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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1262418
審判番号 不服2009-16318  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-03 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2004-248069「通電加工食品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 9日出願公開、特開2006- 61084〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年8月27日の出願であって、平成21年1月19日付け拒絶理由通知に対して、同年3月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月29日付けで拒絶査定され、これに対し、同年9月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正書が提出され、同年10月16付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。その後、平成24年1月16日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、平成24年3月16日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年9月3日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月3日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.平成21年9月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正により、本願の請求項1は、補正前の平成21年3月27日付け手続補正書により補正された、
「内部に一対の電極を対設する容器に、0?50℃の、水または0.02M以下の電解質溶液と共に、電解質を含む食品材料を、該電極に接触させることなく、かつ該水または該電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、該食品材料から該水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上となる条件下で、該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法。」
から、
「内部に一対の電極を対設する容器に、0?50℃の、水または0.02M以下の電解質溶液と共に、電解質を含む畜肉材料を、該一対の電極の夫々と該食品材料との距離が1?10cmとなる状態、かつ該水または該電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、該食品材料から該水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上かつ印加電圧が100?500Vとなる条件下で、該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法。」
と補正された。
(下線部は対応する補正箇所を明示するため当審で付加した。)

2.補正の適否
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「食品材料」を「畜肉材料」と限定し、同じく「電極に接触させることなく」を「一対の電極の夫々と該食品材料との距離が1?10cmとなる状態」と限定し、同じく「前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上となる条件下」について、「前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上かつ印加電圧が100?500Vとなる条件下」と限定するものであり、当該限定事項は、出願当初の本願明細書の【0012】、【0019】、【実施例4】(【0034】)、及び【0024】にそれぞれ記載されている。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか検討する。

3.独立特許要件について
3-1 引用刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭61-132137号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「塩分を均等に混入した生の水産動物の摺り身材料或は畜肉の練物材料又はこれらを混合した混合材料を通電包装体内に充填収納せしめると共に、前記通電包装体は絶縁性容器内に収容され、しかも上記材料の含塩濃度よりも薄い塩分濃度の稀塩液中に冠水状態のもとに収納せしめて通電作用により材料を熟熱殺菌処理したことを特徴とする通電加工食品の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(1b)「そこで本発明は、従来公知の方法の如く、包装容器の形状を限定したり、或は一対の電極板をいちいち包装容器の両端側に設けた食塩水接電体に圧接させる作業を行わなくても、単に塩分処理を施した材料を任意形状の通電用包装体内へ収納し、得られた多数の通電用包装体を、絶縁性容器内に収容され、しかも材料の塩分濃度よりも薄い塩分濃度の稀塩液中に任意の状態のもとに収納せしめた後、通電作用を施すことで、電流が常に稀塩液を通電媒体として塩分濃度の濃い材料中を均一かつ正確に通電できるようにして、熟熱殺菌処理し、もって少ない電力と簡単な操作で任意形状の、しかも食味良好な被包した通電加工食品を量産することができる通電加工食品の製造方法を提供したことで上記問題を解決したものである。」(2頁左上欄6行?右上欄1行)
(1c)「上記技術的手段は次のように作用する(第1図および第2図参照)。すなわち、通電が良好に営まれるように塩分を均等に混入した生の水産動物の摺り身材料、或は畜肉の練物材料又はこれらを混合した混合材料等からなる材料Aを多量に用意する。次いで上記材料Aを通電包装体1内に充填収納せしめて材料Aが収容された任意形状の通電包装体1を多数設ける。次いで得られたこれら多数の通電包装体1を、絶縁性容器3内に収容され、しかも上記材料Aの含塩濃度よりも薄い塩分濃度の稀塩液B中に任意の状態のまま冠水状態となるように順次投入する。さすれば投入された多数の通電包装体1は、各通電包装体1間の隙間が稀塩液Bで満たされるので通電包装体1は互いに密着することなく収納される。以上のようにして多量の通電包装体1が冠水状態のもとに収納されたら、絶縁性容器3の対向面側に亘り通電作用を施せば、電流は稀塩液Bを通電媒体として、塩分濃度の濃い塩分を含んだ材料A中を均一に流通して発生したジュール熱で短時間内に熟熱殺菌処理せしめ、食味良好な通電加工食品を一度に製造することができる。」(2頁左下欄2行?右下欄3行)
(1d)「1は、塩分処理が施された材料Aを充填収納させるための通電包装体であって、該通電包装体1は全体を通水性および導電性に富む材料により一側を開放した袋状又は両側を開放した横長筒状、その他任意の形状に成形されており、上記通電包装体1内には材料Aを任意量充填収納して、その開放部を任意の締付2により結んで閉塞せしめる。
Bは、材料A中に含有された塩分濃度よりも薄い塩分濃度例えば0.25%以下の稀塩液であって、該稀塩液Bは適宜形状からなる絶縁性容器3内に適当量収容される。上記の絶縁性容器3は上面を開放した有底筺状に形成され、しかも絶縁性容器3内の対向壁4,4側には、抜き差し自在となるように挿入位置せしめた一対の電極板5,5と通液性絶縁材料からなる一対の隔離板6,6を順次配設せしめて、塩分濃度の濃い塩分を含有せしめた材料Aを充填収納した任意形状の通電包装体1を多数、稀塩液B中へ冠水状態のもとに収容した後、一対の電極板5,5間に亘り通電を施せば、電流は稀塩液Bを通電媒体として通電包装体1を通し材料A中を円滑かつ均一に流れ発生したジュール熱例えば95℃で速かに材料Aを熟熱殺菌処理し、食味良好な通電加工食品を製造することができる。」(3頁左上欄1行?右上欄4行)
(1e)「7は、絶縁性容器3内に冠水状態のもとに収容された通電包装体2の材料熟熱温度を自動的に検出するための温度検知器であって、該温度検知器7の先端側は通電包装体2内に充填された材料Aの中程迄挿通して、材料Aが所定の熟熱温度に達したら、これを速かに検知して電極板5,5への通電を断つように作動せしめるものである。」(3頁右上欄18行?左下欄4行)
(1f)「なお材料Aには塩分濃度の濃い塩分を含有させ、又稀塩液Bは材料Aの塩分濃度よりも薄い塩分濃度としたことで、熟熱殺菌加工時においては材料温度が稀塩液Bの温度より略20℃高温となって、材料Aが平均に熟熱殺菌されていることと、電流が材料A中を均等に流通して消費電力の節約を図っていることが分かる。」(3頁左下欄5?11行)
(1g)「第2図

」(4頁)には、「材料を両側が開放した横長筒状の通電包装体内に充填したものを熟熱殺菌した場合における絶縁性容器の縦断正面図」(4頁左上欄3?5行)が示され、上記記載事項(1d)、(1e)の技術的事項と共に、以下(ア)、(イ)の事項が視認される。
(ア)「絶縁性容器3の対向壁4の内側には、対向壁4から順に電極板5、隔離板6が配設されていること、すなわち、電極板5と材料Aを充填した通気性包装体1との間には隔離板6が配されていること」、その結果、「電極板5と通気性包装体1とは隔離板6の存在により直接接触しないようになっていること」
(イ)「「両側が開放した横長筒状の通電包装体」の両端の「開放部を任意の締付2により結んで閉塞せしめ」(記載事項(1d))てなる通電包装体1は、少なくとも締付2部分の寸法よりも長い距離で隔離板6と離間していること」

(2)原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平10-229853号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 熱水中に食品を浸漬させて、その熱水中に対向配置された一対の電極の間において食品を連続的に搬送させながら食品を通電加熱するにあたり、前記電極の表面に食品が接触もしくは接近しないように、食品を電極表面から離隔させながら搬送しつつ通電加熱することを特徴とする浸漬式連続通電加熱方法。」(特許請求の範囲)
(2b)「【0009】すなわち、上述の構成ではすり身を熱水中の一対の電極間で連続的に搬送させる必要があるが、この搬送過程ですり身が電極表面に接触または接近することがある。特に一対の電極を上下に配置した場合、すり身の比重が熱水の比重より小さければ(例えば“はんぺん”用のすり身)、すり身が熱水中を浮上して上面側の電極表面に接触もしくは接近しやすく、またすり身の比重が熱水の比重より大きければ(例えば“つみれ”用のすり身)、すり身が自重により熱水中を下降して下面側の電極の表面に接触もしくは接近しやすい。そしてこのようにすり身が電極に接触したり、著しく接近したりした場合、すり身表面に焦目(こげめ)が生じたり、すり身の加熱が不均一となったり、さらにはすり身と電極との間でスパークが発生してすり身に異臭が生じたりしてしまうおそれがあることが判明している。
【0010】これらの焦目や不均一加熱、スパーク等の発生原因は次のように考えられる。すなわち、すり身は表面にかなりの凹凸が存在するため、すり身が電極に接触したり異常に接近したりした場合、すり身表面の凸部に局部的に過電流が流れてその部分が過剰に加熱されて、焦目が生じてしまったり、加熱が不均一になったりしてしまうと考えられる。・・・
【0011】以上のように、安定して高品質の練り製品を得るためには、すり身が電極に接触したり異常に接近したりして、局部的に過電流が流れたりスパークが発生したりすることを防止することが重要な課題となっている。」

(3)本願の出願日前に頒布された刊行物である、多田宗儀「新開発の機械・装置II ジュールヒーターシステム」食品工業、2002-11.30、Vol.45、No.22別冊、1-11頁(以下、「引用刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3a)「食品の殺菌、調理方法としては、外部加熱によるものが一般的な方法として用いられているが、その加熱殺菌は、過剰の熱により成分の変質、変色、香りの成分の揮発、分解等が生じ、加熱前の風味が損なわれてしまう。そこで、食品の素材を残す、殺菌・調理法として注目されつつあるジュールヒーターシステムについて紹介する。」(1頁左欄12?18行)
(3b)「ジュールヒーターは、その最大の特徴である「急速均一加熱」を生かし、今まで他の方法では、できなかった分野に幅広く利用されつつある。今日では、高粘度食品(みそ・調味料・餡・水練り製品)、固形物入り食品(フルーツソース・果肉・調理食品)、固形物食品(さかな、鶏、肉、練り製品)、その他(クリーム類、ソース類、めんつゆ)への利用が幅広く研究、開発され生産工場に導入されつつある。」(1頁右欄2?10行)
(3c)「1.原理
通電加熱の原理は図1に示すように、食品に直接電極板を介して電流を流し、食品そのものを発熱体(ジュール熱)として加熱する。
ジュールの原理を算式で表すと以下の通りである。
1)P=I^(2)R=I^(2)×V/I=I×V
(ジュールの法則)
2)P=(1/2)ωεA(V2/L)
P:電力(W) I:電流(A) R:抵抗(Ω) ω:周波数(HZ) ε:誘電損失 A:電極板面積(cm^(2)) V:電圧(V) L:電極間距離(cm)
実用上の計算では
食品の電気伝導度S(S/cm)=(1/2)ωε とみなし
3)P=SA(V2/L) を用いる。
1)式では、電流・電圧または、抵抗値が大きいほど消費電力は大きく、加熱速度が速くなる。
3)式は、食品の電気伝導度・電極板面積・電圧が大きく、電極間距離が短いほど大きな昇温が得られる。」(1頁右欄15行?2頁左欄9行)
(3d)「2.ジュールの特徴
1)食品の直接発熱体にするので固形食品や高粘性食品でも均一かつ迅速な加熱ができる。
2)食品を直接発熱体にするのでエネルギー効率が良い。
3)発熱量を通電量で制御出来るので、固形食品でも微妙な温度コントロールが可能である。特に蛋白変成領域等に使用すると効果を発揮する。」(2頁左欄25行?右欄5行)

3-2 引用発明
引用刊行物1には、記載事項(1a)に「塩分を均等に混入した生の水産動物の摺り身材料或は畜肉の練物材料又はこれらを混合した混合材料を通電包装体内に充填収納せしめると共に、前記通電包装体は絶縁性容器内に収容され、しかも上記材料の含塩濃度よりも薄い塩分濃度の稀塩液中に冠水状態のもとに収納せしめて通電作用により材料を熟熱殺菌処理したことを特徴とする通電加工食品の製造方法」が記載され、記載事項(1c)によれば、「絶縁性容器3内の対向壁4,4側には、抜き差し自在となるように挿入位置せしめた一対の電極板5,5と通液性絶縁材料からなる一対の隔離板6,6を順次配設」されており、同「塩分濃度の濃い塩分を含有せしめた材料Aを充填収納した任意形状の通電包装体1を多数、稀塩液B中へ冠水状態のもとに収容した後、一対の電極板5,5間に亘り通電を施せば、電流は稀塩液Bを通電媒体として通電包装体1を通し材料A中を円滑かつ均一に流れ発生したジュール熱例えば95℃で速かに材料Aを熟熱殺菌処理」するものである。そして、上記「稀塩液B」について、記載事項(1c)には「Bは、材料A中に含有された塩分濃度よりも薄い塩分濃度例えば0.25%以下の稀塩液であって、該稀塩溶液Bは適宜形状からなる絶縁性容器3内に適当量収容される。」と記載されている。
これらの記載事項を整理すると、引用刊行物1には、
「対向壁側に一対の電極板5,5と通液性絶縁材料からなる一対の隔離板6,6を配設した絶縁性容器内に、塩分を均等に混入した生の水産動物の摺り身材料或は畜肉の練物材料又はこれらを混合した混合材料からなる塩分濃度の濃い塩分を含有せしめた材料Aを充填収納した通電包装体を収容し、しかも上記材料Aの塩分濃度よりも薄い塩分濃度例えば0.25%以下の稀塩液B中に冠水状態のもとに収納した後、一対の電極板5,5間に亘り通電を施して、稀塩液Bを通電媒体として電流が材料A中を円滑かつ均一に流れることにより発生したジュール熱で材料Aを熟熱殺菌処理する通電加工食品の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3-3 対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「一対の電極板5,5と通液性絶縁材料からなる一対の隔離板6,6を配設した絶縁性容器」は、本願補正発明の「内部に一対の電極を対設する容器」に相当する。
(2)引用発明の「稀塩液B」は、本願補正発明のうち「0.02M以下の電解質溶液」を用いる場合において「電解質溶液」である点で本願補正発明のものと共通する。
(3)引用発明において「塩分を均等に混入した生の水産動物の摺り身材料或は畜肉の練物材料又はこれらを混合した混合材料からなる塩分濃度の濃い塩分を含有せしめた材料A」のうち「畜肉の練物材料」は畜肉材料の一種に他ならず、本願補正発明の「電解質を含む畜肉材料」に相当するといえる。
(4)引用発明では、材料Aを通電包装体内に充填収納し、この材料Aを充填した通電包装体を絶縁性容器内に収容し、冠水状態としているが、本願明細書の【0013】には「本発明において、材料となる食品材料は、通気性もしくは透湿性の包装材料で包装されていても未包装でもよいが、通気性包装で包装されているのが好ましい。」と記載され、本願補正発明の実施例(【0031】他)でもすべて、細切りした塩漬肉を通気性非可食ケーシングに充填したものを用いており、本願補正発明でも実際には食品材料を通気性包装に充填した状態で液中に浸漬している。
したがって、引用発明の「絶縁性容器内に、・・・材料Aを充填収納した通電包装体を収容し、・・・稀塩液B中に冠水状態のもとに収納」することは、本願補正発明の「電解質を含む畜肉材料を、・・・水または該電解質溶液中に浸漬した状態で収容」することに相当するといえる。
(5)本願補正発明において、「該食品材料」とは「畜肉材料」を指すものと解されるから、引用発明の「一対の電極板5,5間に亘り通電を施して発生したジュール熱で材料を熟熱殺菌処理する通電加工食品の製造方法」は、本願補正発明の「該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法」に相当する。

上記(1)?(5)の検討から、両者は、「内部に一対の電極を対設する容器に、電解質溶液と共に、電解質を含む畜肉材料を、該電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめる通電加工食品の製造法。」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明は、畜肉材料を浸漬する液体が「0?50℃の、水または0.02M以下の電解質溶液」であるのに対して、引用発明は、「材料の食塩濃度よりも薄い塩分濃度例えば0.25%以下の稀塩液B」であり、稀塩液Bの温度については特定されていない点。
<相違点2>
本願補正発明は、「一対の電極の夫々と該食品材料との距離が1?10cmとなる状態」で収容されているのに対して、引用発明では、電極板と材料Aとの間の距離は特定されていない点。
<相違点3>
本願補正発明は、「食品材料から該水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上かつ印加電圧が100?500Vとなる条件下で、該食品材料に通電作用を施」すのに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。

3-4 判断
上記相違点について検討する。
(1)<相違点1>について
ア 稀塩液Bの塩分濃度について
引用刊行物の記載事項(1c)によれば、引用発明は「材料の含塩濃度よりも薄い塩分濃度例えば0.25%以下の稀塩液B」を「通電媒体として用いる」ものである。通常、食塩水の濃度は質量%で示されるのが普通であり、NaClのモル質量は58.44g/molであるから、0.25%をモル濃度(M/l)に換算すると、(0.25/100)×1000÷58.44=0.043M/lとなり、引用発明は、材料の含塩濃度よりも薄い塩分濃度、例えば0.043M/l以下の稀塩液を用いるものといえる。
そして、引用発明の稀塩液は、例えば0.043M/l以下であればよいのであるから、通電媒体となるものであれば必ずしも0.043M/lである必要はなく、それよりも低濃度の稀塩液を使用することを否定するものではない。
また、塩数の子等の塩漬けした食品を使用するに際して行う塩抜き等の水出し処理に見られるように、塩分濃度の高い食品をそれよりも稀薄な塩水溶液または水に浸漬しておくと、浸透圧の関係で食品中の塩分は容易に回りの稀薄塩水溶液または水中に溶出されることは広く知られた事実であるから、引用発明においても、稀塩液Bに浸漬する、塩分濃度の濃い塩分を含有せしめた材料A中の塩分が、稀塩液B中に容易に溶出することは、当然予測される。
してみると、稀塩液Bとして0.043M/lよりも低濃度(例えば、0.02M/l程度)のものを用いた場合にも、材料A中の塩分の溶出が加味される結果、通電媒体として機能しうることは当業者が容易に予測しうることである。
したがって、引用発明において、稀塩液Bとして塩分濃度が0.02M/l以下のものを用いることに当業者が格別創意を要したものとは認められない。

イ 稀塩液Bの温度について
引用刊行物1には通電を施す前の稀塩液Bの温度についての特段の記載はないので、引用発明において、通電前の稀塩液Bの温度は常温と解すのが自然である。
しかも、記載事項(1c)の「発生したジュール熱例えば95℃で速かに材料Aを熟熱殺菌処理し、」、記載事項(1d)の「材料Aが所定の熟熱温度に達したら、これを速かに検知して電極板5,5への通電を断つように作動せしめ」、及び、記載事項(1e)の「熟熱殺菌加工時においては材料温度が稀塩液Bの温度より略20℃高温となって」なる記載を総合すると、稀塩液Bの温度は、熟熱殺菌加工時において材料Aの熟熱殺菌温度95℃より略20℃低温、すなわち略75℃であることがわかる。
そうすると、引用発明における稀塩液Bの通電作用による昇温の程度はさておき、昇温後も略75℃であるから、通電開始前は、75℃より低温であることは明らかである。
したがって、引用発明において、通電前の稀塩液Bの温度は、0?50℃の範囲を外れるとは考えがたく、温度においては、本願補正発明と相違するとは認められない。
仮に、引用発明における通電前の稀塩液Bの温度が0?50℃の範囲であることが明らかでないとしても、食品の加熱殺菌において、過剰な熱による変色を生じさせないようにすることは一般的な技術課題であり(必要であれば、引用刊行物3の記載事項(3a)参照)、例えば、特開平7-87882号公報(以下、「周知例1」という。この周知例1の【請求項1】及び、4頁の【提出日】平成5年11月27日の【手続補正書】の【0003】参照)に開示されるように、導電液中に冠水状態のものとに塩分を均等に滲透処理した材料を通電加熱処理する技術において、塩分を均等に滲透処理した材料が食肉塊である場合、肉が茶褐色に変色する温度が50℃-55℃程度であることは、この出願前周知であるから、上記一般的な技術課題である加熱殺菌対象の食品の変色を生じさせないようにするために、通電前の稀塩液Bの温度を肉の変色温度である50℃以下に設定しておくことは、当業者の容易になし得ることである。

(2)<相違点2>について
ア 引用発明で材料Aが電極板5と接しているか否かについて
引用発明は「稀塩液Bを通電媒体として電流が材料A中を円滑かつ均一に流れる」ようにしたものであり、引用刊行物1の「電流が常に稀塩液を通電媒体として塩分濃度の濃い材料中を均一かつ正確に通電できる」(記載事項(1b))、「多数の通電包装体1を、・・・稀塩液B中に任意の状態のまま冠水状態となるように順次投入する。さすれば投入された多数の通電包装体1は、各通電包装体1間の隙間が稀塩液Bで満たされるので通電包装体1は互いに密着することなく収納される」(記載事項(1c))、及び、「電流は稀塩液Bを通電媒体として通電包装体1を通し材料A中を円滑かつ均一に流れ発生したジュール熱例えば95℃で速かに材料Aを熟熱殺菌処理」する(記載事項(1e))との記載によれば、材料Aを充填した通気包装体1の回りには稀塩液Bで満たされた隙間があり、常に、この通気包装体1の周囲全体を覆う稀塩液Bを通電媒体として材料Aに均一に電流が流れるように図っているものであるから、通気包装体1の周囲のうち、電極板5と対面する部分にも当然、稀塩液Bで満たされた隙間があるものといえる。
そして、第2図(記載事項(1g))から視認される事項(ア)(イ)も合わせてみれば、引用発明では、材電極板5と材料Aを充填した通気性包装体1との間に積極的に隙間を設けるものであって、材料Aが電極板5と接していないことは明らかである。

イ 引用発明におかる電極板5と材料Aとの距離について
ところで、引用刊行物2(記事事項(2a)、(2b))の記載によれば、一対の電極間に食品を連続的に搬送させながら通電加熱する浸漬式連続通電加熱方法において、食品の形状の表面に凹凸が存在するため、食品が電極に接触したり異常に接近したりした場合、食品表面の凸部に局部的に過電流が流れてその部分が過剰に加熱されて、焦目が生じてしまったり、加熱が不均一になったりしてしまう虞があるため、それを防止することが重要な課題であったことはこの出願前公知の事項である。上記課題は、連続搬送中の食品と電極表面との接触または異常接近についてのものではあるが、電極間に食品を静置して通電加熱する場合であっても、食品表面と電極が局部的に接触した場合には、同様に、過電流が流れてその部分のみが過剰に加熱される虞があることは、当然予測されることであり、食品表面と電極が局部的に接触しないように、食品表面の凹凸を許容しうる程度の距離、食品表面と電極とを離間させておくことは、当業者が容易に想到することである。
してみると、引用発明において、電極板5と材料Aを充填した通気性包装体1との間に稀塩液で満たされた隙間を設けるにあたり、引用刊行物2に開示される上記課題に鑑みて、通気性包装体1の締付2のような凸部が存在しても、その凸部に局部的に過電流が流れてしまうことがないような距離、例えば1cm以上、電極板から離間させておくことは、当業者が容易に想到することである。
一方、通気性包装体と電極板との距離を長くすれば、通気性包装体と電極板との間に存在する稀塩液の電気抵抗に抗して電流が稀塩液中を通過しなければならず、通気性包装体内の材料に到達するまでに減衰してしまうから、その分、印加電圧を高める必要があることは当業者であれば自明のことである。
してみると、消費電力等の効率性(コスト)の観点から通気性包装体と電極板との距離の上限は適宜決定されるものであり、上限を例えば10cmとすることは格別なことではない。

ウ 本願補正発明において電極と食品材料との距離を1?10cmとする数値限定の臨界的意義について
本願補正発明の課題は、「水又は希薄溶液に浸漬した食品材料の表層部と中央部とを均一にかつ十分に昇温することが出来る、簡便かつ低コストの通電加熱食品の製造方法を提供することである」(本願明細書【0007】)が、この「食品材料の表層部と中央部とを均一にかつ十分に昇温する」とは、審判請求書(平成21年10月16日付け手続補正書(方式)以下、「審判請求書」という。)の7頁5?8行では「食品材料の温度が低い部分が70℃を超えており、かつ食品材料の温度が高い部分が85℃を超えていない範囲での昇温は、食品の品質を保てる均一な昇温でありかつ十分な殺菌効果が得られる昇温であると言える」と説明されている。
そこで、電極と食品材料との距離を1?10cmとする限定根拠とされる【実施例4】の結果を示す【図6】「(a)0.5cm、200V」をみると、電極と食品材料との距離が0.5cmの時も、食品材料上部の昇温パターンを示す黒丸は70℃を超え、食品材料内部の昇温パターンを示す黒三角は85℃を超えていないと読み取れる。そうすると、電極と食品材料との距離が0.5cmの場合も均一な昇温は可能であり、電極と食品材料との距離の下限値1cmに臨界的な意義があるとは認められない。そして、上限値の10cmに臨界的意義がないことは上記イで述べたとおりである。
そもそも、本願補正発明のごとく外溶液中に浸漬した状態での畜肉材料の通電加熱においては、畜肉材料が十分に加熱される条件で通電を行う場合でも、通電加熱処理装置の大きさ(すなわち外溶液を収納する容器の容積または収容する外溶液の容量)、畜肉材料の容量、外溶液容量と畜肉材料容量との比率等が異なれば、畜肉材料で発生するジュール熱が回りの外溶液に放熱される程度、外溶液の対流による外溶液全体の昇温速度も異なるものと予測される。
したがって、本願明細書の実施例で使用されている特定の容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)を用いた実験結果の昇温パターンから、電極と食品材料との距離の最適な値を導き出しても、その値は、実験を行った装置に好ましい値であって、装置その他の条件に関わらず普遍的な値であるとはいえない。

(3)<相違点3>について
ア 本願補正発明において、「食品材料から該水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、・・・該食品材料に通電作用を施」すことに関して、本願明細書の記載をみてみると、請求項1と同様の記載以外には以下のような記載があるのみである。
・「【0008】
本発明者は、食品材料から外溶液に微量の電解質が溶出することにより、外溶液として水または希薄な電解質溶液を用いて食品材料を十分に加熱することが出来ることを見出した。・・・」
・「【0019】
本発明方法はまず、内部に一対の電極を対設する容器に、電解質を含む食品材料を、水または希薄な電解質溶液である外溶液と共に、かつ水または希薄な電解質溶液中に浸漬した状態で収容する。・・・」
・「【0021】
また、食品材料の体積に対して0.5?3倍程度の体積の外溶液を用いることによって、外溶液への食肉材料の電解質濃度の溶出による、食品材料の電解質濃度の損失は、ほとんどなくなる。
【0022】
次いで、対設する電極に電圧を印加し、食品材料を通電加熱する。・・・」
・「【0026】
この工程によって、食品材料から外溶液に溶出した微量の電解質を介して食品材料が通電加熱されるので、希薄な電解質溶液または水の中に浸漬した食品材料を、その表層部と中央部を均一に昇温することが出来る。」
上記記載のいずれにも、食品材料を水または希薄な電解質溶液(外溶液)中に浸漬した状態で収容した後、通電可能な状態になるまでにどの程度の時間をおくのか、食品材料から外溶液に微量の電解質が溶出するまで浸漬した状態で放置しておくのか等、何ら説明されていない。
また、具体的な【実施例1】?【実施例6】をみても、容器に外溶液とともに食品材料を収容した後、通電作用を施した旨の、工程の順番を示す記載にとどまり、収容した後、通電するまでの間の具体的時間や処置について一切記載されていない。
一方、引用発明は、「稀塩液Bは適宜形状からなる絶縁性容器3内に適当量収容され・・・絶縁性容器3内に・・・塩分濃度の濃い塩分を含有せしめた材料Aを充填収納した任意形状の通電包装体1を多数、稀塩液B中へ冠水状態のもとに収容した後、一対の電極板5,5間に亘り通電を施」す(記載事項(1d))ものである。
そうすると、容器に液体を収容し、材料を収容した後、通電を施すという工程をとることは、引用発明と本願補正発明とに差異はない。
そして、引用発明においても、材料Aから塩分が稀塩液B中に溶出しているといえることは上記(1)アで述べたとおりであり、実際に通電が行われていることが確認されている(引用刊行物1の記載事項(1e))から、食品材料から希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、食品材料に通電作用を施す点で、引用発明は本願補正発明と相違しない。

イ 印加電圧について
食品の通電加熱処理において、商用200Vの交流電圧を使用することは、先にも引用した周知例1の【0012】、拒絶査定において引用された、日本食品科学工学会誌, 2003, Vol.50, No.4, .151-156頁の151頁右欄16行に記載されるとおり、この出願前周知技術である。
そして、引用刊行物3の記載事項(3b)?(3d)に開示されるように、肉、練り製品等の食品に幅広く利用されるものであるジュール熱による食品の通電加熱処理において、食品の昇温は、食品の電気伝導度・電極板面積・電圧が大きく、電極間距離が短いほど大きな昇温が得られること、及び、発熱量を通電量で制御できるので、固形食品の微妙な温度コントロールが可能なことも、この出願前周知の事項である。
そうすると、通電量を制御するのに電圧を調節することは最も普通の方法であるから、引用刊行物3の開示に基づき、引用発明の通電加熱においても材料の殺菌に最適な温度にコントロールするために通電量を制御すべく、電圧を200Vの前後で制御することは当業者の容易になし得ることであり、制御する電圧範囲を100?500Vと設定することも格別なことではない。

ウ 電極と材料との距離に対する印加電圧の比率について
引用発明において、所望の通電加熱処理を行うためには、通気性包装体と電極板との距離が長くなれば、その分、印加電圧を高める必要があることは、上記(2)イで述べたとおりである。
一方、食品に電圧を印加して処理する場合に、印加電圧の程度を、電極間距離に対する印加電圧の比率として数値限定して条件設定を行うことも普通に行われている(必要であれば、拒絶査定において引用された特開平11-216173号公報の【請求項6】参照)。
そうすると、通電加熱処理である引用発明において、有効な加熱が得られるために必要な印加電圧の最低条件を、電極と材料との距離に対する印加電圧の比率として数値限定して条件設定を行うことに、当業者が格別創意を要したとは認められない。
そして、その比率の具体的な数値の値は、使用する装置における電極間距離等の寸法に応じて、適宜実験検討して導き出せるものであり、40V/cm以上と設定することは格別なことではない。

(4)そして、本願明細書において、【実施例7】で加熱処理後の製品の色調の変化を実測して比較しているのは、湯煮又は蒸煮処理であって、本願補正発明で特定される条件を外れた条件で行った通電加熱処理との比較ではないから、本願明細書の記載からは、本願補正発明が、本願補正発明で特定される条件を外れた条件で通電加熱処理した場合に比べて色調などの品質おいて優れた効果を奏することを確認できない。
したがって、本願補正発明において、上記<相違点1>?<相違点3>に係る構成をとることにより奏される本願明細書記載の効果も、引用発明並びに引用刊行物2、3に開示された事項及び周知技術から当業者が予測しうる範囲内のものである。

(5)請求人主張の効果について
請求人は、審判請求書(4頁23?40行)において「本願発明において一対の電極の夫々と食品材料との距離(以下、電極と食品材料との距離、と表記します)が1?10cmとなる状態で、電極と食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上かつ印加電圧が100?500Vとなる条件下で、食品材料に通電作用を施す点です。このような構成を採用した場合、経時的に下記のような工程をとることとなります:1.(略)2.(略)このような工程をたどることで、食品材料の温度は表面と中心部が均一、または表面部分が中心部分と比べて若干高いという、均一な昇温が達成できます。」と主張して1.?2.の工程を説明しているが、本願明細書の【図3】(b)?(d)、【図5】(a)、(c)、【図6】(b)、(d)は必ずしも上記1.?2.のような工程を示しておらず、請求人の上記主張は根拠に乏しいものである。
また、審判請求書に、実験例として電極と食品材料の距離0cm、外溶液0.5%食塩水の条件下での食品材料および外溶液の昇温を測定を行った実験結果が示されているが、電極と食品材料の距離0cmでは電極と食品材料とが接することになり、電極から直接食品材料に電流が流れて外溶液が昇温しないのは当然のことであって、このような実験条件の設定は、引用発明と本願補正発明との効果の差異を検討するための実験例として適切ではない。
したがって、審判請求書における請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
上記(1)?(5)の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用刊行物2、3に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7)回答書で提示された補正案について
なお、請求人は、回答書において、請求項1について下記の補正案を提示しているので検討しておく。
「[請求項1]
内部に一対の電極を対設する容器に、0?50℃の、水と共に、電解質を含む畜肉材料を、該一対の電極の夫々と該食品材料との距離が1?10cmとなる状態、かつ該水中に浸漬した状態で収容し、該食品材料から該水に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上かつ印加電圧が100?500Vとなる条件下で、該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法。」
補正案は、本願補正発明において「水または0.02M以下の電解質溶液」を「水」と限定するものであるから、補正案と引用発明とは、上記3-3で示した<相違点2><相違点3>と共に、次の点で相違する。

<相違点A>
補正案は、畜肉材料を浸漬する液体が「0?50℃の、水」であるのに対して、引用発明は、「材料の含塩濃度よりも薄い塩分濃度例えば0.25%以下の稀塩液B」であり、稀塩液Bの温度については特定されていない点。
<相違点2>、<相違点3>及び<相違点A>のうち温度については上記(2)、(3)及び(1)イで検討したとおりであるので、濃度について更に検討すると、上記(1)アで例として挙げた塩漬けした食品の塩抜きには真水が普通に用いられており、塩分濃度の高い食品を水に浸漬しておくと、浸透圧の関係で食品中の塩分は容易に回りの水中に溶出されることは広く知られた事実であることは上記(1)アで述べたとおりである。食品から塩分が容易に溶出することを考えれば、引用発明において通電包装体を冠水させる液体として水を使用してみることを当業者が全く想到しないとはいえない。そして、水を使用した場合、たとえ、水の電気抵抗が大きくて所望の昇温が得られない虞があるとしても、引用刊行物3の開示に従えば、電圧を高めるなど通電量を制御すればよいことは当業者の容易に想到しうることである。
しかも、水を用いた場合に、稀塩液を用いる場合と比べて、食品材料の表層部と中央部とを均一にかつ十分に昇温することが出来ることや色調などの品質において、顕著な効果を奏するものともいえない。
したがって、補正案のように補正されたとしても、上記(6)の判断は左右されない。

4.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年9月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年3月27日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「内部に一対の電極を対設する容器に、0?50℃の、水または0.02M以下の電解質溶液と共に、電解質を含む食品材料を、該電極に接触させることなく、かつ該水または該電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、該食品材料から該水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が40V/cm以上となる条件下で、該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法。」

2.引用刊行物の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1、2の記載事項、及び引用発明は、前記「第2 3.3-1」及び「第2 3.3-2」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]」で検討した本願補正発明の処理対象である「畜肉材料」を「食品材料」に拡張し、「一対の電極の夫々と該食品材料との距離が1?10cmとなる状態」との限定事項から、電極と食品材料との距離の数値限定を省いて「電極に接触させることなく」とし、「かつ印加電圧が100?500V」との限定を除いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.」に記載したとおり、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1にかかる発明は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-02 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-18 
出願番号 特願2004-248069(P2004-248069)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二鳥居 敬司  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 小川 慶子
齊藤 真由美
発明の名称 通電加工食品の製造方法  
代理人 田中 順也  
代理人 田中 順也  
代理人 林 雅仁  
代理人 三枝 英二  
代理人 中野 睦子  
代理人 中野 睦子  
代理人 林 雅仁  
代理人 三枝 英二  

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