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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E02D
管理番号 1261385
判定請求番号 判定2012-600008  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2012-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2012-03-28 
確定日 2012-08-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4107452号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書1,2,3に示す「引抜き対応タイプのF.T.Pile構法」は、特許第4107452号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
判定請求人は,判定請求書に添付した,イ号説明書1,2,3に示す「引抜き対応タイプのF.T.Pile構法」は,特許第4107452号発明(以下,「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許発明は,特許明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり,その発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。

A)上下に延在する鉄筋が取着された杭の杭頭部を基礎コンクリートスラブに接合する構造であって、
B)前記鉄筋は杭頭部から上方に突出しており、
C)前記杭頭部から上方に突出する鉄筋部分は基礎コンクリートスラブに埋設され、
D)前記基礎コンクリートスラブに埋設された鉄筋部分に、基礎コンクリートスラブのコンクリートと非定着状態を保ちつつ鉄筋の長手方向に沿って延在する非定着部が設けられ、
E)前記非定着部の端部に、鉄筋が基礎コンクリートスラブに定着された定着部が設けられ、
F)前記杭頭部に水平力が作用した場合、前記非定着部において前記鉄筋が伸び、前記杭頭部に働く曲げモーメントが減じられる、
G)ことを特徴とする杭と基礎コンクリートスラブとの接合構造。

(以下,各構成要件を「構成要件A)」等という。)

第3 イ号物件
1.請求人によるイ号物件の特定
請求人は判定請求書の「5.請求の理由 (4)イ号物件の説明」において,
「引抜き対応タイプのF.T.Pi1e構法は,1-1欄および2-2欄から明らかなように,既製杭の杭頭部をフーチング(基礎コンクリート)に接合する構造である。
そして,杭頭部からは,引抜き抵抗用鋼棒(2-2欄では「F.T.Pi1e構法用アンカー鋼棒」と記載)が上方に突出している。
この引抜き抵抗用鋼棒の上端に定着板が設けられている。
それら引抜き抵抗用鋼棒と定着板は,フーチング(基礎コンクリート)中に埋設されている。」と説明している。

2.当審によるイ号物件の特定
当審で上記「1.」で特定されたイ号物件について検討したところ,請求人による説明では,イ号物件を具体的な構成要件で特定していないため,当審ではイ号説明書1,2,3の記載から,イ号物件を次のとおりに特定した。
特に,下記の構成d)等に関し,イ号説明書3におけるイ号物件では,請求人が「3-1欄」と特定した箇所に記載されている様に,PC鋼棒からなる引抜き抵抗用鋼棒を使用しているが,この引抜き抵抗用鋼棒は写真1で写されている様に丸鋼であり,丸鋼がコンクリートに付着(定着)することは技術常識であり,その付着(定着)力が小さいことから,当審では,引抜き抵抗用鋼棒の定着板(アンカー定着版)より下方の部位を「付着力が小さい部分」と特定した。
(被請求人は後述するようにイ号物件及びロ号物件と分けて答弁しているが,実質的に杭の種類がSC杭かPHC杭かの相違だけであるので,当審では一つにまとめてイ号物件とした。)

[イ号物件]
「上下に延在する引抜き抵抗用鋼棒が取着され,杭頭に鋼製のF.T.キャップを被せたSC杭又はPHC杭の杭頭部をフーチング(基礎コンクリート)に半剛接合する構造であって,前記引抜き抵抗用鋼棒は杭頭部から上方に突出しており,前記杭頭部から上方に突出する引抜き抵抗用鋼棒部分はフーチング(基礎コンクリート)に埋設され,前記フーチング(基礎コンクリート)に埋設された引抜き抵抗用鋼棒部分に,フーチング(基礎コンクリート)のコンクリートと付着力が小さい状態を保ちつつ引抜き抵抗用鋼棒の長手方向に沿って延在する付着力が小さい部分が設けられ,前記付着力が小さい部分の端部に,引抜き抵抗用鋼棒がフーチング(基礎コンクリート)に定着された定着板(アンカー定着版)が設けられた,SC杭又はPHC杭とフーチング(基礎コンクリート)との半剛接合構造。」
そして,イ号物件は,分説すると以下の構成要件を備えるものである。
a)上下に延在する引抜き抵抗用鋼棒が取着され,杭頭に鋼製のF.T.キャップを被せたSC杭又はPHC杭の杭頭部をフーチング(基礎コンクリート)に半剛接合する構造であって,
b)前記引抜き抵抗用鋼棒は杭頭部から上方に突出しており,
c)前記杭頭部から上方に突出する引抜き抵抗用鋼棒部分はフーチング(基礎コンクリート)に埋設され,
d)前記フーチング(基礎コンクリート)に埋設された引抜き抵抗用鋼棒部分に,フーチング(基礎コンクリート)のコンクリートと付着力が小さい状態を保ちつつ引抜き抵抗用鋼棒の長手方向に沿って延在する付着力が小さい部分が設けられ,
e)前記付着力が小さい部分の端部に,引抜き抵抗用鋼棒がフーチング(基礎コンクリート)に定着された定着板(アンカー定着版)が設けられた,
g)SC杭又はPHC杭とフーチング(基礎コンクリート)との半剛接合構造。

(以下,分説した各構成を「構成a)」等という。)

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は,判定請求書において,次の理由により,イ号物件は,本件特許発明の技術範囲に属する旨主張している。
(1)1-1欄および2-2欄から明らかなように,イ号物件の引抜き抵抗用鋼棒は,その上端に定着板が設けられており,杭頭部をフーチング(基礎コンクリート)に接合する定着筋として機能するものである。
したがって,イ号物件の引抜き抵抗用鋼棒は,本件特許発明の鉄筋に相当している。また,定着板は,本件特許発明の定着部に相当している。
そうとすると,イ号物件は本件特許発明の構成要件A,構成要件B,構成要件C,構成要件E,構成要件Gを充足している。
(2)次に,イ号物件が本件特許発明の残りの構成要件D,構成要件Fを充足しているか否かを検討する。
イ号説明書2に赤線で囲った2-1欄には,引抜き抵抗用鋼棒として用いる鋼材として,SBPR785/1030(φ11-A種PC鋼棒)およびSBPR1080/1230(φ11-C種PC鋼棒)が挙げられている。これらはJIS G 3109 PC鋼棒(平成20年10月20日改正版)によれば,丸鋼棒である。
また,引抜き抵抗用鋼棒を丸鋼棒とした理由として,イ号説明書3に赤線で囲った3-1欄には,「本構造において,杭頭接合部の回転性能を向上させるためには,アンカー鋼棒の伸び性能を十分に発揮させることが重要となる。このため引抜き抵抗用鋼棒には付着力が少ない丸鋼をアンカー形式で採用することとした。」と記載されている。
すなわち,3-1欄には,アンカー鋼棒の伸び性能を十分に発揮させるため,引抜き抵抗用鋼棒には付着力が少ない丸鋼をアンカー形式で採用する旨が記載されていることから,イ号物件の定着板から下方の引抜き抵抗用鋼棒の部分は,コンクリートと非定着状態を保ちつつ延在する本件特許発明の非定着部に相当しており,本件特許発明の構成要件Dを充足している。
また,3-1欄には,「杭頭接合部の回転性能を向上させるためには,アンカー鋼棒の伸び性能を十分に発揮させることが重要となる。」と記載されている。
すなわち,3-1欄には,アンカー鋼棒の伸び性能を十分に発揮させ,杭頭接合部の回転性能を向上させる旨が記載されていることから,イ号物件は本件特許発明の構成要件Fを充足している。
したがって,イ号物件は本件特許発明の全ての構成要件を充足しており,効果も同一であるため,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。

2.被請求人の主張
被請求人は,判定請求答弁書において,次の理由により,イ、ロ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属さない旨主張している。
(1)イ号物件およびロ号物件の構成
(1)-1
イ号説明書1?4が被請求人作成の資料であることに争いはないが,SC杭を対象としたもの(イ号説明書2)とPHC杭の試験体を対象としたもの(イ号説明書3)とが混在している。請求人は,判定対象を明確に特定していない。よって,以下では,SC杭を対象としたものを「イ号物件」と称し,PHC杭を対象としたものを「ロ号物件」と称することとする。
(1)-2
イ号説明書2,3に記載されているとおり,イ号物件およびロ号物件では,いずれも,PC鋼棒からなる引抜き抵抗用鋼棒を使用しているが,この引抜き抵抗用鋼棒は,コンクリートとの付着を切るためのアンボンド処理を施していないものであるから,コンクリートと縁切りされておらず,コンクリートに付着している。なお、PC鋼棒は,丸鋼であるが,鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説(乙第1号証)・第7頁の表6に丸鋼の許容付着応力度が記載されていることからも明らかなように,丸鋼がコンクリートに付着(定着)することは技術常識である。また,イ号説明書3・第345頁右欄第11?12行に記載されているように,丸鋼であっても,コンクリートとの付着を切るためにはアンボンド処理を施す必要がある。
(1)-3
イ号物件は,イ号説明書2に記載されているとおり,SC杭(Steel Composite Concrete Piles;外殻鋼管付きコンクリート杭)を対象としたものであり,引抜き抵抗用鋼棒(F.T.Pile構法用アンカー鋼棒)は,杭体内アンカー鉄筋に接続されている。
してみると,イ号物件(SC杭を対象とした引抜き対応タイプのF.T.Pile構法)の構成は,次のとおりである。
【イ号物件の構成】
SC杭の杭頭部に鋼製のF.T.キャップを被せ,F.T.キャップの上にフーチングが載置された半剛接合構造であって,
SC杭の上端面に固定された杭頭端板と,
杭頭部に埋設された杭体内アンカー鉄筋に接続されるとともに,杭頭端板からF.T.キャップを貫通して上方に延出し,コンクリートとの付着を切るためのアンボンド処理を施していない引抜き抵抗用鋼棒とを備え,
引抜き抵抗用鋼棒の上端部には,定着板が固定されており,
引抜き抵抗用鋼棒および定着板が,いずれも,フーチングに埋設されてフーチングのコンクリートに直接定着されている,
SC杭の杭頭部とフーチングとの半剛接合構造。
(1)-4
ロ号物件の構成:略
(2)本件特許発明の用語の解釈
(2)-1「非定着部」について
「非」とは,否定の意味を表す接頭語であるから,「非定着状態」とは,「定着されていない状態」と同義である。
本件の特許請求の範囲には,「非定着状態(=定着されていない状態)」の定義が記載されていないが,本件特許発明における「非定着状態」とは、コンクリートが鉄筋に付着していない状態(直に接していない状態)の意に他ならない。
(2)-2「鉄筋」について
「上下に延在する鉄筋」として本件明細書に開示されているのは,杭を曲げに対して補強する「杭主筋(主筋)」と鋼管に溶接された「主筋」だけであるから,「上下に延在する鉄筋」とは,杭のコンクリートを補強する「主筋」そのもの,または,鋼管杭の主要構造体である鋼管と一体化された「主筋」の意であると解される。
(3)イ号物件と本件特許発明との対比
(3)-1
イ号物件の「引抜き抵抗用鋼棒」は,フーチングに定着されるアンカーに過ぎない。引抜き抵抗用鋼棒は,SC杭のコンクリートを補強する役割を担うものではないし,SC杭の鋼管と一体化されたものでもないから,本件特許発明の「鉄筋」に相当するものではない。してみれば,イ号物件は,本件特許発明の構成要件Aを充足しない。
(3)-2
SC杭は,鋼管と無筋コンクリートを主体とする杭である。SC杭には,杭のコンクリートを補強する「杭主筋」が存在していないから,杭頭部から上方に突出する杭主筋も当然に存在していない。してみれば,イ号物件は,本件特許発明の構成要件Bを充足しない。
(3)-3
イ号物件は,引抜き抵抗用鋼棒をフーチングのコンクリートに直接定着させるものであり,「非定着状態」を作り出すための手段(引抜き抵抗用鋼棒とコンクリートとを縁切りするための手段)を備えていないから,イ号物件の引抜き抵抗用鋼棒には,その全長に亘ってコンクリートが付着する。
なお,本件特許発明の「鉄筋」とは,「そのままコンクリートに埋設する
とコンクリートに付着して定着される部材」を意味していると解されるところ,請求人は、PC鋼棒(丸鋼)からなる引抜き抵抗用鋼棒が本件特許発明の鉄筋に相当すると主張しているのであるから(判定請求書・第2頁第21行参照),PC鋼棒がコンクリートに付着することに争いはない筈である。 イ号物件には,引抜き抵抗用鋼棒とコンクリートとを縁切りするための手段が存在していないから,「コンクリートが付着していない部分」も存在しておらず,したがって,「非定着部」も当然に存在していない。してみれば,イ号物件は,本件特許発明の構成要件D,E,Fを充足しない。
(3)-4
イ,ロ号物件は,いずれも,本件特許発明の構成要件A,B,D,E,Fを充足しないから,その余の構成要件について判断するまでもなく,本件特許発明の技術的範囲に属しない。

第5 対比・判断
イ号物件が本件特許発明に係る前記分説した各構成要件A)?G)を充足するか否かについて,以下に対比・判断をする。

1.構成要件A),B),C)の充足性について
構成a),b),c)における「引抜き抵抗用鋼棒」は、杭頭部をフーチング(基礎コンクリート)に接合する定着筋としても機能する鋼棒であるので,本件特許発明の「鉄筋」に相当する。また,構成a)における「SC杭又はPHC杭」は,杭の種類の一種であるので,本件特許発明の「杭」に,構成a),c)における「フーチング(基礎コンクリート)」は,本件特許発明の「基礎コンクリートスラブ」にそれぞれ相当する。したがって,イ号物件の構成a),b),c)は本件特許発明の構成要件A),B),C)を充足する。

2.構成要件D),E),F)の充足性について
イ号物件の構成d)と本件特許発明の構成要件D)とを対比すると,構成d)の「付着力が小さい部分」は,アンカー鋼棒の伸び性能を十分に発揮させるため,引抜き抵抗用鋼棒には付着力が小さい丸鋼をアンカー形式で採用しており,付着,即ち定着の程度は小さいものの,定着しており,非定着状体を保っているものとは認められないことから,本件特許発明の「非定着部」に相当せず,本件特許発明の構成要件D)を充足しない。
同様の理由で,イ号物件の構成e)も本件特許発明の構成要件E)を充足しない。
次に,本件特許発明の構成要件F)に関し,イ号物件では杭頭に鋼製のF.T.キャップを被せて,地震時には杭頭部が回転し,前記杭頭部に働く曲げモーメントが低減すると共に,引抜き抵抗用鋼棒の付着力が少ない部分において前記引抜き抵抗用鋼棒が伸びて杭頭接合部の回転性能を向上させている。よって,上記と同様の理由で,イ号物件は本件特許発明の構成要件F)を充足しない。

3.構成要件G)の充足性について
上記「1.構成要件A),B),C)の充足性について 」と同様の理由で,イ号物件の構成g)は,本件特許発明の構成要件G)を充足する。

第6 むすび
以上のとおり,イ号物件は本件特許発明の構成要件D),E),F)を充足しないから,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。 また,本件の他の請求項2?12に係る発明は,請求項1に係る発明にさらに限定を加えたものであるから,イ号物件は,本件の請求項2?12に係る発明の技術的範囲に当然に属しない。
よって,結論のとおり判定する。

 
判定日 2012-07-24 
出願番号 特願平10-317879
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本郷 徹  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 横井 巨人
中川 真一
登録日 2008-04-11 
登録番号 特許第4107452号(P4107452)
発明の名称 杭と基礎コンクリートスラブとの接合構造  
代理人 磯野 道造  
代理人 町田 能章  
代理人 野田 茂  

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