• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1262261
審判番号 不服2009-24437  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-10 
確定日 2012-08-22 
事件の表示 特願2003-575995「ウイルス性抗原」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日国際公開、WO03/77942、平成17年 8月18日国内公表、特表2005-524674〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年3月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年3月18日 (GB)英国)を国際出願日とする特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成21年7月3日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成21年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?23に係る発明は、平成21年7月3日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「HPV 16、HPV 18、HPV 31およびHPV 45の遺伝子型に由来するL1タンパク質または機能的L1タンパク質誘導体を含むVLPを含むワクチン組成物であって、該ワクチンにより誘発される免疫応答が各VLPのタイプの予防効果が認められるレベルにあることを特徴とする、上記ワクチン組成物。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され本願優先日前に頒布された、Palker, T. J. et al., Vaccine, 2001, Vol.19, p.3733-3743(以下、「引用例1」という。)及びWheeler, C. M. et al., salud publica de mexico, 1997, vol.39, no.4, p.283-287(以下、「引用例2」という。)には、次のことが記載されている。なお、原文は英語であるため翻訳文で示す。また、下線は当審が付した。

[引用例1]
(1-i)「ヒトパピローマウイルス・ウイルス様粒子を接種されたチンパンジーにおける、抗体、サイトカイン、及び細胞毒性Tリンパ球応答」(タイトル参照)

(1-ii)「私たちは、一価又は四価(HPV-6, -11, -16, -18) L1ウイルス様粒子(VLP)ワクチンを、アルミニウムヒドロキシリン酸塩(alum)上で、0、8及び24週に筋肉内投与で接種されたチンパンジーにおいて、抗体、サイトカイン(IFN-γ, IL-5, TNF-α)及び細胞毒性Tリンパ球(CLT)応答を評価した。HPV-11及び-16 L1 VLPs上のタイプ特異的で、中和する、コンフォーメーションのエピトープに対する最大血清抗体力価が、ラジオイムノアッセイ(RIA)により、2回目及び3回目の接種の4週間後に測定された。HPV-11及び-16中和抗体も、類似の時間ポイントで、偽ウィルスを用いたヒトパピローマウィルス(HPV)中和アッセイで測定された。接種に用いたVLPタイプに依存して、HPVタイプ特異的サイトカイン応答は、2回目又は3回目の接種の4週間後、及び44?52週の間に最も頻繁に見られた。遷移的なHPV-16 L1特異的CTL活性が、16?24週の間だけHPV-16 L1 VLPを接種された22頭のチンパンジーの内3頭で観察された。これらの知見は、alum上の多価L1 VLPsが、いくつかのHPVタイプに対する中和抗体及びTh1及びTh2サイトカイン応答の両方を引き起こすことができることの証拠を与える;しかし、CTLsの誘発はあまり起こらなかった。」(3733頁「Abstract」参照)

(1-iii)「…広く研究されているアプローチは、パピローマウイルスL1メジャーカプシドタンパク質のみ[21-23, 25, 28-30]、L1とL2マイナーカプシドタンパク質[25, 31, 32]、又はL1及びパピローマウイルス早期(E)遺伝子産物[33-35]を含有するキメラタンパク質からなる、ウイルス様粒子(VLP, 26で総説されている)で免疫接種することに関する。…」(3734頁左欄2段落参照)

(1-iv)「HPVは世界中でヒトの健康に大きな障害を与えている。動物モデルでは、L1又はL1/L2 VLPsを含有するワクチンが、コンフォーメーションサイトに対する中和抗体力価を上昇させることで、パピローマウィルス感染を予防できる[21-23, 25]。この研究では、私たちは、HPV-6, -11, -16及び-18からのL1 VLPsを含有する多価製剤で、特異的な中和抗体を引き出すことができるかどうかを検討してきた。比較のため、私たちは、一価VLP製剤で上昇された中和抗体力価も評価した。ヌードマウス異種移植系で多数の血清を試験することの技術的な困難性のため[56, 59]、私たちは抗VLP抗体の相対力価と中和機能を評価するため、2つの相補的なアッセイを採用した。最初のものは、抗VLPポリクロナール抗体が、HPV-11又は-16特異的な中和MAbs(当審注:モノクロナール抗体のことである。)とそれぞれのL1 VLPsとの結合を置換する能力を測定するために設計された、競合的RIA(図1?3の上のパネル)である。2番目のアッセイ[52]は、抗VLP抗体が、HPV-11又は-16 L1/L2偽ウィルスの取り込みを中和又は阻害する能力を測定する(表1)。両方のアッセイからの結果は、8週及び24週での接種の4週間以上後に、一価又は多価製剤のいずれかで、競合的な又は中和的な抗HPV-11及び-16抗体が血清中に存在したことを示唆した。2頭のチンパンジーしか多価製剤の接種を受けていないが、これらの結果は、高リスク及び低リスクHPVsの両方のための多価VLP製剤は、最終接種の後少なくとも30週の間持続する中和抗体を引き出すことができるとの考えを支持する(表1)。」(3739頁「4. Discussion」参照)

(1-v)「進行中の臨床研究は、多価VLPベース製剤が、複数のHPVタイプに対してバランスの取れた、長期間持続する中和抗体反応を引き起こすことができるか否かについて、そしてまた、浸出血清抗体がHPV感染に対して防御できるか否かについて、取り組むだろう。」(3741頁右欄最終段落参照)

[引用例2]
(2-i)「子宮頸癌のための予防ワクチン」(タイトル参照)

(2-ii)「近い将来、子宮頸癌の予防及び治療における、ヒトパピローマウィルス(HPV)のためのワクチンの使用の可能性がある。特定された75のHPV遺伝子型のうち、20近くは女性の生殖管に感染するが、子宮頸癌の80%近くに4つのサブタイプ(16, 18, 31及び45)が付随する。この文献は、効果的なHPV感染予防ワクチンを設計するために、4つの目標を通じて、十分な免疫応答が保証されるべきであることを提案する;a)細胞中に存在する抗原の活性化;b)T細胞応答における、ホスト応答及びウィルス遺伝的変異性の克服;c)高いレベルのT及びB記憶細胞の産生;及びd)抗原の持続。」(283頁「Abstract」参照)

(2-iii)「USと欧州において、HPV 6, 11, 16及び18、あるいはHPV 16, 18, 31及び45を組み合わせたものを盛り込んだHPVワクチン戦略は、多価ワクチン試験(trial)の初期に評価することができる(may be evaluated)。最初のケースでは、HPV 6及び11ワクチン接種は、HPVに付随する生殖器いぼの治療及び予防に、HPV 16及び18はHPVに付随する子宮頸部感染の治療及び予防に、正当化されるだろう。一般のいぼ患者は、おそらく、ワクチンの安全性及び有効性が当初に評価される集団を代表するだろう。当初のワクチン努力において生殖器いぼ患者をターゲットとすることは、治療の有効性と局所免疫応答の特性がより容易に測定できる集団を与え、さらに、ワクチン試験(trial)の中で男性を試験する機会も与えるだろう。後者のケースでは、HPV 16, 18, 31及び45多価ワクチンは、世界中で発生しているすべての湿潤性子宮頸癌のうち80%に関与しているHPVタイプをターゲットとするであろう。」(285頁右欄4段落参照)

(2-iv)「どのHPVタイプ及びウィルスタンパクがHPVワクチンターゲットとして選択されようと、挑戦は、臨床的な有効性を生じる免疫応答の適切なタイプを誘発する、抗原送達システムを開発することにある。…
さらに大きな挑戦は、ワクチン有効性を確立するために用いられる、適切な終点測定とターゲット群を特定することだろう。ポリメラーゼ連鎖反応をベースとするHPV測定は、ワクチン接種者に必要だろうか、そしてどのくらいの頻度・期間がこの試験で適切だろうか?…
仮に安全で有効なHPVワクチンが利用可能となったとしても、多くの追加的な問題がまだ残っているだろう。どの年齢でワクチン接種するべきか、幼少期か青年期か?ワクチン接種されるのはハイリスク群だけか、または一般群か?…
過去10年間、私たちはHPV感染の自然史が明らかにされるのを見てきた。次の10年間に、HPV感染の撲滅の始まりが見られ、これまで挙げられた問題に対する答えが確かに見られるだろう。」(286頁左欄第2段落?同右欄第2段落参照)

4.対比、判断
引用例1には、上記「3.[引用例1]」の記載によれば、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる(摘示(1-iv)参照)。
「HPV-6, -11, -16及び-18からのL1 VLPsを含有する多価製剤。」

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「L1 VLPs」について、摘示(1-iii)の記載から、L1とはL1タンパク質を指すことが明らかであり、また、VLPsはVLPの複数形である。したがって、引用例1発明の「L1 VLPs」は、本願発明の「L1タンパク質または機能的L1タンパク質誘導体を含むVLP」に相当する。
そして、引用例1発明の「-6, -11, -16及び-18」はHPVのタイプ、すなわち遺伝子型を意味することが明らかであるから、引用例1発明の「HPV-16及び-18からのL1 VLPs」は、本願発明の「HPV 16及びHPV 18の遺伝子型に由来するL1タンパク質または機能的L1タンパク質誘導体を含むVLP」に相当する。
また、引用例1発明の「製剤」は、摘示(1-ii)の記載から、本願発明の「ワクチン組成物」に相当することは明らかである。
してみると、両者は、
「HPV 16およびHPV 18の遺伝子型に由来するL1タンパク質または機能的L1タンパク質誘導体を含むVLPを含むワクチン組成物。」の発明で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
1.VLPに含まれるL1タンパク質が由来するHPVの遺伝子型について、本願発明ではHPV 16、HPV 18、HPV 31およびHPV 45の組み合わせであるのに対して、引用例1発明ではHPV 6、HPV 11、HPV 16およびHPV 18の組み合わせである点
2.本願発明は「ワクチンにより誘発される免疫応答が各VLPのタイプの予防効果が認められるレベルにある」と特定されているのに対して、引用例1発明ではそのような特定はされていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用例2は「子宮頸癌のための予防ワクチン」(摘示(2-i)参照)と題する総説であって、HPVワクチン戦略として、HPV 6, 11, 16及び18、あるいはHPV 16, 18, 31及び45を組み合わせた多価ワクチンが挙げられている(摘示(2-iii)参照)。前者の組み合わせは、引用例1発明におけるHPVタイプの組み合わせと一致する。そして、後者のHPV 16, 18, 31及び45については、子宮頸癌の80%近くに付随する4つのサブタイプであり(摘示(2-iii)参照)、この組み合わせの多価ワクチンが、世界中で発生しているすべての湿潤性子宮頸癌のうち80%に関与しているHPVタイプをターゲットとすると記載されている(摘示(2-iii)参照)。
引用例1発明は、HPVのタイプとしてHPV 16及びHPV 18を含む多価ワクチンに関する発明であり、引用例2には同様にHPV 16及びHPV 18を含む多価ワクチンに関する記載がある。そして、当業者であれば、前記引用例2の記載に着目して、子宮頸癌の80%近くに付随する4つのサブタイプであるHPV 16, 18, 31及び45の感染防止を目的として、HPV 16, 18, 31及び45の組み合わせの多価ワクチンを開発することを動機づけられるはずである。したがって、引用例1発明のワクチンのHPV 6, 11, 16及び18の組み合わせを、引用例2に記載のHPV 16, 18, 31及び45の組み合わせに置き換えることは、当業者が容易に想到し得たことである。

この点について、請求人は、審判請求書において以下のような主張をしている。
(ア)引用例2の記載は、仮にHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンが実現できれば、世界中に蔓延しているHPV感染の多くを予防することができるであろうという憶測を述べているに過ぎない。
(イ)HPV抗原としては、L1 VLPの他にも複数の物質が利用可能であるにもかかわらず、引用例2にはどの抗原を用いたHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンが有用であるかは具体的に記載されていない。
(ウ)引用例2の内容は問題提起ばかりであって、具体的な多価ワクチンの製造方法及びその試験データを開示しているものではない。

しかし、請求人の主張は以下の理由で採用することができない。
(ア)については、確かに引用例2には、HPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンの実現のためには、臨床試験において多くの課題を克服する必要があることが示唆されている。しかし、多価ワクチンのHPVタイプについては、単なる憶測ではなく、むしろ、HPV 16, 18, 31及び45の組み合わせが、世界中で発生しているすべての湿潤性子宮頸癌のうち80%に関与するHPV感染を予防することができる組み合わせであることを明確に示していると認められる。
(イ)については、確かに引用例2には、L1 VLPを用いたHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンについては具体的に記載されていない。しかし、既に述べたように、引用例1発明のL1 VLPワクチンのHPVの組み合わせを、引用例2に記載のHPV 16, 18, 31及び45の組み合わせに置き換えることは、当業者が容易に想到し得たことである。したがって、引用例2にL1 VLPを用いたHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンについて具体的に記載されていなくても、当業者であれば、引用例1発明と引用例2に記載の発明とを組み合わせて、L1 VLPを用いたHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンに想到することは困難なことではない。
(ウ)については、確かに引用例2においては、抗原の送達システム、臨床試験の具体的な設計、接種対象とする群、等について問題提起されている(摘示(2-iv)参照)。しかしこれらの問題提起は、子宮頸癌の予防ワクチンの製品化に向けて取り組む必要がある事項について述べたものであり、多価ワクチンの組み合わせに想到する際に阻害要因となるような問題提起ではない。
また、引用例2には確かに、多価ワクチンの具体的な製造方法は記載されていないが、複数のHPVタイプのVLPを含有するワクチンの製造方法が引用例1に記載されている。また、引用例2には多価ワクチンの具体的な試験データも記載されていないが、HPV 16, 18, 31及び45の組み合わせが、世界中で発生しているすべての湿潤性子宮頸癌のうち80%に関与するHPV感染を予防することができる組み合わせであることが示されていることを考慮すると、具体的な試験データがなくても、HPV 16, 18, 31及び45の組み合わせに想到する動機づけとしては十分であると認められる。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

(2)相違点2について
VLPを含む多価ワクチンの開発において、ワクチンにより誘発される免疫応答が、各VLPのタイプの予防効果が認められるレベルにあるものを開発することは、以下のとおり、当業者に周知の課題であったと認められる。
すなわち、本願優先日前の刊行物である特表平8-504087(本願明細書中で引用された国際公開94/05792の、パテントファミリー文献である。)には、「…各パピローマウィルス群は、いくつかの型のパピローマウィルスを含む。例えば、60種類を超える数のヒトパピローマウィルス(HPV)遺伝子型が単離されている。…また、パピローマウィルスの型も、あるパピローマウィルス型による感染に対する中和免疫性は通常は他の型に対する免疫性を持たせることはないという点で免疫抗原としては極めて特異的であることが分かっている。これらの型が相同種に感染するとしても、である。」(8頁の「背景技術」参照。下線は当審が付した。)と記載されるように、あるタイプのHPV(例えばHPV 16)に由来する免疫抗原が、通常、他のタイプのHPV(例えばHPV 18)に対して感染予防効果を有さないことが知られていた。
また、本願優先日前の刊行物である国際公開94/00152(本願明細書中で引用された文献である。原文は英語であるので訳文で示す。)には、「複数のPVタイプがPV感染に付随する可能性があるため、ワクチンは複数のタイプのPVからのL1抗原性アミノ酸からなるものであってよい。例えば、HPV 16及び18は子宮頸癌に付随するから、子宮頸部新生物のためのワクチンは、HPV 16の;HPV 18の;又はHPV 16及び18の両方のL1タンパク質からなるものであってよい。
実際、様々な新生物がPV感染に付随することが知られている。…したがって、ワクチン製剤は、所望の防御に依存して、異なるPVタイプからのL1タンパク質の混合物からなるものであってよい。」(19頁7?22行参照。下線は当審が付した。)と記載されるように、様々なタイプのHPVの感染を予防するために、様々なタイプのHPVに由来するL1タンパク質の混合物を用いること、つまり多価ワクチンを用いることが知られていた。
これらのことから、複数のタイプのHPV感染を予防する目的のためには、通常、感染を予防すべきHPVのタイプと同じタイプのHPVに由来する多価ワクチンを用いる必要があることは、本願優先日前の当業者にとって周知の技術的事項であったと認められる。
そして、上記の多価ワクチンは、複数のタイプのHPV感染を予防するためのものであるから、当然、各タイプのHPVに対して感染予防効果が認められるものでなければならない。したがって、VLPを含む多価ワクチンの開発において、ワクチンにより誘発される免疫応答が、各VLPのタイプの予防効果が認められるレベルにあるものを開発する必要があることは、当然のことであり、当業者に周知の課題であったと認められる。
そうすると、引用例1発明のワクチンのHPV 6, 11, 16及び18の組み合わせを、引用例2に記載のHPV 16, 18, 31及び45の組み合わせに置き換える際に、ワクチンにより誘発される免疫応答が、各VLPのタイプの予防効果が認められるレベルにあるものとすることは、当業者にとって当然の課題に過ぎず、容易に想到し得たことである。

この点について、請求人は、審判請求書において、意見書に添付した参考資料1?5にもとづいて、以下のような主張をしている。
・本願の優先日において、複数の抗原を組み合わせたワクチンでは干渉が起こり、特定の抗原に対する免疫応答が減少することが知られていたから、当業者であれば、たとえHPV 6, 11, 16及び18の多価ワクチンで免疫応答が得られるとしても、これはあくまで特異な例であり、異なる型の組み合わせであるHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンでは干渉が起こり、満足できる免疫応答は得られないと考えたはずである。

この主張について検討するにあたり、まず、参考資料1?5について検討する。
参考資料1には、請求人の主張するとおり、A型肝炎/B型肝炎複合ワクチンを投与した臨床試験について記載されており、複合ワクチンのA型肝炎部分については十分な免疫応答が得られたものの、B型肝炎部分については免疫応答が得られなかったことが開示されており、また、A型肝炎ウイルスに対する抗体がB型肝炎ウイルスに対する抗体に干渉ないし競合したのではないかと示唆されている。
確かに、参考資料1は、複数の抗原を組み合わせたワクチンで干渉が起こる場合があることを示す一例である。しかし、この例はA型肝炎/B型肝炎複合ワクチンに関するものであり、HPVワクチンに関する例ではない。

参考資料2には、請求人の主張するとおり、「複数のワクチンの組み合わせは個々の抗原の性質に干渉を引き起こす場合がある」との記載がある。
しかし、その直後に、「以前の研究から、ジフテリア-破傷風-百日咳(全細胞)ワクチン(DTPs)、インフルエンザB型ワクチン(Hib)、B型肝炎ワクチン(HBV)及び不活性化ポリオワクチン(IPV)の組み合わせのほとんどは、安全で十分に免疫原性であった。一方、Hibと無細胞百日咳ワクチン(DTPa)を組み合わせると、抗PRPの顕著な減少があった。A型肝炎ワクチンとHBVの組み合わせは、安全で効果があった。」との記載があることから分かるように、むしろ、複数の抗原を組み合わせたワクチンでも干渉が起こらない場合も多いことが理解される。

参考資料3は、四価HPV(HPV 16, 11, 16及び18)ワクチンにおける免疫学的干渉の有無を評価したものであり、請求人の主張するとおり、792頁に「複数の抗原を一つのワクチンに組み合わせて入れることは、ワクチンの効力範囲を広げる手段として有効であるが、そのような組み合わせはワクチン抗原の抗原性を低下させるということにより定義される免疫学的干渉を招く。したがって、腫瘍形成HPVタイプをターゲットとした複数のHPV VLPを一つのワクチンへと組み合わせた際の影響を調べるためには、臨床的評価が必要であった」と記載されている。そして、この文献は本願の出願後に公開されたものであるものの、本文中の記載によれば、臨床試験は2002年5月に始まったと記載されている(792頁右欄参照)。通常臨床試験の設計は少なくとも実施の数ヶ月前から行う必要があることから、請求人は、本願の優先日2002年3月18日の段階では既に複数の型のHPV VLP間の干渉の問題は当業者に認識されていたものと主張している。
しかし、参考資料3からは、仮に、臨床試験に実際に携わった関係者が、臨床試験の開始前に複数の型のHPV VLP間の干渉の問題を認識していたことが言えるとしても、一般の当業者が、複数の型のHPV VLPの多価ワクチンでは干渉が起こり、満足できる免疫応答が得られないと考えたはずであることを示す根拠にはならない。

参考資料4には、95種のHPVタイプのL1のゲノム配列を分析した結果、系統発生学的ツリー上で、HPV16と31、ならびにHPV18と45が非常に近い位置にあることが記載されている(図3及び図4参照)。そして、請求人は、配列の同一性が高いと、同じ免疫細胞が同一もしくは類似のエピトープに対して競合し、互いに干渉して抗原に対する応答を低下させるリスクがあるから、当業者は、HPV16と31、HPV18と45の相同性により、そのようなHPV VLPタイプには競合が起こりうると認識していたと主張している。
しかし、配列の同一性が高いと、同じ免疫細胞が同一もしくは類似のエピトープに対して競合し、互いに干渉して抗原に対する応答を低下させるという技術常識が、本願優先日に存在していたことを示す根拠は明らかにされていない。

参考資料5には、実際にHPV抗原に対する免疫応答の干渉について実証した試験の結果が記載されており、HPV16と18のL1 VLPの組み合わせはE7に対する免疫応答を完全に阻害してしまうことが記載されている(4頁「Conclusions」参照)。
しかし、この試験結果は、本願優先日前に当業者に知られていたものであることは明らかにされておらず、しかも、特定の抗原であるE7に対する免疫応答を阻害したということを示すものに過ぎないから、本願優先日の時点において、当業者が、複数の型のHPV VLPの多価ワクチンでは干渉が起こり、満足できる免疫応答が得られないと考えたはずであることを示す根拠にはならない。

次に、本願優先日において、複数の型のHPV VLP間で干渉が起こらない例が知られていたことを示す。
例えば、原査定の拒絶の理由に引用され本願優先日前に頒布された、国際公開01/17551号の実施例には、HPV 16 VLP及びHPV 18 VLPを含む組成物(D群)について、抗VLP16応答及び抗VLP18応答の両方が観察されたことが記載されており(18頁の表、19?20頁の表、24頁のTable 1、FIGURE 1-2参照)、HPV 16 VLPとHPV 18 VLPの間で干渉が起こらなかったことを示している。
また、引用例1にも、HPV-6, -11, -16及び-18からのL1 VLPsを含有する多価ワクチンの接種により、血清中に抗HPV-11抗体及び抗HPV-16抗体ができ
たことが記載されている(摘示(1-iv)参照)。この記載は、上記多価ワクチンにおいて、HPV-11及びHPV-16に対する免疫応答を阻害するような干渉が起きないことを示唆していると認められる。

以上のことから、本願の優先日において当業者は、複数の抗原を組み合わせたワクチンでは、干渉が起こる場合もあれば起こらない場合もあると認識していたと認められる。そうすると、当業者であれば、たとえHPV 6, 11, 16及び18の多価ワクチンで免疫応答が得られるとしても、これは特異な例ではなく、異なる型の組み合わせであるHPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンでも干渉が起こらず、満足できる免疫応答が得られる可能性が十分にあると考えたはずである。そして当業者は、HPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンが、世界中で発生しているすべての湿潤性子宮頸癌のうち80%に関与しているHPVタイプをターゲットとするとの引用例2の記載(摘示(2-iv)参照)によって、HPV 16, 18, 31及び45の多価ワクチンの開発を強く動機づけられたと認められる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(3)本願発明の作用効果について
請求人は、本願発明に係るワクチンは、本願の図4?7に示したグラフからもわかるように、複数のHPV抗原を含んでいるにもかかわらず、それぞれのHPVに対して十分な免疫応答が得られるという顕著な効果を奏するものであると主張している。
確かに、図4?7に示したグラフには、本願発明に係るワクチンが、複数のHPV抗原を含んでいるにもかかわらず、それぞれのHPVに対して十分な免疫応答が得られたことが示されており、干渉が起きなかったことが理解される。しかし、(2)で検討したとおり、本願の優先日において当業者は、複数の抗原を組み合わせたワクチンでは、干渉が起こる場合もあれば起こらない場合もあると認識していたのであり、実際に、干渉が起こらない例も知られていた。したがって、本願発明に係るワクチンが干渉を起こさなかったからといって、これを当業者の予測を超えた顕著な効果と認めることはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであり、上記相違点1?2にかかる本願発明の発明特定事項を併せ採用することも格別の創意工夫を要するものとは認められず、それら発明特定事項を併せ採用したことによって予想を超える格別の作用効果を奏しているとも認められない。
よって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-22 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2003-575995(P2003-575995)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 内藤 伸一
田名部 拓也
発明の名称 ウイルス性抗原  
代理人 新井 栄一  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 石井 貞次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ