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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F03G 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F03G |
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管理番号 | 1262093 |
審判番号 | 不服2011-13722 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-28 |
確定日 | 2012-08-23 |
事件の表示 | 特願2006-324233「回転装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開、特開2007-177788〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成18年11月30日(優先権主張平成17年11月30日)の出願であって、平成22年12月20日付けで拒絶理由が通知され、平成23年2月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年3月25日付けで拒絶査定がなされ、平成23年6月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書、特許請求の範囲及び図面を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成24年3月5日付けで書面による審尋がなされ、平成24年5月11日付けで回答書が提出されたものである。 第2.平成23年6月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年6月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 (1)本件補正の内容 平成23年6月28日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年2月23日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(ア)を、下記(イ)と補正するものである。 (ア)本件補正前の特許請求の範囲 「 【請求項1】 回転軸に軸支された円盤状回転子と、前記円盤状回転子と回転軸を共にして回転するタイミング制御板と、前記タイミング制御板と弾性部材の収縮力を介してその先端が連設され、前記タイミング制御板の表面形状に沿って運動する副アームと、前記副アームの後端を軸支するアーム駆動軸と、前記アーム駆動軸に軸支され、その先端に前記第二永久磁石が配設される主アームとからなり、 前記タイミング制御板の表面形状は、前記回転子周縁に配設された第一永久磁石間と対応する略三角形状の頂部を形成するものであり、 前記タイミング制御板の回転に同調して前記副アームが上下運動を行い、この上下運動と連動して前記主アームが梃子運動し、前記第一永久磁石と前記第二永久磁石とが接近および離去し、前記接近および離去により生じる斥力および/または引力により前記回転子を回転させる回転装置。 【請求項2】 回転軸に軸支された円盤状回転子と、前記円盤状回転子と回転軸を共にして回転するタイミング制御板と、前記タイミング制御板と弾性部材の収縮力を介してその先端が連設され、前記タイミング制御板の表面形状に沿って上下運動する副アームと、前記副アームの後端を軸支するアーム駆動軸と、前記アーム駆動軸を連結する連結アームと、前記連結アームに軸支され、その先端に前記第二永久磁石が配設される主アームとからなり、 前記タイミング制御板の表面形状は、前記回転子周縁に配設された第一永久磁石間と対応する略三角形状の頂部を形成するものであり、 前記タイミング制御板の回転に同調して前記副アームが上下運動を行い、この上下運動と連動して前記主アームが梃子運動し、前記第一永久磁石と前記第二永久磁石とが接近および離去し、前記接近および離去により生じる斥力および/または引力により前記回転子を回転させる回転装置。 【請求項3】 前記副アームを、第一副アームと第二副アームとに分割する分割副アーム駆動軸と前記主アームを第一主アームと第二主アームとに分割する分割主アーム駆動軸とが配設され、前記第二副アームと前記第一主アームとは、前記連結アームに回転自在に連結される構成であって、 前記分割副アーム駆動軸によって、前記第一副アームの上下動の向きが前記第二副アームにおいて逆転され、かつ動作幅が変化され、 前記副アームの運動に追従して前記主アームが運動することを特徴とする、請求項2記載の回転装置。 【請求項4】 前記第二永久磁石は、前記円盤状回転子の外周部分の幅と略同幅を欠如した形状であり、前記欠如部分が、前記回転子の外周部分を挟み込むように、配設されることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の回転装置。 【請求項5】 前記タイミング制御板表面形状の最下降点または最上昇点が、前記第一永久磁石と、前記第二永久磁石との同極が、互いに最接近する位置であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の回転装置。 【請求項6】 前記タイミング制御板表面形状の最下降点または最上昇点が、前記第一永久磁石と、前記第二永久磁石との異極が、互いに最接近する位置であることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の回転装置。 【請求項7】 前記第一永久磁石は、該第一永久磁石の磁極が、前記回転子の回転方向と水平に向くことを特徴とする、請求項1?6にいずれかに記載の回転装置。 【請求項8】 前記第一永久磁石は、該第一永久磁石の磁極が、前記回転子の回転方向と垂直に向くことを特徴とする、請求項1?6のいずれかに記載の回転装置。 【請求項9】 前記第一永久磁石および前記第二永久磁石は、希土類系の永久磁石であることを特徴とする、請求項1?8のいずれかに記載の回転装置。」 (イ)本件補正後の特許請求の範囲 「 【請求項1】 回転軸に軸支された円盤状回転子と、前記円盤状回転子と回転軸を共にして回転するタイミング制御板と、前記タイミング制御板と弾性部材の収縮力を介してその先端が連設され、前記タイミング制御板の表面形状に沿って運動する副アームと、前記副アームの後端を軸支するアーム駆動軸と、前記アーム駆動軸に軸支され、その先端に前記第二永久磁石が配設される主アームとからなり、 前記タイミング制御板の表面形状は、前記回転子周縁に配設された第一永久磁石間と対応する略三角形状の頂部を形成するものであり、 前記タイミング制御板の回転に同調して前記副アームが上下運動を行い、この上下運動と連動して前記主アームが梃子運動し、前記第一永久磁石と前記第二永久磁石とが接近および離去し、前記接近および離去により生じる斥力または引力のいずれかにより前記回転子を回転させる回転装置。 【請求項2】 前記第二永久磁石は、前記円盤状回転子の外周部分の幅と略同幅を欠如した形状であり、前記欠如部分が、前記回転子の外周部分を挟み込むように、配設されることを特徴とする、請求項1記載の回転装置。 【請求項3】 前記タイミング制御板表面形状の最下降点または最上昇点が、前記第一永久磁石と、前記第二永久磁石との同極が、互いに最接近する位置であることを特徴とする、請求項1または2記載の回転装置。 【請求項4】 前記タイミング制御板表面形状の最下降点または最上昇点が、前記第一永久磁石と、前記第二永久磁石との異極が、互いに最接近する位置であることを特徴とする、請求項1または2記載の回転装置。 【請求項5】 前記第一永久磁石は、該第一永久磁石の磁極が、前記回転子の回転方向と水平に向くことを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の回転装置。 【請求項6】 前記第一永久磁石は、該第一永久磁石の磁極が、前記回転子の回転方向と垂直に向くことを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の回転装置。 【請求項7】 前記第一永久磁石および前記第二永久磁石は、希土類系の永久磁石であることを特徴とする、請求項1?6のいずれかに記載の回転装置。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付した。) (2)本件補正の目的 本件補正は、(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「回転子」について、第一永久磁石と第二永久磁石との接近および離去により生じる斥力および/または引力により回転子を回転させるとしていたものを、前記接近および離去により生じる斥力または引力のいずれかにより回転子を回転させるよう限定するとともに、(b)本件補正前の特許請求の範囲の請求項2及び3を削除し、本件補正前の特許請求の範囲の請求項4ないし9を新たに請求項2ないし7とするものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものに該当する。 2.本件補正の適否についての判断 本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2.-1 明細書の記載事項 平成23年2月23日付け及び平成23年6月28日付けの手続補正書によって補正された明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】ないし【0004】、【0015】、【0016】及び【0059】には、本願の回転装置について、次の記載がある。 「 【0001】 本発明は、長期間回転を継続することができる回転装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来より、使用上有用な形態のエネルギー(二次エネルギー)、例えば特許文献1のような装置によって電力エネルギーを得るためには、先ず、発電システムなどを稼動するための風力、水力などの装置稼動エネルギー(一次エネルギー)を供給すること、また、一次エネルギーの供給断絶時のために、前記装置稼動動力を得るための動力エネルギーを、あるいは特許文献2のような装置によってオイルなどの流体を媒体として蓄積するエネルギー蓄積設備や、コンプレッサーなどの設備を必要とし、そのために有償の一次エネルギーの使用や、無償のエネルギー源を使用する場合でも、ある程度の規模のエネルギー変換、蓄積装置無くして、発電機を稼動して実用的に二次エネルギーを取り出す、という形態を実現することはできなかったため、ランニングコストだけでなく、装置を設備するための初期投資のかさむことも不可避であった。 【特許文献1】特開平5-223054号公報 【特許文献2】特開平1-237360号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 本発明は、例えば電力エネルギーのような有用な二次エネルギーを得るシステムにおいて、上記のような、稼動、設備両面でのコスト高の問題を解決するために、簡便かつ稼動コストの大幅な低減化が可能な回転装置を提供しようとするものである。 【課題を解決するための手段】 【0004】 本発明は、自然界に存在する不断のエネルギー源の中でも安価な供給が容易な磁力と、それに弾性伸縮力および梃子の原理を組み合わせて用いることにより、始動させれば長時間に回転を続けさせられる回転装置を提供する方法であって、非磁性材料でなる円盤状回転子(回転子)、例えば硬質プラスチックやアルミニウムのような非磁性材料、あるいはステンレススチールなどの弱磁性体等からなる円盤回転子周縁に配設され、該回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とを有し、外部から必要であればエネルギーを与えて回転子を初期始動させた後、回転子とともに回転する前記第一永久磁石へと、繰り返し接近、離去する前記第二永久磁石により生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を一方向に回転させることを特徴とする。」 「 【0015】 本発明に係る回転装置は、自然界に存在する不断のエネルギー源の中でも安価な供給が容易な磁力と、それに弾性伸縮力および梃子の原理を組み合わせて用いることにより、長時間に回転を続ける回転装置を提供する方法であって、例えば非磁性体円盤状回転子(回転子)周縁に配設され、該回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とを有し、始動後、回転子とともに回転する前記第一永久磁石に対して、繰り返し接近する前記第二永久磁石により生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を一方向に回転させることを特徴とする。 【0016】 すなわち、本発明の回転装置は、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは全くかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとしても、あらゆる有用な回転装置を安価に提供することができる効果がある。」 「 【0059】 以上のように、本発明の回転装置は、磁力と、梃子の原理とを組み合わせた簡単な装置構成により、長時間に回転をする回転装置を提供することが可能である。すなわち、回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とが、繰り返し接近するために生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を一方向に回転させることが可能である。よって、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは殆どかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用の動力装置に組み込める回転装置を安価に提供することができる。」 2.-2 審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書において次のとおり主張するとともに、本願補正発明の回転装置の仕様について記載している。 「 (ii)特許法第36条第4項第1号 本願発明は、副アームおよび主アームを介して第一永久磁石と第二永久磁石とが接近および離去して斥力および引力を発生させるものであり、以下に、エネルギー量を算出して回転しうることを説明いたします。 」 また、審判請求人は、平成24年5月11日付けの回答書(以下、単に「回答書」という。)において、次のように主張している。 「 (2)特許法第36条第4項第1号 前置報告書は、「回転装置の軸受け部等では摩擦抵抗が存在するため、外部からのエネルギー供給なしに永久磁石から受ける斥力と引力のみで、動力を取り出しつつ回転を継続させることは、エネルギー保存の法則を考慮すると、不可能である。」と記載します。 しかしながら、本願明細書には、「動力を取り出しつつ回転を継続」なる文言は記載されておりません。補正後の請求項1は、「・・・円盤状回転子と・・・タイミング制御板と・・・主アームとからなる回転装置」であります。タイミング制御板の回転に同調して主アームが梃子運動し、永久磁石間の距離を制御して斥力と引力とを制御し、初期力の負荷により回転した回転子の、長期に亘る回転を実現するものであり、動力装置に限定されるものではありません。たとえば、電気モーターなどを介して回転子を回転させる場合は、モーターを駆動するための電力が必要となりますが、本発明の回転装置によれば、初期力を負荷して回転子を回転させると、タイミング制御板とアームとにより梃子の原理により永久磁石が上下動し、永久磁石の斥力と引力とを制御し、長期に亘り回転子の回転を継続することができ、エネルギーを節約することができます。」 2.-3 実施可能要件の充足性について 本願の明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明の回転装置が、「長期間回転を継続することができる回転装置に関」(段落【0001】)し、「稼働、設備両面でのコスト高の問題を解決するために、簡便かつ稼働コストの大幅な低減化が可能な回転装置を提供しようとするもの」(段落【0003】)であり、「小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとして」(段落【0016】)用いることができる旨が記載がされている(上記2.-1参照)。 そして、一般に、家庭用発電設備や船舶用の動力源として回転装置を利用しようとする場合には、該回転装置は動力を取り出しつつ回転を継続させることが必要であることは明らかである。 これに対し、本願の明細書には、回転装置からどのように動力を取り出すのかが示されていないばかりか、回転装置から動力を取り出しつつ、回転を継続させるための構成が示されていない。 そして、回転装置の軸受け部等には摩擦抵抗を生ずるから、外部からのエネルギーの供給なしに永久磁石から受ける斥力又は引力のいずれかのみで、動力を取り出しつつ回転を継続させることは、エネルギー保存則を考慮すると不可能である。 また、審判請求書に記載された仕様及びエネルギー量の算出結果を考慮しても、本願補正発明の回転装置から動力を取り出しつつ、回転を継続させることが可能であるとは認められない。 審判請求人は、審判請求書において、本願明細書には「動力を取り出しつつ回転を継続」なる文言は記載されていない旨を主張している(上記2.-2参照。)。 しかし、上記のとおり、家庭用発電設備や船舶用の動力源として回転装置を利用しようとする場合には、該回転装置は動力を取り出しつつ回転を継続させることが必要であることは明らかであるから、審判請求人の上記主張は失当である。 以上により、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2.-4 むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって結論のとおり決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明 前記のとおり、平成23年6月28日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成23年2月23日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定された上記(第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】ないし【請求項9】)のとおりのものである(以下、「本願発明1ないし9」という。)。 2.本願の明細書の記載、拒絶理由及び審判請求人の主張 2.-1 当初明細書の記載事項 本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0016】及び【0059】には、本願の自動回転動力装置の効果について、次の記載がある。 「 【0016】 すなわち、本発明の自動回転動力装置は、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは全くかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとしても、あらゆる有用な動力装置を安価に提供することができる効果がある。このように本発明によればエネルギーを供給することなしに、回転動力を簡素で安価な装置を用いて得られる手段を実現することが可能である。」 「 【0059】 以上のように、本発明の自動回転動力装置は、磁力と、梃子の原理とを組み合わせた簡単な装置構成により、長時間自動的に回転を続けさせられる回転動力装置を提供することが可能である。すなわち、回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とが、繰り返し接近するために生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を連続して一方向に回転させ続けることが可能である。よって、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは全くかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとしても、あらゆる有用な動力装置を安価に提供することができる効果がある。」 2.-2 平成22年12月20日付けの拒絶理由通知 平成22年12月20日付けの拒絶理由通知書には、理由の2.として、次の理由が記載されている。 「2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 発明の詳細な説明中には、永久磁石を対向させて斥力と引力を交互に発生させて、連続的に回転させ続ける動力装置が記載されているが、回転軸と軸受の間には摩擦損失がある等、外部からのエネルギーの供給無しに回転子を連続的に回転させ続けることは不可能である。 したがって、請求項1ないし28に係る発明を実施することで、発明の詳細な説明の段落0016に記載された「本発明の自動回転動力装置は、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは全くかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとしても、あらゆる有用な動力装置を安価に提供することができる効果がある。このように本発明によればエネルギーを供給することなしに、回転動力を簡素で安価な装置を用いて得られる手段を実現することが可能である。」との効果が奏せられるか不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし28に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 2.-3 平成23年2月23日付けの意見書における請求人の主張 上記拒絶理由に対して、本件請求人は、平成23年2月23日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)において、次のとおり主張している。 「 本発明は、段落「0023」に記載するように回転開始に初期始動させる場合があり、段落「0012」に記載するように、回転軸と軸受の間には摩擦が発生するものであります。審査官のご指摘に沿い、請求項の自動回転動力装置を「回転装置」に補正しました。また、請求項の補正に伴い、明細書を全文補正しました。 本発明は、永久磁石の斥力と引力を利用して回転動力とする回転装置であり、この回転によって回転動力を取り出すことができる装置であります。 上記補正により、特許法第36条第4項第1号に係る拒絶理由は回避されたものと思量いたします。 なお、回転装置から回転動力を取出す方法などは、例えば、審査官殿が引用した引用文献1にも記載され、当該技術は公知であります。」 2.-4 平成23年2月23日付け手続補正書により補正された明細書の記載 平成23年2月23日付け手続補正書により補正された明細書の段落【0001】ないし【0004】、【0012】、【0015】、【0016】、【0023】及び【0059】には、次の記載がある。 「 【0001】 本発明は、長期間回転を継続することができる回転装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来より、使用上有用な形態のエネルギー(二次エネルギー)、例えば特許文献1のような装置によって電力エネルギーを得るためには、先ず、発電システムなどを稼動するための風力、水力などの装置稼動エネルギー(一次エネルギー)を供給すること、また、一次エネルギーの供給断絶時のために、前記装置稼動動力を得るための動力エネルギーを、あるいは特許文献2のような装置によってオイルなどの流体を媒体として蓄積するエネルギー蓄積設備や、コンプレッサーなどの設備を必要とし、そのために有償の一次エネルギーの使用や、無償のエネルギー源を使用する場合でも、ある程度の規模のエネルギー変換、蓄積装置無くして、発電機を稼動して実用的に二次エネルギーを取り出す、という形態を実現することはできなかったため、ランニングコストだけでなく、装置を設備するための初期投資のかさむことも不可避であった。 【特許文献1】特開平5-223054号公報 【特許文献2】特開平1-237360号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 本発明は、例えば電力エネルギーのような有用な二次エネルギーを得るシステムにおいて、上記のような、稼動、設備両面でのコスト高の問題を解決するために、簡便かつ稼動コストの大幅な低減化が可能な回転装置を提供しようとするものである。 【課題を解決するための手段】 【0004】 本発明は、自然界に存在する不断のエネルギー源の中でも安価な供給が容易な磁力と、それに弾性伸縮力および梃子の原理を組み合わせて用いることにより、始動させれば長時間に回転を続けさせられる回転装置を提供する方法であって、非磁性材料でなる円盤状回転子(回転子)、例えば硬質プラスチックやアルミニウムのような非磁性材料、あるいはステンレススチールなどの弱磁性体等からなる円盤回転子周縁に配設され、該回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とを有し、外部から必要であればエネルギーを与えて回転子を初期始動させた後、回転子とともに回転する前記第一永久磁石へと、繰り返し接近、離去する前記第二永久磁石により生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を一方向に回転させることを特徴とする。」 「 【0012】 さらには、前記副アームの、前記タイミング制御板との接する箇所に、摩擦を低減するための回転輪を形成するとともに、前記副アームと、前記タイミング制御板との接する箇所に、摩擦を低減するためのオイルを塗布し、また、回転軸に軸受けを設けたものであってもよい。」 「 【0015】 本発明に係る回転装置は、自然界に存在する不断のエネルギー源の中でも安価な供給が容易な磁力と、それに弾性伸縮力および梃子の原理を組み合わせて用いることにより、長時間に回転を続ける回転装置を提供する方法であって、例えば非磁性体円盤状回転子(回転子)周縁に配設され、該回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とを有し、始動後、回転子とともに回転する前記第一永久磁石に対して、繰り返し接近する前記第二永久磁石により生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を一方向に回転させることを特徴とする。 【0016】 すなわち、本発明の回転装置は、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは殆どかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとしても、あらゆる有用な回転装置を安価に提供することができる効果がある。 【発明を実施するための最良の形態】」 「 【0023】 以下、本発明の回転装置による回転運動について説明する。 まず、前記回転子2を回転開始(初期始動)させると、前記回転子2と共に回転するタイミング制御板5の回転に伴い、前記タイミング制御板の表面形状に沿って前記副アームが上下運動を開始する。そして、前記副アーム4の上下運動に連動して、前記副アーム4とアーム駆動軸8を共にする前記主アーム6が、上下動作を行なうこととなる。」 「 【0059】 以上のように、本発明の回転装置は、磁力と、梃子の原理とを組み合わせた簡単な装置構成により、長時間に回転をする回転装置を提供することが可能である。すなわち、回転子とともに回転運動する第一永久磁石と、該第一永久磁石に接近および離去を繰り返す運動をする第二永久磁石とが、繰り返し接近するために生じる斥力、若しくは引力により、前記回転子を一方向に回転させることが可能である。よって、動作の原理、装置共に簡便で、保守修理などを除いてランニングコストは殆どかからないため、小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用の動力装置に組み込める回転装置を安価に提供することができる。」 2.-5 平成23年3月25日付けの拒絶査定に記載された拒絶の理由 平成23年3月25日付けの拒絶査定には、「この出願については、平成22年12月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由1.又は2.によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、理由の2.の備考として、次のとおり記載されている。 「(2)理由2.について 出願人は意見書中で、本願発明を出願当初の「自動回転動力装置」から「回転装置」に変更したことにより、特許法第36条の記載不備に係る拒絶理由を回避した旨主張しているが、 1)副アームを弾性部材によりタイミング制御板に押しつける力に抗して、永久磁石の斥力で副アームを回動させることが可能かどうか、 2)また、弾性部材により副アームが押しつけられ、摩擦抵抗も存在する中、永久磁石の斥力で円盤状回転子を回転させることができるかどうか、 3)永久磁石(図4の7A)の斥力で円盤状回転子を回転させる際、他の永久磁石(図4の7B)と円盤状回転子上の永久磁石(図7の3B)間で引力が作用する可能性が有り、その引力に抗して主アーム、副アームを回転させることができるかどうか、等の疑問があり、発明の詳細な説明中の説明のように実施することにより、円盤状回転子を継続的に回転させて動力をとりだすことができるという、明細書中に記載された効果が奏せられるのか、依然として不明である。」 2.-6 当審の判断 平成23年2月23日付け手続補正書により補正された明細書の記載には、本願発明の回転装置が、「長期間回転を継続することができる回転装置に関」(段落【0001】)し、「稼働、設備両面でのコスト高の問題を解決するために、簡便かつ稼働コストの大幅な低減化が可能な回転装置を提供しようとするもの」(段落【0003】)であり、「小型のものは玩具や家庭用発電設備のための動力源、また、大型化も容易であるために船舶用のランニングコストゼロの動力源などとして」(段落【0016】)用いることができる旨が記載されている(上記2.-4参照)。 そして、一般に、家庭用発電設備や船舶用の動力源として回転装置を利用しようとする場合には、該回転装置は、動力を取り出しつつ回転を継続させることが必要であることは明らかである。 これに対し、本願の明細書には、回転装置からどのように動力を取り出すのかが示されていないばかりか、回転装置から動力を取り出しつつ、回転を継続させるための構成が示されていない。 そして、回転装置の軸受け部等には摩擦抵抗を生ずるから、外部からのエネルギーの供給なしに永久磁石から受ける斥力又は引力のいずれかのみで、動力を取り出しつつ回転を継続させることは、エネルギー保存則を考慮すると不可能である。 審判請求人は、平成23年2月23日付けの手続補正書による手続補正において、出願当初の明細書の段落【0016】に記載されていた「このように本発明によればエネルギーを供給することなしに、回転動力を簡素で安価な装置を用いて得られる手段を実現することが可能である。」との記載を削除した。また、同手続補正において、明細書及び特許請求の範囲の「自動回転動力装置」を「回転装置」に補正した。 しかし、上記のとおり、家庭用発電設備や船舶用の動力源として回転装置を利用しようとする場合には、該回転装置は動力を取り出しつつ回転を継続させることが必要であることは明らかであるから、本願発明の回転装置は動力を取り出しつつ回転を継続させることが必要であることに変わりなく、上記平成23年2月23日付けの手続補正書による手続補正によっても、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1ないし9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。 以上により、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1ないし9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 3.むすび 以上のとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明1ないし9は特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-22 |
結審通知日 | 2012-06-26 |
審決日 | 2012-07-09 |
出願番号 | 特願2006-324233(P2006-324233) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(F03G)
P 1 8・ 575- Z (F03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 茂夫 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 藤原 直欣 |
発明の名称 | 回転装置 |
代理人 | 木村 満 |
代理人 | 齋藤 悦子 |