• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1262114
審判番号 不服2010-322  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-07 
確定日 2012-08-21 
事件の表示 特願2003-534174号「コンタクトレンズを注型する金型部分を製造する際に有用なツール及びこれを使用するコンタクトレンズ製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月17日国際公開、WO03/31162、平成17年 2月17日国内公表、特表2005-504665号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年10月11日を国際出願日とする出願であって、平成21年9月3日付けで拒絶査定がなされ(9月7日発送。)、これに対し、平成22年1月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判請求と同時に手続補正がなされたものであって、その請求項5に係る発明は、平成20年3月14日付け、及び平成22年1月7日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「完全成形コンタクトレンズ製品を製造する方法であって、
所望のコンタクトレンズ後側フェースに全体として一致した第1の表面部分、及び第1の表面部分を包囲し、所望の完全成形コンタクトレンズの前側フェースから所望の後側フェースまで延びた所望のコンタクトレンズの外側周辺エッジ表面に対応した、異なった凸状湾曲を連続させた第2の表面部分を有する裏面ツールを用意する工程と、
射出成形装置内に位置決めする工程と、
成形可能なポリマー材料を射出成形装置内に導入し、裏面ツールの第1及び第2の表面部分のネガの表面部分を形成する射出成形の第1のポリマー金型部分を形成するのに有効な条件を成形可能な材料に与える工程と、
射出成形の第1のポリマー金型部分と第2の金型部分を組み合わせてこれらの間にレンズの形をしたキャビティを形成する工程と、
組合せ状態の金型部分のレンズ形キャビティ中に完全成形コンタクトレンズ部材を形成する工程と、
金型部分から完全成形コンタクトレンズ部材を取り出す工程とを有していることを特徴とする方法。」

II.引用例の記載事項
A.これに対して、原査定の拒絶の理由で引用した、特開昭55-151618号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が図面とともに記載されている。
ア「コンタクトレンズの所定の直径、後面、完成縁部及び前面を有する、完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズの成形に使用される廃棄式コンタクトレンズ成形型で:
狭い端部に凸状成形面を有する中空の台形雄型で、該凸状成形面は、レンズ後面の成形に必要な所定第1半径、該雄型を通る第1縦軸、上記雄型の狭い端部から、上記凸状成形面に向つて半径方向内側に延び、かつ第1接合面を形成する第1及び第2縁部を有する、一体の連続したリング状の剛性接合部、及び上記凸状成形面から上記第1接合面に達し、かつ上記レンズ完全縁部の成形に必要な所定第2半径を有する凹状連続面を有する台形雄型、及び
上記雄型が嵌合するため狭い端部に空洞部を有する中空の台形雌型で、該空洞部は中心に凹状成形面を有し、該凹状成形面は、レンズ前面の成形に必要な所定第3半径、上記雌型を通る第2縦軸、上記凹状成形面の周辺から半径方向外側に向い、かつ内縁部と外縁部とを有する第2接合面、及び上記外縁から雌型の狭い端部まで延び出す外向きテーパ壁を有し、上記雄型の第1縁部と上記雌型の内縁部とは同一直径を有し、上記第2縁部は、雄型と雌型を組合わせた際に上記第1縦軸と第2縦軸とが一致して該第2縁部が上記外縁部と締り嵌めするように選択された直径を有する逆台形雌型、
で構成されるコンタクトレンズ成形型。」(1ページ左下欄5行?右下欄12行)
イ「本発明を添付図面によつて説明すると、第1図に示す雌型は広い端部から延び出すフランジ2を有する台形支持体1で構成される。凹形成形面3は連続した扁平接合面4を有し、この接合面は成形面3の周辺5から半径方向外側に延びる。外向きテーパ壁6は接合面4の縁部7から台形支持体1の狭い端部8に達する。
雄型はフランジ10を有する台形側面9で構成され、このフランジは台形の大きい端部から外側に延び、又凸状成形面11が台形側面9の小さい端部を横切って形成されている。凹部12が成形面11の周辺の周囲の溝を形成し、この凹部は空洞部13内で成形されるレンズの縁部の形状を決定する。連続した扁平接合面14は凹部12から半径方向外側に向けて延び、台形側面9の小さい端部に達する。」(2ページ左上欄9行?右上欄4行)
ウ「成形面3と11の半径は所定の屈折力とレンズ製品のベース曲線を与えるように公知の方法で選択される。これらの成形面は両成形型を組み合わせた時共通軸15を有する。
第2図に示されるように両成形型の同軸組み合わせは、テーパ壁6を有する接合面4の連接点の縁部7と、接合面14と台形側面の連接点の縁部16との間の締り嵌めによつて得られる。この締めしろ量は凹部12の形状も成形面11の形状も接合面4が接合面14に接触した時変形が起こらないように選択される。台形側面9とテーパ壁6の傾斜角の差によつて押湯17が形成され、この押湯は空洞部13をレンズ材料が完全に充填されるのに必要な余分の材料を収容する。」(2ページ右上欄5?19行)
エ「通常、直径が0.3-0.7インチ(7.62-17.78mm)、厚さが0.003-0.04インチ(0.076-1.02mm)で、収縮が10-20容量%のレンズに対してはポリプロピレンが好適な成形型材料である。」(2ページ左下欄10?13行)

そして、図1には、レンズ後面の成形に必要な第1半径を有する凸状成形面11及び凸状成形面11から第1接合面(扁平接合面)に達する、第1半径より小さいレンズ完全縁部の成形に必要な第2半径を有する凹状連続面(凹部12)が形成された雄型と、凹形成形面3を持つ雌型とを組み合わせて、これらの間にレンズの形状をした空洞部13を形成した状態が示されている。
また、図2には、凸状成形面11に連続し、レンズ後面からレンズ前面にかけてレンズの縁部を成形する凹部12の、第2半径を持つ円弧状の凹状連続面が拡大して示されている。

上記記載について検討すると、記載アには、コンタクトレンズの所定の直径、後面、完成縁部及び前面を有する、完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズの成形に使用される廃棄式コンタクトレンズ成形型であって、レンズ後面の成形に必要な所定第1半径を有する凸状成形面と、凸状成形面から第1接合面に達し、かつレンズ完全縁部の成形に必要な所定第2半径を有する凹状連続面を備えた雄型、及び雄型と組み合わされて用いられる、レンズ前面の成形に必要な所定第3半径を有する凹状成形面を備えた雌型が示されている。
そこで、記載アには、完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズの後面の凹状面形状と相補的な所定第1半径を有する凸状成形面と、これに連続しレンズ完全縁部の凸状連続面形状と相補的な所定第2半径を有する凹状連続面を有する雄型が記載されているといえる。
また、記載アより、引用例1には、完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズを、雄型と雌型とからなる廃棄式コンタクトレンズ成形型を組み合わせて使用して成形することが記載されているといえる。
記載イには、雄型の凹部12が成形面11の周辺の周囲の溝を形成し、空洞部13内で成形されるレンズの縁部の形状を決定することが示されている。
ここで、「溝」について、引用された図1を参酌すると、雄型の所定第2半径を有する凹状連続面は、成形されるレンズの後面から前面に延びた円弧状の縁部形状を与えるものであるといえる。
記載ウには、雄型及び雌型の成形面3と11の半径は所定の屈折力とレンズ製品のベース曲線を与えるように公知の方法で選択されることが示されている。
また、記載ウには、両成形型を組み合わせたときに形成される空洞部13にレンズ材料を充填することが示されている。
記載エには、この廃棄式コンタクトレンズ成形型の材料はポリプロピレンが好適であることが示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という)が記載されている。
「完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズを製造する方法であって、
所望の水膨潤性ソフトコンタクトレンズの後面の凹状面形状と相補的な所定第1半径を有する凸状成形面と、その周囲に連続しレンズの後面から前面にのびた円弧状のレンズ完全縁部の凸状連続面形状と相補的な所定第2半径を有する凹状連続面とを有するポリプロピレン等の材料からなる雄型を用意する工程と、
雄型及び雌型とからなる廃棄式コンタクトレンズ成形型を組み合わせてこれらの間にレンズの形状をした空洞部を形成する工程と、
廃棄式コンタクトレンズ成形型を組み合わせたときに形成される空洞部にレンズ材料を充填し完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズを成形する工程と、
を有する方法。」

III.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズを製造する方法」は、本願発明の「完全成形コンタクトレンズ製品を製造する方法」に相当する。
次に、引用発明の「所望の水膨潤性ソフトコンタクトレンズの後面の凹状面形状と相補的な所定第1半径を有する凸状成形面と、その周囲に連続しレンズの後面から前面にのびた円弧状のレンズ完全縁部の凸状連続面形状と相補的な所定第2半径を有する凹状連続面とを有するポリプロピレン等の材料からなる雄型を用意する工程」について、本願発明の「所望のコンタクトレンズ後側フェースに全体として一致した第1の表面部分、及び第1の表面部分を包囲し、所望の完全成形コンタクトレンズの前側フェースから所望の後側フェースまで延びた所望のコンタクトレンズの外側周辺エッジ表面に対応した、異なった凸状湾曲を連続させた第2の表面部分を有する裏面ツールを用意する工程」及び「成形可能なポリマー材料を射出成形装置内に導入し、裏面ツールの第1及び第2の表面部分のネガの表面部分を形成する射出成形の第1のポリマー金型部分を形成するのに有効な条件を成形可能な材料に与える工程」と対応させながら検討すると、引用発明にあっては雄型をどのように用意するか明らかではないが、用意された雄型の形状についてみると、「所望の水膨潤性ソフトコンタクトレンズの後面の凹状面形状」は、本願発明でいう「所望のコンタクトレンズ後側フェース」に相当するとともに、これに全体として一致した「第1の表面部分」の形状に対応し、「その周囲に連続しレンズの後面から前面にのびた円弧状のレンズ完全縁部の凸状連続面形状」は、本願発明でいう、後側フェースに一致した「第1の表面部分を包囲し、所望の完全成形コンタクトレンズの前側フェースから所望の後側フェースまで延びた所望のコンタクトレンズの外側周辺エッジ表面」に相当するとともに、外側周辺エッジ表面に対応した「異なった凸状湾曲を連続させた第2の表面部分」の形状に対応するといえる。
したがって、引用発明の「雄型」は、ポリプロピレン等の材料からなり、コンタクトレンズ部材に所望のコンタクトレンズの第1及び第2の表面部分に相当する形状を与えるものである点で、本願発明の、第1及び第2の表面部分のネガの表面部分を形成した「第1のポリマー金型部分」に相当するといえる。
そして、引用発明の「雄型及び雌型とからなる廃棄式コンタクトレンズ成形型を組み合わせてこれらの間にレンズの形状をした空洞部を形成する工程」は、上述のように「雄型」が本願発明の「第1のポリマー金型部分」に相当し、同様に「雌型」が「第2のポリマー金型部分」に相当し、「レンズの形状をした空洞部」が「レンズの形をしたキャビティ」に相当することから、本願発明の「第1のポリマー金型部分と第2の金型部分を組み合わせてこれらの間にレンズの形をしたキャビティを形成する工程」に相当する。
さらに、引用発明の「廃棄式コンタクトレンズ成形型を組み合わせたときに形成される空洞部にレンズ材料を充填し完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズを成形する工程」は、本願発明の「組合せ状態の金型部分のレンズ形キャビティ中に完全成形コンタクトレンズ部材を形成する工程」に相当する。

したがって、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
(一致点)
「完全成形コンタクトレンズ製品を製造する方法であって、
第1のポリマー金型部分と第2の金型部分を組み合わせてこれらの間にレンズの形をしたキャビティを形成する工程と、
組合せ状態の金型部分のレンズ形キャビティ中に完全成形コンタクトレンズ部材を形成する工程と、
を有している方法。」

そして、両者は、次の点で相違する(対応する引用発明(引用例記載)の用語を( )内に示す)。
(相違点a)
本願発明は、「所望のコンタクトレンズ後側フェースに全体として一致した第1の表面部分、及び第1の表面部分を包囲し、所望の完全成形コンタクトレンズの前側フェースから所望の後側フェースまで延びた所望のコンタクトレンズの外側周辺エッジ表面に対応した、異なった凸状湾曲を連続させた第2の表面部分を有する裏面ツールを用意する工程と、射出成形装置内に位置決めする工程と、成形可能なポリマー材料を射出成形装置内に導入し、裏面ツールの第1及び第2の表面部分のネガの表面部分を形成する射出成形の第1のポリマー金型部分を形成するのに有効な条件を成形可能な材料に与える工程」を有するのに対し、引用発明は、第1及び第2の表面部分のネガの表面部分を形成したものである第1のポリマー金型部分(雄型)を用意する方法が明らかでない点。

(相違点b)
本願発明は、「金型部分から完全成形コンタクトレンズ部材を取り出す工程」を有するのに対し、引用発明は、この工程について明らかでない点。

IV.判断
上記相違点について検討する。
(相違点aについて)
例えば、原査定の拒絶の理由で引用した、特開平4-226310号公報(以下「引用例2」という)に記載されるように、ポリプロピレン等の材料からなる廃棄式コンタクトレンズ成形型を射出成形により製造することは、従来周知である。
すなわち、引用例2には、傷なしの前表面および後表面そして完全な縁部を持ったコンタクトレンズの簡単な製造を可能にする注入成形半型を、ポリプロピレンを成形型材料として射出成形プロセスにより製造することが記載されている(特に段落【0022】,【0025】参照)。
ここで、射出成形法が、溶融したプラスチック材料を、所望の製品の形状をした空隙を有する金型に射出圧を加えて押し込み、充填して成形する成形方法であることは広く、従来周知な事項であるが、さらに、廃棄式コンタクトレンズ成形型を射出成形により製造するにあたり、そのための金型をツールを用いて構成することも以下に示すように従来周知な事項にすぎない。
すなわち、例えば、本件明細書の背景技術(段落【0005】)として示された米国特許第5,611,970号明細書には、コンタクトレンズの成形に先立ち、射出成形機の空隙に樹脂を射出して成形型部材を成型することが記載され、さらに、成形型部材の光学的表面を成形するためのツールを射出成形機に取付けることが記載されている(特に明細書2欄3?15行参照)。
同じく、米国特許第5,951,934号明細書には、コンタクトレンズを成形するためのプラスチック成形型を、滑らかな光学的成形表面を備えた金属ツールを有するマスター金型から射出成形法で製造することが記載されている(特に明細書2欄49?56行参照)。

そこで、引用発明に上記周知事項を適用し、第1及び第2の表面部分のネガの表面部分が形成された第1のポリマー金型部分(雄型)を成形可能な第1及び第2の表面部分を持つインサートを有する裏面ツールを用意し、これを射出成形装置に取り付け、プラスチック材料を射出成形装置内に導入し、射出成形プロセスにより第1のポリマー金型部分(雄型)を成形するようにし、相違点aに係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点bについて)
完全成形コンタクト部材(完成した水膨潤性ソフトコンタクトレンズ)をキャビティ(空洞部)中で形成した後、これを金型部分(雄型及び雌型とからなる廃棄式コンタクトレンズ成形型)から取り出す工程を設けることは、成形された完全成形コンタクト部材を得る上で、当業者が当然なし得たことにすぎない。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

V.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2012-03-21 
結審通知日 2012-03-26 
審決日 2012-04-06 
出願番号 特願2003-534174(P2003-534174)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 青木 良憲
長浜 義憲
発明の名称 コンタクトレンズを注型する金型部分を製造する際に有用なツール及びこれを使用するコンタクトレンズ製造方法  
代理人 松下 満  
代理人 井野 砂里  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 村社 厚夫  
代理人 熊倉 禎男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ