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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1261961
審判番号 不服2009-25181  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-20 
確定日 2012-08-13 
事件の表示 特願2008-233255「感圧性接着シート」拒絶査定不服審判事件〔平成21年1月15日出願公開、特開2009-7581〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成10年1月16日に出願した特願平10-7051号(以下,「原出願」という。)の一部を平成20年9月11日に新たな出願としたものであって,平成21年7月7日付けの拒絶理由通知に対して,同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年10月6日付けで拒絶査定がされた。これに対して,同年12月20日に審判請求がされ,同日付けで手続補正書が提出され,平成23年9月21日付けの審尋に対して,同年11月11日に回答書が提出され,平成24年3月5日付けで,平成21年12月20日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶理由が通知され,これに対して,同年5月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の特許請求の範囲
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,平成24年5月8日付けの手続補正によって補正された,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
厚さが25?125μmのポリエステルフィルムの表面にシリコーン処理を施した、中心線平均粗さRaが0.2μm以下、最大高さRmaxが0.6μm以下である表面平滑性の良好な離型処理フィルムと、この離型処理フィルム上に直接形成された、アルキル基の炭素数が2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体と、光重合開始剤とを含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を有し、この層のヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上であることを特徴とするディスプレイ用感圧性接着シート。」

第3 当審拒絶理由の概要
平成24年3月5日付けで当審から通知した拒絶理由の概要は,以下の2つの理由を含むものである。
[理由1]本願は,下記の点で特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
そして,その「下記の点」とは,「特許請求の範囲の請求項1には,「感圧性接着剤の層を有し、この層のヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」と記載されているが,「この層」とは「感圧性接着剤の層」を意味するのか否かが明確でなく,さらに,「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」ことで特定される「この層」がどのようなものか明確でない。」というものである。

[理由3]本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,その出願前国内において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
刊行物1:特開平05-271624号公報
刊行物2:特開平08-234665号公報
刊行物3:特開平05-175332号公報
刊行物4:特開昭61-245397号公報
刊行物5:特開平02-284980号公報

第4 当審の判断
1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1)判断
特許請求の範囲の請求項1には,「感圧性接着剤の層を有し、この層のヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」と記載されている。
請求項1の記載では,「この層」とは「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」であると解するのが文言上自然であり,そうすると,離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」の「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」ことになる。
しかしながら,発明の詳細な説明をみると,「ヘイズ値」および「全光線透過率」は,「感圧性接着シートをスライドガラスに貼り合わせ、剥離ライナを引き剥がしたのち、濁度計により測定した」(【0047】参照)ものであり,「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」わけではない。
また,離型処理フィルムを剥離すれば,引きはがし時の引っ張り力が感圧性接着剤層の表面に働き,表面の状態は変化するから,剥離された後の「感圧接着剤の層」の状態と剥離される前の「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」の状態とでは,感圧性接着剤の層の表面の平滑性の程度が異なることは明らかである。そして,発明の詳細な説明に,「離型処理フィルムは、・・・表面平滑性が悪いと、光重合物のヘイズ値が上昇し、光の散乱により透明性が低下する。」(【0027】参照)と記載されるように,感圧接着剤層の表面の状態がヘイズ値に影響することは明らかであるから,感圧性接着シートをスライドガラスに貼り合わせ,離型処理フィルムを引き剥がした感圧性接着剤の層が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上」であったとしても,「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上」になるとは必ずしもいえない。
さらに,請求項1の「この層」が「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」であり,「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」のが「離型処理フィルム」から剥離された「感圧性接着剤の層」であると解すると,請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」を発明特定事項とする「感圧性接着シート」の発明であるにもかかわらず,その状態での「感圧性接着剤の層」の物性で規定するのではなく,剥離後の状態である「感圧性接着剤の層」の物性で「感圧性接着シート」を規定することになる。
そして,「感圧性接着シート」の「離型処理フィルム」の剥離のやり方等によって,剥離後の「感圧性接着剤の層」のヘイズ値は変化するわけであるから,「離型処理フィルム」から剥離後の「感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」ことを規定しても,剥離前の「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」の物性を明確に規定することができない。
してみると,請求項1の「この層」とは「感圧性接着剤の層」を意味するのか否かが明確でなく,さらに,「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」ことで特定される「この層」がどのようなものか明確であるとはいえない。

(2)請求人の主張の検討
ア 請求人の主張
請求人は,平成24年5月8日付けの意見書において,以下の主張をしている。
「審判長殿がご指摘された「理由1」(特許法第36条第6項第2号の拒絶理由)は、本願の請求項1において、「この層」が一体何を指しているのか明確でない、との拒絶理由であります。
本願の請求項1において、「この層」とは、文字どおり(文言上)、感圧性接着剤の層を指しており、またこの感圧性接着剤の層は、文字どおり(文言上)、離型処理フィルムに直接形成されたものであることを指しています。
・・・
審判長殿は、第二に、測定を離型処理フィルムから剥離した感圧性接着剤の層について行っており、「離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層」について測定していないので、測定に矛盾がある旨、ご指摘されています。
しかし、本願発明では、感圧性接着剤の層が離型処理フィルム上に直接形成されたものであることがひとつの特徴であり、請求項1ではこの構成に基づいて感圧性接着剤の層のヘイズ値や全光線透過率に好結果が得られることを明確にしたものであり、一方、このように離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層のヘイズ値や全光線透過率を測定する際には、本願明細書に記載のとおり、離型処理フィルムを引き剥がしたのち測定するものであり、この点でなんら矛盾のないものであります。
審判長殿は、第三に、スライドガラスの貼り合わせ方、剥離のやり方によってヘイズ値などの値が変動するものと認められる旨、ご指摘されています。
しかるに、ヘイズ値などの測定に際し、貼り合わせ方や剥離のやり方などの要因によりその値が変動することのないように十分な注意をもって測定することは至極当然のことであり、このようなことをあえて規定しなくても当業者であれば十分に認識理解できるはずであり、この点でなんら問題のないものと考えます。」

イ 検討
上記請求人の主張は,要約すると,請求項1の「この層」とは,「離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層」のことであり,このように離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層のヘイズ値や全光線透過率を測定する際には,本願明細書に記載のとおり,離型処理フィルムを引き剥がしたのち測定するものであり,この点でなんら矛盾のないとの主張と認められる。
しかしながら,上記(1)で指摘したとおり,本願請求項1の「離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」のではなく,「離型フィルム」から剥離されて測定された「感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」となるのであるから,請求項1の「この層」が「離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層」であることと,「この層のヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」こととは,矛盾するといわざるを得ない。
仮に,「この層」が「離型処理フィルム上に直接形成された感圧性接着剤の層」であり,「離型フィルム」から剥離されて測定された「感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」という意味に解するとしても,上記(1)で指摘したとおり,請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」を発明特定事項とする「感圧性接着シート」の発明であるから,「離型処理フィルム」から剥離後の「感圧性接着剤の層」が「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」ことを規定しても,剥離前の「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」の物性を明確に規定することができない。
また,請求人は,「ヘイズ値などの測定に際し、貼り合わせ方や剥離のやり方などの要因によりその値が変動することのないように十分な注意をもって測定することは至極当然のことであり、このようなことをあえて規定しなくても当業者であれば十分に認識理解できるはずであり、この点でなんら問題のない」とも主張しているが,剥離のやり方でヘイズ値が変化する以上,離型フィルムを剥離するやり方が規定されなければ,ヘイズ値を変動しないように測定する基準そのものが不明であって,「剥離のやり方などの要因によりその値が変動することのないように十分な注意をもって測定する」としても,離型フィルム剥離時の測定基準が不明の剥離後の「感圧接着剤の層」のヘイズ値をもって,剥離前の「感圧性接着剤の層」の状態を一義的に定めることができないものと認められる。
よって,請求人の主張はいずれも採用することができない。

(3)小括
以上のとおり,本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は明確であるとは認められないから,特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,本願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

2 理由3(特許法第29条第2項)について
(1)本願発明
本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記「第2」に示されたとおりのものである。
そして,理由1で述べたように,請求項1に記載された「この層」が何か明確ではないので,発明の詳細な説明の記載に基づき,「この層」が「離型処理フィルム上に直接形成された」「感圧性接着剤の層」を離型処理フィルムから剥離した層とし,その層を何らかの手段により常に値が一定になるように測定して,「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上である」ものと解した発明,すなわち,
「厚さが25?125μmのポリエステルフィルムの表面にシリコーン処理を施した、中心線平均粗さRaが0.2μm以下、最大高さRmaxが0.6μm以下である表面平滑性の良好な離型処理フィルムと、この離型処理フィルム上に直接形成された、アルキル基の炭素数が2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体と、光重合開始剤とを含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を有し、離型処理フィルムから剥離されて測定された感圧接着剤の層のヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上であることを特徴とするディスプレイ用感圧性接着シート。」の発明について,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)として認定した。

(2)刊行物の記載事項
本願の原出願の出願日前に頒布された刊行物1?5には,以下の事項が記載されている。

ア 刊行物1の記載事項
(1-a)「【請求項1】 つぎのa?d四成分;
a)アルキル基の炭素数が平均2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体100重量部
b)ラジカル連鎖禁止剤0.02?20重量部
c)交叉結合剤としての多官能(メタ)アクリレ?ト0.02?5重量部
d)光重合開始剤0.01?5重量部
を含む組成物の光重合物からなり、溶剤不溶分が50重量%以上で、未反応モノマ?の残存量が10,000ppm 未満であることを特徴とする耐熱性にすぐれた感圧性接着剤。
【請求項2】 基材の片面または両面に、請求項1に記載の耐熱性にすぐれた感圧性接着剤の層が設けられてなる接着シ?ト類。」
(1-b)「【0002】
【従来の技術】アクリル系の感圧性接着剤は、粘着力,凝集力および耐老化性などにすぐれるものとして、広く用いられている。特に、最近では、耐熱用途として、電子部品の組み立て時などのハンダ付け工程において、部品の貼り合わせ固定用テ?プや、マスキングテ?プなどとしての需要が高まつている。」
(1-c)「【0012】本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、未反応モノマーの残存や低分子量物の生成による問題が回避された、100℃以上の耐熱用途を有する、特にハンダ付け工程におけるような260℃までの非常に高温下での耐熱性にすぐれ、そのうえ長期高温安定性も良好である感圧性接着剤とその接着シ-ト類とを提供することを目的としている。」
(1-d)「【0040】本発明の接着シ?ト類は、上記の用途目的などに対し、上述の方法で形成される耐熱性にすぐれたアクリル系の感圧性接着剤を、基材の片面または両面に設けて、シ?ト状やテ?プ状の形態としたものである。ここで、基材としては、不織布や紙などの多孔質材料や、各種のプラスチツクフイルムが用いられ、耐熱用途に対しては、特にポリイミドフイルム、ポリエステルフイルム、ポリテトラフルオロエチレンフイルム、ポリエ?テルエ?テルケトンフイルム、ポリエ?テルサルフオンフイルム、ポリメチルペンテンフイルムなどの耐熱性フイルムが好ましく用いられる。これら基材の厚さは、通常25?125μm程度であり、またこの基材上に設けられるアクリル系の感圧性接着剤の層の厚さは、通常10?100μm程度である。」
(1-e)「【0041】本発明の接着シ?ト類の製造は、たとえば、剥離ライナ?上に上述の方法によつて所望厚みのアクリル系の感圧性接着剤の層を形成したのち、これを基材の片面または両面に転写することによつて行うことができる。また、剥離ライナ?を使用せず、基材上に直接光重合用の組成物を塗布または含浸させ、これに紫外線を照射して、溶剤不溶分が50重量%以上の光重合物を形成したのち、加熱乾燥により未反応モノマ?を10,000ppm 未満とする方法にて製造してもよい。基材の種類などに応じて適宜の手法を採用することができる。」
(1-f)「【0044】実施例1
イソノニルアクリレ?ト60部、ブチルアクリレ?ト28部、アクリル酸12部、光重合開始剤としての2・2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン(チバガイギ?コ?ポレ?シヨン製の商品名イルガキユア651)0.1部を用いて、プレミツクスを調製した。これを窒素雰囲気中で紫外線に暴露することにより、部分的に重合して粘度が約4,500センチポイズのコ?テイング可能なシロツプを得た。
【0045】この部分重合したシロツプ100部に、ラジカル連鎖禁止剤としてのテトラビスメチレン-3-(3´-5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフエニル)プロピオネ?トメタン4部と、交叉結合剤としてのトリメチロ?ルプロパントリアクリレ?ト0.2部とを添加混合し、この組成物を厚さが25μmのポリイミドフイルム上にコ?テイングし、窒素ガス雰囲気下で光強度5mw/cm^(2) の高圧水銀ランプより900mj/cm^(2 )の紫外線を照射して光重合させることにより、厚さが50μmである光重合物の層を形成し、その後熱風循環乾燥機中130℃で5分間加熱乾燥して、接着シ?トを作製した。」

イ 刊行物2の記載事項
(2-a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、透明性に優れた粘着ラベルに関し、特にサーマルプリンタ、ワードプロセッサ、サーマルプロッタ等により粘着ラベルに熱転写方式で印字記録したのち、被着体に貼着するのに適した、熱転写シートと一体となった一体型粘着ラベル、及びその中間製品として、あるいは貼着するオーバーコート用支持体としても使用できる透明粘着ラベルに関する。その印字記録したラベルの具体的な用途としては、窓ガラスに貼る表示物、自動車に貼るステッカー、横断幕に追加表示するラベル等が挙げられる。」
(2-b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、粘着層の厚みは経済性を考慮すれば薄い方が良いのは当然であるが、粘着層の厚みが20μm以下である場合、離型紙の平滑性が高ければ特に問題ないが、低い場合その凹凸にあわせて粘着層が固定化されるため、剥がした時に粘着層表面がマット化されてしまう。その結果、透明粘着ラベルを離型紙から剥がして次の種々の被着体に貼着する場合、透明性を重視する利用方法、例えば、窓ガラスに貼る、ポスター等の上に別情報を表示する場合などは、透明粘着ラベルの粘着層面がマット化されることにより曇りが生じ(ヘイズ値が大きくなる)、その結果、視認性が低下する。」
(2-c)「【0013】粘着層3としては、従来公知の透明な粘着剤が使用できる。これらの粘着剤には、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。また、皮膜強度を高めるために、イソシアネート等を用いた硬化型の粘着剤を用いてもよい。また、粘着層の形成は、従来公知のグラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート等の塗布手段により行う。特に、透明粘着ラベル貼着時に良好な透明性を得るためには粘着層のヘイズ値が低い程よい。この為、粘着層のヘイズとして、透明基材と粘着層との積層状態でのヘイズ値から透明基材のヘイズ値を差し引いた値で定義すれば、粘着層のヘイズ値を10以下とするとことが好ましい。なお、透明基材と粘着層との積層状態とは離型紙を剥離した後の状態であり、下記するように、離型紙離型面の凹凸が大きければ、粘着層表面の凹凸も大きくなりヘイズ値も大きくなる。」
(2-d)「【0014】剥離紙4としては、その離型面のベック平滑度が10000秒以上のものであれば、樹脂フィルム、紙、含浸紙等の複合体等、基材の材質や透明性は問わないが、樹脂フィルムは平滑度を得やすい点で好ましい。ベック平滑度を10000秒以上とすることで、透明性の点から粘着層を薄くしても適度な離型紙と粘着層との接着力の維持と、離型紙を剥離した後の粘着層表面を平滑にできるのでラベルを被着体に貼着したときの実用的な接着力を実現できる。また、離型紙の離型面は、ポリエチレンやシリコーン樹脂等を形成する公知の離型処理が施されたもので良。ポリエチレンは押し出しラミネート方式により表面を覆うことができ。また、シリコーン処理は溶液に溶解又は分散したシリコーン樹脂を必要に応じてバインダーと共に、塗工法により塗工形成することが一般的である。離型紙の基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムが挙げられる。厚みは、通常25?250μm程度である。また、樹脂フィルム以外に、例えば上質紙等の紙にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂を溶融押出塗工法等により塗工したものに、さらにシリコーン樹脂等で離型処理したもの等でも、所望の平滑度を得ることができる。なお、剥離紙は透明なものでも構わないが、白色或いは有色のものを用いれば、熱転写リボン一体型透明粘着ラベルとした時に、印字後の印字品質を事前チェックしたり、離型紙が判別し易いので剥がす時の簡便さ等の点でも適している。なお、離型紙の積層方法は、粘着層を透明基材又は地汚れ防止処理を施した透明基材に塗布形成した後にラミネートする方法以外にも、離型紙の離型面に粘着層を塗布形成した後に透明基材をラミネートする方法でも良い。後者の場合、離型紙が離型処理されているため、離型紙を剥離するとは粘着層は透明基材側に移行する。」
(2-e)「【0028】《実施例1》厚さ50μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルムを透明基材とし、その片面に下記の組成の粘着層塗液をグラビアコータで塗布し厚さ10μmの粘着層を得た。さらにその上に、片面をシリコーンで離型処理した白色の厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせ、透明な本発明の透明粘着ラベルを得た。」

ウ 刊行物3の記載事項
(3-a)「【請求項1】 粘着剤層を介して離型性基材と樹脂フィルムとを積層してなるシートであり、該離型性基材の露出する面の中心線平均粗さ(Ra)が0.05?10μmであることを特徴とする半導体ウエハ貼着用粘着シート。」

エ 刊行物4の記載事項
(4-a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は粘着シート、粘着テープ、接着シート、接着テープ若しくは合成樹脂フィルムキャスティング成膜用などに使用する剥離紙及びその製造方法に関するものである。」(第1頁右下欄第9行?13行)
(4-b)「更に良好な光沢性及び平滑性を有する剥離紙を得るためには剥離層表面の20度鏡面光沢度が10%以上、第5図の如き表面粗さの最大高さが0.8μ(基準長さ0.25mm)以下でなければならない、望ましくは20度鏡面光沢度15%以上、最大高さ0.5μ(基準長さ0.25mm)以下の剥離剤層表面が良い。一方、20度鏡面光沢度が10%未満、最大高さが0.8μ(基準長さ0.25mm)を超えると良好な光沢性及び平滑性を有する剥離層表面が得られない。このため粘着フィルムシートの粘着剤面の光沢性及び平滑性が低下して了う。」(第4頁左下欄第10?末行)
(4-c)「実施例1
ヨコ方向の浸水伸度0.9%、坪量100g/m^(2)の緊張乾燥紙の片面にクレー:蛋白質系接着剤:合成樹脂ラテックス(配合比100:5:15)から成る目止剤塗工液を固形分換算で30g/m^(2)塗工し、100?110℃に加熱した鏡面光沢を有する面に密着させながら乾燥させた。更に上記塗工層に付加反応型シリコーン(信越化学社製、商品名KS772)を塗布し、熱硬化させ剥離剤層を形成させて20度鏡面光沢度28%、最大高さ0.3μ(基準長さ0.25mm)を有する剥離紙を得た。
更にこの剥離紙を用いて粘着シートを作成した処、表に示す如く粘着シートの粘着剤面の光沢及び平滑性は非常に良好であった。また吸湿寸法安定性を示す耐カール性も良好であり、耐熱性も優れていた。」(第5頁右上欄第7行?左下欄第2行)

オ 刊行物5の記載事項
(5-a)「実施例1
温度計、撹拌器、窒素導入管および還流冷却管を備えた反応器内に、酢酸エチル467部、アゾビスイソブチロニトリル0.4部、アクリル酸n-ブチル190部およびアクリル酸10部を仕込み、60℃で溶液重合を行って、アクリル系共重合体Aの濃度が30重量%の有機溶剤溶液Aを得た。上記共重合体Aの重量平均分子量は110万であった。
一方、上記同様の反応器内に、酢酸エチル467部、アゾビスイソブチロニトリル0.4部、アクリル酸イソノニル190部およびアクリル酸10部を仕込み、60℃で溶液重合を行って、アクリル系共重合体Bの濃度が30重量%の有機溶剤溶液Bを得た。上記共重合体Bの重量平均分子量は120万であった。
・・・
この組成物の特性を評価するために、25μm厚のポリエステルフィルム上に乾燥厚みが50μmとなるように上記組成物を塗布したのち、150℃で5分間乾燥して、感圧性接着テープを作製した。」(第5頁左上欄第6行?右上欄第12行)
(5-b)「比較例1
実施例1で得た有機溶剤溶液Aに、アクリル系共重合体Al00部に対して0.02部となる割合のエポキシ系架橋剤を加えて、感圧性接着剤組成物とした。この組成物を用いて実施例1と同様にして感圧性接着テープを作製した。」(第5頁左下欄第11?16行)
(5-c)「比較例2
実施例1で得た有機溶剤溶液Bに、アクリル系共重合体8100部に対して0.02部となる割合のエポキシ系架橋剤を加えて、感圧性接着剤組成物とした。この組成物を用いて実施例1と同様にして感圧性接着テープを作製した。」(第5頁左下欄第17行?右上欄第2行)
(5-d)「

」(第8頁右上欄)

(3)刊行物1に記載された発明(引用発明)
刊行物1には,実施例1として,「イソノニルアクリレ?ト60部、ブチルアクリレ?ト28部、アクリル酸12部、光重合開始剤としての2・2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン・・・0.1部を用いて、プレミツクスを調製した。これを窒素雰囲気中で紫外線に暴露することにより、部分的に重合して・・・コ?テイング可能なシロツプを得た。」,「この部分重合したシロツプ100部に、ラジカル連鎖禁止剤としてのテトラビスメチレン-3-(3´-5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフエニル)プロピオネ?トメタン4部と、交叉結合剤としてのトリメチロ?ルプロパントリアクリレ?ト0.2部とを添加混合し、この組成物を厚さが25μmのポリイミドフイルム上にコ?テイングし、・・・紫外線を照射して光重合させることにより、厚さが50μmである光重合物の層を形成し、その後・・・加熱乾燥して、接着シ?トを作製した。」と記載されており(摘記1-f参照),また、この実施例1は,刊行物1の請求項1を引用する請求項2の「耐熱性にすぐれた感圧性接着剤の層が設けられてなる接着シ?ト類」の実施態様として記載され,(摘記1-a参照),「基材としては、・・・ポリイミドフィルム・・・が好ましく用いられる」(摘記1-d参照)と記載されるように,実施例1の「ポリイミドフィルム」は「基材」である。

そうすると,刊行物1には,
「イソノニルアクリレ?ト60部、ブチルアクリレ?ト28部、アクリル酸12部、光重合開始剤としての2・2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン0.1部を用いて、プレミツクスを調製し、紫外線に暴露することにより、部分重合してコ?テイング可能なシロツプを得、そして、この部分重合したシロツプ100部に、ラジカル連鎖禁止剤としてのテトラビスメチレン-3-(3´-5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフエニル)プロピオネ?トメタン4部と、交叉結合剤としてのトリメチロ?ルプロパントリアクリレ?ト0.2部とを添加混合して、コ?テイング組成物を得、このコ?テイング組成物を、基材である、厚さが25μmのポリイミドフイルム上にコ?テイングし、紫外線を照射して光重合させることにより、厚さが50μmの光重合物の層(感圧性接着剤の層)を形成してなる、接着シ?ト」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「イソノニルアクリレ?ト」,「ブチルアクリレ?ト」は,本願発明の「アルキル基の炭素数が2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル」に相当する。
引用発明の「アクリル酸」は,本願発明の「これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体」に相当する。
引用発明の「光重合開始剤としての2・2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン」は,本願発明の「光重合開始剤」に相当する。
そうすると,引用発明の「イソノニルアクリレ?ト60部、ブチルアクリレ?ト28部、アクリル酸12部、光重合開始剤としての2・2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン0.1部を用いて、プレミツクスを調製し、紫外線に暴露することにより、部分重合してコ?テイング可能なシロツプ」は,本願発明の「アルキル基の炭素数が2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体と、光重合開始剤とを含む組成物」に相当する。
引用発明の「この部分重合したシロツプ100部に、ラジカル連鎖禁止剤としてのテトラビスメチレン-3-(3´-5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフエニル)プロピオネ?トメタン4部と、交叉結合剤としてのトリメチロ?ルプロパントリアクリレ?ト0.2部とを添加混合して、コ?テイング組成物」を得、このコ?テイング組成物を光重合させることにより「光重合物の層(感圧性接着剤の層)」を形成することは,本願発明の「単量体と、光重合開始剤とを含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を有」することに相当する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,
「アルキル基の炭素数が2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体と、光重合開始剤とを含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を有する、感圧性接着シート。」である点で一致し,以下の点で相違する。
(i)本願発明では,「厚さが25?125μmのポリエステルフィルムの表面にシリコーン処理を施した、中心線平均粗さRaが0.2μm以下、最大高さRmaxが0.6μm以下である表面平滑性の良好な離型処理フィルム上に直接形成された」感圧性接着剤の層を有するのに対して、引用発明では、単に「基材上に」感圧性接着剤の層を有する点(以下,「相違点(i)」という。)
(ii)離型処理フィルムから剥離されて測定された感圧性接着剤の層が,本願発明では,「ヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上」であるのに対して,引用発明では,ヘイズ値,全光線透過率が明確でない点(以下,「相違点(ii)」という。)
(iii)感圧性接着シートが,本願発明では,「ディスプレイ用」であるのに対して,引用発明では,「ディスプレイ用」に限定されていない点(以下,「相違点(iii)という。)

イ 相違点の検討
(ア)相違点(i)について
刊行物1には,「本発明の接着シ?ト類の製造は、たとえば、剥離ライナ?上に上述の方法によつて所望厚みのアクリル系の感圧性接着剤の層を形成したのち、これを基材の片面または両面に転写することによつて行うことができる。」と記載されており(摘記1-e参照),この記載に基づいて,引用発明において,基材上に感圧性接着剤を形成する前に,剥離ライナ?上に感圧性接着剤の層を直接形成することも,当業者の設計事項の範囲といえる。
一方,刊行物2には,「粘着層の厚みが20μm以下である場合、離型紙の平滑性が高ければ特に問題ないが、低い場合その凹凸にあわせて粘着層が固定化されるため、剥がした時に粘着層表面がマット化されてしまう。その結果、透明粘着ラベルを離型紙から剥がして次の種々の被着体に貼着する場合、透明性を重視する利用方法、例えば、窓ガラスに貼る、ポスター等の上に別情報を表示する場合などは、透明粘着ラベルの粘着層面がマット化されることにより曇りが生じ(ヘイズ値が大きくなる)、その結果、視認性が低下する。」(摘記2-b参照),「剥離紙4としては、その離型面のベック平滑度が10000秒以上のものであれば、・・・基材の材質や透明性は問わないが、樹脂フィルムは平滑度を得やすい点で好ましい。ベック平滑度を10000秒以上とすることで、透明性の点から粘着層を薄くしても適度な離型紙と粘着層との接着力の維持と、離型紙を剥離した後の粘着層表面を平滑にできるのでラベルを被着体に貼着したときの実用的な接着力を実現できる。」(摘記2-d参照)と記載されており,接着シートを透明性が必要な用途に用いる場合には,そのヘイズ値を下げることが必要であるとの課題と,その解決手段として,粘着層を直接形成する剥離紙の平滑性を高めることが示唆されているといえる。さらに,刊行物2には,「離型紙の離型面は、ポリエチレンやシリコーン樹脂等を形成する公知の離型処理が施されたもので良。・・・離型紙の基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムが挙げられる。厚みは、通常25?250μm程度である。」(2-d参照)と記載され,実施例でも,「片面をシリコーンで離型処理した白色の厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム」(摘記2-e参照)が例示されているので,「厚み25?250μmのポリエチレンテレフタレートにシリコーン処理が施された離型紙」も記載されているといえる。
そうすると,引用発明において,剥離ライナ-(離型処理フィルム)に感圧性接着剤の層を直接形成するに際し,接着シートを透明性を必要とする用途に用いるためには,剥離ライナ-の平滑性を高めることが必要であり,「厚み25?250μmのポリエチレンテレフタレート(ポリエステルである)にシリコーン処理が施された離型紙」で平滑度の高いものを用いることにより,透明性の高い接着シートを得ることは刊行物2の記載から当業者が容易に想到することである。
そして,刊行物2において,剥離紙(離型処理フィルム)の平滑度は,「ベック平滑度10000秒以上である」(摘記2-d参照)と規定されているが,粘着材を形成する離型処理フィルムの平滑度として,「中心線平均粗さ(Ra)」で規定するもの(摘記3-a参照)が刊行物3に記載され,表面粗さの「最大高さ」で規定するもの(摘記4-a?4-c参照)が刊行物4に記載され,さらに,最大高さ0.3μ(基準長さ0.25mm)(結果的に中心線平均粗さも0.2μm以下になっていると推認される)で規定される平滑度を有する剥離紙も刊行物4に記載されて(摘記4-c参照)おり,刊行物3,4の記載から,離型処理フィルムの平滑度は,必ずしも「ベック平滑度」で規定する必要はなく,「中心線平均粗さ(Ra)」や表面粗さの「最大高さ」で規定し得ることが当業者に理解できる。
そうすると,透明性が必要な用途に対応するヘイズ値を得るために,引用発明において,剥離ライナーに感圧性接着剤の層を直接形成するに際して,剥離ライナーの平滑度をベック平滑度に変えて,中心線平均粗さ及び最大粗さで規定し,必要な透明性,すなわち,必要なヘイズ値を得られる平滑度を実験的に決定することは当業者が適宜なし得る設計事項であって,かつ,離型処理フィルムの平滑度として中心線平均粗さ0.2μm以下,最大高さ0.6μm以下という数値範囲は刊行物4の記載からみて特殊なものとは認められない。
したがって,離型処理フィルムの平滑度として,中心線平均粗さ0.2μm以下,最大高さ0.6μm以下という数値範囲の設定は,引用発明の「アルキル基の炭素数が2?14個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル70?100重量%と、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体30?0重量%とからなる単量体と、光重合開始剤とを含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層」の離型処理フィルム剥離後のヘイズ値を1%以下とするために,当業者が当然に試みる設計事項であって,このことは,当業者が容易になし得たことと認められる。
よって,相違点(i)は当業者が容易になし得たことと認められる。

(イ)相違点(ii)について
刊行物2には,上記(ア)で述べたように,接着シートを透明性が必要な用途に用いる場合には,ヘイズ値を下げる必要のあることが示唆されているところ,「透明粘着ラベル貼着時に良好な透明性を得るためには粘着層のヘイズ値が低い程よい。」と記載され(摘記2-c参照),できるだけ低いヘイズ値の粘着層(感圧性接着剤の層)を用いることが好ましいことが示唆されているといえ,この記載に基づいて,透明性が必要とされる用途に対応する感圧性接着剤の層のヘイズ値や全光線透過率として,ヘイズ値が1.0%以下,全光線透過率90%以上という数値限定をすることは当業者が当然に行う設計事項である。
そして,刊行物5には,「アクリル酸ブチル190重量部およびアクリル酸10部」を溶液重合した共重合体の感圧性接着テープのヘイズ値が1.0%であること,「アクリル酸イソノニル190重量部およびアクリル酸10重量部」を溶液重合した共重合体の感圧性接着テープのヘイズ値が0.3%であること(摘記5-a?5-d参照)が記載されていることから,引用発明における「イソノニルアクリレ?ト」,「ブチルアクリレ?ト」と,モノエチレン性不飽和単量体である「アクリル酸」を含む組成物は,重合した際に得られる「感圧性接着剤の層」のヘイズ値が1.0%以下になり得る組成物と推認できる。
刊行物5に記載される感圧性接着剤の層は,単にポリエステルフィルム上に形成されたもので,離型処理フィルム上に直接形成し,それから剥離してヘイズ値を測定したものではないが,上記(ア)で述べたように,その感圧性接着剤層の組成物を塗布する剥離ライナー(離型処理フィルム)の平滑度を高めれば,ヘイズ値を小さくできることが知られているのであるから,離型処理フィルムの平滑度を適切に設定し,剥離を適切に行えば,離型処理フィルム上に形成されて剥離された場合でも,ヘイズ値が1.0%以下となっている感圧性接着剤の層は,ヘイズ値1.0%以下を維持し得ることは当業者が十分に予測し得るものと認められる。
また,全光線透過率は,感圧性接着剤の厚さで値が変動するので,引用発明の感圧性接着剤層の厚さを調整して,透明性に必要な全光線透過率である90%以上を得ることは当業者にとって格別の困難性が認められない。
そうすると,引用発明における感圧性接着剤の層は,ヘイズ値が1.0%以下になり得る感圧性接着剤の組成物であると推認できるところ,上記(ア)で検討したように,平滑度の高い離型処理フィルムを用いることによって離型処理フィルムから剥離後も所望する低いヘイズ値を得ることができ,また、厚みを調整することで必要な全光線透過率を得ることができるのであるから,これらを調整することによって,引用発明において,離型処理フィルムである剥離ライナーから剥離して測定された感圧性接着剤の層のヘイズ値が1%以下,全光線透過率が90%以上となるようにすることは,当業者が容易になし得たことと認められる。
よって,相違点(ii)は当業者が容易になし得たことと認められる。

(ウ)相違点(iii)について
刊行物1には,「本発明は、・・・100℃以上の耐熱用途を有する・・・感圧性接着剤とそのシート類とを提供する」と記載され(摘記1-c参照),耐熱用途を主な用途として開発されたものであるが,「アクリル系の感圧性接着剤は、粘着力,凝集力および耐老化性などにすぐれるものとして、広く用いられている。」とも記載されており(摘記1-b参照),「耐熱用途」以外の用途にも広く用いることも示唆されている。
そして,刊行物2には,このようなアクリル系の感圧性接着剤である「アクリル系粘着剤」を「透明な粘着剤」として用いる(摘記2-c参照)ことが記載され,さらに「透明性に優れた粘着ラベル」の具体的な用途として,「窓ガラスに貼る表示物」が記載され(摘記2-a参照),ディスプレイは一種の表示デバイスであるから,ディスプレイへの透明な粘着剤の層としても利用可能であることは当業者にとって自明の事項である。
そうすると,引用発明の接着シートにおいて,感圧性接着剤の層は,上記(イ)で述べたように,そもそも,ヘイズ値が1.0%以下となり得る感圧性接着剤の組成物であると推認できるところ,平滑度の高い剥離ライナ-(離型処理フィルム)を用いることによって,剥離した後の感圧性接着剤の層のヘイズ値が1%以下,全光線透過率が90%以上とすることもできるのであるから,このような透明性が必要とされるディスプレイへの感圧性接着剤の層として利用することは,当業者が当業者が容易に想到し得たことと認められる。
よって,相違点(iii)は当業者が容易になし得たことと認められる。

ウ 効果について
本願明細書に「透明性ひいては視認性などの大幅な改善をはかれる感圧性接着シートを得ることができる。」,「ヘイズ値が1%以下と小さく、全光線透過率が90%以上と高い感圧性接着剤の層を形成することができ、これにより透明性ひいては視認性などの大幅な改善をはかることができる。」と記載されている(【0010】参照)ので,本願発明の効果は,「ヘイズ値が1%以下と小さく、全光線透過率が90%以上と高い感圧性接着剤の層を形成することができ」ることにあるといえる。
しかしながら,上記イで述べたように,離型処理フィルムから剥離させた感圧性接着剤の層のヘイズ値を1%以下,全光線透過率を90%以上とすることは当業者が容易になし得るのであるから,上記効果も当業者が当然に予測し得たことと認められる。

(5)請求人の主張の検討
ア 請求人の主張
請求人は,平成24年5月8日付けの意見書において,以下の主張をしている。
(a)「また、刊行物2には、本願発明とは異なる粘着剤層としてアクリル系粘着剤の有機溶剤溶液を塗布乾燥して厚さが20μm以下(実施例で10μm)の薄手の粘着剤層を形成するにあたり、これに貼り合わせる離型紙としてベック平滑度を10000秒以上とすることで粘着剤層の平滑性を高めることができるとの示唆がなされていますが、上記の平滑性とは、段落「0013」で粘着剤層のヘイズ値を10以下とできることを意味しており、実施例でもヘイズ値が3?7程度のものしか得られていないのです。
このことからも、刊行物2に記載の離型紙は、本願発明のもの(前記特定の材質および特定の表面粗さを有する表面平滑性の良好な離型処理フィルム)とは比べものにならないほど表面平滑性の低いものであり、刊行物2ではこの程度の離型紙を用い前記アクリル系の有機溶剤溶液の塗布形成により、本願発明とははるかに劣る、高ヘイズ値の粘着剤層を形成できるとの技術的示唆がなされているだけなのです。
本願発明は、刊行物2に開示も示唆もない、アクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を形成するにあたり、刊行物2に示唆されない表面平滑性にすぐれた特定の離型処理フィルムを使用し、この上に上記の層を直接形成することにより、厚さが10?100μmという範囲においてヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上という、ディスプレイ用として視認性に格段にすぐれた感圧性接着シートを得ることに成功したものであり、このようなことを上記の刊行物2と刊行物1とから当業者が容易に思い付くはずはないのです。」
(b)「しかし、刊行物3の中心線平均粗さ(Ra)とは、離型性基材/粘着剤層/樹脂フィルム(基材)の3層構成からなる半導体ウエハ貼着用粘着シートを得るにあたり、上記離型性基材の露出する面を上記中心線平均粗さ(Ra)に設定することで、段落「0010」に記載のように、樹脂フィルム(基材)とのブロッキングを防いだり、樹脂フィルムに凹凸跡が転写されないようにしたものであります。
つまり、刊行物3は、本願発明のようにアクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を離型処理フィルム上に直接形成する際にこのフィルムの表面平滑度を高めて上記感圧性接着剤の層の平滑度を高め、そのヘイズ値および全光線透過率に好結果を得ることについては、なんの開示も示唆もないのです。
・・・
しかるに、刊行物4の実施例には、上記離型紙を用いて粘着シートを作成するとの記載があるだけで、粘着剤層を本願発明のようなアクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物で構成させるとの記載はなく、ましてやこの光重合物からなる感圧性接着剤の層を上記離型紙上に直接形成するとの技術的示唆は全くないのです。
しかも、本願発明では、離型処理フィルムとして、特定の材質からなるもの、つまり、厚さが25?125μmのポリエステルフィルムの表面にシリコーン処理を施したものを使用し、このものの表面平滑度として、中心線平均粗さRaを0.2μm以下、最大高さRmaxを0.6μm以下に規制したものでありますが、刊行物4にはヨコ方向の浸水伸度や坪量が規定された緊張乾燥紙を用いてその片面に特定の目止剤を塗布乾燥し、さらにその上に付加反応型シリコーンを塗布し熱硬化させるという、上記本願発明の材質のものとは全く異なるものを離型紙として使用することが開示されているだけなのです。
さらに重要なことは、本願発明は、刊行物4とは異なる材質の特定の表面粗さを有する離型処理フィルムを用い、この上に刊行物4に示唆されない特定構成の光重合物からなる感圧性接着剤の層を形成したときに、この層のヘイズ値および全光線透過率をその厚さが10?100μmの範囲においてそれぞれ1%以下および90%以上というディスプレイ用として視認性に格段にすぐれた感圧性接着シートを得ることに成功したものでありますが、刊行物4にはこのようなことを示唆する一片の記載もないのです。」
(c)「しかるに、刊行物5は、アクリル系重合体の有機溶剤溶液を基材フィルム上に塗布乾燥してなるものであり、本願発明のような特定材料構成の光重合物からなる感圧性接着剤の層を離型処理フィルム上に直接形成したものではないのです。つまり、刊行物5には、比較例1,2の感圧性接着テープでのヘイズ値が1.0%、0.3%という結果が示されていますが、この結果だけから、刊行物5とは異なる本願発明のような特定構成の光重合物からなる感圧性接着剤の層のヘイズ値が1%以下、全光線透過率が90%以上となることを当業者が容易に想到しえたものとは決していえないのです。
実際、本願明細書に記載の「実験6」からも明らかなように、「実験1」と同じ光重合物からなる感圧性接着剤の層を形成するあたり、離型処理フィルムとして本願発明とは異なるもの(中心線平均粗さRaが0.89μm、最大高さRmaxが5.36μm)を用いたときには、ヘイズ値が6.0と極端に高くなり、本願発明の目的とするような視認性にすぐれた感圧性接着シートは得られないのです。」

イ 検討
請求人の主張(a)は要約すると,刊行物2の平滑性とは,段落「0013」で粘着剤層のヘイズ値を10以下とできることを意味しており,実施例でもヘイズ値が3?7程度のものしか得られておらず,刊行物2に記載の離型紙は,本願発明のものとは比べものにならないほど表面平滑性の低いものであり,本願発明とははるかに劣る,高ヘイズ値の粘着剤層を形成できるとの技術的示唆がなされているだけであるのに対して,本願発明は,刊行物2に開示も示唆もない,アクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を形成するにあたり,刊行物2に示唆されない表面平滑性にすぐれた特定の離型処理フィルムを使用し,この上に上記の層を直接形成することにより,厚さが10?100μmという範囲においてヘイズ値が1%以下,全光線透過率が90%以上という,ディスプレイ用として視認性に格段にすぐれた感圧性接着シートを得ることに成功したものであり,このようなことを上記の刊行物2と刊行物1とから当業者が容易に思い付くはずはないというものと認められる。
請求人の主張のとおり,刊行物2には,粘着剤層のヘイズ値として,実施例では3.0?7.0,比較例では2.0のものしか記載されていない。しかしながら,刊行物2の粘着剤層は,本願発明のものと異なる組成の接着剤層を使用しているのであるから,必ずしも,本願発明とははるかに劣る,高ヘイズ値の粘着剤層を形成できるとの技術的示唆がなされているだけとはいえず,刊行物2には,離型処理フィルムとして平滑度の高いものを用いることにより,離型処理フィルム上に直接形成される感圧性接着剤の層において,離型処理フィルム剥離後の感圧性接着剤の層のヘイズ値を下げることができるという技術思想が示唆されていると認めることができる。
そして,上記(4)イで述べたように,刊行物1には,本願発明と同様,アクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層が記載され,このような成分の感圧性接着剤の層をポリエステルフィルム上に50μmで形成した場合,ヘイズ値が1%以下となることは,刊行物5に記載されているのであるから,刊行物2の記載に基づいて平滑度を高く,適切に設定した離型処理フィルム上に,刊行物1のアクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を直接形成して,それを適切に剥離すれば,ヘイズ値が1%以下のものが得られることは,当業者が十分予測し得るものと認められる。

請求人の主張(b)は,要約すると,刊行物3,4にも,本願発明のようにアクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を離型処理フィルム上に直接形成する際にこのフィルムの表面平滑度を高めて上記感圧性接着剤の層の平滑度を高め,そのヘイズ値および全光線透過率に好結果を得ることについては,開示も示唆もないというものと認められる。
しかしながら,刊行物3,4は,離型処理フィルムの平滑度の規定方法として,必ずしも刊行物2のように「ベック平滑度」で規定する必要はなく,「中心線平均粗さ(Ra)」や表面粗さの「最大高さ」で規定し得ることを示すための証拠であって,刊行物3,4に,本願発明のようにアクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を離型処理フィルム上に直接形成する際にこのフィルムの表面平滑度を高めて上記感圧性接着剤の層の平滑度を高め,そのヘイズ値および全光線透過率に好結果を得ることが開示も示唆もないとしても,そのことによって,離型処理フィルムの平滑度を規定するに際して,刊行物2のベック平滑度に変えて,「中心線平均粗さ(Ra)」や表面粗さの「最大高さ」を用いることが困難であるということはできない。
さらに,請求人は,本願発明では,離型処理フィルムとして,厚さが25?125μmのポリエステルフィルムの表面にシリコーン処理を施したものを使用し,このものの表面平滑度として,中心線平均粗さRaを0.2μm以下,最大高さRmaxを0.6μm以下に規制したものであるが,刊行物4には,上記本願発明の材質のものとは全く異なるものを離型紙として使用することが開示されているだけとも述べている。
しかしながら,上記(4)イ(ア)で述べたように,「離型処理フィルムとして、厚さが25?125μmのポリエステルフィルムの表面にシリコーン処理を施したもの」は刊行物2に記載されており,その平滑度をベック平滑度ではなく,中心線平均粗さRaと最大高さRmaxで規定することは刊行物3,4の記載に基づいて容易というべきであり,また,その数値範囲として,所望するヘイズ値との関係から,0.2μm以下,最大高さRmaxを0.6μm以下に規定することは,当業者が当然に試みる設計事項と認められる。

請求人の主張(c)は,要約すると,刊行物5は,比較例1,2の感圧性接着テープでのヘイズ値が1.0%以下という結果が示されているが,この結果だけから,刊行物5とは異なる本願発明のような特定構成の光重合物からなる感圧性接着剤の層のヘイズ値が1%以下,全光線透過率が90%以上となることを当業者が容易に想到しえたものとは決していえないとし,本願明細書に記載の「実験6」では,離型処理フィルムとして本願発明とは異なるもの(中心線平均粗さRaが0.89μm,最大高さRmaxが5.36μm)を用いたときには,ヘイズ値が6.0と極端に高くなり,本願発明の目的とするような視認性にすぐれた感圧性接着シートは得られていないことをその根拠とする主張と認められる。
しかしながら,刊行物2の記載から理解できるように,離型処理フィルムの平滑度が悪くなれば,ヘイズ値が上がることは明らかであるから,引用発明において,透明性に優れた接着シートを得るに際しては,本願明細書に記載の「実験6」で示されるように,平滑度に劣る離型処理フィルムを用いることは考えられず,より良好な平滑度の離型処理フィルムを用いることにより,ヘイズ値の小さい感圧性接着剤層を得ようとすることは当業者にとって自明のことと認められる。
そして,上述のように,刊行物5には,本願発明と同様,アクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層をポリエステルフィルム上に50μmで形成した場合,ヘイズ値が1%以下となることが記載されているのであるから,刊行物2の記載に基づいて平滑度を高く,適切に設定した離型処理フィルム上に,刊行物1のアクリル系単量体と光重合開始剤を含む組成物の光重合物からなる感圧性接着剤の層を直接形成して,それを適切に剥離すれば,ヘイズ値が1%以下のものが得られることは,当業者が十分予測し得るものと認められる。

したがって,請求人の主張(a)?(c)はいずれも採用することができない。

(5)小括
よって,本願発明は,刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第5 むすび
以上のとおり,本願の特許請求の記載は,特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法第36条第6項第2号に適合せず,本願は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないし,また,本願の請求項1に係る発明は,本願の出願前に国内又は外国において頒布された刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-04 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-25 
出願番号 特願2008-233255(P2008-233255)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
P 1 8・ 537- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 大畑 通隆
橋本 栄和
発明の名称 感圧性接着シート  
代理人 祢▲ぎ▼元 邦夫  

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