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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1261333
審判番号 不服2011-13393  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-22 
確定日 2012-08-08 
事件の表示 特願2003-154969「蓄電装置を備えた熱電併給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 32993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月14日に出願した2001-567103号の一部を平成15年5月30日に新たな特許出願としたものであって、平成23年3月17日付けで拒絶査定がなされ、同年6月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされたものである。

なお、拒絶査定不服審判の請求と共になされた手続補正は、平成22年9月10日付で却下となった平成22年5月18日付の手続補正と同じ内容である。

2.平成23年6月22日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「蓄電装置を備えた熱電併給システムにおいて、
電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯に、発電装置による電力及び商用電力及び蓄電装置に貯えられた電力を併用して電力を供給することを特徴とする熱電併給システム。
ここに、特定出力C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。)」と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「特定出力C1」に関し、「ここに、特定出力C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。)」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-176792号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0007】このようなシステム構成とすることで、逆潮流の時間帯調整だけでなく、商用系統の停電,電力負荷の異常上昇時の予備電力,システム並びに商用電力同時停電の非常用電力として利用が可能である。」

・「【0021】
【実施例】図1に本発明の一実施例を示す。本発明によるコジェネレーションシステムは大きく分けて熱供給系として排熱ボイラ1の吸水加熱系、Na-S電池2加熱系,ボイラ3による熱供給系,電力供給系として発電機4,Na-S電池2,商用系統5がある。ここで、熱供給系の一つである吸水加熱系の構成は、ガスタービン6等の軸受冷却水を冷却する水-水熱交換器7,Na-S電池2を一定温度に保持する恒温槽8排気系に設置したガス-水熱交換器9より成り、吸水10は、水-水熱交換器7,ガス-水熱交換器9で加熱され排熱ボイラ1に供給される。Na-S電池2加熱系は、ガスタービン6等の内燃機関の高温排ガス11を出口部分で分岐し断熱配管で恒温槽8に導きNa-S電池2を加熱し一定温度に保持する。恒温槽8からの排ガスは、ガス-水熱交換器9で吸水系に熱を伝へ低温となり流量調節弁12を経由して外気に放出される。つまり、Na-S電池2を一定温度に保持する目的で分配した高温ガスの目的を達成した後の排ガスも有効利用するシステム構成であり、熱効率が高いシステムとなる。このような系統により、加熱された吸水10は、排熱ボイラ1で再度加熱され温水又は蒸気となり、ヘッダ13を経由して熱負荷14に供給される。このようなシステムで負荷に供給される熱が不足する場合、ボイラ3で補われる。電力供給系統は、発電機4から系統連係制御盤15を経由してスイッチ16aで直接負荷に供給される系統、商用電力系統から系統連係制御盤15を経由してスイッチ16bで直接負荷17に供給される系統、Na-S電池2からDC/AC双方向変換器18を通り交流に変換されスイッチ16c,16aを経由して負荷に供給される系統がある。ここで、Na-S電池2は、夜間等に多く発生する余剰電力を充電し、必要に応じて放電して電力を供給する。この電力供給時の運用法としては、以下の三つがある。
【0022】(1)商用系統への売電
昼間の負荷電力が発電機の発電電力で賄える場合、夜間充電した余剰電力を放電して、商用系統に売電する。
【0023】(2)予備電源
電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合、放電して、その越えた電力分を補う。
【0024】商用系統が停電の時、発電機出力と電池からの放電電力で負荷電力を賄う。
【0025】(3)非常用電源
商用系統並びに発電機からの電力供給が停止した場合、電池から放電し、短時間主要機器へ電力を供給する。
【0026】つまり、コジェネレーションシステムに電力貯蔵設備を併用することで、余剰電力の有効活用ができ、さらなる高効率なシステム運用が可能になる。さらに、電力貯蔵設備としてNa-S電池を使用した場合、予熱用熱源として、高温排ガスを使用できるため従来使用していた電気ヒータ等の設備費並びにヒータ電力の倹約にもなる。
【0027】
【発明の効果】本発明では、発電電力の有効利用を図るべく余剰電力を充電し、必要に応じて放電する電力貯蔵設備を設置したため、高温状態を維持する必要がある高温作動型電池(Na-S電池等)の熱源として、既に存在する高温排ガスを使用するため、従来使用していた加熱用電気ヒータ等の設備費並びにヒータ電力の倹約になる。」

・図1には、ガスタービン6により発電機4を駆動して発電電力を負荷17に供給するとともに、前記ガスタービン6からの高温排ガス11が供給される廃熱ボイラ1により給水10を加熱して得た温水又は蒸気を熱負荷14に供する、コジェネレーションシステムが示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「夜間に多く発生する余剰電力を充電するNa-S電池2を備えたコジェネレーションシステムにおいて、
電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合に、Na-S電池2から放電して、電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた電力分を補うコジェネレーションシステム。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

ここで、本願補正発明の用語の定義を出願当初の明細書の記載を基に検討する。

本願の出願当初の明細書の【0006】には、以下の記載がある。
「本明細書に用いられる用語を、以下説明する。
(1)電力負荷、消費電力、電力負荷の消費電力
電力負荷、電力負荷の消費電力とは、 特に断らない限り、本発明の熱電併給システムの電力負荷、熱電併給システムの消費電力、熱電併給システムの電力負荷の消費電力をいう。商用電力の場合を指す場合には、その旨を特別に明示するものとする。
(2)特定出力
ここで用いる特定出力C1、C2とは、C0以下の設定された電力値であり、時間には関係しない変化しない一定値の場合も、時間(月、日、季節等を含む。)とともに変化するように設定する場合(即ち、C1、C2が時間tの関数である場合)もある。ここに、C0は、1日の熱電併給システムのピーク電力である。ここに、C0≧C1、C2。
・電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯とは、ピーク時間帯(例えば、朝晩、あるいは昼間の消費電力のピーク時間帯)を含む。熱電併給システムの電力負荷の消費電力のピーク時間帯と、商用電力の消費電力のピーク時間帯とは、一般には一致する傾向にある。ピーク時間帯は、午前10時?午後4時あるいは午後0時?午後4時、あるいは午後1時?午後3時等をいう。
・電力負荷の消費電力が特定出力C2以下の時間帯とは、電力負荷(ここに言う電力負荷には、熱電併給システムの電力負荷の場合と商用電力の電力負荷の場合がある。)の消費電力が落ち込む時間帯(例えば、夜間料金時間帯)を含む。熱電併給システムの電力負荷の消費電力が落ち込む時間帯と、商用電力の消費電力が落ち込む時間帯とは、一般には一致する傾向にある。
なお、単に“夜間料金時間帯”、“夜間時間帯”と表現する場合、“電力負荷が少ない(落ち込む)時間帯”の意味を含む。ここに、夜間時間帯は、例えば、午前0時?午前6時等、あるいは夜間料金時間帯である。
(3)熱電併給システム
熱電併給システムとは、発電装置による電力を供給するとともに、発電設備運転により生じる排熱を回収して熱を供給するシステムであり、電力消費地に設置することを必要とする分散型システムであり、特に小型化低コスト化を図って広範囲に普及させることが求められるシステムである。本発明の熱電併給システムは、例えば、出力が数百?500kW級のもの、あるいは出力2kW以下の高分子電解質型燃料電池(家庭用)からなり、10kW以下の蓄電装置を備えたもの等がある。
(4)発電装置
ここで、定義される発電装置とは、熱電併給システムに用いられる発電装置であって、電気を発生するとともに、排熱を回収するようにした発電装置をいう。」

そして、同書の【0007】には、以下の点が記載されている。
「ガスタービン、内燃機関等の熱機関を運転することによって発生する駆動力を発電機により電気に変換して、電力を供給する装置の他、燃料電池のように、直接、炭化水素や水素等の燃料から電気化学的に電気に変換して、電力を供給する装置を含む。
熱電併給システム(ガスタービン、内燃機関等によるもので、発電容量は数百?500kW級)は、ホテル、スポーツ施設、オフィス、公共施設等に設置される例が多い。本発明は、小型の熱電併給システム(家庭用)をも対象とするものである。
発電装置は、交流発電装置又は直流発電装置の両方を含む。
・発電装置が交流の場合
交流の電力負荷の場合には、ガスタービン、内燃機関等の熱機関を運転する場合には、一般には交流発電装置であるが、交流負荷の場合には、直接電力供給されるが、直流負荷の場合には、コンバータにより直流変換されて電力供給される。
・発電装置が直流の場合
燃料電池のように直流発電装置の場合には、交流負荷に電力を供給する場合、インバータにより、交流電力に変換して、電力を供給する。
なお、発電装置により発電した電力を蓄電装置(蓄電池)に電力を貯える場合、直流発電装置の場合コンバータが不要で直接直流電力として、蓄電装置に貯える。一方、交流発電装置の場合に蓄電装置に蓄電する場合、コンバータで直流変換した後に蓄電装置に貯えることになる。
そして、蓄電装置に貯えられた電力は、インバータと接続することにより、交流に変換され電力負荷に供給される。
(5)蓄電装置
蓄電装置とは、電力負荷の消費電力が特定値C1以上の時間帯に、水を電気分解して水素と酸素を製造して貯蔵する装置の他、 リチウム二次電池、ニッケル水素電池、キャパシタのうちから選択される少なくとも1種又は2種以上を備える装置を含む。キャパシタは、電気負荷の急激増加に対応するのに便利である。リチウム二次電池等と併用することが望ましい。
蓄電装置の容量としては、例えば、20kWh以下、15kWh以下、10kWh以下、5kWh以下、あるいは2kWh以下である。
なお、蓄電装置は、一般には、商用電力(交流電力)を直流電力に変換するコンバータを必要とし、蓄電地に蓄えられた直流電力を交流に変換するインバータを必要とする。そして、交流発電装置で発電した交流電力を蓄電する場合は、コンバータにより直流に変換した後、蓄電装置に貯えるようにする。
貯えられる電力が直流電力の場合(直流発電装置で発電した直流電力の場合)には、コンバータは不要である。又、直流の電力負荷の場合には、蓄電装置の後流側には、インバータも不要となり、システムが簡素化される。
(6)ピーク時間帯
ピーク時間帯とは、一般には、熱電併給システムの消費電力のピーク時間帯をいい、消費電力が特定出力C1以上の時間帯t1?t2をいう。消費電力が特定出力C1以上を厳格にその瞬間t毎に判断するシステムとする場合の他、一定期間のデータから、電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯を予めt1?t2に設定して置く場合も有る。
消費電力は、たとえば、春夏秋冬の季節によって変動(季節変動)し、また一日のうち昼と夜によっても変動(昼夜変動)するが、本発明では、日変動のピーク時間帯をいうものとする。時間帯とは、ある範囲の時間範囲をいうものであるが、時間範囲が非常に短い場合には、瞬間を指し、ピーク時間帯は、ピーク時と同義である。なお、熱電併給システムの消費電力のピーク時間帯と商用電力のピーク時間帯は、一般には一致する傾向にある。
(7)電力負荷(電力消費)が少ない時間帯、電力負荷(電力消費)が落ち込む時間帯とは、電力負荷の消費電力が特定出力C2以下の時間帯t3?t4(例えば、夜間料金時間帯)をいう。厳格にその瞬間t毎に判断するシステムとする場合の他、一定期間のデータから、電力負荷の消費電力が特定出力C2以上の時間帯を予めt3?t4を設定しておき、その時間帯t3?t4の間は、商用電力により蓄電装置に商用電力を貯えるようにすることも可能である。
(8)コンバータ、インバータ
コンバータは、交流電力を直流電力に変換するものである。また、インバータは、直流電力を交流電力に変換するものである
(9)時間帯t1?t2、時間帯t3?t4
時間帯t1?t2は、例えば、午前9時?午後6時、あるいは午前12時?午後4時、あるいは午後1時?午後3時である。
時間帯t3?t4は、例えば、午前0時?午前7時、あるいは午前2時?午前6時、あるいは午前3時?午前6時である。」

そして、1日の熱電併給システムのピーク電力C0の定義について、平成24年5月28日付けの当審から請求人に確認したファックスに対し、請求人は平成24年6月4日付けのファックスの第1頁の「1.C0の意味について」において、以下の点を記載している。
「C0は、1日の熱電併給システムのピーク電力量であり、
熱電併給システムのピーク電力量には、発電装置と蓄電装置、及び商用電力を含む。」

以下の対比及び検討において、上記の請求人による定義を踏まえて検討を行う。

(ア)出願当初の発明の詳細な説明の【0007】の「蓄電装置とは、電力負荷の消費電力が特定値C1以上の時間帯に、水を電気分解して水素と酸素を製造して貯蔵する装置の他、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、キャパシタのうちから選択される少なくとも1種又は2種以上を備える装置」なる蓄電装置の定義を踏まえると、
後者の「コジェネレーションシステム」は、引用例の図1に示されるように、ガスタービン6により発電機4を駆動して発電電力を負荷17に供給するとともに、前記ガスタービンからの高温排ガス11が供給される廃熱ボイラ1ににより給水10を加熱して得た温水又は蒸気を熱負荷14に供する、コジェネレーションシステムであるから、前者の「熱電併給システム」に相当するといえる。
よって、後者の「夜間に多く発生する余剰電力を充電するNa-S電池2を備えたコジェネレーションシステム」と
前者の「蓄電装置を備えた熱電併給システム」とは、
「蓄電する手段を備えた熱電併給システム」なる概念で共通する。

(イ)後者の「電力負荷」が前者の「電力負荷の消費電力」に相当することは技術常識であるといえる。
そして、上記の「時間帯」についての検討を踏まえると、後者の「電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合」との態様と前者の「電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯」で「ここに、特定出力C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。)」とは、「電力負荷の消費電力が特定出力以上の時間帯」なる概念で共通する。

(ウ)本願の出願当初の明細書の【0007】の「(6)ピーク時間帯
ピーク時間帯とは、一般には、熱電併給システムの消費電力のピーク時間帯をいい、消費電力が特定出力C1以上の時間帯t1?t2をいう。消費電力が特定出力C1以上を厳格にその瞬間t毎に判断するシステムとする場合の他、一定期間のデータから、電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯を予めt1?t2に設定して置く場合も有る。」との記載を踏まえると、本願補正発明は、「瞬間t毎に判断する」場合と「一定期間のデータ」のいずれも含むことは明らかであるといえる。
したがって、後者の「Na-S電池2から放電して、電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた電力分を補う」態様と、
前者の「発電装置による電力及び商用電力及び蓄電装置に貯えられた電力を併用して電力を供給する」態様とは、
「発電装置による電力及び商用電力及び蓄電する手段に貯えられた電力を併用して電力を供給する」との概念で共通する。

(エ)後者の「コジェネレーションシステム」と
前者の「熱電併給システム」とは、
「熱電併給システム」なる概念で共通する。

したがって、両者は、
「蓄電する手段を備えた熱電併給システムにおいて、
電力負荷の消費電力が特定出力以上の時間帯に、発電装置による電力及び商用電力及び蓄電する手段に貯えられた電力を併用して電力を供給する熱電併給システム。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
蓄電する手段に関し、本願補正発明では、蓄電「装置」であり、蓄電装置の定義として出願当初の明細書の【0007】において、「蓄電装置とは、電力負荷の消費電力が特定値C1以上の時間帯に、水を電気分解して水素と酸素を製造して貯蔵する装置の他、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、キャパシタのうちから選択される少なくとも1種又は2種以上を備える装置」であることが定義されているのに対し、引用発明ではNa-S電池である点。

[相違点2]
電力負荷の消費電力が特定出力以上の時間帯に関し、本願補正発明では電力負荷の消費電力が特定出力「C1」以上の時間帯であり、特定出力「C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。)」であるのに対し、引用発明では電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合である点。

(4)判断
[相違点1]について
本願補正発明において、出願当初の明細書の【0007】において、「蓄電装置とは、電力負荷の消費電力が特定値C1以上の時間帯に、水を電気分解して水素と酸素を製造して貯蔵する装置の他、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、キャパシタのうちから選択される少なくとも1種又は2種以上を備える装置」であることが定義されているが、そのような定義による蓄電装置とすることによる技術的な意義は、本願の出願当初の明細書の【0006】の「本発明は、ピーク時間帯の商用電力のバックアップ電力は、消費が少なくなる時間帯(例えば、夜間料金時間帯)に貯えられた商用電力で賄うという基本的コンセプトに基づくものであり、夜間料金利用の氷蓄熱システムに類似する考え方、あるいは夜間の商用電力を貯蔵する揚水発電の考え方を適用したものでもある。」との記載があること、及び、本願補正発明においては蓄電装置を充電する手段は特定されていないことを踏まえると、充電された電力によりピーク時間帯の商用電力のバックアップを行うものであるといえるが、蓄電装置の種類を定義したことによる技術的な意義は記載されていない。
一方、「電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合に、Na-S電池2から放電して、電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた電力分を補う」ものである引用発明も、本願補正発明と同様に、充電された電力によりピーク時間帯の商用電力のバックアップを行うものであるといえる。
さらに、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、キャパシタは通常使用されている蓄電装置にすぎず、本願の出願当初の明細書には、蓄電装置の種類を特定したことによる技術的な意義は記載されていないところ、一般的に蓄電装置の種類はコスト・容量等に応じて適宜選択されているものであることを踏まえると、どのような蓄電装置を使用するのか任意に選択可能であることは技術常識といえる。
そうすると、上記技術常識を踏まえ、引用発明に明細書の【0007】に定義された種類の蓄電装置を採用することにより相違点1に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点2]について
本願補正発明において、電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯に、発電装置による電力及び商用電力及び蓄電装置に貯えられた電力を併用して電力を供給する(ここに、特定出力C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。))ものとしたことによる技術的な意義は、出願当初の明細書の【0012】の「請求項1記載発明(本発明の基本的発明)は、蓄電装置を備えた熱電併給システムにおいて、電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯に、発電装置による電力及び商用電力及び蓄電装置に貯えられた電力を併用して電力を供給することを特徴とする熱電併給システムである。電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯であることを制御手段(図示せず。)が判断するのであるが、制御手段を以下例示して説明する。電力負荷を消費電力を電力計(電力負荷の前に設置される)で測定して、測定した電力が特定出力より特定出力C1以上の場合には、商用電力と発電装置の電力(通常は効率の良い最高出力の70%程度の出力)、蓄電装置に貯えられた電力により、電力負荷に電力を供給する。例えば、特定出力C1を2/3*C0(ここに、C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値とする。)とする。熱電併給システムにおいて、このように設定することにより、電力負荷が2/3*C0?C0の時間帯は、蓄電装置に貯えられた商用電力と発電装置による電力により例えば2/3*C0を賄い(注:「1/3」は「2/3」の誤記であると解される。)、残りを商用電力で賄うようにすることができる。本熱電併給システムによれば、ピーク時間帯でも、1/3*C0以下の商用電力しかバックアップ電力を必要としない。」との記載、及び、平成24年5月28日付けの当審から請求人に確認したファックスに対し、請求人は平成24年6月4日付けのファックスの第1頁の「1.C0の意味について」の「C0は、1日の熱電併給システムのピーク電力量であり、熱電併給システムのピーク電力量には、発電装置と蓄電装置、及び商用電力を含む。」との記載によれば、ピーク時に商用電力、発電装置による電力、及び、蓄電装置に蓄えられた電力によりそれぞれピーク電力値の「1/3」づつ供給することにより、ピーク時間帯でも、1/3*C0以下の商用電力しかバックアップ電力を必要としない(1/3*C0以下の商用電力しか負荷に供給しない)ものと解することができる。(なお、バックアップ電力とは、商用電力での不足分を補うことを通常意味するが、本願補正発明におけるバックアップ電力とは商用電力により負荷に供給する電力量を意味するものと解されることから、上記の点が技術的な意義であると解される。)
一方、「電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合に、Na-S電池2から放電して、電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた電力分を補う」ものである引用発明においても、電力負荷が商用系統の契約負荷を超えた場合に、本願補正発明と同様にピーク時に商用電力、発電装置による電力、及び、蓄電装置に蓄えられた電力によりそれぞれの各手段から電力を供給するものであるから、引用発明では、(ア)ピーク時に商用電力、発電装置による電力、及び、蓄電装置に蓄えられた電力によりそれぞれピーク電力値の「1/3」づつ供給する点、及び、(イ)電力系統の契約電力がピーク電力値の2/3であることが特定されている点で実質的に相違しているといえる。
そこで、上記の(ア)及び(イ)について検討する。
「(ア)」について
ピーク時に商用電力、発電装置による電力、及び、蓄電装置に蓄えられた電力から供給する際に、それぞれ電力容量をどの大きさに設定するのかは、発電機及び蓄電装置の設備の設置費用及び維持費用と、ピーク時の商用電力の低減による電気料金の低減との比較により通常決定されている事項にすぎないことから、ピーク時に商用電力、発電装置による電力、及び、蓄電装置に蓄えられた電力によりそれぞれピーク電力値の「1/3」づつ供給する点は、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎないといえる。

「(イ)」について
請求人が提出しているファックスに添付した「添付資料1」の第2頁の「Q.契約電力を減少する方法は?」に対する「A]として、「蓄熱槽(エコ・アイス)の設置による昼間の負荷の夜間への移行」・・・「により、協議のうえ契約電力を減少することができます。」と記載され、契約電力を減少することにより電気料金を安くできることは一般的な常識である(必要があれば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-8385号公報の【0006】の「この大容量の蓄電池を使用し、割安な夜間電力を蓄電して割高な昼間電力時間帯に使用し、電力料金の低減を図るとともに、電力負荷平準化も達成するという電力貯蔵システム自体は知られている(特開平3-32322号公報参照)。この従来技術は、昼間の電力ピーク負荷時に蓄電池電力を放電し、負荷平準化を達成しようとするものである。これは契約電力以上の負荷に対して電池電力を使用するので、契約電力を低く設定できるというメリットがある。」なる記載、及び、特開平9-72579号公報の【0034】の「契約電力とは、電力会社との間で契約する電力使用量の上限であり、年間を通じてあるレベルに設定される。この設定レベルが低いほど、電力会社に支払う料金が安くなる。」なる記載を参照されたい。)ことから、契約電力をどの大きさに設定するのかは、発電機及び蓄電装置の設備の設置費用及び維持費用と、ピーク時の商用電力の低減による電気料金の低減との比較により通常決定されている事項にすぎないことから、電力系統の契約電力がピーク電力値の2/3とする点は、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎないといえる。

そうすると、上記の一般的な常識を踏まえると、電気料金を低減するという一般的な課題を解決するために、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記技術常識、及び、上記一般的な常識から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

なお、請求人は平成24年6月4日付けのファックスの第1頁の「2.契約電力を減らして電力会社と契約をしたとしても」において、概略、「引用発明が電力需要の年又は月変動等の長期変動を対象とするのに対して、本願発明が電力需要の日変化を対象としているので、両発明は比較の対象にならない程全く構成を異にする。」と主張している。
請求人の上記の主張は、引用例の【0023】の「電力負荷が発電電力と商用系統の契約電力を加算した電力を越えた場合、放電して、その越えた電力分を補う。」との記載における「契約電力」が請求人の最初のファックスに「添付資料1」として示された「東京電力」のホームページの資料の「契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値となります。」(「添付資料1と記載された頁の「契約電力の決定方法」の下の行を参照)との記載を踏まえ、引用発明のものにおける契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値であるとの主張であると解される。
しかしながら、契約電力とは固定的なものではなく、上記「(4)判断」の「「(イ)」について」で契約電力を減少することにより電気料金を安くできることは一般的な常識であるし、現に請求人が提出した上記の「東京電力」のホームページの資料の次の頁の「Q.契約電力を減少する方法は?」に「蓄熱槽(エコ・アイス)の設置による昼間の負荷の夜間への移行」・・・「により、協議のうえ契約電力を減少することができます。」とあるように、契約電力は商用電力以外の供給手段を確保できれば、本願発明のように、電力需要の日変化を対象として、契約電力をピーク電力より下げることが記載されている(さらに、必要があれば、特開2001-8385号公報の特に【0006】には、「契約電力以上の負荷に対して電池電力を使用するので、契約電力を低く設定できるというメリットがある。」と記載されているので参照されたい。)ことから、一律に契約電力とは「契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値」であるといえず、「蓄熱槽(エコ・アイス)の設置」に例示されるような昼間の電力ピーク時に電力供給を可能とする手段を設ければ、「契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値」よりも小さい電力量とでき、それにより電力料金を低減できるものといえる。
さらに、引用例の契約電力を、請求人が主張するように、「引用発明が電力需要の年又は月変動等の長期変動を対象とする」ものと解すべき記載は引用例にはなく、引用例の【0004】の「経済的に有利である」との記載を踏まえると、「電力需要の日変化を対象」として電力料金を安価にすることが前提となっていることから、引用発明の契約電力を「契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値」と解するのではなく、契約電力以上の負荷に対して電池電力を使用するので、契約電力を低く設定できることから、電力需要の日変化を対象としているものと解することができる。
したがって、請求人の上記の主張を採用することができない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、上記技術常識、及び、上記一般的な常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願時の明細書、及び、図面によれば、出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「蓄電装置を備えた熱電併給システムにおいて、
電力負荷の消費電力が特定出力C1以上の時間帯に、発電装置による電力及び商用電力及び蓄電装置に貯えられた電力を併用して電力を供給することを特徴とする熱電併給システム。」

(1)引用例
引用例、及び、その記載内容は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・検討
本願発明は、「2.」で検討した本願補正発明から「特定出力C1」に関し、「ここに、特定出力C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。)」という限定を省いたものに相当する。
したがって、本願発明を構成する事項の全てを含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、及び、上記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により引用発明、及び、上記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(なお、本願発明において、「特定出力C1」の意味が請求項の記載からは特定できないことから、発明の詳細な説明を参酌し、「ここに、特定出力C1=2/3*C0(C0は、一日の熱電併給システムのピーク電力値である。)」と解すると、本願補正発明に相当することとなることから、本願発明も上記「2.(4)」に記載した理由により引用発明、上記技術常識、及び、上記一般的な常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。)

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-05 
結審通知日 2012-06-11 
審決日 2012-06-22 
出願番号 特願2003-154969(P2003-154969)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 晃  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 田村 嘉章
槙原 進
発明の名称 蓄電装置を備えた熱電併給システム  
代理人 佐藤 富徳  

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