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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1262427
審判番号 不服2010-17347  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-03 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2004-106425「熱電変換材料」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開、特開2005-294478〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年3月31日の出願であって、平成21年1月14日付けの拒絶理由通知に対して、同年3月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成22年1月12日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年3月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月28日付けで平成22年3月23日付け手続補正書でした手続補正が却下されるとともに拒絶査定がされ、これに対し、同年8月3日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。
そして、平成23年11月14日付の審尋に対して、平成24年1月10日に回答書が提出されたものである。


第2 平成22年8月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、平成22年3月23日付け手続補正書でした手続補正は、上記のように、同年4月28日付けで却下されているで、その内容は以下のとおりである。

〈補正事項1〉
補正前の請求項1に、「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらに前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」との事項を追加して、補正後の請求項1とする。
〈補正事項2〉
補正前の請求項3に、「前記コアシェル微粒子のシェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらにコア部の粒径は2nm?50nmの範囲内であることを」との事項を追加して、補正後の請求項3とする。
〈補正事項3〉
請求項4において、引用する請求項を、「請求項1」から「請求項3」に変更する。

上記補正事項1及び2は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0030】及び【0037】の記載を根拠とするものであり、したがって、上記補正事項1?3は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであると認められる。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

2 補正目的の適否
(1)補正事項1について
補正事項1は、本件補正前の請求項1の「シェル部」が「膜厚は1nm?100nmであ」であることを限定するとともに、本件補正前の請求項1の「コア部」は「粒径が2nm?50nmの範囲内である」ことを限定するものである。
したがって、補正事項1は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「シェル部」及び「コア部」を概念的により下位のものに限定する補正であるから、補正事項1は、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とする補正に該当する。

(2)補正事項2について
補正事項2は、本件補正前の請求項3の「コアシェル微粒子」の「シェル部」が「膜厚は1nm?100nmであ」であることを限定するとともに、本件補正前の請求項3の「コア部」は「粒径が2nm?50nmの範囲内である」ことを限定するものである。
したがって、補正事項2は、本件補正前の請求項3の発明特定事項である「コアシェル微粒子」の「シェル部」及び「コア部」を概念的により下位のものに限定する補正であるから、補正事項2は、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とする補正に該当する。

(3)補正事項3について
補正事項3は、本件補正前は「請求項1に記載の熱電変換材料」の発明を引用していたものを、本件補正後は「請求項3に記載の熱電変換材料の製造方法」の発明を引用するよう、引用請求項を変更するものである。
そして、本件補正前後の請求項4は「熱電変換材料の製造方法」の発明についてのものであるから、補正事項3は誤記の訂正を目的とする補正に該当する。

(4)補正目的の適否のまとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号及び第3号に規定する要件を満たす。
そこで、次に、前記特許請求の範囲の減縮を目的とする補正がなされた請求項1について、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを検討する。

3 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
「複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル微粒子の圧縮成型体として形成され、複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル構造体からなる熱電変換材料であって、
前記複数のコア部は互いに独立し、前記シェル部は連続しており、さらに前記コア部が前記コアシェル構造体中に均一に分散しており、
前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらに前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内であることを特徴とする熱電変換材料。」

(2)引用例の表示
引用例:特開平02-106079号公報

(3)引用例の記載と引用発明
(3-1)引用例の記載
平成22年1月12日付けの最後の拒絶理由通知で引用され、原査定の拒絶の理由の根拠となった、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平02-106079号公報(以下「引用例」という。)には、「電熱変換素子」(発明の名称)に関して、第3図及び第4図とともに、次の記載がある(下線は、参考のために当審において付したもの。以下、他の刊行物についても同様。)。

ア 産業上の利用分野
・「本発明はペルチエ効果を利用した熱変換素子に関する。」(第1頁下左欄第17?18行)

イ 問題点を解決するための手段
・「また、第2の発明は、ガラス、セラミックス等の低熱伝導材料の周りをカルコゲナイド系材料で被覆した粒子を結合したP形半導体及びN形半導体を接合した構成とした。」(第1頁下右欄第16?19行)

ウ 発明の作用及び効果
・「本発明は上記構成になり、第1の発明は、半導体の通電方向の途中に低熱伝導層を形成したから発熱端から吸熱端への熱伝導が妨げられ、かつ、この層の導電率は十分に高いから、熱成績係数が高く、効率が向上する効果があり、また、第2の発明は、半導体全体の熱伝導率が低く、導電率は十分に高く維持されるから、上記第1の発明と同様の効果を奏する。」(第2頁上左欄第1?8行)

エ 実施例
・「次に、本発明の第2の発明の一実施例を第3、4、図に基づいて説明すると、本実施例は、上記実施例と同様に、P形半導体1とN形半導体2が接合板3、4によって接合された構成になるが、本実施例においてはP形半導体1とN形半導体2の全体が、第4図に拡大して示すように、ガラス、セラミック、あるいはこれらの多孔質体等の低熱伝導材料からなる粒子8の周りに、半導体を構成するビスマス・テルル、鉛・テルル等のカルコゲナイド系材料からなる被覆層9をメツキまたは融着等の手段によって形成し、焼結により結合した構成になり、カルコゲナイド系材料からなる被覆層9が半導体としての機能を果たすとともに、低熱伝導材料からなる粒子の介在によって全体の熱伝導率が低下し、発熱端から吸熱端への熱伝導が抑制されて発熱と吸熱が効率良く行われる。」(第2頁上右欄第14行?同頁下左欄第9行)

オ 図面
・「半導体の部分拡大図」(第2頁下左欄第13?14行)である第4図には、粒子8が被覆層9で被覆された構造を有する複数個の粒子が、その界面を介して互いに接し、整列していることが、図示されている。

(3-2)引用発明
上記ア?オによれば、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ガラス、セラミック、あるいはこれらの多孔質体等の低熱伝導材料からなる複数の粒子8と、前記粒子8の周りにメッキまたは融着等の手段によって形成された、カルコゲナイド系材料からなり半導体としての機能を果たす被覆層9とを備えた粒子を、焼結により結合した構成を有する電熱変換素子であって、
前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子が、その界面を介して互いに接し、整列するように結合され、
前記低熱伝導材料からなる前記粒子8の介在によって全体の熱伝導率が低下し、導電率は十分に高く維持されるから、熱成績係数が高く効率が向上することを特徴とする電熱変換素子。」

(4)対比
(4-1)本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ガラス、セラミック、あるいはこれらの多孔質体等の低熱伝導材料」からなる「粒子8」は、「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造」を有する「前記粒子」において、コア部をなしていると認められる。
したがって、引用発明の「ガラス、セラミック、あるいはこれらの多孔質体等の低熱伝導材料」からなる「粒子8」と、本件補正発明の「粒径が2nm?50nmの範囲内である」「コア部」とは、コア部である点で共通する。

イ 引用発明の「前記粒子8の周りにメッキまたは融着等の手段によって形成された、カルコゲナイド系材料からなり半導体としての機能を果たす被覆層9」は、「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造」を有する「前記粒子」において、シェル部をなしていると認められる。
したがって、引用発明の「前記粒子8の周りにメッキまたは融着等の手段によって形成された、カルコゲナイド系材料からなり半導体としての機能を果たす被覆層9」と、本件補正発明の「膜厚は1nm?100nmであ」る「前記コア部を被覆するシェル部」とは、前記コア部を被覆するシェル部である点で共通する。

ウ 上記ア及びイから、引用発明の「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造」を有する「前記粒子」と、本件補正発明の「コアシェル微粒子」とは、コアシェル粒子である点で共通する。
そして、引用発明の「複数の粒子8」が「前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子」が「焼結により結合した構成」と、本件補正発明の前記「コアシェル微粒子の圧縮成型体として形成され、複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル構造体」とは、前記コアシェル粒子の成型体として形成され、複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル構造体である点で共通する。

エ 引用発明において、「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子が、その界面を介して互いに接し、整列するように結合され」ている。
したがって、引用発明の「複数の粒子8」は、「前記被覆層9」により互いに隔てられているから、互いに独立しているものである。
また、「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子が、その界面を介して互いに接し、整列するように結合され」た「焼結により結合した構成」においては、前記「粒子8」は、均一に分散されていると解される。
一方、引用発明において、「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子」の「界面」は、「前記被覆層9」の界面でもある。すなわち、前記「複数個の前記粒子」は、「前記被覆層9」の界面を「介して互いに接し、整列するように結合され」ている。そして、本願の明細書には、段落【0017】に「本発明においてシェル部が連続しているとは……内部にある程度の界面が存在する場合もシェル部を移動する電子の導電率が向上することから含む……ここで、界面が存在するとは、例えば図2(b)に示すように隣接するコア部1を被覆するシェル部2同士が結合していなく、その間に界面aが存在する状態である。」と記載されている。
以上から、引用発明の「複数の粒子8」が「前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子が、その界面を介して互いに接し、整列するように結合され」ていることは、本件補正発明の「前記複数のコア部は互いに独立し、前記シェル部は連続しており、さらに前記コア部が前記コアシェル構造体中に均一に分散して」いることに相当する。

オ そして、引用発明の「電熱変換素子」の「ガラス、セラミック、あるいはこれらの多孔質体等の低熱伝導材料からなる複数の粒子8と、前記粒子8の周りにメッキまたは融着等の手段によって形成された、カルコゲナイド系材料からなり半導体としての機能を果たす被覆層9とを備えた粒子を、焼結により結合した構成を有する」ものは、印加される「熱」を「半導体としての機能」に基づき電気的情報に「変換」する材料であると解されるから、本件補正発明の「熱電変換材料」に相当する。

(4-2)一致点及び相違点
そうすると、本件補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル粒子の成型体として形成され、複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル構造体からなる熱電変換材料であって、
前記複数のコア部は互いに独立し、前記シェル部は連続しており、さらに前記コア部が前記コアシェル構造体中に均一に分散している、
ことを特徴とする熱電変換材料。」

《相違点》
《相違点1》
本件補正発明は、コアシェル粒子が「コアシェル微粒子」であるのに対して、引用発明の「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する」「前記粒子」は、微粒子であるかどうか不明である点。

《相違点2》
本件補正発明は「コアシェル構造体」が「コアシェル微粒子の圧縮成型体として形成され」るのに対して、引用発明の「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子」を「焼結により結合した構成」は、「焼結により結合」するに際して圧縮成型されたか不明である点。

《相違点3》
本件補正発明の「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであ」るのに対して、引用発明の「被覆層9」の膜厚は不明である点。

《相違点4》
本件補正発明の「前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」のに対して、引用発明の「粒子8」の粒径は不明である点。

(5)相違点についての判断
(5-1)相違点1、3及び4について
ア 引用発明の「電熱変換素子」は、「前記低熱伝導材料からなる前記粒子8の介在によって全体の熱伝導率が低下し、導電率は十分に高く維持されるから、熱成績係数が高く効率が向上する」という「特徴」を有している。
ここで、「粒子8」を形成する「低熱伝導材料」である「ガラス、セラミック」は、絶縁材料であるから、引用発明の「電熱変換素子」が「導電率は十分に高く維持される」のは、「前記粒子8の周り」を被覆する「被覆層9」が「半導体としての機能を果たす」からであることは明らかである。

イ さて、平成21年1月14日付けの拒絶理由通知で引用された特開2002-026404号公報に「従来の技術」として、
「【0002】
【従来の技術】従来、この種の熱電材料では、熱電材料の性能を表す性能指数Zが次式のように定義されている。
【0003】
【数1】Z=σ*α^(2)/κ
この式で、σは電気伝導率、αはゼーベック係数、κは熱伝導率である。熱伝導率κは、物質を構成する原子核自体の振動によるもの(フォノン熱伝導率)と、キャリア(電子又はホール)の移動によるもの(キャリア熱伝導率)との和で与えられる。
【0004】性能指数Zが大きい熱電材料を得るために、様々な製造方法が提案されている。特に、熱伝導率κを小さくする方法として、フォノンを散乱する散乱中心物を備える熱電材料が提案されている。このような熱電材料の製造方法として、散乱中心物の粉末と機械的に粉砕し粉末にした母材とを混合した後に焼結する方法が提案されている(例えば、特開平9-74229号公報など)。」、
と記載されるように、熱電変換材料の技術分野において、熱伝導率が小さいほど性能指数Zが良好になること、前記熱伝導率は、物質を構成する原子核自体の振動による「フォノン熱伝導率」と、キャリアの移動による「キャリア熱伝導率」との和で与えられること、は技術常識である。
また、上記記載のように、熱電変換材料の熱伝導率を小さくするために、フォノンを散乱する散乱中心物を前記熱電変換材料中に分散させることも、周知慣用の手段であった。

ウ そして、以下の周知例1には、「不活性超微粒子としてのBNの超微粒子とを用意する(ステップ10)。これらの超微粒子の粒径は0.01μm程度である。」(段落【0022】)こと、「熱電材料1中のフォノンは、不活性超微粒子3の粒径よりも大きい波長について散乱される。例えば、不活性超微粒子3の粒径が4nmであれば4nm以上の波長のフォノンが散乱されることになる。そして、フォノンの波長は0.4nm以上であり、4nm程度のものが最も多い。したがって、本実施形態では不活性超微粒子3として大きさの小さいBNを使用しているので、フォノンの波長成分のうち最も多い4nm程度の部分を効率的に散乱することができる。」(段落【0025】)ことが記載されている。そして、特に、後者の記載は、「フォノン」を「散乱」させる「超微粒子」は、その「粒径よりも大きい波長」を持つ「フォノン」を「散乱」させるから、「不活性超微粒子3の粒径が4nm」であれば、「波長は0.4nm以上であ」る「フォノン」のうち「4nm以上の波長のフォノン」を「散乱」させることができる、すなわち、「フォノン」を「散乱」させる「超微粒子」の「粒径」が小さいほど、より多くの「波長のフォノン」を「散乱」させることができる、ということである。
また、以下の周知例2には、「熱伝導率を下げることで、熱電材料の性能を向上させる手段が提案されている。その手段の1つに結晶粒界面でのフォノン散乱を利用する方法がある。フォノン散乱を起こさせることで格子熱伝導率を下げるためには、結晶粒界面を増加させてより多くのフォノンを散乱させることが好ましく、そのために結晶粒径を微細化する方法がある。そこで、微細な結晶粒径を持つ素子を作成するために予め粒径の小さい超微粒子を出発原料として用いることが有効と考えられる。」(段落【0009】)こと、「酸化亜鉛超微粒子及びアルミナ超微粒子は気相法により製造された平均粒径50nmのものを使用した。」(段落【0024】)こと、が記載されている。そして、特に、前者の記載は、「より多くのフォノンを散乱させる」ために、「粒径の小さい超微粒子」を用いて、その「結晶粒界面」で「より多くのフォノンを散乱させる」、ということである。
してみれば、熱電変換材料の技術分野において、熱電変換材料の熱伝導率を小さくさせることを目的として前記熱電変換材料中に分散させるフォノン散乱中心物に、多くのフォノンを散乱させるため、前記フォノン散乱中心物を粒径の小さい超微粒子とすること、具体的には、前記フォノン散乱中心物をセラミック超微粒子で形成するとともに、その粒径を4乃至10nm?50nmの範囲で設定することは、周知例1及び周知例2に記載されるように、周知技術である。
また、前記周知例1には、熱電変換材料としてカルコゲナイド系材料を用いることが記載されている。

エ 一方、粒径が2nm?50nmの範囲内であるコア部となる粒子を、無電解メッキ等の湿式メッキ、または、スパッタリング等の乾式メッキにより、膜厚が1?10nmであるシェル部となる弱導電性あるいは導電性の材料で被覆して、ナノオーダーの超微粒子を形成することも、以下の周知例3?5に記載されるように周知技術にすぎない。

オ ところで、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明が「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであ」るとしたことの意義に関して、段落【0018】に「電子やフォノンの通り道であるシェル部2の厚みが量子効果の発現する100nm以下の場合には、量子効果により性能指数Zが向上する場合がある。」と、段落【0030】に「本発明において、シェル部のコア部を覆っている部分の厚みとしては、電子およびフォノンを伝導させることができ、かつ、量子効果を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には1nm?100nmの範囲内であることが好ましく……上記厚みが薄すぎると電子が十分に伝導されなくなり、導電性が減少して性能が低下する可能性があるからである。逆に、上記厚みが厚すぎるとコア部によるフォノンの散乱効果が得られにくくなる場合があるからである。」と記載されている。
一方、本件補正発明が「前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」としたことの意義に関しては、段落【0037】に「上記コア部微粒子の平均粒径は、フォノンを効果的に散乱することができる大きさであれば特に限定されるものではないが……特に2nm?50nmの範囲内であることが好ましい。上記平均粒径が大きすぎると、コアシェル構造体の形成時に例えば図3(a)に示すようにコアシェル微粒子12を隙間なく配列してもコアシェル微粒子12間に生じる空間bが大きくなり、圧縮成型する際にこの空間bにシェル部2の構成材料が流動し、例えば図3(b)に示すようにコア部1がシェル部2に覆われていない部分cが生じ、コアシェル構造を維持できなくなり、シェルの厚みが極端に薄い部分や極端に熱い部分を生じる可能性があるからである。また、平均粒径が上記範囲内より小さい微粒子は、製造が困難であるからである。」と記載されている。
これに対して、本願明細書の段落【0077】?【0093】に開示された「【実施例】」には、「粒径が3nmのZnO微粒子」(段落【0079】)をコア部とし、膜厚が8.5nm(段落【0079】、【0082】の記載から換算)であるシェル部を有する「実施例1」と、「粒径が2nmのRh微粒子」(段落【0090】)をコア部とし、膜厚が4nm(段落【0090】、【0091】の記載から換算)であるシェル部を有する「実施例2」とを、それぞれ、コア部となる材料を添加しなかった外は「実施例1」と同様に製造した「比較例」と対比したときの「評価」結果が示されているだけである。

カ すなわち、本件補正発明が「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらに前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」としたことの意義に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、類推や可能性に基づく見解が記載されているだけで、その見解は「実施例」の記載によって裏付けられていない。
したがって、本件補正発明が「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらに前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」とした点に、臨界的な意義が存するとは認められない。

キ さて、引用発明の「電熱変換素子」に、より大きな性能係数を要求すること、そのために、引用発明の「ガラス、セラミック、あるいはこれらの多孔質体等の低熱伝導材料からなる複数の粒子8と、前記粒子8の周りにメッキまたは融着等の手段によって形成された、カルコゲナイド系材料からなり半導体としての機能を果たす被覆層9とを備えた粒子を、焼結により結合した構成」により小さい熱伝導率を要求することは、引用発明が当然に有する課題である。
そして、前記「構成」の熱伝導率を小さくするため、「導電率は十分に高く維持される」ために「機能」する、すなわち、流れる電子の経路となる「被覆層9」で「周り」が被覆された「低熱伝導材料からなる前記粒子8」に、フォノンを散乱させようとすることは、当業者であれば当然に想起したものと認められる。
してみれば、引用発明において、必要とする「全体の熱伝導率」の大きさに応じて、「低熱伝導材料からなる前記粒子8」の粒径を、前記周知技術のように4nm?50nmの範囲で設定することで、前記「低熱伝導材料からなる前記粒子8」によりフォノンを散乱させて「熱伝導率」を低下させ、「低熱伝導材料からなる前記粒子8の介在」による「全体の熱伝導率」の「低下」の効果をより大きくしようとすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
このとき、粒径が2nm?50nmの範囲内であるコア部となる粒子を膜厚が1?10nmであるシェル部となる弱導電性あるいは導電性の材料で被覆して、ナノオーダーの超微粒子を形成することが、前記周知例3?5に記載されるように周知技術であることを考慮すれば、この粒径が4nm?50nmの範囲の範囲である超微粒子を被覆する「半導体としての機能を果たす被覆層9」の厚さを、当該周知技術のように、1?10nmに設定することは、当業者が適宜なし得たものと認められる。
以上のとおりであるから、引用発明の「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造」を有する「前記粒子」において、「前記粒子8」の粒径を4nm?50nmの範囲で設定し、「被覆層9」の厚さを1?10nmに設定することにより、「前記粒子」を粒径がナノオーダーの超微粒子とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

ク 周知例1:特開平10-242535号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平10-242535号公報には、「熱電材料及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
・「【0003】
【数1】Z=α^(2)/(ρ×κ)
この性能指数Zが大きいほど熱電材料として高性能である。このため、性能指数Zを向上させる手段の1つとして材料の熱伝導率κを低減することが望まれる。すなわち、熱電材料は温度差により発電するものなので、熱伝導率κが低い程、温度差を生じ易いということになる。
【0004】材料の熱伝導率κを低減するために、熱電材料の出発原料の粒子に熱電材料の母材と反応しない粒径数nm?数十nmの超微粒子(不活性超微粒子)を添加することがある。これにより、不活性超微粒子が熱電材料における熱伝導の主要因であるフォノンを散乱させて、熱伝導率κを低減することができる。」

・「【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。熱電材料は、出発原料を超微粒子とし、それに母材と反応しない超微粒子である不活性超微粒子を均一に分布する状態に添加して焼結して成るようにしている。すなわち、熱電材料1は、図1に示すように、超微粒子の結晶粒2とそれに均一に分布する状態に添加された超微粒子の不活性超微粒子3とから成る。本実施形態では、出発原料としてビスマス・Bi,テルル・Te,アンチモン・Sb,セレン・Seの超微粒子を使用して合金化された結晶粒2が用いられる。また、不活性超微粒子3としてはBNの超微粒子を使用している。このため、この熱電材料1はBNの超微粒子を含んだビスマス-テルル系の焼結体とされている。」

・「【0021】この熱電材料1を製造する手順を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。本実施形態では、熱電材料1を製造する手順は出発原料及び不活性超微粒子3から合金の微粉末を合成する粉末合成工程(ステップ10?12)とこの微粉末を焼結する焼結工程(ステップ13?14)との2工程から成るものである。
【0022】粉末合成工程では、出発原料として単体のBi,Te,Sb,Seの超微粒子と不活性超微粒子としてのBNの超微粒子とを用意する(ステップ10)。これらの超微粒子の粒径は0.01μm程度である。これらの超微粒子をグローブボックス内に入れて混合粉砕機を用いてメカニカルアローイング法により摩砕,混合する(ステップ11)。これにより、Bi,Te,Sb,Seが合金化して、Bi-Te-Sb-Se系の合金粒子あるいはBi-Te-Sb系の合金粒子と不活性超微粒子とが、例えば合金粒子数個と不活性超微粒子1個の割合で結合した微粉体を構成する(ステップ12)。この微粉体の粒径は0.1μm程度となる。また、合金粒子としては、例えば(Bi_(2)Te_(3))_(90)(Sb_(2)Te_(3))_(5)(Sb_(2)Se_(3))_(5)のn型熱電材料の合金粒子や、(Sb_(2)Te_(3))_(70)(Bi_(2)Te_(3))_(30)のp型熱電材料の合金粒子が作られる。合金粒子の組成はこれらのものに限定されないことは言うまでもない。
【0023】そして、焼結工程では、このBi-Te-Sb-Se系の微粉体を放電プラズマ焼結加工法により焼結する(ステップ13)。具体的には、例えば住石放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業株式会社製)により焼結を行う。これにより、Bi-Te系焼結体を得ることができる(ステップ14)。このBi-Te系焼結体が熱電材料1として使用される。
【0024】したがって、この手順により製造された熱電材料1は、出発原料と不活性超微粒子3とのいずれもが超微粒子で同等の大きさとなるので、出発原料の大きさを基準とすると不活性超微粒子3は結晶粒2に対して偏在することなく分散して均一に分布する。このため、熱電材料1中でフォノンが十分に散乱されて熱伝導率を低減させることができる。また、不活性超微粒子3は均一に分布されているので、熱伝導率以外の電気抵抗率やゼーベック係数の劣化による性能指数の低下量よりも熱伝導率の低減による性能指数の増加量を大きくして性能指数を増加させることができる。
【0025】ここで、熱電材料1中のフォノンは、不活性超微粒子3の粒径よりも大きい波長について散乱される。例えば、不活性超微粒子3の粒径が4nmであれば4nm以上の波長のフォノンが散乱されることになる。そして、フォノンの波長は0.4nm以上であり、4nm程度のものが最も多い。したがって、本実施形態では不活性超微粒子3として大きさの小さいBNを使用しているので、フォノンの波長成分のうち最も多い4nm程度の部分を効率的に散乱することができる。これにより、熱電材料1の熱伝導率を十分に低減させることができる。」

ケ 周知例2:特開2001-284661号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2001-284661号公報には、「高温用n型熱電素子組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
・「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の母材として用いられる酸化亜鉛超微粒子とは、平均粒径が200nm以下の酸化亜鉛をいい、好ましくは5?100nmのものである。ここでの粒径は、透過電子顕微鏡で観察された200個以上の粒子の体積平均粒径である。ここで超微粒子を用いたのは、素子の熱伝導率を下げるためである。本発明者らは、超微粒子を用いたことにより熱伝導率が下がる理由を次ぎのように考えている。」

・「【0009】電子熱伝導率はキャリア濃度に依存するのに対して、格子熱伝導率はキャリア濃度への依存が小さいことが知られている。そこで、格子熱伝導率を下げることで、ゼーベック係数や電気伝導率に与える影響を押さえつつ、熱伝導率を下げることで、熱電材料の性能を向上させる手段が提案されている。その手段の1つに結晶粒界面でのフォノン散乱を利用する方法がある。フォノン散乱を起こさせることで格子熱伝導率を下げるためには、結晶粒界面を増加させてより多くのフォノンを散乱させることが好ましく、そのために結晶粒径を微細化する方法がある。そこで、微細な結晶粒径を持つ素子を作成するために予め粒径の小さい超微粒子を出発原料として用いることが有効と考えられることから、本発明では平均粒径が5?100nmの超微粒子を出発原料として用いた。また、平均粒径が5?100nmの超微粒子を出発原料として用いることで、原料間の反応が促進されることも期待できる。」

・「【0019】次に上記の混合工程において得られた混合原料粉を成形・焼結する。成形・焼結工程としては、加圧成形後焼結する方法と、加圧しながら焼結する方法の何れの方法も用いることができる。
……(中略)……
【0022】加圧しながら焼結する方法としては、ホットプレス焼結法、熱間等方圧焼結法、放電プラズマ焼結法などの何れの方法も用いることができる。」

・「【0024】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、原料の履歴及び熱電材料の評価方法は下記のとおりである。
〔原料〕原料となる金属化合物は、予め130℃の乾燥機中で乾燥した。酸化亜鉛超微粒子及びアルミナ超微粒子は気相法により製造された平均粒径50nmのものを使用した。それ以外の金属酸化物は市販品を使用した。
〔ゼーベック係数及び電気伝導率〕サンプルを角棒状に切断し、表面研磨した後に、熱電能測定装置(真空理工製ZEM-1S)を用いて測定した。」

コ 周知例3:特開平11-061399号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平11-061399号公報には、「セラミックス被覆粉末の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
・「【0014】
【実施例】
実施例1:種々の粒径をもつ絶縁性セラミックス粉末に、前掲の式(1)から求められた膜厚になるようにTiN,AlN,TiC,ZrN,CrN等の弱導電性セラミックスを反応性スパッタリングで被覆した。内径10mmの絶縁性ダイスに被覆粉末を充填し、圧力10MPaで加圧した後、上下の電極間の電気抵抗を測定した。また、比較のため同重量割合で粉末原料及び被覆原料を絶縁性ダイスに充填し、同様に加圧して電気抵抗を測定した。このうち、立方晶BN粉末にTiNを被覆した場合で、電気抵抗が粉末原料よりも2桁以上改善された被覆粉末の表面状態を観察したところ、図2に示すように立方晶BN粉末粒子の表面がTiN層で均一に被覆されていた。他方、電気抵抗が粉末原料よりも1桁以上改善された被覆粉末の表面状態を観察したところ、図3に示すようにTiN層は膜状ではなく粒状で立方晶BN粉末粒子の表面に付着していた。
【0015】そこで、電気抵抗が2桁以上改善された場合を粉末粒子がセラミックスで均一に被覆されているもの(○),電気抵抗の改善度が2桁に満たないものを不均一被覆(×)と判定し、各粉末原料に対する被覆原料の付着状態を調査した。ただし、粉末原料が導電性のTi粉末に絶縁性のAl_(2)O_(3)を被覆したものでは、逆に電気抵抗が2桁以上下がった場合を均一被覆(○),電気抵抗の低下度が2桁に満たない場合を不均一被覆(×)と判定した。判定結果を示す表1?4にみられるように、本発明で規定した条件下の反応性スパッタリングによって被覆したものでは、何れも均一な被覆層が得られていることが確認された。これに対し、本発明で規定した条件を外れる反応スパッタリングで形成された被覆層は、粒状又は島状の不連続皮膜になっていた。」

・前記「判定結果」を示す表1?4には、セラミックス粉末粒子がセラミックスで均一に被覆されているもの(○)として、「被覆種の結晶子径」が30?50nm、前記被覆の「膜厚」が1?10nmであるものが記載されている。

サ 周知例4:特開平11-154676号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平11-154676号公報には、「金属配線およびその形成方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
・「【0028】ここで、金属微粒子4は、直径50nmのAl微粒子5と、このAl微粒子5の表面を被覆する厚さ5nmのW薄膜6とから構成されている。このような金属微粒子4は、例えば化学反応によりWの水溶液中でAl粉の表面にWを析出させるという無電界メッキにより形成することができる。」

シ 周知例5:特開2003-064278号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平2003-064278号公報には、「コアシェル型半導体ナノ粒子」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
・「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明につき詳細に説明する。
[半導体ナノ粒子]本発明の半導体ナノ粒子は、半導体ナノ結晶のコア(内核)と金属等導電体のシェル(外殻)とからなるコアシェル型粒子が、その粒子表面に表面修飾分子を結合してなるものである。かかる半導体ナノ粒子は、該表面修飾分子の効果により樹脂マトリクスに良好に分散し、後述する本発明の樹脂組成物を与えるものである。
【0014】該コアシェル型粒子の数平均粒径は2?50nmである。該数平均粒径が小さすぎると、半導体の体積分率が小さくなる、もしくは半導体の結晶性が極端に低下するといった理由により、半導体結晶の特徴である吸発光特性や高屈折率性といった物性の発現が不十分となる場合がある。従って、該下限値は好ましくは3nm、更に好ましくは4nmである。一方、該数平均粒径が大きすぎると、本発明の樹脂組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、該上限値は好ましくは40nm、更に好ましくは30nmである。
……(中略)……
【0016】上記コアシェル型粒子における導電体シェルの厚さは、通常0.5?10nm程度である。該シェルの厚さの下限値が小さすぎると半導体ナノ結晶の光触媒能減殺の効果が極端に低下する場合があるので、好ましくは1nm、更に好ましくは2nmである。一方、該シェルの厚さの上限値が大きすぎると半導体の体積分率が小さくなり半導体結晶の特徴である吸発光特性や高屈折率性といった物性の発現が不十分となる場合があるので、好ましくは8nm、更に好ましくは5nmである。該シェルの厚さは、上記TEM観察により可能であり、必要に応じて与えられた粒子の元素分析値から算出されるコア半導体との量比も加味して精度良く決定することができる。」

・「【0032】前記導電体シェルは、半導体ナノ結晶コアの光触媒能を減殺する効果を発揮する限りにおいて該シェルの化学組成の純度に制限はなく、例えば2種類以上の金属の合金であってもよく、遷移金属シェルである場合にはその表面が酸化物や硫化物等のカルコゲニド組成を含有していてもよい。特に好適な半導体ナノ粒子として、紫外線吸収能に優れた酸化チタン類(例えばルチル型又はアナタース型チタニア)や酸化亜鉛をコアとし、銀や金などの電気伝導率と化学的安定性に優れた遷移金属シェルを有するものが例示される。
【0033】[導電体シェルの形成方法]前記導電体のシェルを半導体ナノ結晶コアの表面に形成させる方法に制限はないが、代表的な導電体である金や銀等の遷移金属のシェルは、例えば、前記従来技術で述べた化学メッキ法やその前処理法である金属塩水溶液中において還元剤等を加えて金属陽イオンを還元し0価金属を生成する反応により形成可能である。例えば、塩化金酸又はその塩(例えば塩化金酸ナトリウム)、硝酸銀、過塩素酸銀、塩化銅等の遷移金属イオン化合物又はその塩を、クエン酸又はその塩(例えばクエン酸ナトリウム)、酒石酸やその塩(例えば酒石酸ナトリウム)、水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素リチウム等の水素化ホウ素塩、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類、エタノールやメチルセロソルブ等のアルコール類等の還元剤と接触させる還元反応により可能である。かかる還元反応は光の照射により促進してもよい。」

(5-2)相違点2について
ア 引用発明のように、「前記粒子8が前記被覆層9で被覆された構造を有する複数個の前記粒子」を「焼結により結合」するに際しては、一般に、前記「複数個の前記粒子」を加圧し圧縮成型した状態で前記「焼結」を行うものである。

イ したがって、引用発明においても、前記「複数個の前記粒子」を圧縮成型するとともに「焼結により結合」していると解され、よって、相違点2は実質的な相異点ではない。

ウ なお、圧電変換材料の技術分野において、複数の粒子を焼結・結合する圧電変換材料を形成する際に、前記複数の粒子を加圧・圧縮して成型することは、平成22年1月12日付けの最後の拒絶理由通知で引用された特開平05-152613号公報の段落【0011】、平成21年1月14日付けの拒絶理由通知で引用された特開2000-261047号公報の段落【0018】、前記周知例2の段落【0019】及び【0022】、前記周知例1の段落【0023】に、それぞれ記載されるように、通常行われる常套手段にすぎない。
よって、仮に、相違点2が実質的な相異点であるとしても、引用発明において、前記「複数個の前記粒子」を圧縮して「焼結により結合」することは、当業者であれば、当然になし得たものと認められる。

(5-3)審判請求人の主張
ア 審判請求人は、平成24年1月10日に提出した回答書において、
A.「フォノンの散乱効果や量子効果を用いる点が一切示唆されていない引用文献1に接した当業者が、いかに通常行う創作能力を発揮しても、シェル部の膜厚を1nm?100nmにし、さらにコア部の粒径を2nm?50nmの範囲内にしてみることを想到することは、極めて難しいものであると考えます。」、
B.「引用文献1に接した当業者は、通常行う創作能力の範囲内であれば、引用文献1に記載された製造方法の範囲内でコア部の大きさ(粒径)及びシェル部の膜厚を調整し、その最適範囲を見出そうとするものであると思われます。しかしながら、このような製造方法ではシェル部の膜厚を1nm?100nmにし、さらにコア部の粒径を2nm?50nmの範囲内にすることは極めて困難であります。」、
と主張している。

しかしながら、
イ 上記Aの主張については、「(5-1)相違点1、3及び4について」の項において検討したとおりである。

ウ 上記Bの主張についても、「(5-1)相違点1、3及び4について」の項のウにおいて指摘したとおり、熱電変換材料の技術分野において、粒径を4nm?50nmの範囲のセラミック微粒子をフォノンを散乱させるための散乱中心物とすることは周知技術であり、また、同ウにおいて指摘したように、粒径が2nm?50nmの範囲内であるコア部となる粒子を、無電解メッキ等の湿式メッキ、または、スパッタリング等の乾式メッキにより、膜厚が1?10nmであるシェル部となる弱導電性あるいは導電性の材料で被覆することも、周知技術であった。

(6)独立特許要件を満たすかどうかの検討のまとめ
以上のとおり、相違点1?4は、いずれも、格別のものではなく、引用発明を前記各相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 小括
以上の次第で、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 以上のとおり、本件補正(平成22年8月3日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成21年3月16日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書または図面の記載からみて、その請求項1?5に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
「複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル微粒子の圧縮成型体として形成され、複数のコア部と前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル構造体からなる熱電変換材料であって、前記複数のコア部は互いに独立し、前記シェル部は連続しており、さらに前記コア部が前記コアシェル構造体中に均一に分散していることを特徴とする熱電変換材料」

2 引用例1の記載と引用発明
引用例1の記載と、引用発明については、前記「第2 平成22年8月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」における「3 独立特許要件を満たすかどうかの検討」の「(3)引用例の記載と引用発明」において、「(3-1)引用例の記載」で摘記したとおりであり、「(3-2)引用発明」において認定したとおりである。

3 対比・判断
前記「第2 平成22年8月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」における、「1 本件補正の内容」の「〈補正事項1〉」、及び、「2 補正目的の適否」の「(1)補正事項1について」で検討したように、本件補正発明は、本件補正前の発明である本願発明に、「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらに前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」との事項を追加して、本願発明をより限定したものである。逆に言えば、本願発明は、本件補正発明から、上記の「前記シェル部の膜厚は1nm?100nmであり、さらに前記コア部の粒径が2nm?50nmの範囲内である」という限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本件補正発明が、前記「第2 平成22年8月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」における「3 独立特許要件を満たすかどうかの検討」において検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-02 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2004-106425(P2004-106425)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一池渕 立後谷 陽一  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 近藤 幸浩
早川 朋一
発明の名称 熱電変換材料  
代理人 山下 昭彦  

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