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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B41J
審判 一部無効 2項進歩性  B41J
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
管理番号 1262365
審判番号 無効2009-800141  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-06-30 
確定日 2012-08-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3793216号発明「液体インク収納容器、液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件特許第3793216号に係る手続の概要

本件特許第3793216号に係る手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成16年11月15日 特願2004-330952号出願
(優先権主張日 平成15年12月26日、平成
16年10月22日)
平成18年 4月14日 本件特許第3793216号の設定登録(請求項
1?16)
平成21年 1月 9日 株式会社オーム電機による特許第3793216
号の請求項1に係る発明についての特許無効審判
請求(無効2009-800006号)
平成21年 1月 9日 フューチャーウェルホールディングリミテッドに
よる特許第3793216号の請求項1に係る発
明についての特許無効審判請求(無効2009-
800007号)
平成21年 1月28日 無効2009-800006号及び無効2009
(起案日) -800007号の併合
平成21年 4月 6日 訂正請求(無効2009-800006号及び無
効2009-800007号に対して)
平成21年 5月 8日 田口哲也他2名による特許第3793216号
明の特許請求の範囲の請求項1及び請求項5に記
載された発明についての特許無効審判請求(無効
2009-800091号)
平成21年 5月19日 株式会社プレジール他4名による特許第3793
216号の請求項1?16に係る発明についての
特許無効審判請求(無効2009-800101
号)
平成21年 5月29日 株式会社オーム電機による特許第3793216
号の請求項5に係る発明についての特許無効審判
請求(無効2009-800113号)
平成21年 5月29日 フューチャーウェルホールディングリミテッドに
よる特許第3793216号の請求項5に係る発
明についての特許無効審判請求(無効2009-
800114号)
平成21年 6月16日 無効2009-800113号及び無効2009
(起案日) -800114号の併合
平成21年 6月30日 エステー産業株式会社による特許第379321
6号の請求項1及び5に係る発明についての特許
無効審判請求(無効2009-800141号)
平成21年 7月27日 訂正請求(無効2009-800091号に対し
て)
平成21年 8月 3日 訂正請求(無効2009-800101号に対し
て、以下「101号訂正」という。)
平成21年 8月18日 訂正請求(無効2009-800113号及び無
効2009-800114号に対して)
平成21年 8月24日 無効2009-800006号及び無効2009
(起案日) -800007号につき「特許第3793216
号の請求項1に係る発明についての特許を無効と
する。」との審決(以下「第1審決」という。平
成21年4月6日付けの訂正は認めていない。)
平成21年 9月14日 無効2009-800006号についての審決取
消訴訟(平成21年(行ケ)第10275号)
平成21年 9月14日 無効2009-800007号についての審決取
消訴訟(平成21年(行ケ)第10276号)
平成21年 9月15日 特許第3793216号についての訂正審判請求
(訂正2009-390110号)
平成21年 9月24日 訂正請求(無効2009-800141号に対し
て)
平成21年11月 5日 無効2009-800007号の第1審決につい
ての差戻し決定(平成21年(行ケ)第1027
6号)
平成21年11月 6日 無効2009-800006号の第1審決につい
ての差戻し決定(平成21年(行ケ)第1027
5号)
平成21年12月17日 無効2009-800091号及び無効2009
(起案日) -800141号事件の手続中止
平成21年12月21日 訂正審判請求の取下げ(訂正2009-3901
10号)
平成21年12月25日 無効2009-800006号、無効2009-
800007号、無効2009-800113号
及び無効2009-800114号の無効審判請
求の取下げ
平成22年 1月26日 無効2009-800101号につき「訂正を認
(起案日) める。特許3793216号の請求項1ないし7
に係る特許を無効とする。」との審決(以下「第
2審決」という。)
平成22年 2月 5日 第2審決の謄本の送達(請求人)
第2審決の謄本の送達(被請求人)

(第2審決で認めた101号訂正のうち、特許請求の範囲について、請求項3、請求項4、請求項6ないし10、請求項14、請求項15を削除する訂正、及び、明細書について、段落0014ないし段落0016の記載を削除する訂正は、第2審決の謄本が当事者へ送達されたことにより平成22年2月5日に確定した。)

平成22年 2月17日 第2審決に対する審決取消訴訟(平成22年(行
ケ)第10056号)
平成23年 2月 8日 第2審決を取り消すとの判決(平成22年(行ケ
)第10056号)
平成23年 2月 8日 特許第3793216号の請求項1(101号訂
正後の請求項1)及び請求項5(101号訂正後
の請求項3)についての特許権侵害差止請求控訴
事件(平成22年(ネ)第10063号及び平成
22年(ネ)第10064号)判決
平成23年 9月29日 第2審決を取り消すとの判決(平成22年(行ケ
)第10056号)確定
平成23年10月13日 第2審決の一部確定登録(平成21年8月3日付
け訂正請求書において、特許請求の範囲について
する訂正のうち、訂正前の請求項3、請求項4、
請求項6ないし請求項10、請求項14、請求項
15を削除する訂正、並びに特許明細書について
する訂正のうち、段落【0014】ないし【00
16】を削除する訂正を認める。)
平成23年11月10日 エステー産業株式会社及び株式会社プレジールに
よる特許第3793216号の請求項1及び5に
係る発明についての特許無効審判請求(無効20
11-800230号)
平成23年11月15日 無効2009-800101号につき「訂正を認
(起案日) める。本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決(以下「第3審決」という。)
平成23年11月25日 第3審決の送達(請求人)
第3審決の送達(被請求人)
平成23年12月 2日 無効2011-800230号事件の手続中止
(起案日)
平成23年12月26日 第3審決(無効2009-800101号)確定

(101号訂正のうちの平成22年2月5日に確定した部分以外の部分(残余の部分)は、第3審決が確定したことにより平成23年12月26日に確定した。101号訂正後の請求項1及び3を以下「訂正請求項1及び3」という。)

平成24年 1月19日 第3審決の確定登録(訂正を認める 不成立)
平成24年 1月20日 無効2009-800091号、無効2009-
(起案日) 800141号及び無効2011-800230
号の手続中止解除
平成24年 2月16日 訂正請求取下げ(無効2009-800091号
に対しての平成21年7月27日付け訂正請求及
び無効2009-800141号に対しての平成
21年9月24日付け訂正請求)
平成24年 3月 1日 株式会社オーム電機による特許第3793216
号の訂正請求項1及び3に係る発明についての特
許無効審判請求(無効2012-800017号)
平成24年 5月 1日 エステー産業株式会社及び株式会社プレジールに
よる特許第3793216号の訂正請求項1及び
3に係る発明についての特許無効審判請求(無効
2012-800068号)

第2 本件無効2009-800141号に係る手続の概要

本件無効2009-800141号に係る手続の経緯は概略以下のとおりである(「第1」と重複する手続も再掲した。)。

平成21年 6月30日 審判請求(「特許第3793216号の請求項1
及び5に係る発明についての特許を無効にする。
審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を
求める。)
平成21年 7月 8日 上申書(請求人)
平成21年 9月24日 答弁書(被請求人)
平成21年 9月24日 訂正請求書(被請求人)
平成21年 9月25日 上申書(請求人)
平成21年 9月29日 審尋(被請求人へ)
(起案日)
平成21年10月16日 回答書(被請求人)
平成21年11月 2日 弁駁書(請求人)
平成21年12月17日 手続中止通知(請求人及び被請求人へ)
(起案日)
平成22年10月28日 上申書(請求人)
平成23年 3月15日 上申書(請求人)
平成24年 1月20日 手続中止解除通知(請求人及び被請求人へ)
(起案日)
平成24年 1月20日 訂正拒絶理由通知(被請求人へ)
(起案日)
平成24年 2月16日 意見書(被請求人)
平成24年 2月16日 訂正請求取下(平成21年9月24日付け訂正請
求を取り下げる。)
平成24年 2月24日 通知書(請求人へ;無効理由の整理指示)
平成24年 3月29日 第2弁駁書(請求人)
平成24年 5月 8日 審理事項通知(請求人及び被請求人へ)
(起案日)
平成24年 6月15日 口頭審理陳述要領書(請求人)
口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 6月29日 口頭審理(調書、結審通知)

第3 本件発明

第2審決で認めた101号訂正のうち、特許請求の範囲について、請求項3、請求項4、請求項6ないし10、請求項14、請求項15を削除する訂正、及び、明細書について、段落0014ないし段落0016の記載を削除する訂正は、第2審決の謄本が当事者へ送達されたことにより平成22年2月5日に確定し、101号訂正のうちの残余の部分は、第3審決が確定したことにより平成23年12月26日に確定した。
そして、本件無効審判の対象である101号訂正前の請求項1及び5は、101号訂正により、訂正請求項1及び3となった。
したがって、本件無効審判の対象である本件特許第3793216号の訂正請求項1及び3に係る発明は、101号訂正明細書、101号訂正特許請求の範囲及び本件図面の記載からみて、訂正請求項1及び3にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

【訂正請求項1】
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し、前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、
前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と、
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、
を有することを特徴とする液体インク収納容器。」(以下「訂正発明1」という。)

【訂正請求項3】
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置と、
前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と、を備える液体インク供給システムにおいて、
前記液体インク収納容器は、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と、
前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部と、
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と、を有し、
前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され、
前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出することを特徴とする液体インク供給システム。」(以下「訂正発明3」という。)

第4 請求人が主張する無効理由
本件無効審判の対象である請求項及び本件無効審判が前提としていた明細書は、平成21年12月17日付けで手続中止がなされてから平成24年1月20日付けで手続中止解除がなされるまでの間に上記第1ないし第3のとおり変化しているので、当審では、請求人に対して、無効理由を整理し直して弁駁書として提出するように、平成24年2月24日付け通知書で期間を指定して通知した。
請求人は、上記通知に応じて平成24年3月29日付けで第2弁駁書を提出したので、以下では第2弁駁書の整理内容に従って請求人が主張する無効理由を列記する(ただし、口頭審理陳述要領書の主張も含めている。)。
なお、丸付き数字は便宜上(○1)などと表記した。

1 訂正発明1の構成要件

訂正発明1の構成要件は以下のとおり分説できる。
┌--------------------------------┐
|1A-1’ |
| 複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、 |
|1A-2’ |
| 該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側|
| 接点と、 |
|1A-3’ |
| 前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ|
| 替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受|
| 光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光す|
| ることによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体イ|
| ンク収納容器位置検出手段と、 |
|1A-4’ |
| 搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装|
| 置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するた|
| めの配線を有した電気回路とを有し、 |
|1A-5’ |
| 前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク|
| 収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体|
| インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を|
| 検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収|
| 納容器において、 |
|1B’ |
| 前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、 |
|1C’ |
| 少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な|
| 情報保持部と、 |
|1D’ |
| 前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と、 |
|1E’ |
| 前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の|
| 保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と|
| 、 |
|1F’ |
| を有することを特徴とする液体インク収納容器。 |
└--------------------------------┘

2 訂正発明3の構成要件
訂正発明3の構成要件は以下のとおり分説できる。
┌--------------------------------┐
|3A-1’ |
| 複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキ|
| ャリッジと、 |
|3A-2’ |
| 該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側|
| 接点と、 |
|3A-3’ |
| 該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ|
| 備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容|
| 器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、 |
|3A-4’ |
| 搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装|
| 置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するた|
| めの配線を有した電気回路と |
|3A-5’ |
| を有する記録装置と、前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可|
| 能な液体インク収納容器と、を備える液体インク供給システムにおい|
| て、 |
|3B’ |
| 前記液体インク収納容器は、前記装置側接点と電気的に接続可能な前|
| 記接点と、 |
|3C’ |
| 少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情|
| 報保持部と、 |
|3D’ |
| 前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための|
| 光を発光する発光部と、 |
|3E’ |
| 前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の|
| 保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御|
| 部と、を有し、 |
|3F’ |
| 前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク|
| 収納容器が入れ替わるように配置され、 |
|3G’ |
| 前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク|
| 収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体|
| インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を|
| 検出する |
|3H’ |
| ことを特徴とする液体インク供給システム。 |
└--------------------------------┘

3 無効理由1
訂正発明1及び3は、本件特許の最先の優先日前に頒布された甲第1号証(国際公開第02/40275号)及び周知技術等に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により特許を無効とすべきものである。

(1)訂正発明1は、甲第1号証に記載の発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ア 甲第1号証の記載
本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成14年5月23日に頒布された刊行物である甲第1号証には、訂正発明1の構成要件1A-1’から1F’までに対応する下記の記載がある。
(ア) 甲第1号証が同一の構成を備えていることについて争いのない構成要件
被請求人は答弁書「7-3-3」「(1)」(13?14頁)において、甲第1号証(国際公開第02/40275号)が下記の構成要件(ただし構成要件1A-5’については構成要件のうち一部)に相当する構成を備えていることを争っておらず、この点に争いはない。
1A-1’
複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、
1A-2’
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
1A-4’
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し、
1A-5’
前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
1B’
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
1C’
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、
1F’
を有することを特徴とする液体インク収納容器。

(イ) 構成要件1A-5’に対応する記載(「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において」についての記載)

甲第1号証には、下記の記載があり、プリンタのキャリッジをインク交換位置まで移動させ、交換の対象となる特定のインクカートリッジに対応するLEDを点灯させる構成が開示されている。

● 「図21に示す実施例では、搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられている。インクカートリッジCAの交換時には、制御回路30は、キャリッジ101をインク交換位置19まで移動させた後、交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。」(甲第1号証25頁23行?27行)

(ウ) 構成要件1D’に対応する記載(「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」についての記載)

甲第1号証には、下記の記載があり、キャリッジ上に備えられたLED(発光部)が開示されている。また、甲第1号証においては「報知手段」として種々の方法が取れることが示唆されており、また発光部をキャリッジ上に設けるかインクタンク上に設けるかは設計事項にすぎず「等価物」といえることから、甲第1号証には、ユーザーに交換対象となるインクカートリッジを指し示す「報知手段」の一例としてのLED発光部(実質的にインクタンクに設けられた発光部を含む等価物)が開示されているものといえる。

● 「図21に示す実施例では、搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられている。インクカートリッジCAの交換時には、制御回路30は、キャリッジ101をインク交換位置19まで移動させた後、交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。」(甲第1号証25頁23行?27行)

● 「交換対象となるインクカートリッジCAが複数個存在する場合には、複数のLED18が同時に点灯される。なお、インク交換位置19は、複数のインクカートリッジCAの脱着を許容する一般的な開口部である。したがって、インクカートリッジCAの交換にあたって、キャリッジ101を複数回移動させることなく交換対象となるインクカートリッジCAを特定(指し示す)ことができると共に、ユーザは交換対象となるインクカートリッジCAを記憶する必要なく、正しいインクカートリッジCAを更に容易に交換することができる。なお、LED18は、キャリッジ101上ではなく、インク交換位置19の開口部に備えられていても良い。また、LEDに限らず白熱灯を始めとする種々のライトが用いられることはいうまでもない。以上、いくつかの実施例に基づき本発明にかかる印刷記録材容器(インクカートリッジ)の識別装置を説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。」(甲第1号証25頁27行?40行)


(エ) 構成要件1E’に対応する記載(「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」についての記載)

甲第1号証には、インクカートリッジ上の記憶装置が、メモリアレイ(情報保持部)の保有する識別データ(色情報)と、端子(接点)から入力された識別データに係る信号とに応じてプリンタの操作パネル上のランプを点滅させるための応答をプリンタに対して行い、また、前記端子から入力された所定のインク残量値に係る信号と、メモリアレイの保持するインク残量情報とに応じてインクカートリッジに対応するLEDを点灯または点滅させるための応答をプリンタに対して行う機能を有していることが開示されている。

さらに、訂正請求項1に照らし、構成要件1E’について、下記a?dのとおり主張を整理する。結論としては、甲第1号証には、接点から入力された識別情報とメモリアレイに格納された識別情報を比較して一致した場合にのみ制御信号を受け入れることにより、インクタンクを特定して制御信号に基づく制御を行うという、訂正発明1の本質的部分において実質的に一致する構成が開示されている。

a 概要

┌--------------------------------┐
|1E’ |
| 前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の|
|保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、|
└--------------------------------┘
構成要件1E’の制御部は、インクタンクを個別に制御する機能を有するという点で訂正発明1の本質的部分である。101号訂正明細書においても、多くのページ数が制御部の説明のために割かれている。よって、理解の便宜のため、以下、詳細に説明する。

結論から言えば、甲第1号証には、構成要件1E’の制御部と実質的に同じ機能を有する制御部が開示されている。甲第1号証記載の制御部と、訂正発明1の構成要件1E’の制御部との相違点は、LED(発光部)を接続して制御するか、しないかのみである(回路にLEDを接続して光らせるなどということが当業者のみならず技術の素人にとっても容易であったことは後述する。)。
もっとも、訂正請求項1における構成要件1E’の記載は簡潔なものにすぎず、「応じて」「制御する」などの抽象的な用語を含む。一方で甲第1号証の制御部に関する記載は詳細であるので、両者をそのまま比較するのみでは、果たして甲第1号証の構成が構成要件1E’に相当するものか、判断することは容易でない。
そこで、以下では、構成要件1E’の内容理解のため、101号訂正明細書に記載の制御部の構成を参照しながら、甲第1号証の構成と比較することにする。請求項に記載された用語の意味を解釈するために明細書の記載及び図面を参酌することは、もとより許されることである。また、訂正発明1の下位概念(101号訂正明細書に発明の実施の形態として記載された事項)と引用発明の構成の比較をして一致点及び相違点の認定を行うという認定方法が許されることは、下記に引用した審査基準の記載に照らしても、明らかである。

┌--------------------------------┐
|特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 新規性進歩性
| 1.5.4 請求項に係る発明と引用発明との対比 |
|(1)請求項に係る発明と引用発明との対比は、請求項に係る発明の発|
|明特定事項と引用発明を文言で表現する場合に必要と認められる事項(|
|以下、「引用発明特定事項」という。)との一致点及び相違点を認定し|
|て行う。 |
|(2)また、上記(1)の対比の手法に代えて、請求項に係る発明の下|
|位概念と引用発明との対比を行い、両者の一致点及び相違点を認定する|
|ことができる。 |
| 請求項に係る発明の下位概念には、発明の詳細な説明又は図面中に請|
|求項に係る発明の実施の形態として記載された事項などがあるが、この|
|実施の形態とは異なるものも、請求項に係る発明の下位概念である限り|
|、対比の対象とすることができる。 |
| この手法は、例えば、機能・特性等によって物を特定しようとする記|
|載や数値範囲による限定を含む請求項における新規性の判断に有効であ|
|る。 |
└--------------------------------┘

b 構成要件1E’に対応する101号訂正明細書の記載

訂正発明1の構成要件1E’「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」の内容は、10訂正明細書の記載及び図面からすれば、次のようなものである。

(a)「制御部」の全体像に関する101号訂正明細書の記載

まず、「制御部」の全体像を理解するために適切と思われる記載を参照する。まず、下記の101号訂正明細書段落【0081】及び図20の記載から、インクタンクには「制御素子」103があり、かかる「制御素子」103に対し、プリンタの制御回路300から信号線及びコンタクト端子(接点)102/152を通じて、LED101の点灯、点滅などの処理に関する制御信号(制御データ)が送られることが理解される。

● 図20に示すように、インクタンク1に対する信号配線は、4本の信号線からなり、また、4つのインクタンク1に共通の信号配線(所謂バス接続)である。すなわち、それぞれのインクタンク1に対する信号配線は、インクタンクにおけるLED101の発光およびその駆動などを行う機能素子群103の動作などの電力供給にかかる電源信号線「VDD」およびアース信号線「GND」と、後述されるように、制御回路300から、LED101の点灯、点滅などの処理に関する制御信号(制御データ)などを送るための信号線「DATA」およびそのクロック信号線「CLK」の4本の信号線から構成される。本実施例においては4本の信号線による説明を行うが、本発明はこれに限定されるものでなく例えばアース信号を別構成で達成することにより「GND」線を省略することも可能である。また「CLK」と「DATA」の信号線を共有して一本で構成することも可能である。(101号訂正明細書段落【0081】)


次に、下記の101号訂正明細書段落【0083】及び図21の記載から、制御素子103は、入出力制御回路(I/O CTRL)103A、メモリーアレイ103BおよびLEDドライバ103Cを有していること、このうち入出力制御回路103Aが本体側の制御回路300から送られてくる制御データに応じて、LED101の表示駆動やメモリーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制御することが理解される。
また、「インクタンクの識別情報(個別情報)」としての色情報がメモリーアレイ103B(請求項1の「情報保持部」が101号訂正明細書でいう「メモリーアレイ103B」を指すことは明らかである。)に格納されており、色情報を用いてインクタンクを特定してLED101の表示駆動やメモリーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制御できることが理解される。

● 図21はこれら制御部などが設けられた基板の詳細を示す回路図である。同図に示すように、制御部103は、入出力制御回路(I/O CTRL)103A、メモリーアレイ103BおよびLEDドライバ103Cを有して構成される。入出力制御回路103Aは、本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して送られてくる制御データに応じて、LED101の表示駆動やメモリーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制御する。メモリーアレイ103Bは、本実施形態ではEEPROMの形態のものであり、インク残量、収納するインクの色情報の他、そのインクタンクの固有番号や製造ロット番号などの製造情報等のインクタンク色情報を記憶することができる。なお、色情報はインクタンクの出荷時または製造時に、その収納しているインクの色に対応して、メモリーアレイ103Bの所定のアドレスに書き込まれる。例えばこの色情報は、図23、図24にて後述されるように、インクタンクの識別情報(個体情報)として用いられ、これにより、インクタンクを特定してメモリーアレイ103Bに対するデータの書き込みやメモリーアレイ103Bからデータの読み出しを行い、また、そのインクタンクのLED101の点灯、消灯を制御することが可能となる。(後略)(101号訂正明細書段落【0083】)


以上から、請求項1の「制御部」とは101号訂正明細書でいう「入出力制御回路(I/O CTRL)103A」を指しており、かかる入出力制御回路は、メモリーアレイ103Bに格納された色情報を用いてインクタンクを特定し、LED101の表示駆動やメモリーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制御する機能を有することが理解できる。

(b)「前記接点から入力される前記色情報に係る信号」についての101号訂正明細書の記載

「前記接点から入力される前記色情報に係る信号」に関しては、下記の101号訂正明細書段落【0087】及び図23の記載から、「開始コード+色情報」、「制御コード」(=前出の「制御データ」)、「アドレスコード」、「データコード」の各データ信号が、プリンタの制御回路300から入出力制御回路103Aに対し、信号線「DATA」を介して送られてくることが理解される。信号線「DATA」を介してインクタンクに送られてくるということは、前記図20の「102/152:パッド(コンタクト端子)」(=接点)を通ることになる。
よって、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号」とは、このようなプリンタの制御回路300から入出力制御回路103Aに対し「制御コード」とともに送られてくる「開始コード+色情報」を指すことが理解できる。

● 図23に示すように、メモリーアレイ103Bへの書き込みでは、本体側の制御回路300からインクタンク1の制御部103における入出力制御回路103Aに対し、信号線DATA(図20)を介して「開始コード+色情報」、「制御コード」、「アドレスコード」、「データコード」の各データ信号が、クロック信号CLKに同期してこの順で送られてくる。「開始コード+色情報」は、その「開始コード」信号によって、一連のデータ信号の始まりを意味し、また、「色情報」信号によってこの一連のデータ信号の対象となっているインクタンクを特定する。なお、ここでのインクの「色」とはY、M、C等のインク色だけでなく濃度の異なるインクをも含むものである。(101号訂正明細書段落【0087】)


(c)「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて」についての101号訂正明細書の記載

「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて」に関しては、下記の101号訂正明細書段落【0088】の記載から、インクタンクにおける入出力制御回路103Aが、接点から入力された色情報と、メモリーアレイ103Bに格納されている色情報を比較して一致するかどうかを判断し、一致しているときのみ、それ以降のデータ信号(制御コード)を取り込むものと理解できる。

● 「色情報」は、同図に示すように、インクの色「K」、「C」、「M」、「Y」に対応したコードを有しており、入出力制御回路103Aは、このコードが示す色情報とメモリーアレイ103Bに格納されている自身の色情報とを比較し一致しているときにのみ、それ以降のデータ信号を取り込む処理を行い、一致しないときは、それ以降のデータ信号の取り込みを無視する処理を行う。これにより、図20に示した共通の信号線「DATA」を介して、本体側からデータ信号をそれぞれのインクタンクに共通に送っても、それに上述の色情報を含めることによってインクタンクを特定することができ、書き込み、読み出し、LEDの点灯、消灯など、その後のデータ信号に基づく処理を、その特定したインクタンクに関してのみ行うことが可能となる。この結果、4つのインクタンクに対して共通の(1本の)データ信号線を介して送信されるデータによってデータの書き込みなどのほか、LEDの点灯、消灯の制御を行うことができ、これらの制御に要する信号線の数を本発明のように少なくすることが可能となる。なお、このような共通の(1本の)データ信号線を用いる構成は、インクタンクの数に限定されずに同じものとすることができることは、以上の説明からも明らかである。(101号訂正明細書段落【0088】)

(d)「発光部の発光を制御する」についての101号訂正明細書の記載

「発光部の発光を制御する」に関しては、下記の101号訂正明細書段落【0089】?【0093】の記載から、上記(c)のとおり色情報が一致した場合に、入出力制御回路103Aはプリンタの制御回路300からの「制御コード」に基づくLEDの点灯、消灯並びにメモリーアレイに対する読み出し及び書き込みの制御を行うことが理解される。また、制御コードの内容の一例は下記の表のとおりであり、「発光部の発光を制御する」とは、入出力制御回路103Aが、下記の例のうち制御コードが「100」のときにLEDの点灯、制御コードが「000」のときにLEDの消灯を行うことを指す(なお、101号訂正明細書段落【0090】には、制御コードは上記の例に限定されないことが記載されている。)ことが理解される。

┌---------┬----------------------┐
|制御コード |入出力制御回路(制御部)が制御する処理 |
├---------┼----------------------┤
|000 |LEDの消灯(OFF) |
├---------┼----------------------┤
|100 |LEDの点灯(ON) |
├---------┼----------------------┤
|010 |メモリーアレイへの読み出し(READ) |
├---------┼----------------------┤
|110 |メモリーアレイへの書き込み(WRITE) |
└---------┴----------------------┘

● 本実施形態の「制御コード」は、図23に示すように、後述するLEDの点灯、消灯制御に用いられる「OFF」、「ON」のコードと、メモリーアレイに対する読み出しおよび書き込みを示すそれぞれ「READ」および「WRITE」のコードを有している。本書き込み動作では、「WRITE」のコードがインクタンクを特定する上記「色情報」のコードの後に続くことになる。次の「アドレスコード」は、書き込み先であるメモリーアレイのアドレスを示し、最後の「データコード」は書き込む内容を表している。(101号訂正明細書段落【0089】)

● 「なお、「制御コード」が表す内容は上記の例に限られないことはもちろんであり、例えば、ベリファイコマンド、連続読み出しコマンドなどに関する制御コードを加えて用いることもできる。」(101号訂正明細書段落【0090】)

● 「読み出しでは、上記の書き込みの場合とデータ信号の構成は同じであり、また、「開始コード+色情報」のコードは、上記の書き込みの場合と同様、総てのインクタンクの入出力制御回路103Aによって取り込まれ、それ以降のデータ信号は「色情報」が一致したインクタンクの入出力制御回路103Aだけが取り込む。(後略)(101号訂正明細書段落【0091】)

● 「LED101の点灯または消灯では、図24に示すように、上記と同様、先ず、「開始コード+色情報」のデータ信号が、本体側から信号線DATAを介して入出力制御回路103Aに送られてくる。上述したように、「色情報」によってインクタンクが特定され、その後に送られてくる「制御コード」に基づくLED101の点灯、消灯は特定されたインクタンクのみで行われる。点灯、消灯にかかる「制御コード」は、図23にて上述したように、「ON」または「OFF」のコードがあり、「ON」によってLED101の点灯が行われ、「OFF」によって消灯が行われる。すなわち、制御コードが「ON」のとき、入出力制御回路103Aは、図22にて前述したように、LEDドライバ103Cに対してオン信号を出力し、それ以降もその出力状態を維持する。逆に、制御コードが「OFF」のとき、入出力制御回路103Aは、LEDドライバ103Cに対してオフ信号を出力し、それ以降もその出力状態を維持する。(後略)」(101号訂正明細書段落【0092】)


● 「同図に示す例では、最初、同図の最左端のデータ信号にあるように、ブラックKのインクタンクが特定されて、インクKのタンクのLED101が点灯されている。次に、2番目のデータ信号の「色情報」はマゼンタインクMを指定するものであり、「制御コード」は点灯を指示するものであるから、インクKのタンクのLED101が点灯したまま、インクMのタンクのLED101も点灯する。そして、3番目のデータ信号は、インクKのタンクについて、「制御コード」が消灯を指示するものであるから、インクKのタンクについてのみそのLED101が消灯する。」(101号訂正明細書段落【0093】)


つまり、入出力制御回路103Aは、色情報が一致した場合に取り込んだ制御コードの値に基づき、LEDの点灯、消灯並びにメモリーアレイに対する読み出し及び書き込みの制御を行うのである。

c 甲第1号証の開示内容

(a)「制御部」の全体像に関する甲第1号証の記載

甲第1号証には、各インクカートリッジに「記憶装置」があり、その中に色情報に当たる「識別データ」を有するメモリアレイ201がある。そして、記憶装置には、下記の図7のとおり、接点から入力された「識別データ」とメモリアレイの「識別データ」を比較する「IDコンパレータ」(「コンパレータ」(comparator)とは、「比較器」「比較するもの」という意味である。)、両「識別データ」が一致した場合には「読み出し/書き込みコマンド」等に基づきメモリアレイへのデータの読み出し/書き込みを制御する「I/Oコントローラ」等の、訂正発明1の「制御部」に実質的に相当する機能を有する構成が開示されている。ここでは第7図を挙げるにとどめるが、その詳しい内容については、後述する。

また、甲第1号証には、印刷装置(プリンタ)側と電気的に接続可能なインクカートリッジに備えられた各記憶装置のデータ信号端子DT、クロック信号端子CT、リセット信号端子RT(電気的接点)が開示されている。


また甲第1号証においては、下記の記載のとおり、101号訂正明細書におけるプリンタの「制御回路300」に相当する「制御回路30」が開示されている。「制御回路30」は基本的には「パーソナルコンピュータPC」からの制御信号に従ってプリンタを制御するものであるが、下記の記載のとおり、「CPU31」を有しており、また一連の処理を「パーソナルコンピュータPC」によらずに「制御回路30」によって行うことも許容されているので、以下の記載にある「パーソナルコンピュータPC」の記載は、すべて「制御回路30」に置き換えて理解できる。

● 「制御回路30は、プリンタの操作パネル13と信号をやり取りしつつ、紙送りモータ105やキャリッジモータ103、印字ヘッド102の動きを適切に制御している。カラープリンタ10に供給された印刷用紙Pは、プラテン104と給紙補助ローラの間に挟み込まれるようにセットされ、プラテン104の回転角度に応じて所定量だけ送られる。制御回路30には、パーソナルコンピュータPCが接続されている。パーソナルコンピュータPCは、内部または外部に備えられた記憶装置(記録媒体)HDに格納されているプログラムに基づいて後述するインクカートリッジの識別処理を実行し、制御回路30に対して制御信号を送信する。本実施例では、制御回路30は、パーソナルコンピュータPCから受信した制御信号に従ってプリンタ10の各部の動作を制御する。」(甲第1号証 16頁11?20行)

● 「上記実施例では、パーソナルコンピュータPCによってインクカートリッジCAの識別処理が実行されているが、これら一連の処理をカラープリンタ20の制御回路30によって実行してもよい。かかる場合には、インクカートリッジCAの識別処理をカラープリンタ20単独で実行することができる。」(甲第1号証 43頁1?4行)

● 「制御回路30の内部構成について、図3を参照して説明する。制御回路30には、CPU31,PROM32,RAM33,インクカートリッジCA1?CA4に備えられた記憶装置、紙送りモータ105やキャリッジモータ103等とデータのやり取りを行う周辺機器入出力部(PIO)34,タイマ35,駆動バッファ36等が設けられている。」(甲第1号証 17頁2?6行)


(b)「前記接点から入力される前記色情報に係る信号」についての甲第1号証の記載

甲第1号証の下記の記載から、プリンタの制御回路30(上記(a)に基づき、「パーソナルコンピュータPC」を「制御回路30」に置き換えたものである。)からインクカートリッジの記憶装置に対して、各インクカートリッジの記憶装置が個別に有する識別情報(識別データ)と比較するための「識別データ」及び「読み出し/書き込みコマンド」を含むデータ列を送出することが理解される。甲第1号証においてデータ列を送出するにはデータバス回線を及びデータ信号端子DT(接点)を通じて送出することは明らかである。よって、甲第1号証には、接点から入力される色情報に関する信号(識別データ)が開示されている。

● 「図6はパーソナルコンピュータPCから記憶装置20、21、22、23に対して送出されるデータ列の一例を示す説明図である。
パーソナルコンピュータPCから送出されるデータ列は、図7に示すように3ビットの識別データ部、1ビットの読み出し/書き込みコマンド部、1ビット?252ビットの書き込み/読み出しデータ部を備える。」(甲第1号証 20頁2行?6行)


● 「個々の記憶装置20,21,22,23の内部構成は、格納されている識別情報(識別データ)、固有のデータを除いて同一である」(甲第1号証 20頁13?15行)

(c)「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて」についての甲第1号証の記載

甲第1号証の下記の記載から、各インクカートリッジの記憶装置20内のIDコンパレータ203は、接点から入力された識別データとメモリアレイ201の識別データとが一致するか否かを判定すること、及び両識別データが一致する場合には、IDコンパレータ203がアクセス許可信号ENをオペレーションコードデコーダ204に送出することが理解される。
つまり、各インクカートリッジの記憶装置は、接点から入力された識別データとメモリアレイ201の識別データとが一致する場合のみアクセスを許可することが理解される。

● 「記憶装置20は、メモリアレイ201、アドレスカウンタ202、IDコンパレータ203、オペレーションコードデコーダ204、I/Oコントローラ205および工場設定ユニット206を備えている。」(甲第1号証 20頁17行?19行)


● 「IDコンパレータ203は、クロック信号端子CT、データ信号端子DT、リセット信号端子RTと接続されており、データ信号端子DTを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモリアレイ201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定する。詳述すると、IDコンパレータ203は、リセット信号RSTが入力された後に入力される3ビット分のデータ、すなわち識別データを取得する。IDコンパレータ203は、データ列に含まれる識別データを格納する3ビットレジスタ(図示しない)、I/Oコントローラ205を介してメモリアレイ201から取得した識別データを格納する3ビットレジスタ(図示しない)を有しており、両レジスタの値が一致するか否かによって識別データが一致するか否かを判定する。IDコンパレータ203は、両識別データが一致する場合には、アクセス許可信号ENをオペレーションコードデコーダ204に送出する。」(甲第1号証 21頁13行?24行)

(d)「発光部の発光を制御する」についての甲第1号証の記載

甲第1号証の下記の記載から、アクセス許可信号ENが入力されたとき、すなわち入力された識別データとメモリアレイの識別データが一致したとき、I/Oコントローラ205は入力された書き込み/読み出しコマンドに基づく制御を行う(I/Oコントローラ205による制御に先立って、オペレーションコードデコーダ204が書き込み/読み出しコマンドを取得し、解析してI/Oコントローラ205に対して書き込み処理要求または読み出し処理要求を送出するというプロセスが介在する。)ことが理解できる。
甲第1号証において、インクカートリッジに発光部を設けることの開示はないから発光部を制御するとの開示はないが、甲第1号証の記憶装置は、識別データとともに入力されたコマンドに基づく制御を行う点で、訂正発明1と共通する。

● 制御回路30は、CPU31を介して、クロック信号生成機能、リセット信号生成機能、電源監視機能、電源回路、電源補償回路、データ記憶回路および各回路を制御する制御機能を実現する制御装置であり、記憶装置20,21,22,23に対するアクセスを制御する。制御回路30は、カラープリンタ10の本体側に配置されており、電源がオンされると、記憶装置20,21,22,23からインク消費量、インクカートリッジの装着時間といったデータを取得しデータ記憶回路に記憶する。また、電源がオフされる際には、インク消費量、インクカートリッジの装着時間といったデータを記憶装置20,21,22,23に対して書き込む。(甲第1号証 19頁3?11行)

● 「オペレーションコードデコーダ204は、I/Oコントローラ205、クロック信号端子CT、データ信号端子DTと接続されており、リセット信号RSTが入力された後に入力される4ビット目のデータ、すなわち書き込み/読み出しコマンドを取得する。オペレーションコードデコーダ204は、アクセス許可信号ENが入力されると、取得した書き込み/読み出しコマンドを解析してI/Oコントローラ205に対して書き込み処理要求または読み出し処理要求を送出する。」(甲第1号証 21頁最終行?22頁6行)

● 「I/Oコントローラ205は、データ信号端子DT、メモリアレイ201と接続されており、オペレーションコードデコーダ204からの要求に従ってメモリアレイ201に対するデータ転送方向ならびにデータ信号端子DTに対する(データ信号端子DTと接続されている信号線の)データ転送方向を切り換え制御する。I/Oコントローラ205は、リセット信号端子RTとも接続されており、リセット信号RSTを受信する。I/Oコントローラ205にはメモリアレイ201から読み出したデータおよびメモリアレイ201に対する書き込みデータを一時的に格納する第1のバッファメモリ(図示しない)と、データバスDBからのデータおよびデータバスDBへのデータを一時的に格納する第2のバッファメモリ(図示しない)を備えている。」(甲第1号証 22頁9?18行)

d 訂正発明1の構成要件1E’と甲第1号証との比較

以上の訂正発明1の構成要件1E’と甲第1号証の構成を比較すると、次のとおりである。

まず、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号」について、いずれもプリンタの制御回路から接点を通じて、aインクタンクの識別情報、及びbインクタンクに制御を命ずるデータ(制御信号)が入力される構成を有している。
次に、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて」について、いずれも接点から入力される識別情報と、メモリアレイに格納された識別情報とを比較して一致するか判断する構成を有している。
「発光部の発光を制御する」については、甲第1号証には「発光部の発光を制御する」構成はない点で相違するものの、いずれも比較した両識別情報が一致する場合には制御信号を受け入れ、制御信号に基づくメモリアレイの読み出し/書き込み制御を行う構成を有している。

詳細を表にすれば、下記のとおりである。




そうすると、
甲第1号証における、
「識別データを比較して一致した場合にアクセス許可信号を送出するIDコンパレータ203、及びアクセス許可信号を受けて書き込み/読み出しコマンドを解析し書き込み処理要求または読み出し処理要求を送出するオペレーションコードデコーダ204、及び書き込み処理要求または読み出し処理要求を受けて書き込み/読み出し処理を行うI/Oコントローラ205」
が、
訂正発明1における、
「色情報を比較し一致しているときにのみ、それ以降のデータ信号を取り込み、続いて送られてくる制御コードに応じて、「READ」の制御コードが送られてきた場合には、入出力制御回路103Aはメモリアレイから読み出しを行い、「WRITE」の制御コードが送られてきた場合にはメモリアレイへの書き込みを行い、制御コードが「ON」のとき、LEDドライバ103Cに対してオン信号を出力し、制御コードが「OFF」のとき、LEDドライバ103Cに対してオフ信号を出力する入出力制御回路103A、すなわち構成要件1E’」
に相当することになる。

要約すると、
IDコンパレータ203+オペレーションコードデコーダ204
+I/Oコントローラ205(以上甲第1号証)
→ 入出力制御回路103A(訂正発明1)に相当

両者の相違点は、訂正発明1の構成要件1E’の制御部が制御信号に基づきインクタンクのLEDのON/OFF制御とメモリアレイの読み出し/書き込み制御の両方を行うのに対し、甲第1号証の構成はメモリアレイの読み出し/書き込み制御しか行わない点のみである。
少なくとも両者は、接点から入力された識別情報とメモリアレイに格納された識別情報を比較して一致した場合にのみ制御信号を受け入れることにより、インクタンクを特定して制御信号に基づく制御を行うという、訂正発明1の本質的部分において実質的に一致している。

(オ) 甲第1号証発明1’について

以上の記載から、甲第1号証の上記部分には、次の構成を含み、かつ前述した構成要件1A-1’、1A-2’、1A-4’、1B’、1C’、及び1F’に相当する構成を備える液体インク収納容器に関する発明(以下「甲第1号証発明1’」という)が記載されていることが明らかである。

┌--------------------------------┐
|1a-5’ 前記キャリッジを所定の位置に移動させて特定のキャリッ|
| ジ上のLEDを点灯させるプリンタの前記キャリッジに対して着脱可|
| 能なインクカートリッジにおいて、 |
|1d’ 「報知手段」の1例としてのLED発光部(実質的にインクタ|
| ンクに設けられた発光部を含む等価物)と、 |
|1e’ 前記端子から入力される識別データに係る信号と、前記メモリ|
| アレイの保持する識別データとに応じてプリンタの操作パネル上のラ|
| ンプを点滅させるための応答をプリンタに対して行い、また、前記端|
| 子から入力される識別データに係る信号と、前記メモリアレイの保持|
| する識別データとに応じてメモリアレイ201に書き込み処理または|
| 読み出し処理を行う記憶装置 |
└--------------------------------┘

イ 甲第1号証発明1’と訂正発明1との対比

(ア) 一致点

a 構成要件1A-1’、1A-2’、1A-4’、1A-5’、1B’、1C ’及び1F’に関する一致点

甲第1号証発明1’の構成と訂正発明1の構成要件とを対比すると、まず前述のとおり、構成要件1A-1’、1A-2’、1A-4’、1B’、1C’、及び1F’に関して甲第1号証発明1’の構成と訂正発明1が一致することには争いがない。
構成要件1A-5’については、構成要件1A-5’の「記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器」を甲第1号証発明1’が備えていることについては前述のとおり争いがない。また、キャリッジを所定の「インク交換位置」まで移動させ、特定のインクカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯させる構成が、下記bに詳述するとおり発光部をインクタンクに備えるかキャリッジに備えるかが実質的に等価であることから、構成要件1A-5’の「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ」に対応する。以上の限度で構成1a-5’と構成要件1A-5’は一致する。

b 構成要件1D’に関する一致点(「発光部」(構成要件1D’)に当たる構成が甲第1号証においてインクタンクではなく記録装置(プリンタ)側のキャリッジに備えられていることが、実質的に相違点といえないこと)

構成要件1D’については、制御の対象となっている発光部が液体収納容器(インクカートリッジ)側ではなく記録装置(プリンタ)側のキャリッジにあることは、液体収納容器と記録装置とが電気的に接続されている以上、制御の対象となっている発光部を個々の液体収納容器に設けるか、個々の液体収納容器に対応ししかも極めて隣接した位置にある記録装置側のキャリッジ箇所に設けるかは、単なる設計上の違いに過ぎないものであり、実質的に相違点とはならないというべきである。
なお、この点については、仮に相違する可能性があるとしても、後述(「ウ」「(エ) 相違可能性b’についての検討」)するとおり、インクカートリッジにLEDを設けることは本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であることから、甲第1号証発明1’におけるキャリッジに備えられたLEDを、インクカートリッジに設けることは極めて容易である。

c 構成要件1E’に関する一致点(「発光部」(構成要件1D’)に当たる構成が甲第1号証においてインクタンクではなく記録装置(プリンタ)側のキャリッジに備えられていることが、実質的に相違点といえないこと)

構成要件1E’については、構成1e’における「前記端子から入力される識別データに係る信号と、前記メモリアレイの保持する識別データとに応じてプリンタの操作パネル上のランプを点滅させるための応答をプリンタに対して行」う、「前記端子から入力される識別データに係る信号と、前記メモリアレイの保持する識別データとに応じてメモリアレイ201に書き込み処理または読み出し処理を行う」「記憶装置」が、構成要件1E’における「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」に対応する。なぜなら、接点から入力された識別情報とメモリアレイに格納された識別情報を比較して一致した場合にのみ制御信号を受け入れることにより、インクタンクを特定して制御信号に基づく制御を行う点で一致するからである。また、請求人は第2弁駁書「第3」「1」で詳述するとおり「制御部」にあたる構成は101号訂正明細書の記載によりサポートされていないと主張しているのであるが、仮にサポートされているとすれば、かかる「制御部」の機能は、接点から入力される色情報と情報保持部の保持する色情報とに応じて信号を出力するというものに過ぎないから、かかる「制御部」に上記構成1e’が対応することは明らかだからである。
また、上記bで説明したように甲第1号証に開示されている「構成要件1D’」に相当する構成は、発光部を用いた「報知手段」としては、実質的にインクタンクに直接発光部を設けることと認定されるので、実質的に、構成要件1E’に関する甲第1号証の記載も「前記接点から入力される色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する色情報と、に応じて“インクタンクに設けられた発光部”の発光を制御する制御部」と解釈することができ、少なくともその技術的示唆が存在することが認められる。

したがって、甲第1号証発明1’と訂正発明1とは、以下の点において一致する。
┌--------------------------------┐
|1A-1’ 複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジ|
| と、 |
|1A-2’ 該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可|
| 能な装置側接点と、 |
|1A-4’ 搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続|
| する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係|
| る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し、 |
|1A-5’ 前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記|
| 液体インク収納容器に対応する発光部を光らせる記録装置の|
| 前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器にお|
| いて、 |
|1B’ 前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、 |
|1C’ 少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持|
| 可能な情報保持部と、 |
|1D’ 「報知手段」の1例としてのLED発光部(実質的にインクタ|
| ンクに設けられた発光部を含む等価物)と、 |
|1E’ 前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保|
| 持部の保持する前記色情報とに応じて「報知手段」の1例とし|
| てのLED発光部の発光を制御する制御部と、 |
|1F’ を有することを特徴とする液体インク収納容器。 |
└--------------------------------┘

(イ) 相違する可能性のある点

甲第1号証発明1’の構成と訂正発明1の構成要件との相違する可能性がある点として挙げられるのは、以下の2点である。
第1に、構成要件1A-3’及び1A-5’に関して、訂正発明1においては、記録装置側に以下の構成要件を有するのに対し、甲第1号証発明1’には、かかる記載はないこと(以下「相違可能性a’」という)。
1A-3’について
a「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」
b「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え」
c「該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」
1A-5’について
d「その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
なお、上記a?dのうち、dはcの繰り返しに過ぎず、独自の意義を有しない。また、aは、構成要件1A-1’に関して複数のインクタンクを搭載して移動するキャリッジという構成を甲第1号証発明1’が有していることとの関係で、bのとおりの位置検出用の受光手段をプリンタ側に一つ備えれば、当然に備える構成に過ぎない。よって、相違可能性a’は、上記のうちb及びcに集約されるので、下記ではb及びcについての容易想到性を検討する。

第2に、構成要件1D’に関して、訂正発明1においては、液体インク収納容器に「受光手段に投光するための光を発光する」「発光部」が備えられているのに対し、甲第1号証発明1’においては、プリンタ側のキャリッジに発光部が備えられているものの、受光手段に投光するためのものではなく、液体インク収納容器に備えるという記載がないこと(以下「相違可能性b’」という)。

以上の一致点及び相違する可能性のある点をまとめると下記表のとおりである。
┌------------------┬----------┬--┐
|訂正発明1 |甲第1号証発明1’ |比較|
├------------------┼----------┼--┤
|1A-1’ 複数の液体インク収納容器|(争いなし) |○ |
| を搭載して移動するキャリッジと、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|1A-2’ 該液体インク収納容器に備|(争いなし) |○ |
| えられる接点と電気的に接続可能な装| | |
| 置側接点と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|1A-3’ 前記キャリッジの移動によ|- |× |
| り対向する前記液体インク収納容器が| | |
| 入れ替わるように配置され前記液体イ| | |
| ンク収納容器の発光部からの光を受光| | |
| する位置検出用の受光手段を一つ備え| | |
| 、該受光手段で該光を受光することに| | |
| よって前記液体インク収納容器の搭載| | |
| 位置を検出する液体インク収納容器位| | |
| 置検出手段と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|1A-4’ 搭載される液体インク収納|(争いなし) |○ |
| 容器それぞれの前記接点と接続する前| | |
| 記装置側接点に対して共通に電気的接| | |
| 続し色情報に係る信号を発生するため| | |
| の配線を有した電気回路とを有し、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|1A-5’ 前記キャリッジの位置に応|1a-5’ 前記キャ|○ |
| じて特定されたインク色の前記液体イ| リッジを所定の位置| |
| ンク収納容器の前記発光部を光らせ、| に移動させて特定の| |
| その光の受光結果に基づき前記液体イ| キャリッジ上のLE| |
| ンク収納容器位置検出手段は前記液体| Dを点灯させるプリ| |
| インク収納容器の搭載位置を検出する| ンタの前記キャリッ| |
| 記録装置の前記キャリッジに対して着| ジに対して着脱可能| |
| 脱可能な液体インク収納容器において| なインクカートリッ| |
| 、 | ジにおいて、 | |
├------------------┼----------┼--┤
|1B’ 前記装置側接点と電気的に接続|(争いなし) |○ |
| 可能な前記接点と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|1C’ 少なくとも液体インク収納容器|(争いなし) |○ |
| のインク色を示す色情報を保持可能な| | |
| 情報保持部と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|1D’ 前記受光手段に投光するための|1d’ 「報知手段」|△ |
| 光を発光する前記発光部と、 | の1例としてのLE| |
| | D発光部(実質的に| |
| | インクタンクに設け| |
| | られた発光部を含む| |
| | 等価物)と、 | |
├------------------┼----------┼--┤
|1E’ 前記接点から入力される前記色|1e’ 前記端子から|○ |
| 情報に係る信号と、前記情報保持部の| 入力される識別デー| |
| 保持する前記色情報とに応じて前記発| タに係る信号と、前| |
| 光部の発光を制御する制御部と、 | 記メモリアレイの保| |
| | 持する識別データと| |
| | に応じてプリンタの| |
| | 操作パネル上のラン| |
| | プを点滅させるため| |
| | の応答をプリンタに| |
| | 対して行い、また、| |
| | 前記端子から入力さ| |
| | れる識別データに係| |
| | る信号と、前記メモ| |
| | リアレイの保持する| |
| | 識別データとに応じ| |
| | てメモリアレイ20| |
| | 1に書き込み処理ま| |
| | たは読み出し処理を| |
| | 行う記憶装置 | |
├------------------┼----------┼--┤
|1F’ を有することを特徴とする液体|(争いなし) |○ |
| インク収納容器。 | | |
└------------------┴----------┴--┘

ウ 訂正発明1の容易想到性
(ア) 相違可能性a’についての検討(「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」(構成要件1A-3’)が、実質的に相違点といえないこと、及び、プリンタにおいて、「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」(構成要件1A-3’)を備えることは周知慣用技術であって当該周知技術を甲第1号証発明1’に適用することは容易であること)

a 相違可能性a’については、訂正発明1の進歩性を検討するうえでは、無視されるべき事項であって、実質的に相違点といえないこと

記録装置に、液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段を設けるという構成要件1A-3’(及び1A-5’)の構成は、記録装置についての要件であるに過ぎず、液体インク収納容器についての要件ではない。よって、液体インク収納容器についての発明である訂正発明1において、何ら発明を特定する要素とはならない点についての相違にすぎない。したがって、相違可能性a’については、訂正発明1の進歩性を検討するうえでは、無視されるべき事項である。
さらに、101号訂正明細書では、本件各訂正発明の目的について、以下に記載のとおり、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いて、インクタンクの搭載位置を特定した表示器の発光制御を行うことが記載されており(101号訂正明細書の段落【0010】)、受光手段による発光部からの光の検出は、本件各発明の目的ではないことが明らかにされている。つまり、受光手段による発光部からの光の検出は、本件各訂正発明の結果にすぎないのであって、本件各訂正発明の技術的思想には含まれないものと解するべきである。

【101号訂正明細書の記載】
● 「【0010】
本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることにある。」(101号訂正明細書3頁下9?下4行)

以上から、甲第1号証発明1’が仮に構成要件1A-3’を欠いていたとしても、実質的に相違点といえないものである。

b 相違可能性a’について、プリンタにおいて、「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」(構成要件1A-3’)を備えることは周知慣用技術であって、当該周知慣用技術を甲第1号証発明1’に適用することは容易であること

仮に、甲第1号証発明1’において、構成要件1A-3’の前記b及びcに相当する構成「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を欠いていたことが相違点といえるとしても、以下に詳述するとおり、記録装置に液体インク収納容器からの光を受光する受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置手段を設けることは、本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であった。

(a) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成14年1月9日に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2002-5818号公報)には、下記の記載があり、インクジェット記録装置に、インクタンク内の立体形半導体素子の発光手段からの光を受光する受光手段を一つ備えるという構成、及び受光手段で受光することによりインクタンクの装着位置を検出する構成を備えることが開示されている。なお、甲第2号証には、下記のとおり、複数のインクタンクが、インクの種類に従ってキャリッジ上の所定の位置に装着される構成も開示されているから、上記のとおりプリンタが「受光手段を一つ備える」こととの関係上、構成要件1A-3’のaと同じ「キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」という構成も開示されていることは明らかである。

[複数のインクタンクが、インクの種類に従ってキャリッジ上の所定の位置に装着される構成]

● 「複数の前記インクタンクの各々が、それぞれの前記インクタンク内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるように構成されており、」(甲第2号証請求項8、請求項9)

● 「図5に示されるインクジェット記録装置600に搭載されたヘッドカートリッジ601は、・・・その液体吐出ヘッドに供給される液体を保持する図2?図4に示したようなインクタンクとを有するものである。」(甲第2号証4頁6欄46行?5頁7欄1行)


[インクジェット記録装置に、インクタンク内の立体形半導体素子の発光手段からの光を受光する受光手段という構成]

● 「インクタンク内に配された前記立体形半導体素子の発光手段で発光され、前記インクタンク内に収容されたインクを透過した光を受光する受光手段を備えているインクジェット記録装置。」(甲第2号証請求項7)

● 「本発明のインクジェット記録装置は、上記本発明のインクタンクが搭載されるインクジェット記録装置であって、前記インクタンク内に配された前記立体形半導体素子の発光手段で発光され、前記インクタンク内に収容されたインクを透過した光を受光する受光手段を備えている。」(甲第2号証4頁5欄2行?7行)

● 「該インクタンク内に配された立体形半導体素子へ外部エネルギーである起電力を供給する手段622や前記素子から放射された光を受光する手段(不図示)が記録装置600内に設置されている。」(甲第2号証5頁7欄1行?4行)

[受光手段で受光することによりインクタンクの装着位置を検出する構成]

● 「複数のインクタンクの各々が、それぞれのインクタンク内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるように構成されているインクジェット記録装置においては、インクタンク内のインクを透過した光を受光した光センサ550によってインクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザーに警告を発する手段が備えられていてもよい。この場合の警告手段としては、ランプ等の発光手段やブザー等の鳴音手段などを用いることができる。ユーザーは、警告手段による警告によってインクタンクを誤った位置に装着したことを知り、そのインクタンクを本来の位置に装着し直すことができる。」(甲第2号証7頁11欄22行?33行)


なお、被請求人は、答弁書「7-3-2」「(2)」(11頁)及び「7-3-3」「(2)」(15頁)において、「光センサ550がインクタンクの外部と記載されているだけで、どこに設けられているかは開示されていない」と主張するが、誤りである。受光手段である光センサをインクタンクごとに設けることはコストがかかる点で不合理であるから、移動するキャリッジを有するプリンタにおいて、受光手段は一つのみを設けて、キャリッジの移動により順次インクタンクからの光の受光を行う構成をとることが常識である。このことは、被請求人自らが、本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前に発売した被請求人製プリンタにおいて、受光手段を一つ設けて、キャリッジの移動により順次各インクタンクからの光の受光を行う構成がとられていたことからも明白である。たとえば、平成15年4月24日発売の被請求人製プリンタであるPIXUS 6500iの製品写真(甲第11号証)では、既に受光手段を一つ設けて、キャリッジの移動により順次各インクタンクからの光の受光を行う構成がとられていた。したがって、本件特許の最先の優先日前において、かかる構成は技術常識の範疇であるといえる。よって、仮に甲第2号証において受光手段の設置場所や個数が明記されていないとしても、本件特許の最先の優先日における技術常識を斟酌すれば、受光手段たる光センサを一つ設けて、キャリッジの移動により順次インクタンクからの光の受光を行う構成が開示されていたことは明らかである。

(b) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成11年9月28日に頒布された刊行物である甲第12号証(特開平11-263025号公報)には、下記の記載があり、インクジェットプリンタにおいて、プリンタ側のエミッタ(発光素子)からインクカートリッジ上の指標位置(反射部)に光を当て、反射してインクカートリッジから戻ってきた光をプリンタ側に一つ備えられた「検出器」が受け取ることによってキャリッジのどのカートリッジ位置にどのインク・リザーバ(インクカートリッジ)が取り付けられているかを識別する構成、及び、かかる構成が移動するキャリッジ上に複数装着され、キャリッジの移動により「検出器」に対して入れ替わるように配置されたインクカートリッジの識別にも適用可能であることが開示されている。よって、構成要件1A-3’のb及びcにあたる、インクカートリッジからの光を受光する「検出器」を一つ備えるという構成、及び該「検出器」で該光を受光することによってインクカートリッジが正しい位置に装着されているかどうかを検出するインクカートリッジの位置検出手段という構成が開示されており、さらにキャリッジの移動により対向する複数のインクカートリッジが入れ替わるように配置されているという構成要件1A-3’のaにあたる構成も開示されているものといえる。
なお、かかる構成はインクカートリッジに発光部を設けているのではなく、反射光を用いているものであるが、インクカートリッジからの光を受光してインクカートリッジの位置を検出する位置検出手段という、訂正発明1と同様の構成が開示されていることは明らかである。

● 「本発明は、一般にインクジェットプリンタに関し、より具体的にはプリンタ・コントローラによる使用のためにカートリッジ識別情報を符号化し、符号化したカートリッジ識別情報を変換するための装置に関する。」(甲第12号証3頁3欄6行?10行)

● 「本発明は、そのインク用にキャリッジ内の交換可能インク・カートリッジのアイデンティティに基づいてプリンタ動作を制御するための装置を含むプリンタを提供する。この装置は、プリンタ内を通る印刷媒体の移動に対して横方向に移動可能であると共に、2つ以上のカートリッジ位置を含むキャリッジと、キャリッジ移動手段と、キャリッジに着脱自在に取り付けられた、インク・リザーバ及び印刷ヘッドを含む2つ以上の交換可能インク・カートリッジと、カートリッジ上の少なくとも一つの指標装置であり、キャリッジのどのカートリッジ位置にどのインク・リザーバが取り付けられているかをコントローラに識別させる符号化情報を含み、第1の光信号の反射或は吸収のための光学的反射画像及び光学的無反射画像を含み、第1の光信号の反射部分が第2の光信号を構成していることから成る指標装置と、光信号読取り装置であり、カートリッジが当該読取り装置に対して横方向に移動するときに指標装置上の符号化情報を読み取り、反射及び/或は吸収した光信号に応じてプリンタ・コントローラに電気的出力信号を生成しており、指標装置を照射するために指標装置に向かって第1の光信号を放出するための発光ダイオードと、指標装置が当該光信号読取り装置に対して横方向に移動する際に指標装置上に第1の光信号を集束させるための少なくとも一つのレンズと、指標装置から反射された第2の光信号を受け取り、プリンタ・コントローラに電気的出力信号を生成するための検出器とを含むことから成る光信号読取り装置と、を備えて構成される。
・・・こうして本発明は、カートリッジ上の光学的に読取り可能な指標装置と組み合わせてキャリッジの直線運動を使用し、カートリッジのタイプを識別するか、さもなければ特定の符号化情報及びキャリッジ内のカートリッジの位置に応じて様々なプリンタ機能を制御する。」(甲第12号証3頁4欄36行?4頁5欄18行)

● 「図2は、カートリッジ2、キャリッジ4、レール6、ベルト8の相対位置を示す、プリンタの平面図である。また、図2には、印刷動作中に相対的に静止状態である光学的コード読取り器20も示されている。・・・典型的な光学的コード読取り器20は、ラベル14上の光学的に読取り可能な指標16に応じて電気的信号を発生するように協働するエミッタ24及び検出器26を収容するハウジング22を含む。光学的コード読取り器20は、キャリッジ4がレール6に沿って線形的に移動するときにカートリッジ2上のラベル14が光学的コード読取り器20に接触せずに接近して通るように位置決めされている。」(甲第12号証4頁6欄49行?5頁7欄13行)


● 「カートリッジ2が光学的コード読取り器20を通過移動すると、キャラクタ18は第1の光信号28の焦点を通って移動し、第1の光信号28を反射或は吸収する。ラベル14の無反射部分は第1の光信号28のうちの比較的わずかな量を反射し、ラベル14の反射部分は第1の光信号28のうちのかなりの部分を反射し、光学的コード読取り器20に向かって戻す。第1の光信号28の反射部分は第2の光信号32を構成する。指標16がバー・コードの形態になっている場合、カートリッジ2及びラベル14がコード読取り器20を通過移動する際に作成される第2の光信号32は、第1の光信号28の一部の反射及び吸収によって引き起こされる一連の光パルスとして提供される。
・・・引き続き図2を参照すると、第2の光信号32もレンズ30を通過し、検出器26によって遮断される。検出器26は、好ましくは、エミッタ24から光信号を受け取るように整合させたフォトダイオードである。検出器26は第2の光信号32を電気的な出力信号に変換する。この電気的信号は、プリンタ・カートリッジ識別情報を含み、電線管34を介してプリンタ・コントローラ12に導通させられる。」(甲第12号証5頁7欄27行?47行)

● 「更にご理解して頂きたいことは、本発明はプリンタ内に取り付けられた単一カートリッジの識別に限定されないことである。本発明は、図3に示すように同じキャリッジ40内に同時に取り付けられた2つ或はそれ以上のカートリッジを識別すべくプリンタ・コントローラへの情報供給にも適用可能である。」(甲第12号証5頁8欄23行?28行)


(c) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成15年10月14日に頒布された刊行物である、甲第14号証(特開2003-291364号公報)には、下記の記載があり、複数インクタンクをキャリッジ上に搭載するインクジェット記録装置において、従来プリンタ側の発光素子からインクタンク底部の凹面鏡に光を反射させてプリンタ側に一つ備えた受光部で受光することによりインクタンクの有無を検出していた技術を改善し、インクタンクの誤装着防止のため、プリンタ側の点光源(発光部)からインクタンク上のルーフ状ミラー(インクタンクの色ごとにミラーの数量が異なる)を備えた反射体に光を当て、反射光をプリンタ側に一つ備えられた受光素子が受け取ることによって色ごとのインクタンクを識別する構成が開示されている。よって、構成要件1A-3'及び3A-3'にあたる、インクタンクからの光を受光する受光素子を一つ備えるという構成、及び該受光素子で該光を受光することによって色ごとのインクタンクを識別するインクカートリッジの位置検出手段という構成が開示されており、さらにキャリッジの移動により対向する複数のインクカートリッジが入れ替わるように配置されているという構成要件1A-3'及び3F'にあたる構成も開示されているものといえる。
なお、かかる構成も、甲第12号証同様、インクカートリッジに発光部を設けているのではなく、反射光を用いているものであるが、インクカートリッジからの光を受光してインクカートリッジの位置を検出する位置検出手段という、訂正発明1と同様の構成が開示されていることは明らかであり、何ら阻害要因はなく、訂正発明1の受光手段として容易に使用できるものである。

[受光部が一つ備えられ、キャリッジの移動により対向するインクタンクが入れ替わるように配置されることについての記載]

● 【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット記録装置等の液体吐出記録装置で使用するのに好適な液体収納容器、及びその液体収納容器を識別可能な液体吐出記録装置、液体収納容器の識別方法に関する。(甲第14号証段落【0001】)

● 図20に、一般的なインクジェット式の記録装置の概略構成の斜視図を示す。図20に示すように記録ヘッド1とこれにインクを供給するインクタンク7を連結することでインクカートリッジ20が構成されている。なお、インクカートリッジ20は後述するように記録ヘッド1とインクタンク7とが分離可能な構成となっているが、記録ヘッドとインクタンクとが一体化したインクカートリッジを用いても良い。(甲第14号証段落【0008】)

● 図20において、赤外LED(発光素子)15及びフォトトランジスタ(受光素子)16から成るインク残量検出とインクタンク有無検出を行うための光学ユニット14が設けられている。これらの発光素子15と受光素子16とは記録用紙の搬送方向(矢印Fの方向)に沿って並ぶように取り付けられている。光学ユニット14は装置本体のシャーシ17に取り付けられている。インクカートリッジ20がキャリッジ2に搭載され、図20に示された位置より右方向へと移動すると、インクカートリッジ20は光学ユニット14上に位置するようになる。そして、インクタンク7の底面よりインクの状態やインクタンクの有無を光学ユニット14によって検出することが可能となる。(甲第14号証段落【0011】)




[インクタンクからの光を受光することによりインクタンクの位置を検出する構成についての記載]

● また、図22(a)に示すように、インクタンク7の側壁下部に三角形の切り欠き部250が設けられている。また、図22(b)及び図22(c)に示されるように、インクタンク7の底面にはプリズム180と凹曲面反射部190とが設けられている。プリズム180はインク残量検出のため、また、凹曲面反射部190はインクタンク有無検出のために用いられる。(甲第14号証段落【0014】)


● 凹曲面反射部190はインクタンク7がキャリッジ2に取り付けられて、往復移動するときに、図22(b)に示すように、そのキャリッジ移動方向と、その方向と直角の、発光素子15と受光素子16が並ぶ方向(F方向)の2つの方向に関して曲率をもつようになっており、凹曲面反射部190の領域全体で曲面が形成される。(甲第14号証段落【0015】)

● 図23は光学ユニット14が正規の位置に取り付けられている場合を示している。この場合、光学ユニット14における発光素子15の発光部と受光素子16の受光部とは凹曲面反射部190の曲率中心18の近くの位置に取り付けられている。そして、発光素子15から照射される赤外線ビーム光の中心軸がインクタンク7の底面に垂直な線に対し平行となるように、発光素子15が取り付けられている。(甲第14号証段落【0016】)


● 次に光学系反射体(プリズム、凹面鏡)での課題であるが、液体収納容器の有無検知は可能であるが、インクタンク(インク色)毎の識別は行われていない。そのため、キャリッジ上の所定の場所に、この場所に対応する所定の色のインクタンクを装着する際、間違った色のインクタンクを装着しても誤装着は検知されないので、所望の記録画像が得られない虞がある。(甲第14号証段落【0021】)

● 上記の光学系反射体によりインク色ごとにインクタンクを識別(検知)する対策としては、複数のインクタンクの夫々に設ける光学系反射体の位置を収納インクの色ごとに変更することが考えられる。しかし、昨今のインクジェット記録装置においては多色化が進んでおり、各インクタンクの限られたスペース内で、各々のインクタンクの光学系反射体の位置を変更して色検知を可能とすることはキャリッジ上に搭載するインクタンクの数が多くなるほど非常に困難である。また、各色のインクタンクの光学系反射体を検出するための検出装置が一つだけでは、各色のインクタンクを正確に検知(識別)することは極めて困難である。その反対に、それぞれのインクタンクごとに上記の検出装置を用意することはインクジェット記録装置のコストを上昇させてしまう。(甲第14号証段落【0022】)

● 本発明の目的は、上述した従来技術の課題に鑑み、液体収納容器(インクタンク)を誤装着した場合でも色ごとに液体収納容器を認識し、所望の画像と異なる画像を誤って記録することを防止する液体収納容器及びその識別方法、記録装置を提供する。(甲第14号証段落【0026】)

● 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は、内部に液体を収容する液体収納容器であって、少なくとも2つの反射面を所定の角度で配置したルーフ状ミラーが所定の方向に複数個並んだ構成の反射体を有し、前記反射体が、入射光を複数のルーフ状ミラーによって各々複数の光束に分割するとともに、各ルーフ状ミラーの少なくとも2つの反射面で順次反射した各光束が所定の位置で集光するように構成されていることを特徴とする。(甲第14号証段落【0027】)

● また、本発明は内部に液体を収容する液体収納容器の識別方法であって、前記液体収納容器は、少なくとも2つの反射面を所定の角度で配置したルーフ状ミラーが所定の方向に複数個並んだ構成の反射体を有し、前記反射体が、入射光を複数のルーフ状ミラーによって各々複数の光束に分割するとともに、各ルーフ状ミラーの少なくとも2つの反射面で順次反射した各光束が所定の位置で集光するように構成されており、前記集光された各光束よりなる反射光分布パターンにより前記液体収納容器を識別することを特徴とする。(甲第14号証段落【0033】)

● このような識別方法では、液体収納容器単体に関して、前記反射体からの回折光を含む反射光のピーク値または、前記反射体からの反射光幅、前記反射体からの反射光の数量、前記反射体からの反射光間ピッチなどを利用することで、液体収納容器の情報を認識することが可能である。さらに、複数の液体収納容器に関して、前記反射体からの反射光のピーク値の違いまたは、前記反射体からの反射光幅の違い、前記反射体からの反射光の数量の違い、前記反射体からの反射光間ピッチの違いなどを利用することで、複数の液体収納容器を識別することが可能である。(甲第14号証段落【0034】)

● また、本発明は、上記のいずれかの液体収納容器を搭載可能なキャリッジと、光によって前記液体収納容器を識別するための検出手段とを有し、前記液体収納容器の液体を吐出して記録する液体吐出記録装置を含む。(甲第14号証段落【0035】)

● このような液体吐出記録装置では、前記検出手段は発光源と受光部を有し、前記発光源は点光源であることが好ましい。前記点光源は発散光である。さらに、前記発光源と前記受光部は一体構成であってもよい。(甲第14号証段落【0036】)

● 以下の本発明の実施の形態の欄で詳しく説明するが、本発明の好ましい態様は、色ごとに液体収納容器(インクタンク)を識別するために、反射面が所定の角度に微細加工された複数のルーフ状ミラーからなる光学系反射体を光透過性のある部材にて形成し、その反射面(界面)に大きく屈折率の違う物質(例では気体)が接するように光学系反射体を液体収納容器に配置する構成である。このような構成にて、所定の角度を持つ反射面からの反射光の光量分布における位置、幅、強度等のパターンの違いを利用することにより、各色の液体収納容器を識別する。(甲第14号証段落【0038】)

● 図1は本発明の液体収納容器に適用する反射体の光学特性を説明するためのもので、図1(a)はその反射体の斜視図、図1(b)は反射体と検出装置の光学的な関係を図1(a)中の(○1)方向から見た図、図1(c)は反射体と検出装置の光学的な関係を図1(a)中の(○2)方向から見た図である。(甲第14号証段落【0041】)


● 図1に示す形態では複数の反射体30が平行に一定のピッチPで配置されている。各々の反射体(ルーフミラーユニットとも呼ぶ)30は、2つの反射面を所定の角度(本例では96°)で配置したルーフ状ミラー34を一方向に複数個配置させた光透過性部材(例えば透明樹脂)である。反射体30においては上面がルーフ状ミラー34であり、下面が平面となっている。なお、図1中のルーフミラーピッチは例えば84μmで、一つのルーフ状ミラーの寸法は84μm×100μmである。(甲第14号証段落【0042】)

● 反射体30の下方に、フォトICチップの点光源31と受光素子32からなる検出装置が配置されている。反射体30の下面と受光素子32の受光面が所定の間隔(GAP)で配置されている。図1(b)では、投光側と受光側が別体となっているが、投受光素子が一体になっていても使用可能であり、実際には一体型の素子を使用している。(甲第14号証段落【0043】)

● 点光源31から照射された光(発散光)は光透過性の反射体30を通り抜け、所定の角度にて形成されたルーフ状ミラー34の加工面にて2度の反射を行い、受光側(アレイ状の受光素子31)の任意の位置に略帯状の光として集光されて戻ってくる。すなわち、このときの反射光は一次元方向に収束している(図18参照)。また、図1(c)のように受光素子32のアレイ上には反射体30のピッチPの2倍の格子像が拡大投影されている。(甲第14号証段落【0046】)

● ここでは、第1及び第2のルーフミラーユニット30A,30Bの反射光の各々の光量ピーク値(1)と(2)や、これら光量ピーク値(1)と(2)の差(3)を検知することでインクタンク7単体での情報が認識できる。そして、キャリッジ上に複数並べて配置したインクタンク7の識別は各色のインクタンクごとにルーフ状ミラーの数量を変更し、受光素子側で得られる各インクタンクの反射体ごとの光量ピーク値や光量ピーク値の差、および各タンク間の光量ピーク値の違いにより各色のインクタンクの識別が可能になる。また、本発明におけるピークとは図9Cを例にとって説明すると時間軸(X軸)での波形の頂点を示す。(甲第14号証段落【0066】)

● 最後に、上述のインクタンクを搭載可能なインクジェット記録装置の一例について、図19を用いて説明する。(甲第14号証段落【0110】)

● 図19に示す記録装置は、上述したルーフ状ミラー34からなる反射体30を設けた複数のインクタンク7が着脱自在であってインクジェット記録ヘッドを備えたヘッドホルダ200を搭載するキャリッジ81と、インクジェット記録ヘッド(不図示)の複数のオリフィスからのインク乾燥を防止するためのヘッドキャップとその記録ヘッドの動作不良時に複数のオリフィスからインクを吸引するための吸引ポンプとが組み込まれたヘッド回復ユニット82と、被記録媒体としての記録用紙が搬送される給紙面83とを備える。(甲第14号証段落【0111】)

● キャリッジ81は、回復ユニット82上での位置をホームポジションとしており、ベルト84がモータなどにより駆動されることで図中の左方向へ走査される。この走査中に、給紙面(プラテン)83上に搬送された記録用紙に向けてヘッドよりインクを吐出することで記録が行なわれる。(甲第14号証段落【0112】)


● さらに、反射体を構成するルーフ状ミラーのパターン(数、幅などの変更)により多種の反射光分布パターンが得られるので、ルーフ状ミラーのパターン構成の異なる反射体を各々のインクタンクごとに配置し、反射体からの反射光の光量分布における位置、幅、強度等のパターンの違いを利用することにより、色ごとの液体収納容器(インクタンク)を識別することができる。このため、液体収納容器をその収容液の色に対応する所定の位置に装着する液体吐出記録装置(インクジェット記録装置)において、別の色の位置への誤装着を検出でき、誤った記録画像を記録することが防止できる。(甲第14号証段落【0114】)

(d) 以上に挙げた文献のほかにも、本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前には下記の公知文献が存在し、キャリッジの移動により対向するインクタンクが入れ替わるように配置された受光部を一つ備え、対向する位置のインクタンクからの光の受光の有無により、インクタンクの有無またはインク残量等を検出する受光部は、周知技術であったことが明らかである。
さらに、前述のとおり、かかる受光部の構成は、本件特許の最先の優先日前に発売された被請求人製プリンタであるPIXUS 6500i(甲第11号証)において、同様の構成が既に製品化されていたことからも明らかなように、本件特許の最先の優先日前において、技術常識であったといえる。
つまり、訂正発明1の構成要件のうち、キャリッジの移動により対向するインクカートリッジが入れ替わるように配置された受光部を一つ備え、対向する位置のインクタンクからの光の受光の有無を検出する受光部の構成は、周知技術であるばかりか、製品化もされていた技術常識にすぎないものであった。
一方、訂正発明1の受光手段を、「位置検出手段」たらしめているのは、個別制御可能なインクタンク側の制御部の構成である。「キャリッジの位置に応じた色のインクタンクの発光部を光らせる」という個別制御を可能とすることにより、上記の周知技術にすぎない受光部が、「光を検出しない場合を誤装着と検出する」という意味で「位置検出手段」になるのである。そして、かかる個別制御を可能にする制御部の構成は前述のとおり、甲第1号証に備えられており、インクタンク上に発光部を設けるという周知技術を適用すれば、個別制御可能な、プリンタ側の受光部に投光するためのインクタンクの発光部という構成は、当業者にとって容易になしうるものであった。この点は、相違点2に関して述べたとおりである。
以上を総合すれば、訂正発明1のうち審理事項通知における相違点1は、周知技術かつ技術常識である受光部を指しているものにすぎず、当業者にとって容易であることは、明らかである。そして、相違点2のインクタンク側の構成が周知技術であることからすれば、結局、「本件光照合処理」とは、インクタンク側とプリンタ側のそれぞれ周知技術の寄せ集めたものにすぎないこともまた、明らかであるといえる。

(e) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成10年9月2日に頒布された刊行物である、甲第10号証(特開平10-230616号公報)には、下記の記載があり、複数インクカートリッジをキャリッジ上に搭載するインクジェットプリンタにおいて、キャリッジの移動により対向するインクカートリッジが入れ替わるように配置された受光部を一つ備え、プリンタ側の発光部から対向するインクカートリッジのインクカートリッジ有無検知部に光を当て、反射光を上記受光素子が受け取ることによって色ごとのインクカートリッジの有無を検出する構成が開示されている。よって、構成要件1A-3'及び3A-3'のうち、インクタンクからの光を受光する受光素子を一つ備えるという構成が開示されており、さらにキャリッジの移動により対向する複数のインクカートリッジが入れ替わるように配置されているという構成要件1A-3'及び3F'にあたる構成も開示されているものといえる。
かかる構成は、反射光を用いているものであり、「インクタンクの位置」ではなく、「インクカートリッジの有無」を検出するものである。しかしながら、訂正発明1における受光手段とは、単に、対向するインクタンクからの受光の有無を検出するにすぎないものであることからすれば、甲第10号証には、訂正発明1と同様の受光部その他のプリンタ側の構成が備えられているものといえる。そして、何らの阻害要因はなく、かかる受光部を、訂正発明1の受光手段として容易に使用できるものである。

● (第1例)図1は本発明液体収納検知装置を適用可能な装置の一例として、インクジェットプリント装置の概略構成例を示す斜視図、図2はそのインクジェットプリント装置に適用可能な液体収納容器(インクカートリッジ)検知装置の構成例を示す正断面図である。(甲第10号証段落【0032】)

● これら図において、インク1a,1b,1c,1dを収納したインクカートリッジ2a,2b,2c,2dはガイド軸3の軸方向に移動可能なキャリッジ4に着脱可能に搭載されている。また、キャリッジ4は、パルスモータMからの駆動力を伝達するためにプーリ22間に張架されたタイミングベルト23に接続されており、パルスモータMの駆動に応じてキャリッジ4が矢印A方向へ往復移動する。(甲第10号証段落【0033】)

● 次に、図2において、インクカートリッジ2a?2dの底面には、透明もしくは半透明な材質からなり、収納するインクと実質的に屈折率が等しく、かつインク非収納時に適切に反射光を後述する受光部に戻すことができるように形状,角度等が定められた2つの斜面部5a′?5d′および5a″?5d″をそれぞれ有した凹部形状のインク残量検知部5a?5dが設けられている。かかる検知部はインクカートリッジ本体と予め一体に成形されたものでもよいし(この場合にはカートリッジ自体が上記性質の材料で形成される)、所要の性質を持つ検知部を有した部分をカートリッジ本体(この場合には検知部の性質に制約されない材料で形成できる)に接合することによってインクカートリッジを形成してもよい。(甲第10号証段落【0039】)

● また、インク残量検知部5a?5dの近傍には、キャリッジ4の移動方向とほぼ平行となる位置にインクカートリッジ有無検知部6a?6dが設けられている。このインクカートリッジ有無検知部6a?6dもまた、インクカートリッジ2a?2dと一体的に構成されており、インク残量検知部5a?5dと同様に2つの斜面部6a′?6d′および6a″?6d″をそれぞれ有している。これら斜面部6a′?6d′のそれぞれと斜面部6a″?6d″のそれぞれとは直角をなしており、それらの表面は鏡面処理されている。(甲第10号証段落【0040】)

● また、インクカートリッジ2a?2dおよびキャリッジ4の下方には、キャリッジ4の移動方向とほぼ平行となるように、発光部7と受光部8とを所定の間隔をもって配置した検知器9が、キャリッジ4のホームポジション10から所定の距離L1を隔てた位置に、インクジェットプリント装置本体に固定されている。(甲第10号証段落【0041】)

● 以上について本例装置の動作を説明する。(甲第10号証段落【0046】)

● まず、キャリッジ4をホームポジション(HP)10に設定した後(ステップS1)、インク1aの使用可否の検知を行うために、キャリッジ4を距離L1だけ移動・停止させることにより、検知部6bと検知器9とを対向させ(ステップS3)、インクカートリッジ2aの有無検知を行う(ステップS5)。(甲第10号証段落【0047】)

● このとき、図5(a)に模式的に示すように、発光部7から照射された光13は、インクカートリッジ有無検知部6の斜面部6′,6″にて順次反射し、受光部8へ到達し、インクカートリッジ2aは有と判断される。(甲第10号証段落【0048】)

● 次に、キャリッジ4を距離(m1-L1)だけ移動・停止させることにより、検知部6aと検知器9とを対向させ(ステップS7)、インクカートリッジ2aのインク残量検知を行う(ステップS9)。この場合、第1の従来例で述べたのと同様に、発光部7から照射された光は受光部8へは到達しないので、インク有と判断される。従って、インク1aは使用可能であると判断される。(甲第10号証段落【0049】)

● なお、ステップS5においてカートリッジ2aが存在しないと判定された場合およびステップS9においてインク残量が無いと判定された場合には、それぞれ対応する所要の情報の設定を行い(ステップS11,S13)、さらにインク1bの使用が不可である旨の情報を設定する(ステップS15)。(甲第10号証段落【0050】)

● 以上の処理はインクカートリッジ2a?2dに関連した情報の検知を行う場合にも同様に実行される(ステップS19?S23)。(甲第10号証段落【0051】)

● すなわち、次にインク1bの使用可否の検知を行うために、キャリッジ4を検知部6bと検知器9との対向位置まで移動・停止させてインクカートリッジ2bの有無検知を行う。(甲第10号証段落【0052】)

● このとき、図5(b)に模式的に示すように、検知器9の上部にはインクカートリッジ2が存在しないため、発光部7から照射された光13は直進し、受光部8へは到達しない。従って、インクカートリッジ2bは無し、つまりインク1bは使用不可であると判断される。(甲第10号証段落【0053】)

● 次に、インク1cの使用可否の検知を行うために、キャリッジ4を検知部6cと検知器9との対向位置まで移動・停止させてインクカートリッジ2cの有無検知を行う。図2の状態では、インクカートリッジ2aの有無検知と同様に、インクカートリッジ2cは有と判断される。そして、キャリッジ4を検知部5cと検知器9との対向位置まで移動・停止させてインク1cの残量検知を行う。図2の状態では、第1の従来例で述べたと同様に、発光部7から照射された光は、受光部8へ到達するため、インク無し、つまりインク1cは使用不可であると判断される。(甲第10号証段落【0054】)

● さらに、インク1dの使用可否の検知についても同様に行われ、図2の状態では、インク1aの使用可否の検知と同様に、インクカートリッジ有およびインク有が検知され、インク1dは使用可能であると判断される。(甲第10号証段落【0055】)

● 而して、以上の検知結果は、インク使用の可否を示す情報(インクカートリッジ未装着やインク残量無しの情報を含めることができる)として表示パネル219上に表示され(ステップS25)、操作者に提示される。(甲第10号証段落【0056】)




(f) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成14年12月18日に頒布された刊行物である、甲第15号証(特開2002-361890号公報)には、下記の記載があり、複数インクカートリッジをキャリッジ上に搭載するインクジェットプリンタにおいて、キャリッジの移動により対向するインクカートリッジが入れ替わるように配置された受光部を一つ備え、プリンタ側の発光部から対向するインクカートリッジのプリズムに光を当て、反射光を上記受光素子が受け取ることによってインク残量を検出する構成が開示されている。

● 図1は、インクジェットプリンタの構成を示す斜視図で、キャリッジ(インクキャリッジ)1は、シャフト(スライド軸)2によって、その軸方向にスライド自在に支持されており、プラテン(図示省略)上にセットされた紙などの記録材に対して一定の間隔を隔てて対面する。(甲第15号証段落【0020】)

● キャリッジ1は、2つのプーリ3(片方のみ図示)間に張られたベルト4を介した駆動モータ5の駆動力により、シャフト2に沿って移動・走査される。ここで駆動モータ5はキャリッジ1の印字方向を制御する信号に基づいて正逆両方向に回転する。(甲第15号証段落【0021】)

● また、図示しない位置検出手段がキャリッジ1上に設けられていて、キャリッジ1の移動とともに印字位置あるいは走査範囲を得るための位置信号を発するようになっている。(甲第15号証段落【0022】)

● キャリッジ1の移動範囲の一端側にはホームポジション6が設けられており、そこにはキャリッジ1に搭載されるインクジェットヘッド(図示省略)の保護またはメンテナンスを行うための保護吸引キャップと空吐出を行うためのメンテナンスユニット7が設けられており、これにより、吸引や空吐出を行うことでヘッドの吐出口の目詰まりなどを積極的に解消できるようになっている。(甲第15号証段落【0023】)

● また、キャリッジ1の印字時移動範囲とホームポジション6の間には、インク残量の検知機構(インクレベル検知手段)11としての発光部(発光素子)8および受光センサ部(受光素子)9が設けられ、インク残量の検知を行えるようになっている。なお、図1中、21は軸受部、22はタイミングフェンス、23はタイミングセンサ、24はシアンインクカートリッジ、25はマゼンタインクカートリッジ、26は黄インクカートリッジ、27は黒インクカートリッジを示す。(甲第15号証段落【0024】)

● (実施形態1)本発明の実施形態1を図2?図5を参照しつつ説明する。(甲第15号証段落【0025】)

● 図2および図3は、図1のような構成のインクジェットプリンタの実施形態1で用いられるインクタンク10を示し、図2は、インクタンク10の構造の概略斜視図、図3は本体側の光学式インク残量検知機構(インクレベル検知手段、発光部8および受光センサ部9)11との位置関係を示す。(甲第15号証段落【0026】)






(g) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成13年10月16日に頒布された刊行物である、甲第16号証(特開2001-287381号公報)には、下記の記載があり、複数インクカートリッジをキャリッジ上に搭載するインクジェットプリンタにおいて、キャリッジの移動により対向するインクカートリッジが入れ替わるように配置された受光部を一つ備え、プリンタ側の発光部から対向するインクカートリッジのプリズムに光を当て、反射光を上記受光素子が受け取ることによってインクタンクの有無及びインク残量を検出する構成が開示されている。

● 特に、複数色のインクタンクを備えたものにおいて以下の構成が掲げられる。(甲第16号証段落【0016】)

● つまり、1組の発光素子および受光素子とインクキャリッジとを、互いに相対的に移動させる。そして、インクキャリッジの主走査方向に複数色のインクタンクをそれぞれ搭載し、この各インクタンクを、インクキャリッジの主走査方向への移動にともないインクタンク有無検出部によるインクタンクの有無、およびインク残量検出部によるインクタンク内のインクの残量をそれぞれ検出するようにしている。この場合、1組の発光素子および受光素子によって、各インクタンクの有無およびインク残量を順番通りに検出することが可能となる。(甲第16号証段落【0017】)

● また、図9および図10に示すように、インクタンク有無検出部65は、プリズム61(各傾斜界面61a,61b)よりもインク側(図9および図10では上側)に空気層60を備えている。この空気層60は、発光素子62から鉛直方向上向きに入射された入射光をインクタンク15a?15dの第1の傾斜界面61a(内側面)においてインクタンク外側向き(図9では右向き)に反射させ、この第1の傾斜界面61aによりインクタンク外側向き(図9では右向き)に反射させた反射光をインクタンク15a?15dの第2の傾斜界面61b(内側面)において発光素子62からの入射光と平行となるようにインクタンク外側向き(図9では下向き)に反射させるようになされている。そして、空気層60は、成形型により形成される各インクタンク15a?15dの一側面または他側面に凹設されている。具体的には、第1および第2インクタンク15a,15bの他側面(インクキャリッジ17の主走査方向I側面)に空気層60が、第3および第4インクタンク15c,15dの一側面(インクキャリッジ17の主走査方向II側面)に空気層60が凹設されている。(甲第16号証段落【0040】)


● 発光素子62は、図4および図6に示すように、受光素子63と対をなして1組備えられている。この1組の発光素子62および受光素子63は、インクキャリッジ17の主走査方向と直交する平面上において副走査方向(図3および図4に示す矢印III 方向)に並設され、発光素子62からの入射光を受光素子63に受光させる光線軸(光軸)も上記平面上に位置している。そして、発光素子62により発光される光線および受光素子63により受光される光線としては、赤外線光が適用されている。この場合、発光素子62から発光された赤外線光が受光素子63により受光されるまでに要する時間、つまり検出時間は、各インクタンク15a?15dがそれぞれ移動する際に生ずる発光素子62および受光素子63の通過時における時間差の範囲内において十分に行われる程度のきわめて短いものである。(甲第16号証段落【0041】)

● 1組の発光素子62および受光素子63とインクキャリッジ17とは、駆動機構10によるインクキャリッジ17の主走査方向への移動によって互いに相対的に移動し、インクキャリッジ17の主走査方向から順に各インクタンク15a?15dのインク残量検出部64による各インクタンク15a?15d内のインクの残量、およびインクタンク有無検出部65による各インクタンク15a?15dの有無がそれぞれ検出されるようになされている。(甲第16号証段落【0042】)

● 第1?第4インクタンク15a?15d毎のインク残量検出部64およびインクタンク有無検出部65は、その長さおよび位置がインクキャリッジ17の主走査方向においてそれぞれ異なるように設定されている。(甲第16号証段落【0043】)




(h) 本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成12年5月9日に頒布された刊行物である、甲第17号証(特開2000-127444号公報)には、下記の記載があり、複数インクカートリッジをキャリッジ上に搭載するインクジェットプリンタにおいて、キャリッジの移動により対向するインクカートリッジが入れ替わるように配置された受光部を一つ備え、プリンタ側の発光部から対向するインクカートリッジのプリズムに光を当て、反射光を上記受光素子が受け取ることによってインク残量を検出する構成が開示されている。

● 【従来の技術】図8は、従来からの一般的なインクジェット記録装置を示す斜視図である。図8に示されるインクジェット記録装置では、互いに平行なリードスクリュー104およびガイド軸105が筐体に備えられている。リードスクリュー104およびガイド軸105には、キャリッジ101がリードスクリュー104およびガイド軸105と平行な方向に移動可能に取り付けられている。キャリッジ101は、キャリッジモーター(不図示)によってリードスクリュー104が回転されることで平行移動させられる。(甲第17号証段落【0002】)


● 図9(a)および図9(b)に示されるように、キャリッジ101に搭載されるインクジェットヘッドカートリッジ301は、インクジェットヘッド102を備えたタンクホルダ103と、タンクホルダ103に着脱自在に設けられたインクタンク111,112,113,114とで構成されている。インクタンク111はブラックのインク用、インクタンク112はイエローのインク用、インクタンク113はマゼンタ色のインク用、インクタンク114はシアンのインク用である。このようにインクタンク111,112,113,114のそれぞれがタンクホルダ103に対して着脱自在となり、それぞれのインクタンクが交換可能となっていることにより、インクジェット記録装置における印刷のランニングコストが低減される。(甲第17号証段落【0007】)


● 一方、図3は本発明の第1の実施の形態によるカラー用ヘッドカートリッジを正面右斜め上方より見た図、図4はそのカラー用ヘッドカートリッジを背面左斜め下方より見た図を示している。(甲第17号証段落【0039】)


● 図6は本発明のインクジェットヘッドカートリッジのインクタンク底面のプリズム28とヘッドカートリッジ外部のインク残量検知用センサー25との位置関係を示す断面図であり、(a)はタンク装着中、(b)はタンク装着後の状態を示している。(甲第17号証段落【0054】)

● 上記の実施形態でも説明したとおり、インクタンク30の一方の側面には第1の爪32を有する可動レバー31が設けられ、インクタンク30の可動レバー31の設けられた側面と対向する他方の側面に第2の爪33a,33bが設けられている。インクタンク30の内部の生インクのみが収容された室の底面に、インク残量検知に用いられるプリズム28が設けられている。(甲第17号証段落【0055】)

● また、タンクホルダ36には、第1の爪32が係合する第1の穴26と、第2の爪33a,33bのそれぞれが係合する第2の穴38a,38bとが形成されている。(甲第17号証段落【0056】)

● そして、インクタンク30の第2の爪33a,33bをタンクホルダー36の第2の穴38a,38bに引っ掛け、ここを支点としてインクタンク30を回転させながら落とし込んでいき、これによってタンクホルダ側面で可動レバー31を内側に撓ませ、この撓んだ可動レバー31の反発力を利用して可動レバー31の第1の爪32をタンクホルダー36の第1の穴26に係合させると共に、タンクホルダー36の第2の穴38a,38bに第2の爪33a,33bが係合したインクタンク30をその第2の穴38a,38bの設けられた側面へと押し付けることで、タンクホルダ36内にインクタンク30がしっかりと装着固定される。(甲第17号証段落【0057】)

● さらに、この装着状態でインクタンク30の下部のプリズム28がヘッドカートリッジ外部のセンサ25と対向した位置に来て、センサー25の発光部からタンク内に入射した光をプリズム28の第1の面で反射し、この反射光をプリズム28の第2の面でさらに反射してタンク外のセンサー25の受光部に入射させる光路が形成される。(甲第17号証段落【0058】)


(i)本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成13年10月23日に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2001-293883号公報)には、下記の記載があり、インクジェット記録装置からインクタンク内の素子に光を発信し、外部B(インクジェット記録装置)で受信することにより素子の位置を検出する受光手段を設けることが開示されている。つまり、インクタンク内の素子における「情報伝達手段」が、光エネルギーにより情報を伝達すること、及び、インクジェット記録装置をその伝達先とすることが開示されており、インクタンクがインクジェット記録装置側の受光手段に対して投光する「情報伝達手段」としての発光部を有することが開示されている。受光手段の数は明記されていないが、上述のとおり受光手段を一つとすることは本件特許の最先の優先日において技術常識であるから、一つの受光手段が開示されているものと解釈できる。
なお、かかる構成も反射光を用いているものであるが、上述したように、インクカートリッジからの光を受光してインクカートリッジの位置を検出する位置検出手段という、訂正発明1と同様の構成が開示されていることは明らかである。

● 「立体形半導体素子からの伝達を受信する手段を有する」(甲第6号証請求項21、5頁7欄35行?36行)

● 「立体形半導体素子11は、外部Aから素子11に向かって非接触で供給された起電力12を電力13に変換するエネルギー変換手段14と、エネルギー変換手段14で得た電力により起動する情報入手手段15、判断手段16、情報蓄積手段17、情報伝達手段18とを備え、インクタンク内に配される。」(甲第6号証、6頁10欄9行?14行)

● 「判断手段16が外部へタンク内の情報を伝達する必要があると判断した場合には、エネルギー変換により得た電力が、情報伝達手段18で、インクタンク内の情報を外部へ伝達するためのエネルギーへと変換される。この伝達するためのエネルギーは磁界、光、形、色、電波、音などを使用することが可能であり、例えばインク残量が2ミリリットル以下になったと判断された場合には音を鳴らしてタンク交換が必要であることを外部B(例えば、インクジェット記録装置)に伝達する(図2のステップS15)。また、伝達先はインクジェット記録装置のみでなく、特に光、形、色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよい。」(甲第6号証、7頁11欄5行?17行)

● 「立体形半導体素子31は、外部Aから素子31に向かって非接触で供給された起電力32を電力33に変換するエネルギー変換手段34と、エネルギー変換手段34で得た電力を用いて浮力を発生させる浮力発生手段35とを備え、インクタンク内のインク中に配される。」(甲第6号証8頁13欄27行?32行)

● 「外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により素子31に向けて光を発信し、その光を外部Aまたは外部B(例えばインクジェット記録装置)または外部Cで受信することにより素子31の位置が検知され」(甲第6号証8頁14欄2行?6行)

● 「この素子の位置の検出は、発光手段と受光手段が対向して設けられていて、素子の部分が光を通さないことにより位置が確認されるもの、もしくは発光手段から発した光が受光手段に向けて反射することにより確認されるものなどが用いられる。」(甲第6号証8頁14欄10行?14行)


(j)なお、その他に、発光と受光による位置検出手段という構成を開示したものとして、甲第3号証(特開平11-286121号公報)及び甲第7号証(特開平10-112598号公報)がある。
甲第3号証も、インクタンクの発光部としてのフォトダイオードセットを開示しており、プリンタ側の受光手段にあたるフォトダイオードセットに光信号を発するものであること、すなわちプリンタの受光手段に投光するための光を発光する発光部を開示していることは明らかである。甲第3号証においては受光手段が複数備えられているが、受光手段をいくつ設けるかは設計事項にすぎない上、プリンタ側の構成にすぎないものであり、インクタンクの発明である本件訂正発明1の構成要件1D'に対応する、唯一の相違点の構成を開示していることに、何ら影響を及ぼすものではない。

(k)また、甲第9号証についても、下記の記載のとおり、インクタンク内の素子における「情報伝達手段」が、光エネルギーにより情報を伝達すること、及び、インクジェット記録装置をその伝達先とすることが開示されており、インクタンクがインクジェット記録装置側の受光手段に対して投光する「情報伝達手段」としての発光部を有することが開示されている。

● 「以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。特に、各色のインクタンク中にそれぞれ立体形半導体素子を配置した場合の実施形態について詳細に説明する。」(甲第9号証、5頁8欄8行?11行)

● 「立体形半導体素子11は、記録装置600内の通信回路150から送られてきた電磁波12の信号を受信し、その電磁波12を電力13に変換する受信兼エネルギー変換手段(コイルを備えた発振回路)14と、通信兼エネルギー変換手段14で得た電力により起動する情報入手手段15と判断手段16と情報蓄積手段17と情報伝達手段18を備えている。」(甲第9号証、6頁9欄17行?23行)

● 「情報伝達手段18は、判断手段16の命令によって電力を、タンク内情報を外部へ伝達するためのエネルギーに変換して、外部へインク内部情報を表示、伝達する。この伝達するためのエネルギーは磁界、光、形、色、電波、音などを使用することが可能であり、例えばインク残量が2ミリリットル以下になったと判断された場合には音を鳴らしてタンク交換が必要であることを外部に伝達する。また、伝達先はインクジェット記録装置の通信回路150のみでなく、特に光、形、色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよい。」(甲第9号証、6頁9欄44行?10欄3行)

(l)以上のように、記録装置に、液体インク収納容器の発光部ないし反射部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段を設けることは、本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であって、当該周知慣用技術を甲第1号証発明1’に適用することは当業者にとって容易である。

(イ)周知技術である受光部を甲第1号証に適用することに阻害要因がないこと

周知技術の例として上記した公知文献は、発光部と受光部が一体となった構成において、インクタンクからの反射光を受光する受光部を備えている、というものである。しかし、そのような受光部の構成を取り出して、同じく周知慣用技術である個別制御可能な発光部を設けたことを前提として、甲第1号証発明に適用することには、何ら阻害要因はない。
101号訂正明細書段落【0043】には、従来知られている、インクタンクに反射させるための光を発光する発光部とセットになった、反射光を受光する受光部を、訂正発明1の受光手段に兼用することも可能であるとの記載がある。つまり、訂正発明1の受光手段は、従来知られていた反射用の受光部と同様のものにすぎないことがわかる。

● 図9は図7の制御基板が配設されたインクタンクの使用態様の他の例を説明するための側面図である。この例は、インクタンク1の装置への装着時において、プリズム状の被検出部17に対向可能に、光センサ形態のインク残量検出用センサ117を記録装置に設ける場合に適している。すなわち、インク残量検出用センサ117は発光部117Aおよび受光部117Bを有し、インクタンク1のインク室11のインク残量が少ない状態では、発光部117Aからの光がプリズム状被検出部17で反射されて受光部117Bに戻されることで、装置はその状態を認識できる。本例はこの受光部117Bを第1発光部101からの光の受光部に兼用し、インクタンク1の装着の有無や適否をも装置が認識することができるようにしたものである。(101号訂正明細書段落【0043】)


このように、インクタンクに反射させるための光を発光する発光部とセットになった、反射光を受光する受光部との組み合わせによりインクタンクの誤装着を検出する技術が従来から存在した場合に、反射光を用いるものであることを理由に、訂正発明1の受光手段として使用できない、と判断することもまた、誤りである。なぜなら、訂正発明1の受光手段は、発光部と受光部がセットとなった技術における受光部と同様の構成にすぎないのであり、その受光部を取り出して、インクタンクの発光部からの光を受光する受光部として使用し、前記のとおり、インクタンクからの光を受光するかどうかにより誤装着を検出することに用いることは容易なことだからである。
なお、この点については、阻害要因がないこと、及び訂正発明1に用いられる受光手段が従来技術同様のものにすぎないことの根拠として101号訂正明細書の記載を述べているにすぎず、事後分析との批判は当たらない。

(ウ)付言(受光部は、101号訂正明細書において従来技術として認識されているものにすぎないこと)

上記の101号訂正明細書段落【0043】及び図9の記載からは、次のようにもいえる。
すなわち、インクタンクに反射させるための光を発光する発光部とセットになった、反射光を受光する受光部は、従来技術として認識されていたものである(なお、被請求人製プリンタPIXUS 6500iの製品写真(甲第11号証)から明らかなとおり、かかる受光部は被請求人製品にも使用され公知となっていた)。そして、審理事項通知における相違点1の構成に相当する訂正発明1の受光手段は、かかる従来技術である受光部と兼用可能な、同様の技術である。かかる受光部が周知慣用技術であり、訂正発明1の受光手段として適用可能であることは、当然である。
また、このことを裏返せば、次のように言うこともできる。インクタンク側の報知用の発光部と、プリンタ側のインクタンク有無の検出のための受光部という構成は、いずれも従来技術として存在した。これらの従来技術を活用して、インクタンク側の発光部を、インクタンクを特定して光らせる個別制御を行い、受光部において受光の有無を検出すれば、インクタンクの有無のみならず、インクタンクの装着位置が誤っていないかどうか、すなわち誤装着を検出することができるが、そのためには、個別制御のための構成が必要であった。そして、甲第1号証発明に触れた当業者であれば、甲第1号証発明に備えられた個別制御の構成を使用することにより、かかる誤装着検出効果を実現することは容易であった。つまり、周知慣用技術である発光部と受光部に、甲第1号証発明を組み合わせて、訂正発明1の構成とすることは、当業者にとって容易であった。

(エ) 相違可能性b’についての検討(「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」(構成要件1D’)が、周知慣用技術であって、当該周知慣用技術を甲第1号証発明1’に適用することは容易であること)

a 「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」(構成要件1D’)が、周知慣用技術であること

プリンタにおいて、プリンタ側の受光手段に投光するための光を発光するための発光部を液体インク収納容器に設けることが本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術である。

b 周知慣用技術である発光部を、甲第1号証発明1’に適用することは容易であること

そして、インクタンク上の発光部が周知慣用技術であった以上、これを甲第1号証発明1’に備えられたI/Oコントローラに接続して発光信号を発することなど、当業者にとって何の困難性もないことである。

電子回路にLED及びLEDドライバを設けて制御することが当業者のみならず技術の素人にとっても容易であったことは、電子工作入門者向けの文献である甲第13号証(新電子工作入門)に、下記のとおりLED及びLEDドライバを用いた回路が説明されていることからも、明らかである。I/Oコントローラのような高度な機能を持たない単純な回路においてすら、LEDを制御することなど何の困難性もない。

● 「図8-3に本器のブロック図を示します。構成は、数字変化を行う信号のもとを作るパルス発生器、発生パルスを計数するカウンター部、カウンターの計数値をLED数字表示器に表示信号を伝えるデコーダー(解読器)/ドライバー(駆動器)部からなっています。」(甲第13号証 173頁2?6行)


● 「ドライバーとは、駆動機のことですが、LEDに大きな電流を流す必要があるため、ドライバー機能を持ったICが必要となります。」(甲第13号証 177頁1?3行)

また、甲第1号証発明1’は個別の配線を用いてキャリッジ上の発光部を制御しているのだと考えられるところ(甲第1号証はキャリッジ上の発光部の制御方法について明記していないので、バス回線及びインクカートリッジの制御部を用いることなく個別配線を用いて制御している可能性と、バス配線及びインクタンク上の制御部を用いて制御している方法の両方の可能性が考えられる。本文では相違点をなるべく請求人にとって厳しく認定するため、前者と考えて記載した。もし仮に、そうではなくバス回線及び制御部を用いてキャリッジ上の発光部を制御しているのだとすると、それこそ訂正発明1の構成そのものであるから、インクカートリッジに発光部を設ける構成に置き換えることは、一層容易であることになる。)、甲第1号証発明1’の発光部をインクタンク上の発光部に置き換えてバス回線及び制御部をもって制御することにより、個別の配線をなくすことができ、プリンタ側のコスト減につながるという動機づけがある。後述するとおり、消耗品ビジネスという特殊な業態を有するインクジェットプリンタの分野では、プリンタ側のコストをできるだけ下げ、プリンタを安く提供することが至上命題だからである。

c 相違可能性b’の容易性のまとめ

上記aのとおり、甲第1号証発明1’においてはキャリッジ上にインクカートリッジに対応したLEDがあり、インクタンクに発光部を設けることが周知技術である以上、これをインクタンク上の発光部に置き換えることは当業者にとって容易であった。
また上記bのとおり、かかるLEDを制御部に接続して制御することに何の困難性もないばかりか、甲第1号証発明1’の構成をそのような構成に置き換えることによりプリンタ側のコストを下げられるという動機づけもあった。
よって、当該周知慣用技術を甲第1号証発明1’に適用することは当業者にとって容易である。

エ 小括

以上のとおり、訂正発明1は、甲第1号証発明1’、及び周知慣用技術から、当業者が容易に想到しうるものであり進歩性を欠くという無効理由がある。

(2) 訂正発明3は、甲第1号証(国際公開第02/40275号)及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成14年5月23日に頒布された刊行物である甲第1号証(国際公開第02/40275号)には、訂正発明3の構成要件3A-1から3Hまでに対応する下記の記載がある。

ア 甲第1号証の記載

(ア) 甲第1号証が同一の構成を備えていることについて争いのない構成要件

被請求人は答弁書「7-3-3」「(1)」(13?14頁)において、甲第1号証(国際公開第02/40275号)が下記の構成要件に相当する構成を備えていることを争っておらず、この点に争いはない。
3A-1’
複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと、
3A-2’
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
3A-4’
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路と
3A-5’
を有する記録装置と、前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と、を備える液体インク供給システムにおいて、
3B’
前記液体インク収納容器は、前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
3C’
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、
3H’
(ことを特徴とする)液体インク供給システム。

(イ) 構成要件3Dに対応する記載(「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」についての記載)

甲第1号証には、上記「(1)」「ア」「(ウ)」で述べたように、キャリッジ上に備えられたLED(発光部)が開示されており、「報知手段」の一例としてのLED発光部(実質的にインクタンクに設けられた発光部を含む等価物)が開示されているものといえる。

(ウ) 構成要件3E’に対応する記載(「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」についての記載)

甲第1号証には、上記「(1)」「ア」「(エ)」で詳述したように、インクカートリッジ上の記憶装置が、メモリアレイ(情報保持部)の保有する識別データ(色情報)と、端子(接点)から入力された識別データに係る信号を比較し一致した場合に応答する機能を有しており、応答のない場合には、プリンタは操作パネル上のランプを点滅させることが記載されている。また、構成要件3Eでは「一致した」場合に発光させるのに対し、国際公開第02/40275号(甲第1号証)においては「一致しない」場合に発光させるという記載となっている点は、単に発光と消灯を逆に指示しているというものにすぎず、「一致した」場合に発光させることを実質的に開示しているに等しいものといえる。よって、かかるインクカートリッジ上の記憶装置が、端子(接点)から入力される識別データに係る信号と、情報保持部の保持する色情報とを比較し、プリンタの操作パネル上のランプを点滅させるために両者が一致する場合にプリンタに対して応答し、一致しない場合には応答しない記憶装置が開示されている。

(エ) 構成要件3G’に対応する記載(「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」についての記載)

甲第1号証には、上記「(1)」「ア」「(イ)」において述べたとおり、プ
リンタのキャリッジをインク交換位置まで移動させ、交換の対象となる特定のインクカートリッジに対応するLEDを点灯させる構成が開示されている。

(オ) 甲第1号証発明3’について

以上の記載から、甲第1号証の上記部分には、次の構成を含み、かつ前述した構成要件3A-1’、3A-2’、3A-4’、3A-5’、3B’、3C’、及び3H’と同様の構成を含む液体インク供給システムに関する発明(以下「甲第1号証発明3’」という)が記載されていることが明らかである。

┌--------------------------------┐
|3d’ 「報知手段」の1例としてのLED発光部(実質的にインクタ|
| ンクに設けられた発光部を含む等価物)と、 |
|3e’ 前記端子から入力される識別データに係る信号と、前記メモリ|
| アレイの保持する識別データを比較し、プリンタの操作パネル上の|
| ランプを点滅させるために両者が一致する場合にプリンタに対して|
| 応答し一致しない場合には応答しない記憶装置と、を有し |
|3g’ 前記キャリッジを所定の位置に移動させて特定のキャリッジ上|
| のLEDを点灯させる |
└--------------------------------┘

イ 甲第1号証発明3’と訂正発明3との対比

(ア) 一致点

甲第1号証発明3’の構成と訂正発明3の構成要件とを対比すると、まず前述のとおり、構成要件3A-1’、3A-2’、3A-4’、3A-5’、3B’、3C’、及び3H’に関して甲第1号証発明3’の構成と訂正発明3が一致することには争いがない。
構成要件3D’については、前記「(1)」「ア」「(ウ)」及び「(1)」「イ」「(ア)」「b」で詳述したように、発光部が液体収納容器(インクカートリッジ)側ではなく、「報知手段」の一例として記録装置(プリンタ)側のキャリッジに開示されていることは、単なる設計上の違いに過ぎないものであり、実質的に相違点とはならない(なお「ランプをインクタンクに設けること」は、周知慣用技術であり、当業者であれば極めて容易になしうる設計事項程度のことである)。
構成要件3E’については、前記「(1)」「イ」「(ア)」「c」において構成要件1E’について既に述べたのと同様、構成3e’の「前記端子から入力される識別データに係る信号と、前記メモリアレイの保持する識別データを比較し、プリンタの操作パネル上のランプを点滅させるために両者が一致する場合にプリンタに対して応答し一致しない場合には応答しない」は、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」に対応する。なお、構成要件3Eでは「一致した」場合に発光させるのに対し、構成3eにおいては「一致しない」場合に発光させるという記載となっている点は、単に発光と消灯を逆に指示しているというものにすぎず、実質的な相違点ではない。
構成要件3Gについては、既に前記「(1)」「イ」「(ア)」「a」において構成要件1A-5’について述べたのと同様、キャリッジを所定の「インク交換位置」まで移動させ、特定のインクカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯させる構成が、構成要件3Gの「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ」に対応する。かかる限度で構成3gと構成要件3Gは一致する。
したがって、甲第1号証発明3’と訂正発明3とは、以下の点において一致する。

┌--------------------------------┐
|3A-1 複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移|
| 動するキャリッジと、 |
|3A-2 該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能|
| な装置側接点と、 |
|3A-4 搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続す|
| る前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を|
| 発生するための配線を有した電気回路と |
|3A-5 を有する記録装置と、前記記録装置の前記キャリッジに対し|
| て着脱可能な液体インク収納容器と、を備える液体インク供給シス|
| テムにおいて、 |
|3B 前記液体インク収納容器は、前記装置側接点と電気的に接続可能|
| な前記接点と、 |
|3C 少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持す|
| る情報保持部と、 |
|3D 「報知手段」の1例としてのLED発光部(実質的にインクタン|
| クに設けた発光部を含む等価物)と、 |
|3E 前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持|
| 部の保持する前記色情報とが一致した場合又は一致しない場合に発|
| 光部を発光させる制御部と、 |
|3H を有することを特徴とする液体インク供給システム。 |
└--------------------------------┘

(イ) 相違する可能性のある点

甲第1号証発明3’の構成と訂正発明3の構成要件との相違する可能性のある点は、次のとおりであり、甲第1号証発明1’と訂正発明1との相違する可能性のある点と同様である。
第1に、構成要件3A-3’、3F’、3G’に関して、訂正発明3においては、記録装置側に以下の構成要件を有するのに対し、甲第1号証発明3’には、かかる記載はないこと(以下「相違可能性a-1’」という)。

3A-3’について
a 「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、」
b 「該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」

3F’について
c 「前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され、」

3G’について

d 「その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」

なお、上記a?dのうち、dはbの繰り返しに過ぎず、独自の意義を有しない。また、cは、構成要件3A-1’に関して複数のインクタンクを搭載して移動するキャリッジという構成を甲第1号証発明3’が有していることとの関係で、aのとおりの位置検出用の受光部をプリンタ側に一つ備えれば、当然に備える構成に過ぎない。よって、相違可能性a-1’は上記のうちa及びbに集約されるものであり、結果として訂正発明1についての相違可能性a’と同じである。

第2に、構成要件3D’に関して、訂正発明3においては、液体インク収納容器に「受光部に投光するための光を発光する」「発光部」が備えられているのに対し、甲第1号証発明3’においては、プリンタ側のキャリッジに発光部が備えられているものの、受光部に投光するためのものではなく、液体インク収納容器に備えるという記載がないこと(以下「相違可能性b-1’」という)。この点は、訂正発明1についての相違可能性b’と同じである。

以上の一致点及び相違する可能性のある点をまとめると下記表のとおりである。

┌------------------┬----------┬--┐
|訂正発明3 |甲第1号証発明3’ |比較|
├------------------┼----------┼--┤
|3A-1 複数の液体インク収納容器を|(争いなし) |○ |
| 互いに異なる位置に搭載して移動する| | |
| キャリッジと、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3A-2 該液体インク収納容器に備え|(争いなし) |○ |
| られる接点と電気的に接続可能な装置| | |
| 側接点と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3A-3 該液体インク収納容器からの|- |× |
| 光を受光する位置検出用の受光部を一| | |
| つ備え、該受光部で該光を受光するこ| | |
| とによって前記液体インク収納容器の| | |
| 搭載位置を検出する液体インク収納容| | |
| 器位置検出手段と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3A-4 搭載される液体インク収納容|(争いなし) |○ |
| 器それぞれの前記接点と接続する前記| | |
| 装置側接点に対して共通に電気的接続| | |
| し色情報に係る信号を発生するための| | |
| 配線を有した電気回路と | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3A-5 を有する記録装置と、前記記|(争いなし) |○ |
| 録装置の前記キャリッジに対して着脱|(争いなし) |○ |
| 可能な液体インク収納容器と、を備え| | |
| る液体インク供給システムにおいて、| | |
| 、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3B 前記液体インク収納容器は、前記|(争いなし) |○ |
| 装置側接点と電気的に接続可能な前記| | |
| 接点と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3C 少なくとも液体インク収納容器の|(争いなし) |○ |
| インク色を示す色情報を保持する情報| | |
| 保持部と、 | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3D 前記液体インク収納容器位置検出|3d’ 「報知手段」|○※|
| 手段の前記受光部に投光するための光| の1例としてのLE| |
| を発光する発光部と、 | D発光部(実質的に| |
| | インクタンクに設け| |
| | られた発光部を含む| |
| | 等価物)と、 | |
├------------------┼----------┼--┤
|3E 前記接点から入力される前記色情|3e’ 前記端子から|○ |
| 報に係る信号と、前記情報保持部の保| 入力される識別デー| |
| 持する前記色情報とが一致した場合に| タに係る信号と、前| |
| 前記発光部を発光させる制御部と、を| 記メモリアレイの保| |
| 有し、 | 持する識別データを| |
| | 比較し、プリンタの| |
| | 操作パネル上のラン| |
| | プを点滅させるため| |
| | に両者が一致する場| |
| | 合にプリンタに対し| |
| | て応答し一致しない| |
| | 場合には応答しない| |
| | 記憶装置と、を有し| |
├------------------┼----------┼--┤
|3F 前記受光部は、前記キャリッジの|- |× |
| 移動により対向する前記液体インク収| | |
| 納容器が入れ替わるように配置され、| | |
├------------------┼----------┼--┤
|3G 前記キャリッジの位置に応じて特|3g’ 前記キャリッ|△ |
| 定されたインク色の前記液体インク収| ジを所定の位置に移| |
| 納容器の前記発光部を光らせ、その光| 動させて特定のキャ| |
| の受光結果に基づき前記液体インク収| リッジ上のLEDを| |
| 納容器位置検出手段は前記液体インク| 点灯させる | |
| 収納容器の搭載位置を検出する | | |
├------------------┼----------┼--┤
|3H ことを特徴とする液体インク供給|(争いなし) |○ |
| システム。 | | |
└------------------┴----------┴--┘
※ただし、発光部が液体収納容器にあることの明示の記載はない

ウ 訂正発明3の容易想到性

上記に挙げた相違可能性a-1’及び相違可能性b-1’は、訂正発明1と甲第1号証発明1’との相違可能性a’及び相違可能性b’と同じである。よって、既に前記「(1)」「ウ」で詳述したとおり、相違可能性a-1’及び相違可能性b-1’はいずれも周知慣用技術であり、当該周知慣用技術を甲第1号証発明3’に適用することは当業者にとって容易である。

エ 小括

以上のとおり、訂正発明3は、甲第1号証発明3’及び周知慣用技術から、当業者が容易に想到しうるものであり進歩性を欠くという無効理由がある。

4 無効理由2
訂正発明1及び3は、本件特許の最先の優先日前に頒布された甲第1号証(国際公開第02/40275号)及び甲第2号証(特開2002-5818号公報)に記載の発明に基づいて、あるいは周知技術を勘案して、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により特許を無効とすべきものである。

(1) 無効理由1で述べた訂正発明1と甲第1号証発明1’、及び訂正発明3と甲第1号証発明3’との相違点に当たる構成が、いずれも甲第2号証に開示されている。

訂正発明1と甲第1号証発明1’の相違点である、上記「3」「(1)」「イ」「(イ)」に挙げた相違可能性a’及び相違可能性b’のいずれも、周知慣用技術に過ぎず、本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前である平成14年1月9日に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2002-5818号公報)に、相違可能性a’に当たる構成及び相違可能性b’に当たる構成の両方が開示されている。
一方、訂正発明3と甲第1号証発明3’の相違点である、相違可能性a-1’及び相違可能性b’-1も、上記「3」「(2)」「イ」「(イ)」で述べたとおり、相違可能性a’及び相違可能性b’と同じであるから、その両方とも、甲第2号証に開示されている。

(2) 甲第1号証発明に記載の発明と甲第2号証に記載の発明とは、技術分野の共通性及び発明の課題の共通性を有すること

また、甲第1号証発明3’と甲第2号証に記載の発明とは、技術分野の共通性及び発明の課題の共通性を有する。このことは、甲第1号証発明1’と甲第2号証に記載の発明とについても同じである。

(3) 小括
訂正発明1及び3は、甲第1号証各発明と甲第2号証に記載の発明を組み合わせることにより、当業者にとって容易に想到できたことである。

以上から、甲第2号証に記載の発明を甲第1号証に記載の発明に適用することは、当業者にとって極めて容易である。よって、訂正発明1及び3は、甲第1号証各発明と甲第2号証に記載の発明を組み合わせることにより、当業者にとって容易に想到できたものである。
したがって、訂正発明1及び3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり進歩性を欠くという無効理由がある。

5 無効理由3
訂正発明1の液体インク収納容器に備えられている「前記発光部の発光を制御する制御部」(構成要件1E’)及び訂正発明3の液体インク収納容器に備えられている「前記発光部を発光させる制御部」(構成要件3E’)に相当する構成が101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、訂正発明1及び3は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、特許を無効とすべきものである。

請求人の主張は、概略以下のとおりである。
(1) 訂正発明1の液体インク収納容器に備えられている「前記発光部の発光を制御する制御部」(構成要件1E’)及び訂正発明3の液体インク収納容器に備えられている「前記発光部を発光させる制御部」(構成要件3E’)に相当する構成が101訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。

(2)被請求人は、答弁書「7-4」「(1)」(18頁)において、訂正発明1及び3の「制御部」に該当するのは「入出力回路103A」であると主張している。
しかしながら、「入出力制御回路103A」は、自らLEDの点灯、点滅、消灯という発光を制御しているのではなく、制御回路300から送られてくる、LEDの点灯、点滅、消灯についての制御コードのデータ信号を取り入れ、LEDに対して制御回路300の命令の通りに信号を発するだけであり、「発光部の発光を制御する制御部」「発光部を発光させる制御部」という語義からは当業者が到底理解できない機能を有するに過ぎない。被請求人は、発光対象インクタンクの特定のための色情報の一致判断や制御回路300の命令の通りの信号発信をもって「制御」と解しているかのごとくであるが、自律的なコントロール機能という「制御」の語義から考えて、そのような無理な解釈を取ることは不可能である。

(3)また、101号訂正により、「発光部の発光を制御」、「発光部を発光させる」に加え、「発光部を光らせ」るという記載が構成要件1A-5’に追加された。かかる訂正により、下記のとおり、「制御部」が101号訂正明細書に記載されていないことがより明確になった。
ア 101号訂正により構成要件1A-5’に追加された「発光部を光らせ」の主体は、下記の構成要件1A-5’の記載から、1A-5’の「記録装置」すなわちプリンタであると解することができる。
┌--------------------------------┐
|1A-5’前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液|
| 体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づ|
| き前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器|
| の搭載位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能|
| な液体インク収納容器において、 |
└--------------------------------┘
したがって、「発光部を光らせ」る機能をプリンタが有するということになる以上、プリンタにおいて、「発光部を光らせ」る機能を有する構成を備えることが必要である。かかる機能を有するプリンタ側の構成として101号訂正明細書の記載上、発光部を発光させる「制御コード」を発する制御回路300しかありえないことは下記の記載から明らかである。つまり、101号訂正により付加された「発光部を光らせ」る構成は、101号訂正明細書の制御回路300の記載によってサポートされたものとして、構成要件1A-5’に付加されたものである。

【101号訂正明細書の記載】
● 「制御回路300は本プリンタに関するデータ処理および動作制御を実行する。」(段落【0075】)

● 「以上の接続構成により、本体側の制御回路300とそれぞれのインクタンク1との間で信号の授受を行うことが可能となる。これにより、制御回路300は、図25?図27にて後述されるシーケンスに従った点灯ないし点滅の制御を行うことができる。」(段落【0077】)

● 「LEDの点滅制御は、上記の説明からも分かるように、本体側の制御回路300が、点灯と消灯の「制御コード」をそれぞれ含むデータ信号をそのインクタンクを特定して送ることによって可能となる。」(段落【0094】)

● 「図25は、以上説明した本実施形態の構成に基づくインクタンクの着脱に関する制御手順を示すフローチャートであり、特に、本体側の制御回路300による各インクタンク1のLED101の点灯、消灯の制御を示すものである。」(段落【0095】)


イ 以上のとおり、101号訂正において、プリンタ側において「発光部を光らせ」る構成(構成要件1A-5’及び3G’)は、101号訂正明細書上の「制御回路300」によりサポートされたものとして付加されたものであることは明らかである。加えて、「発光部を発光させ」(構成要件3E’)と、「発光部を光らせ」(構成要件1A-5’。ただし主体は記録装置)とは、言語的に同義であることもまた明らかである。してみれば、「発光部を光らせ」と同義の「発光部を発光させ」(構成要件3E’)る制御部の意義は、101号訂正をなした被請求人の理解としては、「制御回路300」と同様の機能を有するものであるはずである。
しかしながら、前記「(2)」の通り、「発光部を発光させ」る制御部(構成要件3E)に該当するのは、被請求人の主張によれば、「制御回路300」とは程遠い機能を有するに過ぎず、「制御回路300」の命令通りに信号を発するに過ぎない、101号訂正明細書の「入出力回路103A」であるというのである。101号訂正により露呈した、かかる被請求人の主張における矛盾からも、「発光部を発光させる制御部」をサポートする適切な記載が、101号訂正明細書に存在しないことが明らかである。
構成要件1E’の「発光を制御する制御部」についても、構成要件3Eの「発光部を発光させる制御部」と同じものを指すと考えられることから、同様の議論が当てはまる。
したがって、101号訂正により、インクタンク上に備えられた「発光を制御する制御部」(構成要件1E’)及び「発光部を発光させる制御部」(構成要件3E’)が、101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていないことが、より明らかになったといえる。

(4) 以上から、訂正発明1及び3は、101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

6 無効理由4
訂正請求項1及び3に係る発明は不明確であるので、訂正請求項1及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、特許を無効とすべきものである。

(1) 訂正発明1の「発光部」と「受光手段」との関係が不明確である。
ア 「液体収納容器からの光を受光する受光手段」の「液体収納容器からの光」とは、「発光部」が発した光を指すのか、それ以外の、例えば自然光や記録装置側から発せられる光が液体収納容器に反射した反射光なども含むのか否かが、全く不明であるから、「液体収納容器からの光を受光する受光手段」という構成が不明確となっている、という請求人の主張に対し、被請求人は、101号訂正により、「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する受光位置検出用の受光手段」(構成要件1A-3’)と受光手段がインクタンクの発光部からの光を受光することを追加し、かつ「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」(構成要件1D’)と発光部が受光手段に投光するための光を発光することを追加した。そして、被請求人は、答弁書19頁11?12行において、発光部と受光手段との関係についての従前の請求人の主張について、「発光部と受光手段の関係、技術的関連性は明確である。」と、もはや争点ではなくなったかのように主張する。

イ しかしながら、受光時の発光部と受光手段との位置関係については、101訂正によってもなお不明確である。
すなわち、インクタンク訂正構成要件 「投光するための光を発光する」と「液体インク収納容器(の発光部)からの光を受光する位置検出用の受光手段」とにおける「投光するための光」と「液体インク収納容器(の発光部)からの光」の関係が不明瞭である。
しかも、受光時における、発光部と受光手段(及び受光部)との位置関係が不明確である。
受光時の発光部と受光手段との位置関係について、訂正発明1の構成要件には、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」との構成が追加されている。
しかし、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器」という構成の意義が不明確である。
まず、そもそも、「キャリッジの位置に応じて特定された」とは、キャリッジ内部の各インクタンクの装着箇所に応じて特定されたという意味とも理解しうるし、移動するキャリッジのシャフト上における位置に応じて特定されたという意味とも理解できるという点で、少なくとも二義的に解釈が可能な記載となっており、不明確であることは明らかであって、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由があるというべきである。
また、仮に、上記構成における「キャリッジの位置に応じて特定された」が移動するキャリッジのシャフト上における位置に応じて特定されたという意味だと仮定したとしても、キャリッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに、キャリッジ内のどのインクタンクを「光らせ」るのかについて、訂正発明1の構成要件は明らかにしていないから、訂正発明1について、受光時における、発光部と受光手段(及び受光部)との位置関係が不明確である。
その結果、訂正発明1の構成要件は、インクタンクの発光部が受光手段と対向する位置ではなく、対向する位置と隣接する位置又はさらに離れた位置において発光する場合はおろか、そもそもキャリッジ自体が受光手段から著しく離れた位置や障害物により光が遮断される位置にある場合などの、受光手段が発光部からの発光を受光できず、結果としてインクタンクの位置を検出できないような場合に特定色のインクタンクの発光部を光らせる場合も含むとこととなっている。
しかし、受光手段が発光部からの発光を受光できないような場合には、そもそも発光部と受光手段との間に技術的な関連性がないといえ、訂正発明1は、その不明確性のゆえに、かかる技術的に意味がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれがあるものといえる。
したがって、訂正発明1は、権利範囲が不当に広いという観点から見ても、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由があるというべきである。

ウ 訂正発明3についても、上記「イ」と同様の議論が当てはまる。訂正発明3においては、「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」(構成要件3A-3’)、「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」(構成要件3D’)という、発光部と受光部との関係についての構成が付加されている。
しかしながら、受光時の発光部と受光手段との位置関係については、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」(3G’)という、構成要件1A-5’と同様の記載があるのみである。
よって、訂正発明3も、訂正発明1と同様に、「キャリッジの位置に応じて特定された」との記載が不明確であるとともに、受光部が発光部からの発光を受光できないという、発光部と受光手段との間に技術的な関連性がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれがある。したがって、訂正発明3には、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由がある。

(2)訂正発明1の「液体インク収納容器」が、「記録装置」も構成に含まれているため、「液体収納容器」自体で特定できない。
ア 被請求人は、答弁書「7-5」「(2)」(19?20頁)において、次のように反論している。すなわち、被請求人は、訂正発明1がサブコンビネーション形式の発明であることを前提として、サブコンビネーション形式の発明に関し、あたかも訂正発明1がサブコンビネーション形式であることのみを理由として、当然に明確性を有するかのように縷々述べている。かかる内容は、特許庁審査官の意見とも異なる、独自の見解を展開しているものと思われる。
しかしながら、請求人の主張は、訂正発明1がサブコンビネーション形式か否かを問題にしているのではなく、訂正発明1の発明特定事項が特定でき、明確といえるかどうかという点を問題にしているものである。

イ 訂正発明1のように、インクタンク(「液体インク収納容器」)という物の発明において、請求項に請求されている物以外の他の物についての記載がある場合、かかる「他の物」の特定事項により、「請求されている物」の発明特定事項が特定でき、その技術的特徴がその記載から把握されなければ、その記載は不明なものといわざるを得ない。両者の相互関係や協働関係が不明確で「請求されている物」を特定できない場合も、やはり請求項の記載は不明確である。
なお、このことは、サブコンビネーション形式の発明であっても同じである。例えば、下記の知財高裁平成20年2月21日判決のように、インクジェットヘッドを備えたホルダに着脱自在とされるインクタンクの発明がサブコンビネーション形式で記載された請求項に対し、ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま含める訂正が、当該請求項を不明確なものとするものであり、請求の範囲の減縮に当たるか否かを判断することすらできないとして却下した審決を支持した裁判例がある。

【知財高裁平成20年2月21日判決(LEX/DB28140587)】
「・・・まず,訂正事項hにより,インクタンクのラッチレバーについて,「第2係合部と第2係止部とが係合状態にあるときは内側に弾性変位した状態となる一方,操作部がインクタンク本体側に押されて第2係合部と第2係止部との係合が解除されると,ラッチレバーの復元力で第2係合部と下端部との間の部分がホルダの内壁に当接して装着する際とは逆の方向にインクタンクを回転させ,インクタンクの他側面側が持ち上がった状態となるよう前記下端部から外側上方に向かって傾斜している」と構成を付加したことが,特許請求の範囲の記載の減縮を目的としたものといえるか否かについて判断する。
確かに,訂正明細書に記載された実施例には,ラッチレバー32aを内側に押し込み,ラッチ爪32eとラッチ爪係合穴60jとの係合を解除することによって,インクタンクが持ち上がることが記載されている(被請求人の主張に合わせ「ポップアップ機能」との語を用いる場合がある。)。
しかし,同記載にかかる「ポップアップ機能」は,あくまでも,ホルダの内壁が,その下端部から外側上方に向かって傾斜した側断面形状を有し,ラッチレバー32aの傾斜はホルダの壁よりも大きくなっていること等,ラッチ爪を含むラッチレバーの具体的形状やホルダの内壁の具体的形状等の相互関係に依存するものであって,インクタンクとして規定された構成のみによって,常に実現するというものではなく,インクタンクとホルダとの間に一定の条件が成立することによってはじめて実現するものにすぎない。
以上のとおり,訂正事項hは,記載自体が明確でないのみならず,発明の詳細な説明欄における実施例に関する記載及び図面を参照してみてもなお,ポップアップ機能を実現する事項にかかる構成を明確に示したものと解することはできない。したがって,訂正事項hにおいて,ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま要素として含んだことによって,本件訂正は全体として,インクタンクの発明であるにもかかわらず,特許請求の範囲の記載(請求項1)を不明確にするものとなったから,特許請求の範囲の減縮に当たるか否かを判断することすらできないものであって,結局,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正ということはできない。」

被請求人のいう、あたかもサブコンビネーション形式であれば常に明確であるとも解しうる主張は、その根拠を欠くものであって、明らかに不当である。

ウ 訂正発明1におけるインクタンクとプリンタの関係
(ア) 訂正発明1においては、構成要件1A-1’から1A-5’までの部分は、「請求されている物」としてのインクタンク(「液体インク収納容器」)以外の「他の物」であるプリンタ(「記録装置」)が構成に含まれている。
しかしながら、「他の物」であるプリンタについての記載は、インクタンクの構成を特定するものではない。例えば、「複数の液体インク収納容器が搭載して移動するキャリッジ」(構成要件1A-1’)という記載から、インクタンクが必ず複数同時に搭載されなければならないのかどうかは明らかではない。また、「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」(構成要件1A-2’)は、インクタンクが「前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点」(構成要件1B’)を備えていることの裏返しにすぎず、何らインクタンクを特定するものではない。さらに、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」(構成要件1A-4’)といった特定事項にいたっては、プリンタ(「記録装置」)の特定事項ではあるものの、第2弁駁書「第4」「4」で詳述するとおりその記載自体が不明確であることはもちろん、「請求されている物」であるインクタンクとの関係が全く不明であるから、インクタンクの発明特定事項を何ら特定するものではない。

(イ) 一方、被請求人は101号訂正により、インクタンクとプリンタとの関係についての構成をいくつか付加しているが、かかる訂正によっても、インクタンクの構成は何ら特定されず、依然として不明確である。
a 例えば、訂正発明1の構成要件1A-3’及び1A-5’には、プリンタ側の「液体インク収納容器位置検出手段」による位置検出という構成が付加されている。
しかし、「液体インク収納容器位置検出手段」という構成がそもそも不明確であるから、インクタンクの搭載位置の検出がいかにして実現されるのかどうかが不明確となっている。仮にインクタンクの発光部が発光し、プリンタの受光手段ないし受光部が受光する、という関係があるとしても、それだけではインクタンクの位置を検出したことにはならない。どのような受光結果が得られればどの位置にインクタンクが搭載されていると認識するのかという位置検出の方法は、プリンタ側の「液体インク収納容器位置検出手段」が何を指すのかということが不明確である限り、明確とはならないのである。
よって、プリンタ側の「液体インク収納容器位置検出手段」による位置検出という構成を付加することによっても、「液体インク収納容器位置検出手段」が不明確である以上、プリンタとインクタンクとの関係は明確とならないから、インクタンクの構成は何ら特定されない。
b また、訂正発明1の構成要件1A-5’においては「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の発光部を(「記録装置」が)光らせ」る構成が付加されている。キャリッジの位置に応じた所定のタイミングで「発光部を光らせ」ることができるかどうかは、プリンタ側の構成如何によることは明らかである。しかし、訂正発明1の構成要件には、キャリッジの位置に応じた所定のタイミングで「発光部を光らせ」るためのプリンタ側の構成について何ら記載がない。よって、インクタンク側において、キャリッジの位置に応じた所定のタイミングで「発光部を光らせ」るという行為がいかにして実現されるのかどうかが不明確となっている。
さらにいえば、訂正発明1の構成要件1A-5’においては、発光部を光らせる構成は記録装置側にあるものと理解されるものの、他方で、構成要件1E’において、「発光部の発光を制御する」(=「発光部を光らせ」る)「制御部」がインクタンク側に存在することが記載されており、プリンタ(記録装置)とインクタンクのいずれが「発光部を光らせ」るのかも全く不明である。
よって、「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の発光部を(「記録装置」が)光らせ」る構成を付加することによっても、プリンタとインクタンクとの関係は明確とならないから、インクタンクの構成は何ら特定されない。

(ウ) 以上から、プリンタの特定事項である構成要件1A-1’から1A-5’までの記載によって、インクタンクの発明特定事項が特定でき、その技術的特徴がその記載から把握されるわけではない上、101号訂正によってもインクタンクの構成は何ら特定されず、依然不明確であるから、訂正請求項1の記載は不明確である。

エ 以上より、訂正発明1は、「記録装置」の特定事項である構成要件1A-1’から1A-5’までにより、「液体収納容器」の発明特定事項が特定できるわけではなく、その技術的特徴がその記載から把握されるわけでもなく、101号訂正によっても両者の関係は依然不明確であるから、訂正請求項1の記載から訂正発明1を明確に特定することができない。
よって、訂正発明1には、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由がある。

(3) 訂正発明3の「互いに異なる位置に」(構成要件3A-1’)が不明確である。
訂正請求項3の構成要件3A-1’において、複数の液体インク収納容器が、「互いに異なる位置に」搭載可能であるとの記載の意味が不明であり明確性要件違反であるとの請求人の主張に対し、被請求人は、答弁書「7-5」「(3)」(20?21頁)において、「互いに異なる位置に」とは、「複数のインクタンクホルダに、複数の異なるインクタンクが搭載されることを、『互いに異なる位置に』と表現しているだけである」と反論している。
しかしながら、「互いに異なる位置」という記載だけでは、複数の液体インク収納容器のそれぞれが固有の位置を有していることまでは読み取れない。また、「互いに」とは通常2つのものの相互の関係について使用する用語であり、訂正発明3のように4色以上もの液体インク収納容器について用いる意味が不明である。
したがって、請求人の反論にもかかわらず、訂正発明3には、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由がある。

(4) 訂正発明1及び3の「色情報に係る信号を発生するための配線」(構成要件1A-4’、3A-4’)が不明確である。
「色情報に係る信号を発生するための配線」が不明確であるという請求人の主張に対し、被請求人は、「『配線』自体が信号を発生しないことが明らかであることを踏まえれば上記記載の意味は、『前記装置側接点に対して共通に電気的接続』するのは『配線』であり、『信号を発生する』のは『電気回路』であり、容易に理解できる。』」と説明する(答弁書21頁18?21行)。
しかし、構成要件1A-4’及び3A-4において、「共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」のうち、「共通に電気的接続」が「配線」にかかることが明らかである以上、より「配線」に近い位置に文言がある「信号を発生」は文理上「配線」にかかると考える以外に解釈のしようがない。よって、被請求人が仮に、101号訂正明細書には「電気回路が信号を発生させる」ことが記載されていると主張するのであれば、被請求人は101訂正明細書の記載と請求項の記載とが矛盾することを認めたことになり、構成要件1A-4’及び3A-4が不明確であることが明らかになったものといえる。
以上から、訂正発明1及び3には、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由がある。

(5) 訂正発明1及び3の「複数の液体インク収納容器」(構成要件1A-1’、3A-1’)が不明確である。
被請求人は、答弁書22頁において、形状・大きさがAタイプである4種のインクタンクと、Bタイプである他の3種のインクタンクを使用する場合が本件各訂正発明の実施態様に含まれると主張するが、そのように多種のインクタンクを用いつつ形状を2タイプに分けてそれぞれタイプ別に搭載位置を検出する態様は不必要なコストを生じる点で不合理であるばかりか、「装着位置の形状とインクタンクの形状を色ごとに異ならせる公知公用技術を用いることなく、インクタンクの製造の効率化や低コスト化を図りつつ誤装着防止を実現する」という、101訂正明細書に記載された発明の効果を奏することができないものであるから、101号訂正明細書の記載からは除外されていることは明らかである。かかる不合理かつ発明の効果を奏することができない場合までを訂正発明1及び3の実施態様に含むという被請求人の主張は、それ自体本件各訂正発明の不明確性を認めたものに等しいといえる。
また、以上の被請求人の反論からも明らかな通り、「複数の液体インク収納容器」という記載によって訂正発明1及び3の外延が不当に広くなってしまっており、「複数の液体インク収納容器」にいかなる場合までが含まれるのか不明確になっていることは明らかである。
したがって、訂正発明1及び3には、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由がある。

(6) 訂正発明1の「受光手段」(構成要件1A-3’)、訂正発明3の「受光部」(3A-3’)及び訂正発明1及び3の「液体インク収納容器位置検出手段」(構成要件1A-3’及び3A-3’)が不明確である。

ア 101号訂正により、構成要件3A-3’(及び3D’、3F’)に「受光部」という構成が付加された。かかる「受光部」は、1A-3’の「受光手段」とは異なる用語を用いているため、「受光手段」が「受光部」と異なる構成を指すのか、同一の構成を指すのかが不明確となっている。

イ 「液体インク収納容器位置検出手段」については、101号訂正明細書の詳細な説明には、その文言も定義もなく、LED101の発光を受光する第1受光部210、及びインクタンクの装着位置を判断する制御回路300のいずれか、または両方をあわせたものが「液体収納容器位置検出手段」に該当するのか、全く不明である。
この点について、被請求人は答弁書23頁6?7行において、「101号訂正明細書記載の実施形態との対応関係においては、第1受光部210と制御回路300をあわせた概念である」と説明するが、そのような説明を裏付ける記載は101訂正明細書には存在しない。
さらにいえば、101号訂正により追加された「前記キャリッジの移動により・・・位置検出用の受光手段を一つ備え」(構成要件1A-3’、3A-3’)の主体が、「記録装置」なのか、「液体インク収納容器位置検出手段」なのかという点も、文理上明らかではない。よって、「液体インク収納容器位置検出手段」に「受光手段」又は「受光部」が含まれるのか、そうでなく別個の構成なのかという両者の関係も明らかではなく、この点においても訂正発明1及び3は不明確である。

ウ 以上の通り、「受光手段」(構成要件1A-3’)、「受光部」(3A-3’)及び「液体インク収納容器位置検出手段」(構成要件1A-3’及び3A-3’)は、その意義が不明確である。
したがって、訂正発明1及び3には、明確性要件違反(特許法36条6項2号違反)の無効理由がある。

7 無効理由5
訂正発明1及び3は、当業者にとって実施可能なものであるとは認められず、訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第36条第4項に規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、特許を無効とすべきものである。

受光手段が、隣接位置からの発光を誤装着として検出しないことにする手段が不明である。
被請求人は、隣接している位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受光せず、インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識できる実現手段として、「受光手段の信号について適当な閾値を設けて、それ以上の光かそれ以下の光かで区別する方法」を挙げている(答弁書23頁?24頁)。
しかしながら、閾値を設けることについて、101号訂正明細書には一切記載がない。
また、閾値を設けるのみでは、連続的に導入される隣接位置からの光を区別することは当業者にとって容易ではない。隣接するインクタンクは強い光を発している上、インクタンク同士の距離は非常に短く、一定程度の速さで移動するため、対向する位置のインクタンクの発光部の光量と、隣接する位置のインクタンクのそれとでは大きな違いはなく、閾値の設定は当業者にとって容易ではない。
以上のとおり、訂正発明1及び3には、実施可能要件を欠くものであるという無効理由がある。

8 証拠方法
請求人は、審判請求と同時に次の甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
なお、甲第4号証は、本件特許に係る出願の出願後に公開された、別件の出願である特願2004-319751号の公開公報であり、甲第5号証は、この特願2004-319751号についての拒絶理由通知書の写しである。
(1)甲第1号証 国際公開第02/40275号
(2)甲第2号証 特開2002-5818号公報
(3)甲第3号証 特開平11-286121号公報
(4)甲第4号証 特開2005-205886号公報
(5)甲第5号証
特願2004-319751号についての拒絶理由通知書
(6)甲第6号証 特開2001-293883号公報
(7)甲第7号証 特開平10-112598号公報
(8)甲第8号証 特開2002-301829号公報
(9)甲第9号証 特開2002-5724号公報
(10)甲第10号証 特開平10-230616号公報

また、請求人は、平成24年3月29日付け第2弁駁書の提出と同時に甲第11号証ないし甲第13号証を提出した。
(11)甲第11号証
平成15年4月24日発売のキヤノン株式会社製プリンタである
PIXUS 6500iの製品写真
(12)甲第12号証 特開平11-263025号公報
(13)甲第13号証
西田和明著、「新電子工作入門 わかる できる 楽しめる」、第1
刷、株式会社講談社、2000年2月20日、172頁?179頁(以下
「新電子工作入門」という。)

さらに、請求人は、平成24年6月15日付け口頭審理陳述要領書の提出と同時に甲第14号証ないし甲第18号証を提出した。
(14)甲第14号証 特開平2003-291364号公報
(15)甲第15号証 特開2002-361890号公報
(16)甲第16号証 特開2001-287381号公報
(17)甲第17号証 特開2000-127444号公報
(18)甲第18号証
「PIXUS 6500i」についての発売日の表示があるキヤノ
ン株式会社のホームページの写し

なお、甲第11、13、18号証の成立について、甲第11号証の写真に写っているプリンタがキヤノン株式会社製プリンタPIXUS 6500iであることについて、及び、キヤノン株式会社製プリンタPIXUS 6500iが平成15年4月24日に発売されたことについて、当事者間に争いはない。

第5 被請求人の主張
被請求人は、平成21年9月24日付け答弁書を提出して、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁する。具体的な反論は以下のとおりである。

1 はじめに
まず、訂正発明1及び3(以下、総称して「本発明」という。)について説明する。続いて、訂正発明1及び3が、請求人が主張する無効理由1乃至5に該当しないことを主張する。

(1)課題
本発明は、インクジェット記録で用いられるインクタンクに代表される液体インク収納容器に関する(明細書段落0001)。
本発明の出願当時、カラー化に伴い複数のインクタンクがプリンタに用いられるようになっており、インクタンクが正しい搭載位置に搭載されない誤搭載が生じる可能性があった。よって、搭載されるインクタンクの搭載位置を特定することができるように構成することが好ましいが、搭載位置毎の個別信号配線を設ける構成とすればインクの種類の数に比例して配線が増大し、配線数削減のために共通の信号線によるバス接続を採用すれば液体インク収納容器の搭載位置を特定
することができないという問題があった(明細書段落0008?0009)。
そこで、本発明の課題は、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることにある(明細書段落0010)。
つぎに述べる特徴は、このような本発明の課題を達成するために見出された構成である。

(2)特徴
ア 特徴1:個別制御
訂正発明1の液体インク収納容器は、
○「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」、及び、
○「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」
を備える。
また、訂正発明3の液体インク供給システムを構成する液体インク収納容器は、
○「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部」及び
○「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」
を備える。
このような構成により、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続」する配線方式(バス接続方式)という、比較的簡便な接続方式を採用しながら、液体インク収納容器を個別に制御することができる。

イ 特徴2:搭載位置検出
(ア) 訂正発明1は、
○「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備え、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」記録装置に用いられること
○「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」
との構成を備える。

(イ) 訂正発明3は、
○「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」
○「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」
○「前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」
○「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
との構成を備える。

(ウ) 搭載位置検出原理
訂正発明1及び3において、記録装置側の「受光手段」(請求項1)、「受光部」(請求項3)は、「キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」ている。よって、キャリッジの移動により、各「発光部」と「受光手段」/「受光部」との相対位置関係が変化する。
そして、訂正発明1及び3は、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出」する。
これにより、液体インク収納容器がキャリッジ上の正しい搭載位置に搭載された場合と、誤った搭載位置に搭載された場合とで、液体インク収納容器の発光部が発光する位置が異なり、「受光手段」/「受光部」との相対位置関係が異なるので、これが「受光手段」/「受光部」により受光された光の受光強度の変化という受光結果に現れる。その結果、液体インク収納容器が正しい搭載位置にあるか否かを検出することができる。その具体例の一つは、明細書の段落0108乃至0113に光照合処理として記載されている。

2 無効理由1及び2(特許法第29条第2項)に該当しない理由

(1) はじめに
訂正発明1及び3は、甲第1号証等の発明とは全く異なる発明であり、特許法第29条第2項に該当しない発明であることは明白である。以下、訂正発明1及び3が特許法第29条第2項の規定に該当しないことを主張する。

(2) 引用文献
ア 甲第1号証(国際公開第02/40275号)
プリンタ本体とインクカートリッジとの接続に、バス接続方式を採用したものが開示されており、インクカートリッジ側に識別データを取り扱うことのできる記憶装置20?23を備えたものが開示されている。
また、各インクカートリッジの誤装着を検出する処理が、その第1乃至第3実施例に開示されている。
第1実施例(25頁23行目?28頁15行目):
プリンタの交換用開口部14に、キャリッジ101の各搭載位置を配置し、装着が検出された場合に、その搭載位置に応じた識別データを送信して応答があれば正常装着、応答がなければ誤装着とする。なお、この第1実施例は、全インクカートリッジが未装着の状態で、順次装着していく場合が想定されているところ、インクカートリッジCAの装着検出を、カートリッジアウト信号に基づいて行っているが(26頁21?23行目)、カートリッジアウト信号は、全インクカートリッジが装着されている場合にのみ0レベルとなるので(24頁1行目?11行目)、個々のインクカートリッジCAの装着検出はなし得ず、実施例1の装着検出は成立しないものと理解される。
第2実施例(28頁16行目?30頁25行目):
交換するインクカートリッジを交換用開口部14に移動させ、カートリッジアウト信号に基づいて交換が検出された場合にその搭載位置に応じた識別データを送信して応答があれば正常装着、応答がなければ誤装着とする。
第3実施例(30頁26行目?36頁1行目):
交換用開口部14を介さずに交換される場合の例を示している。まず、交換対象のインクカートリッジを特定した上で、カートリッジアウト信号に基づいていずれかのインクカートリッジが取り外された場合に、特定済みのインクカートリッジの識別データを送信して応答があれば誤ったインクカートリッジが取り外されたと判断し、応答がなければ、特定済みのインクカートリッジが取り外されたと判断する。特定済みのインクカートリッジが取り外されたと判断した場合、続いて、カートリッジアウト信号に基づいて新たなインクカートリッジの装着を検出し、検出されれば特定済みのインクカートリッジの識別データを送信して応答があれば正常装着とする。

イ 甲第2号証(特開2002-5818号公報)
「立体形半導体素子」と記載された、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子が開示されている。
段落0007にはインクタンクの形状は同じでありつつ、誤装着を防止することが可能なインクタンクが望まれていたことが開示されている。
図7及び段落0057乃至段落0061には、立体形半導体素子を発光させ、光センサ550で受光することでインクの色を判別すること、光センサ550によってインクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザに警告をすること、が開示されている。
しかし、光センサ550がインクタンクの外部と記載されているだけで、どこに設けられているかは開示されていない。また、インクタンクが不適切な位置に装着されたことをどのように検知するかも開示されていない。

ウ 甲第3号証(特開平11-286121号公報)
インクタンク毎にプリントヘッドを設け、かつ、各インクタンクと各プリントヘッドとにそれぞれ、送信用・受信用のフォトダイオードセットを設け、これらの光通信によりインクタンクの誤装着を検出するものが開示されている。

エ 甲第6号証(特開2001-293883号公報)
「立体形半導体素子」と記載された、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子を用いて、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を取得し、立体形半導体素子とプリンタ本体側での通信を行う手段が開示されている。段落0047には、その通信を行う手段として光を用いてもよいことが記載されている。段落0062、0063には、インク残量に応じて浮遊する素子の位置が変わることを利用し、素子へ光を投光してその反射光を受光する等してインク残量を検知することが開示されている。

オ 甲第7号証(特開平10-112598号公報)
台車と部品を供給するフィーダとの情報通信に光通信を利用し、フィーダが保持されている台車上の保持部を特定するものが記載されている。

カ 甲第8号証(特開2002-301829号公報)
インクタンク又はキャリッジに、残量警告ランプをインクタンク毎に設けたインクジェット記録装置が開示されている。

キ 甲第9号証(特開2002-5724号公報)
「立体形半導体素子」と記載された、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子を用いて、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を取得し、立体形半導体素子とプリンタ本体側での通信を行う手段を開示している。
段落0046には、「情報伝達手段18は、...外部ヘインク内部情報を表示、伝達する。この伝達するためのエネルギーは磁界、光、形、色、電波、音などを使用することが可能であり...また、伝達先はインクジェット記録装置の通信回路150のみでなく、特に光、形、色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよい」と記載されている。しかし、光を利用した場合の具体的構成は開示されておらず、また、インクタンクの搭載位置を検出することは開示されていない。

ク 甲第10号証(特開平10-230616号公報)
インク残量を検知するための発光部と受光部を備えた記録装置が開示されている。

(3) 対比
訂正発明1及び3と、甲第1号証記載の発明とを対比すると、訂正発明1及び3が以下の点を備えるのに対し、甲第1号証記載の発明が以下の点を備えていない点で相違する。
ア 訂正発明1
○相違点a:
「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備えた記録装置のキャリッジに着脱可能な液体インク収納容器である点。
○相違点b:
「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」、及び、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて「前記発光部の発光を制御する制御部」を備えた点。
○相違点c:
受光手段が「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」た記録装置のキャリッジに着脱可能な液体インク収納容器である点。
○相違点d:
「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」記録装置のキャリッジに着脱可能な液体インク収納容器である点。

イ 訂正発明3
○相違点A:
記録装置が「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備えた点。
○相違点B:
液体インク収納容器が「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」、及び、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に「前記発光部を発光させる制御部」を備えた点。
○相違点C:
「前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」ている点。
○相違点D:
「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」点。

(4)進歩性
○各甲号証記載の発明との差異
甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは当該発明と他の甲号証の組合せに基づいて本発明が容易に想到することができるものではないことは以下に述べる通り明白である。
甲第2号証には、光センサ550によってインクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザに警告をすることが開示されているが、上記の通り、光センサ550がインクタンクの外部と記載されているだけで、どこに設けられているかは開示されておらず、また、インクタンクが不適切な位置に装着されたことをどのように検知するかも開示されていない。よって、上記相違点との関係では、記録装置側に光を受光する構成が存在している点のみを示唆するに過ぎない。
特に上記相違点d及び相違点Dに関し、甲第2号証のものは、立体形半導体素子を発光させて、その光を光センサ550で受光してはじめてインクの色を判別するものであり、素子を発光させる段階ではインクの色は特定できていない。よって、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ」ることなどあり得ず、上記相違点d及び相違点Dを示唆する筈がない。
甲第3号証のものは、インクタンク及びプリントヘッド毎にフォトダイオードセットを設けて個別の光通信を行うもので上記相違点を示唆し得ない。
甲第6号証には、立体形半導体素子と記録装置側の通信を光で行うことや、立体形半導体素子へ光を投光してその反射光を受光する等してインク残量を検知することが開示されているが、上記相違点との関係では、記録装置側に光を受光する構成が存在しているという点だけが形式的に共通するだけで、その余の相違点については何ら示唆しない。
甲第7号証は、光通信を利用してフィーダが保持されている保持部を特定するだけのものであり、光を利用している点が共通しているだけに過ぎない。
甲第8乃至10号証は、上記相違点との関係では、甲第1乃至3、6及び7号証以上のものを開示し或いは示唆するものではない。

○検出原理
甲第1号証は、インクカートリッジの誤装着を検出する構成を開示するが、「検出原理」が本発明と全く異なる。甲第1号証のものは、共通バス接続方式の採用の下、該共通バスを利用したデータ通信を利用したものであり、これは前述した本発明の検出原理とは全く異なる。このような検出原理の相違は、次に述べる発明の効果においても顕著に現れる。

○発明の効果
訂正発明1及び3は、上記相違点に係る構成を採用することで、液体インク収納容器が正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出することができるという効果を得られる。
甲第1号証の発明においても、全てのインクカートリッジが正しく装着された状態から一つのインクカートリッジを交換する場合は、誤ったインク色のインクカートリッジの装着を誤装着として検出できるものの、インクカートリッジが正しい装着位置に装着されているか否かを検出することができないため、複数のインクカートリッジが同時に取り外され、対応するインク色のインクカートリッジが装着位置を入れ間違えて装着された場合には、インクカートリッジが誤った装着位置に装着されていることを検出することができない。
訂正発明1及び3は、液体インク収納容器が正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出することができるため、複数の液体インク収納容器が同時に取り外され、対応するインク色の液体インク収納容器が搭載位置を入れ間違えて搭載された場合であっても、誤った搭載位置に搭載された液体インク収納容器を特定して誤装着を検出することができる。この点で甲第1号証の発明よりも格段に優れている。
なお、訂正発明1は、「液体インク収納容器」であるが、該請求項記載の特定の記録装置に装着されることを前提としたサブコンビネーションの発明である。サブコンビネーションの発明では、相手方との協働により特定の効果を発揮する場合があり、そのような効果はサブコンビネーションの発明の効果として評価されるべきである。そうでなければ、サブコンビネーションの発明は実質的に特許を受けることができない。
訂正発明1において、液体インク収納容器の搭載位置の検出は、記録装置と本発明(液体インク収納容器)との協働によるものであり、記録装置側の構成を必要とするが、液体インク収納容器が「発光部」や「制御部」を有していてはじめて実現されるものである。
したがって、液体インク収納容器の搭載位置の検出ができるという上記の効果は、訂正発明1の効果である。

(5) 小括
以上のことから、訂正発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定には該当しない。

3 無効理由3(特許法第36条第6項第1号)に該当しない理由
(1)「制御部」(審判請求書76頁乃至82頁)について
請求人は、訂正前の請求項1に記載の「発光部の発光を制御する制御部」及び訂正前の請求項5に記載の「前記発光部を発光させる制御部」に相当する構成が101号訂正明細書に記載されていないと主張する(訂正請求項1及び3にもこれらの構成は含まれる)。
しかし、これらの構成は、101号訂正明細書に制御素子(制御部)103、特に入出力制御回路103Aとして記載されている(101号訂正明細書の段落0034、0082-0084)。
請求人の主張は、101号訂正明細書においてLEDの点灯、点滅、消灯を制御しているのは記録装置側の制御回路300であり、インクタンク側の入出力制御回路103Aは自らLEDの点灯、点滅、消灯という発光を制御しているのではなく、制御回路300からの命令に従っているに過ぎず、「発光を制御する制御部」ではない、というものである。
しかし、101号訂正明細書の実施形態欄において、インクタンク1の入出力制御回路103Aは、インクジェットプリンタ200の制御回路300からの制御データに従ってはいるものの、入出力制御回路103Aの判断でLED101の状態を変化させており、入出力制御回路103Aが無ければLED101の状態は変化しない。
したがって、入出力制御回路103AはLED101を制御していると言える。また、他からの命令に従って制御対象を操ることが、「制御」に含まれない、と解する理由もない。
以上のことから、特許請求の範囲に記載の「制御部」は101号訂正明細書の実施形態欄に記載された事項である。

(2)「液体」(審判請求書82頁乃至85頁)について
訂正請求項1及び3では、「液体」を「液体インク」に訂正した。したがって、審判請求人の主張は失当である。

(3)小括
以上のことから、訂正発明1及び3に係る特許は無効理由3に該当しない。

4 無効理由4(特許法第36条第6項第2号)に該当しない理由

(1)「発光部」と「受光手段」との関係(審判請求書85頁乃至87頁)について
訂正請求項1では、「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」、「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」と規定しており、発光部と受光手段との関係、技術的関連性は明確である。

(2)「液体収納容器」自体で特定できないこと(審判請求書87頁乃至91頁)について
請求人は、訂正前の請求項1に係る発明は液体収納容器の発明でありながら、記録装置の構成もその要件に含んでいるため、その記載は不明である、あるいは、記録装置が特定の要件を備えているか否かによって「液体収納容器」が特定されるとすることは、発明の保護範囲の明示という点から不当である、と主張する。
問題点は、訂正請求項1についても同様であるが、以下に述べるように請求人の主張は理由がない。
請求人は、訂正前の請求項5については、記録装置と液体収納容器の関係が不明確であるとは主張していない。訂正前の請求項5を限定した訂正請求項3の構成が明確に理解できることは明らかである。
訂正発明1は、特定の記録装置と液体インク収納容器とを備えたコンビネーションの発明(訂正発明3)について、その中に含まれる液体インク収納容器を規定したサブコンビネーションの発明である。コンビネーションの発明(訂正発明3)が発明として明確なのであるから、そのサブコンビネーションの発明(訂正発明1)も明確なはずである。
しかも、保護範囲、つまり、発明の技術的範囲も以下に述べるように明確である。
このようなサブコンビネーションの発明は、特定の用途に使用する製品として販売され、あるいは特定の用途に使用される用途発明の場合と同様にみることができる。
つまり、請求項で規定された組合せ対象品と組み合わせて使用する製品として販売され、あるいは、その対象品と組み合わせて使用される場合に特許発明の範囲に属することになる。要するに、請求項で規定された組合せ対象品と組み合わされたときに、請求項記載の発明特定事項を具備するか否かによって技術的範囲に属するか否かが定まるのであって、明確性に欠けることはない。
とりわけ、インクタンクに代表される液体インク収納容器にあっては、それが適用可能なプリンタの存在を前提として設計・販売されるのであるから組合せ対象品は当初から明確であり、製品がサブコンビネーションの発明として規定された請求項に記載の発明特定事項を具備するか否かを判断することも容易である。
以上のとおり、訂正発明1は明確性に欠けることはなく、請求人の主張は理由がない。

(3)「互いに異なる位置に」が不明確であること(審判請求書91頁)について
請求人は、訂正前の請求項5における、複数の液体収納容器が「互いに異なる位置に」搭載可能である旨の記載は、液体収納容器の搭載位置は液体収納容器1個につき1つしかないから同一の位置に複数の液体収納容器が搭載されることはおよそ考えられないこと、「互いに」が何を指すのか不明であること、からいかなる意義を有するのか不明確であると主張する。
しかし、設定登録時の請求項5の「互いに異なる位置に搭載可能」及び訂正請求項3の「互いに異なる位置に搭載」との記載は、複数の搭載位置に複数の異なるインクタンクが搭載されることを、「互いに異なる位置」と表現しているだけである。つまり、それぞれのインクタンクが、他のインクタンクの位置とは異なる固有の位置を有しているから、各インクタンクの搭載位置につき誤装着という問題を生じ、搭載位置を検出する必要も生じるのである。
以上のことから、「互いに異なる位置に」との記載は不明確ではない。

(4)「個体情報に係る信号を発生するための配線」が不明確であること(審判請求書91頁乃至92頁)について
請求人は、訂正前の請求項5の「搭載される液体収納容器それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し個体情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」との記載に関し、「前記装置側接点に対して共通に電気的接続し」との記載が「配線」にかかるものと解される以上、「個体情報に係る信号を発生するための」という記載も「配線」に係るものと考えられ、そうとすれば配線が信号を発生することがあるのか、そうでないとすればいかなる技術的意義を有するのか、不明確であると主張する。なお、同記載は、訂正請求項3において「前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」に訂正されている。
しかし、「配線」自体が信号を発生しないことが明らかであることを踏まえれば上記記載の意味は、「前記装置側接点に対して共通に電気的接続」するのは「配線」であり、「信号を発生する」のは「電気回路」であり、容易に理解できる。
以上のことから、上記記載は不明確ではない。

(5)「複数の液体収納容器」が不明確であること(審判請求書92頁乃至94頁)について
請求人は、「複数の液体収納容器」については、その形状、大きさが限定されていないところ、本発明は誤装着防止という課題に対し、インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなくインクタンクの製造の効率化や低コスト化を図りつつ誤装着防止を実現するという効果を奏するものであるから、「複数の液体収納容器」は、上記の効果を奏するように全て同一形状であることが規定されていなければならないと主張する。
しかし、例えば、形状・大きさがAタイプである4種のインクタンクと、Bタイプである他の3種のインクタンクを使用する場合を考えると、少なくともタイプ毎には誤装着の可能性があり、しかも、誤装着を防止できればタイプ毎に形状等を同一としてインクタンクの製造の効率化や低コスト化が図れるので、搭載される全てのインクタンクが同一形状であることまでは規定されなければならないわけではない。
そして、本発明が誤装着を課題としている以上、容器が誤装着を生じえる構成であることは、請求項に直接的に記載しなくても当然に認識できるものである。
したがって、その形状等を具体的に記載しなくても、発明は不明確ではない。

(6)「個体情報」が不明確であること(審判請求書94頁乃至95頁)について
訂正請求項1及び3では、訂正前の「個体情報」を「色情報」に限定したので、発明は不明確ではない。

(7)「接点から入力される個体情報に係る信号」及び「前記接点から入力される前記個体情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する個体情報とが一致した場合」が不明確であること(審判請求書95頁乃至96頁)について
請求人は、「個体情報」が不明確ゆえ、上記記載が不明確と主張するが、上記の通り、訂正請求項1及び3では、訂正前の「個体情報」を「色情報」に限定したので、発明は不明確ではない。

(8)「液体収納容器位置検出手段」が不明確であること(審判請求書96頁乃至97頁)について
請求人は、訂正前の請求項5の「液体収納容器位置検出手段」は、明細書中にその文言も定義もなく、また、明細書にはLED101の発光を受光する第1受光部210及びインクタンクの装着位置を判断する制御回路300が開示されているが、このいずれか、または両方をあわせたものが「液体収納容器位置検出手段」に該当するのか、不明であると主張する。
訂正請求項3において、この手段は「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」と規定されており、101号訂正明細書記載の実施形態との対応関係においては、第1受光部210と制御回路300とをあわせた概念であることは明白である。

(9)「前記位置検出手段に投光するための発光部」が不明確であること(審判請求書97頁)について
請求人の主張は、「液体収納容器位置検出手段」が不明確であることを前提とするものであるが、上記の通り、該手段に対応する訂正請求項3の「液体インク収納容器位置検出手段」は明確であり、また、訂正前の請求項5の「前記位置検出手段に投光するための発光部」との記載も、訂正請求項3において「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」と規定したから、「発光部」が投光する対象も明確である。

(10)小括
以上のことから、訂正発明1及び3に係る特許は無効理由4に該当しない。

5 無効理由5(特許法第36条第4項)に該当しない理由
請求人は、訂正発明1の「受光手段」及び訂正発明3の「受光部」が、どのようにすれば隣接している位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受光せず、インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識できるのか、その実現手段が不明であるから、実施可能要件違反であると主張する。
しかし、この程度の実現手段は、当業者であれば技術常識から容易に理解できる。一例として、最も容易な方法は、受光手段の信号について適当な閾値を設けて、それ以上の光かそれ以下の光かで区別する方法である。隣接している位置からの光や、プリンタの周囲の光は、直接受光手段に向き合っているインクタンクからの光に比べて、数段その強さが落ちる。従って、適当な閾値を設定して、それより強いか弱いかで判断すれば、受光手段又は受光部に向き合ったインクタンクからの発光を、その他の光から区別することはたやすい。
以上のことから、訂正発明1及び3に係る特許は無効理由5に該当しない。

6 まとめ
以上のことから、訂正発明1及び3は、審判請求人が主張する無効理由1ないし5のいずれにも該当せず、訂正発明1及び3に係る特許は有効である。

第6 甲各号証の記載事項

1 甲第1号証(国際公開第02/40275号)の記載事項
(1)甲第1号証には、以下の記載が存在する。
ア 請求の範囲
(第1項)
印刷装置に装着されると共に識別情報を格納する記憶装置を有する印刷記録材容器を識別する識別装置であって、
前記記憶装置に格納されている識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段とを備える印刷記録材容器の識別装置。(45頁2行?6行)
(第2項)
請求の範囲第1項に記載の印刷記録材容器の識別装置はさらに、
前記判定手段によって、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器でないと判定された場合には、誤った印刷記録材容器が装着された旨を報知する報知手段を備える印刷記録材容器の識別装置。(45頁8行?11行)
(第4項)
請求の範囲第1項ないし請求の範囲第3項のいずれかに記載の印刷記録材容器の識別装置において、
前記印刷装置には複数の印刷記録材容器が既定の装着位置にそれぞれ装着されており、
前記判定手段は、前記各装着位置に装着されるべき印刷記録材容器と前記装着位置とを関連付ける装着位置情報を有し、前記装着された印刷記録材容器に装着されている記憶装置の識別情報と前記装着位置情報とに基づいて、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定することを特徴とする印刷記録材容器の識別装置。(45頁19行?46頁1行)
(第16項)
収容されている印刷記録材の種類に対応した識別情報を格納する記憶装置を有する複数の印刷記録材容器が装着される印刷装置における印刷記録材容器の交換制御装置であって、
印刷記録材の交換要求を検出する交換要求検出手段と、
前記交換の要求された印刷記録材を内包する印刷記録材容器を交換位置まで移動させる印刷記録材容器移動手段と、
前記交換位置に移動された前記印刷記録材容器の取り外しを検出すると共に、取り外しに続く印刷記録材容器の装着を検出する脱着検出手段と、
前記識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器が交換の要求された印刷記録材を内包する正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段とを備える印刷記録材容器の交換制御装置。(49頁26行?50頁10行)

イ 技術分野
本発明は、印刷装置における印刷記録材容器の識別技術に関し、さらに詳細には印刷記録材容器交換に際して正しい印刷記録材容器が装着されたか否かを識別する技術に関する。(1頁5行?7行)

ウ 発明の背景
複数色のインクカートリッジ(印刷記録材容器)を備えるカラープリンタにおいて、インクカートリッジの交換時におけるインクカートリッジの誤装着、すなわち、交換されるべきインク色とは異なるインクカートリッジの装着、を防止するための技術が提案されている。例えば、インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変更し、誤ったインクカートリッジが物理的に装着できないようにする技術が知られている。
また、同一の外形形状を有するインクカートリッジを用いる場合には、一個のインクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設け、交換されるべきインクカートリッジを開口部まで移動させて、交換されるべきインクカートリッジのみの脱着を許容する技術が知られている。
しかしながら、インク色毎に異なる外形形状を有するインクカートリッジを用いる場合には、インクカートリッジを再利用する際にインク色毎にしかインクカートリッジを再利用することができず、リサイクル効率が悪いという問題があった。また、インクカートリッジの誤装着は防止できても交換を要しないインクカートリッジを誤まって取り外してしまうという問題は防止することができなかった。さらに、インク色毎にインクカートリッジ用の異なる金型を作成しなければならず、コスト高になるという問題があった。
インクカートリッジを所定の交換位置まで移動させる技術では、交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても、装着されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出することはできず、誤装着は防止できないという問題があった。(1頁10行?2頁4行)

エ 発明の開示
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、外形的な識別形状を用いることなく印刷記録材容器交換時における印刷記録材容器の誤装着を防止することを目的とする。また、交換されるべきでない印刷記録材容器の誤った取り外しを防止することを目的とする。(2頁7行?10行)
本発明の第3の態様は、印刷記録材の種類に対応する識別情報を格納する記憶装置を備えると共に前記印刷記録材の種類に応じて印刷装置上に既定の位置に装着される印刷記録材容器の識別方法を提供する。本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法は、前記印刷記録材容器の取り外しを検出し、前記取り外された印刷記録材容器が装着されていた装着位置を記憶し、前記印刷記録材容器の装着を検出し、前記記憶装置に格納されている識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器の印刷記録材の種類を識別し、前記装着された印刷記録材容器の装着位置と、前記装着された印刷記録材容器の印刷記録材の種類とに基づいて、正しい印刷記録材容器が装着されたか否かを判定しても良い。
本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法によれば、取り外された印刷記録材容器の装着位置と、記憶装置に格納されている識別情報を利用して、装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定するので、外形的な識別形状を用いることなく印刷記録材容器交換時における印刷記録材容器の誤装着を検出することができる。
本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法において、誤った印刷記録材容器が装着されたものと判定した場合には、誤った印刷記録材容器の装着を報知しても良い。(6頁11行?7頁1行)

オ 発明を実施するための最良の形態
[第1実施例]
図3はカラープリンタ10の制御回路30の内部構成を示す説明図である。(15頁4行?5行)
制御回路30は、パーソナルコンピュータPCから受信した制御信号に従ってプリンタ10の各部の動作を制御する。(16頁19行?20行)
制御回路30の内部構成について、図3を参照して説明する。制御回路30には、CPU31、PROM32、RAM33、インクカートリッジCA1?CA4に備えられた記憶装置、紙送りモータ105やキャリッジモータ103等とデータのやり取りを行う周辺機器入出力部(PIO)34、タイマ35、駆動バッファ36等が設けられている。駆動バッファ36は、インク吐出用ヘッドPN1?PN4にドットのオン・オフ信号を供給するバッファとして使用される。(17頁2行?7行)
制御回路30は、インクカートリッジCAの交換時には、取り外されたインクカートリッジと新たに装着されたインクカートリッジCAとが同一のインク種を内包するインクカートリッジであるか否かを識別する。(中略)制御回路30によって実行される詳細なインクカートリッジの識別処理の流れについては、以下に説明する。(17頁12行?18行)
各記憶装置20、21、22、23は、図5に示すようにインクジェットプリンタ用の4色のインクカートリッジCA1、CA2、CA3、CA4それぞれ備えられているものとする。(18頁1行?3行)
各記憶装置20、21、22、23のデータ信号端子DT、クロック信号端子CT、リセット信号端子RTは、データバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている(図4および図7参照)。パーソナルコンピュータPCとデータバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBとは、データ信号線DL、クロック信号線CL、リセット信号線RLを介して接続されている。(18頁8行?13行)
記憶装置20は、メモリアレイ201、アドレスカウンタ202、IDコンパレータ203、オペレーションコードデコーダ204、I/Oコントローラ205および工場設定ユニット206を備えている。(20頁17行?19行)
IDコンパレータ203は、クロック信号端子CT、データ信号端子DT、リセット信号端子RTと接続されており、データ信号端子DTを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモリアレイ201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定する。(中略)IDコンパレータ203は、両識別データが一致する場合には、アクセス許可信号ENをオペレーションコードデコーダ204に送出する。(21頁13行?24行)
オペレーションコードデコーダ204は、アクセス許可信号ENが入力されると、取得した書き込み/読み出しコマンドを解析してI/Oコントローラ205に対して書き込み処理要求または読み出し処理要求を送出する。(22頁3行?6行)
I/Oコントローラ205は、データ信号端子DT、メモリアレイ201と接続されており、オペレーションコードデコーダ204からの要求に従ってメモリアレイ201に対するデータ転送方向ならびにデータ信号端子DTに対する(データ信号端子DTと接続されている信号線の)データ転送方向を切り換え制御する。(22頁9行?13行)
パーソナルコンピュータPCは、既述のようにカートリッジアウト信号COOに基づいてインクカートリッジCA1が装着されるまで待機し(ステップS220:No)、インクカートリッジCA1が装着されると(ステップS220:Yes)、インクカートリッジCA1の記憶装置20が保有する識別データに対応する識別データをデータバスDB上に送信する(ステップS230)。
パーソナルコンピュータPCは送信した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステップS240)。すなわち、装着されるべきインクカートリッジCA1が装着されている場合には、送信された識別データに対応する識別データを保有する記憶装置20が応答し、誤ったインクカートリッジCAが装着されている場合には、いずれの記憶装置も記憶装置20に対応する識別データに対して応答することができない。パーソナルコンピュータPCは、応答がない場合には(ステップS240:No)、誤ったインクカートリッジCAが装着されている旨を報知し(ステップS250)、ステップS220に戻り、再度、正しいインクカートリッジCAの装着を検出する。誤ったインクカートリッジCAの装着の報知は、例えば、操作パネル13上配置されているランプLMを点滅させても良い。(26頁21行?27頁10行)

[第3実施例]
第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は、交換用開口部14を備えず、ユーザが任意のインクカートリッジCAを脱着可能なプリンタに適している。なお、第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は、交換用開口部14および交換対象となるインクカートリッジCAの移動を必要としないものの、第1実施例に係るインクカートリッジの識別装置に対して適用可能であるから、以下の説明では第1実施例に係るインクカートリッジの識別装置において用いた符号と同一の符合を用いるものとする。(31頁5行?11行)
第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は、インクカートリッジCA1?CA4の初期装着終了後、インクカートリッジCAが空になったとき等に実行される。(31頁14行?16行)
パーソナルコンピュータPCは、インク交換要求が発生したと判定した場合には(ステップS400:Yes)、インクカートリッジ特定処理を実行する(ステップS410)。本実施例では、ユーザによって任意のインクカートリッジCAが脱着され得るので、取り外されたインクカートリッジCAが、交換を要求されたインクカートリッジCAと同一であるか否かを特定するためのインクカートリッジ特定処理が必要となる。(31頁25行?32頁4行)
パーソナルコンピュータPCは、先ず、交換を要求されたインクカートリッジCAを特定する(ステップS4100)。(中略)以下の説明では、説明の便宜上、インクカートリッジCA1の交換要求が発生したものとする。 パーソナルコンピュータPCは、カートリッジアウト信号COOの入力値COが1となるまで、すなわち、インクカートリッジCAが取り外されるまで待機する(ステップS4110:No)。かかる場合、パーソナルコンピュータPCは、どのインクカートリッジCAが取り外されたかまでは特定することはできず、いずれかのインクカートリッジCAの取り外しを待機することとなる。パーソナルコンピュータPCは、カートリッジアウト信号COOの入力値CO=1を検出すると(ステップS4110:Yes)、先に特定したインクカートリッジCA1に対応する識別データをデータバスDB上に送出する(ステップS4120)。
パーソナルコンピュータPCは、データバスDB上に送出した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステップS4130)。既述のように各インクカートリッジCA1?CA4の記憶装置20?23は、自己の保有する識別データと一致する識別データを受信しない限り応答しないので、識別データをデータバスDB上に送出することによって交換を要求されたインクカートリッジCA1が正しく取り外されたか否かを検出することができる。パーソナルコンピュータPCは、インクカートリッジCA1に備えられている記憶装置20からの応答を検出しない場合には(ステップS4130:No)、交換を要求されたインクカートリッジCA1が正しく取り外されたものと判定し、図16の処理ルーチンにリターンする。すなわち、以上の処理により、交換要求されたインクカートリッジCA1と取り外されたインクカートリッジCAとが同種のインクカートリッジCAであることが識別される。そして、次に、図15に示す処理ルーチンにて、装着されたインクカートリッジCAがインクカートリッジCA1と同種のインクカートリッジCAであるか否かを判定する。
一方、パーソナルコンピュータPCは、インクカートリッジCA1に備えられている記憶装置20からの応答を検出した場合には(ステップS4130:Yes)、全ての記憶装置20?23が保有する識別データに対応する識別データを順次、データバスDB上に送出する(ステップS4140)。かかる場合には、交換を要求されたインクカートリッジCA1以外のインクカートリッジCAが取り外されており、いずれのインクカートリッジCAが取り外されたかを特定する必要があるからである。
パーソナルコンピュータPCは、データバスDB上に順次、送出した識別データのうち、応答のなかった識別データに対応する記憶装置を備えるインクカートリッジCAを特定すると共に、実際に取り外されたインクカートリッジCAの情報として図示しないRAM上に一時的に格納する(ステップS4150)。パーソナルコンピュータPCは、誤ったインクカートリッジCAが取り外された旨を報知し(ステップS4160)、図16に示す処理ルーチンにリターンする。以上の処理によって、交換要求のあったインクカートリッジCA1に代わって実際に取り外されたインクカートリッジCAを特定(識別)することができる。このインクカートリッジ特定処理を実行することによって、取り外されたインクカートリッジCAと装着されたインクカートリッジCAとが同一種のインクカートリッジCAであるか否かを判定することができる。(32頁6行?34頁3行)
パーソナルコンピュータPCは、新たなインクカートリッジCAの装着を検出するまで、すなわち、CO=0を検出するまで待機する(ステップS420:No)。パーソナルコンピュータPCは、CO=0を検出すると(ステップS420:Yes)、インクカートリッジ特定処理において特定したインクカートリッジCAに対応する識別データをデータバスDB上に送信する(ステップS430)。
パーソナルコンピュータPCは、特定したインクカートリッジCA(あるいは、インクカートリッジCA1)に備えられている記憶装置(あるいは、記憶装置20)からの応答を検出した場合には(ステップS440:Yes)、新たなインクカートリッジCAが正しく装着されたものと判断し、本処理ルーチンを終了する。一方、パーソナルコンピュータPCは、特定したインクカートリッジCAに備えられている記憶装置からの応答を検出しなかった場合には(ステップS440:No)、先に取り外されたインクカートリッジCAと同種のインクカートリッジCAが装着されなかったものと判断し、誤ったインクカートリッジCAが装着された旨を報知し(ステップS450)、正しいインクカートリッジCAの装着を再度、試みる(ステップS410?ステップS440)。なお、誤ったインクカートリッジCAの報知は、第1実施例において説明した形態に準じて実行される。(34頁8行?25行)

[その他の実施例]
図21に示す実施例では、搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられている。インクカートリッジCAの交換時には、制御回路30は、キャリッジ101をインク交換位置19まで移動させた後、交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。(41頁17行?22行)
上記実施例では、パーソナルコンピュータPCによってインクカートリッジCAの識別処理が実行されているが、これら一連の処理をカラープリンタ20の制御回路30によって実行してもよい。かかる場合には、インクカートリッジCAの識別処理をカラープリンタ20単独で実行することができる。(43頁1行?4行)

カ 第2図、第21図の記載から、複数のインクカートリッジ(印刷用記録材容器)CA1ないしCA4が、移動するキャリッジ101の互いに異なる位置に搭載されていることが見て取れる。

(2) 甲第1号証(国際公開第02/40275号)に記載の発明
以上の記載から、甲第1号証には、
「複数のインクカートリッジ(印刷用記録材容器)を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと、
該インクカートリッジに備えられるデータ信号端子と電気的に接続可能なプリンタ側端子と、
各インクカートリッジに対応して設けられ、交換対象となるインクカートリッジを点灯して示すキャリッジ上のLEDと、
搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と接続され、インクカートリッジを識別するための識別データを送出するためのデータバスとを有し、交換対象となるインクカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯させ、その点灯結果に基づいて交換対象となるインクカートリッジを報知するカラープリンタのキャリッジに対して着脱可能なインクカートリッジであって、
前記データバスに接続可能な前記データ信号端子と、
インクカートリッジの識別データを格納するメモリアレイ、前記データ信号端子から入力される識別データと、前記メモリアレイに格納されている識別データとに応じて応答するIDコンパレータ等を備え、前記データ信号端子から入力される識別情報と、前記記憶素子(メモリアレイ)に格納されている識別情報とが一致する場合に、カラープリンタ側の制御回路に対して応答する記憶装置とを有し、
前記カラープリンタ側の制御回路は、前記応答がない記憶装置を備えるインクカートリッジを、装着されていないインクカートリッジとして検出するようになっているカラープリンタに対して着脱可能なインクカートリッジ。
」の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が開示されているものと認められる。

2 甲第2号証(特開2002-5818号公報)の記載事項
(1)甲第2号証には、以下の記載が存在する。
ア 【特許請求の範囲】
【請求項1】 外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、該エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより発光する発光手段とを有する立体形半導体素子。
【請求項4】 前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供給される、請求項1から3のいずれか1項に記載の立体形半導体素子。
【請求項5】 前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーは電力である、請求項1から4のいずれか1項に記載の立体形半導体素子。
【請求項6】 請求項1から5のいずれか1項に記載の立体形半導体素子が少なくとも1つ配されたインクタンク。
【請求項7】 請求項6に記載のインクタンクが搭載されるインクジェット記録装置であって、前記インクタンク内に配された前記立体形半導体素子の発光手段で発光され、前記インクタンク内に収容されたインクを透過した光を受光する受光手段を備えているインクジェット記録装置。
【請求項8】 複数の前記インクタンクの各々が、それぞれの前記インクタンク内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるように構成されており、前記光を受光した前記受光手段によって前記インクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザーに警告を発する手段を備えている、請求項7に記載のインクジェット記録装置。

イ 【発明の詳細な説明】
(ア)【発明の属する技術分野】
本発明は、外部からエネルギーが供給されると発光する立体形半導体素子に関する。(段落【0001】)
また本発明は、上記の立体形半導体素子が配されたインクタンク、および該インクタンクが着脱可能に搭載される、ファクシミリ・プリンター・複写機等に用いられるインクジェット記録装置に関する。(段落【0002】)
(イ)【従来の技術】
従来、記録ヘッドに設けた複数の噴射ノズルからインクを噴射させながら、記録ヘッドを搭載したキャリッジを印字方向に移動することで、画像をドットパターンで用紙に印字するようにしたインクジェット記録装置においては、記録用のインクを収容したインクタンクを設け、そのインクタンクのインクをインク供給路を介して記録ヘッドに供給するようにしている。そこで、そのインクタンクのインクの残量を検出するようにしたインク残量検出装置が実用に供されることについても、種々提案されている。(段落【0003】)
(ウ)【発明が解決しようとする課題】
上述した従来公報に代表するような、インクタンク内のインク残量を検出する構成が知られているが、このような構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要がある。また、電極間の導通状態によりインク残量を検知するため、インク成分に金属イオンを用いることができない等、使用するインクに制約が生じてしまう。また、上記の構成ではインク残量しか検知することができず、インクタンク内に収容されているインクの種類等のタンク内情報を知ることができない。(段落【0006】)
さらに、複数のインクを用いて印字するインクジェット記録装置では、インクを無駄なく使うために、各色ごとの複数のインクタンクを所定の位置に装着する場合がある。そのようなインクジェット記録装置では、ユーザーがインクタンクを不適切な位置に装着するのを防止するために、各色のインクタンクを異なる形状にし、不適切な位置では装着できないようにすることが一般的である。しかしながら、インクの色の数だけインクタンクの形状を異ならせることで、インクタンクのコストアップに繋がる場合があった。したがって、インクタンクの形状は同じでありつつ、誤装着を防止することが可能なインクタンクが望まれている。(段落【0007】)
上記のようなインクタンクを開発するにあたって、本発明者らは、直径1ミリのシリコン・ボールの球面上に半導体集積回路を形成するというボール・セミコンダクター社のボール・セミコンダクターに着目した。このボールセミコンダクターは球形であるため、これをインクタンク内に収容すれば、外部との情報のやり取りを平面形に比べて非常に効率良く行えることが予想された。しかしながら、このような機能を持つものを調査したところ、USP5877943号のようにボール・セミコンダクター同士を電気配線で接続する技術などが存在するだけで、上記の機能を持つ素子自体の開発が必要となった。また、この素子がインクタンクに有効に適用できるものである為には、クリアしなければならない課題もあった。課題の一つは、タンク内に収容された素子を起動させるための電力の供給である。素子の起動のための電源をインクタンクに持たせるとタンクが大型になったり、タンク外部に電源を備える場合でも電源と素子との接続手段が必要になり、タンクの製造コストが増え、タンクカートリッジが高価になるので、外部より非接触で素子を起動させねばならない。(段落【0008】)
本発明の目的は、インクタンク内に収容されているインクの種類等の検出に用いられる立体形半導体素子を提供することにある。(段落【0010】)
また、本発明の更なる目的は、上記素子が配されたインクタンク、および該インクタンクが搭載されるインクジェット記録装置を提供することにある。(段落【0011】)
(エ)【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の立体形半導体素子は、外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、該エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより発光する発光手段とを有する。(段落【0012】)
上記のように構成された本発明の立体形半導体素子では、外部からのエネルギーを供給すると、その外部エネルギーはエネルギー変換手段によってそれとは異なるエネルギーに変換される。立体形半導体素子の発光手段は、エネルギー変換手段によって変換されて生成したエネルギーによって発光する。エネルギー変換手段および発光手段が立体形の半導体素子に作り込まれており、3次元的にエネルギー伝達が可能なので、平板形の半導体素子を用いる場合と比べて、エネルギー伝達の方向の制限も少ない。このため、外部からのエネルギーの供給および光の放射を効率良く行うことができる。(段落【0013】)
一般に、インクジェット記録装置等において用いられるインクは、インク色ごとに光の吸収スペクトルが異なるので、インクを透過した光のある波長における強度を検出することによって、その光が透過したインクの色種類を判別することができる。したがって、立体形半導体素子で発光した光をインク中に透過させ、その透過光のある波長における強度を検出することにより、そのインクの種類を判別することが可能になる。(段落【0014】)
さらに、前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供給される構成とすることにより、素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせたり、エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要がなく、外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができる。(段落【0017】)
さらには、前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーは電力である構成としてもよい。この構成によれば、外部エネルギー変換手段として発振回路の導電体コイルを立体形半導体素子の外表面に巻き付けるように形成することにより、外部の共振回路との間で電磁誘導によって導電体コイルに電力を発生させて、素子に非接触で電力を供給することができる。(段落【0018】)
また、本発明のインクジェット記録装置は、上記本発明のインクタンクが搭載されるインクジェット記録装置であって、前記インクタンク内に配された前記立体形半導体素子の発光手段で発光され、前記インクタンク内に収容されたインクを透過した光を受光する受光手段を備えている。(段落【0020】)
さらに、複数の前記インクタンクの各々が、それぞれの前記インクタンク内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるように構成されており、前記光を受光した前記受光手段によって前記インクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザーに警告を発する手段を備えている構成としてもよい。これによれば、ユーザはインクタンクを適切な位置に装着し直すことができる。(段落【0021】)
(オ)【発明の実施の形態】
外部エネルギーの供給方法としては、インクジェット記録装置に用いられる場合、素子に外部エネルギーとして起電力を供給する手段は、回復ポジション、リターンポジション、もしくはキャリッジ、記録ヘッド等に設ければ良い。(段落【0028】)
本発明の立体形半導体素子を備えたインクタンクを搭載するインクジェット記録装置の構成例を図5に概略図で示す。図5に示されるインクジェット記録装置600に搭載されたヘッドカートリッジ601は、印字記録のためにインクを吐出する液体吐出ヘッドと、その液体吐出ヘッドに供給される液体を保持する図2?図4に示したようなインクタンクとを有するものである。また、該インクタンク内に配された立体形半導体素子へ外部エネルギーである起電力を供給する手段622や前記素子から放射された光を受光する手段(不図示)が記録装置600内に設置されている。(段落【0032】)
ヘッドカートリッジ601は、図5に示すように、駆動モータ602の正逆回転に連動して駆動力伝達ギヤ603および604を介して回転するリードスクリュー605の螺旋溝606に対して係合するキャリッジ607上に搭載されている。駆動モータ602の動力によってヘッドカートリッジ601がキャリッジ607ともとにガイド608に沿って矢印aおよびbの方向に往復移動される。(段落【0033】)。
図6において、外部共振回路101のコイルLaに隣接して、発振回路102の導電体コイルLを置き、外部共振回路101を通じてコイルLaに電流Iaを流すと、電流Iaによって発振回路102のコイルLを貫く磁束Bが生じる。ここで、電流Iaを変化させるとコイルLを貫く磁束Bが変化するので、コイルLには誘導起電力Vが生じる。したがって、球状シリコンにエネルギー発生手段としての発振回路102を作り込み、素子外部の例えばインクジェット記録装置に外部共振回路101を、素子側の発振回路102の導電体コイルLと素子外部の共振回路101のコイルLaとが隣接するように配設することにより、外部からの電磁誘導による誘導起電力で、素子を動作させる電力を発生することが出来る。(段落【0040】)
図7は、本発明の立体形半導体素子を用いたインクタンクの概略構成図である。この図で示す立体形半導体素子526は、インクタンク521内の生インク522の液面付近に浮遊しており、インクタンク521外の外部共振回路(不図示)によって電磁誘導による起電力を誘起させられ、立体形半導体素子526の表面に付近に配設されたフォトダイオードが駆動されることで、光を発する。その光は、インク522を透過し、インクタンク521の外部の光センサ550で受光される。(段落【0057】)
図8に、代表的なインク(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)の吸光波長を示す。図8からわかるように、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各色のインクは、300?700nmの波長帯において吸光率のピークが分散している。各色のインクの吸光率のピークは、イエローが約390nm、マゼンダが約500nm、ブラックが約590nm、シアンが約620nmである。そのため、300?700nmの範囲の波長を含む光を立体形半導体素子から発光させ、その光をインク中に透過させてインクタンク外にある光センサ550(図7参照)で受光し、どの波長が最も吸収されたかを検知することで、光が透過したインクの色が上記のうちのいずれであるかを判別することができる。(段落【0058】)
また、複数のインクタンクの各々が、それぞれのインクタンク内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるように構成されているインクジェット記録装置においては、インクタンク内のインクを透過した光を受光した光センサ550によってインクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザーに警告を発する手段が備えられていてもよい。この場合の警告手段としては、ランプ等の発光手段やブザー等の鳴音手段などを用いることができる。ユーザーは、警告手段による警告によってインクタンクを誤った位置に装着したことを知り、そのインクタンクを本来の位置に装着し直すことができる。(段落【0061】)
【図6】


【図7】


(2)甲第2号証に記載の発明
上記各記載によれば、甲第2号証には、「複数のインクタンクを搭載して移動するキャリッジと、前記インクタンクの発光手段からの光を受光する光センサを備えたインクジェット記録装置に対して着脱可能なインクタンクにおいて、前記光センサに投光するための光を発光する前記発光手段を有するインクタンク。」の発明(以下「甲第2号証発明」という。)が開示されているものと認められる。

3 甲第3号証(特開平11-286121号公報)の記載事項
インクタンク毎にプリントヘッドを設け、かつ、各インクタンクと各プリントヘッドとにそれぞれ、送信用・受信用のフォトダイオードセットを設け、これらの光通信によりインクタンクの誤装着を検出するものが開示されている。

4 甲第6号証(特開2001-293883号公報)の記載事項
「立体形半導体素子」と記載された、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子を用いて、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を取得し、立体形半導体素子とプリンタ本体側での通信を行う手段が開示されている。段落0047には、その通信を行う手段として光を用いてもよいことが記載されている。段落0062、0063には、インク残量に応じて浮遊する素子の位置が変わることを利用し、発光手段と受光手段を対向して設け素子の部分が光を通さないことにより位置を確認するもの、又は、素子へ光を投光してその反射光を受光して位置を確認するものを用いてインク残量を検知することが開示されている。

5 甲第7号証(特開平10-112598号公報)の記載事項
台車と部品を供給するフィーダとの情報通信に光通信を利用し、フィーダが保持されている台車上の保持部を特定するものが記載されている。

6 甲第8号証(特開2002-301829号公報)の記載事項
インクタンク又はキャリッジに、残量警告ランプをインクタンク毎に設けたインクジェット記録装置が開示されている。

7 甲第9号証(特開2002-5724号公報)の記載事項
「立体形半導体素子」と記載された、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子を用いて、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を取得し、立体形半導体素子とプリンタ本体側での通信を行う手段を開示している。
段落0046には、「情報伝達手段18は、...外部ヘインク内部情報を表示、伝達する。この伝達するためのエネルギーは磁界、光、形、色、電波、音などを使用することが可能であり...また、伝達先はインクジェット記録装置の通信回路150のみでなく、特に光、形、色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよい」と記載されている。

8 甲第10号証(特開平10-230616号公報)の記載事項
インク残量を検知するための発光部と受光部を備えた記録装置が開示されている。

9 甲第11号証(写真)から把握できる事項
CANON製プリンター PIXUS 6500i には、キャリッジの移動範囲の下方に、発光部及び受光部からなるプリズム式の残検センサー部が一つ設けられている。

10 甲第12号証(特開平11-263025号公報)の記載事項
インク用にキャリッジ内の交換可能インク・カートリッジのアイデンティティに基づいてプリンタ動作を制御するための装置において、前記プリンタ内を通る印刷媒体の移動に対して横方向に移動可能である、2つ以上のカートリッジ位置を含むキャリッジと、キャリッジ移動手段と、前記キャリッジに着脱自在に取り付けられたインク・リザーバ及び印刷ヘッドを含む2つ以上の交換可能インク・カートリッジと、前記カートリッジ上の少なくとも1つの指標装置であり、前記キャリッジのどのカートリッジ位置にどのインク・リザーバが取り付けられているかを前記コントローラに識別させる符号化された情報を含み、第1の光信号の反射或は吸収のための光学的反射画像及び光学的無反射画像を含み、前記第1の光信号の反射部分が第2の光信号を構成していることから成る指標装置と、光信号読取り装置であり、前記カートリッジが当該読取り装置に対して横方向に移動する際に前記指標装置上に符号化情報を読み取り、反射及び/或は吸収した光信号に応じて前記プリンタ・コントローラに電気的出力信号を生成する光信号読取り装置であり、前記指標装置を照射するために前記指標装置に向かって前記第1の光信号を放出するための発光ダイオードと、前記指標装置が当該光信号読取り装置に対して横方向に移動する際に前記指標装置上に前記第1の光信号を集束させるための少なくとも1つのレンズと、前記指標装置から反射された前記第2の光信号を受け取り、前記プリンタ・コントローラに前記電気的出力信号を作成するための検出器とを含むことから成る光信号読取り装置と、を備える装置が、開示されている(請求項6)。
また、異なるカラー・インクを含む複数カートリッジの場合、プリンタ・アルゴリズムは、異なる色の隣接カートリッジに対する、ある色のインク・カートリッジの位置も示すことができ、特定の色のインク・カートリッジがキャリッジ内の間違った位置に取り付けられた場合、プリンタ・コントローラ内のアルゴリズムを使用でき、プリンタをロックアウトし、間違ったカートリッジ位置をユーザに通知するか、或は特定のインク・カラーが必要とする動作パラメータに対応するように印刷ヘッド動作を調整することも記載されている(【0027】)。
図2から、検出器26が1つであることが見て取れる。

11 甲第13号証(新電子工作入門)の記載事項
甲第13号証には、図とともに以下の記載がある。
(1)「図8-3に本器のブロック図を示します。構成は、数字変化を行う信号のもとを作るパルス発生器、発生パルスを計数するカウンター部、カウンターの計数値をLED数字表示器に表示信号を伝えるデコーダー(解読器)/ドライバー(駆動器)部からなっています。」
(甲第13号証 173頁2?6行)

(2)「ドライバーとは、駆動機のことですが、LEDに大きな電流を流す必要があるため、ドライバー機能を持ったICが必要となります。」(甲第13号証 177頁1?3行)

12 甲第14号証(特開2003-291364号公報)の記載事項
インクジェット記録装置等の液体吐出記録装置で使用するのに好適な液体収納容器、及びその液体収納容器を識別可能な液体吐出記録装置、液体収納容器の識別方法に関し(【0001】)、フォトICチップの点光源31と受光素子32からなる検出装置を配置し(【0043】)、点光源31から照射された光(発散光)が液体収納容器の光透過性の反射体30を通り抜け、所定の角度にて形成されたルーフ状ミラー34の加工面にて2度の反射を行い、受光側(アレイ状の受光素子31)の任意の位置に略帯状の光として集光されて戻ってくるようにし(【0046】)、ルーフ状ミラー34を各々のインクタンクごとにパターン構成の異なるものとし、反射体からの反射光の光量分布における位置、幅、強度等のパターンの違いを利用することにより、色ごとの液体収納容器(インクタンク)を識別でき、液体収納容器をその収容液の色に対応する所定の位置に装着する液体吐出記録装置(インクジェット記録装置)において、別の色の位置への誤装着を検出できるようにしたこと(【0114】)が記載されている。

13 甲第15号証(特開2002-361890号公報)の記載事項
複数インクカートリッジをキャリッジ上に搭載するインクジェットプリンタにおいて、キャリッジの印字時移動範囲とホームポジションとの間にインク残量検知機構としての発光部及び受光センサ部を設け、インク残量の検知を行えるようにした構成が開示されている(【0024】)。

14 甲第16号証(特開2001-287381号公報)の記載事項
インクキャリッジの主走査方向に複数色のインクタンクをそれぞれ搭載し、1組の発光素子および受光素子とインクキャリッジとを互いに相対的に移動させて、インクキャリッジの主走査方向への移動にともない1組の発光素子および受光素子によって、インクタンクの有無、およびインクタンク内のインクの残量をそれぞれ順番通りに検出することが開示されている(【0017】)。

15 甲第17号証(特開2000-127444号公報)の記載事項
平行移動するキャリッジ101に搭載されるインクジェットヘッドカートリッジ301のタンクホルダ36内に複数のインクタンク30がしっかりと装着固定された状態でインクタンク30の下部のプリズム28がヘッドカートリッジ外部のセンサ25と対向した位置に来て、センサー25の発光部からタンク内に入射した光をプリズム28の第1の面で反射し、この反射光をプリズム28の第2の面でさらに反射してタンク外のセンサー25の受光部に入射させる光路が形成されて、インク残量の検知を正確行うことができるインクジェット記録装置。(段落【0002】、【0007】、【0057】?【0059】)

16 甲第18号証(キヤノン株式会社のホームページ)の記載事項
4 Q&A回答
Q PIXUS 6500i機種仕様
更新日:2011年11月28日
…(略)…
発売日 :2003/4/24

第7 当審の判断
1 訂正発明1及び3の課題
(1) 101号訂正明細書には、次のとおりの記載がある。
ア 「このようなプリンタでは、特に信号線の数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で、配線数を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが、単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成では、インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができないことは明らかである。」(段落【0009】)

イ 「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることにある。」(段落【0010】)

ウ 「以上の構成によれば、記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と、そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので、先ず、搭載される複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても、色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ、これにより、インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となる。次に、このようなインクタンクを特定した発光制御が可能な場合、例えば、キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて、その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに、上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより、発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる。これにより、例えば、ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ、結果として、インクタンクごとにその搭載位置を特定することができる。」(段落【0019】)

エ 「この結果、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行制御をすることが可能となる。」(段落【0020】)

オ 「第1受光部210は、インクタンク1のLED101からの発光を受けて、それに応じた信号を制御回路300へ出力する。制御回路300は、後述のように、この信号に基づき、それぞれのインクタンク1のキャリッジ205における位置を判断することができる。また、…エンコーダスケール209が設けられ…エンコーダセンサ211が設けられ…このセンサの検出信号は…制御回路300に入力し、これにより、キャリッジ205の移動位置を知ることができる。」(段落【0079】)

カ 「A番目のインクタンクが装着されていると判断したときは、…該当する色情報のインクタンク1のLED101を点灯する。…4つのインクタンク総てについて装着確認制御が終了し…総てのインクタンクについて、LED101の点灯がされたか否かを判断する。いずれかのインクタンクのLED101が点灯していないと判断したときは、ステップS302以降の処理を繰り返す。…総てのインクタンクのLEDが点灯したと判断したときは、…正常にインクタンクが装着されたか否かを判断する。装着が正常と判断したときは、…着脱処理が正常終了したか否かを判断する。…着脱処理が正常に終了したと判断したときは、…カバー201が閉じられたか否かを判断する。ここで、本体カバーが閉じられたと判断したときは、ステップS105の光照合処理に移行する。」(段落【0101】ないし段落【0107】)

キ 「光照合処理は、正常に装着されたインクタンクそれぞれが正しい位置に装着されているか否かを判断する処理である。本実施形態では、インクタンクの装着位置について、例えば、インクタンクと装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着できないような形状とし、それぞれの色のインクタンクに対応して装着位置を定めるような構成をとらないことから、それぞれの色のインクタンクについて本来の位置でないところに誤って装着される可能性がある。このため、本光照合処理を行い、誤って装着されている場合は、ユーザにその旨を知らせるものである。これにより、特に、インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなく、インクタンクの製造の効率化や低コスト化を図ることができる。」(段落【0108】)

ク 「図29(a)に示すように、先ず、第1受光部210に対して、図中左側から右側へ移動キャリッジ205を開始する。そして、最初に、イエローインクのインクタンク1Yが装着されるべき位置のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で、インクタンク1YのLED101を発光させる(図24にて説明したように、実際は点灯し所定時間後消灯すること、以下、本照合処理では同様)。インクタンク本来の正しい位置に装着されているとき、第1受光部210はLED101の発光を受光することができ、制御回路300は、その装着位置にはインクタンク1Yが正しく装着されていると判断する。
キャリッジ205を移動しつつ、同様にして、図29(b)に示すように、マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位置のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で、インクタンク1MのLED101を発光させる。同図に示す例は、インクタンク1Mが正しい位置に装着されていて第1受光部210はその発光を受光することを示している。順次、図29(b)?(d)に示すように、判断する装着位置を変えながら発光を行って行く。これらの図は、正しい位置に装着されている例を示している。
これに対し、図30(b)に示すように、マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位置にシアンインクのインクタンク1Cが誤って装着されているときは、第1受光部210に対向しているインクタンク1CのLED101は発光せず、別の位置に搭載されているインクタンク1MのLED101が発光する。この結果、このタイミングでは、第1受光部210は受光できないことから、制御回路300は、その装着位置にはインクタンク1M以外のインクタンクが装着されていると判断する。これに対応して、図30(c)に示すように、シアンインクのインクタンク1Cが装着されるべき位置にマゼンタインクのインクタンク1Mが誤って装着されており、第1受光部210に対向しているインクタンク1MのLED101は発光せず、別の位置に搭載されているインクタンク1CのLED101が発光する。
以上説明した光照合処理を行うことにより、制御回路300は本来の位置に装着されていないインクタンクを特定することができる。また、装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合には、その装着位置において、他の3色のインクタンクを順に発光させる制御を行うことによって、その装着位置に誤って何色のインクタンクが装着されてしまったかを特定することもできる。」(段落【0110】ないし段落【0113】)

(2)上記(1)のアないしエの記載によれば、訂正発明1及び3の課題は、キャリッジに複数の液体インク収納容器を搭載して使用する記録装置において、コストを低減するため、記録装置と液体インク収納容器との間の配線の方式に、全液体インク収納容器に共通の信号線を用いる共通バス接続の方式を採用した場合でも、各液体インク収納容器がインク色に従ってキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否かを検出することにある。
すなわち、共通バス接続の方式を採用した場合に、記録装置側からの要求に応じて、単純に液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしても、例えばイエローの液体インク収納容器とマゼンタの液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合には、それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけで、それ以上にどの搭載位置につき誤装着があるかを検出できないので、その余の構成を加えて、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものである。

(3)そして、上記(1)のオないしクの記載によれば、訂正発明1及び3の実施形態として、101号訂正明細書には次のものが記載されているものと認められる
「液体インク収納容器であるインクタンクのそれぞれに発光部であるLED101を1つずつ設け、
記録装置の本体側に第1受光部となる受光手段を1つ設け、
記録装置のキャリッジに、例えば4色で1組である4つのインクタンクをそのインクタンクのインク色に対応して決まっている箇所に装着し、装着されたインクタンクの接点(パッド)が本体側の接点(コネクタ)と当接して電気的に接続した状態で、
記録装置の本体側の制御回路300は、本体側の接点(コネクタ)へ1番目の色情報を指定する信号を出力し、各インクタンクの制御部は、記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続するインクタンクの接点(パッド)を介して本体側から入力される信号の1番目の色情報と、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報とを比較し、両色情報に基づいてそれらが一致したと判断した場合には、そのメモリアレイ103Bに記憶されている1番目の色情報を前記制御回路300に読み出させて、前記制御回路300は、メモリアレイ103Bに記憶されている1番目の色情報を読み出すことができた場合は、1番目のフラグF(1)を“1”にセットして当該インクタンクのLED101を発光させ、メモリアレイ103Bに記憶されている1番目の色情報を読み出すことができなかった場合には、1番目のフラグF(1)を“0”のままにしておき、2番目、3番目、4番目と、各色情報について同様の処理を順次行って、4つの色情報に対応する4つのフラグF(1)ないしF(4)がすべて“1”にセットされて総てのインクタンクのLED101が点灯したと判断した後に、
1番目の色情報が示すインク色のインクタンクが装着されるべきキャリッジの箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを移動させ、前記制御回路300から1番目の色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を出力し、各インクタンクの制御部は、本体側から入力される信号の1番目の色情報と、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報とを比較し、両色情報に基づいてそれらが一致したと判断した場合には、そのインクタンクのLED101を発光させるとともに、このとき、このLED101からの光は、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクがキャリッジの正しい箇所に装着されていれば前記第1受光部に受光され、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクがキャリッジの正しい箇所に装着されていなければ前記第1受光部に受光されないから、前記第1受光部がLED101からの光を受光したか否かを前記第1受光部からの出力が入力されている前記制御回路300が判断し、2番目、3番目、4番目と、各色情報について同様の処理を順次行って、前記第1受光部からの入力で発光が検出されなかった色情報が示すインク色のインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識し、装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合には、キャリッジのその装着されるべき位置に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを位置させておいて、他の3つの色情報について、色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を順に前記制御回路300から出力させて他の3つのインクタンクのうち、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報が本体側から入力される信号の色情報と一致するインクタンクを順に発光させ、前記第1受光部で発光したLEDからの光を受光したことを検出することによって、そのとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のインクタンクがその装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクであることを特定するようにして、インクタンクごとにその搭載位置を特定することができるようにしたもの。」

2 無効理由1及び2について
(1) 訂正発明1について
ア 対比
訂正発明1と甲第1号証発明とを対比する。
甲第1号証発明の「インクカートリッジ」及び「インクカートリッジに備えられるデータ信号端子」は、それぞれ、訂正発明1の「液体インク収納容器」及び「液体インク収納容器に備えられる接点」に相当するものと認められる。また、甲第1号証には、訂正発明1の「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」を備える点について明示の記載はないものの、「インクカートリッジに備えられるデータ信号端子」がキャリッジに設けられたデータバスに接続されていることからみて、キャリッジ側に対応する端子(接点)が設けられていることは当業者にとって自明であるから、甲第1号証発明は、「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」及び「前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点」を備えていると認められる。
甲第1号証発明の「データバス」は、各インクカートリッジのデータ信号端子と接続し、バス接続、すなわち、共通な電気的接続となっており、インクカートリッジ(の色)を識別するための識別データを送信するための配線を有した電気回路であると認められる。したがって、甲第1号証発明は、訂正発明1の「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」を備えていると認められる。
甲第1号証発明の「識別データ」は、インク色を示すものであるから、甲第1号証発明の「インクカートリッジの識別データを格納するメモリアレイ」は、訂正発明1の「液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」に相当するものと認められる。
したがって、訂正発明1と甲第1号証発明は、
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、
を有する液体インク収納容器。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

相違点1:
前記「記録装置」が、訂正発明1では、「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」の構成、及び、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」との構成を有するのに対して、甲第1号証発明ではこれらの構成を有しない点。

相違点2:
訂正発明1では、前記「液体インク収納容器」に「受光手段に投光するための光を発光する発光部」が備えられているのに対し、甲第1号証発明では、インクカートリッジ(液体インク収納容器)に、発光部が備えられておらず、プリンタ側のキャリッジに、交換対象となるインクカートリッジを報知するためのLED(発光部)が備えられており、また、訂正発明1では、前記「液体インク収納容器」に「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備えるのに対して、甲第1号証発明では、インクカートリッジ(液体インク収納容器)の記憶装置(制御部)は、プリンタとの接点から入力される識別情報(色情報)に係る信号と、メモリアレイの保持する前記識別情報(色情報)とが一致した場合に、応答信号をプリンタ側の制御回路に対して送り返す動作を制御するものの、上記記憶装置(制御部)においてプリンタ側のキャリッジ上のLED(発光部)を発光させるものではない点。

イ 判断
請求人は、記録装置に液体インク収納容器からの光を受光する受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置手段を設けることは、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証ないし甲第18号証の記載からみて、本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であり、また、甲第2号証に記載されているから、これらの技術を甲第1号証発明に適用することにより、甲第1号証発明において、訂正発明1と甲第1号証発明との相違点1及び2に係る構成となすことは、当業者にとって容易であったと主張する。
しかしながら、次の(ア)ないし(オ)のとおり、上記相違点1及び2に相当する構成は、甲第2、3、6ないし18号証に開示されているとは認められず、このほかに、上記相違点1及び2に相当する構成が本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、請求人のこの主張には理由がない。
(ア) 甲第1号証には、インクカートリッジ上に発光部を設ける構成に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しない。また、訂正発明1の「発光部」とは、単に光を発すれば足りるものではなく、「前記受光手段に投光するための光を発光する」ものである必要があり、訂正発明1では、インクタンクの本来装着されるべき位置が、プリンタに設けた受光手段に投光する位置にある状態で、当該インクタンクに設けた発光部を発光させ、その光を上記受光手段が受光することによって、前記液体インク収納容器の搭載位置の検出を実現するものであるから、訂正発明1において、発光の目的は重要な技術的意義を有するものと認められる。これに対し、甲第1号証発明におけるプリンタ側のキャリッジ上の発光部は、前記のとおり、交換対象となるインクカートリッジを(ユーザーに)報知するためのものであるから、訂正発明1における発光部とは、発光の目的を異にする。
これらの点からみると、甲第1号証発明における発光部と訂正発明1における発光部とは実質的に相違するというべきである。

(イ) 甲第2号証には、外部からのエネルギーをインクタンク内の立体形半導体素子に非接触で供給する構成が開示されているだけであり、上記立体形半導体素子とプリンタをつなぐための電気的に接続可能な接点に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しないものと認められる。甲第2号証に記載の発明は、従来の構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要があったため、インク成分に金属イオンを用いることができないなど、使用するインクに制約が生じてしまうという課題があることを解決するために、立体形半導体素子への外部エネルギーの供給を非接触で行う構成としたものであるから(段落【0006】、【0017】参照。)、立体形半導体素子とプリンタとを電気的につなぐための接点を設けることは、むしろ、上記発明の技術思想に反するものであるということができる。また、甲第2号証に記載の構成は、インク色ごとに光の吸収スペクトルが異なることに着目し、立体形半導体素子から一定の範囲の波長を含む光を発光させ、その光をインク中に透過させて、インクタンク外にある受光手段で受光させ、どの波長が最も吸収されたかを検知することで、当該インクの種類を判別するものであって(段落【0014】、【0020】、【0057】、【0058】参照。)、上記立体形半導体素子に当該インクタンクのインク色を示す色情報が保持されるものではないと認められるから、訂正発明1における「『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部』を光らせ、その光の受光結果に基づき、『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』によって、前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ような構成が甲第2号証に開示されているともいえない。したがって、甲第2号証に訂正発明1の「『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部』を光らせ、その光の受光結果に基づき、『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』によって、前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を備える発明が開示されているとは認められない。

(ウ) 甲第2号証に記載されたものは、前記(イ)のとおり、上記相違点1に相当する構成を有するものではなく、上記相違点2のうち、「インクタンク内に、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部を備える」構成も有しないと認められる。また、甲第2号証における発光部及び受光部と、訂正発明1における発光部及び受光部とは、これらを用いることにより当該インクタンク(訂正発明1においては、受光部に対向するインクタンク)の色情報を判別するための原理も、その果たす役割も、全く異なるものであるというべきことは、前記(ア)、(イ)のとおりであり、甲第2号証中に、訂正発明1における「『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部』を光らせ、その光の受光結果に基づき、『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』によって、前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成や技術思想を示唆する記載が存在しないことも、上記(イ)のとおりである。
したがって、甲第1号証発明に甲第2号証に記載の事項を組み合わせても、上記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であるということはできない。

(エ) 甲第9号証には、各インクタンク内に配置された、インクタンクの色ごとに応答条件が異なる通信機能を有する立体形半導体素子が、インクジェット記録装置側に設けられた通信回路と、外部と非接触の無線によって、インクタンクの色ごとに独立した通信を行うことが開示されていると認められる(上記「第6 7」の段落【0037】、【0039】、【0040】、【0044】?【0047】、【0050】、【0052】、図3等参照。)。
このように、甲第9号証には、インクタンク内の立体形半導体素子とインクジェット記録装置側とが、インクタンクの色ごとに独立した通信を行うことが可能な構成が開示されているものの、訂正発明1における、インクタンクの誤装着を検出する方法、すなわち、「『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部』を光らせ、その光の受光結果に基づき、『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』によって、前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しないものと認められる。
また、甲第9号証に記載の発明も、甲第2号証に記載の発明と同様、外部からのエネルギーをインクタンク内の立体形半導体素子に非接触で供給することを技術的特徴とするものであるから(段落【0006】、【0029】、【0033】及び【0034】参照。)、甲第1号証発明のように、立体形半導体素子とプリンタとを電気的につなぐための接点を設けることは、同発明の技術思想に反するものであるということができる。
したがって、甲第9号証に記載の発明を甲第1号証発明に組み合わせる動機付けはなく、また、甲第9号証には、相違点1に係る構成のすべて及び相違点2に係る構成のうち「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」及びこの制御部にその発光を制御される「受光手段に投光するための光を発光する発光部」に相当する構成については、開示されていないと認められるから、甲第1号証発明に甲第9号証に記載の構成を組み合わせても、訂正発明1に想到することが容易であるということはできない。
甲第6号証にも「立体形半導体素子」が記載されており、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子を用いて、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を取得し、立体形半導体素子とプリンタ本体側での通信を行う手段が開示されており、段落0047には、その通信を行う手段として光を用いてもよいことが記載されている。また、段落0062、0063には、インク残量に応じて浮遊する素子の位置が変わることを利用し、発光手段と受光手段を対向して設け素子の部分が光を通さないことにより位置を確認するもの、又は、素子へ光を投光してその反射光を受光して位置を確認するものを用いてインク残量を検知することが開示されている。
しかし、甲第2号証と同様に、甲第6号証に記載の発明を甲第1号証発明に組み合わせる動機付けはなく、また、甲第6号証には、相違点1に係る構成のすべて及び相違点2に係る構成のうち「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」及びこの制御部にその発光を制御される「受光手段に投光するための光を発光する発光部」に相当する構成については、開示されていないと認められるから、甲第1号証発明に甲第6号証に記載の構成を組み合わせても、訂正発明1に想到することが容易であるということはできない。

(オ) その他の公報について
請求人は、甲第3、7、8、10、12、14ないし17号証も挙げているが、いずれの公報にも、発光部、受光部等の構成が断片的に記載されているだけで、上記相違点1、2に係る構成は開示されていないと認められ、これらの公報の記載を総合しても、上記相違点1及び2に係る構成が周知技術であったと認めることはできない。
請求人は、甲第13号証も挙げているが、これには、LEDに大きな電流を流す必要があるためドライバー機能を持ったICが必要となることが開示されているだけであり、さらに、請求人が挙げている、甲第18号証により本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前に発売されたと認められるキヤノン株式会社製プリンタであるPIXUS 6500iには、その製品写真であることに当事者間で争いのない甲第11号証の写真からみて、キャリッジの移動範囲の下方に、発光部及び受光部からなるプリズム式の残検センサー部が一つ設けられているものと認められるが、これも甲第10、12、14ないし17号証の公報に記載されたものと同様にしてインク残量を検出するものであって、上記相違点1、2に係る構成は開示されていないと認められ、この残検センサー部を上記公報加えて総合しても、上記相違点1及び2に係る構成が周知技術であったと認めることはできない。

ウ まとめ
したがって、訂正発明1を、請求人が主張する無効理由1又は2により無効とすることはできない。

(2) 訂正発明3について
ア 対比
訂正発明3と甲第1号証発明とを対比する。
甲第1号証発明において、キャリッジに複数のインクカートリッジを装着したカラープリンタには、各インクカートリッジから収納しているインクが供給されることになるから、甲第1号証発明の「カラープリンタとインクカートリッジとからなるもの」は、訂正発明3の「液体インク供給システム」に相当する。
訂正発明3は、訂正発明1の記録装置及び液体インク収納容器を備える液体インク供給システムにおいて、キャリッジへの複数の液体インク収納容器の搭載を「互いに異なる位置に」するとともに、液体インク収納容器位置検出手段が備える受光手段を、液体インク収納容器位置検出手段の「位置検出用の受光部」とみなし、制御部が、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて制御する前記発光部の発光制御を、両色情報が一致した場合に前記発光部を発光させるものとしたものに相当するところ、甲第1号証発明は、「カラープリンタとインクカートリッジとからなり、各インクカートリッジから収納しているインクを供給するシステム」の発明でもあり、複数の液体インク収納容器を移動するキャリッジの互いに異なる位置に搭載するものであり、記憶装置は、前記データ信号端子から入力される識別情報と、前記記憶素子(メモリアレイ)に格納されている識別情報とが一致する場合に、カラープリンタ側の制御回路に対して応答するものであるから、訂正発明3と甲第1号証発明とは、
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置と、
前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と、を備える液体インク供給システムにおいて、
前記液体インク収納容器は、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と、
を有する液体インク供給システム。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

相違点3:
訂正発明3では、前記記録装置が、「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を有し、上記「受光部」は、「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わる」ように配置されているのに対し、
甲第1号証発明では、前記記録装置は、「液体インク収納容器位置検出手段」を有しておらず、液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部さえも備えていない点。

相違点4:
訂正発明3では、前記液体インク収納容器が、前記「液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部([相違点3]参照。)」に投光するための光を発光する「発光部」を有するとともに、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」も有しているのに対して、
甲第1号証発明では、インクカートリッジの記憶装置(制御部)は、プリンタとの接点から入力される色情報(識別情報)に係る信号と、記憶素子(メモリアレイ)に格納されている前記色情報(識別情報)とが一致した場合に、カラープリンタ側の制御回路に対して応答し、プリンタ側のキャリッジ上にLED(発光部)を備えているものの、上記インクカートリッジの記憶装置(制御部)においてプリンタ側のキャリッジ上のLED(発光部)を点灯させるものではない点。

相違点5:
訂正発明3では、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」のに対して、
甲第1号証発明では、応答がない記憶装置を備えるインクカートリッジを、装着されていないインクカートリッジとして検出するものの、インクカートリッジの搭載位置を検出することはできない点。

イ 判断
上記相違点3ないし5について検討する。
(ア) 甲第2号証に記載されている「液体インク収納容器」において、「記録装置」と「液体インク収納容器」の間の接続方式につき「共通バス接続方式」が採用されているかは不明であって、「共通バス接続方式」を採用した場合における「液体インク収納容器」の誤装着の検出という訂正発明3の技術的課題(上記1(2)参照。)は開示も示唆もされていないというべきである。そして、上記技術的課題に着目してその解決手段を模索する必要がないのに、記録装置側がする色情報に係る要求に対して、わざわざ訂正発明3のような光による応答を行う新たな装置(部位)を設けて対応する必要はなく、このような装置を設ける動機付けに欠けるものというべきである。
そうすると、甲第2号証に記載された事項は、解決すべき技術的課題の点においても既に訂正発明3と異なるものであって、共通バス接続方式を採用する甲第1号証発明に適用するという見地を考慮しても、訂正発明3と甲第1号証発明との相違点3ないし5に係る構成を想到する動機付けに欠けるものというべきである。
また、甲第2号証の「記録装置」において、「受光手段」が一つだけ設けられているかは不明であるから、上記「記録装置」において、「受光手段を一つだけ設け、キャリッジの移動により順次液体インク収納容器からの光の受光を行う」構成が採用されているとはいうことができない。
「複数の液体インク収納容器をキャリッジに装着して使用する記録装置において、記録装置側に発光部及び受光部を有する検知器を一つ設け、キャリッジで移動する液体インク収納容器の残量検知部が上記検知器に対向する位置に来たときに、上記検知器から発光する光を液体インク収納容器の残量検知部に照射(投光)し、返ってくる光を上記検知器で受光し、解析することにより、当該液体インク収納容器のインク残量を順次検出する」構成が公知であったとしても、また、101号訂正明細書の段落【0043】及び図9に、同様のインク残量検知器及び液体インク収納容器のインク残量検知部の構成が開示されていても、上記のインク残量検知器等の構成は、記録装置と液体インク収納容器との間の接続の方式のいかんにかかわらず適用し得る性格のものであって、訂正発明3が、共通バス接続方式下で液体インク収納容器の誤装着の問題解決を技術的課題としていることに対する適用可能性はないというべきであるから、当業者が、甲第2号証の構成の受光部側の構成のみを取り出してこれに代えて上述のインク残量検知器及び液体インク収納容器のインク残量検知部の構成を採用し、さらに甲第1号証発明に採用して上記相違点3ないし5に係る訂正発明3の構成となすことが容易想到であるとすることの裏付けとすることはできない。
甲第2号証には、「このような構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要がある。また、電極間の導通状態によりインク残量を検知するため、インク成分に金属イオンを用いることができない等、使用するインクに制約が生じてしまう。」(段落【0006】)と液体インク収納容器内の発光素子に液体インク収納容器外から有線で電力を供給することに難点がある旨の記載があるし、段落【0008】では外部から非接触で発光素子を起動する必要がある旨が、段落【0012】、【0013】では立体形半導体素子が外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換する手段を有し、変換されたエネルギーによって駆動する必要がある旨が、図6や段落【0018】、【0040】では立体形半導体素子のエネルギー変換手段として共振回路を用い、電磁誘導によって必要な電力を外部から得る構成がそれぞれ記載されているから(上記「第6 3(1)」参照。)、甲第2号証の立体形半導体素子が、専ら無線方式でプリンタと接続されることは明らかである。
そして、甲第2号証の段落【0017】には、「前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供給される構成とすることにより、素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせたり、エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要がなく、外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができる。」との記載(上記「第6 2(1)」参照。)は、立体形半導体素子を無線方式(非接触方式)で設けることのメリットに係るものであることが明らかで、上記記載は有線方式を排除した趣旨のものであるというべきである。
そうすると、甲第2号証には立体形半導体素子を有線の電気配線で記録装置側と接続する構成は記載されていないというべきであるし、前記のとおりの訂正発明3の構成等との相違に照らせば、甲第1号証発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を、甲第2号証の発光部の発光による伝達に置き換える動機付けは存しないというべきである。
したがって、甲第1号証発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を、甲第2号証の発光部の発光による伝達に置き換えることは当業者が容易に想到し得ることであるなどとすることはできない。
また、甲第1号証の記録装置及び液体インク収納容器は、共通バス接続方式の下で、液体インク収納容器が誤りなく装着されているか否かを検出するための機構を備えているものであるが、記録装置の識別装置は電気配線を通じて液体インク収納容器からインク色等に係る情報(信号)を取得するだけで、訂正発明3のような、光を利用して液体インク収納容器の識別を行う構成は開示も示唆もされていないというべきである(なお、甲第1号証の記録装置のキャリッジ上に備えられているLED(甲第1号証41頁17?22行)は、液体インク収納容器を交換する際に、交換すべき液体インク収納容器の搭載位置をユーザに視覚を通じて指し示すものにすぎず、その機能はあくまで受動的なものである。上記LEDは訂正発明3の発光部のように、能動的に液体インク収納容器の異同を検出・識別するために動作するものではない。)。

(イ) その他の公報について
請求人は、甲第3、6ないし10、12ないし17号証も挙げ、さらに、甲第18号証により本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前に発売されたと認められるキヤノン株式会社製プリンタであるPIXUS 6500iの製品写真であることに当事者間で争いのない甲第11号証の写真も挙げているが、これらを総合しても、上記(1)と同様に、上記相違点3ないし5に相当する構成は、これらに開示されているとは認められず、このほかに、上記相違点3ないし5に相当する構成が本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったことを認めるに足りる証拠もない。

ウ まとめ
したがって、訂正発明3を、請求人が主張する無効理由1又は2により無効とすることはできない。

3 無効理由3ないし5について
(1) 無効理由3(サポート要件違反)について
ア 請求人は、訂正発明1のインクタンクに備えられている「前記発光部の発光を制御する制御部」(構成要件1E’)及び訂正発明3のインクタンクに備えられている「前記発光部を発光させる制御部」(構成要件3E’)に相当する構成が101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するとともに、「入出力制御回路103A」は、自らLEDの点灯、点滅、消灯という発光を制御しているのではなく、制御回路300から送られてくる、LEDの点灯、点滅、消灯についての制御コードのデータ信号を取り入れ、LEDに対して制御回路300の命令の通りに信号を発するだけであり、「発光部の発光を制御する制御部」「発光部を発光させる制御部」という語義からは当業者が到底理解できない機能を有するに過ぎない。被請求人は、発光対象インクタンクの特定のための色情報の一致判断や制御回路300の命令の通りの信号発信をもって「制御」と解しているかのごとくであるが、自律的なコントロール機能という「制御」の語義から考えて、そのような無理な解釈を取ることは不可能であるなどと主張する。

イ 101号訂正明細書の段落【0082】には「一方、各インクタンク1の基板100には、これら4本の信号線の信号によって動作する制御部103およびそれによって動作するLED101が設けられている。」と記載されており、図20には、インクタンク1K、1C、1M、1Yのそれぞれに制御部103が設けられていることが記載されている。また、101号訂正明細書の段落【0083】には「制御部103は、入出力制御回路(I/O CTRL)103A、メモリーアレイ103BおよびLEDドライバ103Cを有して構成される。入出力制御回路103Aは、本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して送られてくる制御データに応じて、LED101の表示駆動やメモリーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制御する。」と記載されており、図21には、基板100に制御部103とLED101が設けられ、制御部103には入出力制御回路103A、メモリアレイ103B及びLEDドライバ103Cが設けられていることが記載されている。

ウ してみると、101号訂正明細書及び図面に記載されている「本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して送られてくる制御データに応じて、LED101の表示駆動などを制御する入出力制御回路103A」又は「該入出力制御回路103A及びLEDドライバ103Cを有して構成され、各インクタンク1の基板100に設けられ、4本の信号線の信号によって動作する制御部103」が、訂正発明1の「液体インク収納容器」が有する「発光部の発光を制御する制御部」及び訂正発明3の「発光部を発光させる制御部」の裏付けとなることが明らかである。

エ 以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由3によって、訂正発明1及び3は101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえず、訂正発明1及び3は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(2) 無効理由4(明確性要件違反)について
ア(ア)物の発明のクレームの記載において、その「特許請求されている物」自体の構造、動作を特定するのではなく、関連する「他の物」の構造や動作により「特許請求されている物」を特定する記載表現を用いることが直ちに請求項の記載を不明確なものとする訳ではなく、そのことにより、請求項に係る発明が明確でない場合にはじめて明確性要件違反に該当するといえる。
(イ)請求人は、訂正発明1の「液体インク収納容器」が、「記録装置」も構成に含まれているため、「液体収納容器」自体で特定できない、訂正発明1及び3の「発光部」と「受光手段又は受光部」との関係が不明確であるなどと主張する。
(ウ)「液体インク収納容器」は、記録装置本体に装着して印刷などに用いるものであるが、「液体インク収納容器」と「記録装置本体」とは別々にも販売され、特に、交換用の「液体インク収納容器」は、記録装置とは別に単独で販売されるものであるところ、どんな「液体インク収納容器」であっても、どの「記録装置本体」にでも装着して用いることができる訳ではなく、「液体インク収納容器」の種類と「記録装置本体」の種類とが対応するもの同士を組み合わせて利用するものであることは一般常識である。
(エ)上記1の(2)、(3)及び上記(ウ)からみて、訂正発明1の「液体インク収納容器」は、「記録装置本体」との関係において、サブコンビネーション発明といえるものである。
(オ)訂正発明1及び3は、上記1(2)の「キャリッジに複数の液体インク収納容器を搭載して使用する記録装置において、コストを低減するため、記録装置と液体インク収納容器との間の配線の方式に、全液体インク収納容器に共通の信号線を用いる共通バス接続の方式を採用した場合に、記録装置側からの要求に応じて、単純に液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしても、例えば黄色の液体インク収納容器とマゼンタの液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合には、それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけで、それ以上にどの搭載位置につき誤装着があるかを検出できない」という課題を解決するために、その余の構成を加えて、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものであり、上記1(3)の実施形態から明らかであるが、訂正発明1及び3は、「液体インク収納容器」と「記録装置本体」とにそれぞれその余の構成を加えて、それぞれその余の構成が加わった「液体インク収納容器」と「記録装置本体」とを組み合わせて使用することによって、上記課題が解決されるものである。
(カ)したがって、訂正発明1及び3の「液体インク収納容器」と、これと組み合わせて印刷等に利用する「記録装置」とを、互いの構成の相互の関係である「受光手段(又は受光部)に投光するための光を発光する発光部」及び「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段(又は受光部)」といった表現(訂正請求項3の「液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部」が「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光部」を意味するものであることは明らかである(調書参照。))で特定すること自体が明確でないといったことはなく、「投光するための光を発光する」と「液体インク収納容器の発光部からの光」との関係が不明確であるということはなく、上記1(2)の課題や上記1(3)の実施形態からみて、装着されたそれぞれのインクタンクのLED101が発光した光が所定のタイミングで第1受光部に投光され、所定のタイミングで第1受光部がその光を受光できればよいのであって、受光時における、発光部と受光手段(又は受光部)との具体的位置関係をそれ以上に特定しなければならないことはない。また、そのようなことを「受光手段(又は受光部)に投光するための光を発光する発光部」と表現したことを明確でないとまではいえない。「液体インク収納容器」の構成である「発光部」から発せられた光が「記録装置」側の構成である「受光手段」(又は受光部)に投光されるか否かを、「液体インク収納容器」のみで直接的に特定することは困難であるので、「液体インク収納容器」がそのキャリッジに搭載される「記録装置」側の構成を特定することで、「液体インク収納容器」を間接的に特定した点を問題にして明確でないとはいえない。

イ(ア)請求人は、訂正発明3の「互いに異なる位置に」が不明確である旨主張する。
(イ)しかし、請求人の主張において、例えば黄色の液体インク収納容器とマゼンタの液体インク収納容器の搭載位置が異なっていることを「互いに異なる位置に」と表現することを不明確という根拠はなく、複数の液体インク収納容器のそれぞれが固有の位置を有していることが必要であるとの根拠もなく、訂正発明3が4色以上もの液体インク収納容器を用いなければならない根拠もなく、「互いに」が2つのものの相互の関係についてしか使用できない用語であるとの根拠もないから、請求人の主張する理由により、訂正発明3の「互いに異なる位置に」が不明確であるとまではいえない。

ウ(ア)請求人は、訂正発明1及び3の「色情報に係る信号を発生するための配線」が不明確である、訂正発明1及び3の「複数の液体インク収納容器」が不明確である、訂正発明1の「受光手段」、訂正発明3の「受光部」及び訂正発明1及び3の「液体インク収納容器位置検出手段」が不明確であるなどと主張する。
(イ)しかし、「前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」の記載を、「前記装置側接点に対して共通に電気的接続し」、「色情報に係る信号を発生するための」、「配線を有した電気回路」と読み、一般常識に基づいて、「配線を有した電気回路」のうち、「前記装置側接点に対して共通に電気的接続」する働きはその「配線」が担い、「色情報に係る信号を発生する」働きは「電気回路」が担っていると理解することが素直であり、そうすると、101号訂正明細書の発明の詳細な説明の記載とも矛盾が生じないから、「信号を発生」が「配線」のみにかかると解釈しなければならない根拠はない。
また、「複数の液体インク収納容器」とは文字通り理解すれば明確であり、訂正請求項1と訂正請求項3とは引用関係にないので、必ずしも両請求項間で用語を統一して使用しなければならない理由はなく、請求人が主張するその他の理由も訂正発明1及び3が不明確であるといえるまで根拠がない。
エ 以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由4によって、訂正発明1及び3は特許を受けようとする発明が明確でないとまではいえず、訂正発明1及び3は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(3) 無効理由5(実施可能要件違反)について
ア(ア)請求人は、101号訂正明細書の記載からは、誤装着されているインクタンクの位置が正しい装着位置と隣接している場合、どのようにすれば隣接している位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受光せず、インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識できるのか、その実現手段が不明である。何らの手段も講じなければ、プリンタ装置側の受光手段は、プリンタの使用環境に存在する周囲の光、少なくとも隣接位置からの発光は受光してしまうはずである。訂正発明1及び3に係る特許の「キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて、その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに、上記処置の位置での発光を検出するようにすることにより、発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる。」という効果を達成するためには、受光手段が特定のインクタンクの発光部からの発光のみを受光するように何らかの構成を付加することが不可欠である。しかしながら、訂正発明1及び3はそのような構成を設けることなく特許請求されている。しかし、いずれも、その実現手段が明らかにされていない。
したがって、101号訂正明細書は、隣接位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受光しないようにするための手段が不明であるから、当業者が訂正発明1及び3を実施できるように明確かつ十分に発明の実現手段が開示されているとはいえず、その点から見ても実施可能要件を満たさないものであるなどと主張する。
(イ)しかし、上記(1)ウで述べたとおり、訂正発明1では、「受光手段」は「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する」ものであり、訂正発明3では、「位置検出用の受光部」は「液体インク収納容器からの光を受光する」ものであって、「液体インク収納容器」は前記受光部に投光するための光を発光する発光部を有するものであるから、訂正発明1及び3には、受光手段又は受光部が発光部からの発光を受光できるようにされているものである。
したがって、訂正発明1及び3において、液体インク収納容器に存在する「発光部」と、液体インク収納容器がそのキャリッジに装着される記録装置に存在する「受光手段」や「受光部」とは、液体インク収納容器が「記録装置のキャリッジ」に装着された状態で、キャリッジが所定の位置にあるときに「発光部」が発光すると、その発光による光が「記録装置」側の「受光手段」に到達するような位置に、それぞれが配置されていることが特定されていると解される。
そして、101号訂正明細書の【0038】、【0042】、【0045】、【0046】、本件図面の図4、図8、図9、図11に記載されているように、所定の方向に光軸を有する光を投光するようになせば、受光部に光を導く構成を採ることは可能であり、誤装着されているインクタンクの位置が正しい装着位置と隣接している場合でも、隣接している位置から発光した光は「受光手段」又は「受光部」で受光せず、インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識できることが、当業者に自明である。また、101号訂正明細書の【0047】及び本件図面の図12(a)に記載されているように、第1発光部101が発する光を所要の位置に向けて導くための光ファイバなどの導光性部材154を配設しても、同様に、隣接している位置から発光した光は「受光手段」又は「受光部」で受光せず、インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識できることが、当業者に自明である。

イ 以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由5によって、訂正発明1及び3は、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、訂正発明1及び3は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(4)まとめ
したがって、請求人が主張する上記無効理由3ないし5により、訂正発明1及び3を特許法第123条第1項第4号により無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、訂正発明1及び3についての特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-07-12 
出願番号 特願2004-330952(P2004-330952)
審決分類 P 1 123・ 537- Y (B41J)
P 1 123・ 536- Y (B41J)
P 1 123・ 121- Y (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 鈴木 秀幹
星野 浩一
登録日 2006-04-14 
登録番号 特許第3793216号(P3793216)
発明の名称 液体インク収納容器、液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジ  
代理人 門松 慎治  
代理人 高柳 司郎  
代理人 松本 孝  
代理人 吉村 誠  
代理人 大塚 康弘  
代理人 西川 恵雄  
代理人 黒田 健二  
代理人 長尾 達也  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  

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