形成し、
前記格子形態は、複数の円形によって形成され、
前記補助電極と前記密封材が交差する領域を含む所定領域とガラス基板の一部領域まで拡張して、前記有機EL層の周囲に形成される絶縁膜を含み、
前記密封材が前記ガラス基板と前記絶縁膜との間に位置し、
前記密封材を硬化させるための紫外線が前記補助電極に形成された格子を通過して前記密封材に到達する
ことを特徴とする有機ELディスプレーパネル。」と補正された。

本件補正における、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の補正は、
a.補正前の「前記補助電極の前記複数の円形は、第1方向および第2方向に整列され、前記第1方向は、前記第2方向に対して垂直であり、前記第1方向に沿って配置された前記複数の円形の間の第1距離は、前記第2方向に沿って配置された前記複数の円形の間の第2距離よりも小さい」とする特定事項を削除するとともに、
b.「前記補助電極と前記密封材が交差する領域を含む所定領域とガラス基板の一部領域まで拡張して、前記有機EL層の周囲に形成される絶縁膜を含み、前記密封材が前記ガラス基板と前記絶縁膜との間に位置し、前記密封材を硬化させるための紫外線が前記補助電極に形成された格子を通過して前記密封材に到達する」とする特定事項によって限定するものである。

2 新規事項追加の違反についての検討
(1)上記の「1 本件補正について」の「b.」の補正事項によって特定された特定事項、特に、「前記密封材が前記ガラス基板と前記絶縁膜との間に位置」することが、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるかについて検討する。

(2)上記の「前記密封材が前記ガラス基板と前記絶縁膜との間に位置」することに関して、当初明細書等の発明の詳細な説明には「密封材」、「ガラス基板」及び「絶縁膜」の形成について、次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

「【0016】
図5Aないし図5Fは、本発明による有機ELディスプレイパネルの製造過程を示した断面図である。
先に、図5Aに示したように、ガラス基板511上に陽極を印加するためにITOストリップ512を形成する。この時、後述する隔壁の間に長さが短いITOストリップ(512-A)を同時に形成する。これは後述する陰極ストリップの抜き取りを容易にするためである。
【0017】
引き続き、図5Bに示したように、ITOストリップ512の幅より小さくモリブデン(Mo)、クロム(Cr)などのように導電性の良い金属で補助電極513を形成する。この時、シリング時に利用される後述する密封材と補助電極513とが垂直に交差する部分に補助電極513を格子形態で形成する。そうすると、UVを使って密封材を硬化させる時、補助電極513により硬化しない部分を減らすと同時に、補助電極513の線幅を減少させることで配線抵抗の増加を防止することができる。
【0018】
即ち、図6に示したように、補助電極513を多角形、十字架、円形、またはこれらのうち二つ以上を組み合わせた格子状で形成することができる。 但し、隣り合う格子パターンが互いに繋がらないように各パターン間の距離を最適に設定する。望ましくは各パターン間の距離を0より大きく設定する。
引き続き、図5Cに示したように、絶縁膜516を形成する。この時、絶縁膜516を、密封材と補助電極513とが交差する領域を含む所定領域とガラス基板511の一部まで拡張して、後述する有機EL層の周囲に形成する。また、後述する陰極ストリップ間を絶縁するために、図5Dに示したように、電気的に絶縁である隔壁517を形成する。
その後、図5Eに示したように、正孔輸送層、発光層、電子輸送層からなる有機EL層514を加えた後、Mg-Ag合金とアルミニウムまたはその他の導電性物質からなる陰極 ストリップ515を形成する。
【0019】
最後に、図5Fに示したように、密封材518を使って封止板519を接着させて有機ELディスプレイパネルを完成する。」

「【図5A】


「【図5C】


「【図5F】



(3)上記記載から、最初に(先に)「ガラス基板」が用意され、次に(引き続き)「絶縁膜」が形成され、最後に「密封材」が使われるのであるから、「密封材」、「ガラス基板」及び「絶縁膜」の配置順序は、下からガラス基板、絶縁膜、密封材の順序で配置されることとなり、上記の本件補正により特定された「前記密封材が前記ガラス基板と前記絶縁膜との間に位置」することは、上記の当初明細書等の【0016】ないし【0019】並びに【図5A】ないし【図5F】の記載と矛盾しており、また、当初明細書等の他のどこにも記載も示唆もされていない。

(4)以上のとおりであるから、上記の「1 本件補正について」の「b.」の補正事項は、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないもの」ということができないから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正であるということはできない。
よって、本件補正は、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。

3 補正の目的の違反についての検討
本件補正は、上記「1 本件補正について」における上記の「a.」の請求項の一部の特定事項を削除する補正事項を含むものである。そして、請求項の一部の特定事項を削除することは、請求項の記載によって特定された技術的範囲を実質的に拡張することを意味するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1ないし4号に掲げるいずれか事項を目的とするものということができない。
よって、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年1月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年2月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項5】
ガラス基板上に陽極を印加するために透明電極であるITOストリップを形成する第1過程と、
前記ITOストリップの幅より小さく補助電極を格子形態に形成し、前記格子形態は、複数の十字架型によって形成される第2過程と、
絶縁膜及び隔壁を形成する第3過程と、
有機EL層を形成した後、陰極ストリップを形成する第4過程と、
密封材を使って封止板と前記ガラス基板とを接着させる第5過程と、
を含むことを特徴とする有機ELディスプレーパネルの製造方法。」

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-36381号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は一般的に有機エレクトロルミネッセントディスプレーパネルに関し、特に、ディスプレーパネルが周囲環境条件下で用いられるときに劣化する場合があるディスプレーパネルのその部分の上をカバーでシールするための輻射線硬化性周辺シールを有するパネルに関する。
【0002】
【従来の技術】有機エレクトロルミネッセントディスプレーパネル(以下、「有機ELディスプレーパネル」という)を、透光性基板の上に縦列と横列が交叉するように配列された複数の発光画素を有するイメージディスプレーアレイを有するように構成することができる。「ディスプレーパネル」の用語には、シンボルもしくはアイコンとして形作られた単一の発光画素もしくは単一の発光領域を包含する。
【0003】一つの形態では、有機ELディスプレーパネルは次のように構成される:透光性基板の上に一連の複数の横方向に間隔を開けた透光性陽極を設ける。そして、有機EL媒体を透光性基板の上で且つ透光性陽極の上方に形成する。有機EL媒体は、組合わさって光を放出することができる、上に横たわる数枚の有機材料の薄層からなる。複数の平行に横方向に間隔を開けた陰極を、陽極に対して配向して、EL媒体の上に配置する。
【0004】一方では各陽極と陰極との永久且つ信頼性のある電気接触を提供するため、また他方ではそれぞれの電極と電気駆動信号発生器との信頼のある電気接続を提供するために、電極の各端子と電気的に接触するように金属化リーダを形成する。次に、金属化リーダによって、対応する陽極もしくは対応する陰極を電気コネクタを介して電気駆動信号アドレス系に接続する。
【0005】別の形態では、有機ELディスプレーパネルを、次のように透光性基板上に構成する:少なくとも1つの薄膜トランジスタ(TFT)を、当業者に公知の半導体加工技法を用いて基板上に形成する。外部信号発生器からTFTに与えられるソース入力信号及びゲート入力信号の両方がTFTを「ON状態」するとき、陰極に正の電気信号を与えるTFTのドレインコンタクトに電気接続された透光性陽極を設けることによって、有機EL発光画素をTFTと一緒に形成する。
【0006】有機EL媒体を陽極の上に配置し、陰極をEL媒体の上に設ける。陰極は環境に安定で、且つ陰極と、陰極を接地バスもしくは適当に選択されたバイアス電圧源に接続する電気コネクタとの間に信頼性のある電気接続を提供するのに役立つ金属化リーダを必要とする。陰極とは反対に、TFTのソース、ドレイン及びゲート電極、並びにそれらの個々のソースリード、ドレインリード及びゲートリード並びに関連するボンドパッドは、これらの要素が環境的に安定で耐摩耗性の材料(例えば、ポリシリコン、アルミニウム-シリコン合金、及びタングステンケイ化物材料)から作られているので、一般的に追加の金属化リーダを必要としない。
【0007】駆動信号が陽極で陰極よりも正になるように、電気駆動信号を陽極のいずれか一つと陰極のいずれか一つに与えると(もしくはTFTがON状態になると)、陰極からEL媒体に電子が注入され、そして陽極からEL媒体に正孔が注入されて、EL媒体中で再結合し、そこから発光を生じる。前述したように、有機ELディスプレーパネルの二種類の構成では、観測者が目で見る場合、光は透光性陽極を通りそして透光性基板を通って放出される。
【0008】金属化リーダは、所望の導電性を提供し、金属化リーダに電気コネクタを取り付けるのに望ましい結着性と耐摩耗性を有する、十分な厚みと幅の金属もしくは金属合金層から形成される。従って、金属化リーダは光学的に不透明である。
【0009】陽極は、好ましくは、透光性インジウム-スズ酸化物(ITO)から作られ、陰極は、好ましくは、金属合金材料、例えば、マグネシウム銀合金材料等の金属合金材料の蒸着によって作られる。陰極は通常光学的に不透明である。
【0010】EL媒体及び陰極は両方とも、ディスプレーパネルを周囲環境条件下で操作すると水分及び/又は酸素によって起きる劣化を被る。そのような劣化は高温で促進される。
【0011】従って、EL媒体及び陰極は保護される必要がある。有機媒体が溶剤によって悪影響もしくは破滅的な影響をうけるので、溶剤コート保護層、例えば、溶剤コート有機樹脂をディスプレーパネルの表面全体をシールするために用いることができない。
【0012】複数の発光画素を有し、リーダの端子部分が電気コネクタを結合するボンドパッドとして変わらず利用できるように陽極及び陰極(もしくは、ディスプレーパネルの構成が必要とする場合は、ソース、ドレイン、及びゲート線)を伴う金属リーダの部分と交叉する、パネルの活性領域の外側の基板上に延在する周辺シール帯に沿って、カバーとディスプレーパネルの間に、有効なシールを提供できるならば、有機ELディスプレーパネルをシールする保護カバーは、パネルの活性領域に大きな環境上の保護を提供することができる。溶剤を用いない熱硬化性樹脂、及びホットメルト接着剤が市販されており、有機ELディスプレーパネル上で保護カバーをシールするために用いられている。
【0013】有効なシールを提供するために、熱硬化性樹脂は実質的な高温(90?150℃)且つ長時間(20?60分)の硬化条件を必要とする場合がある。ホットメルト接着剤は、一般的に、約150℃の温度で「溶融」して、カバーの表面に液体接着剤のビードを形成する。ディスプレーパネルをカバーに対して配向し、カバー面を押しつけて、有機ELディスプレーパネルとカバーとの間に周辺シールを形成する。
【0014】上述の周辺シール形成材料から作られるカバーシールは次の三つの主たる欠点を有する:
(1)有機ELディスプレーパネルの画素によって発光する光の強度の無視できない低下が、高温及び長い硬化時間要件に起因する有機EL媒体の部分的な劣化によって生じる場合がある;
(2)高温硬化要件によって、シール形成材料とカバー及び/又はディスプレーパネルとの熱膨張係数の不一致による周辺シールに展開する応力にほとんど大部分起因する周辺シールの長時間劣化を生じる場合がある;
(3)高温及び長時間硬化時間要件の結果として、製造環境でシールされるディスプレーパネルの実際の処理量が制限される場合がある。
【0015】前述の熱硬化性樹脂シール及びホットメルト接着シールに伴う問題は、周辺シールによって有機ELディスプレーパネルの上を保護カバーでシールするための、輻射線硬化性樹脂もしくはUV硬化性接着剤として種々知られている市販のシール形成材料のクラスを用いることによって、原則として克服することができる。しかし、輻射線硬化性樹脂の周辺シールを形成する際の一つの実質的な制限は、リーダに起因する光学的シャドウイングによる光学的に不透明な金属化リーダの直ぐ上の領域にあるシールが部分的に不十分もしくは不完全に硬化することである。」

「【0022】
【発明の実施の形態】以下、図を参照しながら本発明を説明する。有機ELディスプレーパネルの主要点、例えば、総厚寸法はサブミクロン範囲であることが多いが、有機ELディスプレーパネルの横方向寸法はより大きな寸法を有する場合があるので、図面は正確な寸法よりも目で見るのに容易なスケールである。本発明をより明りょうにするために、断面図から有機EL媒体を形成する複数の層を省略している。以下の説明で、類似の呼称は類似の部分もしくは機能を示す。本発明の有機ELディスプレーパネル材料は、Tangの米国特許第4,356,429 号明細書;VanSlyke等の米国特許第4,539,507 号明細書;VanSlyke等の米国特許第4,720,432 号明細書;Tang等の米国特許第4,885,211 号明細書;Tang等の米国特許第4,769,292 号明細書;Perry 等の米国特許第4,950,950 号明細書;Littman 等の米国特許第5,059,861 号明細書;VanSlyke等の米国特許第5,047,687 号明細書;VanSlyke等の米国特許第5,059,862 号明細書;及びVanSlyke等の米国特許第5,061,617 号明細書(引用することにより本明細書の内容とする)に記載されているような通常の有機EL装置のいずれの形態も取ることができる。
【0023】図1の(1A)には、輻射線透過性且つ電気絶縁性基板12の上に配置された番号10で示す有機ELディスプレーパネルの平面図が示されている。基板12の一つの表面上に作られているものは横方向に間隔を開けた複数の輻射線透過性陽極14、陽極の上及びこれらの陽極間の基板上に形成された有機EL媒体16並びに陽極14の方向と直角方向にあるEL媒体16の上に配置された複数の陰極18である。電極の直角配向が選択されることが多いが、陰極が陽極に対して90度より小さいかもしくは大きい角度の空間関係も容易に想像できるであろう。有機ELディスプレーパネル10の陽極と陰極が交叉する交叉領域は発光画素P(そのような画素の2つだけを図1の(1A)に示す)のアレイを構成する。陽極14の明確な外形線はこれらの電極が輻射線透過性であることを示そうとするものである。陰極18の斜線のシェーディングは、これらの電極が電子注入金属合金組成物(例えば、マグネシウム-銀組成物)であるのが好ましいので、光学的に不透明であることを示そうとするものである。
【0024】リーダ20の各々が対応する陽極14と電気的に接触するように複数の横方向に間隔を開けた金属化リーダ20が形成され、そしてリーダ30の各々が対応する陽極18と電気的に接触するように複数の金属化リーダ30が設けられる。金属化リーダ20及び30は、所望の導電性及び所望の機械特性(例えば、容認できる耐摩耗性、並びに金属化リーダ20、30の指定されたボンドパッドゾーン部26、36に結合するように点線で示す電気コネクタ40及び60との信頼性のある電気接触を提供する能力)を提供する金属もしくは金属合金から形成される。
【0025】陽極14に対応する金属化リーダ20は、対応する陽極、そこでの輻射線透過性開口部を規定するパターン化されたシールゾーン24(詳細は、図6の(6A)?(6E)を参照されたい)、及び次の電気コネクタ40の連結のためのボンドパッドゾーン26と電気的に接触する陽極ゾーン22をそれぞれ有する。
【0026】同様に、対応する陰極18を伴う金属化リーダ30は、電極ゾーン32、パターン化されたシールゾーン34及び次の電気コネクタ60の連結のためのボンドパッドゾーン36をそれぞれ有する。金属化リーダ20及び30は同じ構造及び同じ寸法を有する。あるいは、例えば、陰極18が陽極14とは異なった幅寸法を有する場合は、金属化リーダ20の寸法は、金属はリーダ30の寸法と異なることができる。
【0027】これらの金属化リーダ20、30の前述した所望の導電性及び機械特性を達成するために、全ての金属化部分を光学的に不透明にする厚みで、リーダを金属もしくは金属合金から形成する。従って、その間で輻射線透過性開口部を規定するパターン化されたシールゾーン24及び34に形成された金属化導体であっても光学的に不透明である。
【0028】周辺シール帯44を、基体12の上で、金属化リーダ20、30のパターン化されたシールゾーン24及び34を通って延在する点線の外形線で表す。周辺シール帯を、例えば、この周辺シール帯44のコーナーを示す目で見ることができるマーキング(示していない)で、輻射線透過性基板12上に描くこともできる。後でより詳細に説明するように、周辺シール帯44は、ディスプレーパネルの保護カバーをシールするその上に形成される輻射線硬化性周辺シールの位置の輪郭を示す。
【0029】図1の(1B)には、図1の(1A)の断面線1B-1Bに沿う断面図が示されている。基板12の上面の上にあるディスプレーパネル高さ寸法hが示されているが、高さは小さくても1?3μmとなることができる。図1の(1B)の構成では、金属化リーダ20が、電気絶縁性輻射線透過性基板12の上面上に配置されている。リーダ20の電極ゾーン22は、この電極ゾーンの上に位置する輻射線透過性陽極14と電気的に接触している。
【0030】図1の(1C)には、図1の(1B)に示した断面図と同じような断面図が示されているが、輻射線透過性陽極14の端子上に形成されている金属化リーダ20を有し、それによって電極ゾーン22、パターン化されたシールゾーン24及びボンドパッドゾーン26がこの電極と電気的に接触されている点で異なる。
【0031】図2の(2A)及び(2B)には、ディスプレーパネル10(図1の(1A)を参照されたい)の周辺シール帯44と一致するように設計もしくは構成されている周辺シールフランジ74を有する保護カバー70の平面図と断面図が示されている。保護カバー70は内のり高さHを有し、Hはh(ディスプレイパネルの高さ)よりも大きい。好ましくは、この保護カバーは金属、例えば、アルミニウム、スチール、及び金属合金(例えば、スタンピング等の技法で形作られる真鍮、ステンレス鋼、及びNi/Fe合金)から作られる。そのような金属カバーは光学的に不透明である。他の好ましい保護カバー材料には、セラミック材料、ガラスもしくは水晶、及び周知の熱押出もしくは熱形成法によって形作ることができる輻射線透過性もしくは光学的に不透明なプラスチック材料が含まれる。
【0032】図3の(3A)には、その上側部分に図1の(1B)に示したのと同じような有機ELディスプレーパネル(ディスプレーパネル10は図1の(1C)のディスプレーパネルとなるように同じように選択することができる)、及びその下側部分に図2の(2B)の保護カバー70が示されている。保護カバー70の部分がホルダーもしくはジグ(示されてない)の凹部に置かれて、ホルダーもしくはジグの表面から上方に周辺シールフランジ74が突き出るようにホルダーもしくはジグ内にカバー70を支持もしくは保持する本発明の実施上の利点を表しているので、有機ELディスプレーパネル10及びカバー70は、逆さの表現で示されている。
【0033】輻射線硬化性樹脂のビード80は保護カバー70の周辺シールフランジ74に沿って形成され、10?100μmの範囲にわたる厚み寸法を有し、好ましくは、15?50μmの範囲にわたる厚み寸法を有する。輻射線硬化性樹脂のビード80を、例えば、プログラム可能な横方向に移動できる分配装置(示されてない)の一部を形成するノズルからビード80を分配もしくは押し出すことによって、周辺シールフランジ74の上に形成することもできる。本発明の実施では自動分配装置が用いられる。この自動分配装置は空気分配弁を有し、モデルA402としてAsymtek Corporation of Carlsbad, CA 92008 から市販されている。あるいは、ビード80をスクリーン印刷もしくはステンシル印刷の周知の方法によって形成することもできる。
【0034】ビード80を形成する輻射線硬化性樹脂は、分配されたとき電気絶縁性であるのが好ましい。しかし、図3の(3B)に示されるように、ビード80は輻射線硬化性周辺シール84に変形された後は電気絶縁性とならなければならない。輻射-硬化性樹脂のビード80は、好ましくは、輻射線硬化性樹脂とこの混合物に追加される有機もしくは無機フィラー粒子の混合物から形成される。フィラー粒子の物性(例えば、粒径、粒子形状)に従って、樹脂重量の1?70%の好ましい範囲の重量%で混合物に添加される。樹脂の粘度を調製し、そして/又はこの樹脂の熱膨張係数と基板及び保護カバーの熱膨張係数との整合を改善することが望ましい場合は、輻射線硬化性樹脂中にフィラー粒子を用いる。好適な無機フィラー材料の例には鉱物材料、酸化アルミニウム材料、及び酸化亜鉛材料である。
【0035】好適な有機フィラー材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレンの粒子、及びそれらの混合物が含まれる。そのような有機粒子は、種々の比較的狭い粒径分布で得ることができる。従って、比較的大きな(5?10μmまで)有機粒子を一定の重量比率で、「スペーサー粒子」として混合物に加えてビード80の厚みをコントロールすることができる。好ましい輻射線硬化性樹脂は、輻射線に露光すると架橋した分子配列を形成する傾向を有する材料である。特に好ましい輻射線硬化性樹脂の例は、アクリルモノマー、アクリルウレタン、エポキシ、及びアクリル/ウレタン混合物である。これらの好ましい輻射線硬化性樹脂を180?440nmの領域の波長を有する硬化輻射線に露光することによって硬化させることができる。硬化輻射線のこの波長領域は波長のスペクトルの深紫外領域から青光領域に広がる。
【0036】図3の(3B)には、周辺シールフランジ74と輻射線硬化性樹脂のビート80基板上に描かれた周辺シール帯44(図1の(1A)を参照されたい)とを合わせることによって、輻射線硬化性樹脂のビード80と有機ELディスプレーパネル10の表面との間の接触が確立されている。接触が確立されると、硬化輻射線90のフラッド露光を硬化輻射線の光源(示されてない)から輻射線透過性基板12を通って(そしてパターン化されたシールゾーン24を通って)、輻射線硬化性樹脂のビードに向けて、有機ELディスプレーパネル10上で、電気絶縁性輻射線硬化性周辺シール84を用いて保護カバーをシールする。硬化輻射線のフラッド露光を与えることができる好適な輻射線源には、ハロゲン化金属輻射線源、例えば、おおよそ180?500nmの波長範囲の輻射線を与えるのに適した水銀:キセノン輻射線源が含まれる。
【0037】上述したように、輻射線硬化性樹脂を約180nm?約440nmにわたる比較的広い範囲の波長をもつ輻射線で硬化させることができる。輻射線透過性基板12がガラス基板、例えば、ホウケイ酸ガラス板である場合、ガラス基板の光吸収率によってビード80に向けた輻射線90は有効波長領域(例えば、約330nm?約440nmの有効波長領域)に限定されるであろう。あるいは、輻射線透過性基板12が水晶板である場合は、輻射線源によって提供される実質的に全ての波長が基板を透過して、保護カバー70をパネル10にシールする輻射線硬化性周辺シール84の形成に寄与する。」

「【0042】図6の(6A)、(6B)、(6C)、(6D)及び(6E)には、金属化リーダ20、30の態様が示されている。各金属化リーダは電極ゾーン22、32、パターン化されたシールゾーン24、34、そしてボンドパッドゾーン26、36を有する。金属化リーダ20、30は幅寸法Wを用いて表され、パターン化されたシールゾーン24、34内の幅寸法wの金属化導体を有する。
【0043】図6の(6A)は、複数の平行する輻射線透過性開口部25、35を規定するパターン化されたシールゾーンを表し、各開口部は幅寸法wの金属化導体によって隣接する開口部と分離されている。図6の(6B)は、複数の長方形もしくは正方形の輻射線透過性開口部27、37を規定するパターン化されたシールゾーンを表し、各開口部は幅寸法wの交差する金属化導体によって隣接する開口部と分離されている。
【0044】図6の(6C)は、斜めに配向された幅寸法wの交差する金属化導体間に形成された輻射線透過性開口部29、39を規定するパターン化されたシールゾーン
を表す。図6の(6D)は、電極ゾーン22、32とボンドパッドゾーン26、36の間の幅寸法wの1つの金属化導体の両側に延在する輻射線透過性開口部28、38を規定するパターン化されたシールゾーンを表す。
【0045】図6の(6E)は、幅寸法wの1つの金属化導体の両側に延在する輻射線透過性開口部28、38を規定するパターン化されたシールゾーンを表す。電極ゾーン14、18は対応する反対側のボンドパッドゾーン26、36と比べると異なる形状からなる。
【0046】いくつかの問題点が、周辺シールゾーン24、34内に規定される輻射線透過性開口部の特定のパターンの選定に影響する。主たる問題は金属化リーダ20、30の導電性に関連する。金属化リーダ20、30がパターン化されたシールゾーン24、34を形成する前に初期電気伝導度値を有し、そして周辺シールゾーン24、34内の輻射線透過性開口部の形成時に最終電気伝導度値を有する場合、最終電気伝導度と初期電気伝導度値との間の好ましい比は0.3超である。最終電気伝導度と初期電気伝導度値間との好ましい比を維持しながら、間にある輻射線透過性開口部を規定する金属化導体の幅寸法wが、金属化リーダ20、30の幅寸法Wの0.05?0.3の好ましい範囲内となるように、パターン化されたシールゾーン24、34を形成することができる。
【0047】金属化リーダの全体寸法に依存し、そして前述の好ましい電気伝導度比内で、パター化されたシールゾーン内の金属化導体は1?2000μmの範囲の好ましい幅寸法wを有する。パターン化されたシールゾーンの他の構成は、例えば、複数の円、楕円、もしくは三角形開口部を規定するパターン化されたシールゾーンであって、前述の電導度比が達成されているものが考えられる。」

「【図1】


「【図3】


「【図6】



(2)引用例1に記載された発明の認定
引用例1の【0009】には、従来技術について、陽極として、透光性インジウム-スズ酸化物(ITO)を用いることが記載され、また、陽極としてITOを用いることは周知の技術であって、引用例1に記載された実施例の輻射線透過性陽極14としてITOを用いることが排除されているものとも認められないから、引用例1の実施例において輻射線透過性陽極14としてITOを用いることは当業者にとって自明の事項であるといえる。よって、上記記載(図面を含む)を総合すると、引用例1には、
「ガラス基板である輻射線透過性且つ電気絶縁性基板12の一つの表面上に横方向に間隔を開けた複数のITOからなる輻射線透過性陽極14が作られ、
輻射線透過性陽極の端子上に金属化リーダ20が形成され、各金属化リーダは、複数の長方形もしくは正方形の輻射線透過性開口部27を規定するパターン化されたシールゾーン24を有し、
陽極の上及びこれらの陽極間の基板上に有機EL媒体16が形成され、
有機EL媒体の上に複数の陰極18が配置され、
保護カバー70の周辺シールフランジ74に沿って輻射線硬化性樹脂のビード80が形成され、周辺シールフランジと輻射線硬化性樹脂のビートを基板上に描かれた周辺シール帯44に合わせ、硬化輻射線の光源から輻射線透過性基板を通って、そしてパターン化されたシールゾーンを通って、輻射線硬化性樹脂のビードに向けて硬化輻射線90のフラッド露光を与え、これによって、ビードは輻射線硬化性周辺シール84に変形され、そして、電気絶縁性の輻射線硬化性周辺シールを用いて保護カバーをシールする有機ELディスプレーパネルの製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-8871号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「【0011】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は実施形態の一例の有機EL表示パネル42を示し、これは複数の有機EL素子からなる表示パネル領域41と、有機EL素子に接続される外部端子及び配線からなる配線領域44とを含んでいる。
【0012】有機EL素子の表示パネル領域41は、基板2上にマトリクス状に配置されかつ各々が赤R、緑G及び青Bの発光部からなる発光画素の複数からなる画像表示配列領域である。図2に示すように、表示パネル領域41においては、第1表示電極即ち透明陽極ライン3と垂直方向の第2表示電極すなわち陰極ライン9との交差する部分に挟まれた対応色発光する有機EL媒体8により、各発光部が形成されている。第2表示電極ライン9は、それらの間に配置されかつ絶縁膜6上に形成された隔壁7により、電気的に分断されている。第2表示電極ライン9及び隔壁7の上には封止膜50が形成されている。
【0013】基板2上の表示パネル領域41を囲む配線領域44においては、図1に示すように、導電性の接続ライン5が対応する各電極に電気的に接続されて形成される。図3に示すように、接続ライン5上に導電性の肉厚部5aが形成されており、接続ライン5及び肉厚部5aの合計膜厚が、少なくとも最表面の表示電極すなわち陰極ライン9の膜厚より大であることにより、配線の断面積が拡大し配線の低抵抗化が達成される。接続ライン5は、最表面の表示電極すなわち陰極ライン9の形成材料と同一材料であり、表示電極の膜厚とほぼ同一の厚さで形成されている。同一の蒸着マスクを介して成膜されるからである。図3に示すように、肉厚部5aは、接続ライン5の成膜後に、接続ラインの形成材料と同一材料で形成される。
【0014】このように、配線の低抵抗化は、接続ラインが表示パネル領域上に形成された電極に比して肉厚の導電性肉厚部からなることにより、達成されるが、さらには、接続ラインを表示パネル領域上に形成された電極に比して表面積を大とするようにしても、配線の低抵抗化が達成される。また、接続ラインを、表示パネル領域上に形成された電極に比して低抵抗材料により構成することによっても、配線の低抵抗化の効果が達成される。
【0015】図4?図9は、本発明の実施形態における有機EL表示パネルが製造される工程を示す図である。先ず、図4に示すように、透光性のガラスなどの基板2を用意し、この主面上に、表示パネル領域41のためのITOからなる各々が平行に伸長する複数の第1表示電極即ち透明陽極3を形成する。同時に、アイコンなどの表示領域39及び画像表示配列領域の外の外部電極端部用、さらに、後に形成される陰極の接続用のパッド部3PもITOにより形成する。
【0016】なお、透明陽極3は、連結した複数の島状ITO電極を画像表示配列領域となるようにマトリクス状に形成し、これら島状ITO電極を水平方向に電気的に接続する金属のバス電極を蒸着して形成することもできる。ITO成膜の場合に、後述する接続ラインを接続する接続部conも同時に形成する。第1表示電極の各形状は、必ずしも同一形状でなくても良いが、後述する接続ラインを接続する接続部conをそれぞれ備えて形成される。
【0017】次に、図5に示すように、アイコンなどITO表示領域39の接続部con及び外部電極端部用及び陰極接続用のパッド部3P並びに透明陽極3端部の陽極接続部上に、Crなどの補助電極3bを形成する。これら補助電極3bはエッチングにより形成される。次に、図6に示すように、基板上に例えば感光性樹脂、SiO_(2)などを用いた絶縁層6を積層形成する。絶縁層6は、素子のドット発光部を型取る抜け部分すなわち第1表示電極3の部分、及び後述する接続ラインを接続するための接続部conが露出するように、貫通孔の開口部Hを除いて、基板上に形成される。同様に、アイコン表示領域39やその接続部、外部電極端部用及び陰極接続用のパッド部3P並びに透明陽極3端部の陽極接続部などの発光部や接続部となる部分を除いて、それらが露出するように絶縁膜にて被覆する。
【0018】さらに、図7に示すように、後工程で複数の第2表示電極9の陰極を分断して形成するため、感光性樹脂からなる互いに平行な複数の隔壁7も形成される。すなわち、第1表示電極3のドット発光部に対応する部分が露出するように、第1表示電極に対して垂直に伸長し所定間隔で位置するように複数の電気絶縁性の隔壁7を形成する。
【0019】次に、図8に示すように、絶縁層6の開口から露出している第1表示電極3のドット発光部に対応する部分上に、例えば、TPD/Alq_(3)からなる有機材料層8を形成する。この際、正孔輸送層の材料は有機材料層8は、少なくとも素子の発光表示領域全体を覆うように蒸着して形成してもよい。もちろん、有機材料層8は、第1表示電極の接続部conを避けて形成する。
【0020】次に、図9に示すように、第2表示電極(陰極)9と接続ライン5を同時に形成する。これは、例えば、第2表示電極9と接続ライン5の材料としてAlを用いて所定マスクにて蒸着を行なうことにより、第1表示電極3上に有機材料層8が形成された領域に、さらにAlからなる第2表示電極9が蒸着積層されて、素子の発光表示領域を形成し、その他のAl蒸着部分が接続ライン5を含んで形成される。このように、第1及び第2表示電極との各交差部有機材料層にて発光部を画定すると同時に、有機EL素子に接続される外部端子及び配線からなる配線領域44をも画定する。
【0021】また、この場合に、先に形成した接続部con上に接続ライン5の一部が蒸着されるので接続部conと接続ライン5が同時に電気的に接続される。次に、先の図1及び図3に示すように、さらに配線に必要な金属蒸着を繰り返して、接続ライン5上にAlからなる導電性の肉厚部5aを成膜して、有機EL素子の表示パネル領域41の結線を完成させる。肉厚部形成用のマスク開口部が大きくスリットが細いパターンを有するマスクでは、開口部近傍の強度が不足するので、肉厚部5aを成膜する際に肉厚部5aを複数間欠的に配置することにより、マスクが撓む問題を解消し、微細な配線パターンが形成できる。
【0022】最後に、第2表示電極の形成後、無機及び又は有機材料にて防湿用の封止膜50を領域全体に形成して封止し、フルカラーの有機EL表示パネルが得られる。」

「【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】



(4)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭58-60431号(実開昭59-166224号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「3.考案の詳細な説明
本考案は液晶セル、特に高密度ドットマトリクス駆動用液晶セルの電極構造に関する。
第1図及び第2図は従来の代表的なドットマトリクスセルの構造を示す断面図及び部分拡大平面図である。酸化インジウム等からなる電極3をそれぞれ有す基板1及び2の周辺を、エポキシ樹脂系接着剤等のシール材4によって接着し、その間隙部に液晶5を充填することにより液晶セルが構成されている。
近年、液晶表示装置の進歩、普及は目覚しいものがあり、多くの画像、文字等を表示する方向にある。そのためには、電極3のパターンの幅、及び隙間を微細にして、電極3とその間に位置する液晶5で構成される画素数及び画素密度を増大させる必要がある。
この様に、電極3のパターンの微細化によって、該電極3の材料としては従来の酸化インジウム等の薄膜からなる透明導電膜3aだけでなく、該透明導電膜3aの表面にクロム、ニッケル、金等の薄膜からなる金属電極3bを形成して、電極3のパターンの微細化による電気抵抗値の増大を防いでいる。 上記電極3a、3b構造からなる基板1、2の周辺部をエポキシ樹脂系接着剤等のシール材4によって接着した場合、従来に於ては、該シール材4の下部にも金属電極3bが連続的に配置されているので接着信頼性に欠ける、即ち、金属電極3bとシール材4の接着力は酸化インジウム3aのそれと比較して弱い。
殊に金は他の材料に比較して化学的に安定であり、該表面に水酸基などが形成されにくく、シール材4との結合力が極めて弱い。
従って、高湿度雰囲気等の使用条件下で、本構造からなる液晶セルは極めて短時間でシールがはがれ、空気もれ等が生じてしまう欠点がある。
本考案の目的は、透明電極膜3aの表面に更に金属電極3bを有す構造からなる液晶セルのシールの信頼性向上にある。
上記目的を達成するために本考案においては、シール材5の下部に配置される金属電極3bの一部を切り欠いておく。」(明細書第1ページ第11行?第3ページ第12行)





3 本願補正発明と引用発明の対比
(1)対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、
引用発明の「ガラス基板である輻射線透過性且つ電気絶縁性基板12」及び「ITOからなる輻射線透過性陽極14」が、それぞれ、本願発明の「ガラス基板」及び「陽極を印加するため」の「透明電極であるITOストリップ」に相当し、引用発明の「輻射線透過性且つ電気絶縁性基板12の一つの表面上に横方向に間隔を開けた複数のITOからなる輻射線透過性陽極14が作られ」る工程が、本願発明の「ガラス基板上に陽極を印加するために透明電極であるITOストリップを形成する第1過程」に相当する。

引用発明の「金属化リーダ20」及び「複数の長方形もしくは正方形の輻射線透過性開口部27を規定するパターン化(されたシールゾーン24)」が、それぞれ、本願発明の「補助電極」及び「格子形態」に相当し、引用発明の「輻射線透過性陽極の端子上に金属化リーダ20が形成され、各金属化リーダは、複数の長方形もしくは正方形の輻射線透過性開口部27を規定するパターン化されたシールゾーン24を有」する工程と、本願発明の「前記ITOストリップの幅より小さく補助電極を格子形態に形成し、前記格子形態は、複数の十字架型によって形成される第2過程」とは、「補助電極を格子形態に形成し、前記格子形態は、複数の特定形状によって形成される第2過程」である点で一致している。

引用発明の「有機EL媒体16」及び「陰極18」が、本願発明の「有機EL層」及び「陰極ストリップ」に相当し、引用発明の「陽極の上及びこれらの陽極間の基板上に有機EL媒体16が形成され、有機EL媒体の上に複数の陰極18が配置され」る工程が、本願発明の「有機EL層を形成した後、陰極ストリップを形成する第4過程」に相当する。

引用発明の「保護カバー70」及び「輻射線硬化性樹脂のビード80」から変形された「輻射線硬化性周辺シール84」が、それぞれ、本願発明の「封止板」及び「密封材」に相当し、引用発明の「保護カバー70の周辺シールフランジ74に沿って輻射線硬化性樹脂のビード80が形成され、周辺シールフランジと輻射線硬化性樹脂のビートを基板上に描かれた周辺シール帯44に合わせ、硬化輻射線の光源から輻射線透過性基板を通って、そしてパターン化されたシールゾーンを通って、輻射線硬化性樹脂のビードに向けて硬化輻射線90のフラッド露光を与え、これによって、ビードは輻射線硬化性周辺シール84に変形され、そして、電気絶縁性の輻射線硬化性周辺シールを用いて保護カバーをシールする」工程が、本願発明の「密封材を使って封止板と前記ガラス基板とを接着させる第5過程」に相当する。

(2)一致点
よって、本願発明と引用発明は、
「ガラス基板上に陽極を印加するために透明電極であるITOストリップを形成する第1過程と、
補助電極を格子形態に形成し、前記格子形態は、複数の特定形状によって形成される第2過程と、
有機EL層を形成した後、陰極ストリップを形成する第4過程と、
密封材を使って封止板と前記ガラス基板とを接着させる第5過程と、
を含む有機ELディスプレーパネルの製造方法。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(3)相違点
ア 相違点1
本願発明においては、「絶縁膜及び隔壁を形成する第3過程」を含むのに対して、引用発明においては、その点の限定がない点。

イ 相違点2
本願発明は、補助電極が「ITOストリップの幅より小さく」形成されるのに対して、引用発明においては、その点の限定がない点。

ウ 相違点3
本願発明においては、補助電極の格子形態が複数の「十字架型」によって形成されるのに対し、引用発明においてはのパターン化されたシールゾーンによって複数の「長方形もしくは正方形」の輻射線透過性開口部が規定される点。

4 当審の判断
(1) 上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
有機EL表示パネルにおいて、透明陽極の形成後であって、有機層及び陰極の形成前の工程で、絶縁層(絶縁膜)及び隔壁を形成することは引用例2に記載されているように周知の技術である。(引用例2の【0017】及び【0018】並びに【図4】?【図9】の記載参照。)
引用発明において、陽極と陰極の短絡を防ぐため、また、画素に対応して有機EL媒体(発光層)を区画するために、有機EL表示パネルにおける上記の周知の技術を採用し、透明陽極の形成後であって、有機層及び陰極の形成前の工程で、絶縁層(絶縁膜)及び隔壁を形成するようにして、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
金属電極は透明電極よりも導電性に優れることから、透明電極よりも細幅に形成することができることは技術常識から当然といえる。また、実際に、電気抵抗の増大を防ぐために透明電極の表面に接して設けられた金属電極の幅を透明電極の幅より小さく形成することは引用例3にも記載されていること(特に、引用例3の第2,3図の記載参照。)である。
補助電極をどの程度の大きさ(幅)に形成するかは、当業者が適宜設定し得る設計的事項であるところ、上記の金属電極と透明電極との導電性の観点や引用例3に記載されている事項を勘案して、引用発明においてITOからなる陽極(ITOストリップ)の幅より小さく形成するとして、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
引用例1の【0047】に「パターン化されたシールゾーンの他の構成は、例えば、複数の円、楕円、もしくは三角形開口部を規定するパターン化されたシールゾーンであって」と記載されており、引用例1のものにおいては、パターン化されたシールゾーンが規定する開口部の形状として、各種の形状が想定されており、どのような形状とするかは、当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえる。
そして、上記開口部の形状を十字架型とすることによって格別の作用効果を奏するものとも認められないから、引用発明においても、開口部の形状を十字架型とし、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-29 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-26 
出願番号 特願2004-120194(P2004-120194)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 57- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西岡 貴央  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 橋本 直明
森林 克郎
発明の名称 有機ELディスプレイパネル及びその製造方法  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  
代理人 古川 秀利  
代理人 上田 俊一  

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