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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1262262 |
審判番号 | 不服2009-25691 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-12-25 |
確定日 | 2012-08-22 |
事件の表示 | 特願2003-556098「置換されたアクリロイルジスタマイシン誘導体およびプロテインキナーゼ(セリン/トレオニンキナーゼ)インヒビターを含む、腫瘍に対する併用療法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月10日国際公開、WO03/55522、平成17年 6月 2日国内公表、特表2005-516025〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2002年12月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年1月2日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月28日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年8月18日付けで拒絶査定された。 これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成21年7月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 薬学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤、並びに活性成分として、 - 式(I)のアクリロイルジスタマイシン誘導体: 【化1】 ここで R_(1)は臭素または塩素原子であり; R_(2)はジスタマイシンまたは式(II)の基であり: 【化2】 {ここで mは0?2の整数であり; nは2?5の整数であり; rは0または1であり; XおよびYは、同じでも異なっていてもよく、それぞれヘテロ環に対して独立に、窒素原子またはCH基であり; Gは、フェニレン、N、OもしくはSの中から選択される1?3のヘテロ原子を有する5または6員の飽和もしくは不飽和ヘテロ環、または下記式(III)の基であり: 【化3】 ここでQは窒素原子またはCH基であり、Wは酸素または硫黄原子、またはNR_(3)基(ここでR_(3)は水素またはC_(1)-C_(4)アルキルである)であり; Bは、 【化4】 から成る群より選択され、ここでR_(4)は、シアノ、アミノ、ヒドロキシまたはC_(1)-C_(4)アルコキシであり;R_(5)、R_(6)およびR_(7)は、同じでも異なっていてもよく、水素またはC_(1)-C_(4)アルキルである};またはその薬学的に許容可能な塩;および - プロテインキナーゼインヒビター を含む薬学的組成物。」 3.引用例の記載事項 引用例はすべて英語で記載されているため、以下における記載事項は訳文で示す。 (1)本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開01/97789号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)Claims 「1.薬学的に許容可能なキャリア又は賦形剤、及び活性成分として、 - 式(I)のアクリロイルジスタマイシン誘導体: ここで R_(1)は、臭素又は塩素原子であり; R_(2)は、ジスタマイシン又はジスタマイシン様骨格である;又はその薬学的に許容可能な塩;及び、 - タイプI又はIIの抗腫瘍トポイソメラーゼ阻害剤 を含む薬剤組成物。 ・・・(中略)・・・ 4.下記式(I) のアクリロイルジスタマイシン誘導体を含む請求項1に記載の薬剤組成物 ここで: R_(1)は臭素又は塩素原子であり; R_(2)は式(II)の基である {ここで mは0?2の整数であり; nは2?5の整数であり; rは0又は1であり; X及びYは、同じでも異なっていてもよく、それぞれのヘテロ環に対して独立に、窒素原子又はCH基であり; Gは、フェニレン、N、O若しくはSの中から選択される1?3のヘテロ原子を有する5若しくは6員の飽和若しくは不飽和ヘテロ環、又は、下記式(III)の基であり: ここでQは窒素原子又はCH基であり、Wは酸素若しくは硫黄原子、又はNR_(3)基(ここでR_(3)は水素又はC_(1)-C_(4)アルキルである)であり; Bは からなる群より選択され、ここで、R_(4)は、シアノ、アミノ、ヒドロキシ又はC_(1)-C_(4)アルコキシであり;R_(5)、R_(6)及びR_(7)は、同じでも異なっていてもよく、水素又はC_(1)-C_(4)アルキルである}。 ・・・(以下略)・・・」 (イ)1頁5?8行 「本発明は、癌治療の分野に関するものであって、置換アクリロイルジスタマイシン誘導体、より詳しくは、α-ブロモ-又はα-クロロ-アクリロイルジスタマイシン誘導体及びタイプI又はIIのトポイソメラーゼ阻害剤を含み、相乗的な抗腫瘍効果を有する抗腫瘍組成物を提供するものである。」 (ウ)8頁24?27行 「言い換えれば、本発明の併用療法は、アクリロイルジスタマイシン誘導体及びトポイソメラーゼI又はII阻害剤の抗腫瘍効果を高め、よって最も効果的且つ最も毒性が少ない腫瘍の治療を提供するものである。」 (エ)9頁1?12行 「表1は、式(I)の代表的な化合物であるN-(5-{[(5-{[(5-{[(2-{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}エチル)アミノ]カルボニル}-1-メチル-1H-ピロール-3-イル)アミノ]カルボニル}-1-メチル-1H-ピロール-3-イル)アミノ]カルボニル}-1-メチル-1H-ピロール-3-イル)-4-[(2-ブロモアクリロイル)アミノ]-1-メチル-1H-ピロール-2-カルボキサミド塩酸塩-内部コードPNU166196とドキソルビシンの併用によって得られる、播種性L1210マウス白血病に対する抗白血病活性を示す。10mg/kgの用量のドキソルビシン単独(腫瘍の移植後+1日目、及びPNU166196投与2時間後)及び、0.52mg/kgの用量のPNU166196単独(+1日目)は、毒性がなく、それぞれ58及び33のILS%値であった。ドキソルビシン及びPNU166196を、同じ用量、同じスケジュールで併用することによって、100のILS%値という活性の増強が見られ、従って、相乗的な効果を示した。」 (2)本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開01/97790号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (オ)1頁4?7行 「本発明は、癌治療の分野に関するものであり、置換アクリロイルジスタマイシン誘導体、より詳しくは、α-ブロモ-又はα-クロロ-アクリロイルジスタマイシン誘導体及びアルキル化剤を含み、相乗的な抗腫瘍効果を有する抗腫瘍組成物を提供するものである。」 (3)本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開01/97618号(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。 (カ)1頁5?8行 「本発明は、癌治療の分野に関するものであり、置換アクリロイルジスタマイシン誘導体、より詳しくは、α-ブロモ-又はα-クロロ-アクリロイルジスタマイシン誘導体、並びに、抗微小管剤及び/又は代謝拮抗剤を含む、相乗的な抗腫瘍効果を有する抗腫瘍組成物を提供するものである。」 (4)本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開01/81348号(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。 (キ)Claims 「1.式I: [ここで、 R_(1)は水素原子、低級アルキル、塩素原子; R_(2)及びR_(4)はそれぞれ独立して、アルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキル又はヘテロシクロアルキルアルキル; R_(3)は水素原子又は低級アルキル;及び nは0、1又は2] の化合物、又はその医薬的に許容される塩。 ・・・(中略)・・・ 4.請求項1の化合物及び医薬的に許容される担体からなる医薬組成物。 ・・・(中略)・・・ 19.請求項4の組成物の治療上効果がある量を、それを必要とする哺乳類種に投薬することからなる癌の治療方法。 ・・・(以下略)・・・」 (ク)1頁4?14行 「(技術分野) 本発明はサイクリン依存性キナーゼ阻害剤と、それらの増殖性疾患治療用途に関するものである。 (背景技術) 通常の細胞増殖は、細胞周期制御機構を構成する一連のタンパク質で厳格に調節されている。細胞周期の過程を制御するのに重要な役割を担うタンパク質は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)である。CDKは、細胞周期および細胞増殖を支える推進力であるセリン/スレオニン プロテインキナーゼである。・・・(中略)・・・CDK活性阻害剤は、増殖性疾患(例えば癌)の治療に効果があることが見出されている。」 (ケ)12頁29行?13頁6行 「本発明の化合物は、放射線療法のような公知の抗癌治療との併用、又は、細胞分裂停止薬および細胞障害性薬、例えば、これらに限られないが、シスプラチンまたはドキソルビシンのようなDNA相互作用薬、米国特許第6,011,029号に記載されているようなファルネシルプロテイントランスフェラーゼ、エトポシドのようなトポイソメラーゼII阻害剤、CPT-11またはトポテカンのようなトポイソメラーゼI阻害剤、パクリタキセル、ドセタキセルまたはエポチロン類のようなチューブリン安定化剤、タモキシフェンのようなホルモン剤、5-フルオロウラシルのようなチミジル酸合成酵素阻害剤、メトトレキサートのような代謝拮抗剤、アンジオスタチンまたはエンドスタチンのような血管新生阻害剤、およびher2特異抗体のようなキナーゼ阻害剤、との併用にも有用となり得る。」 4.対比 上記(ア)の記載において、請求項1を引用して記載された請求項4は、請求項1の式(I)におけるR_(2)の「ジスタマイシン様骨格」を式「(II)の基」に限定したものと認められるから、結局のところ、引用例1には、 「薬学的に許容可能なキャリア又は賦形剤、及び活性成分として、 - 式(I)のアクリロイルジスタマイシン誘導体 ここで、 R_(1)は臭素又は塩素原子であり; R_(2)はジスタマイシン又は式(II)の基である {ここで mは0?2の整数であり; nは2?5の整数であり; rは0又は1であり; X及びYは、同じでも異なっていてもよく、それぞれのヘテロ環に対して独立に、窒素原子又はCH基であり; Gは、フェニレン、N、O若しくはSの中から選択される1?3のヘテロ原子を有する5若しくは6員の飽和若しくは不飽和ヘテロ環、又は、下記式(III)の基であり: ここでQは窒素原子又はCH基であり、Wは酸素若しくは硫黄原子、又はNR_(3)基(ここでR_(3)は水素又はC_(1)-C_(4)アルキルである)であり; Bは、 からなる群より選択され、ここで、R_(4)は、シアノ、アミノ、ヒドロキシ又はC_(1)-C_(4)アルコキシであり;R_(5)、R_(6)及びR_(7)は、同じでも異なっていてもよく、水素又はC_(1)-C_(4)アルキルである};又はその薬学的に許容可能な塩;及び、 - タイプI又はIIの抗腫瘍トポイソメラーゼ阻害剤 を含む薬剤組成物。」 の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「薬学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤、並びに活性成分として、 - 式(I)のアクリロイルジスタマイシン誘導体: を含む薬学的組成物。」である点。 (式(I)におけるR_(1)及びR_(2)の定義も一致している。) [相違点] 活性成分として、前者は「プロテインキナーゼインヒビター」を含有するものであるのに対し、後者は「タイプI又はIIの抗腫瘍トポイソメラーゼ阻害剤」を含有するものである点。 5.判断 (1)上記3.(1)で摘記した引用例2の(オ)及び引用例3の(カ)の記載によれば、アクリロイルジスタマイシン誘導体は、引用例1に記載されたタイプI又はIIの抗腫瘍トポイソメラーゼ阻害剤に限らず、アルキル化剤、抗微小管剤、代謝拮抗剤といった他の様々な活性成分と併用することにより、相乗的な抗腫瘍効果を有する抗腫瘍組成物を構成することが、本願優先日前に知られていたことが認められる。 上記3.(1)で摘記した(キ)?(ケ)によれば、引用例4には、プロテインキナーゼ阻害剤の一種であるサイクリン依存性キナーゼ阻害剤としての化合物を癌の治療に用いること、そして、当該化合物を、細胞分裂停止薬、細胞障害性薬のような抗腫瘍薬として用いられることが明らかな他の様々な活性成分と併用することが記載されていると認められる。 このように、アクリロイルジスタマイシン誘導体は他の様々な活性成分と併用することにより抗腫瘍組成物を構成するものであることが公知であり、引用例4に記載されたプロテインキナーゼ阻害剤としての化合物が他の様々な抗腫瘍薬と併用して癌治療に用いられることも公知であるから、引用発明において、アクリロイルジスタマイシン誘導体と併用する活性成分として、「タイプI又はIIの抗腫瘍トポイソメラーゼ阻害剤」に代えて、引用例4に記載された「プロテインキナーゼインヒビター」を用いてみることは、当業者が容易に想到することである。 (2)次に、本願発明の効果について検討する。 本願明細書には、本願発明の効果に関して、以下のように記載されているが、式(I)のアクリロイルジスタマイシン誘導体とプロテインキナーゼインヒビターを併用することによる効果を具体的に示す実験データ等の記載は存在しない。 「本発明は、癌治療の分野に関し、置換されたアクリロイルジスタマイシン誘導体(acryloyl distamycin derivative)、より詳細にはα-ブロモまたはα-クロロ-アクリロイルジスタマイシン誘導体、およびプロテインキナーゼ(セリン/トレオニンおよびチロシンキナーゼ)インヒビターを含む、抗腫瘍性の相乗効果を有する抗腫瘍組成物を提供する。」(【0001】) 「式(I)のアクリロイルジスタマイシン誘導体およびPKインヒビターの効果は、毒性の平行的増加がなく、有意に増大するため、本発明の併用療法は、アクリロイルジスタマイシン誘導体の抗腫瘍効果およびPKインヒビターの抗腫瘍効果を高め、その結果、腫瘍に対して最も効果的かつ毒性の低い治療を提供する。」(【0031】) 上記記載は、3.(1)の(イ)(ウ)で摘記したとおり引用例1にも記載された内容にすぎず、むしろ、引用例1においては上記(エ)で摘記したように具体的な実験データによって相乗効果が示されている。そうすると、本願明細書の記載から、本願発明が引用発明と比較した有利な効果を有するとは認められない。 一方、審判請求人は、平成22年2月25日付け手続補正書により補正された審判請求書において、アクリロイルジスタマイシン誘導体としてのブロスタリシンと、プロテインキナーゼインヒビターとしてのST1571、ZD1839又はOSI-774とを併用した場合の併用指数(C.I.)が記載された実験データを添付して、このデータに示される本願発明の相乗的な抗腫瘍効果は当業者に予測し得ないものであると主張しているので、この主張についても検討する。 当該実験データによれば、アクリロイルジスタマイシン誘導体としてのブロスタリシンと、プロテインキナーゼインヒビターとしてのST1571、ZD1839又はOSI-774とを併用した場合には、併用指数(C.I.)が1未満となっており、相乗効果を奏することが一応認められるが、これは、本願発明のごく一部の組合せが相乗効果を奏することを示すものにすぎない。審判請求人が審判請求書(3頁最終段落)において認めているように、癌治療薬剤を併用した場合の効果の予測が困難であることは、本願優先日当時の技術常識であるから、本願発明に包含される、ブロスタリシンとは構造の異なる式(I)で示されるアクリロイルジスタマイシン誘導体と、ST1571、ZD1839、OSI-774とは構造や標的プロテインキナーゼが異なるプロテインキナーゼインヒビターとを組み合わせた場合にも、上記実験データで示されたのと同様の相乗効果が得られると解することはできない。 このように、上記実験データは本願発明全体の効果を示すものとはいえないから、当該実験データを考慮しても本願発明全体が当業者の予想を超える相乗効果を奏するとは認められない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-03-23 |
結審通知日 | 2012-03-27 |
審決日 | 2012-04-10 |
出願番号 | 特願2003-556098(P2003-556098) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 澤田 浩平 |
特許庁審判長 |
今村 玲英子 |
特許庁審判官 |
荒木 英則 前田 佳与子 |
発明の名称 | 置換されたアクリロイルジスタマイシン誘導体およびプロテインキナーゼ(セリン/トレオニンキナーゼ)インヒビターを含む、腫瘍に対する併用療法 |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 竹内 将訓 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 勝村 紘 |
代理人 | 河井 将次 |
代理人 | 堀内 美保子 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 山下 元 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 市原 卓三 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 幸長 保次郎 |