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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1262442
審判番号 不服2011-7365  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-07 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2001-133033「インクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月12日出願公開、特開2002-326366〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成13年4月27日の出願であって、平成22年11月2日付けで手続補正がなされ、同年12月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年4月7日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成24年3月22日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年5月28日付けで手続補正がなされたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年5月28日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、平成24年5月28日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「インクを吐出して記録を行う記録ヘッドと、
該記録ヘッドの吐出口面と当接することにより前記吐出口面との間に密閉空間を形成するためのリブと、該リブの内側に配されインクを吸収するための吸収体とを有するキャップ部材と、
前記キャップ部材と連通し前記密閉空間内に負圧を発生させるための負圧発生手段と、
を備えるインクジェット記録装置において、
前記キャップ部材は、前記リブと同一部材によって形成され前記負圧発生手段により前記密閉空間内が所定値以上の負圧になり前記リブが所定量変形した場合に前記吐出口面に当接し前記吐出口面と前記吸収体との間に隙間を維持するための当接部と、前記リブに該リブと同一部材によって形成され前記キャップ部材から前記吸収体が脱落するのを防止するための爪部と、をさらに有することを特徴とするインクジェット記録装置。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物の記載事項

(1)当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である実用新案登録第2532368号公報(以下「引用例1」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】印字ヘッドの前面に形成したノズル部を被覆する弾性部材より成るキャップ部材と、該キャップ部材の内面に前記ノズル部と対向し且つインク吸引手段に接続するように配設した前記ノズル部を覆う大きさのインク吸収体と、前記キャップ部材を前記印字ヘッドの前面と弾接する周縁部を残して背面側から支持するキャップ固定枠とを備え、該キャップ固定枠には、前記印字ヘッドの前面と対向する端面で前記キャップ部材の前記周縁部の外側に、前記インク吸収体と前記ノズル部との間に若干の間隙を設けて前記キャップ部材を前記印字ヘッドの前面に圧接可能ならしめる調整部材を突設したことを特徴とするインクジェットプリンタのキャッピング装置。」(1欄1?14行)

イ 「【考案の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本考案はノズルよりインク滴を噴射して記録媒体に文字等の記録を行うインクジェット記録装置の中で、特にその記録ヘッドにおけるインクの乾燥を防止するとともに、インクの漏れによる周辺部の汚れを防ぐようなインクジェット記録ヘッドのキャッピング装置に関するものである。
[従来の技術]
従来、インクジェット記録装置のキャッピング装置は、実開昭63-47136のようにキャップ内にインク吸収体を設けキャップを開いた際のインク垂れを防止したり,ノズル前面部に残留したインクを除去するように構成されていた.
[考案が解決しようとする課題及び目的]
しかし、従来のキャッピング装置では、ポンプにより発生した負圧によりインク噴射ノズルがキャップ内に設けたインク吸収体に接触してしまうことがあるため,ノズル前面のヌレが不均一になることによる印字乱れを引き起こしたり,キャップ吸収体に付着した異物がインク噴射ノズルに移ることによりインク噴射ノズルの前面部のヌレが不均一になり印字乱れを引き起こすことがあるという問題点を有していた。また、キャップの弾性部材の変形が不適切な場合や、印字ヘッドに弾接させるときにキャップが上下、左右方向に回転してしまった場合、キャップと印字ヘッドとの間に隙間が生じ、確実なキャッピングができないという問題点を有していた。更に、キャップを印字ヘッドに弾接させたとき及びキャップを介してインクを吸引したときにキャップがつぶれ過ぎると、キャップ内に配設したインク吸収体がノズル面に接触してしまい前述したような問題が生じるが、一方でインク吸収体を可能な限りノズルに近付けた方がノズルの保湿効果は高まるため、インク吸収体とノズル面との距離を調整する必要があった。
そこで本考案はこのような問題点を解決するもので、その目的とするところは、キャップを印字ヘッド前面に確実に密着させることができるとともに、ノズル部への異物の付着やノズル面の不均一なインクのヌレを防止し、全ノズルから安定して良好なインク噴射が可能で、更にキャッピング中は全ノズルを効率良く湿潤状態に保持できるインクジェットプリンタのキャッピング装置を提供することにある。」(1欄15行?3欄26行)

ウ 「[作用]
本考案の上記構成によれば、インク噴射ノズルはキャップ吸収体に直に接触しないため、キャップ吸収体の異物がインク噴射ノズル部へ付着することがなく、インク噴射ノズル部のヌレを不均一にすることもない安定したキャッピングが可能となる。また、キャップの弾性体を適切な変形にすることが可能である。」(3欄41?47行)

エ 「[実施例]
本考案のインクジェットプリンタのキャッピング装置を図面に基づき説明する。
第1図は、本考案の一実施例であり、1はインクジェットプリンタのインク噴射ノズル、9はインク噴射ノズルを取り付けるケースである。2は、インク噴射ノズル1を保護するためのゴム材料などの弾性体よりなるキャップであり、3はキャップ2を固定するキャップ固定枠である。キャップ2の内面にはインク噴射ノズル部を覆う大きさのキャップ吸収体4がインク噴射ノズル部と対向するように配設されている。キャップ2はケース9に覆われた印字ヘッド体の前面に弾接する(審決注:「弾性する」は「弾接する」の明らかな誤記なので訂正して摘記した。)周縁部を残して背面側からキャップ固定枠3により支持されている。またキャップ2は、キャップ内の圧力を制御する弁手段6にチューブ5を介して連通しており、更に、インク吐出不良を起こしたときにインクを吸引するためのポンプ装置8がチューブ7を介してキャップ吸収体4に接続されている。従って、キャップ吸収体4はインク吸引時にキャップ内に充満したインクを吸収してキャップ2からのインクの垂れを防止するとともに、吸収したインクの蒸気でインク噴射ノズル1を湿潤状態に保持することができる。
キャップ固定枠3には、印字ヘッド前面と対向する端面でキャップ2の前記周縁部の外側に、キャップ2とケース9に覆われた印字ヘッド体とを接触させたときに距離aの間隔をおくような度当たり3a,3b,3cが突設されている。この距離aは、インク噴射ノズル1の前面1aとキャップ吸収体4の距離bより小さくなるように設定する。つまり、
a<b
となるように設定する。キャップ固定枠3の度当たり3a,3b,3cは、第2図に示したようにキャップ2の周りに付設するのがよい。
この様に構成されたキャッピング装置においては、インクの吐出不良が生じその回復のための吸引手段としてポンプ装置8を動作させた際,キャップ内が負圧になることにより弾性体でできたキャップ2は変形してインク噴射ノズル1の前面1aとキャップ吸収体4の距離が小さくなりケース9のキャップ2に対向した面9aとキャップ固定枠3に付設した度当たり3a,3b,3cの距離だけ小さくなったところで安定する。このときbはa<bのように設定されているためインク噴射ノズル1の前面1aとキャップ吸収体4が接触することはない。
この実施例では、第2図のようにキャップ固定枠3上に3点の突起を設け度当たりとしているが,3点以上の突起を設けた場合や、キャップ固定枠3の縁全体を度当りとしたときにも同様な効果を得る事はいうまでもない。
[考案の効果]
以上述べたように本考案によれば、キャップ固定枠の印字ヘッド前面と対向する端面に、インク吸収体とノズル部との間に若干の間隙を設けて前記キャップ部材を前記印字ヘッドに圧接可能ならしめる調整部材を突設したことにより、キャッピングしたとき及びキャップ部材を介して吸引したときに、キャップ部材の周縁部が潰れてキャップ内のインク吸収体がノズルに接触しノズル部に異物が付着すること、或いはノズル面のインクの濡れ状態が不均一になることを防止でき、全ノズルから安定して良好なインク噴射が可能になる。また、ノズル部を覆う大きさのインク吸収体をノズル部と対向し且つインク吸引手段に接続するように配設したこと及び前記調整部材を突設したことにより、インク吸収体をノズルに近付けつつインク吸収体とノズル面とを接触させずに所定の間隔を保持させることができるため、インク吸収体の蒸気によりノズル部全体を効率良く加湿でき、更に調整部材を設けたことによりキャップ部材が適切な弾性変形状態で印字ヘッドに圧接するためキャップ部材内部の気密性が良好となり、ノズルの保湿効果も一層向上するという効果を奏するものである。」(3欄48行?6欄2行)

オ 第1図の記載から、キャップ2を弁手段6に連通させるチューブ5及びキャップ吸収体4にポンプ装置8を接続させるチューブ7は、いずれも、キャップ固定枠3と該キャップ固定枠3に背面側から支持されているキャップ2とを貫通する貫通孔を通ってキャップ部材の内面に達していること、及び、距離aが度当たり3a,3b,3cとケース9のキャップ2に対向した面との間の距離であることが見て取れる。

カ 上記アないしオからみて、引用例1には、
「インク噴射ノズルよりインク滴を噴射して記録媒体に文字等の記録を行う印字ヘッドを備えたインクジェットプリンタ、特にその印字ヘッドにおけるインクの乾燥を防止するとともに、インクの漏れによる周辺部の汚れを防ぐような印字ヘッドのキャッピング装置であって、
印字ヘッドの前面に形成したインク噴射ノズル部を被覆する弾性部材より成るキャップ部材と、該キャップ部材の内面に前記インク噴射ノズル部と対向し且つインク吸引手段に接続するように配設した前記インク噴射ノズル部を覆う大きさのインク吸収体と、前記キャップ部材を前記印字ヘッドの前面と弾接する周縁部を残して背面側から支持するキャップ固定枠とを備えたインクジェットプリンタのキャッピング装置において、
従来のキャッピング装置では、キャップ部材を印字ヘッドに弾接させたとき及びキャップ部材を介してインクを吸引したときにキャップ部材が潰れ過ぎたりすると、インク噴射ノズル部がキャップ部材内に設けたインク吸収体に接触してしまうことがあるため、インク噴射ノズル部の前面のヌレが不均一になることによる印字乱れを引き起こしたり、インク吸収体に付着した異物がインク噴射ノズル部に移ることによりインク噴射ノズル部の前面のヌレが不均一になり印字乱れを引き起こすといったような問題が生じるが、一方でインク吸収体を可能な限りインク噴射ノズル部に近付けた方がインク噴射ノズル部の保湿効果は高まるため、インク吸収体とインク噴射ノズル部の前面との距離を調整する必要があったので、
キャップ部材を印字ヘッドの前面に確実に密着させることができるとともに、インク噴射ノズル部への異物の付着やインク噴射ノズル部の前面の不均一なインクのヌレを防止し、全インク噴射ノズルから安定して良好なインク噴射が可能で、更にキャッピング中は全インク噴射ノズルを効率良く湿潤状態に保持できるようなものとすることを目的として、
前記キャップ固定枠に、前記印字ヘッドの前面と対向する端面で前記キャップ部材の前記印字ヘッドの前面と弾接する周縁部の外側に、前記インク吸収体と前記インク噴射ノズル部との間に若干の間隙を設けて前記キャップ部材を前記印字ヘッドの前面に圧接可能ならしめる調整部材を突設することにより、
インク噴射ノズル部がインク吸収体に直に接触しないようにして、インク吸収体の異物がインク噴射ノズル部へ付着することをなくし、インク噴射ノズル部のヌレを不均一にすることがないようにしたキャッピング装置であって、
前記印字ヘッドは、インク噴射ノズル部と該インク噴射ノズル部を取り付けるケースとからなり、該ケースに覆われた印字ヘッド体であり、
前記インク吸収体は、前記インク噴射ノズル部を覆う大きさであって、前記キャップ部材の内面にインク噴射ノズル部と対向するように配設されており、
前記キャップ固定枠は、前記キャップ部材を前記印字ヘッド体の前面に弾接する周縁部を残して背面側から支持するものであり、
前記キャップ部材及びキャップ固定枠を貫通する第1の貫通孔を通ってキャップ部材の内面に達している第1のチューブを介して、キャップ部材の内面はキャップ部材内の圧力を制御する弁手段に連通しており、
インク吐出不良を起こしたときにインクを吸引するためのポンプ装置が前記キャップ部材及びキャップ固定枠を貫通する第2の貫通孔を通ってキャップ部材の内面に達している第2のチューブを介してインク吸収体に接続されており、
前記調整部材は、前記キャップ固定枠の印字ヘッドの前面と対向する端面の前記キャップ部材の印字ヘッド体の前面に弾接する前記周縁部の外側に突設され、前記キャップ部材と前記ケースに覆われた印字ヘッド体とを接触させたときに、前記インク噴射ノズル部の前面と前記インク吸収体の距離である第1の距離より小さくなるように設定した第2の距離の間隔を、前記ケースのキャップ部材に対向した面との間におくような度当たりであって、インクの吐出不良が生じその回復のための吸引手段として前記ポンプ装置を動作させた際、キャップ部材内が負圧になることにより弾性体でできたキャップ部材が変形してインク噴射ノズル部の前面とインク吸収体の距離が小さくなり前記第2の距離だけ小さくなったところで安定しこのときインク噴射ノズル部の前面とインク吸収体が接触することがないようにするためのものであり、
キャッピングしたとき及びキャップ部材を介して吸引したときに、キャップ部材の周縁部が潰れてキャップ部材内のインク吸収体がインク噴射ノズル部に接触しインク噴射ノズル部に異物が付着すること、或いはインク噴射ノズル部の前面のインクの濡れ状態が不均一になることを防止でき、全インク噴射ノズルからの安定した良好なインク噴射を可能にし、インク吸収体をインク噴射ノズル部に近付けつつインク吸収体とインク噴射ノズル部の前面とを接触させずに所定の間隔を保持させることができ、インク吸収体の蒸気によりインク噴射ノズル全体を効率良く加湿でき、更にキャップ部材が適切な弾性変形状態で印字ヘッドに圧接するためキャップ部材内部の気密性が良好となり、インク噴射ノズル部の保湿効果も一層向上するようにした、インクジェットプリンタのキャッピング装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-203060号公報(以下「引用例2」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット方式の記録ヘッドのノズル部を覆うためのキャップを有し、キャップ内にインクの吸収体を有し、キャップはノズル部の非使用時には保存を行い、ノズル部の使用時にはインクの排出を行う構成のインクジェット記録装置及びインクジェット記録装置における操作方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図6に従来型のインクジェット方式のキャッピング方法を示す。符号1001はインクジェット方式のヘッド部、1001aはそのヘッドよりインクを吐出させるノズルを有するヘッドノズル面、1002はヘッドノズル部を覆うキャップ部材、1003はキャップ内部に設置された多孔質吸収体である。この多孔質吸収体1003は、キャップ部材1002aの突起により固定されている。多孔質吸収体1003は、ヘッドノズル面1001aより突起1002aの厚みかもしくはそれ以上の空隙Aを設けるようにしてキャップ1002の内部に設置されている。符号1004はキャップ内部に圧力変化を生じさせるためのポンプで、キャップ下面に設けられた通気穴1002bとつながっている。符号1005はキャップ内部に圧力変化を生じさせる際の通気弁で、キャップ下面に設けられた通気穴1002cとつながっている。
【0003】次に、キャッピングによるヘッド内部のインク排出方法を述べる。キャッピングによりキャップ1002の外周端部はヘッドノズル面1001aと密着し、外気より密閉された状態となる。この時、通気弁1005は閉じた状態であり、ポンプ1004は停止状態にある。次にポンプ1004が起動し、キャップ1002の内部圧力は低下し、ヘッド内部よりインクが排出される。この時、排出されたインクはヘッドノズル面1001aで大きな液滴となり、その液滴が落下するかもしくはその液滴のメニスカスの一部が吸収体1003に接触することにより、インクは吸収体1003に吸収された後、ポンプ1004側の通気穴1002bを通って外部に排出される。」

イ 図6の記載から、次の(ア)及び(イ)のことが見て取れる。
(ア)キャップ部材1002は、キャッピングによりヘッドノズル面1001aと密着させるキャップ部材1002の外周端部と、多孔質吸収体1003をヘッドノズル面1001aより空隙Aを設けるようにしてキャップ1002の内部に設置して固定するキャップ部材1002の突起1002aと、下面に設けられた通気穴1002b及び1002cとを有する一つの部材で構成されていること。
(イ)ヘッド部1001の前面が、キャップ部材1002の外周端部が密着されるヘッドノズル面1001aを含む平面であること。

ウ 上記ア及びイからみて、引用例2には、
「インクを吐出させるノズルを有するヘッドノズル面1001aを含む平面を前面とするインクジェット方式のヘッド部1001と、
該ヘッド部1001のヘッドノズル部を覆うキャップ部材1002と、
該キャップ部材1002内部に設置された多孔質吸収体1003と、
前記キャップ部材1002下面に設けられた通気穴1002bとつながって、該キャップ部材1002内部に圧力変化を生じさせるためのポンプ1004と、
前記キャップ部材1002下面に設けられた通気穴1002cとつながって、該キャップ部材1002内部に圧力変化を生じさせる際の通気弁1005とを有し、
キャップ部材1002はノズル部の非使用時には保存を行い、ノズル部の使用時にはインクの排出を行う構成であり、通気弁1005は閉じた状態でポンプ1004は停止状態にあるとき、キャッピングによりキャップ部材1002の外周端部をヘッドノズル面1001aと密着させ、外気より密閉された状態となし、次にポンプ1004が起動し、キャップ1002の内部圧力を低下させ、ヘッド内部よりインクを排出し、排出されたインクは、ヘッドノズル面1001aで大きな液滴となるので、その液滴が落下するかもしくはその液滴のメニスカスの一部が吸収体1003に接触することにより、該インクを、吸収体1003に吸収させた後、ポンプ1004側の通気穴1002bを通らせて外部に排出するインクジェット記録装置において、
多孔質吸収体1003をキャップ部材の突起1002aにより、ヘッドノズル面1001aより突起1002aの厚みかもしくはそれ以上の空隙Aを設けるようにしてキャップ1002の内部に設置して固定するようになっており、
キャップ部材1002は、前記キャップ部材1002の外周端部と、前記キャップ部材1002の突起1002aと、下面に設けられた前記通気穴1002b及び1002cとを有する一つの部材で構成されていること。」(以下「引用例2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「インク滴」、「噴射」、「記録」、「『印字ヘッド』、『印字ヘッド体』」、「インク噴射ノズルよりインク滴を噴射して記録媒体に文字等の記録を行う印字ヘッド」、「インク噴射ノズル」、「インク噴射ノズル部の前面」、「『弾接』、『圧接』、『接触』」、「キャップ部材を印字ヘッドの前面に確実に密着させる」、「『キャップ部材』の『印字ヘッドの前面と弾接する周縁部』」、「キャップ部材の内面」、「インク吸収体」、「キャッピング装置」、「『気密性が良好とな』る『キャップ部材内部』」、「負圧」、「ポンプ装置を動作させた際、キャップ部材内が負圧になる」、「『前記キャップ部材及びキャップ固定枠を貫通する第2のチューブを介してインク吸収体に接続されて』おり、『動作させた際、キャップ部材内が負圧』になる『インクを吸引するためのポンプ装置』」、「ポンプ装置」、「インクジェットプリンタ」、「『若干の間隙を設け』、『所定の間隔を保持』」及び「『度当たり』である『調整部材』」は、それぞれ、本願発明の「インク」、「吐出」、「記録」、「記録ヘッド」、「インクを吐出して記録を行う記録ヘッド」、「吐出口」、「記録ヘッドの吐出口面」、「当接」、「密閉空間を形成する」、「リブ」、「リブの内側」、「インクを吸収するための吸収体」、「キャップ部材」、「密閉空間」、「負圧」、「密閉空間内に負圧を発生させる」、「前記キャップ部材と連通し前記密閉空間内に負圧を発生させるための負圧発生手段」、「負圧発生手段」、「インクジェット記録装置」、「隙間を維持」及び「当接部」に相当する。

(2)上記(1)からみて、本願発明と引用発明とは、
「インクを吐出して記録を行う記録ヘッドと、
該記録ヘッドの面と当接することにより前記記録ヘッドの吐出口面との間に密閉空間を形成するためのリブと、該リブの内側に配されインクを吸収するための吸収体とを有するキャップ部材と、
前記キャップ部材と連通し前記密閉空間内に負圧を発生させるための負圧発生手段と、
を備えるインクジェット記録装置において、
前記キャップ部材は、前記負圧発生手段により前記密閉空間内が所定値以上の負圧になり前記リブが所定量変形した場合に前記記録ヘッドの面に当接し前記吐出口面と前記吸収体との間に隙間を維持するための当接部をさらに有するインクジェット記録装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「リブ(キャップ部材の印字ヘッドの前面と弾接する周縁部)」及び前記「当接部(度当たりである調整部材)」が当接する前記記録ヘッドの面が、本願発明では「記録ヘッドの吐出口面」であるのに対して、引用発明では「記録ヘッド(印字ヘッド)」の前面ではあるが「記録ヘッドの吐出口面(インク噴射ノズル部の前面)」ではない点。

相違点2:
前記「当接部(度当たりである調整部材)」と前記「リブ(キャップ部材の印字ヘッドの前面と弾接する周縁部)」とが、本願発明では「同一部材によって形成され」ているのに対して、引用発明では別部材である点。

相違点3:
前記「キャップ部材(キャッピング装置)」が、本願発明では、「前記リブに該リブと同一部材によって形成され前記キャップ部材から前記吸収体が脱落するのを防止するための爪部」をさらに有するのに対して、引用発明では、そのような爪部を有していない点。

4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)引用例2には、上記2(2)のとおり、引用例2記載事項(上記2(2)ウ参照。)が記載されている。
(2)インクジェットプリンタにおいて、キャッピング装置を何個の部材から構成されるものとするかは当業者が設計に際して適宜決定すべき事項である。
(3)引用発明の「キャップ部材(キャッピング装置)」は、「リブ(キャップ部材の印字ヘッドの前面と弾接する周縁部)」と、「吸収体(インク吸収体)」と、第1及び第2の貫通孔と、「当接部(度当たりである調整部材)」とを有し、「吐出口面(インク噴射ノズル部の前面)」と「吸収体(インク吸収体)」との間に「隙間を維持する(若干の間隙を設け、所定の間隔を保持する)」ものであるところ、上記(1)及び(2)からみて、引用発明において、引用例2記載事項と同様に、「記録ヘッド(印字ヘッド)」の前面を「吐出口面」を含む平面とするとともに、「キャップ部材」に第1の距離と同じかそれ以下の厚みの突起を設け、該突起により「吸収体」を「吐出口面」より第1の距離の空隙を設けるようにキャップ部材の内面に設置して固定し、このように設ける突起と、「リブ」と、第1及び第2の貫通孔と、「当接部」とを一つの部材で構成することは、当業者が引用例2記載事項に基づいて容易に想到することができた程度のことである。
(4)上記(3)における「突起」は本願発明の「前記リブに該リブと同一部材によって形成され前記キャップ部材から前記吸収体が脱落するのを防止するための爪部」に相当するから、引用発明において上記(3)のとおりになすことは、引用発明において上記相違点1ないし3に係る本願発明の構成となすことに相当する。
したがって、引用発明において上記相違点1ないし3に係る本願発明の構成となすことは、上記(3)からみて、当業者が引用例2記載事項に基づいて容易になし得た程度のことである。
(5)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2記載事項の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。
(6)したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、上記4のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-27 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2001-133033(P2001-133033)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹藤本 義仁  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 菅野 芳男
立澤 正樹
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 伊藤 勝久  

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