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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1261871
審判番号 不服2009-17665  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-18 
確定日 2012-08-16 
事件の表示 特願2002-333128「農作物の腐敗防止剤」拒絶査定不服審判事件〔平成16年6月17日出願公開、特開2004-168669〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月18日の出願であって、平成21年3月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月28日に意見書の提出及び手続補正がなされたが、同年6月16日付けで拒絶査定がなされ、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、平成23年8月11日付けの審尋に対し、同年10月17日に回答書が提出され、同年12月15日付けの審尋に対し、平成24年2月20日に回答書が提出され、さらに同年5月15日に上申書が提出されたものである。

第2 平成21年9月18日の手続補正について

[補正の却下の結論]

平成21年9月18日の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成21年9月18日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成21年5月28日付けの手続補正により補正された本件補正前の請求項1の
「【請求項1】下記の構造式(1)で表されるカピリンを有効成分とし、0.01?1000μg/gの濃度で液体媒体に含有されていることを特徴とする収穫後の農作物の腐敗防止剤。
【化1】




「【請求項1】下記の構造式(1)で表されるカピリンを有効成分とし、0.2?100μg/gの濃度で液体媒体に含有されていることを特徴とする収穫後の農作物の腐敗防止剤。
【化1】


に改める補正を含むものである。

2 新規事項の追加の有無、請求項1についての補正の目的
請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載した、発明を特定するために必要な事項であるカピリンの濃度を「0.01?1000μg/g」から「0.2?100μg/g」に改めるものである。
この補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0009】に「本発明の腐敗防止剤のカピリン含有量は、カビの発生を防止するための最低量としてカピリンを0.1μg/g以上必要である。好ましくは0.2?100μg/g・・・含有させるに足りる量を配合する。」と記載されていることからみて、新規事項を追加するものではなく、また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題も同一のものである。
したがって、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、同法第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1で示したように、次のとおりのものである。

「下記の構造式(1)で表されるカピリンを有効成分とし、0.2?100
μg/gの濃度で液体媒体に含有されていることを特徴とする収穫後の農作物の腐敗防止剤。
【化1】



(2)刊行物
刊行物1:高峰研究所年報,1957年,9号,p.172-p.177(原審における「引用文献1」)

(3)刊行物の記載事項
ア 本願の出願前に頒布された刊行物1には、次の記載がある(審決注:一部の英単語には括弧書きで当審の訳を示す。)。
摘記1:「キク科,カワラヨモギ(・・・)精油中に,抗菌力の強い成分の存在することが発見せられ,この有効成分capillinが精製結晶化せられている.著者らは農業用殺菌剤として,capillinの効果を検討するため,この実験を行った.
本実験では,おもに,各種植物病原菌に対するin vitro での抗菌力と,各種作物に対する薬害の許容範囲の検索を行い,一部,植物によるcapillinの吸収ならびに実地における,圃場試験をあわせ行った.」(172頁下から2行?173頁4行)

摘記2:「1.Cappilinの理化学的性状
参考のため,capillinの理化学的性状を記述すると,つぎのごとくである.
性状:ほとんど無味無臭の白色?微黄色結晶状粉末
化学名:1-Oxo-1-phenylhexa-2-4-diyne 化学式:C_(12)H_(8)O

分子量:168.18 融点:78?81°
溶解性:アセトン,クロロホルム,ベンゾールに易溶,メタノール,エタノール,ヘキサンに難溶,水に不溶
安定性:空気中で比較的安定,光線により着色,アルカリにより変化」(173頁6?14行)

摘記3:「2.抗菌スペクトル
寒天希釋法により,capillinの抗菌力を調べた.培地は蔗糖2%加用バレイショ煎汁寒天培養基(pH7.0)を使用した.結果はTableIのごとくである.
Table I. Antifungal and antibacterial effect of capillin.
(カピリンの抗真菌及び抗菌効果)
Organism Inhibition concentration(p.p.m) Culture condition
(微生物) (抑制濃度) (培養条件)
℃ Day(日)
Piricularia oryzae 3 28 4
(稲熱病菌)
・・・
Penicillum italicum 3 〃 〃
(蜜柑青黴病菌)
・・・
すなわち,・・・蜜柑青黴病菌・・・には3ppmで,・・・完全に発育を阻止する.細菌に対しては効果がすくないようである.」(173頁15行?174頁3行)

摘記4:「3.作物におよぼす薬害
昭和31年6月より9月にかけて,各種作物の茎葉および果実にcapillin溶液を撒布し,外観的な薬害の発生を観察した.結果はTable II およびIIIのごとくである.
・・・
Table III. Phytotoxicity (to fruit)(薬害(果実に対する))
Plant Capillin Concn.(p.p.m.) Phytotoxicity
(植物) (カピリン濃度) (薬害)
Orange (Unshu) 300 None(なし)
(オレンジ(温州))
Japanese persimmon (Huyu) 100?300 Slight(わずか)
(日本柿(富有))
Pear(Nijjuseiki) 100 Very Slight(ごくわずか)
(梨(二十世紀))
〃( 〃 ) 300 Middle(conceal with paper bag)
(中(紙袋で覆う))
Peach(Showahakuto) 50?100 50p.p.m. slight, 100p.p.m. evident
(桃(昭和白桃)) (50p.p.m.わずか,100p.p.m.明白)
〃( 〃 ) 300 None(conceal with paper bag)
(なし(紙袋で覆う))
Grape(Deraw.) 30 Middle (very young fruit)
(ぶどう(デラウェア)) (中(非常に若い実))
〃 ( 〃 ) 40?50 Middle(larger than 10mm.fruit diam.)
(中(実の直径10mm超))
〃 ( 〃 ) 100 Evident(明白)(〃 〃)
〃 (Camb. ) More sensitive than Deraw
(キャンベル) (デラウェアより過敏)
・・・
つぎに果実に対する薬害でcapillinに強いのはミカンが第一で,柿,梨はこれにつぎ,桃は袋の外からであれば安定であるが,直接果実に薬剤が触れた場合は50?100ppmで薬害を生ずる.ブドウは一番弱く,30?50ppmで薬害を生ずる.なお果実が幼いもの程薬剤の影響は強くあらわれる.」(174頁4行?175頁7行)

摘記5:「5.圃場試験
昭和31年,当研究所圃場でキウリ白澁病およびベト病について行った結果を示すと,Table VIおよびVIIのごとくである.
供試植物:キウリ(聖護院節成)茎長約2mに発育せるものを7株づつ供試
撒布薬剤:Capillin 100ppm+グリセリン1%
撒布薬量:1反当り1石の割合」(176頁6?11行)

(4)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「農業用殺菌剤として,capillin(カピリン)の効果」の検討結果が記載されており(摘記1)、カピリンの化学構造式は

で表されるものであり(摘記2)、Table Iにはカピリンの抗菌効果として、蜜柑青黴病菌(Penicillum italicum,審決注:「Penicillium italicum」の誤記と認められる。)に対する28℃,4日の培養条件での抑制濃度(審決注:発育を阻止する濃度,刊行物1の174頁3行を参照)は3ppmであったことが記載され(摘記3)、圃場試験として、カピリン100ppm+グリセリン1%の薬剤が「撒布」されたことも記載されている(摘記5)。また、薬害検査において、「果実にcapillin溶液を撒布し」(摘記4)と記載され、果実として「オレンジ(温州)」(審決注:温州は蜜柑の品種)が記載されていることから、「撒布」される薬剤の形態は溶液であり、それが蜜柑に対して撒布されるものと認められる。

そうすると、刊行物1には、
「構造式

で表されるカピリンを含む溶液からなる、蜜柑に撒布される蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)の殺菌剤。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(5)対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「構造式

で表されるカピリン」、「蜜柑」は本願補正発明の「下記の構造式(1)で表されるカピリン・・・

」、「農作物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の殺菌剤は「カピリンを含む溶液」からなるものであるから、それは本願補正発明の「カピリンを有効成分とし」、「液体媒体に含有されている」に相当する。
そして、蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)は、農作物である蜜柑に対してカビを発生させて腐敗させる菌であり、それを殺菌してカビの発生を抑えれば、腐敗が抑制されるのであるから、引用発明の「蜜柑に撒布される蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)の殺菌剤」は本願補正発明の「農作物の腐敗防止剤」に相当する。

そうすると、両者は
「下記の構造式(1)で表されるカピリンを有効成分とし、液体媒体に含有されていることを特徴とする農作物の腐敗防止剤。
【化1】


である点において一致し、以下の点で相違する。

相違点1:カピリンの濃度が、本願補正発明では「0.2?100μg/g」であるのに対し、引用発明ではその範囲に特定されない点

相違点2:腐敗防止剤が、本願補正発明では「収穫後の」農作物を対象とするものであるのに対し、引用発明ではそのことが明らかでない点

(6)相違点についての判断
ア 相違点1について
刊行物1には、蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)の発育を阻止する濃度が、28℃、4日の培養条件で3ppm(3μg/g)であることが記載されている(摘記3)。
そして、キウリに対してではあるものの、100ppm+グリセリン1%の濃度の薬剤を散布したことも記載されている(摘記5)。
また、カピリンの濃度が低すぎれば抗菌性が充分とならず、濃度が高すぎても薬害が発生したり経済性に劣るであろうことも当業者に自明なことである。
そうすると、当業者であれば、上記の発育阻止濃度や実際の撒布濃度、抗菌性、薬害防止、経済性等を考慮し、カピリンの濃度を3?100ppm程度、すなわち3?100μg/g程度としてみることは容易に想到することである。

イ 相違点2について
収穫後の蜜柑等の農作物の腐敗が、農作物等に付着したカビの繁殖に一因があることは当業者の技術常識である。
また、特開2000-139340号公報の請求項1に「・・・青果物の病害防止剤。」と記載され、段落【0011】に「本発明の病害防止剤が適用される青果物の種類は、何ら制限されないが、例としては、イチゴ、葡萄、無花果、柑橘類・・・等の果物・・・が挙げられる。」と記載され、段落【0012】に「本発明の病害防止剤が抑制する、青果物を腐敗させるカビの種類は、特に問わない。」と記載され、段落【0013】に「また、表面処理は、収穫前に処理(プレハーベスト)してもよいし、収穫後に処理(ポストハーベスト)してもよい。」と記載されているように、青果物の防カビ剤は収穫前でも収穫後でもいずれにおいても使用可能なことは技術常識である。
そうすると、引用発明において、殺菌剤を撒布する蜜柑として、収穫後のものを選択することは当業者が容易に想到することである。

ウ 本願補正発明の効果及び審判請求人の主張について
平成21年5月28日及び平成21年9月18日の手続補正によって補正された本願の明細書(以下「本願補正明細書」という。なお、発明の詳細な説明は補正されていない。)の段落【0006】には、「本発明者等は、安全性の点から化学合成品より望ましいと考えられる天然資源の抗カビ物質について検討した結果、キク科アルテミシア属植物に含まれるカピリンを0.01?1000μg/g含有する溶液を農作物に噴霧、浸漬またはそれらの収納物に噴霧するなどにより農作物や収納物に付着したカビの発生を長期間抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されている。
また、本願補正明細書には、本願補正発明の腐敗防止剤と、それを含まないものを収穫直後のウンシュウみかん果実に噴霧して貯蔵安定性を調べたところ、前者では90日間カビの生育がなく、後者では4日目にカビが全体に発芽し、15日目に腐敗したことが示されている(実施例4,表1)。
そして、審判請求人は、審判請求書において、腐敗防止剤のカピリン濃度が120μg/gであるものは60日経過後にカビが発生し、カピリン濃度が0.1μg/gであるものは30日経過後にカビが発生したことを示す比較実験を提示し、カピリン濃度が0.2?100μg/gである本願補正発明は顕著に優れることを主張している。
また、審判請求人は、平成23年10月17日に提出した回答書において、「収穫後の農作物は、貯蔵庫、容器等で保存されるなど、接触状態にあったり、自身の蒸散作用により水分活性が高くなったりして、カビ類が発生しやすい環境下に置かれることになります。また、貯蔵や輸送時に時間の経過と共に生長、繁殖します。本発明の腐敗防止剤は、収穫後の農作物に適用することにより、このような状況に曝される農作物のカビ類の発生を抑制するのにその効果が発揮されます。本発明は、収穫後の農作物に対して、安全性が高く、長期間腐敗を抑制することができます。引用文献1の記載事項からでは、本発明の収穫後の農作物に適用することによる効果は容易に推考されないものと思慮致します。」と主張している(「4.結び」の直前の2段落)。
さらに、審判請求人は、平成24年5月15日に提出した上申書において、カピリンの代わりに本願補正明細書の段落【0003】に記載された従来技術であるヒノキ精油を抗カビ剤として用いた場合の比較実験を提示し、ヒノキ精油を用いた場合は、成分濃度が100μg/gのときは90日経過後もカビの生育はないが、30日目より果皮にところどころ黒いシミが発生し商品価値が失われたこと、成分濃度が0.2μg/gのときは15日目にカビが全体に発芽し、30日目に腐敗したのに対し、本願補正発明の腐敗防止剤を用いた場合には、いずれの濃度でも90日経過後もカビの発生がなかったことを示している。
そこで、これらの点について、以下検討する。

(ア)安全性について
本願補正明細書の実施例では、本願補正発明の腐敗防止剤について、具体的な安全性の評価がなされておらず、段落【0008】にカピリンが含まれているカワラヨモギについて「カワラヨモギよりエタノール抽出等で得られたエキスはカワラヨモギ抽出物の名称で既存食品添加物に登録されており、安全性の高い原料である。」と記載されているにすぎない。
そして、刊行物1に「キク科,カワラヨモギ(・・・)精油中に,抗菌力の強い成分の存在することが発見せられ,この有効成分capillinが精製結晶化せられている.」(摘記1)と記載されているように、引用発明のカピリンもカワラヨモギから得られるものであるところ、カワラヨモギ抽出物が食品保存料として使用される、すなわち安全性が高いものであることは、例えば特開平7-16087号公報の段落【0001】に「・・・食品保存料であるカワラヨモギ抽出物・・・」と記載されているように、本願出願時の技術常識である。
そうすると、本願補正発明の腐敗防止剤が、本願明細書の段落【0008】に記載されている程度の「安全性の高い」ものであることは、当業者が予測できる程度のことである。

(イ)農作物に付着したカビに由来する腐敗を長期間防止することが可能である点について
引用発明は蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)の殺菌剤であるから、それを蜜柑に撒布すれば蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)に由来する腐敗を防止できることは当業者が容易に予測することである。
そこで、次に「長期間」腐敗を防止できることが予測できるか否かについて検討すると、刊行物1には、カピリンが結晶状の粉末であり、融点が78?81°、水に不溶で空気中で比較的安定なものであることが記載されている(摘記2)。そうすると、一度蜜柑に付着したカピリンはその融点からみて保存時に揮散することもなく、空気中で安定であることから分解することもないと考えられる。また水に難溶であることから、たとえ水が付着したとしても洗い流されることもないと考えられる。そうすると、そのような性質を有する殺菌剤(腐敗防止剤)が90日程度の間その効果を持続するであろうことは、当業者が予測できる程度のことである。

(ウ)濃度を0.2?100μg/gに限定した点について
上記アで指摘したように、引用発明において、殺菌剤の濃度が低すぎれば抗菌性が充分とならないことは当業者に自明なことであるから、本願補正発明が、濃度を0.1μg/gとした場合に比べて防カビ性に優れるとしても、そのことは当業者が予測できる程度のことである。
また、本願補正明細書には、濃度が100μg/gを超えた場合の不都合な点について明確な記載がなく、段落【0009】に「カピリンを1000μg/g以上配合した腐敗防止剤の効果は変わらず、また経済的でない。」との記載があるにすぎない。そうすると、審判請求書における、カピリンの濃度を120μg/gとした場合に比べて防カビ性に優れるという主張は、本願補正明細書の記載に基づかないだけでなく、それと矛盾する主張であるとさえいえるから、採用することはできない。

(エ)「収穫後」の農作物とした点について
上記イで指摘したように、収穫後の蜜柑等の農作物の腐敗が、農作物等に付着したカビの繁殖に一因があること、青果物の防カビ剤は収穫前でも収穫後でもいずれにおいても使用可能なことは技術常識である。
また、収穫後の農作物がカビ類が発生しやすい環境下に置かれることを考慮しても、引用発明が蜜柑青黴病菌(Penicillium italicum)の殺菌剤であり、その発生を抑制できるものであることや、殺菌性(防カビ性)は濃度によって調節可能であること、さらに、本願補正発明のカピリンの上限濃度が100μg/gという比較的高い濃度で使用される場合を包含していることを考慮すれば、本願補正発明の腐敗防止剤が、収穫後の農作物の腐敗防止効果を有していることは、当業者が予測できる程度のことである。

(オ)ヒノキ精油を用いた場合との比較について
本願補正明細書の段落【0003】には、収穫後の農作物のカビによる被害を防止する方法として「ヒノキ精油を抗カビ剤として使用する方法」が提案されているが、カビに対する殺菌性、抗菌性、効力持続期間の点からいずれも完全にカビの発生を防止するまでには至っていないことが記載されている。
しかし、請求人が平成24年5月15日に提出した上申書によれば、従来公知の天然の防カビ剤であるヒノキ精油を用いた場合であっても、100ppmの濃度で使用した場合には90日間腐敗防止効果を有するのであり、このことからみても、本願発明の腐敗防止剤が従来公知の天然の防カビ剤を使用した場合に比べて、殺菌性、抗菌性、効力持続期間の点で格別顕著な効果を有するものとは認められない。
また、防カビ剤の種類が変われば必要な防カビ性を得るための濃度も異なることは当業者が予測できる程度のことであるから、本願補正発明の腐敗防止剤がヒノキ精油に比べて腐敗防止に必要な濃度の下限値が低いとしても、それだけで格別顕著な効果であるとはいえない。
そして、ヒノキ精油を100μg/gの濃度で用いた場合には30日目より果皮にところどころ黒いシミが発生し商品価値が失われたという点については、本願補正明細書の段落【0003】の従来技術の説明において言及がなく、また実施例においても評価されていない事項であるから、本願補正明細書の記載に基づかない主張であり、その効果を参酌することはできない。

(7)小括
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成21年9月18日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成21年5月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「下記の構造式(1)で表されるカピリンを有効成分とし、0.01?10
00μg/gの濃度で液体媒体に含有されていることを特徴とする収穫後の農作物の腐敗防止剤。
【化1】



第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1(高峰研究所年報,1957年,9号,p.172-p.177(第2の3(2)の「刊行物1」と同じ))に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第5 当審の判断
本願発明は、第2の3(1)の「本願補正発明」において、カピリンの濃度が「0.02?100μg/g」から「0.01?1000μg/g」に拡張されただけのものであり、「本願補正発明」を完全に包含するものである。
そうすると、第2の3で示したように、本願補正発明が刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、その上位概念の発明である本願発明も、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-01 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-26 
出願番号 特願2002-333128(P2002-333128)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤森 知郎  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 小出 直也
木村 敏康
発明の名称 農作物の腐敗防止剤  
代理人 田村 克之  

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