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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1261845
審判番号 不服2010-18213  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-12 
確定日 2012-08-15 
事件の表示 特願2004-529052「涙膜浸透圧法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日国際公開、WO2004/017050、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534938〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本件は、平成15年3月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 平成14年8月6日 米国(US))を国際出願日とする特許出願(2004年特許願第529052号。以下、「本件出願」という。)であって、平成22年4月9日付けで、拒絶査定(発送日:同月20日)がなされたところ、拒絶査定不服審判が同年22年8月12日に請求されたものであり、当審で、平成23年9月7日付けで拒絶の理由を通知したところ、意見書及び手続補正書が平成24年2月7日に提出されたものである。
本件出願の請求項1?33に係る発明は、平成24年2月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
20マイクロリットル未満のアリコート体積の涙液を受入れると共にサンプル領域を有する基板を備えるエクスビボ型サンプル受けマイクロチップにおいて、
サンプル領域が、涙液と当接するように配置された複数の電極を含むと共に、複数の電極が、行列のアレイとして又は同心円に配置され、
涙液の読みを生成するように、涙液のエネルギー伝達特性をサンプル領域から検出することができ、更に、涙液の読みが、涙液のエネルギー伝達特性に直接関係すると共に、涙液の浸透度を示すエクスビボ型サンプル受けマイクロチップ。」

第2 当審の拒絶理由
一方、当審において平成23年9月7日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本件出願の請求項1?6、8?16、18?22に係る発明は、本件出願の優先権主張の日前に頒布された、特開昭53-5690号公報(以下、「引用刊行物A」という。)、特表平7-506431号公報(以下、「引用刊行物B」という。)、及び、Kohji Mitsubayashi et al., Flexible Conductimetric Sensor, Anal. Chem., 1993年,Vol.65, PP.3586-3590(以下、「引用刊行物C」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第3 引用刊行物記載の発明
(3A)本件出願の優先権主張の日前に頒布された上記引用刊行物Aには、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「本発明は一般にサンプル試験の技術分野に係り、特に血液等の体液サンプルの医学上の研究及びヘマトクリツト測定の如き血液の種々のパラメータ試験に適用し得るものに係る。」(3頁左上欄4?7行)

(3A-2)本発明によるサンプル受容カードは廃棄処理型のものでサンプルが試験された後は汚染されたカードは廃棄され、次のサンプルのため新たなカードと取り替えられる。・・・
又本発明は本発明によるサンプルカードを受け入れるように設計された特別なケースを有する測定器にも係る。この測定器はこの中へサンプルカードを案内し、カードを測定器内で支持し、且つ該カードを適当な電気回路へ関与せしめる案内、支持体を含む。」(3頁右下欄10行?4頁左上欄4行)

(3A-3)「このサンプルカードは一般に10で示され全体的に平らなベース部分12よりなり、この中央に凹んだウエル14がある。このウエルは血液のほぼ1滴を受ける様な大きさにされ0.05ml程度の容積にされるのが好ましい。」(4頁右上欄5?9行)

(3A-4)「特別仕様の蓋15が第1図に示され、これはベース12の1面に蝶つがい接続される。第2図はこの蓋を閉じた状態を示す。蓋15の目的は医者を菌から保護し、又サンプルの逃出を防止する。」(4頁右上欄14?17行)

(3A-5)「ボタン電極18はウエル14の中央領域に配置せられ、外側電極20により取り囲まれる。第3図より分かる様に電極20は全体的にフック状であり21で開いており、ボタン電極18からリード22が出る事ができる様にする。外部電極20は同じ様なリード24を備える。電極18,20はウエル内面の上にメッキされ関連する電極リード22,24は同様にベース12の上面にメッキされる。電極リード22,24それぞれは26,28で示す様にベース12の縁から伸びる。」(4頁右上欄18行?左下欄8行)

(3A-6)「カード10はタブ16で保持され、これをグループに対し36内に滑り込ませる事により測定器30に導入される。カードが充分に測定器30に入れられた時26,28における電極リード夫々は一度に44で示す普通のプリント回路コネクタ装置のスプリング接点と嵌合する。
操作に際しては、ウエル14は全血液のような被検サンプルを充填され、このサンプルを持ったカード10は、グルーブ36により測定器30に導入される。電気接続はカード10のリードとコネクタ44の接点との間になされ、電流がサンプルを通って流れる。サンプルの導電率は適当な従来型電気装置(図示せず)によりサンプルのインピーダンスを測定する事により決定される。」(4頁左下欄17行?右下欄10行)

上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-1)?(3A-6)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「0.05ml程度の血液等の体液の被検サンプルを受ける凹んだウエル14を中央に有するベース12よりなるサンプルカードにおいて、
ウエル14には電極リード22、24をそれぞれ備えたボタン電極18と外側電極20が配置され、
被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定するサンプルカード。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

(3B)本件出願の優先権主張の日前に頒布された上記引用刊行物Bには、次の事項が図面とともに記載されている。

(3B-1)「本発明の目的は、微量体積の試料を分析でき、また迅速に分析結果を得ることがてきる分析システムを提供することにある。もう1つの目的は、適用の範囲において、予め選択した分子または細胞分析物の迅速な自動化分析が可能なメソスケール機能要素を有し、容易に大量生産できる使い捨てて小さな(例えば、容量でlcc未満)装置を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、迅速なある範囲のテスト、例えば、食品、水、または体液等中における細菌もしくはウィルスの感染、精子の運動性、血液パラメーター、汚染物についてのテストを供給するために個別に使用てきるかかる一連の装置を提供することにある。」(4頁左下欄18?25行)

(3B-2)「一般に、本明細書に開示するごとく、固体基材は、メソスケール流動システムを含有するチップよりなる。該メソスケール流動システムは、確立されたミクロ機械加工法を用い、シリコンおよび他の固体基材から加工することができる。当該装置における該メソスケール流動システムは、流動チャンネルおよび1またはこれを超えるフラクタル領域を基材の表面にミクロ加工し、次いて、カバー、例えば輸送ガラスカバーを該表面に接着することによって組み立てることができる。該装置は、典型的には、流入ポートを通って、例えば、該基材またはカバーを通って該流動システムに連絡した孔によって、該流動システムに導入された試料の微小容量(<5μL)を分析するのに適した大きさに設計される。」(4頁左上欄4?12行)、

(3B-3)「例えば、装置10において、図5に模式的に示すごとく、流入ポート16Aから流出ポート16Bへの流動を阻止するフラクタル領域40の分析物誘導詰まりは、その出力が流出チャンネル中の圧力または水性流体の存在もしくは不存在を示すものである通常の電導度プローブ17によって検出できる。電導度または他のプローブはフラクタル領域40内に設けることもできる。基材には、対照領域を微細加工でき、従って、試料流動領域および対照領域からの出力が検出・比較でき、それにより、アッセイの精度を上げることができる。
もう1つの具体例において、試料の流動特性における分析物誘導変化を検出するために、流動システムに侵入しそこに存在する試料流体間の流動特性を検出し比較できる。1の具体例において、図7および8に模式的に示す具体例において電導度を測定することもできる。装置10はシリコン基材14を包含し、それに、流入ポート16および流動チャンネル20を微細加工する。基材は半透明のウィンドウ12によって被覆する。
操作において、試料流体はポート16Aおよび試料チャンネル2OAを通って装置10に侵入し、次いで、フラクタル領域40を通ってチャンネル20Bおよびポート16Bに流動する。フラクタル領域40に侵入する流体の電導度を測定するために、流体チャンネル2OAと電気的に接触した電気的導体を装置10に微細加工する。また、装置には、フラクタル領域40に存在する流体の電導度を検出するために、流動チャンネル20Bと電気的に接触した電気的導体18Bを包含させる。導体18は、基材の底部まて伸びる接触部17に結合する。」(6頁右上欄10行?左下欄1行)

(3B-4)「実施例2
図5に模式的に示すごとく、生物の増殖を該装置中でモニターする。基材14中のメソスケール流動経路40のフラクタルパターンを、流入ポート16Aを介して、テスト検体の試料を接種しである増殖培地の混合物2μで満たす。装置を密閉し、37℃で60分間インキュベートする。顕微鏡を用いる肉眼での観察によって、あるいは、例えば、電気型導度プローブ17を介して、チャンネルシステムの流動特性を測定することによって増殖を検出する。流動の不存在は、増殖およびその結果としてのフラグタルシステムの阻止を示す。」(7頁右上欄3?10行)

(3C)本件出願の優先権主張の日前に頒布された上記引用刊行物Cには、次の事項が図面とともに記載されている。

(3C-1)「A flexible sensor constructed in a sandwich configuration with a hydrophilic poly(tetrafluoroethylene) membrane placed between two gold deposited layers was evaluated for use as a conductimetric sensor in biologic fluids. The conductivity was measured using the device at frequencies ranging from 100 Hz to 100 kHz, and the device was calibrated at 100 kHz against sodium chloride solutions over the range of 0.1-50.0 g/L, which includes physiologic ion concentrations. Attached to a contact lens, the flexible conductimetric sensor can be placed directly onto the surface of the rabbit eye to monitor the electrical conductivity of tear fluids. Osmolarity obtained from the sensor data was consistently lower than previously reported values, perhaps indicating the effects of protein and lipid deposition. Tear flow with a mean turnover rate of 64.9 9% /min was elicited by eye drops of high concentration sodium chloride and distilled water.(当審訳:2つの金蒸着層の間に置かれた親水性(テトラフルオロエチレン)薄膜によりサンドイッチのように構築された可撓センサーについて、生物流体における導電率測定センサーとしての利用を評価した。100 Hzから100 kHzにわたる周波数においてこの装置を使用して導電率を測定した。また、この装置は、100 kHzにおいて、生理学的イオン濃度を含む0.1-50.0 g/Lの範囲の塩化ナトリウム溶液に対して較正された。コンタクト・レンズに取り付けられた可撓伝導電率センサーをウサギの眼の表面に直接に置いて涙液の電気導電率を監視できる。このセンサーのデータから得られた浸透度は、これまでに報告された値より一貫して低かったが、それはおそらくタンパク質および糖質の沈着の効果を示すものであろう。高濃度塩化ナトリウムおよび蒸留水の点眼剤により、64.9%/分の平均回転率をもつ流涙を引き出した。)」(3586頁左欄1?20行)

(3C-2)「Conductivity is considered to be an indirect function of electrolyte activity, or osmolarity. The fluid-specific conductivity is the sum of the contributions from all chargedspecies. At very low concentrations, the specific conductivity will vary nearly linearly with concentration. The conductivity measurement would not distinguish among the types of ionspresent. But comparison between the conductivity valuesfor several physical conditions and monitoring of fluctuations in fluid conductivity are possible, because the relative proportions of each ion are known for biologic fluids such assweat, tears, saliva, and airway fluid. (当審訳:導電率は、電解質活動、すなわち浸透度の間接関数と考えられている。流体固有の伝導度は、すべての荷電種の寄与の和である。非常に低い濃度では、固有伝導度は、濃度とともにほぼ直線的に変化する。導電率測定は、存在するイオンの種類を識別しない。しかし、いくつかの物理的状態での導電率間の比較および流体導電率の変動の監視は可能である。汗、涙、唾液および気道流体のような生物学的流体について各イオンの相対的比率が既知であるからである。)」(3586頁右欄3?13行)

3.本願発明と引用発明の対比・検討
(3-a)対比
(i)本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】に「アリコート寸法のサンプル流体体積は、ドライアイ患者からでさえ迅速に且つ容易に得ることができる。」と記載されていることから、アリコート体積が身体から取り出した体液の体積を意味することは明らかである。
また、引用発明の「ベース12」はその構成・機能からみて本願発明の「基板」に相当し、さらに、引用発明の「ベース12」の「凹んだウエル14」に、0.05ml程度の血液等の体液の被検サンプルを受けることから、引用発明の「0.05ml程度の血液等の体液の被検サンプルを受ける凹んだウエル14を中央に有するベース12」と、本願発明の「20マイクロリットル未満のアリコート体積の涙液を受入れると共にサンプル領域を有する基板」とは、ともに「アリコート体積の体液を受入れると共にサンプル領域を有する基板」である点で共通する。
そして、引用発明の「サンプルカード」は、被検サンプルを凹んだウエル14に受け、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定することから、引用発明の「サンプルカード」は、エクスビボ型のサンプル受け部品であり、本願発明の「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」とは、「サンプル受け部品」である点で共通する。
そうすると、引用発明の「0.05ml程度の血液等の体液の被検サンプルを受ける凹んだウエル14を中央に有するベース12よりなるサンプルカード」と、本願発明「20マイクロリットル未満のアリコート体積の涙液を受入れると共にサンプル領域を有する基板を備えるエクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」とは、「アリコート体積の体液を受入れると共にサンプル領域を有する基板を備えるエクスビボ型サンプル受け部品」である点で共通する。

(ii)引用発明の「ウエル14には電極リード22、24それぞれ備えたボタン電極18と外側電極20が配置され」ることと、本願発明の「サンプル領域が、涙液と当接するように配置された複数の電極を含むと共に、複数の電極が、行列のアレイとして又は同心円に配置され」ることとは、「サンプル領域が、体液と当接するように配置された電極を含む」点で共通する。

(iii)上記引用刊行物の摘記事項(3A-6)に、「操作に際しては、ウエル14は全血液のような被検サンプルを充填され、このサンプルを持ったカード10は、グルーブ36により測定器30に導入される。電気接続はカード10のリードとコネクタ44の接点との間になされ、電流がサンプルを通って流れる。サンプルの導電率は適当な従来型電気装置(図示せず)によりサンプルのインピーダンスを測定する事により決定される。」と記載されていることから、引用発明のボタン電極18と外側電極20には、電流が被サンプルを流れるように外部から電気、すなわちエネルギーが供給され、被サンプルの導電率をインピーダンスとして測定、すなわち、被検サンプルのエネルギー伝達特性を検出していることになる。
よって、引用発明の「ウエル14には電極リード22、24それぞれ備えたボタン電極18と外側電極20が配置され、被サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する」ことと、本願発明の「涙液の読みを生成するように、涙液のエネルギー伝達特性をサンプル領域から検出する」こととは、「体液の読みを生成するように、体液のエネルギー伝達特性をサンプル領域から検出する」点で共通する。

(iv)上記(i)で検討したように、引用発明の「サンプルカード」と本願発明の「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」とは、「エクスビボ型サンプル受け部品」である点で共通する。
さらに、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、「【0014】・・・図1の実施の形態において、浸透度チップ100は基板104を含み、基板104は、センサー電極108及び109と、基板104上に捺印された回路結線110とを持つサンプル領域を有する。・・・【0015】 浸透度チップ100は、サンプル流体102にエネルギーを伝達すると共に、サンプル流体エネルギー特性の検出を可能にする。・・・【0031】上記したように、処理回路704は、サンプル領域電極に信号波形を印加する。処理回路704は、又、電極からエネルギー特性信号を受けて、サンプル流体の浸透度を決定する。例えば、処理装置は、1組の電極対から導電率値を受取る。当業者は、2個以上の電極の間の導電路を形成するサンプル流体の導電率を決定する手法及び回路を熟知している。」と記載されていることから、本願発明の「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」が、電極からエネルギー特性信号を受けて、サンプル流体を検出する導電率を測定し、サンプル流体の浸透度を決定しており、このサンプル流体を検出する導電率を測定し、サンプル流体の浸透度を決定することが、サンプル流体の浸透度を直接決定することを含むことは明らかである。
また、引用発明の「導電率」と本願発明の「浸透度」とは「体液の特性」である点で共通し、さらに、引用発明では、「被サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定していることから、体液の被サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定することが、被サンプルのインピーダンスを測定し、被検サンプルの導電率を直接決定することを含んでいるものといえる。
よって、引用発明の「サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定するサンプルカード」と、本願発明の「涙液の読みが、涙液のエネルギー伝達特性に直接関係すると共に、涙液の浸透度を示すエクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」とは、「体液の読みが、体液のエネルギー伝達特性に直接関係すると共に、体液の特性を示すエクスビボ型サンプル受け部品」である点で共通する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「アリコート体積の体液を受入れると共にサンプル領域を有する基板を備えるエクスビボ型サンプル受け部品において、
サンプル領域が、体液と当接するように配置された電極を含み、
体液の読みを生成するように、体液のエネルギー伝達特性をサンプル領域から検出することができ、更に、体液の読みが、体液のエネルギー伝達特性に直接関係すると共に、体液の特性を示すエクスビボ型サンプル受け部品。」
である点で一致し、次の相違点(あ)?相違点(え)で相違する。

・相違点(あ)
アリコート体積の体液が、本願発明では「20マイクロリットル未満」の「涙液」であるのに対して、引用発明では「0.05ml程度」の「血液等の体液の被検サンプル」である点。

・相違点(い)
エクスビボ型サンプル受け部品が、本願発明では「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」であるのに対して、引用発明では「血液等の体液の被検サンプルを受ける凹んだウエル14を中央に有するベース12よりなるサンプルカード」である点。

・相違点(う)
サンプル領域が、本願発明では、「涙液と当接するように配置された複数の電極を含むと共に、複数の電極が、行列のアレイとして又は同心円に配置され」ているのに対して、引用発明では、サンプル領域に相当する、ウエル14には、電極リード22、24それぞれ備えたボタン電極18と外側電極20が配置されている点。

・相違点(え)
体液の特性が、本願発明では「浸透度」であるのに対して、引用発明では「導電率」である点。

(3-b)当審の判断
・相違点(あ)について
(あ-1)電極を用いて、血液等の体液の特性を測定する分析分野において、できるだけ微量の体積の体液を用いて体液を分析する課題があり、その課題を解決するために血液等の体液の特性を測定する際に微量の体積の体液を用いることは周知である。
たとえば、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-1)?(3B-3)に、それぞれ、「本発明の目的は、微量体積の試料を分析でき、また迅速に分析結果を得ることができる分析システムを提供することにある。・・・本発明のさらなる目的は、迅速なある範囲のテスト、例えば、食品、水、または体液等中における細菌もしくはウィルスの感染、精子の運動性、血液パラメーター、汚染物についてのテストを供給するために個別に使用できるかかる一連の装置を提供することにある。」こと、「・・・該装置は、典型的には、流入ポートを通って、例えば、該基材またはカバーを通って該流動システムに連絡した孔によって、該流動システムに導入された試料の微小容量(<5μL)を分析するのに適した大きさに設計される。」こと、及び、「・・・フラクタル領域40に侵入する流体の電導度を測定するために、流体チャンネル2OAと電気的に接触した電気的導体を装置10に微細加工する。また、装置には、フラクタル領域40に存在する流体の電導度を検出するために、流動チャンネル20Bと電気的に接触した電気的導体18Bを包含させる。」ことが記載され、さらに、特表2000-509507号公報に、
「 技術分野
本発明は、小体積試料中の生物学的被検体の検出のための分析センサーに関する。
・・・ 現在利用されている方法は、比較的大きい試料体積中の被検体を測定するものであり、例えば、一般に3マイクロリットル以上の血液またはその他の生体液を要する。この液体試料は、例えば、針およびシリンジを用いて患者から採取されるか、または、指先などの皮膚の一部を切開し、その領域を「ミルキング(milkina)」して有効な試料体積を得ることによって患者から採取される。・・・
従って、小体積試料中における被検体濃度の正確で感度の高い分析の実行を可能にする、比較的痛みが少なく、容易に使用できる血液被検体センサーの開発が望まれるとともに、非常に有用である。
発明の開示
・・・バイオセンサーは、試料を作用電極と電解的に(electrolytic)接触させて保持する試料室を含む。好ましい実施形態においては、作用電極が対電極と対向し、試料室内の2つの電極間に、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.1μL未満の試料を含む大きさの測定領域が形成されている。」(17頁2行?18頁4行)ことが記載されている。
そうすると、引用発明と、上記周知例とは、ともに電極を用いて血液等の体液の特性を測定する分析分野である点で共通することから、引用発明において、ボタン電極18と外側電極20が配置され、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する際に、血液等の体液の被検サンプルの体積を微量にして、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する課題があることは明らかであり、さらに、上記引用刊行物Bの摘記事項(2B-2)には、微小容量(<5μL)の試料を孔に入れて、血液等の体液の特性である電導度を測定することが記載され、また、上記で提示した特表2000-509507号公報には、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.1μL未満の試料を含む大きさの測定領域を形成して血液等の体液の特性である濃度を測定することが記載されていることから、引用発明の導電率を決定するサンプルカードにおいて、血液等の体液のサンプルの特性を分析する際にはできるだけ微量の体積の試料を用いて分析する分析分野の共通の課題に応じて、血液等の体液の被検サンプルの体積を、「50マイクロリットル程度」より微量、例えば、上記で提示した周知例のごとく、5マイクロリットル未満にして、本願発明のごとく「20マイクロリットル未満」にすることは当業者が容易になし得るものである。
(あ-2)ところで、引用発明では、インピーダンスを測定することにより導電率を決定する際の体液の被検サンプルとして、血液等の体液が例示されているが、体液の導電率を決定する際に、体液として、涙液を採用し、涙液の導電率を測定することは周知である。
たとえば、上記引用刊行物Cの摘記事項(3C-1)に、
「・・・可撓伝導電率センサーをウサギの眼の表面に直接に置いて涙液の電気導電率を監視できる。」と記載され、同(3C-2)に、
「・・・導電率測定は、存在するイオンの種類を識別しない。しかし、いくつかの物理的状態での導電率間の比較および流体導電率の変動の監視は可能である。汗、涙、唾液および気道流体のような生物学的流体について各イオンの相対的比率が既知であるからである。」ことが記載されている。
また、特開平6-22793号公報に、
「【0102】図1は本発明の診断デバイスの部分的側面断面図である。診断デバイスは、テストサンプルを導入するキャピラリーと;所定の分析対象物とオキシダーゼ酵素とを反応させてドーパント化合物を生成する反応ゾーンと、反応ゾーンで生成されたドーパント化合物の量を、マイクロ電極アセンブリーで検知ゾーン中の導電性ポリマー層の導電率変化を測定することにより検知する検知ゾーンとを有する。」こと、及び、
「【0128】【実施例】本発明の導電センサーの一実施態様を図1に示す。ここで、診断デバイス10は、導電センサーを利用して、一般的には所定の分析対象物を、とくにグルコースを調べるために、液体テストサンプルを検定する。
【0129】図1(A)において、液体テストサンプル、たとえば全血、血清、血漿、涙液、間質液、尿などのグルコースを含む生物学的液体のようなものは、キャピラリチューブ12によって診断デバイス10内に導入される。血は、0.1μl(マイクロリットル)から5μlという少量の非侵入的量で、小さい新しい傷から、キャピラリー運動によって引かれ、矢印の方向へ行く。ついでテストサンプルは、キャピラリチューブ12と接触している導電センサーの反応ゾーン14に接触する。」ことが記載されている。
さらに、特開昭63-148159号公報に、
「従来、生体内から分泌される微量の液体における各種イオン濃度、溶存酸素量、導電率等の測定を行う場合、測定対象物毎に異なった採取用治具を用いて測定に供するための試料を得るようにしていた。」(1頁右下欄11?15行)こと、及び、
「生体分泌液で特に分泌量が微小な涙、粘液、精液、膣液等については、吸収体として数n?100μ程度の薄い高分子不織布を用い、この高分子不織布からなる吸収体に広い面積に亘って被検体をサンプリングするのがよい。
即ち、第3図は涙(目薬滴下時の涙31やコンタクトレンズ32上の涙33を含む(同図(A)参照))のサンプリングを示し、一枚の薄膜不織布シート34では、涙採取後のシート34の取り扱いが困難であるところから、裏面側に枠体35を設けたり(同図(B)参照)、又は、シート34を親水性吸収性シート34aと疎水性吸収性シート34bとからなる多層構造とし、疎水面での蒸発防止と電極13(14)への密着性を考慮してもよい。」(3頁左上欄9行?右上欄2行)ことが記載されている。
そして、国際公開第00/63704号(なお、日本語訳は、パテントファミリの特表2002-542489号公報を用いた。)に、
「FIELD OF THE INVENTION
The present invention relates to apparatus and methods for sample analysis. More specifically, the invention is directed to apparatus and methods for sample plug formation and subsequent separation and/or analysis.(日本語訳:(発明の分野)
本発明は、サンプル分析のための装置および方法に関する。より詳細には、本発明は、サンプルプラグ形成のための装置および方法、ならびに引き続く分離および/または分析に関する。)」(1頁1?4行)こと、
「Also in a preferred embodiment, a device of the invention comprises a detector. The detector is placed in proximity to the separation channel for detecting separated components of a sample. The detector may include an ultraviolet detector, a visible light detector, an infrared detector, a fluorescence detector, a chemilumenescence detector, a refractive index detector, a Raman detector, a mass spectrometer, an electrochemical detector and/or a conductivity detector. Preferably, the detector is a mass spectrometer, a fluorescence detector, or radioactivity detector.(日本語訳:また、好ましい実施形態において、本発明のデバイスは、検出器を備える。検出器は、サンプルの分離された成分を検出するために、分離チャネルの近くに配置される。検出器としては、紫外線検出器、可視光検出器、赤外線検出器、蛍光検出器、化学発光検出器、屈折率検出器、ラマン検出器、質量分析計、電気化学検出器および/または導電率検出器が挙げられる。好ましくは、検出器は、質量分析計、蛍光検出器または放射活性検出器である。)」(4頁11?16行)こと、及び、
「 Samples suitable for use in the claimed invention include, but not limited to body fluids such as blood, serum, plasma, urine, cerebrospinal fluid, saliva, sweat, semen, tears, vaginal fluid, amniotic fluid, and ascites fluid.(日本語訳:本発明における使用のための適切なサンプルとしては、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、唾液、汗、精液、涙、膣液、羊水、および腹水のような体液が挙げられるがこれらに限定されない。)」(6頁10?13行)ことが記載されている。
そして、導電率を決定する際の被検サンプルの体液として、どのような体液を用いるかは必要に応じて適宜選択する技術事項にすぎないものであるから、引用発明において、インピーダンスを測定することにより導電率を決定する測定する被検サンプルの体液として、周知の涙液を用いることは、当業者が必要に応じて適宜採用する選択的事項にすぎないものである。

・相違点(い)について
試料を分析する際の検出用部品をカードもしくはチップと呼ぶことは、例えば特開2001-242135号公報の段落【0064】に、
「図2は、検出用チップ2の構造を示す図であり、図2(a)は、検出用チップ2の全体斜視図を示しており、これは、カードあるいはカセット状のチップとして形成されている。図2(b)に分解斜視図として示すように、検出用チップ2は、セラミックスや合成樹脂材等により形成されたフレーム4と、該フレーム4に着脱可能に装着される本体部5とから構成される。」と記載されているように技術常識であり、さらに、電極を用いて試料を分析するセンサをマイクロチップ化することは、周知である。
例えば、特表2000-508528号公報に、
「典型的には、検出チャンバは、1チャンバ当たり0.001μL?10μL、より好適には0.01μLと2μLとの間のサンプルを保持するような寸法を有する。」(19頁20?22行)こと、及び
「上述のタイプの薄膜バイオセンサは、・・・フォトリソグラフィー法によってマイクロチップまたは小基板形態で形成されてもよい。本発明に適用した場合、基板中のチャンバー壁部は、必要な電極およびフィルム層の堆積のための基板として機能し得る。これらの層に加えて、電極を電気配線に接続する適切な導電性コネクタもまた設けられる。
典型的なデバイスにおいて、各チャンバは所与の分析物のためのバイオセンサを含 んでいる。・・・例えばサンプルは、血液、血清、血漿、尿、汗、涙液、精液、唾液、脳脊髄液などの生体由来の流体、あるいはその精製あるいは修飾された誘導体であってもよい。」(38頁19行?39頁16行)ことが記載されている。
また、特開2000-298111号公報に、
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、酵素のような触媒活性を持つ成分を固定化したバイオセンサーとその使用に関する。
【0002】
【従来の技術】酵素のような触媒活性を持つ物質を利用したバイオセンサーは、グルコースの他にも様々な分析対象成分に応用されている。・・・
【0003】現在、市販されているグルコースセンサーは、松下電器産業(株)によって開発された。このグルコースセンサーは、酵素であるグルコースオキシダーゼ(以下GODと省略することもある)を固定した電極からなっている。実際の使用にあたっては、センサーチップの先に採取した血液を一滴浸し、測定機器に挿入するだけで短時間に血糖値が表示される。」こと、及び、
「【0029】本発明によれば、プラズマ重合膜の採用により均質性の高いバイオセンサーの提供が可能となる。その結果、バイオセンサーを微小なチップとすることができる。たとえば、シリコン基板にプラズマエッチングを利用して微小な溝を形成し、この溝内に金属電極パターンを形成するとともに、溝をセルとして微量液体試料のフローセルとして利用する技術が公知である(Analytical Chemistry 65, 2731-2735, 1993, Analytical Chemistry 69, 253-258, 1998)。このようなマイクロチップに本発明を応用し、バイオセンサーチップを構成することができる。たとえば、前記金属電極パターンを形成した微小な溝をプラズマ重合膜で覆い、更に触媒活性物質を固定化するのである。公知のマイクロチップと同様の手法で微量液体試料を溝内に導入すれば、触媒活性物質の作用により分析が実施される。」ことが記載されている。
さらに、特表2000-510233号公報に、
「第1に、バイオセンサは、従来のマイクロチップ技術を用いて、高度に再現可能で微細化された形態で製造でき、単一の基板上に多数のバイオセンサ要素を配置することができる。
・・・
上記特徴の結果、単一のマルチセンサチップ(multi-sensor chip)に小さなサンプル容積、例えば10?50μlを付与して、多数の異なる分析物を検出または定量化し得る。」(8頁26行?9頁7行)こと、
「あるいは、薄いポリマーフィルム内にレセプタを埋め込んで、レセプタに結合するリガンドに起因するフィルムの電気的特性、例えばインピーダンスの変化を測定することにより、直接的なリガンド/レセプタ結合を電気的に測定することが可能である。」(10頁1?4行)こと、及び、
「図1は、本発明による、リガンドとリガンド結合レセプタまたはリガンド結合剤との間の結合現象を検出するためのバイオセンサ装置20の簡略化された概略図である。この装置は、導電性検出表面24を有する作用電極22と、検出表面上に形成された炭化水素鎖単層26とを含む。」(14頁9?12行)ことが記載されている。
そして、上記「相違点(あ)について」の(あ-1)において検討したように、引用発明のサンプルカードは、微量の体積の体液サンプルを用いて試料を分析する課題を有するとともに、引用発明の導電率を決定するサンプルカードと上記周知例のバイオセンサとは、ともに電極を用いて試料を分析する点で共通するものであり、さらに、上記周知例の特表2000-508528号公報、及び特開2000-298111号公報には、試料として、血液や涙液の体液を用いることが記載されているとともに、上記周知例の特表2000-508528号公報、及び特表2000-510233号公報には、マイクロチップ化されたバイオセンサに使用する試料の量が、0.001μL?10μL、あるいは10?50μlの微量であることが記載されていることを考慮すると、引用発明おいて、血液等の体液の被検サンプルの体積を微量にして、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する課題を解決するために、上記周知のバイオセンサのマイクロチップ化の技術事項を採用し、サンプルカードをマイクロチップ化することにより、本願発明のごとく、エクスビボ型サンプル受け部品が、「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」であるように構成することは当業者が容易になし得るものである。

・相違点(う)について
(う-1)引用発明において、インピーダンスを測定することにより導電率を決定する測定する被検サンプルの体液として、周知の涙液を用いることは、上記「・相違点(あ)について」の(あ-1)において検討したとおりである。
(う-2)ところで、引用発明では、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する際に、電極リード22、24をそれぞれ備えたボタン電極18と外側電極20の一対の電極を用いているが、生物学的分野において、センサを構成する複数の電極を、行列のアレイ状に配置したり、同心円的に配置して測定することは周知である。
例えば、当審の拒絶理由で引用した、特表平3-505785号公報に、
「 請求の範囲
1.電極(1,2,3)が1つの基板(5)の上に配設された、電気的に活性な種の電気化学的な計測および生成用のマイクロ多電極構造において、1つの内部電極(1)と少くとも2つの他の電極(2,3)が設けられると共に、内部の電極(1)は参照電極として接続され、他の電極(2,3)は内部電極(1)を投影的に見て基板(5)を少くとも部分的に囲んでいること、を特徴とする、マイクロ多電極構造。
2.電極(1,2,3)は同心的に配置されていること、を特徴とする請求の範囲第1項に記載の電極構造。」(1頁左下欄1?10行)こと、
「本発明は、電気的活性の種の電気化学的な測定および成生用の、1つの基板上に複数の電極を配設した、マイクロ多電極構造に関するものである。
微少な量の電気的活性の種の確実な検出および生成用として、従来はまだ適当なマイクロ多電極構造は知られていない。電気的活性の種の測定および生成のための電気化学的プロセスの試験における基本的な問題は、特に生物学の分野において、用いられる陽極あるいは電極材料の適当な表面性質および幾何学的配列を得ることである。」(2頁右上欄4?12行)こと、
「図9には、さらに他の多電極構造が示されている。この場合、参照電極として用いられる電極1は、2つの測定電極2aおよび2bで同心的に囲まれている。また対向電極3が構造全体を囲んでいる。」(4頁左下欄4?7行)こと、及び、
「このマイクロ多電極構造は、1つの測定チンブ12上に集積させて、例えば医学的な分析装置における貫流センサとして導管13に組み込むことができ(図17)、この場合、測定チップI2は成形体14の中に収納される。マイクロ電極構造は、細胞培養の試験用の2次元のアレイに配列されたセンサ群として用いられると共に、血液内の、例えば酸素のような、ガスを直接に測定するのに用いることができる。」(5頁右上欄5?11行)ことが記載されている。
また、特開平7-218510号公報に、
「【0043】細胞における物質代謝を検査するための電気分析的な、電量分析的な測定のための測定装置は、図1から明瞭であるように容器形状のおよび/または室状の装置を有しており、この装置はセンサ50を形成している。このセンサは担持体53を備えている本体51を有している。担持体は担持体部分を備えており、この担持体部分は平坦な、電気的な絶縁作用を行う、サフアイア板から成る四角形の小板54により形成されている。この小板54は図1において上方に存在しているその平坦な面上に、図2から見られる四つの電極、即ちpH-測定電極56、制御および/または陽子交換電極57、補助電極58および対抗電極59を備えている。これらの電極の各々は導電的に小板の上に設けられている帯状導体56a,57aと58aおよび59aと結合されている。pH-測定電極56は、図2に平面図で示したように、完全な環から成る環状の部分を有している。制御および/または陽子交換電極57はほぼpH-測定電極56を囲繞している。即ち、この制御および/または陽子交換電極57は帯状導体56aの通過を可能にする間隙にまで達している。即ち、制御および/または陽子交換電極57ははほぼC-字形であり、いわゆる間隙によって中断されている環状リングを形成しており、pH-測定電極56よりも著しく大きな表面を有している。制御および/または陽子交換電極57の表面は特に、pH-測定電極56の表面よりも少なくとも5倍、例えば7倍から15倍ほど大きい。両電極58,59の各々は電極57に比較して狭い、ほぼ半環状のアーチ部を形成しており、電極57の外縁部に沿って走っている。四つの帯状導体は小板54の四辺を形成するその縁部の部分に対して平行に指向している。」こと、
「【0061】図4から認められる多重センサ90は担持体93を備えた本体91を有している。この担持体は主構成部分としてサフアイア小板から成る小板94を備えており、この小板上には多数の、例えば四つの電極群95と帯状導体群59aが載置されている。各々の電極群95は電極56,5,58,59と類似して設けられている四つの電極を有している。各々の帯状導体群95aは四つの帯状導体を備えており、これらの帯状導体はそれぞれ一つの電極と結合されている。図4に示すように、例えばすべての帯状導体は四角形の小板94の同じ四辺で終わっている。小板94は、各々の電極群95のための覆い部73に相当する覆い部97と図示していない小板71に相当する小板と共に、検査されるべき液体を収容するための中間空域を区画している。・・・」ことが記載され、さらに、図2には、「小板54上に電極56、57、58及び59を同心円状に配置する」ことが記載され、また、図4には、小板94上に電極95群を行列状に配置することが記載されている。
さらに、国際公開第00/62047号に、
「【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、半導体技術の方法によって製造することができ、光学的コンポーネントを用いないで電気化学トランスデューサとして測定技術の単純な電気信号をじかに生成する特に生化学分析用センサーアレイを提供することである。」(9頁21?27行)こと、
「さらに発明では、検出に使用する超微小電極は粒子サイズにかかわらず、つまりアレイ位置のサブμl容積の光学的特性に関係なく測定できる方法を示している。」(12頁10?14行)こと、及び、
「図1aでは、各アレイ位置4に、チップ縁部の電気接触面2への直接導体経路によって延設された1対のリング状微小電極3aと3a’が配置されたシリコンチップを示している。」(16頁15?19行)ことが記載され、さらに、図2bには、複数の電極を同心円状に配置することが記載されている。
そして、引用発明のサンプルカードと上記周知例の生物学的分野におけるセンサは、ともに生物学的分野におけるセンサである点で共通することから、引用発明のサンプルカードにおいて、上記周知例のおける生物学的分野において、センサを構成する複数の電極を行列のアレイ状に配置したり、同心円的に配置して測定する構成を採用し、本願発明のごとく、サンプル領域が、「涙液と当接するように配置された複数の電極を含むと共に、複数の電極が、行列のアレイとして又は同心円に配置され」るように構成することは当業者が容易になし得たものである。

・相違点(え)について
(え-1)引用発明において、インピーダンスを測定することにより導電率を決定する測定する被検サンプルの体液として、周知の涙液を用いることは、上記「・相違点(あ)について」の(あ-1)において検討したとおりである。
(え-2)ところで、記引用刊行物Cの摘記事項(2C-1)及び(2C-2)に、体液である涙液の電気導電率から浸透度を得ることが記載されているように、涙の導電率から浸透度を求めることは技術常識であるといえる。
そうすると、引用発明は血液等の体液の被検サンプルから直接導電率を決定しているが、上記「・相違点(あ)について」の(あ-1)において検討したとおり、引用発明において、インピーダンスを測定することにより導電率を決定する測定する被検サンプルの体液として、周知の涙液を用いる際に、涙液の導電率から浸透度を検出することは当業者が目的に応じて適宜採用する設計的事項にすぎないものである。

そして、本願発明によってもたらされる作用効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、当審の拒絶理由に対する意見書において、
「(1)本願発明
本願発明は、新請求項1に記載するように、「20マイクロリットル未満のアリコート体積の涙液を受入れると共にサンプル領域を有する基板を備えるエクスビボ型サンプル受けマイクロチップにおいて、
サンプル領域が、涙液と当接するように配置された複数の電極を含むと共に、複数の電極が、行列のアレイとして又は同心円に配置され、
涙液の読みを生成するように、涙液のエネルギー伝達特性をサンプル領域から検出することができ、更に、涙液の読みが、涙液のエネルギー伝達特性に直接関係すると共に、涙液の浸透度を示すエクスビボ型サンプル受けマイ
クロチップ」という特徴を有します。
本願発明では、「20マイクロリットル未満のアリコート体積の涙液」から、装置を、涙の分泌の少ない患者、例えば、ドライアイの患者に使用することができるという顕著な効果が得られます。
更に、本願発明では、「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」から、マイクロチップが、例えば、特開2006-17603号公報の段落1に記載されるように、微量な試料の分析に適していると共に、目の表面上で直接測定するインビボ型が、目の表面に対するセンサーの接触による反射的な涙の分泌を誘起する結果、不正確な測定結果を生じるのに対し、目の表面から採取した涙液サンプルを測定するエクスビボ型が、正確な測定結果を生じるという顕著な効果が得られます。
(2)引例
これに対し、引例A乃至引例Cは、以下に説明するように、本願発明の上記特徴を全く開示しません。」旨の主張をしている。
しかしながら、上記「(3-1a)対比」の(i)において検討したように、引用発明の「サンプルカード」は、エクスビボ型のサンプル受け部品であり、さらに、上記「・相違点(あ)について」の(あ-1)において検討したように、引用発明において、ボタン電極18と外側電極20が配置され、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する際に、血液等の体液の被検サンプルの体積を微量にして、被検サンプルのインピーダンスを測定することにより導電率を決定する課題があることは明らかであるから、引用発明において、周知例のごとく、5μL未満の微小容量にすることは当業者が容易になし得るものであり、さらに、上記「・相違点(あ)について」の(あ-2)において、提示した周知例の特開平6-22793号公報、及び特開昭63-148159号公報では、目から取り出した涙を検出して導電率を求めていることから、涙の導電率を検出する際に、エクスピボが他Bの型のサンプル受けを用いることも周知であるから、請求人の主張は採用できないし、また、上記「・相違点(い)について」において検討したように、電極を用いて試料を分析するセンサをマイクロチップ化することは周知であり、引用発明のサンプルカードを、本願発明のごとく「エクスビボ型サンプル受けマイクロチップ」とすることは当業者が容易になし得たものといえるから、請求人の主張は採用できない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、当審が通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-19 
結審通知日 2012-03-21 
審決日 2012-04-04 
出願番号 特願2004-529052(P2004-529052)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 信田 昌男
横井 亜矢子
発明の名称 涙膜浸透圧法  
代理人 田中 光雄  
代理人 石野 正弘  
代理人 竹内 三喜夫  
代理人 山田 卓二  

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