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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K |
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管理番号 | 1262091 |
審判番号 | 不服2011-11483 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-01 |
確定日 | 2012-08-23 |
事件の表示 | 特願2010-148638「電動パワーステアリング装置用モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月24日出願公開,特開2010-213573〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年1月20日(優先日:平成10年6月29日,出願番号:特願平10-182487号)に出願した特願平11-12017号(以下「原出願」という。)の一部を平成13年5月25日に新たな特許出願とした特願2001-157163号の一部を平成16年8月30日に新たな特許出願とした特願2004-250287号の一部を平成21年8月5日に新たな特許出願とした特願2009-182256号の一部をさらに平成22年6月30日に新たな特許出願としたものであって,平成23年2月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,当審において,平成23年12月5日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,平成24年2月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年2月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「車速信号と操舵トルク信号を用いて制御され,PWM(pulse width modulation)駆動されて,車両のハンドルの操作力をアシストする電動パワーステアリング装置用モータにおいて, ヨークと, このヨークの内壁面に固定された4極のフェライトの永久磁石で構成された界磁部と, このヨーク内に回転自在に設けられたシャフトと, このシャフトに固定され,コアの外周面に軸線方向に延びて形成された22個のスロットに導線が機械巻線で重巻方式により巻回されて構成された巻線を有するアマチュアと, 前記シャフトの端部に固定され,フックを有する,22個のセグメントから構成された整流子と, この整流子の表面に当接し,前記界磁部の磁束分布の磁気的中心点に配設された4個のブラシとを備え, 前記車両の車室内にあるコラムに取付けられることを特徴とする電動パワーステアリング装置用モータ。」 2.引用例 (2-1)引用例1 当審における拒絶の理由に引用された特開昭61-169367号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「(産業上の利用分野) 本発明は電動機を用いた操舵力倍力装置により補助トルクを発生する電動式パワーステアリング装置に関する。 (従来の技術) 電動式パワーステアリング装置としては,例えば本願出願人が出願した「特願昭59-192390」や「特願昭59-241959」などがある。 この種の電動式パワーステアリング装置は電動機を動力源とする操舵力倍力装置およびその制御回路を備え,ステアリングホイールに付与される操舵トルクを検出し,この操舵トルク信号に基づいて制御回路によって電動機に補助トルクを発生させることにより,ハンドル操舵力の軽減を図っている。又,アナログ回路により構成された制御回路において,電動機のアナログ電気信号を用いてフィードバック制御することにより,速い速度で電動機制御を可能とし,適切な操舵性能の向上を図っている。」(第1頁右下欄第6行?第2頁左上欄第4行) (イ)「第2図は本実施例の電磁型倍力装置を90°切断面で折曲させて示す縦断面図である。第2図において,(1)はステアリングコラム,(2)はステータ,(3)はケースであり,(4)と(7)は互いに同軸状に配設された入力軸および出力軸である。本実施例の電動式パワーステアリング装置は,入力軸(4)の内端部が出力軸(7)の内端部内に遊嵌される一方,これらの内端がトーションバー(8)により連結され,入力軸(4)が軸受(9),(10)により,出力軸(7)が軸受(11),(12),(13)により,それぞれ回動自在に支承されている。さらに入力軸(4)の周囲に配設された操舵回転センサ(20)と,入出力軸(4)と(7)の嵌合部の周囲に配設された操舵トルクセンサ(24)と,出力軸(7)の周囲に配設された電動機(33),減速装置(50)および,電磁クラッチ(63)と,操舵回転センサ(20)および操舵トルクセンサ(24)からの各検出信号に基づき電動機(33)および電磁クラッチ(63)を駆動制御する制御装置(75)とを備えた構成である。」(第2頁左下欄第12行?右下欄第10行) (ウ)「次に,上記電動機(33)は,ボルト(34)によりステアリングコラム(1)およびケース(3)に一体的に固着された筒状のステータ(2)と,このステータ(2)の内面に固着された少なくとも一対の磁石(36)と,出力軸(7)の周囲に回転可能に配設された回転子(37)とからなる。回転子(37)は,軸受(12)および(13)を介して出力軸(7)に回動可能に環装されるとともに軸受(11A)および(13A)を介してステータ(2)とケース(3)に支承される筒軸(38)を備え,この筒軸(38)の外周にはスキュー溝を有する鉄心(39),第1の多重巻線(40),第2の多重巻線(41)が順次一体的に環装され,前記磁石(36)と第2の多重巻線(41)との間には微小なエアギャップが設けられている。また,筒軸(38)には,第1の多重巻線(40)に接続する第1整流子(42)および第2の多重巻線(41)に接続する第2整流子(43)を備えている。さらに,第1整流子(42)に圧接するブラシ(44)がステータ(2)に固着されたブラシホルダ(45)に,第2整流子(43)に圧接するブラシ(46)がケースに固着されたブラシホルダ(47)にそれぞれ収納され,各ブラシ(44)および(46)に接続されるリード線が非磁性体のパイプを通じてステータ(2)の外部に取出されている。なお,磁石(36),第1の多重巻線(40),第1整流子(42)およびブラシ(44)により回転子(37)の回転数を検出する発電機(電動機回転速度センサ)(48)を構成し,この発電機(48)からは回転子(37)の回転数に比例した直流電圧が出力される。他方磁石(36),第2の多重巻線(41),第2整流子(43)およびブラシ(46)により補助トルクを発生する電動機(33)を構成している。」(第3頁右下欄第8行?第4頁左上欄第18行) (エ)「第7図において,(76)はマイクロコンピュータであり,マイクロコンピュータ(76)には操舵トルク検出手段(77),操舵回転検出手段(82),車速検出手段(86),電動機回転速度検出手段(120)および異常検出手段(114)からの各検出信号S_(1)?S_(7)が入力されている。 操舵トルク検出手段(77)は,前記操舵トルクセンサ(24)と,この操舵トルクセンサ(24)の一次コイル(29)へマイクロコンピュータ(76)内部のクロックパルスT_(1)を分周して出力するドライブユニット(78)と,可動鉄心(25)の変位に対応して二次コイル(30)と(31)から得られた各アナログ電気信号をそれぞれ整流する整流回路(79A),(79B)および高周波分を除去するローパスフィルタ(80A),(80B)と,このローパスフィルタ(80A),(80B)からの各アナログ電気信号をディジタル信号に変換し操舵トルク検出信号S_(1),S_(2)としてマイクロコンピュータ(76)に入力するA/Dコンバータ(81)とから構成されている。」(第5頁左上欄第1行?第19行) (オ)「車速検出手段(86)は,例えば,スピードメータケーブルとともに回転する磁石(87)とこの磁石の回転に伴ない断続するリードスイッチ(88)とからなる車速センサ(89)と,リードスイッチ(88)に電源を供給しリードスイッチ(88)の断続をパルス信号として出力するパルス変換回路(90)と,この出力信号を整形して出力する波形整形回路(91)と,波形整形回路(91)からの出力信号とマイクロコンピュータ(76)のクロックパルスに基づいて車速を演算して車速検出信号S_(6)を出力するドライブユニット(91A)と,により構成されている。 マイクロコンピュータ(76)は,I/Oポート,メモリ,演算部および制御部により構成されている。また,マイクロコンピュータ(76)等を駆動する電源回路(92)は,車載のバッテリ(83)の+端子にイグニッションキーのキースイッチ(94),ヒューズ(85)を介して接続されるリレー回路(96)と,リレー回路(96)の出力側に接続された定電圧回路(97)とから構成され,リレー回路(96)の出力側のA端子からは後述する電動機駆動手段(100)および電磁クラッチ駆動手段(108)に電源が供給され,定電圧回路(97)のB端子からはマイクロコンピュータ(76)やその他の制御ユニットに電源が供給される。したがって,キースイッチ(94)が投入されると,マイクロコンピュータ(76)は,入力される各検出信号(S_(1)?S_(7))をメモリに書き込まれたプログラムに従って処理し,電動機を駆動する制御信号T_(3)・T_(4),T_(5),および電磁クラッチを駆動する電流制御信号T_(6)を,電動機駆動手段(100)および電磁クラッチ駆動手段(108)にそれぞれ出力し,電動機(33)および電磁クラッチ(63)を駆動制御する。尚,T_(3),T_(4)は操舵方向に対応した電動機(33)の右回転方向信号および左回転方向信号,T_(5)は電機子電圧を決定する電動機制御信号である。」(第5頁右上欄第17行?右下欄第11行) (カ)「前記ドライブユニット(101)は,マイクロコンピュータ(76)からの回転方向信号T_(3)・T_(4)に基づいてリレー(102)又は(103),トランジスタ(105)又は(104)を駆動させるとともに,電動機制御信号T_(5)に基づきパルス幅変換(PWM変調)したパルス信号をトランジスタ(104,105)のどちらか一方のベースに出力する。したがって,電動機駆動手段(100)においては,一方のリレー(102)とトランジスタ(105)への通電,又は他方のリレー(103)とトランジスタ(104)への通電により電動機(33)の回転方向を制御するとともに,各トランジスタ(104,105)のベースに印加されるパルス信号によってトランジスタ(104,105)の通電時間制御が行われる。そして,電動機(33)には,通電時間制御に応じた電機子電圧V_(A)が印加され,ステアリングホイールに加えられる操舵トルクに対応した補助トルクを発生するように電動機(33)が制御される。」(第6頁左上欄第4行?右上欄第1行) (キ)「次に作用を説明する。 第8図はマイクロコンピュータ(76)における制御処理の概略を示すフローチャートであり,図中のP_(1)?P_(13)はフローチャートの各ステップを示す。 イグニッションキーのキースイッチ(94)がONに投入されると,マイクロコンピュータ(76)や他の回路に電源が供給され制御が開始される。まず,マイクロコンピュータ(76)においては,各検出手段(77,82,88,114,120)からの検出信号S_(1)?S_(7)が読込まれ,ステップP_(1)において検出信号(S_(1)?S_(7))が適正かどうかの故障診断がサブルーチンにおいて行われる。異常の場合にはマイクロコンピュータ(76)からリレー制御信号T_(2)がリレー回路(96)に出力され電源回路(92)からの電源の供給が遮断され,電動式パワーステアリング装置の駆動が停止し,マニュアル操作による操舵操作が行われる。各検出信号S_(1)?S_(7)が正常の場合には,ステップP_(2)において,車速検出信号S_(4)に基づいて車速nが所定速度n_(o)よりも小さいかどうか判断される。車速nが所定速度よりも大きい場合には,他の制御パターン1に移行し,例えば電動機(33)の電機子電圧および電磁クラッチ(63)の励磁電流を次第に減少した後,これらの動作を停止させる制御が行われる。 車速nが所定速度n_(O)以下の場合には,ステップP_(3)において操舵トルク検出手段(77)からの操舵トルク検出信号S_(1)とS_(2)の大きさを比較し,ステアリングホイールの操舵方向が右方向か左方向かを判別し,右回転方向信号T_(3)か左回転方向信号T_(4)かの決定が行われる。そして,ステップP_(4)において,操舵トルク検出信号S_(1)とS_(2)に基づいてD=|S_(1)-S_(2)|が演算される。次に,ステップP_(5)においてはアンロード制御が行われる。すなわち,操舵角信号S_(5)に基づいて操舵角が所定値Cよりも大きいときには,ステアリングホイールがステアリングエンドに近くなったと判断し,D=D-Xの補正演算を行う。 ステップP_(6)においては,操舵回転検出手段(82)からの操舵速度検出信号S_(4)により操舵速度Nsを求め,この操舵速度Nsと前記演算値Dとにより予めメモリに記憶された電機子電圧V_(A)のアドレス指定が行われる。つまり,操舵速度検出信号S_(4)を電動機回転速度N_(M)として用いたのは,電動機(33)が減速装置(50)および電磁クラッチ(63)を介して出力軸(7)に連結されるので,操舵速度と電動機回転速度とが基本的に比例し,操舵速度を電動機回転速度N_(M)と見なすことができるためであり,またメモリには,第9図および第10図により示すような電動機回転数N_(M)と演算値Dとのアドレス指定により決定できる各電機子電圧V_(1)?Vnが記憶されており,これらの演算値Dと操舵速度Nsのアドレス指定によって電機子V_(1)?Vnに相応した電動機制御信号T_(5)を決定することができる。したがって,操舵トルク検出信号S_(1)・S_(2)と操舵速度検出信号S_(3)に基づいてアドレス指定により電機子電圧V_(A)が決定されるため,マイクロコンピュータ(76)においても制御速度を高めることができる。」(第6頁左下欄第14行?第7頁右上欄第12行) (ク)「ステップP_(13)においては,回転方向信号T_(3)・T_(4)および,補正された電動機制御信号T_(5)が電動機駆動手段(100)に,電磁クラッチ制御信号T_(6)が電磁クラッチ駆動手段(108)に出力される。電動機駆動手段(100)においては,回転方向信号T_(3)・T_(4)および制御信号T_(5)に基づいて電動機(33)の電機子電圧V_(A)のPWM制御が行われる。」(第7頁右下欄第11行?第18行) (ケ)摘記事項(オ)の「車載のバッテリ(83)の+端子にイグニッションキーのキースイッチ(94)」の記載からみて,上記引用例1の電動式パワーステアリング装置が車両用のものであることは明らかである。 (コ)第2図には,「ステータ2内に出力軸7が配設されたこと」,及び「筒軸38の端部には,第1整流子42及び第2整流子43と,第1整流子42に圧接するブラシ44と第2整流子43に圧接するブラシ46とを備えたこと」が示されている。 そして,これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「車速検出信号と操舵トルク検出信号を用いて制御され,PWM制御されて,補助トルクを発生させてハンドル操舵力の軽減を図る車両の電動式パワーステアリング装置の電動機33において, ステータ2と, このステータ2の内面に固着された少なくとも一対の磁石36と, このステータ2内に回動自在に配設された出力軸7と, この出力軸7に環装された筒軸38と,鉄心39に環装された第1の多重巻線40,第2の多重巻線41を備える回転子37と, 前記出力軸7に環装された筒軸38の端部には,第1整流子42及び第2整流子43と,第1整流子42に圧接するブラシ44と第2整流子43に圧接するブラシ46とを備え, ステアリングコラム1に一体的に固着された電動式パワーステアリング装置の電動機33。」 (2-2)引用例2 同じく,当審における拒絶の理由に引用された実願平3-10440号(実開平4-101274号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には,「自動車に搭載する電装品等の部材装置に組込まれるモータのアーマチュア」に関して,「4個の永久磁石を有する4極,22スロットのモータ,2刷子を有し,回転バランスが損なわれることなく性能アップが図れるものであるとともに,重ね巻巻線方式であってもよい」旨の記載がある。(特に,段落【0001】,段落【0006】?【0008】,段落【0011】?【0013】,図1,図2を参照のこと。) (2-3)引用例3 同じく,当審における拒絶の理由に引用された特開昭64-30879号公報(以下「引用例3」という。)には,「自動車に装備される電動式の動力舵取装置(パワーステアリング)」に関し,「操舵トルクを検出するトルクセンサ,操舵補助用のモータ及び該モータの回転力の伝動装置が,いずれも車室内に位置する舵取軸(ステアリングコラム)の周辺に配設される。」旨の記載がある(特に,第1頁右下欄第1行?第3行,第2頁右上欄第19行?左下欄第16行を参照のこと。)。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「車速検出信号」は前者の「車速信号」に相当し,以下同様に,「操舵トルク検出信号」は「操舵トルク信号」に,「PWM制御」は「PWM(pulse width modulation)駆動」に,それぞれ相当している。 次に,後者の「補助トルクを発生させてハンドル操舵力の軽減を図る」態様は,前者の「車両のハンドルの操作力をアシストする」態様に相当し,後者の「電動式パワーステアリング装置の電動機33」は,前者の「電動パワーステアリング装置用モータ」に相当するから,後者の「補助トルクを発生させてハンドル操舵力の軽減を図る車両の電動式パワーステアリング装置の電動機33」は,前者の「車両のハンドルの操作力をアシストする電動パワーステアリング装置用モータ」に相当し,後者の「ステータ2」は前者の「ヨーク」に,後者の「内面」は前者の「内壁面」に,後者の「固着」は前者の「固定」に相当する。 また,後者の「このステータ2の内面に固着された少なくとも一対の磁石36」と,前者の「このヨークの内壁面に固定された4極のフェライトの永久磁石で構成された界磁部」とは,「このヨークの内壁面に固定された磁石で構成された界磁部」との概念で共通する。 そして,後者の「回動自在」は前者の「回転自在」に相当し,「出力軸7」は「シャフト」に相当するから,後者の「このステータ2内に回動自在に配設された出力軸7」は,前者の「このヨーク内に回転自在に設けられたシャフト」に相当する。 さらに,後者の「鉄心39」は前者の「コア」に相当し,「第1の多重巻線40」及び「第2の多重巻線41」は「巻線」に,「回転子37」は「アマチュア」に相当し,後者の「この出力軸7に環装された筒軸38と,鉄心39に環装された第1の多重巻線40,第2の多重巻線41を備える回転子37」と,前者の「このシャフトに固定され,コアの外周面に軸線方向に延びて形成された22個のスロットに導線が機械巻線で重巻方式により巻回されて構成された巻線を有するアマチュア」とは,「このシャフトに設けられ,コアの外周面に巻回されて構成された巻線を有するアマチュア」との概念で共通する。 また,後者の「第1整流子42」及び「第2整流子43」は前者の「整流子」に相当し,後者の「ブラシ44」及び「ブラシ46」は前者の「ブラシ」に相当するから,後者の「出力軸7に配設された筒軸38の端部には,第1整流子42及び第2整流子43と,第1整流子42に圧接するブラシ44と第2整流子43に圧接するブラシ46とを備え」る態様と,前者の「シャフトの端部に固定され,フックを有する,22個の複数個のセグメントから構成された整流子と,この整流子の表面に当接し,界磁部の磁束分布の磁気的中心点に配設された4個のブラシとを備え」る態様とは,「シャフトに設けられた整流子と,この整流子の表面に当接する複数のブラシとを備え」たとの概念で共通する。 そして,後者の「ステアリングコラム1に一体的に固着された」態様と,前者の「車両の車室内にあるコラムに取付けられ」た態様とは,「車両のコラムに取り付けられた」との概念で共通する。 そうすると,両者は, 「車速信号と操舵トルク信号を用いて制御され,PWM(pulse width modulation)駆動されて,車両のハンドルの操作力をアシストする電動パワーステアリング装置用モータにおいて, ヨークと, このヨークの内壁面に固定された磁石で構成された界磁部と, このヨーク内に回転自在に設けられたシャフトと, このシャフトに設けられ,コアの外周面に巻回されて構成された巻線を有するアマチュアと, 前記シャフトに設けられた整流子と, この整流子の表面に当接する複数のブラシとを備え, 前記車両のコラムに取り付けられた電動パワーステアリング装置用モータ。」 の点で一致し,以下の各点で相違するものと認められる。 [相違点1] 界磁部及びアマチュアの構成に関し,本願発明では,界磁部が「4極のフェライトの永久磁石で構成され」るとともに,アマチュアが「シャフトに固定され,コアの外周面に軸線方向に延びて形成された22個のスロットに導線が機械巻線で重巻方式により巻回されて構成された巻線を有する」のに対して,引用発明では,界磁部が「少なくとも一対の磁石で構成され」るとともに,アマチュア(回転子)が「シャフトに設けられ,コアの外周面に巻回されて構成された巻線を有する」ものの,スロット数及び巻線方式が特定されていない点。 [相違点2] シャフトに設けられた整流子に関し,本願発明では,22個のスロットに対して,「シャフトの端部に固定され,フックを有する,22個のセグメントから構成された」のに対して,引用発明では,シャフトに設けられたものの,それ以上の特定はなされていない点。 [相違点3] 整流子の表面に当接する複数のブラシに関し,本願発明では,「4極」の界磁部に対して「界磁部の磁束分布の磁気的中心点に配設された4個のブラシ」であるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。 [相違点4] 電動パワーステアリング装置用モータが,車両のコラムに取り付けられる態様に関して,本願発明では,「車室内にあるコラム」に取付けられるのに対して,引用発明では,コラムに取り付けられる箇所が,「車室内」であるか否か明らかでない点。 4.判断 まず,操舵トルクセンサを用いてPWM駆動する電動パワーステアリング装置において,低騒音化とトルクリップルの低減は,本願の原出願の優先権主張の日前に周知の課題に過ぎない(必要があれば,特開平2-188019号公報第1頁右下欄第16行?第2頁左上欄第6行,第3頁左下欄第18行?右下欄第1行,特開平8-336293号公報の段落【0001】,【0006】,【0008】を参照のこと。) 次に,上記各相違点について検討する。 ・相違点1について 上記引用例2には,自動車の装備品に適用されるモータに関して,回転バランスを改善するために,4個の永久磁石を有する4極,22スロットのブラシ付きモータ及び重ね巻巻線方式が開示されている。 そして,永久磁石をフェライトとすること及び巻線を機械巻線とすることは,いずれも電動機の分野において慣用手段に過ぎないことから,引用発明において,上記相違点1における本願発明の構成とすることは,上記慣用手段に鑑みて,上記引用例2に開示された事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものである。 ・相違点2について 「フックを有する複数個のセグメントから構成された整流子」は,電動機の分野において,本願の原出願の優先権主張の日前に周知技術に過ぎない(必要があれば,特開平9-182385号公報の図1,図2を参照のこと。)。 そして,整流子のセグメント数をスロット数と同じにすることも常套手段である(必要があれば,特開平8-266028号公報の段落【0026】,【0032】,特開平4-359655号公報の段落【0007】を参照のこと。)から,引用発明において,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,上記常套手段に鑑みて,上記周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものである。 ・相違点3について 「4極」の界磁部に対して,「界磁部の磁束分布の磁気的中心点に配設された4個のブラシ」を有し,重ね巻方式とすることは電動機の分野において,本願の原出願の優先権主張の日前に周知技術に過ぎない(必要があれば,特開平8-294259号公報の段落【0002】?【0004】,図3,実願昭56-193092号(実開昭58-100471号)のマイクロフィルムの第2頁第11行?第5頁第18行,第8頁第8行?第11行,第1図,第2図を参照のこと。)。 なお,請求人は審判請求書において,「電動パワーステアリング装置用モータは,該モータのロストルクが大きくなると,ハンドル戻りなどの操舵性が低下するため,本願出願当時においては,ロストルクを抑制するために,ブラシスプリングの荷重を低下させたり,ブラシ数を少なく構成するなどの対応を行なっていたものでありまして・・・従来の2ブラシに比べてロストルクが増加するような4ブラシ等を,その電動パワーステアリング装置用モータの当業者が,4ブラシ等が公知であるからと単に適用するようなことは本願出願当時にはできなかったものであり 」と主張するが,電動パワーステアリング装置用モータを4ブラシとすることは,特表昭63-501704号公報の第9頁左上欄第5行?24行,特開平8-282523号公報の要約の欄に記載されるように周知技術に過ぎない。したがって請求人の上記主張は採用できない。 ・相違点4について 上記引用例3には,電動パワーステアリング装置のモータが「車室内の舵取軸(ステアリングコラム)」の周辺に取り付けられることが開示されており,引用発明において,車両のコラムに取付けられた電動パワーステアリング装置用モータを「車室内」に取り付けることは,上記引用例3に開示された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。 そして,上記相違点1?4を併せ備える本願発明の作用効果を検討してみても,引用発明,上記引用例2,3に開示された事項,上記周知技術,上記慣用手段,及び上記常套手段から予測し得る程度のものであって格別のものとはいえない。 したがって,本願発明は,引用発明,上記引用例2,3に開示された事項,上記周知技術,上記慣用手段及び上記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,上記引用例2,3に開示された事項,上記周知技術,上記慣用手段,及び上記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-21 |
結審通知日 | 2012-06-26 |
審決日 | 2012-07-09 |
出願番号 | 特願2010-148638(P2010-148638) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牧 初 |
特許庁審判長 |
大河原 裕 |
特許庁審判官 |
槙原 進 藤井 昇 |
発明の名称 | 電動パワーステアリング装置用モータ |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 吉田 潤一郎 |
代理人 | 飯野 智史 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 梶並 順 |
代理人 | 大宅 一宏 |
代理人 | 上田 俊一 |