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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1262434
審判番号 不服2010-24995  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-08 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2005-108405「ダイバーシティ受信機及び信号処理回路」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-287845〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年4月5日の出願であって、平成22年5月20日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年7月23日付けで手続補正がなされたが、平成22年8月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年11月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年11月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成22年11月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲のうち、請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】
複数のアンテナに発生する受信信号の1つを切替え選択して出力する切替手段と、前記切替手段からの受信信号に含まれるノイズ量を検出するノイズ検出手段と、前記ノイズ検出手段より出力されるノイズ量に関するノイズ成分の絶対値と閾値とを比較することにより前記切替手段を制御する制御手段とを備えるダイバーシティ受信機であって、
前記制御手段が、前記ノイズ成分の絶対値が前記閾値よりも大きいと判断した場合、前記切替手段に対してアンテナの切替え制御を行うとともに、前記閾値をアンテナ切替え前のノイズ成分の絶対値に設定することを特徴とするダイバーシティ受信機。」

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-283234号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)「特許請求の範囲
1.アンテナ切換ダイバーシティにおけるアンテナ切換方法であってアンテナを切換える直前の受信電界レベルを切換閾値として切換閾値を遂次変更してゆき、受信電界が前記切換閾値以下になるとアンテナを切換えることを特徴としたアンテナ切換方法。」

(2)「(発明の目的)
本発明の目的は上述の従来のダイバーシティ受信機の欠点をなくし全体的な受信電界レベルの変動に応じて閾値が変動し常に良好な状態のアンテナを使用するダイバーシティ受信機を提供することにある。
(発明の構成)
本発明によればアンテナ切換ダイバーシティにおげるアンテナ切換方法であってアンテナを切換える直前の受信電界レベルを切換閾値として切換閾値を遂次変更してゆき、受信電界が前記切換閾値以下になるとアンテナを切換えることを特徴としたアンテナ切換方法を提供することができる。
(発明の原理)
アンテナ切り替えダイバーシティの本来の目的は受信電界の高い方のアンテナを使用することである。本発明においてはこの本来の目的に立ち戻り受信電界の高い方のアンテナを使用する方法をとる。そのためには他方のアンテナでの受信電界を切換閾値とする。つまり切換直前の受信電界を切換閾値とすれば常に受信電界が高い方のアンテナを使用することが期待できる。但しこの方法では常に受信電界が切換閾値以下になった時に切換が起るため、新たな切換閾値は常に前の切換閾値よりも低いレベルになる。
このため閾値は減少するばかりで最終的には最も弱い電界の値に固定してしまいダイバーシティとしての機能をしなくなる。従って受信電界が上昇して十分高いときに何等かの方法で閾値を上昇させる必要がある。但しこの方法は本発明の範囲外でありどのような方法でもよい。」(第2頁右上欄第12行?同頁右下欄第4行)

(3)上記(1)?(2)の記載を総合すれば、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「アンテナを切換える直前の受信電界レベルを切換閾値として切換閾値を遂次変更してゆき、受信電界が前記切換閾値以下になるとアンテナを切換えるダイバーシティ受信機。」

3. 対比・判断
(1)本願補正発明と引用発明との対比
引用発明における「切換」、「切換え」と、本願補正発明における「切替」、「切替え」とは、用語の表現が異なるだけで、技術的な意味は同じであるから、以下では、「切替」、「切替え」に統一して記述する。

引用発明は、アンテナを切替えるダイバーシティ受信機であるから、「複数のアンテナに発生する受信信号の1つを切替え選択して出力する切替手段」を備えていることは自明である。

引用発明は、受信電界レベルが切替閾値以下になるとアンテナを切り替えるもの、すなわち、受信電界レベルと切替閾値とを比較して、この比較結果に基づきアンテナを切り替えるものであるから、「前記切替手段を制御する制御手段」を備えていることも自明である。
そして、本願補正発明は、ノイズ成分の絶対値と閾値とを比較するのに対して、引用発明は、受信電界レベルと閾値とを比較するが、ノイズ成分も受信電界レベルも共に受信状態を表す値であるから、両者は、受信状態を表す値と閾値とを比較する点で共通する。
それゆえ、本願補正発明と引用発明とは、「受信状態を表す値と閾値とを比較することにより前記切替手段を制御する制御手段」を備える点で共通する。

引用発明は、受信電界が切替閾値以下になるとアンテナを切替えるものであって、アンテナを切替える直前の受信電界レベルを切替閾値として切替閾値を逐次変更していくものであるから、本願補正発明と引用発明とは、「受信状態を表す値と閾値との比較結果に基づき、前記切替手段に対してアンテナの切替え制御を行うとともに、前記閾値をアンテナ切替え前の受信状態を表す値に設定する」ものである点で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点]
「複数のアンテナに発生する受信信号の1つを切替え選択して出力する切替手段と、受信状態を表す値と閾値とを比較することにより前記切替手段を制御する制御手段とを備えるダイバーシティ受信機であって、
前記制御手段が、受信状態を表す値と閾値との比較結果に基づき、前記切替手段に対してアンテナの切替え制御を行うとともに、前記閾値をアンテナ切替え前のノイズ成分の絶対値に設定するダイバーシティ受信機。」

[相違点]
本願補正発明は、切替手段からの受信信号に含まれるノイズ量を検出するノイズ検出手段を備え、前記ノイズ検出手段より出力されるノイズ量に関するノイズ成分の絶対値を、受信状態を表す値として用いて、ノイズ成分の絶対値が前記閾値よりも大きいか否かを判断してアンテナの切替制御を行うのに対して、
刊行物1発明は、切替手段からの受信信号に含まれる受信電界レベルを検出して、前記受信電界レベルが切替閾値よりも小さいか否かを判断してアンテナの切替え制御を行う点。

(2)相違点に対する判断
ダイバーシティ受信機において、受信信号に含まれるノイズ量を検出し、検出したノイズ量が閾値よりも大きいときにアンテナの切替制御を行うことは周知のことである。
例えば、特開平7-30472号公報の段落【0011】には、受信機の検波出力信号の中のノイズ成分が閾値を超えるとアンテナの切替が行われることが、特開2003-60540号公報の段落【0002】?【0009】にも、中間周波信号を検波した検波信号のノイズ成分が閾値を超えるとアンテナの切替が行われることが記載されている。
また、ノイズ成分を比較する際に、ノイズ成分の絶対値で比較するか否かは設計的事項であって、例えば、特開2004-158997号公報や特開2003-283397号公報においても、検出したノイズ成分を両波整流したり(特開2004-158997号公報)、両側検波して(特開2003-283397号公報)、ノイズ成分の絶対値によってノイズ量を把握している。

一方、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-119329号公報の段落【0035】に、ダイバーシティ受信機において、「受信電波の電界強度が規定値を超えていないとき(ステップS1)、マルチパスノイズ量が規定値未満でないとき(ステップS2)、または高周波ノイズ量が規定値未満でないとき(ステップS3)アンテナを切り替え(ステップS5)るようにする。」と記載されているように、ダイバーシティ受信機のアンテナの切替制御のための受信状態を表す値として、受信電界レベルも、ノイズ量も、共に、対等なものとして用いられているものであるから、引用発明において、受信電界レベルによってアンテナ切替制御を行うことに代えて、ノイズ量によってアンテナ切替制御を行う周知の手法を用いること、すなわち、切替手段からの受信信号に含まれるノイズ量を検出するノイズ検出手段を備え、前記ノイズ検出手段より出力されるノイズ量に関する値を、受信状態を表す値として用いて、ノイズ成分の値が前記閾値よりも大きいか否かを判断してアンテナの切替制御を行うことは、当業者が容易になし得たことである。
その際、ノイズ成分の絶対値を用いることは、上記したように設計的事項にすぎない。

結局のところ、引用発明において、受信電界レベルによってアンテナ切替制御を行うことに代えて、ノイズ検出手段より出力されるノイズ量に関するノイズ成分の絶対値を、受信状態を表す値として用いて、ノイズ成分の絶対値が前記閾値よりも大きいか否かを判断してアンテナの切替制御を行うことは、当業者が容易になし得たことである。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、従来は、「ノイズAGC回路は、頻繁なアンテナ切替が起きないように感度を低下させているが、このような感度の低下はAGC回路の時定数をもって変化させるため、瞬時に受信状態の良いアンテナを選択することができないという技術課題があり、本願発明はこの技術課題を出発点とし、この技術課題を解決するために、ノイズ量自体(ノイズ成分の絶対値)をアンテナ切替用の閾値に設定することで、アンテナ切替の追従性を確保できるようにしたものである。」、また、「引用文献1(審決注:特開昭61-283234号公報)の電力値に代えて引用文献2(審決注:特開2001-119329号公報)のノイズ量を採用することには何ら必然性が存在せず、かつ、引用文献1、2にその点の記載及び示唆は何らないので、このような構成が記載されていない引用文献2に記載された発明と引用文献1に記載された発明とを組み合わせれば本願の発明の構成を当業者が容易に想到できた、という原審審査官の認定には到底承服することはできない。」と主張している。
しかし、ノイズAGC回路を備えずに、受信電界レベルが切替閾値以下になるとアンテナを切り替える引用発明は、瞬時に受信状態の良いアンテナを選択するものであって、アンテナ切替の追従性を確保できるものであるから、審判請求人の主張は当を得ないものである。
また、引用発明における電力値(審決注:受信電界レベル)に代えてノイズ量を採用することが容易になし得たことであることは、上記「相違点に対する判断」において述べたとおりである。

また、審判請求人は、平成24年6月7日付けの回答書において、引用文献には、「マルチパスノイズによって、比較的短時間に発生する『こだま』現象や『ゴースト』現象、さらに、ダイバーシティアンテナの頻繁な切替えを回避する効果を意図した構成は開示されていない。つまり、『ダイバーシティ受信機において、ノイズ成分の絶対値が閾値よりも大きいと判断した場合、アンテナの切替え制御を行うとともに、閾値をアンテナ切替え前のノイズ成分の絶対値に設定する』構成が開示されていない以上、引用文献1?3の記載に基づいて当業者が本願発明の構成に容易に想到できたとすることは困難である。」と主張している。
しかし、一般に、ダイバーシティ受信機が、マルチパスノイズに対しても対応するものであることは、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-119329号公報の段落【0035】に、「マルチパスノイズ量」を閾値と比較する旨が記載されていることや、周知技術として提示した特開平7-30472号公報、特開2004-158997号公報、特開2003-283397号公報のものが、マルチパスノイズに対応するものであることからも明らかであるから、引用発明もマルチパスノイズに対応するものと認められる。
これらの文献に示される、マルチパスノイズに対応する周知のものは、ノイズ量が閾値を超えたときにアンテナを切り替えるものである。仮に、引用発明がマルチパスノイズに対応するものでないとしても、引用発明において、受信電界レベルによってアンテナ切替制御を行うことに代えて、ノイズ量によってアンテナ切替制御を行う周知の手法を用いたものが、マルチパスノイズに対応することは、当然の帰結である。

4.まとめ
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成22年11月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年7月23日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
複数のアンテナに発生する受信信号の1つを切替え選択して出力する切替手段と、前記切替手段からの受信信号に含まれるノイズ量を検出するノイズ検出手段と、前記ノイズ検出手段より出力されるノイズ量と閾値とを比較することにより前記切替手段を制御する制御手段とを備えるダイバーシティ受信機であって、
前記制御手段が、前記ノイズ量が前記閾値より大きいと判断した場合、前記切替手段に対してアンテナの切替え制御を行うとともに、前記閾値をアンテナ切替え前のノイズ量に設定することを特徴とするダイバーシティ受信機。」

2.引用文献
原審拒絶理由に引用された文献、および、その記載事項は、前記第2 2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明の限定事項である構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2 3.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-26 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2005-108405(P2005-108405)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 崇  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 加藤 恵一
本郷 彰
発明の名称 ダイバーシティ受信機及び信号処理回路  
代理人 西岡 義明  
代理人 川崎 勝弘  

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