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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1262459
審判番号 不服2011-26723  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-09 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2005- 93339「ペースト組成物、電極およびそれを備えた太陽電池素子」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開、特開2006-278071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年3月29日の出願であって、平成22年11月18日付け拒絶理由通知に対して、平成23年1月21日に手続補正がなされたが、同年9月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成23年1月21日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
シリコン半導体基板の上に電極を形成するためのペースト組成物であって、アルミニウム粉末と、有機質ビヒクルと、この有機質ビヒクルに不溶解性または難溶解性のウィスカーとを含み、このウィスカーは、無機物からなり、前記アルミニウム粉末および前記有機質ビヒクルと予め混合されている、ペースト組成物。」

第3 引用文献
1 引用文献に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-223813号公報(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

(1)【請求項1】 p型シリコン半導体基板の上に不純物層または電極層を形成するためのペースト組成物であって、
アルミニウム粉末と、有機質ビヒクルと、熱膨張率がアルミニウムよりも小さく、かつ、溶融温度、軟化温度および分解温度のいずれかがアルミニウムの融点よりも高い無機化合物粉末とを含む、ペースト組成物。
・・・(略)・・・
【請求項9】 請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のペースト組成物をp型シリコン半導体基板の上に塗布した後、焼成することにより形成した不純物層または電極層を備えた、太陽電池。

(2)【0018】
【発明の実施の形態】この発明のペースト組成物は、アルミニウム粉末、有機質ビヒクルに加えて、さらに、無機化合物粉末を含有することを特徴としている。無機化合物粉末の熱膨張率は、アルミニウムよりも小さい。無機化合物粉末の溶融温度、軟化温度および分解温度のいずれかがアルミニウムの融点よりも高い。いいかえれば、無機化合物粉末は、ペースト組成物の焼成温度にて溶融もしない、軟化もしない、分解もしないものである。このような無機化合物粉末をペースト組成物に含ませることにより、ペーストを塗布し、焼成した後のp型シリコン半導体基板の変形を抑制することができる。【0019】従来、焼成後のp型シリコン半導体基板の変形を抑制するためには、ペーストの塗布膜厚を少なくすること以外に実質的に有効な手段はなかった。ペーストの塗布膜厚を薄くすると、p型シリコン半導体基板の表面より内部へのアルミニウムの拡散量が不十分となり、所望のBSF効果を得ることができず、結果として太陽電池の特性が低下する。しかし、この発明では、ペーストの塗布膜厚を薄くしなくても、焼成後のp型シリコン半導体基板の変形を抑制できるため、所望のBSF効果を得ることができる。上記の無機化合物粉末を含めることにより、焼成後のp型シリコン半導体基板の変形を抑制できる理由は明らかではないが、ペーストの焼成時に形成されたアルミニウム焼結層が焼成後の冷却時に収縮する量が、無機化合物の存在により抑制されるためと考えられる。

(3)【0025】さらに、本発明のペースト組成物はガラスフリットを含んでもよい。ガラスフリットの含有量は、5.0質量%以下であるのが好ましい。ガラスフリットは、p型シリコン半導体基板の変形、BSF効果およびエネルギー変換効率には直接関与しないが、焼成後の裏面電極とp型シリコン半導体基板との密着性を向上させるために添加されるものである。ガラスフリットの含有量が5.0質量%を超えると、ガラスの偏析が生じる恐れがある。

(4)【0027】
【実施例】以下、本発明の一つの実施例について説明する。
【0028】まず、アルミニウム粉末を60?75質量%、ガラスフリットを0?5.0質量%、有機質ビヒクルを20?35質量%の範囲内で含むとともに、表2に示す特性を備えた無機化合物粉末を表1に示す割合で含む各種のペースト組成物を作製した。
【0029】具体的には、エチルセルロースをグリコールエーテル系有機溶剤に溶解した有機質ビヒクルに、アルミニウム粉末とB_(2)O_(3)-SiO_(2)-PbO系のガラスフリットを加え、さらに表1に示す各種の無機化合物粉末を加えて、周知の混合機にて混合し、ペースト組成物を得た。表1の「無機化合物粉末の種類」の欄において( )内の数値は、無機化合物粉末の平均粒径(μm)を示す。

(5)【0032】ペーストが印刷されたp型シリコン半導体基板を乾燥した後、赤外線焼成炉にて、空気雰囲気で400℃/分の加熱速度で加熱し、710?720℃の温度で30秒間保持する条件で焼成した。焼成後、冷却することにより、図1に示すようにp型シリコン半導体基板1に裏面電極層5を形成した構造を得た。

(6)表2には、無機化合物として、「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」、「SiC」及び「AlN」が示されている。

2 引用文献に記載された発明
(1)上記1(4)の記載に照らせば、
「ペースト組成物」は、有機質ビヒクルに、アルミニウム粉末とガラスフリットを加え、さらに無機化合物粉末を加えて、混合機にて混合することで作製されるものである。

(2)上記1(5)に照らせば、上記1(1)に記載された「『p型シリコン半導体基板の上に』形成された『電極層』」は、太陽電池の裏面電極層である。

(3)上記記載を総合すると、
引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「p型シリコン半導体基板の上に太陽電池の裏面電極層を形成するためのペースト組成物であって、
有機質ビヒクルに、アルミニウム粉末とガラスフリットを加え、さらに無機化合物粉末を加えて、混合機にて混合することで作製され、
無機化合物粉末は、
熱膨張率がアルミニウムよりも小さく、かつ、溶融温度、軟化温度および分解温度のいずれかがアルミニウムの融点よりも高く、いいかえれば、ペースト組成物の焼成温度にて溶融もしない、軟化もしない、分解もしないものである、ペースト組成物。」

第4 対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「p型シリコン半導体基板」は本願発明の「シリコン半導体基板」に相当し、同様に、
「裏面電極層」は「電極」に、
「ペースト組成物」は「ペースト組成物」に、
「有機質ビヒクル」は「有機質ビヒクル」に、
「アルミニウム粉末」は「アルミニウム粉末」に、それぞれ、相当する。

(2)引用発明の「無機化合物粉末」が、有機質ビヒクルに不溶解性または難溶解性であることは当業者にとって明らかであるから、引用発明の「無機化合物粉末」と本願発明の「ウィスカー」とは「有機質ビヒクルに不溶解性または難溶解性の無機物からなる添加物」である点で共通する。

(3)また、引用発明の「無機化合物粉末」は、有機質ビヒクルに加えられて混合機にて混合されるから、「アルミニウム粉末および有機質ビヒクルと予め混合されている」といえる。

(4)してみると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「シリコン半導体基板の上に電極を形成するためのペースト組成物であって、アルミニウム粉末と、有機質ビヒクルと、この有機質ビヒクルに不溶解性または難溶解性の添加物とを含み、この添加物は、無機物からなり、前記アルミニウム粉末および前記有機質ビヒクルと予め混合されている、ペースト組成物。」

(5)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
添加物に関し
本願発明が「ウィスカー」であるのに対して、
引用発明では、粉末ではあるものの、ウィスカーであるか否か不明である点。

2 判断
上記<相違点>について検討する。
(1)電極の靱性の向上や剥離防止等のためにウィスカーを加えた「ペースト組成物」は、本願出願前に周知である(例えば、
ア 特開2004-128411号公報の【0019】ないし【0024】及び【0059】を参照。
アルミニウム粉末を含む金属ペーストに、無機強化材として金属ファイバー等を加えることで、裏面電極の靱性が向上する旨記載されている。

イ 特開2000-67646号公報の【0007】、【0008】、【0015】及び【0024】を参照。
アルミニウム等の粉末を含む導電性ペーストに、針状非導電性粉末を加えることで、補強効果を発揮する旨記載されている。

ウ 特開平4-240785号公報の【0007】ないし【0013】を参照。
炭化ケイ素ウィスカーを混合したペーストを利用することで、引張強度がアップする旨記載されている。

エ 特開平1-257182号公報の第2頁左上欄ないし同頁左下欄の「作用」を参照。
針状結晶構造の酸化亜鉛粉末を利用することにより、導体層中で骨格をなし、構造的に強固な電極が形成される旨記載されている。

オ 特開昭61-94391号公報の第2頁右下欄ないし第3頁左上欄の「発明の効果」を参照。
ウィスカを混入することにより、回路の剥離や破損が防止できる旨記載されている。
以下「周知技術」という。)。

(2)してみれば、引用発明において、「電極(裏面電極層)」の靱性の向上等を目的として、「添加物(無機化合物粉末)」をウィスカーとすることは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(3)また、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得たことである。

(4)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(5)審判請求書の「(2-2)請求項1に係る発明と引用文献1?3との対比」において、引用文献2には導電性金属として「Ag」と「Cu」が示されているだけで、「Al」を用いることについて開示も示唆もない旨主張している点について

ア 引用文献2(特開昭61-94391号公報)は、平成22年11月18日付け拒絶理由通知書に「当該点は、例えば、引用文献2・・・・などにも開示されているように、ウィスカー(針状粒子)を混合させることが周知慣用技術であった」と記載されているように、周知慣用技術であることを示すために例示した文献の1つに過ぎない。
審査官が指摘するように、ペースト組成物にウィスカーを混合させることは、上記「2 判断」で示したように周知技術であり、特に「ア 特開2004-128411号公報」及び「イ 特開2000-67646号公報」には、導電性金属として「Al」を利用することが開示されている。

イ ちなみに、引用文献2の第1頁左欄の「従来技術」には、「この回路形成用の導電ペーストは、約80wt%のAg又はCu等の導電性金属と、約20wt%エポキシ樹脂系又はフェノール樹脂系等のバインダーとを混合して構成されている。」と記載され、「回路形成用の導電ペースト」における導電金属が「Ag又はCu」に限らないこと、バインダーも「エポキシ樹脂系又はフェノール樹脂系」に限らないことは、文言上明らかである。

ウ 引用文献2には、導電性金属として「Al」は明記されていないものの、「Al」は回路パターンを構成する導電金属として広く知られ、引用文献2の「Ag又はCu等の導電性金属」に包含され得る金属であることは、当業者にとって明らかである。

エ 以上のことから、請求人の主張は採用できない。

3 まとめ
本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-28 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2005-93339(P2005-93339)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 星野 浩一
北川 創
発明の名称 ペースト組成物、電極およびそれを備えた太陽電池素子  
代理人 甲田 一幸  

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