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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M |
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管理番号 | 1261907 |
審判番号 | 不服2011-26144 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-12-02 |
確定日 | 2012-08-16 |
事件の表示 | 特願2006-262830「屋外用着色板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月10日出願公開、特開2008- 80629〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年9月27日の出願であって、平成23年7月28日付けで手続補正がなされ、同年9月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月2日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 なお、請求人は、当審における平成24年1月31日付けの審尋に対して同年4月4日付けで回答書を提出している。 第2 平成23年12月2日付け手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成23年12月2日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 (1)平成23年12月2日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1に、 「インクジェット法により付与された、顔料、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマー、および光重合開始剤を含有する紫外線硬化型インクからなる厚さ8?150μmのインク層を有する屋外用着色板であって、 前記顔料が、バナジウム酸ビスマス、ペリレン、ジケトピロロピロールである屋外用着色板。」とあったものを、 「インクジェット法により付与された、顔料、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマー、および光重合開始剤を含有する紫外線硬化型インクからなる厚さ15?132μmのインク層を有する屋外用着色板であって、 前記顔料が、バナジウム酸ビスマスである屋外用着色板。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「厚さ8?150μmのインク層」の厚さを「15?132μm」と限定するとともに、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「バナジウム酸ビスマス、ペリレン、ジケトピロロピロールである顔料」について、「ペリレン」であるとの選択肢と「ジケトピロロピロール」であるとの選択肢を削除して限定するものである。 2 本件補正の目的 本件補正後の請求項1に係る上記(1)の本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。 3 引用刊行物及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-279992号公報(以下「引用例」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。 (1)「【請求項1】 インクジェット記録ヘッドより、紫外線吸収剤、光ラジカル発生剤、ラジカル重合性化合物を含有するインクを記録材料上に吐出して該記録材料上に印刷を行う画像形成方法において、インク着弾後の硬化雰囲気を不活性ガスで置換することを特徴とする画像形成方法。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は、環境(温度・湿度)によらず様々な記録材料に耐光性に優れかつ高精細な画像を安定に再現できるインクジェット記録による画像形成方法、記録装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、インクジェット記録方式は簡便・安価に画像を作製出来るため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されてきている。特に微細なドットを出射、制御する記録装置や、色再現域、耐久性、出射適性等を改善したインク及びインクの吸収性、色材の発色性、表面光沢などを飛躍的に向上させた専用紙を用い、銀塩写真に匹敵する画質を得ることも可能となっている。今日のインクジェット記録方式の画質向上は、記録装置、インク、専用紙の全てが揃って初めて達成されている。 【0003】 しかしながら、専用紙を必要とするインクジェットシステムは、記録媒体が制限されること、記録媒体のコストアップが問題となる。そこで、専用紙と異なる被転写媒体へインクジェット方式により記録する試みが多数なされている。具体的には、室温で固形のワックスインクを用いる相変化インクジェット方式、速乾性の有機溶剤を主体としたインクを用いるソルベント系インクジェット方式や、記録後紫外線(UV)光により架橋させるUVインクジェット方式などである。 【0004】 中でも、UVインクジェット方式は、ソルベント系インクジェット方式に比べ比較的低臭気であり、速乾性、インク吸収性の無い記録媒体への記録が出来る点で、近年注目されつつあり、紫外線硬化型インクジェットインクが開示されて(例えば、特許文献1、2参照。)いる。 【0005】 しかしながら、これらのインクを用いる場合、屋外用途で耐光性を上げる為に紫外線吸収剤を含有させると、硬化性が大きく劣ってしまう問題が有り、記録材料の種類や作業環境によって、着弾後のドット径が大きく変化してしまい、様々な記録材料に対して、高精細な画像を形成することは不可能であった。 【特許文献1】特開平6-200204号公報(特許請求の範囲、実施例) 【特許文献2】特表2000-504778号公報(特許請求の範囲、実施例) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は耐光性に優れ、かつ、文字品質が良く色混じりの発生がない高精細な画像を安定に記録することができる活性光線硬化型インクジェット記録による画像形成方法及び記録装置を提供することにある。」 (3)「【発明の効果】 【0020】 本発明により、耐光性に優れ、かつ、文字品質が良く色混じりの発生がない高精細な画像、を安定に記録することができる活性光線硬化型インクジェット記録による画像形成方法及び記録装置を提供することができた。」 (4)「【発明を実施するための最良の形態】 【0021】 本発明を更に詳しく説明する。 【0022】 本発明の画像形成方法に用いられる活性光線硬化型インクジェット記録用インクは、紫外線吸収剤を含有する。記録後の印刷物の耐光性を向上させるために、紫外線吸収剤を含有させることは公知であるが、単純に活性光線硬化型インクに用いると、著しく硬化性が劣化して高画質な画像が形成できなかった。 【0023】 本発明者は、光ラジカル発生剤、ラジカル重合性化合物を用い、インク着弾後の硬化雰囲気を不活性ガスで置換することで、紫外線吸収剤の存在下でも飛躍的に硬化性が向上するばかりでなく、硬化収縮や反応熱による記録材料のカールや波打ちの問題も解決できることで、非常に安定に様々な記録材料に高精細な画像を形成できることを見出した。 【0024】 また、ラジカル重合性化合物としてマレイミド骨格を含む化合物、ポリエン化合物及びポリチオール化合物、を含有することでも、上記と同様な効果が得られることを見出した。 【0025】 本発明で用いられる紫外線吸収剤は、従来より公知の化合物を用いることができ、例えば特開平9-157560号、同9-279075号、特開2001-181528号に記載の酸化セリウムなどの紫外線吸収性無機化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤等が挙げられる。」 (5)「【0032】 本発明のインクでは、光重合性化合物としてラジカル重合性化合物を用いる。ラジカル重合性化合物としては、公知のあらゆる(メタ)アクリレートモノマー及びまたはオリゴマーを用いることができる。 【0033】 例えば、イソアミルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、イソミルスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、ラクトン変性可とう性アクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレート等の単官能モノマー、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAのEO付 加物ジアクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等の2官能モノマー、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の三官能以上の多官能モノマーが挙げられる。 【0034】 この他、重合性のオリゴマー類も、モノマー同様に配合可能である。重合性オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、直鎖アクリルオリゴマー等が挙げられる。」 (6)「【0037】 また、本発明で用いられる光ラジカル発生剤としては、アリールアルキルケトン、オキシムケトン、チオ安息香酸S-フェニル、チタノセン、芳香族ケトン、チオキサントン、ベンジルとキノン誘導体、ケトクマリン類などの従来公知の光ラジカル発生剤が使用出来る。「UV・EB硬化技術の応用と市場」(シーエムシー出版、田畑米穂監修/ラドテック研究会編集)に詳しい。中でもアシルフォスフィンオキシドやアシルホスフォナートは、感度が高く、開始剤の光開裂により吸収が減少するため、インクジェット方式のように1色当たり5?12μmの厚みを持つインク画像での内部硬化に特に有効である。具体的には、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイドなどが好ましい。」 (7)「【0075】 本発明に用いられる活性光線硬化型インクは、上述の活性光線硬化型組成物と共に、各種公知の染料及び/または顔料を含有しているが、好ましくは顔料を含有する。 【0076】 本発明で好ましく用いることのできる顔料を、以下に列挙する。 【0077】 C.I.Pigment Yellow 1,2,3,12,13,14,16,17,73,74,75,81,83,87,93,95,97,98,109,114,120,128,129,138,151,154 C.I.Pigment Red 5,7,12,22,38,48:1,48:2,48:4,49:1,53:1,57:1,63:1,101,112,122,123,144,146,168,184,185,202 C.I.Pigment Violet 19,23 C.I.Pigment Blue 1,2,3,15:1,15:2,15:3,15:4,18,22,27,29,60 C.I.Pigment Green 7,36 C.I.Pigment White 6,18,21 C.I.Pigment Black 7 また、本発明において、プラスチックフィルムのような透明基材での色の隠蔽性を上げる為に、白インクを用いることが好ましい。特に、軟包装印刷、ラベル印刷においては、白インクを用いることが好ましいが、吐出量が多くなるため、前述した吐出安定性、記録材料のカール・しわの発生の観点から、自ずと使用量に関しては制限がある。 【0078】 上記顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。また、顔料の分散を行う際に、分散剤を添加することも可能である。分散剤としては、高分子分散剤を用いることが好ましく、高分子分散剤としてはAvecia社のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のPBシリーズが挙げられる。また、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。これらの分散剤および分散助剤は、顔料100質量部に対し、1?50質量部添加することが好ましい。分散媒体は、溶剤または重合性化合物を用いて行うが、本発明に用いる照射線硬化型インクでは、インク着弾直後に反応・硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。溶剤が硬化画像に残ってしまうと、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤のVOCの問題が生じる。よって、分散媒体は溶剤では無く重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが分散適性上好ましい。 【0079】 顔料の分散は、顔料粒子の平均粒径を0.08?0.5μmとすることが好ましく、最大粒径は0.3?10μm、好ましくは0.3?3μmとなるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を適宜設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性および硬化感度を維持することができる。 【0080】 本発明に係るインクにおいては、色材濃度としては、インク全体の1質量%乃至10質量%であることが好ましい。 【0081】 本発明の活性光線硬化型インクには、上記説明した以外に様々な添加剤を用いることができる。例えば、界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を添加することができる。」 (8)「【0082】 本発明の画像形成方法では、インク着弾後の硬化雰囲気を不活性ガスで置換する。好ましくは、酸素濃度を不活性ガス置換により0.1%?10%に制御することが好ましい。硬化雰囲気の酸素濃度を抑えることで、硬化に必要な活性光線のエネルギーを小さくすることができることは公知であるが、本発明では、酸素濃度を抑えることで、紫外線吸収剤の存在下でも十分な硬化性が得られるだけでなく、硬化時のインク収縮や反応熱による記録材料の波うちやしわを抑えることができることを見出した。 【0083】 硬化雰囲気の酸素濃度を0.1%?10%に制御する手段としては、例えば、画像形成装置を閉じた系にして、窒素雰囲気や二酸化炭素雰囲気にする方法などがある。窒素の供給手段としては、例えば、窒素ボンベを用いたり、酸素と窒素の中空糸膜に対する透過性の違いを利用し空気中から窒素ガスのみを分離する装置を用いる方法がある。二酸化炭素の供給手段としてもボンベによる供給方法がある。」 (9)「【0084】 (インク着弾後の総インク膜厚) 本発明では、記録材料上にインクが着弾し、活性光線を照射して硬化した後の総インク膜厚が2?20μmであることが好ましい。スクリーン印刷分野の活性光線硬化型インクジェット記録では、総インク膜厚が20μmを越えているのが現状であるが、記録材料が薄いプラスチック材料であることが多い軟包装印刷分野では、前述した記録材料のカール・皺の問題でだけでなく、印刷物全体のこし・質感が変わってしまうという問題が有るため、過剰な膜厚のインク吐出は好ましくない。 【0085】 尚、ここで「総インク膜厚」とは記録材料に描画されたインクの膜厚の最大値を意味し、単色でも、それ以外の2色重ね(2次色)、3色重ね、4色重ね(白インクベース)のインクジェット記録方式で記録を行った場合でも総インク膜厚の意味するところは同様である。」 (10)「【0115】 本発明で用いることのできる記録材料としては、通常の非コート紙、コート紙などの他、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性のプラスチックおよびそのフィルムを用いることができ、各種プラスチックフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルムを挙げることができる。その他のプラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが使用できる。また、金属類や、ガラス類にも適用可能である。これらの記録材料の中でも、特に熱でシュリンク可能な、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルムへ画像を形成する場合に本発明の構成は、有効となる。これらの基材は、インクの硬化収縮、硬化反応時の発熱などにより、フィルムのカール、変形が生じやすいばかりでなく、インク膜が基材の収縮に追従し難い。」 (11)上記(1)ないし(10)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。 「紫外線硬化型インクジェットインクを用いて記録後紫外線(UV)光により架橋させるUVインクジェット方式は、速乾性、インク吸収性の無い記録媒体への記録が出来る点で、近年注目されつつあるところ、これらのインクを用いる場合、屋外用途で耐光性を上げる為に紫外線吸収剤を含有させると、硬化性が大きく劣ってしまう問題が有り、記録材料の種類や作業環境によって、着弾後のドット径が大きく変化してしまい、様々な記録材料に対して、高精細な画像を形成することは不可能であったので、インクジェット記録ヘッドより、紫外線吸収剤、光ラジカル発生剤、ラジカル重合性化合物を含有するインクを記録材料上に吐出して該記録材料上に印刷を行う画像形成方法による屋外用途の印刷物において、 耐光性に優れ、かつ、文字品質が良く色混じりの発生がない高精細な画像が安定に記録されることを目的として、 インク着弾後の硬化雰囲気を不活性ガスで置換することにより、環境(温度・湿度)によらず様々な記録材料に耐光性に優れかつ高精細な画像が安定に再現された屋外用途の印刷物であって、 前記紫外線吸収剤は、従来より公知の化合物を用いることができ、 前記ラジカル重合性化合物としては、公知のあらゆる(メタ)アクリレートモノマー及びまたはオリゴマーを用いることができ、 前記光ラジカル発生剤としては、従来公知の光ラジカル発生剤が使用出来、 前記活性光線硬化型インクは、上述の活性光線硬化型組成物と共に、各種公知の顔料を含有し、 インク着弾後の硬化雰囲気の不活性ガスでの前記置換は、例えば、画像形成装置を閉じた系にして、窒素雰囲気や二酸化炭素雰囲気にする方法などの不活性ガス置換により、酸素濃度を0.1%?10%に制御することが好ましく、 記録材料が薄いプラスチック材料であることが多い軟包装印刷分野では、記録材料のカール・皺の問題でだけでなく、印刷物全体のこし・質感が変わってしまうという問題が有るため、過剰な膜厚のインク吐出は好ましくないので、記録材料上にインクが着弾し、活性光線を照射して硬化した後の総インク膜厚が2?20μmであることが好ましく、スクリーン印刷分野の活性光線硬化型インクジェット記録では、総インク膜厚が20μmを越えているのが現状であり、 記録材料としては、通常の非コート紙、コート紙などの他、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性のプラスチックおよびそのフィルムを用いることができ、各種プラスチックフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルムを挙げることができ、その他のプラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが使用でき、金属類や、ガラス類にも適用可能である、 インクを記録材料上に吐出して該記録材料上に印刷を行う画像形成方法による屋外用途の印刷物。」(以下「引用発明」という。) 4 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「インクを記録材料上に吐出して該記録材料上に印刷を行う画像形成方法」、「顔料」、「『公知のあらゆる(メタ)アクリレートモノマー及びまたはオリゴマー』を用いることができ『ラジカル重合性化合物』」、「光ラジカル発生剤」、「紫外線硬化型インクジェットインク」、「厚」、「インク膜」及び「屋外用途の印刷物」は、それぞれ、本願補正発明の「インクジェット法」、「顔料」、「反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマー」、「光重合開始剤」、「紫外線硬化型インク」、「厚さ」、「インク層」及び「屋外用着色板」に相当する。 (2)上記(1)に照らせば、本願補正発明と引用発明とは、 「インクジェット法により付与された、顔料、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマー、および光重合開始剤を含有する紫外線硬化型インクからなるインク層を有する屋外用着色板。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1: 前記インク層の厚さが、本願補正発明では「15?132μm」であるのに対して、引用発明では明確でない点。 相違点2: 前記顔料が、本願補正発明では「バナジウム酸ビスマス」であるのに対して、引用発明ではそうではない点。 5 判断 上記相違点1及び2について検討する。 (1)相違点1について 記録材料にインクを付与して印刷物を製作する際に、インクをどの程度付与するかは、印刷する絵柄や画像、印刷する機械、記録材料の種類や厚み、インクの種類や重ねる色数などに応じて、印刷を行う当業者が適宜決定すべき事項である。 引用発明の「インク層の厚さ(総インク膜厚)」は、記録材料が薄いプラスチック材料であることが多い軟包装印刷分野では、記録材料のカール・皺の問題でだけでなく、印刷物全体のこし・質感が変わってしまうという問題が有るため、過剰な膜厚のインク吐出は好ましくないので、2?20μmであることが好ましく、スクリーン印刷分野の活性光線硬化型インクジェット記録では、総インク膜厚が20μmを越えているのが現状であるところ、屋外用途の印刷物は風に吹かれたり雨に濡れたりするので、その記録材料としては、軟包装印刷分野で使われるほど薄くはないプラスチックフィルムやプラスチック板、金属板、ガラス板などが多く用いられることは一般に周知の事項である。 そうすると、引用発明において、このような記録材料に印刷して「屋外用着色板」とする際の「インク層の厚さ」は、スクリーン印刷分野の活性光線硬化型インクジェット記録のように20μmを越えてもかまわないものと解される。 してみると、引用発明において、その記録材料として、軟包装印刷分野で使われるほど薄くはないプラスチックフィルムやプラスチック板、金属板、ガラス板などを用い、このような記録材料に印刷して「屋外用着色板」とする際の「インク層の厚さ」を、20μm程度から20μmを越える程度とすることは、当業者が適宜決定することができた程度のことであって、この20μm程度から20μmを越える程度の「インク層の厚さ」は、本願補正発明の「15?132μm」の範囲内のものといえる。 したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た程度のことである。 (2)相違点2について ア インクジェットインクが含有する公知の顔料としてバナジウム酸ビスマスは本願の出願日前に周知である(以下「周知事項1」という。例.原査定で引用された特表2002-508015号公報(4頁3行?9頁18行の「本発明は、必須の成分として A)…無機の顔料、…を含有する、インクジェット法のための新規顔料配合物に関する。…耐光堅牢性…を有する必要がある。現在のインクジェットインキは…UV硬化性バインダー…も含有している。…本発明の顔料配合物は…無機の顔料を含有している。…適当な顔料(A)の例は:…無機顔料:…-着色顔料:…バナジン酸ビスマス(C.I.ピグメントイエロー184);…である。」の記載参照。)、原査定で引用された特表2003-507517号公報(4頁3行?9頁9行の「本発明は、 A)…着色剤(A1)…を主成分として含む新規な着色剤調整物に関する。更に本発明は、上記着色剤調整物をインクジェット法のインクとして使用する…インクジェット法…で使用するインクは、…日光堅牢度…を示す必要がある。…ここで、有用な顔料(A1)の例を以下に示し、…バナジウム酸ビスマス(C.I.ピグメントイエロー184);…。」の記載参照。)、特表2004-521182号公報(【請求項10】の記載と、【0006】?【0019】の「本発明は…無機顔料…からなる顔料分散物を提供する。…好ましい顔料分散物は、…無機顔料…とからなり、…適切な無機顔料の例には、…バナジウム酸ビスマスがある。…さらに本発明の顔料分散物は、…インクジェットインクの着色剤として…使用するのに適している。」の記載参照。)、原査定で引用された特表2006-500466号公報(【0001】及び【0002】の「本発明は…インクジェット印刷に用いるインクに関する。…インクジェット法…で使用されるインクは、…堅牢性、例えば耐光性…を有する必要がある。」の記載、【0046】?【0053】の「本発明の着色剤調整物…は、…微粒子状の無機…着色剤、即ち、…顔料…を含んでいる。…以下の例示は有用な顔料を示し…[無機顔料]…着色顔料…バナジウム酸ビスマス(C.I.ピグメントイエロー184);…。…これらの顔料は、…インクジェット用インク群の製造に極めて有用である。…」の記載、【0093】?【0095】の「本発明の他の実施の形態には、好ましくはUV領域において、熱又は化学線で開始する架橋操作が含まれる。…有用な基板材料(支持体材料)は、…木材…金属材料、…ガラス…である。…本発明のインクにより、高品質、すなわち…高い摩擦堅牢度、日光堅牢度…の印刷像を形成する。」の記載参照。)、特開2005-75919号公報(【0001】、【0002】、【0004】の各記載、【0033】?【0044】の「本発明に係る水系微細顔料分散体は、…着色顔料を分散させたもの…着色顔料としては、…無機顔料を使用することができる。…無機顔料としては、…バナジウム酸ビスマス…などの黄色系無機顔料、…であり、具体的には…Pigment-Yellow…184…等を用いることができる。」の記載、【0099】の「耐光性の高い着色物、印刷物が得られる。」の記載参照。)、特表2005-534735号公報(【請求項1】の記載、【0017】?【0022】の「本発明による顔料調合物は本質的な成分として顔料(A)…を含有する。顔料(A)として…無機の顔料が含まれていてよい。…適している無機の有色顔料は例えば次のものである:…バナジン酸ビスマス(C.I.ピグメントイエロー184)。」の記載、【0064】の「本発明による顔料調合物で着色されることができる材料の例として次のものを挙げることができる:塗料、例えば建築用塗料、…放射線硬化性塗料:ペイント、建物の屋外並びに屋内用、例えば木材ペイント…;印刷インキ…放射線硬化性印刷インキ;インキ、またインクジェットインキ;…」の記載参照。))。 イ また、耐光性が求められるインクの顔料としてバナジウム酸ビスマスが使用できることも本願の出願前に周知であり(以下「周知事項2」という。上記特表2002-508015号公報、上記特表2003-507517号公報、上記特表2006-500466号公報参照。)、バナジウム酸ビスマスを用いた顔料は耐候性に優れていることも本願の出願前に周知である(以下「周知事項3」という。特開2001-55525号公報(【0005】、【0006】に注目。)、特開2001-220550号公報(【0006】、【0007】に注目。))。 ウ 引用発明は、インクを記録材料上に吐出して該記録材料上に印刷を行う画像形成方法による屋外用途の印刷物において、耐光性に優れ、かつ、文字品質が良く色混じりの発生がない高精細な画像が安定に記録されることを目的として、インク着弾後の硬化雰囲気を不活性ガスで置換することにより、環境(温度・湿度)によらず様々な記録材料に耐光性に優れかつ高精細な画像が安定に再現された屋外用途の印刷物であって、前記活性光線硬化型インクは、上述の活性光線硬化型組成物と共に、各種公知の顔料を含有したものであるところ、上記ア及びイからして、その顔料として、インクジェットインクが含有する顔料として周知であり、耐光性が求められるインクの顔料として周知であるバナジウム酸ビスマスを用いることは、当業者が周知事項1ないし3に基づいて容易に想到することができた程度のことである。 したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知事項1ないし3に基づいて容易になし得た程度のことである。 (3)本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知のバナジウム酸ビスマスの奏する効果及び周知事項1ないし3から当業者が予測できた程度のものである。 (4)したがって、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。 本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6 小括 本願補正発明は、上記5のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成23年7月28日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4にそれぞれ記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年7月28日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定としたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-14 |
結審通知日 | 2012-06-19 |
審決日 | 2012-07-02 |
出願番号 | 特願2006-262830(P2006-262830) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井口 猶二 |
特許庁審判長 |
小牧 修 |
特許庁審判官 |
清水 康司 立澤 正樹 |
発明の名称 | 屋外用着色板およびその製造方法 |
代理人 | 加藤 敬子 |
代理人 | 藤森 洋介 |
代理人 | 河村 洌 |
代理人 | 三嶋 眞弘 |