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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1262102
審判番号 不服2011-19417  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-08 
確定日 2012-08-23 
事件の表示 特願2008- 99363「液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月31日出願公開、特開2008-176343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年6月16日に出願した特願2003-170896号(以下「原出願」という。)の一部を平成20年4月7日に新たな特許出願としたものであって、平成22年11月15日付け及び平成23年3月7日付けで手続補正がなされたところ、平成23年5月30日付けで前記平成23年3月7日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月8日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項に係る発明は、平成23年9月8日付け手続補正による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりである。

「少なくとも画素電極と前記画素電極を駆動する能動素子とを複数有する能動素子基板と、前記能動素子基板と対向し、且つ、少なくとも前記画素電極と共に液晶を駆動する共通電極を有する対向基板と、前記能動素子基板と前記対向基板を0.5?3μmの間隙を置いて対向して配置し、前記能動素子基板と前記対向基板との間隙に狭持されたねじれネマチック液晶とを有し、前記ねじれネマチック液晶のねじれピッチpと前記ねじれネマチック液晶層の厚みとなる前記間隙dとの間に、
p/d<15
の関係を有し、且つ、
前記共通電極の電圧であるコモン電圧を変調する駆動部を有し、且つ、前記能動素子基板が凹凸を有し、前記ねじれネマチック液晶層が高分子安定化されていることを特徴とする液晶表示素子。」(以下「本願発明」という。)


2 引用刊行物の記載事項
(1)引用刊行物1
原審における拒絶の理由に引用された、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-278929号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】TFTやMIM素子を各画素に設けたアクティブマトリックス型の液晶表示素子は、この数年の技術進歩で10?15インチといった大型ディスプレイも作れるようになり、パソコン端末や壁掛けTVへの応用が期待されている。しかしながら画面の大型化とともに、その表示性能に対する不満も大きくなっている。その原因は、主としてこれら液晶表示素子が採用しているツイステッドネマチック(以下TNと呼ぶ)という液晶ディスプレイモード自体にある。

【0004】…液晶のセル内でのねじれ角は90度であるので、液晶の自発ピッチpをセルギャップdの4倍、即ちd/p=0.25に設定すれば、液晶のねじれ角と自発ピッチの整合性が最も良くなる。しかしながら実際には、d/pが大きいほど飽和電圧が高くなってコントラスト比が低下するため、カイラルドーパントは可能な限り少なく、逆ツイストドメインが発生しないぎりぎりの量を見極めて添加される。通常pはdの40倍即ちd/p=0.025程度にすることが多い。…」

イ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来のTN型液晶表示素子の特性に対する不満の第一はその視角特性にあった。…従来のTN型液晶は、視角によってその特性が大きく変化する。中でも最も問題になるのは、コントラストが低下する下方向ではなく、むしろ上方向である。上方向から観察すると、透過率は電圧上昇に伴って、いったん極小値をとった後、再び上昇する。従って中間調を表示した場合、より暗く表示すべきところが明るくなる反転現象が生じる。
【0006】本発明はこのような課題を解決するもので、その目的とするところは、液晶の自発ピッチを、2枚の液晶セル基板の配向処理方向によって強制されるピッチよりも短くすることによって、上方向の中間調の反転を抑え、視角特性の優れた液晶表示素子を提供するところにある。」

ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の液晶表示素子は、一対の基板間にねじれ配向をしたネマチック液晶を挟持してなる液晶セルと、これを挟んで両側に配置された一対の偏光板とを備えた液晶表示素子において、前記液晶の自発ピッチが、前記2枚の基板の配向処理方向によって強制される液晶ピッチよりも短いことを特徴とする。d/pを用いて表現すれば、本発明の液晶表示素子のd/pは、2枚の基板の配向処理方向によって決まるd/p=(液晶のねじれ角)/2πよりも大きく、より好ましくは2倍以上大きいことを特徴とする。
【0008】また、前記液晶のねじれ角が約90度であり、かつ前記一対の偏光板の偏光軸方向がほぼ直交していることを特徴とする。90度ツイストの場合、前記d/pは、0.25よりも大きく、より好ましくは0.5よりも大きいことを特徴とする。」

エ 「【0010】
【実施例】(実施例1)本発明の液晶表示素子は、図1に示すように、上側偏光板1、液晶セル2、下側偏光板3、液晶セルの上基板4、下基板5、透明電極6、ネマチック液晶7で構成される。またその各軸の関係は、図2に示すように上側偏光板1の偏光軸(吸収軸)方向を11、液晶セルの上基板4の液晶配向方向を12、液晶セルの下基板5の液晶配向方向を13、下側偏光板3の偏光軸方向を14、11が12となす角度を15、ネマチック液晶7のねじれ角を16、14が13となす角度を17とすると、角度15と角度17はそれぞれ90度に、また角度16も90度に設定する。」

オ 「【0013】(実施例2)実施例2における液晶表示素子の構成、及び各軸の関係ともに実施例1と同様であり、それぞれ図1、図2に示した。
【0014】実施例2においては、ネマチック液晶7に、メルク社製の液晶ZLI-4472にBDH社製のカイラルドーパントCB-15を0.7%添加して用いた。その自発ピッチpは19.8μm、セルギャップdは5.0μmであるので、d/p=0.253である。本実施例の自発ピッチも、基板の液晶配向方向によって強制される液晶ピッチ20μmよりも短い。なおこの程度のd/p値では、配向欠陥の発生は少ないため、液晶のプレチルト角は従来通り約1度にした。」

よって、これらの記載を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「一対の基板間にねじれ配向をしたネマチック液晶を挟持してなる液晶セルと、これを挟んで両側に配置された一対の偏光板とを備えた液晶表示素子であって、
液晶セルは、それぞれ透明電極6を有する上基板4及び下基板5と、該上基板4と下基板5とに挟まれたネマチック液晶7とで構成され、
前記液晶の自発ピッチが、前記2枚の基板の配向処理方向によって強制される液晶ピッチよりも短く、pを液晶の自発ピッチ、dをセルギャップとしたとき、d/pを用いて表現すれば、d/pは、2枚の基板の配向処理方向によって決まるd/p=(液晶のねじれ角)/2πよりも大きく、より好ましくは2倍以上大きく、
また、前記液晶のねじれ角が約90度であり、かつ前記一対の偏光板の偏光軸方向がほぼ直交しており、90度ツイストの場合、前記d/pは、0.25よりも大きく、より好ましくは0.5よりも大きく、
ネマチック液晶7のねじれ角16が90度である実施例では、ネマチック液晶7に、メルク社製の液晶ZLI-4472にBDH社製のカイラルドーパントCB-15を0.7%添加して用い、その自発ピッチpは19.8μm、セルギャップdは5.0μm、d/p=0.253である、液晶表示素子。」

(2)引用刊行物2
同じく、特表2001-506376号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】

71.ディスプレイシステムにおいて:
表示しようとする第1の画像を表す第1の複数の画素データ値を受け取るための第1の複数のピクセル電極を持つ第1の基板と;
該ピクセル電極に作用関係をもって接続された電気光学層と;
該電気光学層に作用関係をもって接続された電極と;を具備し、該第1の画像を表示した後、第1の制御電圧を該電極に印加して該第1の画像が実質上表示されないように該電気光学層の状態を変化させ、次に該電極が第2の制御電圧を受け取った後、第2の複数の画素データ値によって表わされる第2の画像を表示する;
ことを特徴とするディスプレイシステム。
72.上記第1の制御電圧を上記電極に供給するために該電極に接続された電極制御ドライバをさらに具備したことを特徴とする請求項71記載のディスプレイシステム。
73.上記電極制御ドライバが;上記第1の画像の表示を終了する動作と位相制御関係をもって上記第1の制御電圧を供給し、上記第2の画像の表示を開始する動作と位相制御関係をもって上記第2の制御電圧を供給することを特徴とする請求項72記載のディスプレイシステム。
74.第1の制御電圧が上記電極に印加されている時は、上記第1の複数のピクセル電極が上記第1の複数の画素データ値を保持していても、上記該第1の画像を実質上表示することができないことを特徴とする請求項73記載のディスプレイシステム。
75.上記電極に上記第2の制御電圧が印加されると、ほとんど全ての上記第1の複数のピクセル電極が上記第2の画像中の対応する複数の画素を同時に更新させるようにして該第2の画像が表示されることを特徴とする請求項74記載のディスプレイシステム。
76.上記対応する複数の画素が、ディスプレイシステムの画素の複数の行上の画素を含むことを特徴とする請求項75記載のディスプレイシステム。

78.上記第2の複数の画素データ値が、上記第1の制御電圧が上記電極に印加されている間に上記第1の複数のピクセル電極に印加されることを特徴とする請求項76記載のディスプレイシステム。

80.上記電気光学層が液晶材料よりなり、該液晶が少なくとも第1の変光状態と第2の変光状態を有し、上記第1の制御電圧が、光がディスプレイシステムを通過することができないように該液晶を該第1の変光状態にセットし、上記第2の制御電圧が、光がディスプレイシステムを通過することができるように該液晶を該第2の変光状態にセットすることを特徴とする請求項78記載のディスプレイシステム。
81.上記液晶がネマチック液晶であることを特徴とする請求項80記載のディスプレイシステム。」(2頁1行?11頁末行)

イ 「発明の要約
本発明は、液晶層のような電気光学材料の状態を変えるために使用される電極上の電圧を、ピクセル電極上に画素データを含んでいても表示データが見えないように制御するための種々の方法及び装置を提供するものである。…
本発明の一実施態様のディスプレイシステムは、表示しようとする第1の画像を表す第1の複数の画素データ値を受け取るための第1の複数のピクセル電極を持つ第1の基板を具備し、かつピクセル電極に作用関係をもって接続された電気光学層及び電気光学層に作用関係をもって接続された電極を具備する。このディスプレイシステムは、第1の画像を表示した後、第1の制御電圧をその電極に印加することによって、第1の画像が実質的に見えず、従って表示されないように電気光学層の状態を変え、次にこのディスプレイシステムは、その電極が第2の制御電圧を受け取った後に、第2の複数の画素データ値によって表される第2の画像を表示する。典型的には、本発明の少なくとも一部の実施態様においては、電気光学層は液晶層であり、その電極は共通カバーガラス電極である。…少なくとも一部の実施態様においては、第1の制御電圧は、液晶層をその変光状態、すなわち光を変化させる状態を、ピクセル電極上の画素データがまだ存在していても、ディスプレイを「暗く」するように変化させる、あるいは、そうでなければディスプレイに白又は黒以外の他の色が表示されるようにする。ディスプレイが第1の画像が見えないないような状態に保持されているあいだに、ディスプレイシステムはその後、液晶材料を実質的に表示データが見えない状態から解除する第2の制御電圧をその電極に受け取らせることによって第2の画像を表示する。」(18頁16行?19頁14行)

ウ 「発明の詳細な説明

図1Aは、本発明の一実施形態によるディスプレイシステム12の断面図を示し、図示実施形態においては電気光学層22が第1の基板20と第2の基板24との間に配置されている。第1の基板20は、共通電極26あるいはカバーガラス電極26として知られている1つの制御電極を有する。第2の基板は複数のピクセル電極28を持ち、これらの各ピクセル電極は、更新された画像データを互いに独立して周期的に取り込む。各ピクセル電極28は、所与の期間あるいは持続時間必要な画像データを維持し、その後、それらの取り込まれた画像データは新しい画像データで置換される。共通電極26上の電圧に対する各ピクセル電極に印加される電圧は、液晶材の両側間に電圧(VLC)を生じさせる。この電圧は、液晶を少なくとも2つの変光状態に選択的に置くことができるように液晶の変光特性を制御する。通常これらの状態には、光がディスプレイシステムを透過する状態、あるいは光がディスプレイシステムを透過しない状態が含まれる。第1の基板20と第2の基板24の少なくとも一方は光に対して透明かあるいは半透明である。本発明の一実施形態によれば、電気光学層22は液晶材で構成することができ、またディスプレイシステム12は液晶表示装置であってもよい。…ディスプレイシステム12は、例えば透過型液晶表示装置のような薄膜トランジスタ(TFT)システムであってもよく、あるいは米国特許第5,426,526号に記載されているシリコン基板上液晶デバイスのような反射型液晶表示装置であってもよい。」(24頁6行?25頁5行)

エ 「図9Aに示すように、本発明のさらにもう一つの実施形態によれば、共通電極電圧は、暗状態への駆動時にピクセル電極上にどのような画素データが記憶されているかに関わらず、電気光学材料あるいは液晶の迅速な「暗側への駆動」を達成するためのパルスで変調することができる。ノーマリーホワイトであって、セルを暗状態に駆動するための電圧によるアドレスが必要な一定の液晶セル構造を構成することができる。この実施形態によれば、この電圧アドレスは共通電極を画素電圧と十分異なる電圧で駆動して迅速な暗側への駆動を達成することによって行うことができる。グレーレベルあるいはカラーレベルは、その後液晶を元の状態に緩和させ、ピクセル電極上の電圧によって異なるグレーレベルあるいはカラーレベルを生じさせることによって設定される。…
共通電極電圧は、暗状態を保持するのに必要な電圧より高い電圧を用いることによりオーバードライブすることによって、電気光学材料を非常に迅速に暗状態にすることができる。」(39頁6?21行)

よって、これらの記載を総合すると、引用刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「表示しようとする第1の画像を表す第1の複数の画素データ値を受け取るための第1の複数のピクセル電極を持つ第1の基板と、ピクセル電極に作用関係をもって接続された電気光学層及び電気光学層に作用関係をもって接続された電極を具備し、第1の画像を表示した後、第1の制御電圧をその電極に印加することによって、第1の画像が実質的に見えず、従って表示されないように電気光学層の状態を変え、次に、その電極が第2の制御電圧を受け取った後に、第2の複数の画素データ値によって表される第2の画像を表示するするディスプレイシステムであって、
電気光学層はネマチック液晶層であり、その電極は共通カバーガラス電極であり、第1の制御電圧は、液晶層をその変光状態、すなわち光を変化させる状態を、ピクセル電極上の画素データがまだ存在していても、ディスプレイを「暗く」するように変化させ、
一つの実施形態によれば、共通電極電圧は、暗状態への駆動時にピクセル電極上にどのような画素データが記憶されているかに関わらず、電気光学材料あるいは液晶の迅速な「暗側への駆動」を達成するためのパルスで変調することができ、共通電極電圧は、暗状態を保持するのに必要な電圧より高い電圧を用いることによりオーバードライブすることによって、電気光学材料を非常に迅速に暗状態にすることができ、
例えば透過型液晶表示装置のような薄膜トランジスタ(TFT)システムであってもよい、ディスプレイシステム。」

(3)引用刊行物3
同じく、特開2000-347175号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 一対の基板間に液晶層を介在させ、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記液晶層側の面に配向膜が形成されてなる液晶装置において、
前記液晶層内には、該液晶層内の液晶分子に対する前記配向膜の配向規制力とほぼ同等もしくはそれよりも強い配向規制力を有するポリマー分散体を前記液晶層内に設けたことを特徴とする液晶装置。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】…液晶装置において、何らかの原因で配向膜が液晶分子に対して与えている配向規制力が低下すると、先ず、配向膜界面の液晶分子の配向に乱れが生じ、それが液晶層内の液晶分子全体に影響を及ぼすという問題点がある。」

ウ 「【0018】(全体構成)図1は、本発明による液晶装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、その一部の拡大縦断面図である。図3は、図1に示す液晶装置に電圧を印加した状態における拡大縦断面図である。
【0019】図1および図2において、1、2はガラス等よりなる上下一対の基板で、その両基板1、2間には液晶層3が介在している。4は液晶層3の周縁部に設けたシール部材、5は上側偏向板、6は下側偏光板である。
【0020】両基板1、2の液晶層3側の面には、図2に示すように、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極7、8が形成され、更にその各透明電極7、8の液晶層3側の面には配向膜9、10を形成すると共に、ラビング等の配向処理が施されている。
【0021】液晶層3に用いる液晶として、本実施形態においては正の誘電率異方性を有する液晶が用いられ、液晶層3は、いわゆるTN型の液晶層になっている。電圧無印加状態(液晶層への印加電圧が液晶のしきい値電圧以下の状態)では、この液晶層3では、液晶層3内の液晶分子3aが液晶層の厚さ方向に約90度の角度でねじれ配向しているのに対して、電圧印加状態(液晶層への印加電圧が液晶のしきい値電圧以上の状態)では、図3に示すように液晶分子3aが基板1、2に対して略垂直に配向するように構成されている。
【0022】また、液晶層3内には、ネットワーク状のポリマー分散体30が形成されている。このポリマー分散体30は、配向膜9、10による液晶分子の配向規制力よりも強い配向規制力を有し、かつ電圧印加時および無印加時における液晶分子の前記のような所定の配向動作を妨げない程度に形成されている。例えば、液晶に対するポリマー分散体30の重量割合としては0.1?5重量%程度が望ましい。
【0023】前記の構成において、上側偏光板5および下側偏向板6の偏向軸を、それぞれ各偏向板側の基板に接する液晶分子と略平行な方向、すなわち上側偏光板5については図2において左右方向、下側偏向板6については紙面と直角方向に配置すれば、図2に示すように、電圧無印加状態において上側偏向板5から液晶層3内に入った光は、液晶分子3aのねじれ配向に沿って旋回しながら下側偏光板6の偏向軸と平行な方向に旋回し、その下側偏向板6を透過して明るい表示が得られる。これに対して、図3に示すように、電圧印加状態においては上側偏向板5から液晶層3内に入った光は、そのまま透過して上側偏向板5とクロスニコルの状態にある下側偏光板6を透過することなく暗い表示となる。
【0024】その際、液晶層3内に設けたポリマー分散体30によって、電圧印加時および無印加時の液晶分子3aの配向動作が何ら妨げられることなく良好に表示できると共に、例えば、強い光を長時間照射して配向膜による液晶分子の配向規制力が低下しても、それと同等もしくはそれよりも配向規制力の強い前記ポリマー分散体30によって初期の配向状態ならびに電圧印加時および無印加時の液晶分子の所定の配向動作を維持させることができる。」

エ 「【0025】(液晶装置の製造方法)次に、このような液晶装置の製造方法、特にポリマー分散体の形成方法について説明する。
【0026】図4は、ポリマー分散体の形成方法を示す説明図である。
【0027】本形態の液晶装置を製造するにあたって、液晶層3内にポリマー分散体30を形成する材料や形成手段等は適宜であるが、例えば、前記のような液晶装置を製造する際には、予め液晶中にモノマーを混入しておき、その液晶と共に一対の基板1、2間に充填すると共に、ラビング処理等の配向処理を施した配向膜によって液晶層3内の液晶分子3aを所定の初期配向状態に保って前記モノマーを重合してポリマー分散体30を形成すればよい。
【0028】モノマーとしては、例えば液晶性の紫外線硬化型モノマーを用いることができる。具体的には、例えば下記の表1または表2に記載したUVキュアラブル液晶を1種もしくは複数種組み合わせて使用することができる。
【0029】
【表1】

【0039】そして前記モノマーを、前述のように液晶の表示特性を妨げないように、例えば、液晶の重量に対して0.1?5重量%程度の割合で液晶内に混入し、その液晶とともに、図4のように一対の基板1、2間に充填すると共に、ラビング処理等の配向処理を施した配向膜21、22によって液晶層3内の液晶分子3aを所定の初期配向状態に保って紫外線UVを照射する。その照射量としては、例えば300?400nm程度の紫外線を5?15mW/cm^(2)程度の強度で、10分間程度照射すればよい。その紫外線照射によって液晶層3内のモノマーが重合してポリマー分散体30が形成されるものである。

【0042】…電極構造は単純マトリクス型やセグメント型その他適宜であり、さらにTFT(Thin Film Transistor)素子やTFD(Thin Film Diode)素子等のアクティブ素子を用いたものにも適用可能である。」

よって、これらの記載を総合すると、引用刊行物3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「一対の基板間に液晶層を介在させ、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記液晶層側の面に配向膜が形成され、何らかの原因で配向膜が液晶分子に対して与えている配向規制力が低下すると、先ず、配向膜界面の液晶分子の配向に乱れが生じ、それが液晶層内の液晶分子全体に影響を及ぼすという問題点があるところ、該液晶層内の液晶分子に対する前記配向膜の配向規制力とほぼ同等もしくはそれよりも強い配向規制力を有するポリマー分散体を前記液晶層内に設けてなる液晶装置であって、
一実施形態において、液晶層3は、電圧無印加状態では、液晶層3内の液晶分子3aが液晶層の厚さ方向に約90度の角度でねじれ配向しているいわゆるTN型の液晶層であり、液晶層3内には、配向膜9、10による液晶分子の配向規制力よりも強い配向規制力を有し、かつ電圧印加時および無印加時における液晶分子の前記のような所定の配向動作を妨げない程度に形成されているネットワーク状のポリマー分散体30が形成されており、
製造するにあたって、予め液晶中にモノマーを混入しておき、その液晶と共に一対の基板1、2間に充填すると共に、ラビング処理等の配向処理を施した配向膜によって液晶層3内の液晶分子3aを所定の初期配向状態に保って紫外線UVを照射して前記モノマーを重合してポリマー分散体30を形成し、
電極構造はTFT素子等のアクティブ素子を用いたものにも適用可能である、液晶装置。」


3 対比
本願発明と引用発明1を対比する。
(1)引用発明1の「液晶表示素子」は、「一対の基板間にねじれ配向をしたネマチック液晶を挟持してなる液晶セルと、これを挟んで両側に配置された一対の偏光板とを備えた」ものであって、「液晶セルは、それぞれ透明電極6を有する上基板4及び下基板5と、該上基板4と下基板5とに挟まれたネマチック液晶7とで構成され」るものであるから、
ア 引用発明1の「(下基板5に設けられる)透明電極6」と、本願発明の「画素電極」とは、「第1の電極」である点で一致し、引用発明1の「透明電極6を有する下基板5」と、本願発明の「少なくとも画素電極と前記画素電極を駆動する能動素子とを複数有する能動素子基板」とは、「第1の電極を有する第1の基板」である点で一致する。また、
イ 引用発明1の「(上基板4に設けられる)透明電極6」と、本願発明の「(前記画素電極とともに液晶を駆動する)共通電極」とは、「第2の電極」である点で一致し、引用発明1の「透明電極6を有する上基板4」と、本願発明の「前記能動素子基板と対向し、且つ、少なくとも前記画素電極と共に液晶を駆動する共通電極を有する対向基板」とは、「前記第1の基板と対向し、且つ、少なくとも前記第1の電極と共に液晶を駆動する第2の電極有する基板」である点で一致する。また、
ウ 引用発明1の「上基板4と下基板5とに挟まれたネマチック液晶7」と、本願発明の「前記能動素子基板と前記対向基板との間隙に狭持されたねじれネマチック液晶」とは、「前記第1の基板と前記第2の基板との間隙に狭持されたねじれネマチック液晶」である点で一致する。

(2)引用発明1は、「pを液晶の自発ピッチ、dをセルギャップとしたとき、…d/pは、2枚の基板の配向処理方向によって決まるd/p=(液晶のねじれ角)/2πよりも大きく、より好ましくは2倍以上大きく、また、前記液晶のねじれ角が約90度であり、かつ前記一対の偏光板の偏光軸方向がほぼ直交しており、90度ツイストの場合、前記d/pは、0.25よりも大きく、より好ましくは0.5よりも大きく、ネマチック液晶7のねじれ角16が90度である実施例では、…d/p=0.253であ」るものであって、「90度ツイストの場合」に「d/p」が「0.25よりも大き」く、その逆数であるp/dは4よりも小さいといえるから、引用発明1は、本願発明の「前記ねじれネマチック液晶のねじれピッチpと前記ねじれネマチック液晶層の厚みとなる前記間隙dとの間に、p/d<15の関係を有し」との事項を備える。

(3)引用発明1は、「ネマチック液晶7のねじれ角16が90度である実施例では、…セルギャップdは5.0μm」であるから、引用発明1の「セルギャップdは5.0μm」との事項と、本願発明の「前記能動素子基板と前記対向基板を0.5?3μmの間隙を置いて対向して配置し」との事項とは、「前記第1の基板と前記第2の基板を間隙を置いて対向して配置し」との点で一致する。

(4)引用発明1の「液晶表示素子」は、本願発明の「液晶表示素子」に相当する。

よって、本願発明と引用発明1とは、
「第1の電極を有する第1の基板と、前記第1の基板と対向し、且つ、少なくとも前記第1の電極と共に液晶を駆動する第2の電極有する基板と、前記第1の基板と前記第2の基板を間隙を置いて対向して配置し、前記第1の基板と前記第2の基板との間隙に狭持されたねじれネマチック液晶とを有し、前記ねじれネマチック液晶のねじれピッチpと前記ねじれネマチック液晶層の厚みとなる前記間隙dとの間に、
p/d<15
の関係を有する液晶表示素子。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

ア 本願発明は、少なくとも画素電極と前記画素電極を駆動する能動素子とを複数有する能動素子基板と、前記能動素子基板と対向し、且つ、少なくとも前記画素電極と共に液晶を駆動する共通電極を有する対向基板と、前記能動素子基板と前記対向基板を0.5?3μmの間隙を置いて対向して配置し、前記能動素子基板と前記対向基板との間隙にねじれネマチック液晶を狭持したものであって、前記能動素子基板が凹凸を有し、共通電極の電圧であるコモン電圧を変調する駆動部を有するものであるのに対し、引用発明1は、上基板4及び下基板5がそのような能動素子基板及び対向基板であるのか否か明らかではなく、また、セルギャップが5.0μmであり、コモン電圧を変調する駆動部を有するのか否か明らかではない点(以下「相違点1」という。)。
イ ねじれネマチック液晶層が、本願発明では、高分子安定化されているのに対し、引用発明1では、そのような高分子安定化されているのか否か明らかではない点(以下「相違点2」という。)。


4 判断
上記相違点につき検討する。
[相違点1]について
引用刊行物1には、「TFTやMIM素子を各画素に設けたアクティブマトリックス型の液晶表示素子は、この数年の技術進歩で10?15インチといった大型ディスプレイも作れるようになり、パソコン端末や壁掛けTVへの応用が期待されている。しかしながら画面の大型化とともに、その表示性能に対する不満も大きくなっている。その原因は、主としてこれら液晶表示素子が採用しているツイステッドネマチック(以下TNと呼ぶ)という液晶ディスプレイモード自体にある。」(【0002】、上記2(1)ア)との記載があり、当業者において、引用発明1の「液晶表示素子」をアクティブマトリックス型のものとして把握し、その「下基板5」、「(下基板5に設けられた)透明電極6」、「上基板4」及び「(上基板4に設けられた)透明電極6」を、それぞれ、「能動素子基板」、「(能動素子基板の設けられた)画素電極」、「対向基板」及び「(対向基板に設けられた)共通電極」として把握すること自体、格別困難なことではない。また、本願明細書の以下の記載、「アクティブマトリックス型の液晶素子はTFT素子をスイッチング素子として用いている。このために液晶素子内に半導体層、絶縁膜、配線層および画素電極を備えている。この結果、基板表面に凹凸が形成されている。」(【0058】)及び「液晶パネルを構成するTFTアレイ基板は、単純マトリックス駆動に用いる基板に比べ、基板上にTFT(薄膜トランジスタ)を作りこむために表面に凹凸が生じる。」(【0113】)に照らせば、引用発明1の「(能動素子基板として把握することができる)下基板5」は凹凸を有するものということができる。
しかるところ、ツイストネマチック液晶表示装置において、液晶の印加電圧の変化に対応する応答速度が液晶の層厚の2乗に反比例すること(応答時間が液晶の層厚の2乗に比例すること)は、原出願の出願時点で周知であるから(必要なら、特開平5-27255号公報(【0078】)、特開平7-301826号公報(【0004】、【0005】)、特開2002-149127号公報(【0049】?【0051】参照。)、引用発明1において、液晶の印加電圧の変化に対応する応答速度を高めるために、実施例において「5.0μm」とされている「セルギャップ」の値をさらに小さくして、0.5?3μm程度となすことは、当業者が容易になし得ることである。
また、上記2(2)によれば、引用刊行物2には、上記引用発明2が記載され、「電気光学層はネマチック液晶層であり」、「例えば透過型液晶表示装置のような薄膜トランジスタ(TFT)システムであってもよい、ディスプレイシステム」において、「共通電極電圧」を「暗状態への駆動時に…液晶の迅速な『暗側への駆動』を達成するためのパルスで変調」し、「共通電極電圧は、暗状態を保持するのに必要な電圧より高い電圧を用いることによりオーバードライブする」ものが示されているから、引用発明1において、液晶の迅速な暗側への駆動を達成するために、「(上基板4に設けられ、共通電極として把握できる)透明電極6」にパルス変調電圧を印加する駆動部を設けるようになすことは、当業者が容易になし得ることである。
[相違点2]について
上記2(3)によれば、引用刊行物3には、上記引用発明3が記載され、「何らかの原因で配向膜が液晶分子に対して与えている配向規制力が低下すると、先ず、配向膜界面の液晶分子の配向に乱れが生じ、それが液晶層内の液晶分子全体に影響を及ぼすという問題」を解決するために、「電圧無印加状態では、液晶層3内の液晶分子3aが液晶層の厚さ方向に約90度の角度でねじれ配向しているいわゆるTN型の液晶層」の「液晶層3」内に、「配向膜9、10による液晶分子の配向規制力よりも強い配向規制力を有し、かつ電圧印加時および無印加時における液晶分子の前記のような所定の配向動作を妨げない程度に形成されているネットワーク状のポリマー分散体30」を形成し、「電極構造はTFT素子等のアクティブ素子を用いたものにも適用可能である、液晶装置」が示されているところ、引用発明1の「液晶表示素子」に配向膜が設けられていることは当業者において明らかであるから、引用発明1において、配向膜が液晶分子に対して与えている配向規制力が低下し、配向膜界面の液晶分子の配向に乱れが生じるとの問題を解決するために、その「(90度ツイストした)ネマチック液晶」内に、「ネットワーク状のポリマー分散体30」を形成して、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

また、本願発明の奏する効果が、引用発明1?3及び上記周知技術から当業者が予測困難な程の格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-20 
結審通知日 2012-06-26 
審決日 2012-07-09 
出願番号 特願2008-99363(P2008-99363)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲荷 宗良鈴木 俊光  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 小松 徹三
北川 創
発明の名称 液晶表示素子  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  
代理人 緒方 雅昭  

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