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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1261822
審判番号 不服2011-3423  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-16 
確定日 2012-08-17 
事件の表示 特願2007-190907「メカニカルシール」拒絶査定不服審判事件〔平成21年2月5日出願公開、特開2009-24836〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成19年7月23日の出願であって、平成22年11月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成23年2月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年2月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
シールケース及びこれを洞貫する回転軸の一方に固定された第1密封環とその他方に金属製の保持環を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環との対向端面の相対回転部分において被密封流体をシールするように構成されたメカニカルシールであって、保持環と第2密封環とが、これら両環の対向端面が直接に押圧接触する状態であって当該両環の径方向歪が相互に干渉する状態で連結されているメカニカルシールにおいて、
保持環を第2密封環の構成材と熱膨張係数及びヤング率が近似するチタンで構成したことを特徴とするメカニカルシール。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
シールケース(22)を洞貫する回転軸(21)に固定された第1密封環(23)とシールケース(22)に金属製の保持環(25)を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環(24)との対向端面たる密封端面(23a,24a)が接触する状態で相対回転し、当該密封端面(23a,24a)の相対回転部分において高圧の被密封流体をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであって、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件下で使用されるメカニカルシールにおいて、
保持環(25)と第2密封環(24)とを、これら両環(24,25)の対向端面が直接に押圧接触する状態であって当該両環の径方向歪が相互に干渉する状態で軸線方向に分離不能に連結し、
保持環(25)を第2密封環(24)の構成材と熱膨張係数及びヤング率が近似するチタンで構成したことを特徴とするメカニカルシール。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明特定事項である「第1密封環」及び「第2密封環」に関し、「シールケース及びこれを洞貫する回転軸の一方に固定された第1密封環とその他方に金属製の保持環を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環」から「シールケース(22)を洞貫する回転軸(21)に固定された第1密封環(23)とシールケース(22)に金属製の保持環(25)を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環(24)」(下線部のみ)とし、同じく「メカニカルシール」に関し、「対向端面の相対回転部分において被密封流体をシールするように構成されたメカニカルシール」から「対向端面たる密封端面(23a,24a)が接触する状態で相対回転し、当該密封端面(23a,24a)の相対回転部分において高圧の被密封流体をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであって、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件下で使用されるメカニカルシール」(下線部のみ)とし、同じく「保持環」と「第2密封環」に関し、「連結されている」から「軸線方向に分離不能に連結し」(下線部のみ)として、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動するような条件下においても、密封端面間を適正な非接触状態又は接触状態に保持することができ、良好且つ安定したシール機能を発揮しうるメカニカルシールを提供することを目的とするものである。」(段落【0009】参照)、「本発明のメカニカルシールにあっては、熱歪による影響を強く受ける高温条件下で使用される場合には保持環を少なくとも熱膨張係数が第2密封環の構成材に近似する金属材で構成しておくのであり、圧力歪による影響を強く受ける高圧条件下で使用される場合には保持環を少なくともヤング率が第2密封環の構成材に近似する金属材で構成しておくのであり、熱歪及び圧力歪による影響を共に強く受ける高温,高圧条件下で使用される場合には、保持環を熱膨張係数及びヤング率の何れもが第2密封環の構成材に近似する金属材で構成しておくのである。」(段落【0010】参照)、「本発明の非接触形メカニカルシールにあっては、保持環を第2密封環の構成材と熱膨張係数及び/又はヤング率が近似する金属材で構成する(例えば、第2密封環がカーボン製のものである場合、保持環をチタン製のものとする)ため、被密封流体が大きく温度変化及び/又は圧力変動するような条件下においても、第2密封環と保持環との間に径方向における大きな歪量差が生じず、冒頭で述べたような問題を生じることなく、良好且つ安定したシール機能を発揮させることができる。」(段落【0012】参照)、「図2は本発明に係るメカニカルシールの第2の実施の形態を示す縦断側面図であり、この実施の形態におけるメカニカルシールは、図2に示す如く、回転機器ハウジングの軸封部(図示せず)に取り付けられたシールケース22と、回転軸21に固定された第1密封環たる回転密封環23と、シールケース22に軸線方向移動可能に保持された保持環25と、シールケース22と保持環5との間に介装されたスプリング部材26と、シールケース22に保持環25を介して軸線方向移動可能に保持されると共にスプリング部材26により回転密封環23へと押圧接触された第2密封環たる静止密封環24と、を具備して、両密封環23,24の対向端面たる密封端面23a,24aの相対回転摺接作用により、当該回転機器の機内領域である被密封流体領域(例えばポンプ室)Hと機外領域である非密封流体領域(例えばポンプ室外の大気領域)Lとを遮蔽するように構成された端面接触形メカニカルシールである。」(段落【0025】参照)、「保持環25の外周部にはOリング29aを介して連結環29が嵌合固定されており、この連結環29にOリング29bを介して静止密封環24を内嵌保持させることにより、両環24,25を対向端面24b,25aが直接に押圧接触された状態に連結している。連結環29は両環24,25を軸線方向に分離不能に連結するためのものであり、連結環29に対する静止密封環24の相対回転は、図2に示す如く、保持環25に植設せる適当数のドライブピン(1本のみ図示)28bを静止密封環24に形成した凹部24cに突入係合させておくことにより阻止されている。なお、Oリング29bは、静止密封環24と連結環29との間を二次シールすると共に、両環24,29間に径方向歪量の差が生じた場合においてこれを吸収して連結環29の歪が静止密封環24に与える影響を排除する。」(段落【0031】参照)、「以上のように構成された端面接触形メカニカルシールにあっては、図2又は図3に示す如く、異質材で構成される静止密封環24と保持環25とが、その対向端面24b,25aで直接に押圧接触する状態、つまり両環24,25の径方向歪が相互に干渉する状態で連結されているため、冒頭で述べた第1従来シールと同様の問題が生じる虞れがある。しかし、保持環25が静止密封環24の構成材たるカーボンと熱膨張係数及びヤング率が近似するチタンで構成されているから、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する場合にも、両環24,25の径方向における熱歪量差及び/又は圧力歪量差が小さく、両環24,25の接触部分24b,25aにおける径方向での相対変位が僅かであり、第1従来シールにおける如き問題を生じることがない。すなわち、昇温時及び/又は降圧時において図6(A)に示す如きモーメントM1が生じることがなく、また降温時及び/又は昇圧時において同図(B)に示す如きモーメントM2が作用することがない。したがって、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件で使用した場合にも、静止密封環4が傾くようなことがなく、その密封端面24aの平面度や相手密封端面23aとの平行度,同心度が損なわれず適正に保持され、端面接触形メカニカルシールによるシール機能が良好に発揮される。」(段落【0034】参照)と記載され、図2には、第1密封環(23)が回転軸(21)に固定され、第2密封環(24)がシールケース(22)に保持されていることが図示されている。
結局、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開平4-296259号公報
(2)刊行物2:特開昭62-62059号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「非接触シール装置」に関して、図面(特に、図3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えばタービン,ブロワ,遠心圧縮機等の主として気体(窒素,アルゴン,水素,天然ガス,空気等)を扱う回転機器において好適に使用される非接触シール装置に関するものであり、具体的には、回転軸に固定された回転密封環と、シールケースにスプリングにより保持環を介して回転密封環へと押圧附勢された静止密封環との間に、流体膜によるシール部分を形成させるように構成された非接触シール装置に関するものである。」(第2頁第1欄第11?20行、段落【0001】参照)
(b)「【0002】
【従来の技術】従来のこの種の非接触シール装置としては、図3に示す如く、回転軸2に固定された回転密封環3の密封端面3aと、シールケース1に保持環5及びスプリング6を介して軸線方向移動可能に附勢保持された静止密封環4の密封端面4aとの間に、回転側密封端面3aに設けた動圧発生溝3bにより流体膜を介在形成させることによって、流体膜の形成部分であるシール部分Sにおいて高圧流体領域Hと低圧流体領域Lとの間をシールしうるように構成されたものがよく知られている。ここに、静止密封環4と保持環5とは、スプリング6(及び流体圧力)により軸線方向において相互に押し合う接触状態に保持されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、各環3,4,5には、運転に伴う発熱や機器のシステム圧によって熱歪や圧力歪が生じる。なお、熱歪は、主として、シール部分Sの剪断力による発熱によって発生するものであり、その発熱量は流体の剪断力による仕事量と等価である。すなわち、流体の剪断力は一般にμ(V/h)(μ:粘性率,V:周速,h:流体膜(密封端面2a,6a間の隙間)の厚さ)で与えられるが、この剪断力による仕事量つまり発熱量は剪断力にシール部分の面積,バランス径,角速度を剰じたものとなる。
【0004】そして、各環3,4,5に生ずる熱歪量,圧力歪量は、これらの環3,4,5がその機能の違いから熱膨張係数,ヤング率の異なる異質材で構成されていることから、相互に異なる。例えば、回転密封環3はWC,SiC等の超硬質材で、静止密封環4はカーボン等の比較的軟質材で、保持環5はSUS304,Ti等の金属材で構成されている。
【0005】一方、非接触シール装置にあっては、両密封端面3a,4a間に流体膜を形成させるものであるから、良好なシール機能を発揮させるためには、各密封端面3a,4aの平滑度及び両密封端面3a,4aの平行度を如何に維持させておくかが極めて重要となる。
【0006】ところが、上記した従来のシール装置にあっては、回転密封環3については、熱膨張係数の小さな超硬質材で構成されているため熱歪量,圧力歪量が小さいが、静止密封環4及び保持環5については、かかる歪量が大きい。しかも、静止密封環4における保持環5との接触部分12においては、静止密封環4にこれと歪量や歪状態の異なる保持環5がスプリング6及び流体圧力によって強く押圧せしめられていることから、保持環5の歪が静止密封環4に干渉して、静止密封環4のみから生じる歪とは異なった歪状態を呈することになる。
【0007】このように静止密封環4の歪が保持環5の歪に干渉されると、静止側密封端面4aの平滑度及びこれと回転側密封端面3aとの平行度が損なわれ、その結果、シール部分Sにおける圧力分布が不適正なものとなり、良好なシール機能を発揮し得なくなる。
【0008】本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、特に静止側密封端面における熱歪,圧力歪が過大とならないようにして、両密封端面の平滑度及び平行度を適正に維持できるように工夫した非接触シール装置を提供することを目的とするものである。」(第2頁第1欄第21行?第2欄第26行、段落【0002】?【0008】参照)
(c)「【0015】図1に示す非接触シール装置において、1は高圧側密封流体領域(例えば、タービン等の機内である高圧ガス領域)Hと低圧側密封流体領域(例えば、タービン等の機外である大気領域)Lとを区画するシールケース、2はシールケース1を洞貫するタービン軸等の回転軸、3は回転軸2に固定された回転密封環、4は回転密封環3の密封端面3aに平行する平滑な密封端面4aを有する静止密封環、5は静止密封環4の背面側においてシールケース1に保持された保持環、6はシールケース1と保持環5との間に介装されたスプリングである。
【0016】回転側密封端面3aには、例えばスパイラル状の動圧発生溝3bが形成されており、両密封環3,4の相対回転に伴い動圧を発生せしめて、その密封端面3a,4a間に流体膜を介在形成させるようになっている。すなわち、この流体膜の形成部分であるシール部分Sにおいて、両密封流体領域H,L間をシールするようになっている。
【0017】静止密封環4はカーボン等で構成されたもので、保持環5にドライブピン7を介して相対回転不能且つ軸線方向相対移動可能に保持されている。
【0018】保持環5は、円筒状の被保持部分5aと円環状のスプリング受部分5bとを備えた断面略L字形状にSUS304,チタン等の金属材で構成されたもので、シールケース1に第一Oリング8を介してシール状態で軸線方向移動可能に且つドライブピン9を介して相対回転不能に保持されている。なお、ドライブピン7,9は共通のものとすることもできる。
【0019】そして、静止密封環4と保持環5との間は、図1及び図2に示す如く、第二Oリング10を介在させることによって、シールされた非接触状態に保持されている。
【0020】すなわち、保持環5の端面5cに形成した環状溝5dに第二Oリング10を突出状に嵌挿保持させることによって、両環4,5を、その対向端面4b,5c間に適当なクリアランス11aを有する非接触状態で、第二Oリング10を介して相互に押圧し合うように保持させてある。また、保持環5の端面5cには、環状溝5dの内周側壁に連なる環状凸部5eが突設されていて、第二Oリング10の内周方向への食み出し及びズレを防止するように工夫してある。なお、保持環5においては、被保持部分5aの外径が環状凸部5eの外径より大きくならないように設定されている。また、静止密封環4の内周部には、保持環5の環状凸部5eが若干のクリアランス11bを有して内嵌突入しうる環状段部4cが形成されている。
【0021】以上のように構成された非接触シール装置にあっては、静止密封環4と保持環5とが直接的には接触しておらず、第二Oリング10を介して相互に押圧し合う状態に保持されているから、その押圧部分においては各環4,5の熱歪,圧力歪が弾性材である第二Oリング10により吸収されて相互に干渉することがない。したがって、静止密封環4の歪分布が保持環5の歪による影響を受けるようなことがない。その結果、静止側密封端面4aの平滑度及び回転側密封端面3aとの平行度が損なわれたりすることがなく、長期に亘って良好なシール機能が発揮される。
【0022】また、両環4,5が直接的には接触していないものの、第二Oリング10を介して相互に押圧し合う状態に保持されることから、静止密封環4の保持機能及び両環4,5間のシール機能も良好に発揮されることになる。」(第3頁第3欄第7行?第4欄第18行、段落【0015】?【0022】参照)
刊行物1には、「各環3,4,5には、運転に伴う発熱や機器のシステム圧によって熱歪や圧力歪が生じる。・・・各環3,4,5に生ずる熱歪量,圧力歪量は、これらの環3,4,5がその機能の違いから熱膨張係数,ヤング率の異なる異質材で構成されていることから、相互に異なる。」(第2頁第1欄第35?48行、段落【0003】及び【0004】、上記摘記事項(b)参照)、及び「従来のシール装置にあっては、回転密封環3については、熱膨張係数の小さな超硬質材で構成されているため熱歪量,圧力歪量が小さいが、静止密封環4及び保持環5については、かかる歪量が大きい。しかも、静止密封環4における保持環5との接触部分12においては、静止密封環4にこれと歪量や歪状態の異なる保持環5がスプリング6及び流体圧力によって強く押圧せしめられていることから、保持環5の歪が静止密封環4に干渉して、静止密封環4のみから生じる歪とは異なった歪状態を呈することになる。」(第2頁第2欄第7?16行、段落【0006】、上記摘記事項(b)参照)と記載されていることからみて、刊行物1に記載されたものは、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件下で使用され、保持環5と静止密封環4の径方向歪が相互に干渉する状態で接触しているものであるから、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
シールケース1を洞貫する回転軸2に固定された回転密封環3とシールケース1に金属製の保持環5を介して軸線方向移動可能に保持されたカーボン製の静止密封環4との対向端面たる回転側密封端面3a及び静止側密封端面4aが非接触の状態で相対回転し、当該回転側密封端面3a及び静止側密封端面4aの相対回転部分において高圧の被密封流体をシールするように構成された端面非接触シール装置であって、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件下で使用されるシール装置において、
保持環5と静止密封環4とを、これら両環の対向端面が相互に押し合う接触状態であって当該両環の径方向歪が相互に干渉する状態で接触させ、
保持環5をSUS304、Ti(チタン)等の金属材で構成したシール装置。

(刊行物2)
刊行物2には、「メカニカルシール」に関して、図面(特に、第2及び3図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(d)「本発明は、軸封技術に係るメカニカルシールに関するものである。」(第1頁左欄下から第3及び4行)
(e)「従来からメカニカルシールの一種として摺動材に超硬合金に代表される高硬度材料を用いたものが知られている。超硬合金は、他の材料に見られない優れた耐摩耗性を有し、高性能材料として重宝されている反面、高価でかつ強度の加工技術を必要とするため、断面矩形の単純なリング状に成形されて接着、焼嵌め、かしめ等の方法でリテーナ部材に抱着される構成になり・・・」(第1頁左下欄第14行?右下欄第7行)
(f)「第1図において、ハウジング(1)の軸孔に挿通した回転軸(2)を軸封するメカニカルシールは、Oリング(4)を介して軸孔内周に気密的に嵌着される固定側摺動環(3)と回転軸(2)に従動回転する回転側摺動環(5)を有し、両摺動環(3)(5)の密着摺動により各種流体をシールするようになる。断面矩形を呈し、リテーナ部材(6)に抱着された回転側の摺動環(5)・・・」(第2頁左下欄第3?10行)
(g)「第2図および第3図はそれぞれ他の実施例として、回転側の摺動環(5)の外、固定側の摺動環(3)も上記合金材で製し、リテーナ部材(7)に抱持したものを示している。」(第3頁左上欄第1?5行)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「シールケース1」は本願補正発明の「シールケース(22)」に相当し、以下同様にして、「回転軸2」は「回転軸(21)」に、「回転密封環3」は「第1密封環(23)」に、「保持環5」は「保持環(25)」に、「静止密封環4」は「第2密封環(24)」に、「回転側密封端面3a及び静止側密封端面4a」は「密封端面(23a,24a)」に、「シール装置」は「メカニカルシール」に、「両環」は「両環(24,25)」に、「相互に押し合う接触状態」は「押圧接触する状態」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「非接触の状態で」は、「向かい合う状態で」である限りにおいて、本願補正発明の「接触する状態で」に相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
シールケースを洞貫する回転軸に固定された第1密封環とシールケースに金属製の保持環を介して軸線方向移動可能に保持されたカーボン製の第2密封環との対向端面たる密封端面が向かい合う状態で相対回転し、当該密封端面の相対回転部分において高圧の被密封流体をシールするように構成されたメカニカルシールであって、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件下で使用されるメカニカルシールにおいて、
保持環と第2密封環とを、これら両環の対向端面が押圧接触する状態であって当該両環の径方向歪が相互に干渉する状態としたメカニカルシール。
(相違点1)
本願補正発明は、「保持環(25)を第2密封環(24)の構成材と熱膨張係数及びヤング率が近似するチタンで構成した」のに対し、引用発明は、静止密封環4をカーボン製とし、保持環5をSUS304、Ti(チタン)等の金属材で構成した点。
(相違点2)
本願補正発明は、前記第2密封環(24)が、シールケース(22)に金属製の保持環(25)を介して軸線方向移動可能「且つ相対回転不能」に保持されているとともに、保持環(25)と第2密封環(24)とを、これら両環(24,25)の対向端面が「直接に」押圧接触する状態であって当該両環の径方向歪が相互に干渉する状態で「軸線方向に分離不能に連結し」ているのに対し、引用発明は、静止密封環4が、シールケース1に金属製の保持環5を介して軸線方向移動可能に保持されているとともに、保持環5と静止密封環4とを、これら両環の対向端面が相互に押し合う接触状態であって両環の径方向歪が相互に干渉する状態で接触させているものの、本願補正発明のような構成を具備していない点。
(相違点3)
本願補正発明は、「端面接触形メカニカルシール」であって、「密封端面(23a,24a)が接触する状態で」相対回転するのに対し、引用発明は、端面非接触シール装置であって、回転側密封端面3a及び静止側密封端面3bが非接触の状態で相対回転する点。
以下、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、「各環3,4,5には、運転に伴う発熱や機器のシステム圧によって熱歪や圧力歪が生じる。・・・各環3,4,5に生ずる熱歪量,圧力歪量は、これらの環3,4,5がその機能の違いから熱膨張係数,ヤング率の異なる異質材で構成されていることから、相互に異なる。例えば、回転密封環3はWC,SiC等の超硬質材で、静止密封環4はカーボン等の比較的軟質材で、保持環5はSUS304,Ti等の金属材で構成されている。」(第2頁第1欄第35行?第2頁第2欄第1行、段落【0003】及び【0004】、上記摘記事項(b)参照)、「良好なシール機能を発揮させるためには、各密封端面3a,4aの平滑度及び両密封端面3a,4aの平行度を如何に維持させておくかが極めて重要となる。」(第2頁第2欄第4?6行、段落【0005】、上記摘記事項(b)参照)、及び「従来のシール装置にあっては、回転密封環3については、熱膨張係数の小さな超硬質材で構成されているため熱歪量,圧力歪量が小さいが、静止密封環4及び保持環5については、かかる歪量が大きい。しかも、静止密封環4における保持環5との接触部分12においては、静止密封環4にこれと歪量や歪状態の異なる保持環5がスプリング6及び流体圧力によって強く押圧せしめられていることから、保持環5の歪が静止密封環4に干渉して、静止密封環4のみから生じる歪とは異なった歪状態を呈することになる。
【0007】このように静止密封環4の歪が保持環5の歪に干渉されると、静止側密封端面4aの平滑度及びこれと回転側密封端面3aとの平行度が損なわれ、その結果、シール部分Sにおける圧力分布が不適正なものとなり、良好なシール機能を発揮し得なくなる。」(第2頁第2欄第7?21行、段落【0006】及び【0007】、上記摘記事項(b)参照)と記載されている。
よって、刊行物1には、良好なシール機能を発揮させるためには、熱歪量、圧力歪量を考慮して、両密封端面3a、4aの平行度を如何に維持させておくかが極めて重要であることが記載または示唆されている。
引用発明において、静止密封環4はカーボン等で構成されたものであるところ、刊行物1の記載に接した当業者であれば、両密封端面3a,4aの平行度を維持するためには、静止密封環4の材質として、一般に使用されるカーボンを選択した場合、保持環5の材質として、熱膨張係数及びヤング率がカーボンと近似するチタンを選択することに困難性はなく、その組み合わせの効果もカーボンとチタンの物性を理解している当業者であれば容易に予測されるものである。
してみれば、引用発明において、保持環5を静止密封環4の構成材と熱膨張係数及びヤング率が近似するチタンで構成し、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにメカニカルシールに関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「従来からメカニカルシールの一種として摺動材に超硬合金に代表される高硬度材料を用いたものが知られている。超硬合金は、他の材料に見られない優れた耐摩耗性を有し、高性能材料として重宝されている反面、高価でかつ強度の加工技術を必要とするため、断面矩形の単純なリング状に成形されて接着、焼嵌め、かしめ等の方法でリテーナ部材に抱着される構成になり・・・」(第1頁左下欄第14行?右下欄第7行、上記摘記事項(e)参照)、「第1図において、ハウジング(1)の軸孔に挿通した回転軸(2)を軸封するメカニカルシールは、Oリング(4)を介して軸孔内周に気密的に嵌着される固定側摺動環(3)と回転軸(2)に従動回転する回転側摺動環(5)を有し、両摺動環(3)(5)の密着摺動により各種流体をシールするようになる。断面矩形を呈し、リテーナ部材(6)に抱着された回転側の摺動環(5)・・・」(第2頁左下欄第3?10行、上記摘記事項(f)参照)、及び「第2図及び第3図はそれぞれ他の実施例として、回転側の摺動環(5)の外、固定側の摺動環(3)も上記合金材で製し、リテーナ部材(7)に抱持したものを示している。」(第3頁左上欄第1?5行、上記摘記事項(g)参照)と記載されている。
つまり、刊行物2には、固定側の摺動環(3)がハウジング(1)にリテーナ部材(7)を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されるとともに、リテーナ部材(7)と固定側の摺動環(3)とを、両者(3)(7)の対向面が接着、焼嵌め、かしめ等の方法で、軸線方向に分離不能に連結されている構成が記載又は示唆されている。
してみれば、引用発明に刊行物2に記載された技術的事項を適用することにより、静止密封環4を、シールケース1に金属製の保持環5を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持するとともに、保持環5と静止密封環4とを、これら両環4,5の対向端面が直接に押圧接触する状態であって両環4,5の径方向歪が相互に干渉する状態で軸線方向に分離不能に連結することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
メカニカルシールの技術分野において、密封端面が接触する状態で相対回転する端面接触形メカニカルシールは、従来周知の技術事項(例えば、刊行物2の第2及び3図に記載された固定側摺動環(3)と回転側摺動環(5)の密封端面の端面接触形メカニカルシールの構成を参照)にすぎない。
してみれば、引用発明の端面非接触形メカニカルシールを、上記従来周知の技術的手段である端面接触形メカニカルシールとすることにより、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成23年8月29日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「このような引用文献2(注:本審決の「刊行物1」に対応する。以下同様。)の記載から、従来例シールのように静止密封環4と保持環5とがスプリング6及び流体圧力により接触していると両環4,5の歪干渉により密封端面の平滑度及び平行度が損なわれること、及びかかる歪干渉を解消するためには両環4,5を非接触状態に保持しておくことが有効であることが理解されます。さらには、従来例シールのように両環4,5が分離可能に接触している場合でも歪干渉が生じるのでありますから、両環4,5が接触状態に分離不能に連結されている場合には歪干渉がより大きく生じるであろうことが容易に想像できます。
ところで、引用文献2の段落番号[0005]に『一方、非接触シール装置にあっては、両密封端面3a,4a間に流体膜を形成させるものであるから、良好なシール機能を発揮させるためには、各密封端面3a,4aの平滑度及び両密封端面3a,4aの平行度を如何に維持させておくかが極めて重要となる。』と記載されておりますように、両密封環が動圧流体膜又は静圧流体膜を介在させた非接触状態で相対回転する非接触形メカニカルシール(非接触シール装置)におきましては、両密封環が接触状態で相対回転する端面接触形メカニカルシールに比して、上記平滑度及び平行度の良否がシール機能に与える影響は極めて大きくなります。例えば、非接触形メカニカルシールでは密封端面に僅かな歪が生じることにより平滑度及び/又は平行度が極く僅かに損なわれているに過ぎないときにも、動圧流体膜又は静圧流体膜が適正に形成されずシール機能(非接触形メカニカルシール機能)が良好に発揮されないことになりますが、端面接触形メカニカルシールでは、密封端面に僅かな歪が生じていても、かかる歪は相手密封環への押圧接触によりある程度消失し、平滑度及び平行度に悪影響を及ぼすことはなく、良好なシール機能が発揮されます。このように、非接触形メカニカルシールと端面接触形メカニカルシールとは、歪干渉がシール機能に与える影響が明らかに異なります。
したがいまして、従来例シールに引用文献1(注:本審決の「刊行物2」に対応する。)に記載された端面接触形メカニカルシールの連結構造を採用することは、端面接触形メカニカルシールに比して歪干渉によるシール機能への悪影響が強い非接触形メカニカルシールにおいて、静止密封環(第2密封環)4と保持環5とを、分離可能な接触構造に比して歪干渉がより強くなる分離不能な連結構造に変更することであり、当業者ならば上記事情から当然に避けるべきはずでありましょう。」(「(1)」の項参照)と主張している。
しかしながら、両密封端面3a、4aの平行度の維持の観点からみれば、接触状態の場合には、非接触状態の場合ほど、平行度が厳密に要求されないことは技術的に自明であるし、本願補正発明は、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

また、審判請求人は、回答書において、請求項1を削除して、請求項2に係る発明に限定する補正案を提示しているので、念のため検討すると、請求項2に記載された連結環(29)は、刊行物2の図3に記載されたリテーナ部材7の一部を分離したものと捉えることができるので、当業者における設計変更の範囲内の事項にすぎないので、補正案は受け入れることができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成22年9月13日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
シールケース及びこれを洞貫する回転軸の一方に固定された第1密封環とその他方に金属製の保持環を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環との対向端面の相対回転部分において被密封流体をシールするように構成されたメカニカルシールであって、保持環と第2密封環とが、これら両環の対向端面が直接に押圧接触する状態であって当該両環の径方向歪が相互に干渉する状態で連結されているメカニカルシールにおいて、
保持環を第2密封環の構成材と熱膨張係数及びヤング率が近似するチタンで構成したことを特徴とするメカニカルシール。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「第1密封環」及び「第2密封環」に関し、「シールケース(22)を洞貫する回転軸(21)に固定された第1密封環(23)とシールケース(22)に金属製の保持環(25)を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環(24)」から、「シールケース及びこれを洞貫する回転軸の一方に固定された第1密封環とその他方に金属製の保持環を介して軸線方向移動可能且つ相対回転不能に保持されたカーボン製の第2密封環」とし、同じく「メカニカルシール」に関し、「対向端面たる密封端面(23a,24a)が接触する状態で相対回転し、当該密封端面(23a,24a)の相対回転部分において高圧の被密封流体をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであって、被密封流体の温度及び/又は圧力が大きく変動する条件下で使用されるメカニカルシール」から、「対向端面の相対回転部分において被密封流体をシールするように構成されたメカニカルシール」とし、同じく「保持環」と「第2密封環」に関し、「軸線方向に分離不能に連結し」から、「連結されている」とすることにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-30 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-06-27 
出願番号 特願2007-190907(P2007-190907)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平城 俊雅  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 メカニカルシール  
代理人 三木 久巳  

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