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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23C |
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管理番号 | 1261873 |
審判番号 | 不服2009-20432 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-10-23 |
確定日 | 2012-08-16 |
事件の表示 | 特願2005-195683「光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制させた牛乳類及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月16日出願公開、特開2006-42814〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年7月5日(優先権主張 平成16年7月8日)の出願であって、その請求項1ないし8に係る発明は、平成24年5月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「牛乳類を減圧脱気して液中の溶存酸素濃度を3ppm以下にし,その後,加熱殺菌して容器に充填する方法であって, 前記減圧脱気を行う際の牛乳類の処理温度T’(℃)が65℃以下であり,T’≦T+3の範囲(T(℃)は,牛乳類の沸点温度)となるように圧力及び処理温度T’を制御することを特徴とする,光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制させた牛乳類の製造方法。」(以下、「本願発明」という。) 2 引用刊行物とその記載事項 当審の拒絶理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1ないし7には、以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付した。 (1)刊行物1:特開平10-295341号公報の記載事項 (1a)「【請求項1】 乳、又は乳を含有する未加熱液を、加熱処理する前に液中溶存酸素を低下せしめた状態で加熱処理すること、を特徴とする生乳又は未加熱液に近似した風味を有する飲料を製造する方法。 ・・・ 【請求項3】 液中溶存酸素を、10ppm未満、好ましくは8ppm未満、更に好ましくは5ppm以下とすること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。 ・・・ 【請求項5】 請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の方法によって製造してなる風味のよい飲料。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、風味のよい飲料の製造に関するものであって、飲料中の溶存酸素を低下せしめることにより、加熱処理するにもかかわらず生に近い風味のすぐれた飲料、特に乳性飲料・果汁飲料の製造に関するものである。」 (1c)「【0009】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために各方面から検討した結果、牛乳は食品の中でも特に酸素や熱によって変化しやすく、風味の変化として現われる点に着目し、その原因について検討した結果、酸素の存在下における加熱処理がその一因であるとの有用知見を得た。そこで、本発明者らは、加熱処理する前の生乳もしくは生乳を一部用いた飲料について、液中の溶存酸素を減少せしめたところ、全く予期せざることに、加熱前に近い風味が得られ、消費者のニーズに適応したより自然に近い風味を有する飲料を、細菌による問題をひき起こすことなく製造できることをはじめて見出した。 ・・・ 【0011】すなわち本発明は、加熱処理する前に液中の溶存酸素量を低下せしめることにより、加熱(殺菌)処理するにもかかわらず、加熱処理前の生の風味にきわめて近似したすぐれた風味を有する飲料、特に乳性飲料・果汁飲料の製造に関するものである。」 (1d)「【0012】 【発明の実施の形態】本発明を実施するには液中の溶存酸素を低下ないし除去しなければならないが、その方法としては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを液中に吹き込み、液中の溶存酸素と置換させ、窒素ガス等不活性ガスを飽和させた状態で殺菌すればよい。不活性ガス(以下、窒素ガスをその代表として本発明を説明する)の吹き込みは、タンク内及び/又はライン内で行うことができるが、90℃以下、好ましくは80?85℃以下で置換するのが好適である。上記のほか、溶存酸素の除去方法として既知の方法がすべて本発明においては適用可能である。」 (1e)「【0014】溶存酸素は、液中からすべて除去してしまうのが最も好ましいが、下記試験例及び後記実施例からも明らかなように、液中の溶存酸素が10ppm未満、好ましくは8ppm未満であれば充分に風味の良い飲料が得られ、特に5ppm以下の場合には充分に所期の目的を達成できることもわかった。」 (1f)「【0015】 【試験例1:牛乳の窒素ガス置換殺菌試験】牛乳(脂肪分3.8%、無脂固形分8.6%)を窒素ガスでバブリングすることにより溶存酸素をそれぞれ減少させた後、殺菌機を用いて130℃、2秒間の殺菌処理を行った。得られた各サンプルについて、専門パネル(30名)によって官能評価をするとともに、ヘッドスペース分析法によって香気成分の分析を行った。得られた結果を下記表1に示した。 【0016】 【表1】(省略) 【0017】上記結果から明らかなように、加熱臭の代表であるジメチルジサルファイドの生成量と官能評価とは相関関係にあり、ジメチルジサルファイドの生成量が少ないほど未加熱のものに近いことが判った。また、溶存酸素が8ppm未満まで窒素ガスで置換することにより、良好な風味が得られ、特に5ppm以下の溶存酸素まで窒素ガスで置換することにより、未加熱品とほぼ同等の効果が得られた。」 (1g)「【0025】 【実施例1】5L容のステンレス製タンクに生乳3Lを入れ、窒素ガスをその中に封入し、溶存酸素計を用いて溶存酸素量を測定しながら一定濃度に達したものを耐熱性スクリューキャップ付バイアルビン(200ml容)に100mlずつ入れ、更にヘッドスペースを窒素ガスで充満させながらキャップで密閉し、オートクレーブ(110℃、1分)で加熱後、10℃まで冷却した。 【0026】同時に、コントロールとして生乳を100mlバイアルビンに入れたサンプルも同じ加熱条件で処理した。冷却後、コントロールを対照に専門パネル(40名)を用いて風味の差を調査し、多数決の結果、下記表3の結果を得た。 【0027】 【表3】(省略) 【0028】上記結果から明らかなように、8ppm未満、特に5ppm以下でコントロールと差が認められ、コントロールには存在する加熱臭は感じられなかった。」 (1h)表3には、溶存酸素が5ppmで、風味が「やや差がある」、3ppmで「有意に差がある」と記載されている。(【0027】【表3】) (1i)「【0033】 【実施例3】生乳30Kgをタンクに入れ、ステンレス製の短管の先に穴をあけ、そこから窒素ガスを封入し、溶存酸素計で溶存酸素を測定して1ppmになった時点で殺菌機に送液した。また、殺菌機の中間部に位置するホールディングタンクも窒素ガスで満たし、空気との接触を避けながら、130℃、2秒の殺菌を行った。 【0034】同時に、コントロールとして、同じ生乳を従来どおり殺菌し(130℃、2秒)、対照とした。得られた2種のサンプルを、専門パネル(40名)を用いて、風味の差を調査し、下記表5の結果を得た。 【0035】 【表5】(省略) 【0036】上記結果から明らかなように、風味は有意に差がみられ、特に香り及び後味が生乳に近似していると評価された。また、5%有意で好まれた。」 (1j)【0037】 【実施例4】実施例3で製造した2種類のサンプル(コントロール、窒素置換牛乳)を、6日間、10℃で保存し、風味の変化を調査して下記表6の結果を得た。 【0038】 【表6】(省略) 【0039】上記結果から明らかなように、窒素置換した牛乳は、経時的風味の変化が少なく、良好な風味を維持していた。」 (2)刊行物2:特開2003-164706号公報の記載事項 (2a)「【請求項1】減圧状態にした減圧容器の上部に設けられた開口部から原水を噴射して前記原水中の気泡を除去し、前記気泡が除去されて前記減圧容器の下部に溜まった製品を払い出す脱気装置において、 前記開口部に設けられ、弁体が前記開口部に対して上方に凸の円錐形状をなし、前記原水を前記減圧容器の内壁面に向けて薄膜状に噴射させるカスケードバルブを備えたことを特徴とする脱気装置。」 (2b)「【0004】香気成分は、蒸発点が低いために減圧脱気に伴い蒸発して失われてしまう。・・・ 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたもので、固形小粒子を含む原水の脱気を可能とすると共に原水の香気成分の損失を防止し、更に脱気後の製品の泡立ちを抑えることを可能とした脱気装置を提供することを目的とする。」 (2c)「【0008】 【発明の実施の形態】・・・減圧容器内の減圧度(絶対圧力)は原水の種類によって通常1,000Pa以上10,000Pa以下の範囲から適宜選択でき、牛乳のときは1,000Pa?2,000Pa、果汁のときは10,000Pa?50,000Pa、茶類のときは25,000Pa?80,000Pa、及び清涼飲料のときは10,000?60,000Paが好ましい。」 (3)刊行物3:特開昭53-139757号公報の記載事項 (3a)「従来、この種の飲料は乳蛋白質の沈殿を防ぐため多量の砂糖を加えて比重を高く調整することによって製造されてきた。・・・従来のものと同じ甘味度においてはより発酵風味の豊かな飲料を提供でき有益なわけである。」(第1頁右下欄1?17行) (3b)「次に本発明の構成について述べる。本発明はブリックス度45?54の比重を有する殺菌乳酸菌飲料の製造に際し、発酵乳に均質化処理をしたのち、減圧脱気処理を施すことを特徴とする安定な殺菌乳酸菌飲料の製造方法についての発明である。本発明で言うところの脱気処理は第1図で示した温度と真空度との関係における斜線で囲まれた脱気処理条件で発酵乳を処理すればよい。 なお、図1の脱気上限線の関係式はT=39logP+2・・・(1)であり、脱気下限線の関係式はT=49log(P-53)-42・・・(2)である。ただし0≦T≦100・・・(3)及び0≦P<760・・・(4)である(T:液温℃、P:真空度mmHg)。第1図の領域を決める関係式(1)、(2)、(3)及び(4)は発明者が温度と真空度を種々変化させて各種の脱気条件を設定し、その時の殺菌乳酸菌飲料の蛋白質の分散安定性および風味劣化を保存実験により検討した結果から、求めた実験式である。もちろんこの領域に示す条件をはずせば本発明の効果は不充分で目的達成とまではいかない。脱気の上限線(1)よりも上部の脱気条件で処理すると蛋白質の分散安定性については問題ないが、発酵フレーバーの脱離などによる風味の劣化がおこり、脱気下限線(2)よりも下部の脱気条件で処理すると、蛋白質の分散安定性が悪くなる。」(第2頁右下欄16行?第3頁左上欄20行、丸付き数字は括弧付き数字で代替した。) (3c)「脱気装置は果汁飲料の製造などで使われている薄膜式真空脱気装置や噴霧式真空脱気装置などが適しているが、他の脱気装置を使用しても差し支えない。このときの脱気処理時の脱気時間や液流量は、果汁処理等で通常行われている条件で充分本発明の目的を達成することができる。」(第3頁右上欄6?11行) (3d)「一般には加熱殺菌後に減圧脱気処理を実施する場合、加熱時間の増大による風味劣化などの弊害が生じやすいため、加熱殺菌前に減圧脱気処理を行うのが好ましい。」(第3頁左下欄10?14行) (3e)「実施例1 脱脂乳を・・・発酵させ・・・この発酵乳・・・と蔗糖・・・を混合して得られたブリックス度51.6の発酵乳を四点に分け薄膜式真空脱気装置・・・流し、(a)80℃で50mmHg、(b)50℃で50mmHg(本発明の処理)及び(c)50℃で500mmHgの三つの条件で脱気処理を施した。脱気処理後80℃で加熱し瓶に熱充填し密封した。一点は(d)無処理区として脱気処理を施さないものを得た。20℃で3ヶ月保存後の沈殿生成の有無と風味具合を調べ第1表に結果を得た。(b)の本発明によるものは蛋白質の分散安定性及び風味ともに良好であった。」(第3頁右下欄15行?第4頁左上欄13行) (3f)第1図には、横軸を真空度、縦軸を温度として、減圧脱気条件の領域が示されている。 (第4頁右下欄第1図) (4)刊行物4:山内邦男ら編,ミルク総合辞典,2004年3月15日 初版第6刷,朝倉書房,第74?75頁の記載事項 (4a)「(2) 光誘導オフフレーバー 440?490nmの波長の光に照射されると、乳中のリボフラビンに光が吸収されるとともに、基底状態にある酸素が励起されて活性酸素となり、ホエータンパク質の酸化あるいは不飽和脂肪の酸化が行われる結果、それぞれ活性化フレーバー(ときに日光フレーバー)あるいは光誘導酸化フレーバーが生じる。」(第75頁15?19行) (5)刊行物5:特開平10-84866号公報の記載事項 (5a)「【0002】 【従来の技術】牛乳などの乳製品が太陽光および蛍光灯などの光線に露出されるとオフフレーバーが発生するが、これに対するメカニズムを解明しようとする試みがなされてきた。その結果、乳製品が光線にさらされると光酸化およびそれによって誘発された自動酸化により激しいオフフレーバーが発生し、結局乳製品の長期間の保存が難しくなるという事実が明らかになった。」 (5b)「【0006】一方、リボフラビンは一般的に光増感剤であって、主に基質に直接作用して一重項酸素(singlet oxygen)の生成なしにタイプIの経路を通じて光酸化を促進させる物質として知られている。しかしながら、最近には牛乳などの乳製品に存在するリボフラビンが太陽光または蛍光灯の光エネルギーを吸収伝達して、乳製品に多量含まれる三重項酸素(triplet oxygen)を、エネルギー状態が非常に高く他の物質をただちに酸化しうる反応性の高い状態にある一重項酸素に変換させることが明らかになった。」 (5c)「【0011】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、一重項酸素を消光(quenching)する能力を有することが知られているアスコルビン酸(Chou,P.T.et al.,Biochem.Biophys.Res.Comm.,115(3):932?937(1983);Rooney,M.L.,Photochem.Photobiol.,38(5):619?621(1983);Bodames,R.S.et al.,FEBS Lett.,105(2):195?196(1979)参照)を乳製品に添加することにより、乳製品に存在するリボフラビンにより生成された一重項酸素を化学的に消光させて除去でき、その結果、乳製品の酸化安定性を向上させて光線による乳製品のオフフレーバーの生成を抑制できるということを見い出し、本発明を完成するに至った。」 (6)刊行物6:特開2002-262769号公報 (6a)「【0002】 【従来の技術】牛乳又は乳成分を含有する飲料又は食品は、蛍光灯、太陽光などある一定量以上の光照射を受けると、光誘導によるオフフレーバーが発生することが知られている。」 (6b)「【0009】例えば、牛乳などの乳製品にアスコルビン酸を添加することにより、光酸化による乳製品のオフフレーバーの生成を抑制して酸化安定性を向上する方法が提案されている(特開平10-844866号公報)。」 (6c)「【0027】牛乳又は乳成分を含有する飲料又は食品の光誘導によるオフフレーバーの発生は、これまで牛乳中に約0.15mg/100ml存在するビタミンB2(リボフラビン)が光酸化によるオフフレーバーの発生に大きく関与していることが明らかとなっている。ビタミンB2は牛乳の黄色い色調を構成する主な要素であり、ホエー(乳清)の色調もこれに由来する。ビタミンB2は、光が当たることで黄色の色調を失い、また光増感剤の役割を果たす。即ち空気中に通常存在する基底状態の酸素(三重項酸素)を、スーパーオキサイドアニオンや一重項酸素といった活性酸素に変化させる。この活性酸素が、乳成分中の脂肪やタンパク質に作用し、オフフレーバーを発生させる。」 (6d)「【0040】この発明の加熱処理は、通常のプレート式の殺菌機を使用するのが好ましく、この加熱処理と同時に牛乳などの殺菌に必要且つ十分な条件をも満たしていることとなる。」 (6e)「【0049】 【実施例1】新鮮な生乳を150L/時のプレート式殺菌機で、120℃、130℃で2秒間及び30秒間の加熱処理をし、140℃で2秒間、30秒間、60秒間、120秒間の夫々の条件で加熱処理をし、これを透明のペットボトル容器(500ml)に充填して8種類の試料を用意した。均質化圧は150kg/cm2とした。生乳の組成は脂肪3.97%、乳糖4.46%、タンパク質3.32%であった。」 (7)刊行物7:特開2001-78665号公報 (7a)「【0032】以上の条件で、窒素ガス置換を行った場合に、牛乳中の溶存酸素濃度が、1.98ppmとなり、2ppm以下を実現することができた。また、窒素ガス置換タンク11内の泡は、噴霧ノズル13から噴霧された霧滴により泡が破壊されたり、成長が抑制されて、窒素ガス置換と消泡の両効果が得られる。窒素ガス置換タンク11内の微細な気泡は、窒素ガス置換タンク11内で5分間程度、滞留させて保持することで、均質化や殺菌等の次工程に悪影響を及ぼさない程度まで除去できた。窒素ガス置換タンク11の底部に設けられた送液パイプ14により回転数制御付送液ポンプ15を駆動して、窒素ガス置換された牛乳は矢示14aの方向へ送られ、プレート殺菌機17で80?90℃に予熱し、次いで均質機20で均質化をして再度プレート殺菌機17に送液して130℃、2秒間で殺菌をし、及び充填機(図示していない)で容器に充填して製品とした。」 3 対比・判断 (1)刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a))から、刊行物1には、 「 乳、又は乳を含有する未加熱液を、加熱処理する前に液中溶存酸素を5ppm以下に低下せしめた状態で加熱処理する生乳又は未加熱液に近似した風味を有する飲料を製造する方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。 (ア)本願発明の「牛乳類」は「減圧脱気して液中の溶存酸素濃度を3ppm以下にし,その後,加熱殺菌」するものであり、脱気前の「牛乳類」は未加熱である。そして、本願明細書段落【0021】に「本発明における牛乳類とは,乳等省令に定めるところの種類別「牛乳」「成分調整牛乳」「低脂肪牛乳」「無脂肪牛乳」「加工乳」「乳飲料」「発酵乳」「乳酸菌飲料」「殺菌乳酸菌飲料」等を指す。」と記載されている。 そうすると、刊行物1発明の「乳、又は乳を含有する未加熱液」は、本願発明の脱気前の「牛乳類」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「生乳又は未加熱液に近似した風味を有する飲料」について、加熱殺菌後において、風味が生乳に近似していること(上記(1f)(1i))、加熱殺菌後6日間10℃で保存しても経時的風味劣化が少なく良好な風味を維持していたこと(上記(1j))が記載されているから、風味の劣化が抑制されているといえる。 一方、本願発明の「光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制させた牛乳類」について、本願明細書段落【0057】に「光照射を受ける前の実施例2の牛乳(暗所保存品)を0点とし,それとの比較で評価した。」、段落【0058】に「比較例3では評点が非常に低くなっており,光によって風味の劣化が進んでいることがわかる。一方,実施例2の牛乳では・・・各項目において評点の低下が少なく,比較例3に対して有意に優れていた。これは店頭陳列時の風味劣化抑制において低温脱気処理が有効であることを示している。」と記載され、「光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制」することは、光誘導による風味の劣化を抑制することといえる。 そうすると、刊行物1発明の「生乳又は未加熱液に近似した風味を有する飲料を製造する方法」と、本願発明の「光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制させた牛乳類の製造方法」とは、風味の劣化が抑制された牛乳類の製造方法である点で共通する。 (ウ)刊行物1発明の「加熱処理」は、刊行物1に「加熱(殺菌)処理」(上記(1c))と記載され、牛乳の溶存酸素を減少させた後「殺菌機を用いて130℃、2秒間の殺菌処理を行った」(上記(1f))ことが記載されていることから、加熱殺菌処理であり、本願発明の「加熱殺菌」に相当する。 (エ)刊行物1には、溶存酸素濃度について「溶存酸素を、液中からすべて除去してしまうのが最も好ましい」(上記(1e))と記載され、実施例では、風味について、3ppmの場合「有意に差がある」、5ppmの場合「やや差がある」と記載されており(上記(1h))、3ppm以下とすることも記載されているといえる。 そして、刊行物1発明の「液中溶存酸素を5ppm以下に低下せしめた状態」とすることが脱気により行われることは、飲料の分野の技術常識であるから、本願発明の「減圧脱気して液中の溶存酸素濃度を3ppm以下」とすることとは、脱気して溶存酸素濃度を3ppm以下にする点で共通する。 (オ)刊行物1発明の「加熱処理」は、「溶存酸素を低下せしめた状態」で行われることから、溶存酸素を低下せしめた後で行われるといえる。 したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 牛乳類を脱気して液中の溶存酸素濃度を3ppm以下にし、その後、加熱殺菌する、風味の劣化が抑制された牛乳類の製造方法である点。 (相違点1) 本願発明では、脱気した牛乳類を加熱殺菌して容器に充填するのに対して、刊行物1発明では、加熱処理後の飲料を容器に充填することを規定していない点。 (相違点2) 脱気が、本願発明では、減圧脱気であり、その際の牛乳類の処理温度T’(℃)が65℃以下であり,T’≦T+3の範囲(T(℃)は,牛乳類の沸点温度)となるように圧力及び処理温度T’を制御するのに対して、刊行物1発明では、脱気方法を特定しておらず、その条件を規定していない点。 (相違点3) 風味の劣化が抑制された牛乳類の製造方法が、本願発明では、光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制させた牛乳類の製造方法であるのに対して、刊行物1発明では、生乳又は未加熱液に近似した風味を有する飲料を製造する方法である点。 (3)そこで、上記各相違点について検討する。 ア 相違点1について 加熱殺菌した牛乳類を容器に充填することは、刊行物6(上記(6e))及び刊行物7(上記(7a))に記載されるように、本願優先日前の周知技術であるから、刊行物1発明において、加熱殺菌した後、容器に充填することに何ら困難性はない。 イ 相違点2について (ア)溶存酸素の除去方法について、刊行物1には、具体的には、窒素ガスバブリングする方法が記載されているものの、「溶存酸素の除去方法として既知の方法がすべて本発明においては適用可能である。」(上記(1d))と記載されている。 そして、牛乳類を減圧脱気することは、刊行物2(上記(2c))及び刊行物3(上記(3b))に記載されるように既知の溶存酸素の除去方法である。 (イ)さらに、刊行物2(上記(2b))には、減圧脱気の問題点として、「香気成分は、蒸発点が低いために減圧脱気に伴い蒸発して失われてしまう」ことが記載され、香気成分の蒸発点を考慮して、減圧脱気をする必要があることが示唆されているといえる。 そして、刊行物3(上記(3b)(3f))には、乳酸菌飲料を減圧脱気する際に、第1図の脱気の上限線である関係式(1)、及び常圧の水の沸点である100℃以下であることを示す関係式(3)よりも上部の脱気条件で処理すると、発酵フレーバーの脱離などによる風味の劣化がおこることが記載されている。そして、第1図において、発酵フレーバーの脱離による風味の劣化がおこる上限線である(1)及び(3)よりも上部の領域をみると、真空度が高すぎると低温でも風味劣化がおこり、温度が高すぎると真空度は低くても風味の劣化がおこるという傾向を示しているといえる。 また、刊行物3に記載された、第1図の斜線の領域、つまり減圧脱気処理の条件を満たす領域は、温度と真空度を種々変化させて実験を行って決定したものであるが(上記(3b))、刊行物3に記載された減圧脱気する対象は、ブリックス度45?54の蔗糖を含有した乳酸菌飲料で、水より沸点が高くなっていることから、水の蒸気圧をそのまま用いることはできないものの、水の蒸気圧曲線は、第1図の斜線の領域、つまり減圧脱気処理の条件を満たす領域に包含され、上限線(1)に概略沿った傾向であることは、水の水蒸気圧、12℃/10.5mmHg、38℃/49.7mmHg、52℃/102.1mmHg、89℃/506.2mmHg、100℃/760mmHgを図中に線で結べば明らかである。そして、牛乳類の主成分は水分(牛乳の約90%は水分である)であり、牛乳類を減圧脱気した場合、その蒸気圧曲線は、水の蒸気圧曲線と類似したものとなるといえる。 以上のことから、牛乳類の香気成分は蒸発点が低く、減圧脱気により牛乳類が沸騰すれば、牛乳類の主成分である水分が蒸発するのに伴って、蒸発してしまうことは、刊行物2及び3に接した当業者が自然に理解することといえ、減圧脱気に際して、香気成分の散逸を少なくして、牛乳類の種類に応じた良好な風味のものが得られるように、減圧度と温度を調製することは、脱気方法の選択に伴い当業者が当然に行うことといえる。 (ウ)ここで、本願発明の「処理温度を65℃以下であり,T’≦T+3の範囲(T(℃)は,牛乳類の沸点温度)」という減圧脱気の条件の数値限定の臨界的意義について、本願明細書をみると、以下のように記載されている。 「【0026】ディアレータータンク4内において脱気する際の牛乳類の処理温度は,特に限定はないが,65℃以下であることが好ましい。液中の飽和溶存酸素濃度は温度が高いほど低くなるため,脱気効率を向上させる観点から一般的に飲料の減圧脱気は65?90℃で行われることが多い。しかし,温度が高いほどフレーバー逸散が多くなり,官能的に水っぽくなる傾向がある。そのため牛乳類においては官能的に水っぽくなることがなく,かつ光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制するためには,牛乳類の温度を65℃以下として脱気処理することが好ましい。」、 「【0029】ディアレータータンク4内の真空度は,牛乳類の温度が沸点温度の近傍となるように制御すると良い。例えば,ディアレータータンク4内の真空度がX(Pa)で,X(Pa)における牛乳類の沸点温度がT(℃)だとすれば,牛乳類の処理温度T’(℃)が,沸点温度T(℃)の前後2?3℃の範囲(T-3≦T’≦T+3)となるように,ディアレータータンク4内の真空度を調節することが好ましい。真空度が高いほど脱気効率はよくなり,牛乳類中の溶存酸素濃度を低くできるが,真空度が高すぎると,牛乳類が激しく沸騰してフレーバー逸散が多くなり,官能的に水っぽくなってしまう。そのため,ディアレータータンク4内の真空度は,牛乳類の処理温度T’(℃)が沸点温度Tに到達しないように(T-3≦T’<Tの範囲に)制御することが好ましい。」、 「【0032】なお,ディアレータータンク4内の真空度を,牛乳類の処理温度T’(℃)が沸点温度Tに到達しないように制御する一方で,上述のように,減圧されたディアレータータンク4内に対して牛乳類を微粒子状に噴霧する等の方法によって,牛乳を液滴化して表面積を大きくすることで脱気効率を高めることが好ましい。そうすることにより,脱気効率を向上させ,沸騰させない状態で牛乳類中の溶存酸素濃度をより低くできるようになる。」 「【0033】但し,牛乳類を沸騰させてしまっても,T’≦T+3の範囲であれば牛乳類の微粒子化や薄膜化を行うことにより,著しいフレーバー逸散をすることなく脱気処理することが可能である。そのため,ディアレータータンク4内の真空度は,牛乳類の温度が沸点温度を2?3℃超えるような値に制御しても良い。」と記載され、 実施例は、50℃、-0.089MPa(大気圧を101.33kPaとして換算すると、12.33kPa≒92mmHg)と、ほぼ沸点で減圧脱気した例が記載されるだけで、比較例は、脱気工程省略(比較例1)、窒素ガスバブリング(比較例2)である。 これらの記載事項から、上記数値限定の意義は、フレーバー逸散が多く官能的に水っぽくなることを防ぐというものであり、「T’≦T+3」については、著しいフレーバー逸散がおきないとされており、沸点温度に到達しないように制御することが好ましいとしていることからみても、フレーバー逸散、つまり官能的に水っぽさが許容される限度を示しているに過ぎないものといえる。そして、実施例をみても、65℃及び、沸点より3℃高いという数値に格別の臨界的意義を見出すことはできない。 (エ)以上のことを総合すると、刊行物1発明において、溶存酸素の除去方法として、上記のとおり牛乳類の脱気方法として公知の減圧脱気を採用し、その際に、溶存酸素濃度が3ppm以下まで脱気ができ、かつ風味が良好となるように、刊行物3に実験で減圧脱気処理の条件領域を求めたことが記載されていることを参考にして、温度と減圧度を変化させて味を確認する実験を行い、牛乳類の種類に応じて、沸点の低い香気成分が蒸発して失われないように温度の上限値を65℃以下と決定し、真空度に応じた処理温度を最適化し、T’≦T+3の範囲(T(℃)は,牛乳類の沸点温度)となるように圧力及び処理温度T’を制御することは当業者が容易になし得たことといえる。 ウ 相違点3について 刊行物4ないし6に記載されるように、乳に光が照射されると酸素が活性酸素になり、蛋白や脂肪の酸化が行われ、光誘導オフフレーバーが生じることは、本願優先日前によく知られていたことである。そして、刊行物1発明は、牛乳類中の溶存酸素を除去するものであるから、牛乳類中の酸素が除去されれば、必然的に光誘導オフフレーバー発生を抑制させた牛乳類となるといえ、刊行物1発明の生乳又は未加熱液に近似した風味を有する飲料を製造する方法を、光誘導オフフレーバー発生を抑制させた牛乳類の製造方法とすることに、格別の困難性があるとはいえいない。 エ 本願発明の効果について そして、本願明細書段落【0020】に記載された、光誘導によるオフフレーバーの発生を極めて低レベルに抑制できるという本願発明の効果は、刊行物1ないし7の記載事項から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。 また、請求人が当審の拒絶理由に対する意見書で主張する、牛乳類中の溶存気体量を少なくでき、加熱殺菌の熱伝導効率が優れ、加熱殺菌時の風味劣化を抑えられるという効果は、刊行物2及び3に記載された牛乳類を減圧脱気後、加熱殺菌することから予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえいない。 4 むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-07 |
結審通知日 | 2012-06-12 |
審決日 | 2012-06-25 |
出願番号 | 特願2005-195683(P2005-195683) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼ 美葉子 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 菅野 智子 |
発明の名称 | 光誘導によるオフフレーバーの発生を抑制させた牛乳類及びその製造方法 |
代理人 | 金本 哲男 |
代理人 | 萩原 康司 |
代理人 | 亀谷 美明 |