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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1261827 |
審判番号 | 不服2011-24620 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-15 |
確定日 | 2012-08-17 |
事件の表示 | 特願2010- 95886「光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月 5日出願公開、特開2010-170693〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許出願は、平成10年9月18日に出願した特願平10-282083号の一部を平成22年4月19日に新たな特許出願としたものであって、平成22年11月15日付け、平成23年1月31日付け、及び平成23年5月17日付けの各拒絶理由通知に対し、平成23年1月14日付け、平成23年3月31日付け、及び平成23年7月25日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がされたが、平成23年8月12日付けで、前記平成23年7月25日付けでした手続補正が補正却下されるとともに、同日付けで本件特許出願は拒絶すべきものである旨の査定がされ、これに対し、平成23年11月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がされたものである。 その後、前置報告書の内容を利用した審尋に対し、平成24年4月27日付けで回答書が提出された。 第2 平成23年11月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成23年11月15日付けの手続補正を却下する。 〔理 由〕 1.本件補正 平成23年11月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前(平成23年3月31日付け手続補正による。)に、 「【請求項1】 レーザ光源と、レーザ光源からのほぼ無収差の光束を光情報記録媒体の透明基板を介して情報記録面上に集光する正の屈折力を有する対物レンズと、情報記録面で反射され上記対物レンズを通過した光束を受光する受光手段を有する光情報記録媒体の光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズであって、上記対物レンズの屈折面上、レーザ光源の波長と情報記録密度に応じて必要とされる光情報記録媒体側の開口数NAに対応する位置に、屈折面の法線方向が不連続に変化する部位を設け、光軸に垂直な方向において上記部位より外側の屈折面を通過した光束は、上記光ピックアップ装置に用いるすべての光情報記録媒体の情報記録面上に、記録再生に用いられるようには集光せず、記録再生に有効な光束径は上記部位を境に規制されることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項2】 請求項1の記録再生用対物レンズにおいて、該対物レンズは単レンズとして構成され、上記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位は上記対物レンズの光源側の面上に設けられていることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項3】 請求項1あるいは請求項2の記録再生用対物レンズにおいて、上記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位は、屈折面に設けた段差であることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項4】 請求項3の記録再生用対物レンズにおいて、上記段差面は、アンダーカットのない形状とされていることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項5】 請求項3あるいは請求項4の記録再生用対物レンズにおいて、上記段差の光軸方向の高さ△は、光源波長をλとしたとき △/λ < 200/8 であることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項6】 請求項1ないし請求項5の何れかの記録再生用対物レンズにおいて、上記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位よりも光軸側の面形状を表す関数をf(h)、段差の外側の 面形状を表す関数をg(h)としたとき、 f’(h) ≠ g’(h) であることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 ただしhは光軸からの高さを表す。 【請求項7】 請求項1ないし請求項6の何れかの記録再生用対物レンズにおいて、面形状g(h)によって生じる球面収差は、面形状f(h)を周辺部へ延長したときに生じる球面収差に比して、よりアンダーであることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項8】 請求項1ないし請求項6の何れかの記録再生用対物レンズにおいて、面形状g(h)によって生じる球面収差は、面形状f(h)を周辺部へ延長したときに生じる球面収差に比して、よりオーバーであることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項9】 請求項1ないし請求項8の記録再生用対物レンズにおいて、該対物レンズは屈折面の法線方向が不連続に変化する部位を含めて単一の透明材料で一体に形成されていることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項10】 請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の記録再生用対物レンズを有することを特徴とする光ピックアップ装置。」 とあったものを、 「【請求項1】 レーザ光源と、前記レーザ光源からのほぼ無収差の光束を光情報記録媒体の透明基板を介して情報記録面上に集光する正の屈折力を有する対物レンズと、前記情報記録面で反射され前記上記対物レンズを通過した光束を受光する受光手段を有する光情報記録媒体の光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズであって、 前記対物レンズの屈折面上、前記レーザ光源の波長と前記光情報記録媒体の情報記録密度に応じて必要とされる前記光情報記録媒体側の開口数NAに対応する位置に、屈折面の法線方向が不連続に変化する部位を設け、光軸に垂直な方向において前記上記部位より外側の屈折面を通過した光束は、前記光ピックアップ装置に用いるすべての種類の光情報記憶媒体の情報記録面上に、記録再生に用いられるようには集光せず、記録再生に有効な光束径は前記部位を境に規制され、前記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位よりも光軸側の面形状を表す関数をf(h)、前記部位の外側の面形状を表す関数をg(h)としたとき、前記関数g(h)で表される面形状によって生じる球面収差は、前記関数f(h)で表される面形状を周辺部へ延長したときに生じる球面収差に比して、よりオーバーであることを特徴とする光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ。 ただしhは光軸からの高さを表す。 【請求項2】 請求項1の記録再生用対物レンズにおいて、該対物レンズは単レンズとして構成され、前記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位は前記対物レンズの光源側の面上に設けられていることを特徴とする光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ。 【請求項3】 請求項1ないし請求項2の記録再生用対物レンズにおいて、前記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位は、屈折面に設けた段差であることを特徴とする光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ。 【請求項4】 請求項3の記録再生用対物レンズにおいて、前記段差面は、アンダーカットのない形状とされていることを特徴とする光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ。 【請求項5】 請求項3あるいは請求項4の記録再生用対物レンズにおいて、前記段差の光軸方向の高さ△は、光源波長をλとしたとき △/λ < 200/8 であることを特徴とする光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ。 【請求項6】 請求項1ないし請求項5の記録再生用対物レンズにおいて、該対物レンズは屈折面の法線方向が不連続に変化する部位を含めて単一の透明材料で一体に形成されていることを特徴とする光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ。 【請求項7】 請求項1ないし請求項6の何れか記載の記録再生用対物レンズを有することを特徴とする光ピックアップ装置。」 と補正しようとするものである。 本件補正について、審判請求人は、請求の理由において、 「請求項1については基本的に旧請求項6及び旧請求項8に記載の構成を旧請求項1に取り込むと共に、本発明の記録再生用対物レンズは光ピックアップ装置用のものであることを明確にする補正がなされております。これらの技術事項は当初明細書の[0011]にサポートされております。請求項2乃至5に記載の発明は技術事項が旧請求項2乃至5に記載の事項であり、形式的に変わりませんが、基礎となる発明が新請求項1に代る補正がなされております。請求項7の発明は削除され、旧請求項9と10は新請求項6及び7となっております。また、[課題を解決するための手段]が記載されている[0006]の記載を上記の請求項1の補正に整合させ、記載を改めたものであります。 以上のとおり、今般の補正は請求範囲の減縮に相当する適法な補正であります。 」 と主張している。 そこで、本件補正の適否について、以下、検討する。 2.特許法17条の2第3項に規定する要件について 請求項1の補正内容について検討すると、請求人の主張するような 「旧請求項6及び旧請求項8に記載の構成を旧請求項1に取り込むと共に、本発明の記録再生用対物レンズは光ピックアップ装置用のものであることを明確にする補正」に加え、「光ピックアップ装置に用いるすべての種類の光情報記憶媒体の情報記録面上に、記録再生に用いられるようには集光せず(アンダーラインは当審が付与)」とする補正事項を含むものである。 ここで、光情報記憶媒体の「種類」について検討すると、本件出願当時既に、CD、DVDなど、光源波長、対物レンズのNA(開口数)等、記録再生の光学的条件が異なる点で明らかに「種類」が異なるといえる複数の光記憶媒体が存在したのであるから、本件補正後の請求項1において「すべての種類の光情報記憶媒体」との特定には、前記明らかに「種類」が異なるといえる複数の光記憶媒体が含まれると解される。 しかしながら、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、光情報記録媒体の「種類」に言及した記載はなく、実施例1及び2のデータによっても、いずれの実施例においても光源波長は780nm、光記録媒体の表面から記録面までの厚みと解される面番号iが3のdiは、いずれもdi=1.20であって、少なくともこれらの条件に関しては、複数の種類の光記録媒体を記録再生する光ピックアップ装置における対物レンズについて記載したとものではではないと解するのが技術的に妥当である。また、実施例を含め、当初明細書等の記載から、複数の種類の光記録媒体の記録再生が可能な対物レンズが自明な事項であると解する根拠もない。すると、本件補正は、当初明細書等に記載のない、複数の種類の光記録媒体について記録再生をすることができる対物レンズという、新たな技術事項を導入するものであるといえる。 以上のとおりであるから、本件補正は、当初明細書等に記載の範囲においてしたものとすることができないから、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、却下すべきものである。 3.独立特許要件(記載不備)について 光記録媒体の「種類」の技術的意義を前記「2.」のように理解する限りにおいては、特許法17条の2第3項以外にも、以下のような補正却下の理由が生じる。 すなわち、仮に、「すべての光情報記憶媒体」を「すべての種類の光情報記憶媒体」とした点を、光情報記憶媒体について限定することで、特許請求の範囲を減縮することを目的としたもの(平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に該当)と解されるとしても、発明の詳細な説明には、複数の種類の光情報記録媒体を記録再生するための対物レンズの実施例が記載されておらず、したがって、発明の詳細な説明には、請求項1に記載した発明を当業者が実施しうる程度に明確かつ十分に記載したものとすることができず、また、請求項1に記載した発明は、発明の詳細な説明に記載したものとすることができない。 以上のとおりであるから、本件特許出願の明細書、及び特許請求の範囲の記載は、特許法36条4項1号、及び同法同条6項1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができたものとすることができないから、本件補正は、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項に規定する要件を満たさないものであって、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 4.独立特許要件(新規性進歩性)について (1)仮に、前記「すべての種類の光情報記憶媒体」との特定が、光源波長、対物レンズのNA(開口数)等、記録再生の光学的条件が共通する一群の光記憶媒体を単に包括的に特定したにすぎないものと解され、したがって本件補正が当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものと認められるものとした場合、本件補正の目的を、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)について以下に検討する。 (2)引用例発明 本件特許出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-300903号公報(以下、「引用例」という)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。なお、摘記事項の下線は当審が付した。 (a) 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、例えば、光ディスク用の光学ピックアップに適用されて好適な対物レンズに関するものである。 (b) 【0008】 【課題を解決するための手段】上記目的は、本発明によれば、ガラスまたはプラスチックから形成された単玉レンズから成る、対物レンズにおいて、上記単玉レンズの第一面または第二面のいずれか一方にて、有効径の外側部分のレンズ面領域は、この領域に入射する光束と、有効径内のレンズ面を透過する光束とが大きくずれるように、構成されている、対物レンズにより、達成される。 【0009】本発明による対物レンズは、好ましくは、前記有効径の外側部分のレンズ面領域が、断面にて、接線方向に延びる円錐状に形成されている。 【0010】また、本発明による対物レンズは、好ましくは、前記有効径の外側部分のレンズ面領域が、焦点を中心とする球面として形成されている。 【0011】さらに、本発明による対物レンズは、好ましくは、前記単玉レンズの外周縁の半周に対応する部分が、レンズホルダーによって包囲され固定保持される。 【0012】 【作用】上記構成によれば、対物レンズの第一面から入射した光は、第二面から外部に出射する。その際、有効径の内側部分を透過する光束は、対物レンズ自体の屈折効果によって、所定方向に収束されることになる。また、有効径の外側部分を透過する光束は、そのレンズ面の形状に基づいて、上記所定方向から大きくずれた方向に出射されることになる。 【0013】したがって、有効径の外側部分を透過する光束は、有効径の内側部分を透過する光束のように、収束せず、例えば光ディスクの表面への結像に寄与しない。かくして、対物レンズは、有効径の外側部分がアパーチャ部として作用することになる。 【0014】前記有効径の外側部分のレンズ面領域が、断面にて、接線方向に延びる円錐状に形成されているには、当このレンズ面領域を透過する光束は、焦点位置より後方に向かって平行光束として出射されることになる。 【0015】また、前記有効径の外側部分のレンズ面領域が、焦点を中心とする球面として形成されている場合には、当このレンズ面領域を透過する光束は、焦点位置より手前の光軸上の位置に向かって収束する光束として出射されることになる。 【0016】さらに、前記単玉レンズの外周縁の半周に対応する部分が、レンズホルダーによって包囲され固定保持される場合には、レンズホルダーは、アパーチャ部を備える必要がなく、対物レンズを側方から包囲するだけの簡単な構成となる。 (c) 【0018】図1は、本発明による対物レンズの一実施例を示している。図において、対物レンズ10は、一枚の概略凸状のレンズから構成されている。 【0019】この対物レンズ10は、その第一面11及び第二面12のうち、何れか一方の面、図示の場合には、左側の第一面11が、その有効径Dより内側のレンズ面領域11aにて、所定の光学性能を得るような曲率を有する球面または非球面として形成されている。また、対物レンズ10の有効径Dより外側のレンズ面領域11bは、レンズ面領域11aの曲率と大きく異なる曲率を有するように構成されている。 【0020】具体的には、このレンズ面領域11a及び11bは、それぞれ図2(A)に示すように、形成されている。図2(A)においては、レンズ面領域11aは、非球面として形成されており、レンズ面領域11bは、その断面が、レンズ面領域11aとの境界11cにおける接線方向に延びるように、円錐状に形成されている。 【0021】したがって、図面にて、左方から入射した光は、対物レンズ10の有効径の内側においては、第一面11のレンズ領域11aから、この対物レンズ10内に入射し、第二面12(図1参照)から右方に出射するようになっている。これにより、入射光束は、第一面11aのレンズ領域11aと第二面12によって、屈折され、所望の方向に収束されるようになっている。 【0022】また、対物レンズ10の有効径の外側においては、入射光束は、第一面11のレンズ領域11bに入射し、その円錐状のレンズ面の形状に基づいて、上記所定方向から大きくずれた方向に出射され、結像しない。 【0023】したがって、有効径の内側を透過する光束のみが、対物レンズ10によって結像されることになる。その際、有効径の外側を透過する光束は、収束せず、例えば光ディスクの表面への結像に寄与しない。すなわち、上記レンズ領域11bは、アパーチャ部として作用することになる。 【0024】上記対物レンズ10は、その第一面11のレンズ面領域11bが、接線方向に延びる円錐状の面として形成されているが、他の形状を有していてもよい。例えば、対物レンズ10のレンズ面領域11bは、図2(B)に示すように、例えば対物レンズ10の焦点位置を中心とする球面として形成されている。 【0025】これにより、このレンズ面領域11bは、レンズ面領域11aより内側に大きく傾斜することになる。したがって、入射光束は、対物レンズ10の焦点位置よりかなり手前で光軸上に収束することになり、その後発散する。 【0026】かくして、この場合も、同様にして、有効径の内側を透過する光束のみが、対物レンズ10によって焦点位置に結像されることになる。その際、有効径の外側を透過する光束は、収束せず、例えば光ディスクの表面への結像に寄与しない。すなわち、上記レンズ領域11bは、アパーチャ部として作用することになる。 【0027】また、対物レンズ10の第一面のレンズ面領域11bは、図2(C)に示すように、構成されていてもよい。この場合、レンズ面領域11bは、レンズ面領域11aとの境界部分に段差を有するように形成されていると共に、レンズ面領域11aとの境界における接線方向に延びるように、円錐状に形成されている。 【0028】このような構成によれば、有効径の内側を透過する光束のみが、対物レンズ10によって結像されることになる。その際、有効径の外側を透過する光束は、収束せず、例えば光ディスクの表面への結像に寄与しない。すなわち、上記レンズ領域11bは、アパーチャ部として作用することになる。 【0029】さらに、レンズ面領域11a,11bの境界部分に入射する光束は、段差によって、全く異なる方向に屈曲されるので、境界付近にて、レンズ面領域11bに入射する光束が、対物レンズ10の焦点位置付近に進むようなことはない。したがって、焦点位置における結像の収差が向上されることになる。 上記引用例記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。 「光ディスク用の光学ピックアップに適用されて好適な対物レンズであって、 有効径Dより内側のレンズ面領域11aにて、所定の光学性能を得るような曲率を有する球面または非球面として形成され、 対物レンズ10の有効径Dより外側のレンズ面領域11bは、レンズ面領域11aの曲率と大きく異なる曲率を有するように構成され、 レンズ面領域11aとの境界部分に段差を有するように形成されてレンズ面領域11a,11bの境界部分に入射する光束は、段差によって、全く異なる方向に屈曲され、 レンズ面領域11bは、レンズ面領域11aとの境界における接線方向に延びるように、円錐状に形成されこのレンズ面領域を透過する光束は、焦点位置より後方に向かって平行光束として出射され、 有効径の内側を透過する光束のみが、対物レンズ10によって結像され、有効径の外側を透過する光束は、収束せず、上記レンズ領域11bは、アパーチャ部として作用する、 対物レンズ。」 (3)対比 (i)引用例発明における「光ディスク用の光学ピックアップに適用されて好適な対物レンズ」と、本件補正発明の「光情報記録媒体の光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ」とを比較すると、「光学ピックアップ」が「記録」「再生」ともに用いられることが普通であることも考慮すると、両者は表現で相違する程度で、実質的に一致する。 引用例発明には、光学ピックアップの構成要素について特定がないが、技術常識上光学ピックアップで使用される光が「レーザ光源」であることは普通であり、対物レンズが「前記レーザ光源からのほぼ無収差の光束を光情報記録媒体の透明基板を介して情報記録面上に集光する正の屈折力を有する対物レンズ」であること、及び「前記情報記録面で反射され前記上記対物レンズを通過した光束を受光する受光手段を有する」こともそれぞれ普通のことにすぎない。 したがって、引用例発明は、実質的に、本件補正発明の 「レーザ光源と、前記レーザ光源からのほぼ無収差の光束を光情報記録媒体の透明基板を介して情報記録面上に集光する正の屈折力を有する対物レンズと、前記情報記録面で反射され前記上記対物レンズを通過した光束を受光する受光手段を有する光情報記録媒体の光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズであって」との要件を備えている。 (ii)技術常識上、光情報記憶媒体の記録再生に必要な開口数が前記媒体の種類毎に決められているので、引用例発明における光学ピックアップの「対物レンズの有効径D」が、「前記対物レンズの屈折面上、前記レーザ光源の波長と前記光情報記録媒体の情報記録密度に応じて必要とされる前記光情報記録媒体側の開口数NAに対応する位置」に相当することは当然である。 すると、「有効径Dより内側のレンズ面領域11a」と「対物レンズ10の有効径Dより外側のレンズ面領域11b」「との境界部分に段差を有するように形成されてレンズ面領域11a,11bの境界部分に入射する光束は、段差によって、全く異なる方向に屈曲され」との特定は、本件補正発明の「前記対物レンズの屈折面上、前記レーザ光源の波長と前記光情報記録媒体の情報記録密度に応じて必要とされる前記光情報記録媒体側の開口数NAに対応する位置に、屈折面の法線方向が不連続に変化する部位を設け」に相当する。 さらに、引用例発明の「レンズ面領域11bは、レンズ面領域11aとの境界における接線方向に延びるように、円錐状に形成されこのレンズ面領域を透過する光束は、焦点位置より後方に向かって平行光束として出射され」の点は、「焦点位置より後方」とは球面収差がオーバーであることを意味し、上記(1)のとおり「すべての種類の光情報記憶媒体」との特定は、光源波長、対物レンズのNA(開口数)等、記録再生の光学的条件が共通する一群の光記憶媒体を単に包括的に特定したにすぎないものと解することが前提である以上、引用例発明の光学ピックアップで用いることが想定される「すべての種類の光情報記憶媒体」で同様の光学的作用を有すると解しうるものであって、本件補正発明の、 「光軸に垂直な方向において前記上記部位より外側の屈折面を通過した光束は、前記光ピックアップ装置に用いるすべての種類の光情報記憶媒体の情報記録面上に、記録再生に用いられるようには集光せず、記録再生に有効な光束径は前記部位を境に規制され、前記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位よりも光軸側の面形状を表す関数をf(h)、前記部位の外側の面形状を表す関数をg(h)としたとき、前記関数g(h)で表される面形状によって生じる球面収差は、前記関数f(h)で表される面形状を周辺部へ延長したときに生じる球面収差に比して、よりオーバーである(ただしhは光軸からの高さを表す)。」ことに相当する。 (iii)以上のとおりであるから、引用例発明は、本件補正発明の特定事項を全て備えているか、また、仮に相違点があるとしても、単に表現上の相違程度で実質上のものではないか、または技術常識を考慮すると当然備わっていると解される程度の事項にすぎず、当業者が容易に想到しうることである。 したがって、本件補正発明は、特許法29条1項3号に該当し、または同法29条2項の規定により、本件特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。 (iv)独立特許要件(新規性進歩性)についての結び 以上のとおり、本件補正発明は、特許法29条1項3号に該当し、または同法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項に規定する要件を満たさないものであるから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 4.本件補正についての結び 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反し、または、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項に規定する要件を満たさないものであるから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成23年11月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成23年3月31日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2 〔理由〕1.」に本件補正前の請求項1として掲げたとおりのものである。 2.引用例 原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 〔理由〕4.(2)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記「第2 〔理由〕」で検討した本件補正発明から、 「光ピックアップ装置の記録再生用対物レンズ」が「光情報記録媒の記録再生用対物レンズ」と、実質上技術事項に変更のない元の記載に戻るほか、 「前記屈折面の法線方向が不連続に変化する部位よりも光軸側の面形状を表す関数をf(h)、前記部位の外側の面形状を表す関数をg(h)としたとき、前記関数g(h)で表される面形状によって生じる球面収差は、前記関数f(h)で表される面形状を周辺部へ延長したときに生じる球面収差に比して、よりオーバーである。 ただしhは光軸からの高さを表す。」との限定を削除し、 「光情報記録媒体の情報記録密度」から、「光情報記録媒体の」との限定を削除し、さらに、「すべての種類の光情報記憶媒体」から、「種類」の限定を削除したものに相当する。 そうすると、本願発明を特定するために必要な事項を全て含み、更に他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が前記「第2 〔理由〕4.」における検討で明らかにしたとおり、引用例発明と相違がないか、仮に相違があるとしても当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明と相違がないか、仮に相違があるとしても当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件特許出願の請求項1に係る発明は、特許法29条1項3号に該当し、または同法29条2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本件特許出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-14 |
結審通知日 | 2012-06-20 |
審決日 | 2012-07-04 |
出願番号 | 特願2010-95886(P2010-95886) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G11B)
P 1 8・ 536- Z (G11B) P 1 8・ 113- Z (G11B) P 1 8・ 55- Z (G11B) P 1 8・ 121- Z (G11B) P 1 8・ 537- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 五貫 昭一 |
特許庁審判長 |
山田 洋一 |
特許庁審判官 |
小松 正 齊藤 健一 |
発明の名称 | 光情報記録媒体の記録再生用対物レンズ |
代理人 | 山田 益男 |
代理人 | 大城 重信 |